インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー 作:のらり くらり
ブライトが束から映像を受け取るよりも早く、静夢の戦いを閲覧する者がいた―――。
金の髪を上げ、椅子に背を預ける男は退屈そうにその映像を見ていた。
「どうされたんです?」
その様子を見かけた秘書の女が声をかけると、彼のために淹れたコーヒーをデスクに置いた。
「束からの映像が届いてな……『彼の初陣』なのだが」
「押されているんですか?」
歯切れの悪い言葉に思わず秘書は尋ねたが、その言葉に男は、まさかと言って首を横に振った。
「力量に差がありすぎるのだ。彼は退屈しているだろう」
ああ、と秘書が頷く。横から覗き込むと、慣れた動きで相手を押さえ込む静夢が映っていた。退屈しているという言葉を聞かなければ、静夢の動きは必死に見えただろう。
「貴方やアムロ・レイを相手にしていれば、そうなるでしょうね」
「まるで私が彼をそうさせたと聞こえるが……?」
ジロリと秘書を見る男だが、秘書は笑顔を崩さない。彼が本気で怒っているわけではないと理解しているからだ。溜息を吐く男は、秘書の淹れたコーヒーを口にした。静夢が優勢のまま、変化のない試合に男も退屈を覚えた。
あっという間に試合が終わると、静夢がピットへと戻っていった。男は映像を切り、デスクの書類を手に取った。
「もうよろしいのですか?」
「構わんさ。まだ試合が続こうと、一夏くんが負けることはない。『ナナイ』、おかわりだ」
随分と評価する―――秘書である「ナナイ・ミゲル」は、男から空になったカップを受け取りながら、心の中で呟いた。口にしてしまえば、同じように静夢を評価する自分でさえ、否定してしまうように思えたからだ。
ナナイの心の内を他所に、「シャア・アズナブル」は執務に集中するのだった―――。
「……」
「……」
累 静夢、ヴァルト・パークス―――対戦相手として、初めて顔を合わせた二人の間に言葉はない。険悪というわけではない。ただ、目の前の相手に集中しているのだ。
互いに前回の相手のように、相手を軽んじるわけでもない。二人は先ほどの対戦よりも、相手を警戒していた。
やがて、試合開始のカウントが始まるーーー。
「全力で行くぜ……」
「うん、僕もそのつもりさ……」
試合が始まって最初の会話は、自身の決意だった。迫るカウントに合わせ、互いの拳に力が入る。
ブ―――!!
「「ッ!」」
試合開始のブザーと共に、両者は接近した。武装の相性を考えれば、静夢は突っ込むべきではない。
だが、セシリアから聞いたヴァルトのスタイルを聞いての行動だった。
遠距離の武装を持つユニコーンだが、それが織斑の時のように行くとは断定できない。砲撃を受けても向かってくるのなら、足を止めていてはただの的だ。
ヴァルトは自慢の右拳を掲げると、静夢は左手に近接武装である「アームド・アーマーVN」を展開した。
少し、また少しと、両者の距離は縮まっていく―――。
「オラァァァ!!」
「ハァァァ!!」
やがて、ゼロ距離まで接近した両者の拳が、大きな音を上げてぶつかった。観客席の最前列にいた生徒たちは、その音に驚いて耳を塞いだ。
同時に上がる閃光と噴煙、晴れた場所には未だに拳を合わせる二人がいた。
「驚いた、俺の拳を受けても無傷とはな……」
「想像以上だな……思っていたよりも痛いや」
目立った傷のないユニコーンに、ヴァルトはニヤリとしながらヒヤリとした。セシリアのようにな実力を持った者であっても、この拳を受ければダメージが見てとれた。
しかし、目の前にいる累 静夢という男は至って平然としていた。それが何よりもヴァルトを驚かせたのだった。
対して、その拳を受けた静夢は苦笑いを浮かべた。左手に残る痛みと衝撃は、ヴァルトへの警戒をより強くする。
この拳は相手を選ばない。一筋縄では行かないであろう相手に、静夢は戦法が意味を成さないだろうと直感した。
「やるじゃねぇか!」
張り合いを感じたヴァルトの追撃が始まる、左拳がアッパーカットのように下から向かってくる。
「ッ!」
考えるよりも速く、静夢はその一撃に対処する。「脳内に響く鈴の音」が、静夢の感覚を鋭くさせる―――。
向かってくるヴァルトの左拳を、右手で叩くようにして軌道を変える。空を切るヴァルトの拳。静夢はヴァルトの体に沿うように体を捻って、その勢いでアームド・アーマーを叩きつけた。
質量のあるアームド・アーマーVNの打撃を後頭部に受けたヴァルトは、後頭部に残る痛みを無視して体の向きを変える。
"見切られた……!?コイツ、本当に何者だよ……!"
自分の拳を見切る人間は数少ない。出会った頃から、ただの子供ではないと感じていたが、直に拳を合わせるとそれがよくわかった。
同時に自分が言った言葉が、現実味を帯びてくる―――。
『おそらく、お前は俺と同じだ―――』
ようやく自分と同じ、もしくは自分以上に強い人間に巡り合えた。そう考えると、ヴァルトは嬉しくて仕方がなかった。
「その方が燃える……!!」
静夢の全力がどれほどのものか、ヴァルトはこの戦いをもっと楽しみたいと思った。再び接近すると、静夢はまたも相手の攻撃を待つ。
「オラ!オラ!」
「フッ!おっと!」
右、左と拳を振るうヴァルトだが、静夢は体を逸らして避ける。織斑の時とは違い、鋭い拳だった。しかし、回避から反撃に移る時間を静夢に与えまいと、腕の振りが大きくなっていった。
「ッ!」
静夢は横に振るう左腕を両手で防ぎ、右手を返して大きく腕を回した。そして、左手をヴァルトの左肩に置き、がら空きになった腹部へ左膝を打ち込む。
「オワッ…!?」
久しぶりに受けた腹への痛みに、ヴァルトは思わず腹を押さえる。
「お前、只者じゃないな……」
「伊達に修羅場をくぐって来たわけじゃない、まだまだ行くよ!」
今度は静夢が攻める。近づけまいと腕を振るヴァルトだが、静夢はそれを受け止めた。再び手を返して、エクスプロードの右腕を捻り上げる。
「ウグッ……!オラァァ!」
「フッ!ハッ!」
捻られた腕を解こうともがくヴァルト、痛みに耐えながらも左腕を振り下ろす。静夢は振り下ろされる左腕を払い、今度はヴァルトの脇腹に右肘を打ち込む。
"コイツ……"
ヴァルトの中で焦りと恐怖が混ざり合っていた。腕には自信がある。しかし、こんなにも攻撃を見切られ、いいようにやられるとは思っても見なかった。
「よし……」
「……」
目を閉じるヴァルトに、静夢は警戒を強めた。言葉の通りなら、何か仕掛けてくるかもしれない。静夢はチャンスと見て、右腕に遠距離武装である『アームド・アーマーBS』を展開した。
折り畳まれたバレルアーマーを展開し、湾曲するビームを放った。
一見、卑怯にも見える行動だが、これは戦いである。隙やチャンスを見逃さず、勝利に貪欲でなければならないのだ。その点では、静夢のこの一手は正しいと言えた。
ビームが歪な軌道で放たれる、瞬く間にヴァルトに迫った。
しかし、誰もが予想だにしない事態が発生する―――。
「ッ!」
―――ヴァルトはそのビームを躱した。
エクスプロードの警告よりも速く、微かに聞こえた「鈴の音」の余韻を耳に残しながら―――。
紙のように体をフワリと捻り、ヴァルトは急加速で接近する。静夢は驚きながらも、バレルアーマーを収納して近接戦に備える。
展開したままのアームド・アーマーVNで、ヴァルトを迎え撃つ。やがて、両者は拳が当たる距離に踏み込む。
ヴァルトよりも先に、静夢はアームド・アーマーVNを振り下ろした。
しかし、その一撃は空振りした―――。
「なッ……!?」
「ッ!」
右に避けてアームド・アーマーを躱し、ヴァルトはやり返すように静夢の脇腹に拳を打ちこんだ。突如として静夢を襲う衝撃、追撃を止めようとアームド・アーマーを横薙ぎに振る。
「見切った!」
「うそ……!?」
更にそれを躱し、ヴァルトは逆の脇腹を殴りつける。連続の回避とダメージに、静夢は驚きを隠せなかった。
「ここだぁぁ!!」
「させない!!」
流れを掴むため、ヴァルトは右拳を振るう。今度こそ追撃を止めるため、静夢はアームド・アーマーを振るう。
―――互いの腕がクロスし、痛みを伴いながらも拳には手ごたえがあった。
クロスカウンターによる痛み分けだ。まだ顔に残る痛みと拳の手ごたえを感じながら、両者は距離を置く。
静夢は予想以上のヴァルトの強さに感心し、ヴァルトは微かな勝機を見出しつつあった。
"さっきまでと動きが違う、まるで本能に従うような……"
"ようやく互角か……"
静夢は冷静にヴァルトの様子を観察すると、ヴァルトは静夢との差を感じながらエクスプロードの状態を確認する。
ディスプレイの一角が点滅していた。静夢を一瞥し、その画面を押した。
「何だ……?」
「俺が前に言ったこと、覚えているか?」
エクスプロードから赤い光が漏れ始めると、ヴァルトは静夢に語り掛けた。自己紹介と少しの会話だけで、互いに何かを感じていた。
敵意ともまた違う、言葉では言い表すことのできない感情だった。静夢は半信半疑、ヴァルトにとっては初めての経験だった。
「認めるぜ、お前は本気を出してもいいと思える強敵だ!」
「………!」
エクスプロードの光が、赤から青に変化した。それはまるで、温度を上げる炎そのものだった。
「自身のエネルギーが半分を下回った時、エクスプロード―――『転醒』だぁぁ!!」
その瞬間、赤と青の光が混ざって弾けたのだった―――。
薄暗い場所で、一人の老人がベッドに寝ていた。目を開くと、部屋全体に映る映像をジッと見る。
「どうされました?」
その老人に、とある男性が声をかけた。年を取りつつ、威厳と落ち着きのある風格だった。側には秘書と思われる男がいる。禿げ上がった頭に顎髭を生やした姿は、見た者を慄かせるものがあった。
「なに、気になってな……」
「……心配はいりません」
老人の言葉に、男は間を置いて返事をした。映像に目を向け、ユニコーンを駆る静夢を捉える。
「貴方と私が信じた子です、『あいつ』のように……」
男性の言葉は少し震えていた、男性もまた老人と同じ気持ちなのだ。それをわかっていた秘書の男は、何も言わずに映像を見た。
「そうだな……『カーディアス』」
老人の言葉に、「カーディアス・ビスト」は力強く頷いた。そして、部屋の装飾となった石碑に歩み寄る。
今となっては意味のないものだが、老人にとっては人生を共にしたものでもある。
石碑に手を触れたカーディアスは顔を上げると、部屋全体に映し出される静夢の試合を見つめた。
「……ご当主」
「ああ……」
秘書の男に声をかけられ、カーディアスは石碑から離れた。静夢を思い、時間を割いてここに来ていたのだ。時間が迫ると、悔しそうな顔をして部屋を後にした。
一企業のトップにあるため、軽率な行動ができないという事も事実だ。自分に付き従う者たちに迷惑はかけられないのだ。
「『ガエル』、動向は?」
「はい、まだ一夏様のことは知られていません。バニラの少年も同様に……。束様が情報操作をしているとはいえ、『女性権利団体』は仕掛けてくるかもしれません」
秘書の「ガエル・チャン」は、カーディアスに事細かに報告した。束のおかげもあり、静夢とヴァルトのことは世間には知られていない。
しかし、二人は良くも悪くも有名人だ。静夢に関しては、植物監察官として顔が割れている。素顔を隠しているとはいえ、勘ぐる輩が出てくるだろう。それに関しては、静夢の口のうまさを信じるしかない。
未だに浮かない表情のまま、カーディアスはガエルと共に歩き続けた―――。
カーディアスとガエルが去り、部屋に一人になった老人は映像を見続ける。青い光を放ち、姿を変えたヴァルトを前にしている静夢が映る。
「お前の、可能性を信じろ……一夏」
ベッドに横たわったまま、「サイアム・ビスト」は呟いた―――。
二次創作を書く時、原作にどうやって落とし込むか……とても悩んでいます。
色々な作品を見て、様々なアイデアを目にして感心しています。
バックパック、核融合炉、メガ粒子砲など、そのまま使うのは技術的に無理では?とかすごい考えます。