トリスタンになってしまったようで   作:ギネヴィアを愛で隊

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第1話/始まりの一歩

 

 

 

 

 

 ──ああ。心地良い感覚だ。

 

 全身で太陽の光を浴びながら、俺は心の中でそう溢す。

 早朝の訓練場特有の特別感のある空間。静かで、少し涼しくて、爽やかなこの時間だけの空間が、俺は1番好きだった。過保護でセクハラ好きの癖に未だ底が見えないほどに強い父親はここにはいない。

 

 ──剣を振るう。

 

 右から左へ。音すら立てず滑らかに空間をなぞる剣先は空気を裂いて、鮮やかな銀の軌跡を描く。まるで手に吸い付くような、体と一体化したような。陳腐だがそんな感想が浮かぶような綺麗な一閃。

 

 続け様にもう一度、今度は逆から。先程と同じようにまっすぐに惹かれた銀閃は宙に溶けて、溶けた端から次々と剣を振って空間を銀で埋める。まるで世界からここだけが切り離されたようなこの感覚が好きだった。

 

 目を閉じて、頭の中でスイッチを切り替える。

 己の中に流れる魔神族と女神族の力を混ぜ合わせ、溢れ出る魔力を制御する。闇と光の特性を併せ持つこの特別性の体は、拒絶反応もなくあっさりとその荒技を受け入れ、莫大な力として振るうことができる。

 

 数段跳ね上がった身体能力を自覚し、先程と同じ動きを繰り返す。もはや空間そのものを断ち切ってしまうのではないか。そんな心配すらしてしまうほどにこうなったときの技は冴えている。これが魔神王と最高神の血か、と戦慄してしまうほどに。

 

「ふぅ……うん。さすがにもう、慣れたかな」

 

 小さく息を吐いて、そう呟く。

 

 ()()()()()1()6()()。さすがに慣れるというものだ。

 

「罪悪感とか、とっくの前になくなっちゃったなあ」

 

 たはは、と自虐するように笑う。

 本来なら簡単に俺が取って代われるような人材ではない。

 

 〈黙示録の四騎士〉

 〈疫病〉の騎士

 魔神王と最高神の血を引く、世界で初めての魔神族と女神族のハーフ。

 

 リオネス王国の王子。

 

 トリスタン=リオネス。

 

 それが今の俺の身分だった。

 

 

 

 

「──やあ、ランスロット。用があるなら声をかけてくれればいいのに」

「……よう」

 

 柄にもなく過去を振り返っていた中、音もなく背後に立つ親友の気配に気づき、声をかける。

 

「予定よりも随分早いけれど、もうやるかい?」

 

 それは毎日行っている模擬戦に対しての質問だった。

 俺と目の前の親友──ランスロットは実力が一番近いこともあって、毎日暇があれば剣を交えている。そうするのが最も効率的で、楽で、楽しい。だからランスロットもそれに関する話かと思ったが、彼の表情から察するに違うらしい。

 

 はて、他になにかあっただろうか。

 

「最後の一人が見つかった」

「──! それって」

「〈黙示録の四騎士〉。俺とお前と、お前が連れてきた()()()。そして最後の一人がようやくな。やっとこさこれで全員が揃うわけだ」

 

 最後の一人。

 間違いなく〈黙示録の四騎士〉、〈死〉のパーシバルだ!

 前世から彼のことは好きだったんだよなあ。純真無垢で何事にも真っ直ぐで正義感に溢れた、正に王道の主人公。だから、俺は彼に会うのを最も楽しみにしていた。

 

「おおお! 遂にか! 嬉しいねえ、ようやくみんなが揃うんだ! ということは君は……」

「ああ。これから接触してくる」

「気をつけてね? いくら君が強いと言っても不覚を取る可能性はないとも言えないんだし……それとあまりイジメたらだめだよ? 君の口撃は破壊力が高いんだから」

「わかってるっつーの。俺は子供か。お前こそ、しっかりまとめとけよ。これまでのこと、これからのことをな」

「もちろんさ! いやぁ、楽しみだなぁ。そうだ! 父さんに頼んで飛び切りの出迎えを──」

「はしゃぎすぎだ。んなもんどうでもいいからさっさと聖騎士全員に通達しとけ」

「はいはい、わかってますよ」

 

 呆れたように俺を見つめるランスロットに軽く抗議の目線を投げ、背を向けて手を振る。

 

「じゃあ、私は一応父さんたちにも伝えてくるよ。ランスも、くれぐれも気をつけて」

「……ああ、そっちもな」

 

 それだけ言うと、ランスロットはここに来た時と同様音も立てずに立ち去った。うーん、せっかちだなあ。もう少しゆっくりしていけばいいのに。

 

 ……さて、俺も行かないとな。キオンのやつがやらかすのはわかってるし、念のため釘を刺しておくか。多分無駄だけど。あのクソデカ激重感情を任務に向けてほしいものだ。

 

 訓練場から王城へ移動する道中、頭に浮かんだのは少し気まずそうなランスロットの表情だった。

 

「やっぱり私──ランスに苦手意識持たれてるよなあ……」

 

 仲良くしたいのになぁ、と俺は肩を落とした。

 

 

 

 

「父さーん! いるー? 報告したいことが」

「ん? おお、トリスタンか! どうした?」

 

 帽子のような屋根をした建物の扉を開いて呼びかければ、キッチンからひょっこりと顔を出す我が父の姿が見えた。

 

 ここは〈豚の帽子〉亭。リオネス王国国王であるメリオダス本人が店長として腕を振るうという珍しい酒場である。なお酒は美味いが飯は激マズなので要注意。俺も人のこと言えないけどね。殺人料理親子とは俺たちのことだ。

 

「ランスから聞いていると思うけど、一応俺からも報告しておこうと思って」

「〈黙示録の四騎士〉か」

「うん。今ランスが向かってくれてる。これで全員揃うわけだけど……実は一つ頼みがあって」

「頼み? 珍しいな、お前が頼み事なんて」

「いやぁ、実は──キオンのことで」

「……あぁ」

 

 やめて。そのあぁあいつかみたいな顔やめて。俺も思ってるから。

 

 キオンとは俺──トリスタンが率いる〈黙示録の四騎士〉トリスタン隊に所属する聖騎士の一人で、精霊術を得意している。そんなキオンだが、何故か知らないが俺に対してありえないくらいのクソデカ激重感情を持っている。

 具体的には俺以外の〈黙示録の四騎士〉を見下していたりパーシバルを殺そうとしたり……

 

 いやほんとになんで??? 俺そんな慕われるようなことしてないんだけど???

 

 ともかく、そのキオンのせいで軋轢が生まれる可能性がなきにしもあらずなのだ。いやマジで。何度か叱っているのだが全く改善される気配が無い。むしろ激しさを増しているような……あれ、胃が痛くなってきたな……ヘンドリクセンさん、お世話になります……。

 

「キオンってば、ランスやガウェイン殿にも()()だったでしょ?」

「うん、まあ……そうだな」

「言わんとしてることは分かるよ。俺も同じ気持ち。俺からもキツく言っておくけど、一応父さんからも言っておいて欲しいんだ。今回は罰則もかなり厳しくするつもり」

「そんくらいなら全く構わねえけど……というかオレが放置してたのがダメだったな」

「いや、俺が早計だっただけさ。父さんに責任はないよ」

 

 いやほんとに。リアルであんな重い感情向けられたらどうしたら良いのかわかんねえよ!?

 あとやることなすことが一々怖い。マジで。切実に。

 

「悪いな。……にしても、たしか"神の指"だったよな、最後の一人」

「うん。ランスからはそう聞いた。まさかあんな所に人が……それも〈黙示録の四騎士〉がいたなんてねえ」

「通りで見つからねえわけだ。そもそもまともな人間が住める領域じゃねえしな」

「それだけ素質がある子っていうことだね。うんうん、楽しみだなあ」

 

 "神の指"のパーシバル。

 俺が読んだ通りの人物通りなら、文字通り世界の希望となる存在。実力はまだまだ俺たちに及ばないだろうけど、彼の強みはその精神性にこそある。少なくとも俺なんか比べるまでもないだろう。

 

 ランスロット、パーシバル。ガウェイン。

 みんな素晴らしい騎士だ。俺なんか足元にも及ばない。

 所詮俺は偽物。ガワだけ取り繕った継ぎ接ぎだらけのボロボロの騎士だ。それでもみんなに並べるのか。そう考えると不安が溢れてくる。

 

 それが表情に出ていたのか、小さな、しかし確かな暖かさと力強さを感じる手が頭に乗せられた。

 

「父さん……」

「安心しろ、トリスタン。俺たちがいる。だから気負う必要なんてねえ」

 

 にしし、と太陽のような笑みを浮かべて乱暴に俺の頭を撫でる父さん。その気持ちが今はなによりも嬉しくて自然と俺も笑みを浮かべていた。

 本当に良い親を持った。

 

「ありがとう、父さん。俺、頑張れる気がする」

 

 だから、せめて精一杯。

 体を奪ってしまった罪滅ぼしとして、死ぬまで。

 全力でトリスタンとしての役目を全うしよう。

 

 そう、決意した。

 

 





トリスタン:中身は一般人。重すぎる使命とメカクレ排除系ヤンデレ聖騎士(♂)のせいでメンタル死にがち。現時点での実力はランスロットと同等か少し上くらい。さらっとやべーことしてる奴。
人と喋る時はなるべく原作トリスタンに寄せるようにしている。ただし両親の呼び方はパパ上ママ上ではなく父さん母さん。一人称も二人の前でのみ「俺」となる。
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