ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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序章
0話 始まりの孤島


 

 目覚めると、謎の小屋にいた。

 知らぬ小屋に、ただ一人。

 知らない場所、知らない世界。

 ふと、二つの小箱が目に飛び込む。

 何もないボロ屋の床に、その二つだけ異質に置かれていた。

 

「……服はこれなんだ」

 

 コスプレ衣装が身を纏っている。

 いつもの海賊衣装。

 

「最後、何してたっけ……?」

 

 突然ここに放り出された。

 絡繰は不明だが、転移や転生的な展開だと読める。

 それ以外の線は正直、今の頭では思いつかない。

 

「考えても無理だワ……」

 

 なので思考放棄。

 海賊帽を取り、くしゃっと髪を乱した。

 

「まずは、おあつらえむきに置かれたこの初期装備の確認」

 

 小箱……宝箱のようなものを手に取り、まずひとつをパカっと心地よい音を立てて開ける。

 

「……?」

 

 中にあったもの。

 それは、見覚えのあるような不思議な紋様の刻まれた果実。

 そうこれは、かの有名な……

 

「悪魔の実」

 

 そう、某海賊漫画に登場する果実。

 口にすると超人的力を手にする代償に、カナヅチとなる果実。

 

「こっちも……か」

 

 もう片方の箱にも全く色も形も異なる、同じ果実が入っていた。

 

「……」

 

 マリンは躊躇なく右手の宝箱の果実を口に運ぶ。

 グシャッと、柔らかい食感と弾ける果汁。

 舌を通じて味が伝わり、喉を通る。

 

「お"ぉえ"え"っ"!! まっづぅ!」

 

 死ぬほど不味かった。

 本物のようだ。

 催す吐き気に胸を叩いて必死に抵抗する。

 アイドル以前に女性として、見知らぬ場所で吐けない。

 

「っ! はぁ、はぁ……っ、後味がないのは、ありがたい……」

 

 喉元を摩って顔色悪くつぶやいた。

 

「しかしまあ……何も変わらんけど」

 

 食べたが変化なし。

 力に覚醒めた感覚は皆無。

 両手を数度握るが、普段の弱い力が籠るだけ。

 

「……まあ、ニセモンならそれはそれで」

 

 マリンはようやく喉元から片手を離し、力を込めていた手と合わせる。

 パンっ、と拍音。

 見せる相手もいないが、表情を無理矢理明るくしてボロ屋の扉を開いた。

 

「…………」

 

 扉の外の世界、その光景に全機能が停止。

 そっと扉を閉じた。

 

「いやいやまだ17歳、こんな幻覚は……」

 

 もう一度開いた扉の先の世界。

 代わり映えのない絶景。

 遊泳ができそうな、ビューティフルオーシャン。

 背後には鬱蒼と木々の茂る小さな森。

 

 ここは……島。

 しかもおそらく、

 

「無人島⁉︎」

 

 何故こんな場所に⁉︎

 まさか一人でホロサマをやれと⁉︎

 水着もクソも無いから、全裸か着衣の2択だが⁉︎

 

「いや……無人なら全裸もアリ」

 

 何を言うか、このアイドル。

 

「……はあ、こんなワイルドな場所に放るとか、転生させた奴は船長のことまるで理解していない」

 

 寧ろ理解してここにしたのかも?

 

「他のみんなはいるんか、そもそも」

 

 ボッチなんて死ぬ。

 孤独死する、この歳で。

 

「……いや、とにかく今は……生きねば!」

 

 

 

 マリンは生きる術を、この孤島で模索した。

 その期間、僅か3日。

 

 

 その3日で得たものは、この世界で生きていくに十分すぎた。

 

「さて、出航しますか!」

 

 目の前の小型海賊船を見上げ、マリンはふんぞりかえる。

 誇らしげに一人鼻を鳴らして、帽子を頭にそっと乗せた。

 

「いやぁー、果物と野菜があってよかった!」

 

 食糧は豊富とまでは言えないが、3日を乗り切るには事足りる量だ。

 マリンは船を手にし、今から蓄えた食糧と水を担ぎどこか生活できる島を求めると決めた。

 

「よっと」

 

 初めて本物の船に乗船し、胸が高鳴る。

 この世界へ来た時の絶望など、もう忘れた。

 

「……操舵はよく分からんけど、錨上げれば波がなんとかするでしょ!」

 

 無計画に錨を巻き上げる。

 

「よし、それでは〜、出航〜」

「ヨーソロー!」

 

 掛け声にいい返答。

 やはり合いの手は気分がいい。

 

「船長! 食糧はどこでしょう?」

「うむ、あそこの部屋が食糧庫だ」

「はい、ありがとうございます!」

「では私は部屋へ戻る」

「はーい!」

 

 マリンは疑心を抱くことなく部下らしき者に答え、自室へ入り鍵をかけた。

 

「……」

 

 ベッドに横になる。

 そこまでいい質にはなっていない。

 

「…………待てええええいい!」

 

 マリンは部屋を飛び出し、食糧庫に突入。

 そこには、美味しそうに果物を齧るポルカがいた。

 

「むぁ! ほぉれもあいまひた!」

「え! ポルカ⁉︎」

 

 食糧を貪るポルカの姿が、なぜか異様に見える。

 いや当然か。

 

「はえ? なんで名前知ってんの?」

「は? なんでって、逆になんで?」

「ん? 初対面でしょ」

「は……? 魔剤?」

 

 

 意味不明の波は全身を巡った。

 互いに経緯を説明し、約20分で話は纏まった。

 

 

「つまりポルカはこの島に漂着して1週間」

「つまり船長はこの島に転移して3日」

 

「洞窟で密かに暮らしてたけど、妙な音で出たら私がいた」

「日の下で無謀にも戦い、生き、船をも手に入れた」

 

「で、行く当てがないから一味に入りたいと」

「で、行く当てがないから取り敢えず漂流と」

 

「「なるほど、さっぱり分からん」」

 

 意気投合するような連携っぷり。

 二人は顔を見合わせ笑った。

 

「…………」

 

 しかし、マリンは追加で更に頭を抱える問題がある。

 それはポルカに『宝鐘マリン』という存在の認識がないこと。

 いや言ってしまえば、もっと広義にホロライブそのものの記憶がない。

 まるで、ずっとこの世界に居たように。

 

「まあいいですよ。んじゃ、ポルカは料理やら掃除やらの面倒な係ね」

「腐ったメシ食わすぞ」

「そしたら海に捨てます」

「まあ受けるのはいいけど……別段得意とかじゃないかんね」

 

 雑用係兼コック。

 雑用はまだしも、コックは本当に不適任だ。

 

「気にしないで下さい、どうせ船長だったら生で食い散らかして終わりなんで、マシですよ」

「……乗る船間違えた?」

「いや選択肢他にないから」

「幸い中の不幸的な?」

 

 そしてマリンは船長兼、操舵手兼、航海士。

 めちゃくちゃ似合わない。

 何なら出来なさそう。

 いや多分普通にはできない。

 

「で、目的地は無いんっすよね?」

「ないですよ。取り敢えず直感で北へ向かってます」

「何の勘?」

「さあ? 誰かいないかなって、他のホ……仲間」

「ああ! 仲間集め! 何人くらい増やす予定?」

「そりゃ当然……」

 

 ホロメン全員、と言いたいが喉元で引っかかって言えず。

 

「決めてない」

 

 できれば出会うホロメンはこの船に……というか近くに置きたい。

 記憶が無いことが気掛かりだから。

 でも記憶がなければポルカほど旨い展開には行かないはず……。

 運が悪ければ……。

 

「せめて料理人と操舵手と医者くらいはいた方がいいかな、とポルカは思うけど、まあ決定権は船長に」

「船長は人を見る目くらいありますよ」

 

 ホロメンのことはずば抜けて知っている。

 もし一緒に海賊するなら料理人と医者には適任がいる。

 仲間になるかは別として。

 そして実のところ操舵手と航海士はマリンで事足りる。

 

「……そういえばポルカ、さっきから船長が旅する事想定してません?」

「え? だって海賊旗掲げてんじゃん」

 

 マリンの些細な疑問に、ポルカは旗の印を指して言う。

 そこにはマリンの象徴するマークが。

 ハートを射抜いたあのマークが。

 

「……ドクロでもないのに、よく海賊旗って分かりましたね」

「ああ……何かね、何となくそう思えた」

 

 ポルカも頭を抱えて唸った。

 マリンの衣装こそ海賊よりだが、一眼で海賊と断定はし難い。

 この島に転移した話をした手前、たった3日で海賊志望も普通なら妙な話だ。

 

 もしかすると、断片的な記憶がマリンとリンクしたのかもしれない。

 ならば尚のことホロメンを仲間にしたい。

 マリンとの航海で記憶を取り戻す可能性がある。

 

「まあ、次の島まではゆっくりしててください」

「あ、ほい〜」

「ああ、あと食糧難は注意ね、釣具とかないんで」

 

 こうして、マリンの航海ははじまった。

 

 

 海賊船、マリン号。

 目的地、不明。

 船長『宝鐘マリン』、仲間『尾丸ポルカ』。

 





 この度は読んでいただきありがとうございます。
 作者です。

 この作品は配信を観ていてよく話題に上がる「ワンピース」から着想を得たものです。
 基本、悪魔の実(仮)以外には原作に登場する力などは存在しません。
 それと、ホロメンが能力名を初披露する回の後書きに、原作の能力なら何が似合うかを記していきたいと思います。

 今回は能力名未登場ですが、例として船長。
 マリン船長はジュクジュクとかですかね。
 現在の情報だけならボニーの能力とかもありそうです。

 とまあ、こんな感じです。
 さて、それではまた次回。
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