ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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9話 策なし

 

「…………詰んだ」

「おい」

 

 城門前で立ち往生したマリンとトワ。

 柵の作りは、よじ登れるものではなく、門には鍵が掛かっている。

 暴れるやら、潜入やら画策したものの、当然あるべき関門を何故かないものとしていた。

 実に愚かなり。

 

「キミたち、何をしている?」

 

 周囲の警備任務の衛兵が2人を発見した。

 

「王様に会いたいんですけど……無理ですかね?」

「残念ながら無理ですね」

 

 交渉を試みるが即刻却下。

 衛兵はあまり近づかぬよう忠告して巡回に戻る。

 

「……どうにかしてよ船長」

「門、壊していいですか?」

「弁償できるん?」

「無理に決まってんでしょうが、こちとら一文なしなんだワ」

「トワそんな貧乏海賊に入ったんか……」

 

 マリンの心と目を信じて、条件付きで仲間に入った。

 強さはあまり期待してないが、やる気や根性には目をつけている。

 

「梯子かけても、あのトゲトゲした柵は越えられないんで、ぶっ込みます」

 

 マリンは門から距離を取る。

 

「離れた方がいい?」

「うん」

 

 トワも距離を取る。

 

「…………」

「何してんの?」

「頑張ってるんです、待ってください」

 

 突然、厨二病のように右手に力を込め、何かを制御する。

 不可解な行動にトワが口を挟むが、言われた通り待つ。

 

「そい!」

 

 ドンっ、と重厚な大砲が生まれる。

 同時にバラバラと大量の木屑。

 大砲は、よく見ればどこかから無理矢理剥ぎ取ったような跡がついていた。

 

「これが能力? なんかちょっと、お粗末じゃない?」

「フネフネの実と言ってですね、本来は船の現出と自由航海ができる能力なんですよ」

「そう……じゃあ、船からもぎ取ったん?」

「イメージはそんな感じ。船を想像して、大砲の設備部分を更に強くイメージする。そうすれば、まだ雑ですが、こんな風になります」

 

 錨を下ろすのも同じ容量。

 似た形で、帆を立てたり、縄梯子を垂らしたり、オールを振り回したり。

 正直使いにくい。

 

「はーい、じゃあ撃ちまーす。ドンッ!」

 

 モクモクと立ち昇る煙。

 門ではなく、柵をぶっ飛ばした。

 

「トワ様、ここ隠れといて」

「ちょ、痛い痛い、待って……」

 

 崩壊した壁を越えて、領内に侵入。

 茂みの影にトワを無理矢理埋め込む。

 枝が刺さって切れていたが、衛兵がくる為猶予はない。

 

「なんだ貴様!」

「迅速な対応過ぎて怖い」

 

 早速騒ぎを聞きつけた衛兵が集まる。

 マリンに敵意と矛を向け、じりじりと距離を詰める。

 

「ドンッ」

 

 マリンは巨大な柱を現出させた。

 3階の窓付近までの全長で、窓に倒れかかる。

 そう、窓の奥にずっと見えていた。

 

「ポルカー!」

「はいはーい!」

 

 3階の窓を蹴破り、ポルカ登場。

 柱を伝って滑り降りてくる。

 

「マジかよ!」

 

 窓からスバルが見下ろして叫んでいた。

 

「姫様は見つけたんっすけど、牢屋から出たくないって言われました」

「じゃあ無理矢理連れ出します」

「じゃあこっち」

 

 ポルカに牢屋へ案内される。

 衛兵を次々と突破して、地下牢へ。

 

「どこ?」

「……いなくなってますね。ここに居たんですけど」

 

 ルーナ姫は牢屋から姿を消していた。

 丁寧に錠は外されている。

 

「脱走……」

「じゃないはず」

 

 檻を眺めても進展はなく、集まる衛兵に退路を断たれるだけ。

 抵抗も虚しく、2人はそこまで。

 拘束されてしまう。

 

「オワターーー」

 

 マリンの絶叫は牢屋で共鳴する。

 ポルカも肩を落として、死んだように動かない。

 

 

 しばらくして、スバルが尋問にやってきた。

 

「何が目的だよ、こんな事しやがって」

「スバル先輩! 船長を解放しなさい! さもないとあだ名がスーくんになるよ」

「なんの脅しにもなんねえ……」

「意味がわからん。お前なんかしらねぇよ」

 

 スバルもポルカも呆れた嘆息を吐く。

 

「なんですかその装備は! 帽子被りなさいよ帽子! なんでメガホン持ってないの! ホイッスルも下げてないじゃん!」

「スバルのなんなんだよ!」

「ババドナの薄い絆を忘れたの⁉︎」

「なんだよそれ、知らねぇよ」

 

 瞳孔を開いて力強く責め立てるマリンにスバルは引いているが、尋問の立場としてはおかしい。

 

 そこへ突然、扉を開けてちょこが突入してくる。

 

「スバル、大変!」

「ん、どうした?」

 

 スバルは罪人2人から距離を取り、ちょこに耳を貸す。

 耳打ちの内容は……。

 聞こえないが、スバルは目を見開いた。

 

「どこにいる?」

「そこまで来てる」

「お前ら、ちょっと待ってろ」

 

 スバルは不自然に罪人2人に指示を出して牢獄を後にする。

 ポルカとマリンはキョトンとして目を見合わせた。

 

「どうしたんすかね」

「ルーナたんにでも呼ばれたんじゃない?」

「本人行方不明でしょ」

「ほら、2人には愛の力あるから」

「愛って偉大だな〜」

「待てよ、その理屈なら船長最強説浮上するんだが」

「はぁ……」

 

 ホロメンへの愛。

 愛で何でも解決できるなら、マリンの仲間愛で万事解決。

 世界平和も夢じゃない。

 

「あ、戻ってきた」

 

 スバルが再登場する。

 コツコツと石の床を歩き、牢を開ける。

 

「釈放だ」

「船長最強説浮上!」

「違うって」

 

 前触れのない解放に戸惑いつつふざけるマリン。

 前述の愛情論が罷り通ったわけではない。

 別途の要員が存在することは確かだ。

 

 牢屋を出て、2人の前にいた人物。

 まさかまさかのトワだった。

 

「トワ様、どうなってんの?」

「……どうやら、偉い人みたいっすね」

 

 敵である兵長を権力で動かせる。

 この場のホロメン誰一人只者であるはずはないが、トワも常軌を逸した地位を確保している様子。

 有無を言わせぬ圧力を放ち、二人の元へ。

 

「黙っとくつもりだったけど、建前上トワの船長やし、王を捕まえてもらう約束したから」

「何か凄い人なん?」

「トワさんは、シエロソニードの軍人だそうだ」

「エロ……? え、なんて?」

「都合よく切り取るな」

 

 聞き慣れない単語なのはポルカも同じだが、その2文字だけを上手く切り取るのは逆に意図的だと分かる。

 正式名称を聞き取れず、仕方なくネタに昇華したのだろう。

 人間誰しもやりがちな事。

 配信者なら尚のこと。

 

 いや、それはどうでもいい。

 肝心なのは、その固有名詞が何であるかと、トワとキャンディータウンの関係性。

 

「まあ、詳しくはルーナ姫を助けたら、交えて話すわ。今はこの恩恵に肖って一旦、目瞑っといて」

「……」

「分かりました、じゃあフブちゃん探そっか」

 

 ポルカは怪訝そうに眉を寄せるが、マリンが絶望的なまでの前向きさで話を進めるので、口を挟む隙もない。

 

「ってか、こんな簡単に行くなら初めから話し合えば良かったのに」

「だから言ってんだろうが、出来れば黙っときたかったって」

「でも結局話してんなら……」

「結果と過程は別! ったく、付く人間違えたわ!」

「それね、ポルカも思ってる」

「裏切りフラグか……!」

「それでフラグクラッシュしてるつもり?」

「え、口にしといたらセーフじゃないの?」

「裏切ったりしないから、裏切っても得無い……かどうかは知らんけど」

 

 戦場で冗談の飛び交う、緊張感がないパーティ。

 平和ボケしたチームとも言える。

 気楽だが、危機感の喪失により近いうちに壊滅するかもしれない。

 スバルとちょこを含めた衛兵が呆然と立ち尽くしている。

 

「あーごめん、スバルちゃんとちょこ先生でいい?」

「あ、ああ」

「ええ」

「ルーナ姫の考えは聞いてんの?」

 

 ルーナが何を目的に行動しているか。

 それを側近の2人が果たして理解しているのか。

 まあ、姫の指示なら取るべきではない行動をとっている時点で、何も聞かされてはいないだろう。

 

「特に何も……国民のために、フブキの指示に従うとだけ」

「まあそうだと思ったわ」

「ただ、小屋へ行ったのは姫の指示」

「……」

 

 髪をクシャと乱して、少し不満そうにするトワ。

 つまり、ルーナがラプラスの秘密基地を荒らせと?

 

「そのお姫様に脱獄拒否られたんだけどさ、何がしたいの?」

 

 ポルカが挙手して無言になったトワに尋ねた。

 周囲を見回して、解答するか悩む。

 

「……スバルちゃん、ちょこ先生、悪いけど2人は仕事に戻ってもらっていい?」

「え、でも――」

「証明なら見せたじゃん? 衛兵の動きが不自然すぎるとフブキに勘付かれる」

「行こうちょこ先、シエロソニードの軍の証明があるなら、信じていいはずだ」

「…………」

 

 スバルが不機嫌になったちょこを連行して行った。

 全衛兵がその後方から続き、人はいなくなった。

 牢屋前で、三人が残った。

 

「話すよ、分かることは」

「頼みますよ〜? ポルカが一生疑ってるんで」

「前も言ったけど、常に疑って掛かるべきなんだって」

「トワ様だからいいの」

「だからそうやって……まあいいや、船長が疑心を持てないなら、アタシがその役をすればいいだけだし」

 

 船長は常に信じ、副船長は常に疑う。

 釣り合いが取れるようで取れない。

 

「もっと船長の――」

「信じません」

「幾ら何でも即答すぎじゃ――」

「もういいから話すよ」

「え、何? 船長嫌われてる?」

 

 ポルカに続きトワにまで言葉を遮断される始末。

 先程のマリンの愛最強説は息を潜め、新たに船長地位的に最弱説が浮上。

 しかも、マリンの最後の言葉に返答はなかった。

 悲しくなったので、嘘泣きしてみたが、トワが話し始めたので消音モードにした。

 余計に虚しくなった。

 

「トワは『シエロソニード』っていう国に住んでた」

「特段凄い国じゃないよね? 聴いたことないし」

「まあ、大きい国だけど結構遠いからね。ウチとここの王が仲良しってだけやし」

 

 成程、衛兵たちにのみ伝わる訳だ。

 

「でも正直、軍人にしちゃ弱くない? 素の身体能力はそこそこ高いっぽいけど、能力者じゃないんでしょ?」

「…………弱い自覚はある。トワが軍に誘われた時も、意味わからんかった」

「今は分かると」

「そう、その能力の実が、この国にある」

「……? トワ様が食べる用のが?」

「正式には、シエロソニードの軍隊の誰かが食べる用の」

 

 悪魔の実。

 トワはそれを食べるためにここへ来たのか。

 仲が良いと言っていたから、恐らく離れた土地に保管していたのだろう。

 

「……」

 

 マリンは珍しく不審感を抱いた。

 ポルカは知らないため感じれない不審感。

 疑うと言うより、合点が行かない様子だが。

 しかし、嫌われている可能性があるので、最後まで黙っておく。

 

「で、こっからが本題でルーナ姫の目的」

「それ。場合によっちゃ、作戦とか諸々変更っすよ」

 

 マリンに釘を刺す。

 少し顔を顰めたが、反論はしない。

 

「今、とある集団が世界に幅を利かせ始めてて、中々歯止めが効かない状態になってる」

「とある集団?」

「名称はない。それと、集団って言ったけど、殆どは意識的に仲間になってる訳じゃない」

「は? ちょっと待って、あんま意味わかんないんだけど」

 

 解説不足でポルカもマリンも混乱する。

 無意識的な集団への参加とはなんだ?

 

「その敵の親玉が、人を洗脳して操る能力を持ってんだよ」

「――――」

「特に、能力者を集めることに固執してる」

 

 増える新派が無意識である原因。

 それは、洗脳能力による強制信仰。

 

「その能力の突破方法が不明で、姫たちはその解明を進めてる」

「その発言だと、今のフブキって王様は……」

「まさか――!」

 

 ポルカの誘導的な発言でマリンも漸く理解が追いつく。

 

「洗脳によってこの国に攻めて来た、いわば被害者の1人」

 

 明かされた事実は、余りにも恐ろしい。

 他人を操る、最悪の能力で強制的に敵城を攻め落とさせる。

 自分の手を汚さない、極めて汚いやり口。

 敵としての最高峰に位置する闇。

 

「洗脳された証拠はあんの? 対面した感じ、ガッツリ自我持ってたし、操られてると思う特徴は無かったけど」

「ルーナ姫の動向が要素かな、証明は無理」

 

 ルーナ姫の目的が洗脳を解く方法の詮索なら、辻褄が合う。

 しかし、単に国民を守るための線もあり得るはず。

 トワは確信めいた表情で話しているが、根拠は薄いように思える。

 

「タイマンでルーナ姫は絶対に負けない。なのに従ってるから、そうだとトワは予測する」

 

 事件の輪郭が掴めて来た。

 ポルカもマリンも共通して敵を見直す。

 敵は洗脳の能力者。

 そして、フブキは救うべき被害者。

 しかも、被害者はもっともっと多い。

 

「不明点は多々あるけど、概要は理解した」

「何が不満?」

「洗脳を解く方法が見つかってないのに、トワ様が行動を起こしていること」

 

 ポルカもトワも互いに攻撃的だ。

 もっと温和な話し合いを……とマリンは心で呟いた。

 

「トワの能力が都合良く洗脳解けんかな〜、って」

「正気の沙汰じゃないでしょ、それ。行動を起こすには望み薄すぎる」

「じゃあなんか思いつくんか! 奇跡でも信じるしかもう術がないんや」

 

 対処が遅れれば、洗脳被害は増える一方。

 最悪国家転覆や世界革命も各地で勃発するだろう。

 

「耳を塞ぐのがセオリーっしょ」

「声は関係ない。どこにいても洗脳が解けないから」

「洗脳できる数に制限があるんじゃない?」

「敵は増え続けてる。それに賭けて、外れてたら手遅れだろ」

「能力名とか分からんの?」

「分からん」

 

 片っ端から試す他ないが、失敗時のリスクがでかい。

 

「だから、トワの能力に賭けて、それでダメならもうそのフブキを実験台にして色々試すしかない」

 

 残酷だが、最も被害を減らす策はそれだろう。

 

「…………」

「……」

「どう?」

 

 どう、とは、実に独りよがりな質問だ。

 だが、答える。

 

「他には何も策が浮かばんし、ポルカはそれでも仕方ないとは思う」

 

 けど、と繋げて隣に視線をずらした。

 引き締まった表情のマリンが、トワを見つめている。

 

「船長が何とかします」

「はあ?」

「何とかします」

「話聞いてたん? 策が何もないんだって」

「何とかします」

「リピートすんな」

「何とかするんです! とにかくフブちゃん探しますよ」

 

 怒気を含んだ語調と靴音。

 マリンは牢屋を出た。

 

 呆れるように顔を見合わせつつも、2人は何故かマリンの背を追った。

 

 

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