「…………詰んだ」
「おい」
城門前で立ち往生したマリンとトワ。
柵の作りは、よじ登れるものではなく、門には鍵が掛かっている。
暴れるやら、潜入やら画策したものの、当然あるべき関門を何故かないものとしていた。
実に愚かなり。
「キミたち、何をしている?」
周囲の警備任務の衛兵が2人を発見した。
「王様に会いたいんですけど……無理ですかね?」
「残念ながら無理ですね」
交渉を試みるが即刻却下。
衛兵はあまり近づかぬよう忠告して巡回に戻る。
「……どうにかしてよ船長」
「門、壊していいですか?」
「弁償できるん?」
「無理に決まってんでしょうが、こちとら一文なしなんだワ」
「トワそんな貧乏海賊に入ったんか……」
マリンの心と目を信じて、条件付きで仲間に入った。
強さはあまり期待してないが、やる気や根性には目をつけている。
「梯子かけても、あのトゲトゲした柵は越えられないんで、ぶっ込みます」
マリンは門から距離を取る。
「離れた方がいい?」
「うん」
トワも距離を取る。
「…………」
「何してんの?」
「頑張ってるんです、待ってください」
突然、厨二病のように右手に力を込め、何かを制御する。
不可解な行動にトワが口を挟むが、言われた通り待つ。
「そい!」
ドンっ、と重厚な大砲が生まれる。
同時にバラバラと大量の木屑。
大砲は、よく見ればどこかから無理矢理剥ぎ取ったような跡がついていた。
「これが能力? なんかちょっと、お粗末じゃない?」
「フネフネの実と言ってですね、本来は船の現出と自由航海ができる能力なんですよ」
「そう……じゃあ、船からもぎ取ったん?」
「イメージはそんな感じ。船を想像して、大砲の設備部分を更に強くイメージする。そうすれば、まだ雑ですが、こんな風になります」
錨を下ろすのも同じ容量。
似た形で、帆を立てたり、縄梯子を垂らしたり、オールを振り回したり。
正直使いにくい。
「はーい、じゃあ撃ちまーす。ドンッ!」
モクモクと立ち昇る煙。
門ではなく、柵をぶっ飛ばした。
「トワ様、ここ隠れといて」
「ちょ、痛い痛い、待って……」
崩壊した壁を越えて、領内に侵入。
茂みの影にトワを無理矢理埋め込む。
枝が刺さって切れていたが、衛兵がくる為猶予はない。
「なんだ貴様!」
「迅速な対応過ぎて怖い」
早速騒ぎを聞きつけた衛兵が集まる。
マリンに敵意と矛を向け、じりじりと距離を詰める。
「ドンッ」
マリンは巨大な柱を現出させた。
3階の窓付近までの全長で、窓に倒れかかる。
そう、窓の奥にずっと見えていた。
「ポルカー!」
「はいはーい!」
3階の窓を蹴破り、ポルカ登場。
柱を伝って滑り降りてくる。
「マジかよ!」
窓からスバルが見下ろして叫んでいた。
「姫様は見つけたんっすけど、牢屋から出たくないって言われました」
「じゃあ無理矢理連れ出します」
「じゃあこっち」
ポルカに牢屋へ案内される。
衛兵を次々と突破して、地下牢へ。
「どこ?」
「……いなくなってますね。ここに居たんですけど」
ルーナ姫は牢屋から姿を消していた。
丁寧に錠は外されている。
「脱走……」
「じゃないはず」
檻を眺めても進展はなく、集まる衛兵に退路を断たれるだけ。
抵抗も虚しく、2人はそこまで。
拘束されてしまう。
「オワターーー」
マリンの絶叫は牢屋で共鳴する。
ポルカも肩を落として、死んだように動かない。
しばらくして、スバルが尋問にやってきた。
「何が目的だよ、こんな事しやがって」
「スバル先輩! 船長を解放しなさい! さもないとあだ名がスーくんになるよ」
「なんの脅しにもなんねえ……」
「意味がわからん。お前なんかしらねぇよ」
スバルもポルカも呆れた嘆息を吐く。
「なんですかその装備は! 帽子被りなさいよ帽子! なんでメガホン持ってないの! ホイッスルも下げてないじゃん!」
「スバルのなんなんだよ!」
「ババドナの薄い絆を忘れたの⁉︎」
「なんだよそれ、知らねぇよ」
瞳孔を開いて力強く責め立てるマリンにスバルは引いているが、尋問の立場としてはおかしい。
そこへ突然、扉を開けてちょこが突入してくる。
「スバル、大変!」
「ん、どうした?」
スバルは罪人2人から距離を取り、ちょこに耳を貸す。
耳打ちの内容は……。
聞こえないが、スバルは目を見開いた。
「どこにいる?」
「そこまで来てる」
「お前ら、ちょっと待ってろ」
スバルは不自然に罪人2人に指示を出して牢獄を後にする。
ポルカとマリンはキョトンとして目を見合わせた。
「どうしたんすかね」
「ルーナたんにでも呼ばれたんじゃない?」
「本人行方不明でしょ」
「ほら、2人には愛の力あるから」
「愛って偉大だな〜」
「待てよ、その理屈なら船長最強説浮上するんだが」
「はぁ……」
ホロメンへの愛。
愛で何でも解決できるなら、マリンの仲間愛で万事解決。
世界平和も夢じゃない。
「あ、戻ってきた」
スバルが再登場する。
コツコツと石の床を歩き、牢を開ける。
「釈放だ」
「船長最強説浮上!」
「違うって」
前触れのない解放に戸惑いつつふざけるマリン。
前述の愛情論が罷り通ったわけではない。
別途の要員が存在することは確かだ。
牢屋を出て、2人の前にいた人物。
まさかまさかのトワだった。
「トワ様、どうなってんの?」
「……どうやら、偉い人みたいっすね」
敵である兵長を権力で動かせる。
この場のホロメン誰一人只者であるはずはないが、トワも常軌を逸した地位を確保している様子。
有無を言わせぬ圧力を放ち、二人の元へ。
「黙っとくつもりだったけど、建前上トワの船長やし、王を捕まえてもらう約束したから」
「何か凄い人なん?」
「トワさんは、シエロソニードの軍人だそうだ」
「エロ……? え、なんて?」
「都合よく切り取るな」
聞き慣れない単語なのはポルカも同じだが、その2文字だけを上手く切り取るのは逆に意図的だと分かる。
正式名称を聞き取れず、仕方なくネタに昇華したのだろう。
人間誰しもやりがちな事。
配信者なら尚のこと。
いや、それはどうでもいい。
肝心なのは、その固有名詞が何であるかと、トワとキャンディータウンの関係性。
「まあ、詳しくはルーナ姫を助けたら、交えて話すわ。今はこの恩恵に肖って一旦、目瞑っといて」
「……」
「分かりました、じゃあフブちゃん探そっか」
ポルカは怪訝そうに眉を寄せるが、マリンが絶望的なまでの前向きさで話を進めるので、口を挟む隙もない。
「ってか、こんな簡単に行くなら初めから話し合えば良かったのに」
「だから言ってんだろうが、出来れば黙っときたかったって」
「でも結局話してんなら……」
「結果と過程は別! ったく、付く人間違えたわ!」
「それね、ポルカも思ってる」
「裏切りフラグか……!」
「それでフラグクラッシュしてるつもり?」
「え、口にしといたらセーフじゃないの?」
「裏切ったりしないから、裏切っても得無い……かどうかは知らんけど」
戦場で冗談の飛び交う、緊張感がないパーティ。
平和ボケしたチームとも言える。
気楽だが、危機感の喪失により近いうちに壊滅するかもしれない。
スバルとちょこを含めた衛兵が呆然と立ち尽くしている。
「あーごめん、スバルちゃんとちょこ先生でいい?」
「あ、ああ」
「ええ」
「ルーナ姫の考えは聞いてんの?」
ルーナが何を目的に行動しているか。
それを側近の2人が果たして理解しているのか。
まあ、姫の指示なら取るべきではない行動をとっている時点で、何も聞かされてはいないだろう。
「特に何も……国民のために、フブキの指示に従うとだけ」
「まあそうだと思ったわ」
「ただ、小屋へ行ったのは姫の指示」
「……」
髪をクシャと乱して、少し不満そうにするトワ。
つまり、ルーナがラプラスの秘密基地を荒らせと?
「そのお姫様に脱獄拒否られたんだけどさ、何がしたいの?」
ポルカが挙手して無言になったトワに尋ねた。
周囲を見回して、解答するか悩む。
「……スバルちゃん、ちょこ先生、悪いけど2人は仕事に戻ってもらっていい?」
「え、でも――」
「証明なら見せたじゃん? 衛兵の動きが不自然すぎるとフブキに勘付かれる」
「行こうちょこ先、シエロソニードの軍の証明があるなら、信じていいはずだ」
「…………」
スバルが不機嫌になったちょこを連行して行った。
全衛兵がその後方から続き、人はいなくなった。
牢屋前で、三人が残った。
「話すよ、分かることは」
「頼みますよ〜? ポルカが一生疑ってるんで」
「前も言ったけど、常に疑って掛かるべきなんだって」
「トワ様だからいいの」
「だからそうやって……まあいいや、船長が疑心を持てないなら、アタシがその役をすればいいだけだし」
船長は常に信じ、副船長は常に疑う。
釣り合いが取れるようで取れない。
「もっと船長の――」
「信じません」
「幾ら何でも即答すぎじゃ――」
「もういいから話すよ」
「え、何? 船長嫌われてる?」
ポルカに続きトワにまで言葉を遮断される始末。
先程のマリンの愛最強説は息を潜め、新たに船長地位的に最弱説が浮上。
しかも、マリンの最後の言葉に返答はなかった。
悲しくなったので、嘘泣きしてみたが、トワが話し始めたので消音モードにした。
余計に虚しくなった。
「トワは『シエロソニード』っていう国に住んでた」
「特段凄い国じゃないよね? 聴いたことないし」
「まあ、大きい国だけど結構遠いからね。ウチとここの王が仲良しってだけやし」
成程、衛兵たちにのみ伝わる訳だ。
「でも正直、軍人にしちゃ弱くない? 素の身体能力はそこそこ高いっぽいけど、能力者じゃないんでしょ?」
「…………弱い自覚はある。トワが軍に誘われた時も、意味わからんかった」
「今は分かると」
「そう、その能力の実が、この国にある」
「……? トワ様が食べる用のが?」
「正式には、シエロソニードの軍隊の誰かが食べる用の」
悪魔の実。
トワはそれを食べるためにここへ来たのか。
仲が良いと言っていたから、恐らく離れた土地に保管していたのだろう。
「……」
マリンは珍しく不審感を抱いた。
ポルカは知らないため感じれない不審感。
疑うと言うより、合点が行かない様子だが。
しかし、嫌われている可能性があるので、最後まで黙っておく。
「で、こっからが本題でルーナ姫の目的」
「それ。場合によっちゃ、作戦とか諸々変更っすよ」
マリンに釘を刺す。
少し顔を顰めたが、反論はしない。
「今、とある集団が世界に幅を利かせ始めてて、中々歯止めが効かない状態になってる」
「とある集団?」
「名称はない。それと、集団って言ったけど、殆どは意識的に仲間になってる訳じゃない」
「は? ちょっと待って、あんま意味わかんないんだけど」
解説不足でポルカもマリンも混乱する。
無意識的な集団への参加とはなんだ?
「その敵の親玉が、人を洗脳して操る能力を持ってんだよ」
「――――」
「特に、能力者を集めることに固執してる」
増える新派が無意識である原因。
それは、洗脳能力による強制信仰。
「その能力の突破方法が不明で、姫たちはその解明を進めてる」
「その発言だと、今のフブキって王様は……」
「まさか――!」
ポルカの誘導的な発言でマリンも漸く理解が追いつく。
「洗脳によってこの国に攻めて来た、いわば被害者の1人」
明かされた事実は、余りにも恐ろしい。
他人を操る、最悪の能力で強制的に敵城を攻め落とさせる。
自分の手を汚さない、極めて汚いやり口。
敵としての最高峰に位置する闇。
「洗脳された証拠はあんの? 対面した感じ、ガッツリ自我持ってたし、操られてると思う特徴は無かったけど」
「ルーナ姫の動向が要素かな、証明は無理」
ルーナ姫の目的が洗脳を解く方法の詮索なら、辻褄が合う。
しかし、単に国民を守るための線もあり得るはず。
トワは確信めいた表情で話しているが、根拠は薄いように思える。
「タイマンでルーナ姫は絶対に負けない。なのに従ってるから、そうだとトワは予測する」
事件の輪郭が掴めて来た。
ポルカもマリンも共通して敵を見直す。
敵は洗脳の能力者。
そして、フブキは救うべき被害者。
しかも、被害者はもっともっと多い。
「不明点は多々あるけど、概要は理解した」
「何が不満?」
「洗脳を解く方法が見つかってないのに、トワ様が行動を起こしていること」
ポルカもトワも互いに攻撃的だ。
もっと温和な話し合いを……とマリンは心で呟いた。
「トワの能力が都合良く洗脳解けんかな〜、って」
「正気の沙汰じゃないでしょ、それ。行動を起こすには望み薄すぎる」
「じゃあなんか思いつくんか! 奇跡でも信じるしかもう術がないんや」
対処が遅れれば、洗脳被害は増える一方。
最悪国家転覆や世界革命も各地で勃発するだろう。
「耳を塞ぐのがセオリーっしょ」
「声は関係ない。どこにいても洗脳が解けないから」
「洗脳できる数に制限があるんじゃない?」
「敵は増え続けてる。それに賭けて、外れてたら手遅れだろ」
「能力名とか分からんの?」
「分からん」
片っ端から試す他ないが、失敗時のリスクがでかい。
「だから、トワの能力に賭けて、それでダメならもうそのフブキを実験台にして色々試すしかない」
残酷だが、最も被害を減らす策はそれだろう。
「…………」
「……」
「どう?」
どう、とは、実に独りよがりな質問だ。
だが、答える。
「他には何も策が浮かばんし、ポルカはそれでも仕方ないとは思う」
けど、と繋げて隣に視線をずらした。
引き締まった表情のマリンが、トワを見つめている。
「船長が何とかします」
「はあ?」
「何とかします」
「話聞いてたん? 策が何もないんだって」
「何とかします」
「リピートすんな」
「何とかするんです! とにかくフブちゃん探しますよ」
怒気を含んだ語調と靴音。
マリンは牢屋を出た。
呆れるように顔を見合わせつつも、2人は何故かマリンの背を追った。