ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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99話 終わらない悪夢

 

 まつりの声はマイクを通して至る所へ。

 

 ここは3階北通路。

 早々にころねがおかゆをノックアウトしたが、一時錯乱状態となり時間が経過――何とか洗脳を保って復帰できたその時、その声が響いたのである。

 

「ぅっ……ころ、さん……」

「――!」

 

 おかゆが意識を取り戻し、がくがくと震えながら立ち上がろうとする。

 ころねの顔には焦燥と共に恐怖が浮かび上がった。

 衝動的に距離を詰めて、這い蹲るおかゆの顔面に蹴りを入れた……が、無警戒に攻撃を受けたのでオートで受け流されてしまう。

 飛散した泥が床に染み込んで消滅し、吹き飛んだおかゆの頭は首元から新たに生まれた。

 

「っ――!」

「ぁ! 待って!」

 

 肉体的にも精神的にも耐久力の高いころねだが、この場では耐え切れなくなる。よって戦闘を放棄。

 中央ホールへ向かって駆け出した。

 両手両足が震えて直立できていないおかゆは、咄嗟に能力で床に泥を広げた。

 一瞬でころねの足元まで及び、足を縺れさせる。

 正面から泥へと突っ込み全身泥まみれに。

 

「こ、ろさっ――!」

 

 まつりの能力を付与されても止まらない痙攣。

 ころねに受けたダメージはまだ蓄積されたままだ。

 それでも体に鞭打って立ち上がり、自身の泥で足を滑らせながらころねの下へ。

 

「来ないで!」

「いやだ――」

 

 言葉など無意味。

 泥を踏みつけて、おかゆが迫る。

 

「うー――‼︎」

「ふっぶ――」

 

 ころねのストレートパンチが顔面に直撃。

 腫れた顔への追撃でおかゆの顔はさらに腫れ上がる。

 また鼻血が垂れて泥に赤い斑点をつけた。

 

 自衛能力が高い分、防衛本能が働けばころねは問答無用で殴ってくる。

 まつりの応援ありきで立っているこの状況では、もう打撃を受けきれない。

 ここからは受け流しを……。

 

「こ、ろ……ざ……!」

「うあぁ!」

「っぐ――」

 

 腹への打撃もヒット。

 錯乱したようにその後もころねはおかゆを殴打する。

 顔、腹、腕、脚……全て命中。

 

 ぼこぼこにされて、全身が青ざめ、赤く染まる。

 それでも全ての攻撃を受け止めた。

 しかしそれ故に、折角取り戻した意識がまた遠退く。

 走馬灯のように、おかゆの頭の中を私怨が漂う。

 

 

 ――――――

 

 

 何故……避けない。

 バカなのか? いや、バカなんだ。

 

 何故……声が届かない。

 想いが足りないのか?

 

 いつもいつも……いつも、いつも――助けられてばかりで。

 こんな時くらい、助けてやれないのか。

 

 ――――。

 

 フブキと共通のコンプレックスを認め合って、自分は変わったと思っていた。

 成長したフブキを見ると、いつも背後にいる自分も成長して見えた。

 強くなったと思っていた。

 

 そんな事、あり得ないのに……。

 

 人の陰で護られる癖がいつまでも抜け切らない。

 

 ずっとそうだ……。

 ころね、あくあ、ミオ、フブキ……そして一味。

 おかゆは一味での役職が「見習い」だとマリンに言われ、妥当だと口にした。

 それを今、こんな時だが訂正したい。

 

 

 「見習い」なんて役職すら烏滸がましい――。

 もっともっと言えば、海賊と名乗る事さえも。

 

 

 こんな海賊、世界中のどこを探したっていやしない。

 力も意思も弱くて、臆病で、1人じゃ何にも出来やしない。

 

 おかゆが今、ころねに殴られている状況こそ、その証明だ。

 反撃しないんじゃない……出来ないんだ。

 戦わないんじゃない……戦えないんだ。

 1人じゃ覚悟すら決まらない。

 ころねを救いたいのに、彼女と戦う勇気がない。

 

 ころねの力、あくあの優しさ、フブキの勇気。

 他にももっとあるが、おかゆは他人からカケラを借りて自分の上に貼り付けていただけだ。

 

 他人に憧れて――真似てみたけど自分には何の取り柄もなくて――。

 直ぐに諦めて――寄生虫のように他人の陰に隠れてチカラを借りて――。

 周りのチカラをセロハンテープで無理矢理くっ付けたみたいに。

 

 癖が抜けずに拗らせて、時が流れて、こんなに惨めな姿になって。

 そしてまた、仕方がないって諦める。

 それが平凡な――いや、外道の人生。

 

 いつか自分も……なんて、いつまで夢を見ているのだろう?

 

 もうやめよう。

 人に憧れるのも、夢を見るのも……海賊も。

 

 

 ――――――

 

 

 ごめんねころさん…………僕、何もできないや。

 でもきっと……強くて勇敢な人が助けてくれるよ。

 …………ごめんね。

 

 

「………………」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 おかゆの意識は闇の底へと沈んでいった。

 周囲に泥が残っており足元がぬるぬるだ。

 そこで涙と血を溢れさせて倒れるおかゆ。

 その前で拳を振るわせるころね。

 

 戦闘は完全に終了し、ころねの圧勝となったのだが……。

 

「うっ……うあああっ‼︎」

 

 ころねが全身を振り乱して荒ぶる。

 またしても錯乱に陥った。

 泥で滑りながら壁際に歩み寄ると自身の頭を拳で痛めつける。

 

「うーっ、うーっ! うぁっ! ああーっ!」

 

 次第に自傷行為は過激化し壁に額を打ちつけ始めた。

 額が割れて出血し、鼻や顎を伝うもお構いなし。

 

「うっ! うぅ! うっ‼︎ うぁっ‼︎」

 

 鈍い音が幾度も反響し、あわやころねの頭蓋が割れるか、と思われた時――

 

「うああぁーーーーー‼︎」

 

 耳を劈く絶叫が木霊した。

 そして――――。

 

「ッ――!」

 

 壁に凭れながら床に膝をついた。

 

 

 

 …………。

 見知らぬ世界。

 全く見覚えのない環境。

 何故かズキズキと痛む額。

 脳が揺すられ朦朧とする意識の中でも、徐々に情報が更新されて、やがて泥沼の中に倒れるおかゆを発見した。

 

「――――お、がゆ」

 

 自身も泥だらけであると気付いたが、そんな事は気にならない。

 おかゆに拙い足取りで近付いて、その頬に触れた。

 濡れている。泥ではない。

 

「――、――」

 

 ころねは周囲の状況を確認する。

 それを最後の記憶とリンクさせるが、上手く連結しないので思考は放棄した。

 倒れたおかゆをこのままにできない。

 まずは謎の施設から出なければ――おかゆを連れて。

 そう、それが先決。

 

 ころねは自慢の体力を見せつける。

 全身泥まみれになる事も厭わず、倒れたおかゆを背負って、のそのそと歩み始めた。

 何となく進んだ先には、中央ホールがある。

 のっそのっそと時間をかけて、ゆっくりと確実に進む。

 

「はぁ……はぁ……おがゆ……」

 

 愛くるしさを覆う打撲痕と血痕。

 一体誰がこんな事を、と無責任に思っていた。

 

 泥が乾いて固まり始める。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 がちゃ――。

 

「――⁉︎」

 

 震える足で通路を進んでいたその時、突如として一つの扉が開いた。

 通り過ぎた背後の扉、そこから見知らぬ女性が3人。

 怪しさマックスな奴らに、振り返ったころねは全身の毛を逆立てた。

 

「あらら……」

 

 本を手にした女性が小さく口を開けた。

 その本に片手を突っ込んで2冊の本を追加で取り出す。

 装飾もなく、何も記されていない白紙の本。

 

「誰だ! おめぇらは‼︎」

 

 おかゆを庇うように後退り。

 意識の無い人は重く、今は上手く動けない。襲われれば対処できない。

 

「ルイちゃん、早く」

 

 1人がぶっきらぼうに言い放つと、本を持った女性――ルイがころねに近付く。

 

「はいはい。クロヱ」

「はーい」

 

 ルイの指示によりクロヱがころねに襲い掛かった。

 素早い動き。

 

「――ッ‼︎」

 

 退散しようと足を回そうとした。すると固定されたようにびくともせず、勢いでその場に転倒した。

 咄嗟の判断でおかゆを少し遠くに投げ飛ばすと、鈍い音を鳴らせて転がる。

 

「あんだよ、おめぇら‼︎」

 

 転倒したころねの四肢をクロヱが押さえつけ、身動きを封じられるところねは口で対抗した。

 が勿論無駄。

 迫るルイに白紙のページを見せられ――

 

「――⁉︎⁉︎⁉︎??????」

 

 発行した白紙のページに、ころねの頭から大量の文字が映される。

 激しい速度でページが捲れ、その全てに文字が刻まれた。

 それと同時にころねは無を手に入れる。真っ白な脳内。

 辛うじて、自分が何者なのかだけが分かる。ほぼ生まれたての赤子。

 

 呆然とするころねを一旦放置して、ルイがおかゆにも手を伸ばして本を見せようと――

 

 しゅるるるるる

 

「――⁉︎」「何やってんだお前‼︎」

 

 数本の麺がおかゆところねを巻き取って中央ホール側へ引き寄せられる。

 クロヱが咄嗟にころねを括る紐を切り、ころねは確保。しかしおかゆは奪われてしまう。

 

「……クロヱ、行くよ。ころねちゃん、中に入って」

「はーい」「……」

 

 交戦は危険と判断したルイが迅速に指示を出す。

 ころねはルイの本の中へ、そして3人はとある一室へと姿を消す。

 

「――く、待て!」

 

 おかゆを助けた者――ぼたんが力強く踏み込んだが――

 

「ぼたんちゃん、今深追いはダメ」

 

 同行しているルーナに止められた。

 同調するように、もう1人――ラミィも首肯した。

 

「……上に行って、みんなに知らせるのら」

「――はい」

 

 ルーナに従い、ぼたんは麺をしまう。

 そしておかゆを背負おうとするが……。

 

「ラミィちゃん、背負ってあげて」

「え? いやですよ、仲間でも無いのに」

「ルーナは非力だし、ぼたんちゃんは怪我してるから。この子は味方なのらよね?」

「はい」

「…………分かったよ! もう」

 

 ラミィがおかゆを背中に乗せる。

 そして――4人はマリンたちの下へ向かったのだった。

 

 

 

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