ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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 まつりの放送直後、1階南口で倒れていたノエルが目覚めた。

 間近に転がる1本のメイスと気絶したアキロゼ。

 明らかにダメージはノエルの方が大きく、アキロゼより早く目覚めることは不可能。

 それを可能にしたのはやはり、まつりの声援だろう。

 とは言っても、ノエル本人は何に促されて目覚めたのかを自覚していない。

 ただ単にラッキーだと運を称えて、ノエルは中央ホールへ向かった。

 

「…………」

 

 中央ホールにはわためも倒れていた。

 深すぎない程度の斬撃痕が腹に残っており、漸く血が固まって来ていた。

 あやめに斬られたであろう事は容易に想像できる。

 まだ戦闘する可能性を考慮して、わためは放置する他なかった。

 メイスを握り締め、更に気を引き締めると2階へ。

 

 何も無いホールを通過して3階、そして4階へと足を進めた。

 その4階でとある人達と出会す。

 

「フブキちゃん、いろはちゃ――――⁉︎」

 

 大きくない声で会話していた2人の下へ駆け足で寄ると、いろはが担ぐ人に気が付き絶句した。

 

「ノエルちゃん。無事だったんだね」

「ん……一応は――それより……2人がやったの?」

 

 フブキの優しい微笑みにそこそこの返答をして、視線をいろはの担ぐあやめに移した。

 わための様に腹を切り裂かれて気絶しており、いろはの服にもその血が染み込んでいる。

 状況から2人の仕業かと思い込んだが――

 

「んーん、私は何も」

「――じゃあ、1人で?」

「はい」

 

 謙遜ではないフブキの否定に益々ノエルの顔が強張る。

 あやめを超える化け物なんて、見た事がない。

 加えて驚異的なのは、いろはに傷痕ひとつないこと。

 実力的に、あやめを圧倒していた事になる。

 

「――そんな事より、そこ、通れないんでござるよ」

 

 いろはが左手で階段の先を指した。

 フブキも首肯して同様の場所に視線を向けるのでノエルも合わせる。

 

 5階への通路が隙間一つなく塞がれていた。

 

「風真が切っても、瓦礫が残るから結局通れないんでござるよなぁ。どこか別の道知りませんか?」

 

 物を切断しても物質としてその場に残る以上、瓦礫による進路封鎖は変わらない。

 いろはでもお手上げの様で立ち往生していたらしい。

 ノエルはちらとあやめを見た。

 彼女の能力があれば透過するように通れるが、生憎意識がない。

 

「んー……南口に階段っぽいのあったけん、それがもしかしたら上まであるかも」

「ほんと⁉︎」

「うん。遠回りになるけど、そっちから行こう」

「分かった」「りょぉーかいです」

 

 3人は南階段へ向かった。

 

 

 

 その数刻後――別の者達が同じく4階中央ホールに到達した。

 ルーナ、ぼたん、ラミィ、おかゆの4人だ。

 

 通路が塞がれている事に気付き、撤去できないかと数秒思案するが早々に放棄した。

 他の階段を使うと決定した所へ、加えてもう3人登場。

 トワとラプラス、ちょこである。

 

 1度纏まって情報を共有すると、暗躍する者の情報がどちらからも飛び出した。

 本を持った謎の女性。

 周囲の証言からラプラスが「鷹嶺ルイ」であると断言。

 

 この非常事態を伝達するべく一同は先へ進む。

 ラプラスの能力で封鎖された階段を均し5階へ。

 

 室内で生い茂る草花の中に、みことすいせいが伏している。

 トワがみこを背負い、すいせいはそのまま放置。

 こうして更に6階へ上がれば、丁度迂回してきた4人とドッキング。

 

 計12名、屋上へ到達――。

 

 

 

          *****

 

 

 

 ぺこらの後を追い、勢いのまま屋上へ飛び出したマリン。

 ぶわっと全身に夜風が吹き付ける。

 

 片腕で風から顔を守り、風が落ち着くと腕を下ろしてぺこらの通った道を通った。

 そして……佇むぺこらと対面する。

 

 しかも、上空にはAZKiが浮いていた。

 

「来たね、マリンちゃん」

「…………」

「人を見下ろすのが好きですね」

「――別にそんなつもりは無いんだけど」

「そうですか、これは失礼」

 

 高所から傍観する大将の目をしっかりと見つめ返す。

 

「ぺこらちゃん、押さえて」

 

 AZKiの指示でぺこらが飛び出して来た。

 マリンが能力で何かしらの対応を試みたが、既にヒメヒメの力が適用されており、全く力が入らない。

 後方へ引こうとするも瞬く間に距離を詰められ、ぺこらに四肢を拘束された。

 ダサいほど呆気なく。

 

「……半信半疑だったけど、もう無いんだね、あの飴は」

「あるわきゃないでしょう」

「……」

 

 無策で敵地の中央へ飛び込んできたとは思えず、AZKiは警戒心を高めた。

 能力を解かず、マリンの処置を思考する。

 

「……ぺこら」

「――――」

「お前、何やってんだよ」

「――――」

 

 マリンに跨り拘束するぺこらへ、語りかけた。

 何故だか分からないが、向かい合うぺこらの顔を見て思ったのだ。

 言葉が届くと。

 

 AZKiは怪訝そうに眉を寄せる。

 マリンは懸命に言葉を探した。

 そこへとある一声が響き渡る。

 

『みんなァァァァーーーー‼︎ がァァんーーばァァれェェーーー‼︎ ッゲッホ、ゴッホ……』

 

 そう、まつりの応援だ。

 能力を込めたエールでマリンにも力が漲る。

 しかし、力の源泉は瞬く間に栓を閉じた。

 まつりのチアチアの力も、ヒメヒメの才能封じには押し負けるらしい。

 

「――――」

 

 まつりの応援もこの場では役に立たない……。

 

「――――?」

 

 いや――そんな事はない!

 

 ホロメンの微かな感情の変化をマリンが見逃しはしない。

 今、ぺこらの表情が刹那だが、曇った。

 まつりの応援が意図しない方面から響いて、戦場に変化をもたらす。

 

 

 ほんの数分顔を合わせただけで、こっちの世界へ来てからは2回ほどしか言葉を交わしていない。

 それでも――いや、だからこそ、直感した。

 根拠なんてまるでなくて、そうあってほしいただの願望なのかも知れない。

 

 マリンがここへ来たように――。

 まつりがここへ来たように――。

 

 他の誰かだって、きっとここへ来る。

 

 

「ぺこら、お前――」

「――――」

「――! そうか、洗脳――!」

 

 様々な直感と疑問が混ざり合い、一つの答えが導き出される。

 マリン自身、この解を自力で導いた事に驚きを隠せない。

 

 『ぺこらはAZKiに洗脳されている』

 

 この説を提唱すれば、あらゆる事態に合点がいく。

 それと同時に、止めどなく感情が溢れ出す。

 

「ぺこら! お前、私と同じなんだろ‼︎ 覚えてるんだろ⁉︎ 私の事も、まつりの事も――ホロメンの事も‼︎」

「――、――、――、――」

「――⁉︎ なんで、どうして――‼︎」

 

 マリンの言葉にぺこらの心が揺れ動く。

 AZKiは必死にマリンの才能を抑え込むが、既にマリンの才能は最下まで落ちている。

 

(ありえない――! 2人には、面識なんて無いはずなのに――‼︎)

 

 ぺこらの心の振れ幅が大きくなってゆく。

 心情の揺らぐ速度も尋常でないほど速い。

 

「ぺこらちゃん! 今すぐ離れて‼︎」

「――」

 

 AZKiの指示に従い、ぺこらがゆったりとマリンから降りる。

 その顔はぐちゃぐちゃだ。

 

「待てよぺこら‼︎」

 

 パシッとぺこらの腕を掴む。

 力が全く入らないのに、振り解かれる事はない。

 

「ぐっ――‼︎」

 

 複数の能力を同時使用する事は身体への負担となるため、極力避けていた。

 しかし、口でぺこらを操れない以上、力尽くで2人の間を裂くしかない。

 AZKiが両腕を正面に翳すと、ポルターガイスト現象が発生。

 屋上の数少ない瓦礫等が浮遊してマリンとぺこらへ飛来する。

 

「「――――‼︎⁉︎」」

岩石銃(ペトロガン)

 

 バババババっ、と飛来物を撃ち抜く小石たち。

 

「――!」

「船長!」

 

 階段口にポルカと複製で生み出されたミオが立っている。

 

「アイツを狙って!」

「うん」

 

 ポルカが複製した小石を次々ミオに手渡して指示する。

 ミオの銃口がAZKiへ向き、銃が乱射される。

 しかし――

 

「――⁉︎」

 

 小石は全て空中で停止する。

 そのままミオとポルカに送り返されたので急いでミオ以外の複製物を消滅させた。

 

 攻撃手段を変更してポルカとミオが暫しAZKiの気を引く。

 その隙にマリンはぺこらへ更に言葉を投げかける。

 

「目ぇ覚ませ! お前もホロメンの事、大好きなんだろ⁉︎ 自分が何やってんのか、分かってんのか⁉︎ 自分の洗脳なんかにかかって、仲間を貶めてんだぞ――バカウサギ‼︎」

「――――、――――、――――」

「お前の想いは――そんなもんなのか、ぺこら‼︎」

「――! ――! ――!」

 

 ぺこらの心に光が差し込む。

 ぺこらの心にマリンの言葉が染み入る。

 涙が浮かんだ。

 目頭に熱が籠って、赤くなる。

 

「船長――‼︎」

「――⁉︎」

 

 突如ポルカが叫ぶ。

 視線を彷徨わせると、その中で迫るAZKiを発見。

 水を差されてイラつく。

 

「バンク解放。ジャキン、ジャキン」

「うぇ‼︎」

 

 空中からAZKiが右手と左脚を振りかざす。

 風が斬撃となって一直線にマリンとぺこらへ。

 その力、まるでジャキジャキの実。

 

「注目の黄色!」

 

 ザシュザシュ――。

 

 斬撃は忽然とマリンたちの前から消滅。

 再び周囲を見回せば床に黄色い円が描かれており、そこに罰点の亀裂が入っていた。

 

「――船長!」

 

 階段からはまつりが登場。

 応援されれば厄介だ。

 続く増援に冷や汗を流しつつも、対処は冷静に。

 

「バンク解放。メインウェポン」

 

 AZKiの口から大量のネジが飛び出す。

 既視感のある攻撃にまつりは面食らって回避が遅れる。

 それをポルカが未来演算でカバーし、間一髪致命傷を免れた。

 

「ったた……ありがとう」

「アイツ、どうなってんだ‼︎」

「今の、ロボ子さんの技だよ」

「制限は3つじゃないの⁉︎」

 

 ポルカ、まつり、そして透明人間がそんな会話をしている。

 まつりと透明人間は現在AZKiが「ヒメヒメ」「ペコペコ」「ホラホラ」を所持している事を知っている。

 しかし、AZKiが今し方放った技は、「ネジネジ」「ジャキジャキ」の力を使用していた。

 AZKiの超常現象に戸惑う。

 しかし、AZKi自身も動揺していた。

 

(こんな所でバンクを使ってられないのに――! 3人以外のバンクは温存しないと――)

 

 記録戦に備えて蓄えた力を前哨戦で使い果たせない。

 AZKiは必死に勝機を見出そうと策を模索する。

 意識が増援と作戦に向いたこの瞬間、マリンは「ヒメヒメ」の呪縛から解放された。

 

「――――!」

 

 まつりの応援はまだ全身に残っている。

 今なら――起こせる、自力で覚醒を。

 

「――――しゅっこぉ〜‼︎」

「――ダメ‼︎」

 

 マリンが覚醒させた瞬間、AZKiの瞳がマリンを捉えて再び力が封じられる。

 ギリギリぺこらを発情させるには至らない。

 しかし――今のやり取りで全てを理解した透明人間のスーパーアシストが。

 

「クリアペイント」

 

 マリンが着色されて透明に。

 マリンを肉眼で捉えられなくなり、ヒメヒメの力は再びマリンを解放する。

 

(さっきから――!)

 

 ころねが居なければ本当に厄介な能力だ。

 

「ナイスあくたん!」

 

 マリンの消えた場所から声がする。

 消えてもマリンはそこに居る。

 ならば――。

 

「バンク解放。アルデバラン」

 

 大きなブロックが出現。一直線にぺこらとマリンの下へ。

 

「まつりさん、応援頼む!」

「りょぅ――かぃ……?」

 

 パチンとまつりの背中を叩いてポルカが駆け出した。

 未来を予知したのか、AZKiの行動よりも若干早い。

 まつりはだらしなくその場に倒れながら了承する。

 地に寝そべったまま大声で叫ぶ。

 

「ポルカぁ! 頑張れぇ〜‼︎」

 

 力が漲って身体能力が微かに上昇。

 ブロック落下よりも素早くぺこらの下へ辿り着くとぺこらにもタッチ。

 まつりとぺこらのパワーを借り、更に応援で能力向上。

 

「数珠つなぎ」

 

 迫るブロックに向かって跳躍し、パワーで無理矢理押さえ込む。

 力負けするもなんとか軌道を逸らせて一旦は2人を守り抜くが、ポルカの足が地についた後もブロックはマリンの下へ向かおうとする。

 ジリジリと背後へ押されるポルカ。

 

「船長! 早く‼︎」

「――いくぞぺこら! しゅっこぉ〜」

 

 見えないマリンのイヤらしい掛け声。

 ぺこらをそっと抱き寄せて能力を解放させる。

 例えこの後罵倒されてもそれはご褒美。今後一切口を利かなくなっても、戻ってくるのならそれも受け入れよう。

 

 

 だからぺこら――――目を覚ませ!

 

 

 完璧な能力の制御でマリンとぺこら以外には能力が及ばない。

 ぺこらの瞳に大粒の涙が浮かび、顔は真っ赤になっている。

 現在お取り込み中の2人へと迫るブロック。

 パワーを上乗せしても、やはりポルカの力だけでは防げない。

 

「注目の黄色!」

 

 数秒の隙に透明人間が距離を取って床に黄色い円を描いていた。

 瞬く間にブロックがそちらへ吸い寄せられる。

 

「――‼︎⁉︎」

 

 ガンッとブロックが的に衝突。

 建物が微かに揺らいだ。

 

 ポルカは即行でパワーをまつりとぺこらに遠隔で返却。

 それと同時にAZKiがまつりにネジと斬撃を飛ばす。

 ポルカもあくあも、複製のミオも手が届かない。当然まつりは復帰直後で回避できない。

 

 あわや致命傷。

 次の瞬間――

 

「ジャキンジャキン!」

「まつり!」

 

 最後の増援が到着した。

 

 ダダン、といろはの放った斬撃がAZKiの攻撃の殆どを打ち消し、ぼたんの伸ばした麺がまつりを引き寄せる。

 一部の防ぎ切れなかった流れネジが増援の方へ飛んでいくが、浮遊する剣が全てを弾いた。

 

 

「――! みんな‼︎」

「……おかゆ」

「……はっはは、マジかよ」

 

「そんな…………」

 

 屋上へと到達したメンバーの中に、AZKiの仲間は居なかった。

 屋上へ集結したマリン軍。

 総勢16名。

 

 AZKiの目からは勝機と希望が消え失せた。

 それに重ねて、ある者の呪縛が漸く解かれる。

 

 そう――今から約3年前、この世界へと転移し、その後AZKiによって力を奪われ洗脳にかけられた、ホロライブメンバー。

 

「――! マリリンっ‼︎」

 

 

 兎田ぺこらが帰還した。

 

 

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