ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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102話 記憶を返せ!

 

 ルイ達は屋上から空を駆け、船上に降り立った。

 一度だけ背後の施設の様子を確認するが、アキロゼ以外に人は見えない。

 

「直ぐ出港するよ。みんな手伝って」

「「はい」」

 

 本を開きながら号令をかけると、仮初の仲間が全員飛び出して威勢よく返事をした。

 錨を上げたり、梯子を上げたり、帆を広げたり、ハンドルを握ったり。

 

「目的地は〜?」

「記しの島」

「はぁ〜い…………遠‼︎」

 

 直線航路で1週間以上かかる。

 瞠目するが異議申し立てはない。

 クロヱは強くハンドルを握って、出港準備の完了を待つ。

 

 5分ほどで準備完了。

 

「じゃあ出すよ〜」

 

 クロヱの締まりの無い声が波音に紛れて響く。

 舵を切って沿岸からほんの僅かに船が離れたその時――

 

 バァン――。

 バゴっ…………。

 

 と2度に渡り轟音が鳴り、船を激しい揺れが襲う。

 一同は咄嗟に近場の物に捕まるが、数名は転倒していた。

 わため以外は何が起きたのか処理までに時間を要す。だがわための判断は素早く、真っ先に瞬間移動で屋上へと飛んだ。

 

 ルイは揺れが収まると急いで震源地へ向かう。

 震源地は船尾の船底付近。

 そう――舵。

 舵が粉々に砕けており、内部に浸水もしていた。

 そして小さく煙も立ち昇っていた。

 

「――やられたね」

「どしたの、ルイ姉?」

「舵がやられた。クロヱ、スバルちゃん、船内の資材をありったけ掻き集めて下に降ろして」

「「分かった」」

「ロボ子さん、修理お願い」

「了解」

「あークロヱ!」

「ん〜?」

「資材運んだら、防衛に回って」

 

 迅速且つ的確な指示。

 こんな時でも冷静沈着なルイ。

 指示された3人が即座に仕事に取り掛かる。

 が、一度クロヱを呼び止めて、施設の方角を指差した。

 

 ルイの人差し指の先を目を凝らして見てみると――

 

「……分かった」

 

 1人のサムライが猛スピードで下ってくる。

 アレと対等に相手できる人はクロヱしかいない。

 

「はあとちゃん、中に入ってて」

「――――」

「入って」

「――はいはい、分かりましたよ」

 

 戦闘となればはあとは邪魔なだけ。

 ここで彼女を失うのは痛手だ。

 はあとを本の中へ仕舞った。

 

「他のみんなも防衛に回って」

「「はい」」

 

 ころね、メル、こより、ラプラスが跳躍して砂浜に降りる。

 ルイは甲板から施設の方を注視する。

 いろはの他に……ルーナとちょこも走ってきていた。

 今後も増援があるだろう。

 悠長にはしていられない。

 

 いろはが間も無く砂浜へ到着する。

 その頃にようやっと、ポルカ、トワ、ノエルが施設から出てきた。

 ルイは監視をやめて間近に迫るいろはに意識を注ぐ。

 

 修理組は――。

 スバルの能力で資材を纏め、小舟に乗せると修理をロボ子に一任した。

 直ぐ様スバルとクロヱが防衛に回る。

 

 そしていろはが木々を縫って現れる。

 そのスピードは人間離れしており、気魄も浴びるだけで気絶しそうなほど。

 普段からは想像も付かない鬼の形相がルイへ向いている。

 

「仲間を――返せェ‼︎」

 

 目前に立ち塞がる4人を無視し、ルイへ向けて刀を振り抜く。

 真っ直ぐ、斬撃が飛翔して船ごとルイを切り裂こうと迫る。

 ルイが一歩下がると空中を走ってクロヱが斬撃とルイの間に割り込み、斬撃を斧で弾いた。

 多勢に無勢である事は重々承知している。

 初撃に希望など持つものか。

 これは牽制の一撃だ。

 

 アキロゼがいろはの抜刀速度を遥かに超えるスピードで突撃。

 正面からいろはに殴り込んだ。

 拳と刀が交わる――直前に、いろはの攻撃方向が反転して跳ね返ってくる。

 いろはの右腕の袖が裂けた。

 勢いのまま拳で弾かれそうになる所で空いた左腕を振り上げる。

 形の無い斬撃が反転を貫通してアキロゼを襲った。咄嗟に高く跳躍して回避。

 

 いろはの視界が開けた途端、足元が盛り上がって高く打ち上げられる。

 左脚が変に曲がって痛かった。

 ――だからどうした。

 

 打ち上げられる時、いろはの身体が数度回るので、それに合わせて四肢から斬撃を乱れ打つ。

 振りが弱いので一撃毎の威力は弱いが、強制的に船を守らせる事で追撃をさせない。

 ラプラス、こより、クロヱ、スバルが広範囲に飛び散る斬撃の対処に回り、ころね、メル、アキロゼが空中のいろはに肉薄する。

 アキロゼところねは自らの足で跳躍し、メルはアキロゼの背に乗って。

 

 アキロゼの拳が迫るが回避は不能。受け切ることも不可能。

 ならばと刀を大きく縦に一振り。

 

「風靡一閃」

 

 刀が刹那だけ早く振り下ろされ、直後に拳がいろはへ――当たらず、不可視の壁?のような物に直撃。

 

「――⁉︎」

 

 空気の壁、ではない。

 壁程度ならば、アキロゼの腕力で壊せない筈がない。

 

 いろははアキロゼとメルを無視して背後に迫る影に左脚から一撃――を打つ間もなく脚を掴まれた。

 ここでは1人の能力を知らない事が命取りとなる。

 

 脚からは脈が計れず、今度はいろはの片腕を掴んだ。

 

「――っ!」

 

 いろはの収まらない憤慨が、徐々に形を潜めて行く。

 どんどん脈が……落ち着いて行く。

 

「どうなって……!」

「ぉっら!」

「――ッ」

 

 抵抗する余力すら無くしたいろは。

 そこそこの高度から真っ逆様に投げ落とされた。

 肉体的に頑丈ないろはと言えど無傷では済まない。

 頭から血を流し、右腕は骨折。

 肋も1、2本は持っていかれた。

 先程左足も捻挫している。

 ――だからどうした。

 

 いろはは砂埃の中立ち上がる。

 痛みを我慢して均衡を保ち、砂浜に血を垂らす。

 精神も中々に屈強。

 

 だがころねに触れられてから、一向に心拍が上がらない。

 全身に力が入らない。

 

「ぉろ……」

 

 一歩踏み込むと蹌踉めいた。

 頭から出血しているのに、脈が落ち着いているから血が不足しているんだ。

 これではあらゆる身体機能が正常に作動しない。

 

 そこを好機と捉えたルイが船から飛び降り、いろはに迫る。

 片手には本。

 危機を感知しつつもいろはの身体はまともに動かない。

 腕が震えて、刀も腕も振るえず、白紙のページがいろはの目前に突き出された。

 

「――――」

「――――?」

 

 何も起きない。

 これは――――!

 

「はぁっ‼︎」

 

 ガンっ……。

 きしっ……ききっ……。

 

 ちょこの鉄拳がルイに投下。

 しかしルイを押し退けてクロヱが受け止める。

 更にこよりとラプラスが距離を取って戦場を監視するルーナの視界を能力で塞ぐ。

 

「大丈夫、あなた……」

 

 背後のいろはに語りかける。

 知らない人だが味方なら――。

 

「ルイ姉、下がってて」

「ごめん、助かったよ」

 

 ルイが船へと戻る。

 

 

 その傍ら、木の影に身を隠していたルーナにも攻撃が迫る。

 こよりのマヨネーズとラプラスの土石流。

 物量で視界を遮りヒメヒメの力を使わせない。

 ルーナは自分を捨てて視線を真っ先にころねに向ける。一瞬視界に入ったが、直様マヨネーズで塞がれた。

 それでも、ころねの能力が一度途切れ、いろはの脈が正常に機能し始める。

 直後――

 

「わっぷ――」

 

 ルーナはマヨネーズと土石流に飲み込まれた。

 しかし何れ彼女は復帰するだろう。

 そうなれば不利に働く。

 

 クロヱがちょこの拳の軌道を逸らせて距離を置くと、ルーナの方へ駆ける。

 ちょこが後を追うがアキロゼが突進を仕掛けた。

 ガンッ、と硬い音を立ててちょこがぶっ倒れる。

 そこにメルを下ろしてアキロゼは間近のいろはに接近。

 それぞれが殴り合う。

 

 その間でルーナの埋もれた位置に辿り着いたクロヱは能力でマヨネーズと土石流を完全に固形化し、ルーナの復帰を封じる。

 クロヱはニマッと口角を上げた。

 

「クロヱちゃん、誰か居る!」

「――⁉︎」

 

 不意にころねが警告した。

 咄嗟に周囲の空気を固形化して壁を張るとゴチンと何者かがぶつかる。

 

「――⁉︎ 何でバレた⁉︎」

 

 空気から声が聞こえる。

 ころねの警告通りそこには人がいた。不可視の人間が。

 クロヱは緊急離脱して甲板へ戻る。

 その隣ではルイがパラパラと本を捲っていた。

 得意の流し読みで何かを探し……。

 

「あくあちゃんの能力だね。パレパレの実のパレット人間。インクを使うみたい」

「保護色してるってこと?」

「いや、透明色を塗ってるみたい」

「透明色って何……?」

「さあ。能力なんてそんなもんでしょ」

 

 盗んだフブキの記憶からあくあの能力を発見し、それと推測を立てた。

 そうだとすれば、今透明化している人は2人以上いる。

 あくあはころねの能力を知っており、自身の天敵だと認知している。よって今クロヱに攻撃を仕掛けたのはあくあではない誰か。

 

「ころねちゃん、そこ2人お願い」

「わがった!」

 

 少々荷が重そうだが不可視の敵2人をころねに任せる。

 

 そんなこんなの30秒ほどでアキロゼが斬り裂かれていた。

 いろはがルーナの埋まる位置に走るので、再度クロヱをぶつける。

 頭からの出血と一部の骨折だ。流石にクロヱを相手はできまい。

 

 メルとちょこは中々に拮抗した戦いをしているが、若干メルが優勢。

 能力相性と心理的負担の差だろう。

 あちらは放っておいて問題ない。

 

 さて――更に増援が来る。

 

「ロボ子さん、後どれくらいかかる?」

「――5分もかからないよ!」

「オッケー」

 

 修理完了まで約5分。

 

 ルイの隣に腹を切られたアキロゼが着地した。

 苦痛に顔を歪めて腹を抱えている。

 手と腹は赤く染まっていた。

 

「後で手当する。奥で休んでて」

「おっけぃ……」

 

 

 

「――ッ‼︎」

「っぶね!」

 

 いろはの刀がクロヱの頬を掠めた。

 小さな切り傷ができるが、痛みはない。

 クロヱは懐から鉄の塊を取り出した。

 掌で転がすと鉄は溶けて液体となり、クロヱの左腕を覆う。

 鉄の籠手を装備。右手には斧。

 

 迫るいろはの左脚。

 そっちは捻挫してんだろ――!

 

 斬撃が飛び出す事を見越して軌道を予測、スレスレの位置まで身を屈めて回避した。

 そのまま低姿勢を保ち斧を振るう。腹でいい。

 刀で相殺を――

 

「ッぎ――‼︎」

「――っは⁉︎」

 

 刀を持たない左腕を振り下ろして手刀を斧にぶつけた。

 斬撃が手から放出され続けて、斧の勢いを弱める。

 そこへ追撃の一閃。

 刀が斧を粉砕する。

 

 パキッ――。

 

「っッ゛‼︎‼︎‼︎」

「ぃ――ニンゲンじゃねぇ……!」

 

 骨折した腕から放つ斬撃の威力じゃない。

 いろはの血が周囲に飛散し、クロヱの頬にも付着する。

 そして砕けた斧の破片も散らばる。

 所が、砕けた斧が溶けて液体と化し、みるみるクロヱの手元に集合。あっという間に斧は元通り。

 

 完全体となる前に斧を振り始め、いろはに直撃の寸前に形成。

 脇腹を斧の先端が抉った。

 

「ぅぐ……」

 

 脇腹からもダラダラと赤黒い血が溢れた。

 ダメージに意識が傾き、足元が激しく揺らぐ。

 そこへ追い討ちの鉄拳。

 

「ふべっ――‼︎」

 

 いろはの顔面をクロヱの左拳が粉砕。鼻と口から血を噴いて、とうとういろはが地面に背を付いた。

 だが意識はまだ、保っている。

 

「――――!」

 

 必死に四肢に命令を下すが、ぴくぴくと痙攣してきちんと指示に従わない。

 刀を握る手も、3本の指が柄から離れている。

 左脚はもう動かない。

 今度こそ、決定機。

 

「ルイ姉」

 

 ――――――。

 

「――はーい、まったかね〜」

「いいから。ほら、今なら取れるでしょ」

 

 クロヱの呼び声に3秒遅れての返答。そしてジョーク混じりに隣へと。

 いろはは身動きが取れず、ルーナも埋もれたまま。

 ちょこと見えない2人は他が交戦中で、増援のポルカ、トワ、ノエルもこより、ラプラス、スバルの3人で足止め中。

 今なら取れる。

 

 もう一度白紙の本を広げ、色褪せ始めたいろはの目元へ近づける――

 

 ビュン――!

 

「――!」

 

 不意にいろはが左手を振るった。

 ルイとクロヱは思わず身構える。

 能力で不可視の斬撃を何処かへ飛ばしたようだが何も起きず。

 今度こそ――とルイが再三白紙のページをいろはに押さえつけ――

 

 ぴしっ……ぴしぴしっ……。

 

「「――――」」

「んーー……なぁぁあああああぃ‼︎」

 

 固まった土砂とマヨネーズを吹き飛ばして、ルーナが突如復帰してきた。

 

 先程のいろはの斬撃で、堆積物を切断して崩れやすくしたのだ。

 だからルーナは、自身の才能を最大まで上げる事で力尽くで復活できた。

 

「――ッ」

 

 ルーナの瞳が眩く煌めく。

 

「やれやれ……」

 

 ルイは本を仕舞っていろはを船に運ぼうとした。

 

「――――はぁ」

 

 1度目を離せば、そこにいろははいなかった。

 あくあか、もう1人か。

 いろはは諦めよう。

 

「いろはちゃんが居なければ総力戦で勝てるよ! みんな任せた」

 

 ルイが歩いて船へ戻る。

 クロヱは歩いてノエルたちの下へ。

 ルーナの視線はどちらを追うか。

 

 結果、クロヱを追う。

 しかし――

 

「おッらァ――‼︎」

 

 トワとポルカを同時に相手取りながら尚、ラプラスがルーナに攻撃を向けた。

 地面を隆起させて視界を覆いながら土砂を流す。

 視野に収まる景色は土砂だけになって、ルーナの呪縛からクロヱが解き放たれた。

 トワとポルカがラプラスの攻撃をどうにか阻止しようとするも、クロヱとこよりに阻まれて失敗。

 ノエルはスバルとのタイマンで精一杯。

 

 土砂が再びルーナを飲み込む――――

 

 

「伏せろルーナ‼︎」

 

 

 心に響いた懐かしい声。

 その指示に、本能のまま従い身を屈めた次の瞬間――

 

 バボンッ――と爆発が発生。

 周囲に爆風が広がり、火花と粉が舞い散った。

 

「大丈夫、ルーナ⁉︎」

「あまねちゃ!」

 

 天使の様に舞い降りた救世主、天音かなた。

 変わらないその姿に涙腺が緩みかけた。

 

「2人とも、行くよ!」

「「うん‼︎」」

 

 かなたの合図に呼応する2人。

 シオン、ねねが洗脳から復帰して最後の戦いに駆け付けた。

 

 

「――――ルイちゃん! 直ったよ!」

「りょうかい」

 

 

 そしてそれと同時にタイムリミットとなる。

 

 

「船を出すよ。全員それまで持ち堪えて!」

「「「「はい‼︎‼︎」」」」

 

 

 間も無く出航。

 ここがラストチャンス。

 

 

「「仲間は――」」「「記憶は――」」

「「「「返してもらうぞ――‼︎‼︎」」」」

 

 

 

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