「来たな――わためぇ‼︎」
ぼたんの狙撃直後に瞬間移動してきたわため。
最初の弾は外れて鉄柵に当たる。
しかし続く2発目は見事にぼたんの右肩に命中。
「ぃ゛っ――」
「ししろん‼︎」「ぼたんちゃん‼︎」
土手っ腹に穴が空き既に満身創痍だった所へ、締めの一発。
血も流し過ぎている。これ以上は動けずぼたんはその場に伏した。
地に伏してから気絶までの時間は短かった。
「……」
わための視線がぺこらの方へ移る。
抱えるマリンを見ているのか、ぺこらを見ているのかの区別は付かない。
それでもぺこらはマリンを庇う様に抱擁して急所を覆った。
胸元にマリンの熱い吐息が当たる。
「――」
わためが拳銃を向ける。
銃口が迫ってくる様に錯覚した。
「ねぇー……」
「「「――――」」」
わためでも、ぺこらでも、まつりでもない声。
この場であと一人だけ、意識のある者がいた。
「それ、みこちに当たったらどうしてくれんの?」
「…………」
緊迫した空気が流れる。
屋上は――風が強い。
「「…………っ」」
ぺこらとまつりの息を呑む音が重なった。
それを火切に!
パァン!
キッ――。
「あっぶねぇなぁ!」
わための放った銃弾が、出現したブロックに撃ち込まれる。
ブロックは銃弾を物ともせずに直進し、わためを屋上から突き落とした。
ふわっと全身を浮遊感が襲うが、わためは眉毛ひとつ動かさない。
瞬きに合わせて瞬間移動――。
すいせいの真後ろから銃口を突きつける。
普通の人間なら対処が間に合わないムーブ。
団長に選ばれるのも伊達じゃない。
しかしすいせいなら――
パァン。
超至近距離からの銃撃すら、全身をパズル化させて緊急回避。
察知から行動までのプロセスが極めて短いのだ。
分解されたすいせいの身体の間を縫って、その一発はまつりの足元に着弾。
「あぶなっ‼︎」
足元に弾が埋まった後に2歩下がる。
まつりと比較するとすいせいの反応速度がいかに速いか分かる。
「ミラク!」
数多のすいせいの欠片が空間を縦横無尽に飛び回る。
右腕のパーツがわための顔面を狙っていた。一応瞬間移動で安全そうな位置に逃げるが、その場所にもすぐ様攻撃が飛んできた。
どこかも分からないパーツに後頭部を殴られた。威力は低い。
「メェクネット」
手を盛大に広げて巨大な網を生成する。
すいせいのパーツの最小サイズよりも小さな網目で、大量のパーツを捕獲してしまう。
どうにも破れない。
しかも……。
「くっそ……」
網の中で自身を形成し直したすいせい。
何やら違和感を覚える。
両手を握る力は弱いし、周囲の物質に影響を及ぼせない。
もう、体力が残っていなかった。
「
すいせいを閉じ込めたまま遠心力を使って大きく網を振り回す。
180度回って床に真っ逆様に打ち付けられた。
ガンっ、と。
「ッ゛ッ゛‼︎‼︎」
「「すいちゃん‼︎」」
網の中で体勢も悪く、どのように衝突したのか定かでは無いが、微量の鮮血を流して気絶していた。
「「――――」」
残るはまつりとぺこら。
わための視線が再び2人を捉える。
優しい顔だが、恐怖を覚える。
その顔で――銃を向けないでほしい。
まつりは視線をずらして倒れているメンバーを見た。
ぼたん、すいせい、AZKiは負傷が大きく、応援してもまともに動けない。
マリンを応援するのは酷だし、ぺこらとまつり自身は何もできない。
フブキに至っては記憶をとられている。
起こすならおかゆ、みこ、あやめの3人。
まつりは軽く息を吸った。
気取られぬ様控えめにしたが、わために行動を察知され銃口が向いた。
一瞬怯んで喉が音を鳴らす。
開きかけた唇が震えている。
パァン――――
――――――――。
「「――――――?」」
両目をギュッと閉ざして眼前を覆った。
激痛を――死を覚悟した。
ぺこらもマリンを抱き寄せながら目を逸らしていた。
しかし、一向に痛みが来ない。
一向にまつりの悲鳴が聞こえない。
恐る恐る視界を広げて……まつりは絶句する。
右肩の寸前で弾丸が停止しているのだ。
何が起きたのか、誰も理解できなかった。
「……」
弾丸が静かに床に落ちた。
皆が別々で視線を彷徨わせて能力の主を探す。
真っ先に気付いたのは奇しくもわため。
その人は顳顬から流血しているが、意識を取り戻しており、懸命に立ちあがろうとしていた。
床に着いた右腕は痙攣し、視界はぼやけるので、這いつくばったまま動けない。
わためは非情にもそこへ瞬間移動して腹を蹴り飛ばす。
「ゔ――っ」
わための一撃で漸く2人も能力の主を知る。
わための脚力は弱く、上手く腹に爪先が減り込んだが吹き飛ばないし、意識は飛ばない。
それでも――AZKiは激しく嘔吐いた。
クロヱの一撃が重く、数分間意識も無かったはず。
寧ろ、よく目覚めてまつりを助けたものだ。
「あずちゃん!」
「あずきち――!」
ぺこらもまつりも叫ぶだけ叫ぶ。
ぺこらはマリンを守る事しか出来ない。
ならばまつりは。まつりはさっき、何をしようとした?
AZKiに助けられたのなら、今度は助ける番だ。
「――! みんなァー‼︎ 起きろォー‼︎」
本日何度目かも分からないまつりの応援。
わためは銃口をまつりへ向けたが、AZKiが再度能力を発動。ルーナに返却してしまい、ヒメヒメの力は使えないが、ホラホラの力は健在。
ポルターガイスト。一定範囲内の大きくない無生物であれば、自在に操作できる。
わための拳銃を彼女の手から強制的に引き剥がした。
拳銃は勢いよく放り飛ばされてぺこらの足元へ転がる。
わためは2、3度AZKiの腹を蹴った。
本当に似合わない。
「ッ゛――‼︎」
「「――!」」
痛みが蓄積され、出血量が増す。
眩暈がひどくなって……今度は深い闇の底に意識を落としてしまった。
「――」
わための視線が再三ぺこらへ。
懐から別の拳銃を引き抜いて、照準を合わせている。
ぺこらはマリンを抱き寄せて、足元の銃を拾い上げた。
敵を真似る様に銃を構えるが、手が震えて撃てたものじゃない。
本物の銃を手にするのは人生初だ。
「ん……う……」
「「「――――」」」
次から次へと、這い上がる。
ぼたんが倒れ、すいせいが倒れ、AZKiが倒れ。
この土壇場で目覚めるは百鬼あやめ。
その実力の程を知るわためとしては、戦闘は避けたい。
「あれ、余、なに……しとったっけ……?」
覚醒したてで意識が定まらないが、周囲の状況を確認しても理解が及ばない。
記憶の最後は……AZKiに別室へ連行された所。
その後AZKiがあやめの心臓に腕を突っ込んで……。そこから記憶が無い。
「わためぇ……これ、どうなってんの?」
ぐるりと視界に映る人を確認。
見覚えのある顔はわため以外全て意識が無いので、必然的に仲間だったわために声を掛ける。
「あやめ! わためが今敵なの! 何とかして!」
「――? あなた、誰?」
まつりが必死に声を上げるが、ちっとも聞き入れない。
ぺこらがマリンを抱き寄せている様を見て、あやめは顔を顰めた。
「あやめちゃん、あの人が洗脳の能力者。本人だよ。それであの人も仲間」
「「っ――」」
「洗脳……。あなたが?」
「いや……そうだけど、違う! ぺこーらは敵じゃない!」
「まつりも! 寧ろ今はわためが敵なの! 記憶が取られちゃってるの!」
「あやめちゃん、聞く耳持たないで。かなたんを洗脳にかけた人たちだよ」
「――――????? 待って、ホントにもう意味が分からん」
周囲が言葉巧みにあやめを洗脳しようとする。
本来であればわためを信じる所だが……マリンを抱えるぺこらの様子から、敵対意識は感じない。
それに、そばに転がるAZKi、すいせい、みこ、おかゆ、フブキ。
あやめの腹の傷もそうだが、全員深傷を負っている。
知らぬ間に状況が一転二転している事は確か。
名も知らぬ少女たちの言い分もあながち間違いではないのかも。
誰を信じれば良いのか、あやめには判断できない。
懸命に頭を回して分析を試みるその間に――
パァン――!
「ッィ!」
「ぺこら‼︎」
わためが発砲し、ぺこらの左肩を撃ち抜いた。
苦痛に顔が歪む。
しかし、ぺこらは声を押し殺してマリンを大事そうに抱え――守る。自らを犠牲にしても。
決して彼女に攻撃が当たらぬ様細心の注意を払い、例えどんなダメージを負っても、彼女に響く様な大声を出さない。
マリンは今、熱病に苦しんでいるのだから。
「わため――」
あやめは咄嗟に腰元に手を掛けたが、獲物を掴み損ねた。
動揺して一瞥すると、あるべき刀が一本もない。
鞘だけを佩いており、ただの錘と化していた。
鞘を引き抜いて投げ捨てる。
あやめの眼光が鋭くなる――が、迷いもある。
わためを敵と認識し兼ねている。
本当にぺこら達が悪ならば、あやめだって発砲したはずだ。
やはり敵味方の区別をつけられない――ならば!
「寸善尺魔」
全員をスライムで拘束。
自分以外の身動きを封じて戦闘をお預けにする。
今はこれが最善だ。
わためは能力で逃げられるが、ぺこらとまつりを拘束した以上2人を攻撃する意味はない。
ここでわためが逃げれば――敵。
「流石あやめちゃん」
わためが軽く賞賛した。
暫し沈黙して経過を伺ったが、誰1人動く気配がない。
わためは味方で合っていたのか……?
と思い掛けた時――
「じゃあね」
「――‼︎」
わためが消えた。
敵だ。
あやめは能力を解除して全員を解放した。
「ありがとあやめ。助かったよ……」
「――――」
まつりから素直な感謝の言葉が述べられて視線を逸らす。
わためはどこへ消えたのか、今の状況は何なのか。
そればかりが気がかり。
「っ……」
「――! ぺこら、大丈夫⁉︎」
「――だいじょぶ、ぺこ……。だから、静かにしてあげて……」
「…………ん」
ぺこらの視線が腕の中のマリンに落ちた。
息遣いが荒く、全身が熱を帯びている。顔は真っ赤で、表情も苦しそう。
マリンを見ていても仕方が無いので、まつりはぼたんやAZKi、すいせいの容体を確認しに向かった。
できる事は少ないが服を破ったりして止血したり、可能な範囲で応急処置を行う。
「……わためは、何処に」
佇むあやめが小さく呟いた。
ふっと風が髪を攫う。
「……多分、船に戻ったんだと思うぺこ」
「船?」
独り言に返答があり、あやめはぺこらの目を見た。
右腕はマリンに貸しているので、左手をマリンの耳元から離し、軽く上げると南の海岸指差す。
腕の動きを目で追ってそちらを見たが、角度的に見えない。
鉄柵の間近まで歩み寄って船を視界に入れた。
数名が南の海岸で暴れている光景が見える。
わためはあそこへ飛んだのか……。
「…………?」
突如あやめは目を細めた。
何か一点を凝視して……。
「――――‼︎」
「え⁉︎ あやめ先輩⁉︎」
「え、何――え、あやめ⁉︎」
あやめは鉄柵を飛び越えて南の海岸へと向かった。
**現在の各メンバーの状況**
「前提」
記憶をとられても、洗脳は解けない
AZKiが気絶した事で全ての洗脳が解けた(ホビホビと同じ)
みこちやおかゆんは一度まつりの応援を受けて復活、強化された上で再度気絶している為、応援の効き目が弱い。これはその他のメンバーも同じ
「一味」
マリン……屋上。急な発熱?により意識不明。
ポルカ……南の海岸。残り体力半分。
トワ……南の海岸。残り体力1割。右脚負傷、全身切り傷だらけ、シャツ一枚(破れてる)。
フブキ……屋上。ポルカを庇い記憶をとられる(唯一取られただけ)。
おかゆ……屋上。ころねに殴られ過ぎて気絶。
みこ……屋上。vsすいせいで体力使って気絶。
あくあ……南の海岸。ラミィと自身を透明化して参加中。残り体力2割(インク残量はほぼ無し)。
ノエル……南の海岸。残り体力半分。
「屋上組」
まつり……屋上。残り体力2割。
ぺこら……屋上。残り体力7割。
AZKi……屋上。クロヱに殴られて気絶。目覚めるも後に体力0。
ぼたん……屋上。ルイの船を狙撃。後に体力0。
すいせい……屋上。ルイに記憶を弄られてみこち大好きに。みこちを護るために屋上待機。後に体力0。
あやめ……屋上。vsいろはの後、いろはに担がれて屋上まで。残り体力3割。
「南の海岸組」
ルーナ……南の海岸。AZKiから能力を取り戻し、主にスバルとラプラスを助けに参戦。ブチ切れ。残り体力8割。
ラミィ……南の海岸。ぺこらの指示で一味側につく。あくあの能力で透明化して参戦。残り体力9割。
ちょこ……南の海岸。主にメルとスバルを助けに参戦。残り体力7割。
いろは……南の海岸。主にそらの記憶とロボ子を助けに参戦。ブチ切れ。残り体力3割。一旦気絶。
かなた……南の海岸。洗脳が解け、縄を腕力で破る。ルーナの声を聞きつけて参戦。ねねとシオンも連れてくる。残り体力7割。
ねね……南の海岸。洗脳が解け、かなたに連れられて参戦。残り体力2割。
シオン……南の海岸。洗脳が解け、かなたに連れられて参戦。残り体力3割。
「敵(記憶改変含む)」
ルイ……南の海岸。記憶を奪って記しの島へ向かう。残り体力9割。
クロヱ……南の海岸。ルイのために戦う。残り体力9割。
はあと……南の海岸(本の中)。あの日を取り戻すために。残り体力MAX。
ころね……南の海岸。自力で洗脳解放後に記憶を奪われた。残り体力4割。
ロボ子……南の海岸。すいせいとみこの決着後に現場に行くと、ルイに遭遇。その際に記憶を奪われた。残り体力8割。
メル……南の海岸。ちょこと共にミオをマリン号へ届けた後、ルイ達と遭遇。ちょこを逃がすも記憶を奪われる。残り体力7割。
アキロゼ……南の海岸。ノエルが立ち去った後、ルイたちが現場へ赴き、記憶をとられる。残り体力3割。
スバル……南の海岸。1階で倒れている所にルイが赴き、記憶をとられる。残り体力6割。
こより……南の海岸。隠し通路でラミィの下へ向かう途中、ルイたちと遭遇し記憶をとられる。残り体力8割。
ラプラス……南の海岸。またしても。残り体力4割。
わため……屋上。1階で倒れている所にルイが赴き、記憶をとられる。狙撃の角度から位置を逆算し、屋上へ。そこで交戦。残り体力5割。
「その他」
そら……所在不明。
ミオ……マリン号でお休み中。
フレア……6階北通路でお休み中。