ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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103話 満身創痍の屋上

 

「来たな――わためぇ‼︎」

 

 ぼたんの狙撃直後に瞬間移動してきたわため。

 最初の弾は外れて鉄柵に当たる。

 しかし続く2発目は見事にぼたんの右肩に命中。

 

「ぃ゛っ――」

「ししろん‼︎」「ぼたんちゃん‼︎」

 

 土手っ腹に穴が空き既に満身創痍だった所へ、締めの一発。

 血も流し過ぎている。これ以上は動けずぼたんはその場に伏した。

 地に伏してから気絶までの時間は短かった。

 

「……」

 

 わための視線がぺこらの方へ移る。

 抱えるマリンを見ているのか、ぺこらを見ているのかの区別は付かない。

 それでもぺこらはマリンを庇う様に抱擁して急所を覆った。

 胸元にマリンの熱い吐息が当たる。

 

「――」

 

 わためが拳銃を向ける。

 銃口が迫ってくる様に錯覚した。

 

「ねぇー……」

「「「――――」」」

 

 わためでも、ぺこらでも、まつりでもない声。

 この場であと一人だけ、意識のある者がいた。

 

「それ、みこちに当たったらどうしてくれんの?」

「…………」

 

 緊迫した空気が流れる。

 屋上は――風が強い。

 

「「…………っ」」

 

 ぺこらとまつりの息を呑む音が重なった。

 それを火切に!

 

 パァン!

 キッ――。

 

「あっぶねぇなぁ!」

 

 わための放った銃弾が、出現したブロックに撃ち込まれる。

 ブロックは銃弾を物ともせずに直進し、わためを屋上から突き落とした。

 ふわっと全身を浮遊感が襲うが、わためは眉毛ひとつ動かさない。

 

 瞬きに合わせて瞬間移動――。

 すいせいの真後ろから銃口を突きつける。

 普通の人間なら対処が間に合わないムーブ。

 団長に選ばれるのも伊達じゃない。

 

 しかしすいせいなら――

 

 パァン。

 

 超至近距離からの銃撃すら、全身をパズル化させて緊急回避。

 察知から行動までのプロセスが極めて短いのだ。

 分解されたすいせいの身体の間を縫って、その一発はまつりの足元に着弾。

 

「あぶなっ‼︎」

 

 足元に弾が埋まった後に2歩下がる。

 まつりと比較するとすいせいの反応速度がいかに速いか分かる。

 

「ミラク!」

 

 数多のすいせいの欠片が空間を縦横無尽に飛び回る。

 右腕のパーツがわための顔面を狙っていた。一応瞬間移動で安全そうな位置に逃げるが、その場所にもすぐ様攻撃が飛んできた。

 どこかも分からないパーツに後頭部を殴られた。威力は低い。

 

「メェクネット」

 

 手を盛大に広げて巨大な網を生成する。

 すいせいのパーツの最小サイズよりも小さな網目で、大量のパーツを捕獲してしまう。

 どうにも破れない。

 しかも……。

 

「くっそ……」

 

 網の中で自身を形成し直したすいせい。

 何やら違和感を覚える。

 両手を握る力は弱いし、周囲の物質に影響を及ぼせない。

 

 もう、体力が残っていなかった。

 

名技(めぇぎ)・ドリル落とし」

 

 すいせいを閉じ込めたまま遠心力を使って大きく網を振り回す。

 180度回って床に真っ逆様に打ち付けられた。

 

 ガンっ、と。

 

「ッ゛ッ゛‼︎‼︎」

「「すいちゃん‼︎」」

 

 網の中で体勢も悪く、どのように衝突したのか定かでは無いが、微量の鮮血を流して気絶していた。

 

「「――――」」

 

 残るはまつりとぺこら。

 わための視線が再び2人を捉える。

 優しい顔だが、恐怖を覚える。

 その顔で――銃を向けないでほしい。

 

 まつりは視線をずらして倒れているメンバーを見た。

 ぼたん、すいせい、AZKiは負傷が大きく、応援してもまともに動けない。

 マリンを応援するのは酷だし、ぺこらとまつり自身は何もできない。

 フブキに至っては記憶をとられている。

 

 起こすならおかゆ、みこ、あやめの3人。

 

 まつりは軽く息を吸った。

 気取られぬ様控えめにしたが、わために行動を察知され銃口が向いた。

 一瞬怯んで喉が音を鳴らす。

 開きかけた唇が震えている。

 

 パァン――――

 

 

 ――――――――。

 

 

「「――――――?」」

 

 両目をギュッと閉ざして眼前を覆った。

 激痛を――死を覚悟した。

 ぺこらもマリンを抱き寄せながら目を逸らしていた。

 

 しかし、一向に痛みが来ない。

 一向にまつりの悲鳴が聞こえない。

 恐る恐る視界を広げて……まつりは絶句する。

 右肩の寸前で弾丸が停止しているのだ。

 

 何が起きたのか、誰も理解できなかった。

 

「……」

 

 弾丸が静かに床に落ちた。

 皆が別々で視線を彷徨わせて能力の主を探す。

 真っ先に気付いたのは奇しくもわため。

 

 その人は顳顬から流血しているが、意識を取り戻しており、懸命に立ちあがろうとしていた。

 床に着いた右腕は痙攣し、視界はぼやけるので、這いつくばったまま動けない。

 

 わためは非情にもそこへ瞬間移動して腹を蹴り飛ばす。

 

「ゔ――っ」

 

 わための一撃で漸く2人も能力の主を知る。

 わための脚力は弱く、上手く腹に爪先が減り込んだが吹き飛ばないし、意識は飛ばない。

 それでも――AZKiは激しく嘔吐いた。

 クロヱの一撃が重く、数分間意識も無かったはず。

 寧ろ、よく目覚めてまつりを助けたものだ。

 

「あずちゃん!」

「あずきち――!」

 

 ぺこらもまつりも叫ぶだけ叫ぶ。

 ぺこらはマリンを守る事しか出来ない。

 ならばまつりは。まつりはさっき、何をしようとした?

 AZKiに助けられたのなら、今度は助ける番だ。

 

「――! みんなァー‼︎ 起きろォー‼︎」

 

 本日何度目かも分からないまつりの応援。

 わためは銃口をまつりへ向けたが、AZKiが再度能力を発動。ルーナに返却してしまい、ヒメヒメの力は使えないが、ホラホラの力は健在。

 ポルターガイスト。一定範囲内の大きくない無生物であれば、自在に操作できる。

 わための拳銃を彼女の手から強制的に引き剥がした。

 拳銃は勢いよく放り飛ばされてぺこらの足元へ転がる。

 

 わためは2、3度AZKiの腹を蹴った。

 本当に似合わない。

 

「ッ゛――‼︎」

「「――!」」

 

 痛みが蓄積され、出血量が増す。

 眩暈がひどくなって……今度は深い闇の底に意識を落としてしまった。

 

「――」

 

 わための視線が再三ぺこらへ。

 懐から別の拳銃を引き抜いて、照準を合わせている。

 ぺこらはマリンを抱き寄せて、足元の銃を拾い上げた。

 敵を真似る様に銃を構えるが、手が震えて撃てたものじゃない。

 

 本物の銃を手にするのは人生初だ。

 

「ん……う……」

「「「――――」」」

 

 次から次へと、這い上がる。

 ぼたんが倒れ、すいせいが倒れ、AZKiが倒れ。

 この土壇場で目覚めるは百鬼あやめ。

 その実力の程を知るわためとしては、戦闘は避けたい。

 

「あれ、余、なに……しとったっけ……?」

 

 覚醒したてで意識が定まらないが、周囲の状況を確認しても理解が及ばない。

 記憶の最後は……AZKiに別室へ連行された所。

 その後AZKiがあやめの心臓に腕を突っ込んで……。そこから記憶が無い。

 

「わためぇ……これ、どうなってんの?」

 

 ぐるりと視界に映る人を確認。

 見覚えのある顔はわため以外全て意識が無いので、必然的に仲間だったわために声を掛ける。

 

「あやめ! わためが今敵なの! 何とかして!」

「――? あなた、誰?」

 

 まつりが必死に声を上げるが、ちっとも聞き入れない。

 ぺこらがマリンを抱き寄せている様を見て、あやめは顔を顰めた。

 

「あやめちゃん、あの人が洗脳の能力者。本人だよ。それであの人も仲間」

「「っ――」」

「洗脳……。あなたが?」

「いや……そうだけど、違う! ぺこーらは敵じゃない!」

「まつりも! 寧ろ今はわためが敵なの! 記憶が取られちゃってるの!」

「あやめちゃん、聞く耳持たないで。かなたんを洗脳にかけた人たちだよ」

「――――????? 待って、ホントにもう意味が分からん」

 

 周囲が言葉巧みにあやめを洗脳しようとする。

 本来であればわためを信じる所だが……マリンを抱えるぺこらの様子から、敵対意識は感じない。

 それに、そばに転がるAZKi、すいせい、みこ、おかゆ、フブキ。

 あやめの腹の傷もそうだが、全員深傷を負っている。

 知らぬ間に状況が一転二転している事は確か。

 名も知らぬ少女たちの言い分もあながち間違いではないのかも。

 

 誰を信じれば良いのか、あやめには判断できない。

 懸命に頭を回して分析を試みるその間に――

 

 パァン――!

 

「ッィ!」

「ぺこら‼︎」

 

 わためが発砲し、ぺこらの左肩を撃ち抜いた。

 苦痛に顔が歪む。

 しかし、ぺこらは声を押し殺してマリンを大事そうに抱え――守る。自らを犠牲にしても。

 決して彼女に攻撃が当たらぬ様細心の注意を払い、例えどんなダメージを負っても、彼女に響く様な大声を出さない。

 マリンは今、熱病に苦しんでいるのだから。

 

「わため――」

 

 あやめは咄嗟に腰元に手を掛けたが、獲物を掴み損ねた。

 動揺して一瞥すると、あるべき刀が一本もない。

 鞘だけを佩いており、ただの錘と化していた。

 鞘を引き抜いて投げ捨てる。

 

 あやめの眼光が鋭くなる――が、迷いもある。

 わためを敵と認識し兼ねている。

 本当にぺこら達が悪ならば、あやめだって発砲したはずだ。

 やはり敵味方の区別をつけられない――ならば!

 

「寸善尺魔」

 

 全員をスライムで拘束。

 自分以外の身動きを封じて戦闘をお預けにする。

 今はこれが最善だ。

 わためは能力で逃げられるが、ぺこらとまつりを拘束した以上2人を攻撃する意味はない。

 ここでわためが逃げれば――敵。

 

「流石あやめちゃん」

 

 わためが軽く賞賛した。

 暫し沈黙して経過を伺ったが、誰1人動く気配がない。

 わためは味方で合っていたのか……?

 と思い掛けた時――

 

「じゃあね」

「――‼︎」

 

 わためが消えた。

 敵だ。

 

 あやめは能力を解除して全員を解放した。

 

「ありがとあやめ。助かったよ……」

「――――」

 

 まつりから素直な感謝の言葉が述べられて視線を逸らす。

 わためはどこへ消えたのか、今の状況は何なのか。

 そればかりが気がかり。

 

「っ……」

「――! ぺこら、大丈夫⁉︎」

「――だいじょぶ、ぺこ……。だから、静かにしてあげて……」

「…………ん」

 

 ぺこらの視線が腕の中のマリンに落ちた。

 息遣いが荒く、全身が熱を帯びている。顔は真っ赤で、表情も苦しそう。

 

 マリンを見ていても仕方が無いので、まつりはぼたんやAZKi、すいせいの容体を確認しに向かった。

 できる事は少ないが服を破ったりして止血したり、可能な範囲で応急処置を行う。

 

「……わためは、何処に」

 

 佇むあやめが小さく呟いた。

 ふっと風が髪を攫う。

 

「……多分、船に戻ったんだと思うぺこ」

「船?」

 

 独り言に返答があり、あやめはぺこらの目を見た。

 右腕はマリンに貸しているので、左手をマリンの耳元から離し、軽く上げると南の海岸指差す。

 腕の動きを目で追ってそちらを見たが、角度的に見えない。

 鉄柵の間近まで歩み寄って船を視界に入れた。

 数名が南の海岸で暴れている光景が見える。

 わためはあそこへ飛んだのか……。

 

「…………?」

 

 突如あやめは目を細めた。

 何か一点を凝視して……。

 

「――――‼︎」

「え⁉︎ あやめ先輩⁉︎」

「え、何――え、あやめ⁉︎」

 

 

 あやめは鉄柵を飛び越えて南の海岸へと向かった。

 

 






   **現在の各メンバーの状況**


 「前提」
 記憶をとられても、洗脳は解けない
 AZKiが気絶した事で全ての洗脳が解けた(ホビホビと同じ)
 みこちやおかゆんは一度まつりの応援を受けて復活、強化された上で再度気絶している為、応援の効き目が弱い。これはその他のメンバーも同じ


 「一味」
 マリン……屋上。急な発熱?により意識不明。
 ポルカ……南の海岸。残り体力半分。
 トワ……南の海岸。残り体力1割。右脚負傷、全身切り傷だらけ、シャツ一枚(破れてる)。
 フブキ……屋上。ポルカを庇い記憶をとられる(唯一取られただけ)。
 おかゆ……屋上。ころねに殴られ過ぎて気絶。
 みこ……屋上。vsすいせいで体力使って気絶。
 あくあ……南の海岸。ラミィと自身を透明化して参加中。残り体力2割(インク残量はほぼ無し)。
 ノエル……南の海岸。残り体力半分。


 「屋上組」
 まつり……屋上。残り体力2割。
 ぺこら……屋上。残り体力7割。
 AZKi……屋上。クロヱに殴られて気絶。目覚めるも後に体力0。
 ぼたん……屋上。ルイの船を狙撃。後に体力0。
 すいせい……屋上。ルイに記憶を弄られてみこち大好きに。みこちを護るために屋上待機。後に体力0。
 あやめ……屋上。vsいろはの後、いろはに担がれて屋上まで。残り体力3割。


 「南の海岸組」
 ルーナ……南の海岸。AZKiから能力を取り戻し、主にスバルとラプラスを助けに参戦。ブチ切れ。残り体力8割。
 ラミィ……南の海岸。ぺこらの指示で一味側につく。あくあの能力で透明化して参戦。残り体力9割。
 ちょこ……南の海岸。主にメルとスバルを助けに参戦。残り体力7割。
 いろは……南の海岸。主にそらの記憶とロボ子を助けに参戦。ブチ切れ。残り体力3割。一旦気絶。
 かなた……南の海岸。洗脳が解け、縄を腕力で破る。ルーナの声を聞きつけて参戦。ねねとシオンも連れてくる。残り体力7割。
 ねね……南の海岸。洗脳が解け、かなたに連れられて参戦。残り体力2割。
 シオン……南の海岸。洗脳が解け、かなたに連れられて参戦。残り体力3割。


 「敵(記憶改変含む)」
 ルイ……南の海岸。記憶を奪って記しの島へ向かう。残り体力9割。
 クロヱ……南の海岸。ルイのために戦う。残り体力9割。
 はあと……南の海岸(本の中)。あの日を取り戻すために。残り体力MAX。
 ころね……南の海岸。自力で洗脳解放後に記憶を奪われた。残り体力4割。
 ロボ子……南の海岸。すいせいとみこの決着後に現場に行くと、ルイに遭遇。その際に記憶を奪われた。残り体力8割。
 メル……南の海岸。ちょこと共にミオをマリン号へ届けた後、ルイ達と遭遇。ちょこを逃がすも記憶を奪われる。残り体力7割。
 アキロゼ……南の海岸。ノエルが立ち去った後、ルイたちが現場へ赴き、記憶をとられる。残り体力3割。
 スバル……南の海岸。1階で倒れている所にルイが赴き、記憶をとられる。残り体力6割。
 こより……南の海岸。隠し通路でラミィの下へ向かう途中、ルイたちと遭遇し記憶をとられる。残り体力8割。
 ラプラス……南の海岸。またしても。残り体力4割。
 わため……屋上。1階で倒れている所にルイが赴き、記憶をとられる。狙撃の角度から位置を逆算し、屋上へ。そこで交戦。残り体力5割。


 「その他」
 そら……所在不明。
 ミオ……マリン号でお休み中。
 フレア……6階北通路でお休み中。

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