ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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104話 終幕の大嵐

 

「「記憶は――」」「「仲間は――」」

「「「「返してもらうぞ――‼︎‼︎」」」」

 

 ルイが出航準備に取り掛かる。壊れた部分の確認など、船の点検をしたりでまだ時間がかかる。

 アキロゼも船内に戻っているが、ロボ子が修理任務を終えて参戦、更に――

 

 ヒュッ、と甲板に人影が一つ増えた。

 

「――――」

 

 かなたとノエルの眉がぴくりと動いた。

 ……そう、甲板に現れたのはわため。

 屋上での戦いを済ませて戻って来た。

 一眼見て戦況を把握すると、ロボ子同様船の防衛戦に参加する。

 

「船だ! 船を狙え‼︎」

 

 ポルカが指示を飛ばす。

 作戦なんてない。アドリブで詰めていくしかない。

 後は仲間が上手く連動してくれる事を願うのみ。

 

 シオン、ねね、かなたは洗脳復帰直後でイマイチ戦況を理解できていない。

 だが、ルーナの立ち位置から敵を判断して、ポルカの指示に従う事に。

 

高速裂傷派(ジェットパールス)‼︎」

 

 斬撃の様な風が一直線に船へ飛ぶ。

 しかし――

 

 パキィッ、と船の目前で斬撃が止まる。

 空気に巨大なひび割れが生まれた。

 

「そんなんじゃ壊せないって‼︎」

 

 クロヱがマスクを装着しながら不敵に笑う。

 本気モードに切り替えた。

 いろはが戦闘不能で自分が無双できると判断した為だ。

 白い歯が不気味な光沢を放つ。

 

「ミオさん、船を狙ってくれ」

「うん」

 

 あの空気の壁はクロヱの能力だ、間違いなく!

 能力の制限を考慮すれば、船を守りながらは戦えまいと睨んだポルカ。

 ミオを複製して船全体を撃つように指示した。

 

「ペトロ――――?」

 

 ミオが近辺の石を拾い上げて手の中や服のポケットなどに突っ込む。

 そして手を構えたのだが……。手中からだらっと液体が流れて来た。

 ポケットからも同様に。

 

「い、石が――!」

 

 石が溶けている。

 幾ら拾い上げても全てが溶かされる。

 装填ができない。

 これもクロヱか‼︎

 

 ルーナは早速標的を定めて輝く相貌でクロヱを見つめる。

 能力の閉塞を感じる。

 

「ラプラス〜! こより〜!」

 

 クロヱが仲間に指示を出すと2人が同時に能力を発動。マヨネーズと土石流がルーナに――ではなくクロヱに押し寄せる。

 

大災害波(カラミティパールス)‼︎」

 

 シオンが砂浜に巨大な亀裂を生み流れの軌道を逸らすが、物量が多く一部が亀裂を乗り越えてクロヱに届いた。

 クロヱがマヨネーズと土石流に埋もれる。

 ルーナの能力が切れる。

 

「プラズマ・トライデント‼︎」

 

 目にも止まらぬ電撃閃光。

 マヨネーズと土石流の中から一直線にルーナを狙い撃つ。

 

「ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛――⁉︎⁉︎‼︎‼︎」

 

 迸る電撃にルーナの心臓は撃ち抜かれ、煙を吐いて倒れた。

 

「――⁉︎ ルーナ‼︎」

 

 咄嗟にその体を支えるかなたにも、バチっと電気が駆けたが麻痺するほどでは無い。

 ルーナの気絶は不味い――と皆が肝冷やした時――

 

「クロヱちゃん‼︎」

「ぽぇ?」

「寝符宙雲」

「――!――?……」

 

 マヨネーズと土石流の上に人影が立つ。

 ねねだった。

 全身をほぼ埋めたクロヱをその場で昏倒させる。

 

「――! 岩石銃(ペトロガン)‼︎」

「メインウェポン!」

 

 ミオの石の銃撃に対抗するロボ子のネジの銃撃。

 物量的にロボ子が有利で、ミオの殆どの攻撃は相殺された。辛うじて相殺を免れた弾も空気の壁にヒビを入れるのみ。

 

 

 わためがねねの背後に瞬間移動した。

 

 パァン――!

 

「っぶねぇ‼︎」

 

 間一髪、トワがねねを抱いて弾を躱わす。

 ポルカの脳内とリンクさせていると、何やら未来が見えたので飛び出せばビンゴだった。

 不意打ちを回避されてわためが面食らう。

 その背後から――

 

 ヒュっ――と刀が飛来して来た。

 こちらも直前で反応して瞬間移動で回避。

 

「くぅー! 瞬間移動はずるい!」

 

 空気の中からラミィの歯軋りが聞こえた。

 

 この間でころねがクロヱの埋まる位置まで駆け寄ると、ラプラスとこよりが能力を解いて堆積物を消滅させる。

 ころねがクロヱの胸に手を当てて心臓を――心拍を上げた。

 

 起きろ――

 

「んっ…………?」

 

 急な鼓動の変化に身体が驚き、脳が覚醒する。

 早くもクロヱが目覚めてしまった。

 だが復帰後も数秒は動きが鈍いはず。

 かなたは遠隔で粉を撒いた。

 しかし火がない。

 

「ミオさん、あっこ狙って!」

「了解!」

 

 ミオが月光を瞳に溜め始める。

 ポルカの指示はかなたが粉を撒くより早かった。

 そして粉を撒いた2秒後――

 

星の光線銃(アストロ・レーザーガン)

 

 レーザー銃が放たれた。

 光の束は熱を帯び、それが粉を掠れば忽ち――

 

「「ッ――」」

 

 ばばばばっ、と花火が弾ける様な小規模の爆発が連鎖する。

 渦中にはクロヱところね。

 

 周囲で各々の戦闘が続く中、徐々に爆煙が波風に攫われて――

 

「ヒィ――‼︎」

 

 クロヱが飛び出して来た。

 無傷。

 しかしころねは火傷を負って倒れている。

 

 クロヱが次に襲うターゲットは――ポルカ。

 未来演算でいち早く察知して回避すると、クロヱは早々に諦めた。追撃が無意味と悟ったか。

 

「――⁉︎」

「やっ――!」

 

 突如ポルカへと押し寄せるマヨネーズ。

 同時にかなたとルーナにも、土石流が押し寄せる。

 

 ノエルやちょこが定期的に意識を向けてくるが、それぞれスバルとメルの対処で手一杯。

 いや――それどころか押され気味だ。

 

「へ――⁉︎」

 

 ポルカ、かなた、ルーナの3人は何とか攻撃を交わしたが、別の誰かが飲まれてしまう。

 見えない誰か……ラミィだ。

 意図せずこよりはラミィに攻撃を命中させた。

 しかも、お陰でインクが流れてしまう。

 

「ぶぅえっ、べっ……オォエ――‼︎」

 

 口や鼻に流れ込んだマヨネーズを必死に吐き出す。

 全身真っ白になって気持ち悪いが、それ以上に臭いと味が強烈。

 

「こよりぃ‼︎ いっつもマヨネーズはやめろって言ってんだろぉ!」

 

 罵声を浴びせても響きはしない。昔の関係など今は記憶にないのだから。

 

「まずい……もうインクないのに」

 

 木の影でいろはを寝かせたあくあがボソリと呟く。

 気絶したいろはを透明化した所で丁度インク切れを起こしてしまった。

 これ以上は全く戦力になれないのだ。

 体力はあっても、能力がなければあくあは弱い。

 

 

「メインウェポン」

 

 動きの鈍ったラミィへ放たれる数多のネジ。

 

「ハナグルマ」

 

 自身ではなく刀を操って正面で高速回転させ、ネジを弾く。

 

「あばばばば! こっちに飛ばすな!」

 

 ネジの軌道を思い通りに操作できず、周囲のポルカやかなたに危険が及ぶがお構いなしだった。

 どうせ2人には当たらないので。

 

 

虚心弓(リーラアロー)

 

 シオンが弓を構えるポーズを取った。

 突然、その両手には弓矢が握られた。

 弓矢はラプラスとこよりを狙う。

 そして――

 

 パァンと銃声。

 シオンの右肩から鮮血が飛び散る。

 

「イッ――――てぇなぁ‼︎」

 

 無視して矢を放った。

 滑らかな放物線を描いて奇妙な矢がこよりとラプラスに迫る。2人は事前に体を流動化させて受け流し体制をとったのだが。

 

 ザシュ――と2人の心臓に突き刺さる。

 

「「え――」」

(何だあの技――トワと戦った時は使ってなかったのに)

 

 2人の唖然とする声に合わせて、トワも内心そう思っていた。

 だが直ぐに切り替える。

 

 矢は2人に撃ち込まれた直後にパラパラとチリと化して消滅する。そして痕跡も傷も残す事なく、攻撃は終わる――はずも無い。

 

「はぁ………………」

「あーぁ………………もぅ、最悪……」

 

 攻撃を受けた2人がウランほど重たいため息を吐いて砂浜に小さく座り込んだ。

 心がやられた様に、活気を完全に失っていた。

 未知の能力によりラプラスとこよりが精神的にだがダウン。

 

「変な能力だねッ‼︎」

 

 クロヱがシオンの背後から鉄の棒片手に迫撃する。

 無防備な顳顬を狙って思いっきり振るう。

 

 ガンッ――。

 

 ずざっ、とシオンが砂浜の上に伏した。頭から流血して。

 同時にクロヱの背後からねねとトワが仕掛けていたが、またしても空気の壁に阻まれてしまっていた。

 その2人を狙う銃口が2つ。

 直前でトワの危機感知が反応。

 ねねの身体を抱き寄せて空気壁を蹴って斜め後方に逃げた。

 

 パパァン――――。

 ピシュっ――とトワの右腕を掠めるが、傷は浅い。

 

 クロヱの微笑が深まった、その時――

 

 

「クロヱ‼︎ みんな! 乗って‼︎」

 

 

 ルイからの号令が掛かる。

 船はエンジンが掛かっており、既に浜から距離を置いていた。

 人が浜から跳び移れる距離では無い。

 だが――

 

「りょうかーい‼︎」

 

 クロヱの威勢のいい返事。

 ころねを掴んで全ての敵から距離を取る。

 そしてばっ、と懐から一冊の本を取り出した。

 

 ロボ子、メル、スバルが一斉に戦いを放棄してクロヱの下へ走る。

 

「――! 逃げんな!」

 

 ポルカたちも一斉に飛び掛かるが――

 

「ッ――また壁‼︎」

 

 幾度でも阻んでくる空気の壁にまたしても道を閉ざされる。

 クロヱが本を開くとルイが遠隔で能力を発動。クロヱ以外の周囲の者が本の中へ吸い込まれていく。

 そしてクロヱがころねを本の中へ押し込む。

 

 こよりとラプラスはアキロゼが迎えに行き、2人を抱えて船にUターン。

 わためは瞬間移動で船へ。

 クロヱは近場に倒れるシオンを一瞥した。

 まだ記憶は取っていないが、折角のチャンス。

 本に押し込もうと手を伸ばした。

 

「クロヱ‼︎」

「――⁉︎」

 

 分厚い空気壁で誰の侵入も許さないはず。

 しかし、ルイからの信号に顔を上げれば。

 

「たぁーッ――‼︎」

「っぶ――」

 

 顔面に拳が直撃。

 空気壁が破られた⁉︎

 一体誰が――。

 

「――! あやめ!」

 

 そう、あやめ。

 固形化された空気を軟体化して無理矢理入り込んだ。

 そしてクロヱを遠ざけてシオンを捕まえる。

 腹の傷をクロヱが一瞥――そして諦めると空中を歩行して船まで駆けていく。

 

「ダメだ、逃げられる‼︎」

 

 他の仲間たちもスライム化した空気を掻き分けて壁を通過するが、最早手遅れ。

 ミオに指示して銃を撃たせるも壁やネジやらと阻まれて石は海中へ沈む。

 ラミィの操作範囲も限界で、マリンもいない。

 これ以上はどうしようも……

 

 

「どい、て……」

「「――――⁉︎」」

 

 一同を押し除けて、1人の侍が波打ち際に立つ。

 あくあのインクは今、スライム空気を透過する時に落ちてしまった。

 

「何を……」

 

 捻挫して青ざめた左足首。

 骨折して腫れ上がる右腕。

 抉れた脇腹。

 頭も血だらけ。

 能力も使い過ぎた。

 だからもう、これが最後。

 

 両手で愛刀を握り込み、両足で地を踏み締める。

 刀を頭上まで運び先端を真っ直ぐと天に翳すと――深呼吸。

 

 

 その光景は甲板からも見えた。

 

「あのゾンビザムライ……!」

 

 クロヱが船の淵に立ち、両手を銃の様に構えた。

 人差し指の周辺でバチバチと放電現象が起きる。先ほども見た一撃。

 

 

「プラズマ――」 「風華――」

 

 ――――――――‼︎

 

「――トライデント!」――「――刹月」

 

 

 飛び出す電撃。飛び出す斬撃。

 音を置き去る電撃が。海を割る斬撃が。

 

 

 衝突――――‼︎‼︎‼︎

 

 

 

――――――――――

 

 

 5月11日22時30分頃、ハングリー島沖合にて、観測史上最大の風速が記録されたそうだ。

 

 

――――――――――

 

 

 ハングリー島(従属半島)、洗脳討伐作戦――終幕。

 洗脳の力から皆を解放した一味であったが、その結末は実に悲惨な物であった……。

 

 

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