最終章突入――
105話 夢と将来
5月13日朝10時。
11日の作戦決行からおよそ36時間後。
12日のうちに一同は従属半島を出て、シエロソニードへと場所を移す。
その間でも、マリンやAZKi、いろはなど、一部のメンバーは目を覚さなかった。
目覚めない者たちをかなた城の医務室や個室で寝かせ、目覚めていた多くの者は各々の過ごした方を。
そしてその風景。
CS、CT組はかなたの部屋(王室)に集まっていた。
――――――。
「――と言う感じ」
「そっか……」
ノエルやルーナ、トワからこの1年ほどの経過報告を受け何度も深く頷くかなた。
「それで、洗脳は解いたけど、今度は記憶が……」
「ああ。結局振り出しに戻ったって気分だ」
「…………」
話が次々と流れるこの場を、シオンとねねは静かに見ていた。
「トワの仲間も1人やられて、今は記憶喪失の状態。ルーナさんのとこも、スバルとラプラスがやられて、かなたんとこはわため」
「ルーナは2人を助けに行く」
「――シオンも行く」
「「「…………」」」
周囲の被害状況を纏めて話すと、ルーナが決意の瞳で答え、それに合わせて無言だったシオンも割り込んできた。
頭に巻いた包帯に触れると、痛かった。
「それは……いいけど、すぐには行けないわ。それに大前提、あの子たちの居場所も分からない」
「ああ。トワもノエルも救出には向かうが、船長が起きない以上、ここを動けねぇし」
「…………」
かなたがトワとノエルを順に見つめた。
あやめもノエルをじっと見つめている。
「僕もみんなを助けたいとは思ってる。けど、王座に戻ってまた直ぐに国を離れられない。悪いけど僕はここに残るよ」
「なら、余も残る」
「…………」
皆それぞれの選択を明言する。
だがたった1人……口を開かない子がいた。
「ねねちも、ラプラス助けに行くでしょ?」
何も喋らないから、シオンは勝手にその心を決めつけてねねに尋ねた。
隣にいるシオンの眼はとても強い意志で揺らいでいる。
だが当のねねの眼は……困惑と動揺、そして不安で揺らいでいた。
「ねねは…………ねねは……その……」
「……行かないの?」
「えっ……いや、その……」
シオンが訝しむ様に眉を寄せると、ねねは萎縮していく。
シオンの視線は徐々に冷めてきて……ねねは恐怖に身震いした。
「……あっそ」
「――ぁ…………ぅ……」
しかし、どんな軽蔑する様な視線よりも、その視線が見限った様に切られるこの瞬間の方が恐ろしかった。
ねねは今にも泣き出しそうな顔で、綺麗な王室の床に視線を落として俯く。
「ごめんねシオンちゃん。さっき僕がねねちゃんに手伝いを頼んだんだ」
「――ぇ」
「……手伝い?」
「うん。国の復興に人手が足りないから、ねねちゃんに手伝ってって頼んだの。能力の事も聞いてて、活躍できると思ったから。ルーナもそうしろって言ってたしで困っちゃったみたい。あまり責めないであげて」
「………………あっそ」
かなたが絶妙なフォローを入れると、シオンの視線は若干和らいだ。
それでも多少の刺々しさは残っていたが、これは精神的に参っている為であろう。
「みんな疲れてるのよ、まだ心も身体も傷が癒えてないでしょ?」
「そうじゃね……一旦、解散にしよっか」
「ああ。そうしよう」
更にちょことノエルのフォローも入り、この場は解散となる。
トワとノエルがフブキの居る個室へ行き、ルーナ、ちょこ、シオンが2人の救出についての話し合いへ。
こうして部屋にはかなた、あやめ、ねねが残った。
全員が退室して、声も遠くなった所でかなたが切り出した。
「ねねちゃん大丈夫?」
「んー……あんまり大丈夫じゃないかも」
張り詰めた空気が消えてねねの様子も幾分かマシになった。
あやめは入り口の前まで行き、そこを守る様に佇むと傍観に徹した。
「さっきは、ありがとうございます」
「いいよそんな事。それより、何かあるなら僕に言ってごらん?」
「えっへへ…………」
ねねは頭を掻いて照れる様に笑った。
その笑いの嘘臭さは誰でも感じ取れたに違いない。
「ラプちゃんもシオンちゃんも、昔からずっと騎士団に入りたいって言ってるんだ〜……凄いよね」
「――うん。凄いと思う」
「2人と一緒にいると楽しいんだけど……でもねねにはやりたい事とかって、実は一つもなくって……」
「そっかぁ」
「なんか流れでねねも稽古したり、騎士団のバッチ貰ったり……。それでまたシオンちゃん達に合わせて人助けして……そのまま騎士団に入っちゃったら、ねね、将来大丈夫かなぁ〜……あははは……はは……」
「なるほどね〜。難しいねぇ」
沈みゆくねねの嘘笑い。
ラプラスを助けたいと、本心では思っているはずだ。
だが課題はその先にある。
ラプラスを助けた後、ねねはどうなるだろう?
2人に合わせて騎士団に入って、2人に合わせて仕事して、大事な時に本気になれなくて……。不安になる。
「シオンちゃんに言うのは、怖い?」
「うん。ずっと2人に合わせて来たから、急に嫌だとか言ったら……嫌われちゃいそうだし――。でも今着いて行くってなると、もっと引っ込みつかなくなって、この先よく分からないまま騎士団にいるのは……違うかなって」
「そっかそっかぁ」
かなたは何度も相槌を打って言葉を真摯に受け止める。
そしてねねの話を聞いて、とても感心した。
一瞬本音をぶつけるか悩んだが、これは包み隠す必要もない。
「自分の将来をそこまで考えてるの、めっちゃ偉いよ。ほんとに偉い」
「そんな事ないよ……。みんな夢があって、やりたい事があって、そのために頑張ってるのに、ねねは漠然とした目標もないし……」
「シオンちゃんやラプラスちゃんは、夢に対して本気なんだね」
「うん! そう! 凄いよね……」
「じゃあねねちゃんは、自分に本気なんだ」
「……?」
「自分の夢を叶える為に必死になるのも、自分である為に必死になるのも、同じくらい凄くて、偉い事だと思うよ」
「――――」
ねねの表情がほんの少しだが、和らいだ。
「ねねちゃん」
「――ん」
「ラプラスちゃん、助けたい?」
「うん。助けたい!」
「じゃあさ、本当に一つ、お手伝いしてくれない?」
「手伝い……? なにぃ?」
かなたはねねにとある助力を申し出た。