かなた城医務室――。
ベッドに横たわるは、いろは、ぼたんの2人。
みことあくあが能力で傷や体力を回復させつつ、簡単な処置をする。
因みに傷口は殆どシオンが復活直後に治してくれた。
その甲斐あって、もう1人のこの場へ運びこばれた者――AZKiが目を覚ました。
それを聞きつけ、まつりとぺこらが医務室へ駆けつける。
「ありがと2人とも」
「ありがとうございます」
あくあとみこに軽い会釈をして入室するまつりとぺこら。
更にその後ろから1人――
「みーこーち!」
「うげっ‼︎」
治療が一旦落ち着いたと聞き、みこを訪ねてきたすいせい。
入室するや否やみこに飛び付く。
激しい「みこめっと」の供給にまつりとぺこらは若干引いていた。
「ま、ちょっ――はーなーせ‼︎ キモい‼︎」
「はぁ……あてぃしもおかゆのとこ行こ」
あくあはおかゆを求めてそそくさと退室。
頬擦りしてくるすいせいを強引に引き離して医務室内を逃げ回る。
「こっち来んな‼︎」
「何照れてんのー?」
足首をパズル化して切り離し、浮遊してみこに抱きつく。
髪に鼻を当てて匂ったり、胸を揉んでみたり、キスを迫ろうとしたり。
とにかく過激。
何にせよ、これ以上ここで騒がれては堪らない。
「すいちゃん、ここは医務室だから静かにしてね」
「――はーい。ね、みこち外行こ」
「え⁉︎ みこはマリンたんのとこに――」
「――――だれ、それ」
AZKiの注意に素直に従うすいせいだったが、みこがマリンの名を挙げると突然目付きが悪くなる。
恋敵を襲わんとする目。過去にあくあが見せた物と同じだ。
みこは慌てて取り繕う。
「み、みこんとこの船長……だけど」
「そっか、じゃあすいちゃんも仲間に入れてもらわないと」
「――‼︎」
みこが助けを求めてまつりたちに視線を向ける。
やれやれと皆一様に肩を竦めた。
「すいちゃん。みこ先輩はこれからマリリンの容態を見に行くらしいから、今は待ってあげてほしいぺこ」
「えぇ〜。一緒に行けばいいじゃん」
「お願い。今は大変な状況だから」
「……はーい」
渋々といった態度でみこから離れ、足首を元通りに嵌める。
そして近場の空いたベッドに腰を下ろした。
「じゃ――みこ行ってくるにぇ――!」
みこは逃げ去る様に部屋を抜けた。
途端に室内は静まり返った。
「…………」
AZKiがベッドから降りた。
ベッドがぎしっと軋む。
ゆったりと2つ隣のベッドまで歩き、その端に腰を下ろした。
「……いろはちゃんがこんなに寝込むなんてね」
姿勢良く眠るいろはの髪と頬を優しく撫でて、女神の様な微笑を浮かべた。
惚れ惚れする姿だが、どこか切なさを感じる。
「起きたばっかりで悪いんだけどさ、あずきち」
「んーん……いいよ。分かってる」
「あずちゃんは、ぺこーらやみんなを使って、何がしたかったの?」
まつりがぼたんの手を握って前置くと、AZKiは首を横に振った。
なのでぺこらは遠慮無く尋ねる。
AZKiもいろはの手を握った。
「私は仲間を増やしながら情報を集めて、そらちゃんの記憶を取り戻したかったの」
「ルイちゃんから?」
「うん」
案外簡単に口を割って、まつりとぺこらは一瞬戸惑った。
「信じられないだろうけど、全部終わったらみんなの事はちゃんと元に戻す予定だったんだよ。本当に……信じられないだろうけどね……」
「あずちゃんが立ててた計画、聞いてもいいぺこ?」
ぺこらとまつりは表情を和らげた。
しかしAZKiの顔はほんのり強張る。
他人――特にぺこらを利用しただけあって、面と向かっては話し辛い。
だが――こんな自分にも能力等で治療を施して、親身になってくれる人たちをまた裏切ることもできない。
これ以上この人達と敵対しても、利点がない。
能力だって、ぺこらの中へ還ってしまったし。
「4大能力って言うのがあってね。洗脳、記録、魅惑、改竄の能力がこの世界には存在しているらしいの。洗脳はぺこらちゃん、記録は鷹嶺ルイ、魅惑は多分マリンちゃんで、改竄は分からない」
「……なーんかまつりだけ仲間外れな気分」
「でも強いぺこじゃん」
「どうかな〜」
ここで2人は初めて4大能力なる物の存在を知る。
そしてまつりは、ぺこら、マリン、ルイがその能力を手に入れている事から、転移組の中での疎外感を覚えたらしい。
チアチアの実が本当は改竄の能力だった、なんて有り得ない話だ。
「過去に鷹嶺ルイと衝突した事があって、その時に記録の能力者である事は気付いたんだけど、名前とか組織名とか全然分からなくて、色々調べたの」
「うんうん」
「それで鷹嶺ルイと沙花叉クロヱの名前を知って、『秘密結社XXX』っていう組織名も耳にしたの」
「秘密結社……トリクロス?」
中々のネーミングセンスに2人は感心した。
少なくとも、ぺこらの名付けた「秘密機構『希望の花』」よりはいい。
こよりとラミィは気に入ってくれたが。
「2人は4大能力を集めてるらしい、ともね。それを知った数日後だよ――ぺこらちゃん、キミに出会ったのは」
その時からAZKiの作戦が大きく動き始めたのだ。
ぺこらはこくりと一度頷いた。
「すいちゃんの故郷でもあるアルメンドラに一時滞在してる時、キミたちの会話を盗み聞いてしまった。殆どは理解の及ばない話だったけど、ぺこらちゃんの能力だけは、直ぐに理解できた。それが洗脳だってね」
今から約3年前、ぺこらはアルメンドラの林付近にある小さな洞窟に突如転移した。その洞窟に隠された小箱を見つけ、そこに入っていたのがペコペコの実だった。
それを食べた後、訳も分からず洞窟を出て林の小道を進むと浜に出た。
その時に出会ったんだ――ラミィとこよりに。
訳の分からないことで喧嘩していた事を、今でも鮮明に思い出せる。
「作戦を頑張って考えて、結果導き出したのがぺこらちゃんを洗脳にかける作戦」
「「――――」」
「友好的に行こうとも考えたよ。だけど私たちは元が海賊だし、3人の話や考えは全く理解できなかったから、上手くいかない気がしたの。それよりかは、自分で全部操ったほうが早いって思った」
AZKiは用心深い性格だ。
その言い分は残念ながら理解できてしまう。
「ぺこらちゃんを洗脳にかけて、そこからこよりちゃんとラミィちゃんを動かしつつ、洗脳兵を増やして勢力を広げる。更に『秘密結社XXX』の情報を集めながら、洗脳の存在を徐々に世界に広めていく」
「自分から存在を明かしたの?」
「そう。鷹嶺ルイは4大能力を狙ってる。だから食いつくと思ってたんだ。でも中々尻尾を出さなくて、捜査も難航してた所に飛び込んできたのがサクラカゼの情報」
「――サクラカゼ? みこちの曲じゃん」
「――曲?」
「いらん事言わんでいいぺこだから」
とある島の名前にまつりが反応すると、AZKiが疑問符を浮かべて話を中断した。
先が気になるぺこらはまつりを嗜めてAZKiに続けるよう促した。
「サクラカゼって島に、悪人の手に渡ってはいけない、と言われる能力があると情報を手に入れたから訪ねてみたらね……」
「「――?」」
まつりもぺこらも知らない事。
その時にAZKiは出会ってしまった。作戦を破壊してしまう程の「脅威」に。
「出会っちゃったんだよ、マリンちゃんと」
すいせいも出会っているが、当然今の彼女にその記憶は無い。
ベッドでごろごろと転がって暇そうにみこの帰りを待っている。
「そこからはもう、負の連鎖」
CTでフブキを失い、DCでおかゆを手放してぼたんも逃してしまう。
メモリアでははあとを捕らえ損ない、アルメンドラで張った罠もCSで見事なまでに破られた。
そして従属半島の決戦で大敗を喫し、そこに付け込まれてルイに全てを奪われる羽目になる。
転落人生の様だ。
全てを取り戻そうとした結果、AZKiの手元には何も残らなかった。
そらの記憶は無いままで、ロボ子の記憶は改変され、すいせいの記憶も弄られた。
いろはも大怪我を負って……。
「本当に、いろはちゃんには合わせる顔がないよ……」
いろはの顔を繰り返し撫でてそう口にした。
「そらちゃんやいろはちゃんとは、どんな関係?」
「仲間だよ。そらちゃんといろはちゃん、私、ロボ子さん、すいちゃんの5人でゼロ海賊団ってのをやってたの」
「みこちは?」
「え――?」
「ゼロ海賊団なのに、みこちはいないの?」
「……? どう言う事? よく、分からないんだけど……」
「そっか……ならいいや」
まつりが過去にマリンが感じた疑問と同じ事を口にした。
ぺこらはその質問に一瞬焦りを見せるが、何事も無く片付いたので安堵した。
「……ごめん、色々聴きすぎて」
「いいって。どうせ抱えきれなかったし」
話がひと段落つくと、何となくぺこらの口からそんな言葉が出た。
AZKiは一切気に留めていなかったが。
ぺこらは座っていたベッドから腰を上げた。
「ぺこーらはラミィちゃんと話してくる」
まつりに視線を送りながらそう呟いた。
するとまつりも立ち上がる――その前に一度ぼたんの頰に手を添えて……。
「じゃあまつりも一旦抜ける。あずきちはもう少し休んでて」
「……うん」
「じゃあ」「じゃーね」
聞くべき事を聞き終えて、2人は静かに医務室を後にした。
「現在明かせる時系列」
7年半前――秘密結社XXX結成
7年ほど前――ゼロ海賊団結成
4年半前――ゼロ海賊団vs秘密結社XXX
3年前――ぺこら転移。AZKiとぺこらの接触。
2年前――かなたのCT訪問
1年半前――シエロソニード国王失踪事件
1年前――まつり転移。フブキ達洗脳。
半年前――キャンディータウン陥落
今年――マリン転移
分からない事とか気付いた矛盾点とかがあれば教えてください。