ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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108話 勇気を分けてあげる

 

 医務室を抜けたあくあは、城内を歩き回っておかゆを探していた。

 所が、その姿が中々見つからない。

 確かに広い城だが、行動区域は限られる為ここまで見つからないとは思わなかった。

 1人で城を彷徨っていると、次第に鬱屈な気分になって行く。

 そんな時、とある人と遭遇した。

 

「あ……」

「ん、ああ……あくあちゃん」

「ねえラミィちゃん、おかゆ見なかった?」

「んー……見てない」

「そっかぁ」

 

 あくあは肩を落として落胆した。

 そのままラミィの横を通過しておかゆ探しを再開するのだが、何故かラミィが付いてくる。

 陽気に鼻歌を歌いながら。

 

「……何か用?」

「何もないよ〜」

「じゃあなんで付いてくるの」

「だってする事ないんだもん」

「……」

 

 ラミィは退屈していたらしい。

 あくあの疑問を受けた後、嬉々として喋り始めた。

 

「聞いてよ〜、ぺこらちゃんは今まつりさんと一緒で相手してくれないし、騎士団の人はラミィの事根に持ってるし、その他の人の事よく知らないしで話し相手もいなければ、お酒も飲めないんだよ!」

「……それ半分くらい自業自得じゃん」

 

 ぐいっと距離を詰めて鬱陶しく絡んでくるので、あくあは厚かましそうに距離を取った。

 

「と言うか、あてぃしたちも仲良くないでしょ――!」

「そんな事言わず〜。浜辺で共闘した仲じゃんかぁ」

「あれは仕方なく――あぁもう、鬱陶しぃ!」

 

 酔っ払いのように纏わりついてくるが、やはりシラフ。

 ラミィを押し返して同行を拒み、足早に廊下を進む。

 でもやっぱり追ってくる。

 まるで面白いおもちゃを見つけたかの様に。

 厄介な奴に遭遇し、気に入られてしまった。

 まあ……この大所帯の中でも話し相手がいないとなると、それなりに堪える事は予想できる。

 だから同情が無いわけではない。

 

 でも今はおかゆと2人きりになりたい気分。

 みこと2人きりで治療に当たっていたから、精神的にも体力的にも疲れている。

 こんな時こそおかゆに元気を貰いたい。ラミィが側にいては逆に元気が吸われてしまう。

 

「もう、あっち行って!」

「いーやーだぁー」

 

 妨害するラミィにうんざりしてきた。

 治療ばかりだった為、透明化できる程のインクも残っていない。

 もはや構うだけ時間の無駄なので、無視しておかゆの捜索を再開した。

 

「…………」

「…………」

 

 無言で暫く歩くと、正面に新たな人影が現れた。

 

「あ……」

「……」

「ぁ……ど、ども……」

 

 ラミィ以上に孤独な存在――不知火フレアだった。

 何せ面識のある者がポルカだけで、そのポルカはマリンに付きっきり。

 予期せぬ対面で全員があたふたする。

 

「あ、う……」

「あ、あの……フレアちゃん!」

「は、はぃ!」

「お、おかゆ、とか……見てない?」

「おかゆ……おかゆ……? えと……食堂に、行けば……あるんじゃない?」

「無いよ!」

「え、ご、ごめん!」

 

 騎士団の食堂でおかゆが出てたまるか。

 そもそもそのおかゆではない。

 食べられないおかゆの話だ。

 

 フレアは名も知らぬ相手との対話で全身が強張っている。

 その態度を前にして、あくあはとある策を閃いた。

 

「――! そうだ、フレアちゃん」

「はい!」

「ラミィちゃんが友達欲しいって言ってたから、仲良くしてあげて」

「「え?」」

「あてぃしちょっと、用事があるから」

 

 フレアの登場を口実にラミィを引き離す作戦。

 2人はシンクロして声を上げる。

 そして曇った表情を突き合わせる。

 

「じゃあね!」

「……」

「……」

 

 重たすぎる空気を残して、あくあはその場を退散する。

 ラミィはフレアを蔑ろにする事ができず、ぎこちない笑みを浮かべて対話を試みた。

 気不味い状況が長らく続いたが、数分後にぺこらが現れ、その場を何とか取り継いでくれた。

 

 

 

 2人を置き去りにおかゆの捜索を再開したあくあ。

 おかゆの居そうな部屋は調べて回るが中々見つからない。

 数名の兵士の側を素通りしつつ城内を巡り、ある場所でまた別の人と出会う。

 

「……ミオちゃん」

「――? えぇっと……?」

 

 大神ミオだった。

 おかゆを追っていたあくあは認知しているが、ミオは一度もあくあを見た事がない。

 過去に数度、その名前がおかころの間で上がっている事は耳にしていたが、顔なんて知らないし、名前ももう覚えていない。

 突如現れたおかゆの仲間に敵意を含んだ瞳を向けられて、ミオは戸惑っていた。

 

「……あてぃし、湊あくあ。おかゆの彼女」

「――? そうなの?」

「……いや、ごめん嘘。でも将来はそうなる」

「――? 強気だねぇ」

 

 ジョーク……ではないが、あくあのそんな発言にもミオは華麗な受け答えを見せた。

 4人の親密な関係を知るあくあとしては、その様子が不思議でたまらなかった。だからつい本心が口をついて出てしまう。

 

「……無理だって言わないの?」

「――? 言わないよ。どうして?」

「だって……あの子が……」

「ころね?」

「…………うん」

 

 口先を曲げて不服そうに頷く。

 ミオは女神の様な微笑を浮かべた。

 

「知ってたんだねぇ。うん、でもおかゆを狙ってるんなら、チャンスは幾らでもあると思うよ」

「…………」

 

 あくあ以上におかゆと近しかった者から恋を後押しされて、うっかり陰キャ特有の薄ら笑いを溢してしまった。

 そしてミオという存在があくあの中で神格化される。

 

「……あ、それでねミオちゃん。今丁度おかゆを探してるんだけど、どこにいるか知らない?」

 

 表情の中に笑みを残しつつ、あくあが食い気味に尋ねた。

 鼻息荒く顔を寄せるあくあから少し距離を置き、ミオは小さく頭を掻いた。

 

「さっきまで一緒に話してたんだけど……その後は分かんないなぁ」

「そっかぁ……わかった、ありがと」

「探すの手伝おうか?」

「気にしないで! 疲れてるだろうし、ミオちゃんは休んでていいよ!」

「そう? なら、そうさせてもらうね」

 

 おかゆ以外には滅多に見せない優しさの片鱗。

 ミオはその親切心を受け取って、場を離れた。

 

「……よーし!」

 

 あくあは自身の両頬を叩いて喝を入れた。

 以前より頰の弾力が無くなった気がする。

 

 あくあは考えた。

 おかゆはミオと話してどこへ行くだろう?

 無難にフブキの部屋か、マリンの部屋?

 ただトイレに行っただけとか、偶然誰かと出会って話歩いてるだとかも有り得る。

 

 でもそれなら、これだけ探して見つからないはずがない。

 ならば人目のつかない場所に居るはず。

 真っ先に砂浜が浮かんだが、流石に遠すぎる。そこまでは行くまい。

 トイレに篭られると見つけようが無いので、その可能性は一旦除外。

 残るは……屋上?

 

「いや、おかゆなら……」

 

 あくあは当てをつけると確信めいた顔で駆け出し、猛スピードで階段を降りて行く。

 降りて降りて降りて――1階についてもまだ降りる。

 そう――あくあの予想は監獄だ。

 現在地下監獄に囚われている者は1人もおらず、まず誰1人として出入りしない。

 

 フブキの様子を見て、ミオと話して、更にころねの事を思って……おかゆだって抱える悩みが多く、精神的にも憔悴しているはず。

 だから人気の無い場所を探して何処かへ――あくあはそう推理した。

 何故だろう、間違っている気がしない。

 

 微かに見覚えのある牢屋入り口に辿り着いた。

 緊張で震える足に力を込める。

 大きく深呼吸して扉を開け放った。

 

 バンッ、と音が反響する。

 

「――――」

 

 薄暗い通路が続く。

 あくあが奥へと進むと、開いた扉がパッタンと勝手に閉まった。

 こつこつと足音を鳴らして奥へ、奥へと進む。

 空気が次第に冷えていき、灯りも益々弱まってゆく。

 

「――!」

 

 あくあの靴音に重なって、もう一つの靴音が正面から近づいてきた。

 絶対おかゆだ。

 あくあは駆け足になる。

 

「――っ、なんだ、あくあか……びっくりしたよもぅ」

「おかゆ!」

 

 やっと見つけた。

 心が舞い上がって足が更に早まるが――目前に来て立ち止まった。

 

「…………」

 

 目が赤い。

 目元は腫れているし、目は充血しているし、目を凝らして見れば顔に薄い4本の筋が出来ている。

 

「あくあはこんなとこで何してるの?」

「……おかゆを探しに来た」

「……よく分かったね」

 

 見飽きることの無い作り笑いの質が落ちていた。

 

「何があったの、おかゆ」

「うん……ちょっとね。自分が弱くて情けなく思ったから、泣いてた」

 

 隠し通せないと判断したおかゆはあっさりと泣いていた事を認める。

 だが声量は小さくなっていた。

 

「でも大丈夫、もう吹っ切れたから。さ、戻ろう」

 

 自嘲を絶やさずあくあの傍を通り抜けた。

 

 ぎっ――とおかゆの腕を握った。

 無い握力を奮って、その場へ止める。

 

「ダメ」

「――??? 何がダメなの???」

「ミオちゃんに言えなくて、フブキちゃんにも言えなくて、他の仲間にも言えなかった事が、1人で泣いて解決するなんておかしいよ」

「……そう、かなぁ? 案外普通だと思うけど――」

「んーん、ダメ。おかゆ、こっち来て」

「うぇ、ちょっ――あくあ⁉︎」

 

 かまをかけつつ詰め寄れば簡単に引っかかる。

 あくあが強引におかゆの腕を引き、牢屋の更に奥へと向かった。

 おかゆの方が力はある。

 簡単に振り解ける。

 

「……」

 

 黙って引かれて、牢屋の奥の方まで進むと漸くあくあが足を止めた。

 

「はい、ここ座って」

「え――汚いよ」

「泥人間のくせに何言ってんの。ほら座って」

 

 壁際に追いやって無理やり座らせた。

 通路の端っこなので、本当に明かりが弱い。

 辛うじて表情が識別できる距離であくあも腰を下ろした。

 一瞬躊躇ったが結局おかゆに身を寄せた。

 おかゆが座る位置を半身ずらしたので、その倍の距離を詰める。

 

「話して。ちゃんと」

「……」

「おかゆが言いたくなくても、あたしが聞きたい。だから教えて。どうしたの」

「……幻滅、しちゃうかもよ」

「短所の1つや2つで幻滅するくらいなら、今ここにいない」

 

 おかゆはずっと俯いている。

 あくあは見えない天井を見た。

 言葉だけで気持ちを伝えて、おかゆが切り出すまで待つ。

 内心聞いてほしかったのか、口を割るのはかなり早かったと思う。

 

「僕は……何をやってんだろう……」

「――」

「何のために海賊に入ったんだろ……。何のために能力を得たんだろ……。何のために、ここまで来たんだろ……」

「――――」

 

 あくあに答えて欲しいのか?

 

 無気力なおかゆの声が震える。

 隣を一瞥したが、あくあはすぐに目を逸らしてまた天井を見つめ直す。

 

「僕は、ころさんみたいに強くないし……フブキちゃんみたいな勇気も無いし……ミオちゃんやあくあみたいに優しくもない……」

「――⁉︎ っ、な……」

「ころさんだけじゃない……みんな、みんな……フブキちゃんも、ミオちゃんも、あくあも、一味のみんなも……遠くへ行っちゃう……」

「…………」

 

 おかゆから優しいと評価されてドキッとした。

 だけどそんな場合ではなかったので、心拍数は直ぐに元通り。

 あくあは正面を向く。

 

 みんな、この航海の中で成長を遂げている。

 あくあもミオも、昔とは変わっていて眩しい程人間が出来上がっている。

 その中でおかゆは埋もれて行く。

 この船に乗った時から……否、フブキ達と島を探検したあの日から、何一つ成長していない。

 

 力も無くて、勇気も無くて、人を思う心も無い。

 ただ独り乗り間違えた泥舟で航海を続けて――転覆する未来が見える。

 ……それも怖い。

 

「なのに僕は――変われない! このままじゃダメなの! 弱いままじゃダメなのに! 臆病なままじゃダメなのに! 変わらなくちゃいけないのに‼︎どうして僕はこんな所で泣いてるの⁉︎」

「…………」

「何をしてるんだよ僕はァ‼︎」

「っ…………」

 

 咆哮が監獄内に響き渡った。

 頭を抱えて踞り、震えた。

 

「……」

「……」

 

 絶叫で喉がダメージを受けたらしく1秒ほど沈黙していた。

 あくあは静かに視線を向ける。

 偶然、おかゆも視線を向けたので目が合った。

 猫が威嚇するような目付きだ。

 

「どうして、そんなにあくあは優しいの?」

「ぇ……べつに、そんな――」

「あくあやミオちゃんが優しいからいけないんだよ!」

「――⁉︎」

「フブキちゃんが勇敢なのも! ころさんが強いのも!」

「――お、おかゆ」

「そうやって僕を甘やかすからァ‼︎」

「ィっ――――」

 

 宥めようと伸ばした手が払われて、壁にぶつかった。

 咄嗟に腕を引っ込めてもう片方の手で痛む手の甲を握る。

 

 おかゆの側にはいつも、誰かが立っていた。

 そのせいでおかゆは甘える事に慣れてしまった。

 それは紛れもない事実。

 事実ではあるのだが……。

 

「どうしてみんな僕をダメにするの⁉︎ 僕が何したって言うの⁉︎」

「――――――」

「みんながこんな僕を肯定するから‼︎」

「――――」

「あくあは僕を守るなんて言うけど、僕はあくあなんかに守られたくないんだよ‼︎ ころさんにも! フブキちゃんにも! ミオちゃんにも! 一味の誰にも‼︎」

「――」

「どう⁉︎ 幻滅したでしょ⁉︎したよね⁉︎ これが僕なんだよ、分かる⁉︎」

「」

「分かるはずないよね⁉︎ あくあは優しいもんね!僕と違って‼︎」

 

「分かってるんだよ本当の事なんて‼︎ 弱いのも!臆病なのも!こんな性格になったのも!全部僕のせいだ‼︎ 皆は悪くないよ、知ってるよ!」

 

「でももう‼︎…………こうでもしないと…………死に゛たぐなる゛ッ‼︎」

 

 狂気的に笑っていた顔がもっと歪んだ。

 自己嫌悪に苛まれ、その感情が纏めて顔に出ている。だから醜い。

 

 結局全ては自問自答で完結していた。

 

「僕は――僕が嫌いだ……みんなが嫌いだ……」

「おかゆ」

「……嫌いだ」

 

 ほら……またそうやって……。

 

 あくあの手がおかゆの頭に近付く。

 それを嫌って避けた。そして距離を置く。

 床に水滴が垂れた。

 

「おーかーゆ」

「んー……嫌いだってば」

 

 両腕で頭を捕まえるとまた嫌がって、猫のようにするりと逃げる。

 ぴっ、と水滴が散った。

 負けじと後を追い、もう一度おかゆの頭を捕まえる。

 

「嫌いだって言ってるじゃんか――!」

 

 また逃げた。

 ちょっとムッとして、あくあは可愛く頰を膨らませた。

 

「前は嫌いになれないって言ってたくせに」

「…………」

「みんな好きだけど嫌いなんでしょ、分かってるから、ほら」

「……だからっ! 僕をダメにしないでって!」

「――ダメになっちゃえ!」

「ちょっ――」

 

 あくあは弱い力でおかゆの頭を捕まえて、胸元へ抱き寄せた。

 ぽふっ、とおかゆの顔を胸が挟む。

 

「ぎゅぅーーーっ」

 

 おかゆの息や涙が服を湿らせるので胸元が生温かい。

 力一杯おかゆを抱擁して愛情を与えた。

 初めは暴れていたが、段々と脱力して行く。

 

「おかゆがダメ人間になって、一生あたしに養われるようになっちゃえばいいんだけどね」

「…………」

「まあそれだと困っちゃう人が増えるし、断念するしかないけど」

「…………」

 

 にへっと笑って胸元に埋まるおかゆの顔を見た。

 仔猫のようでとてつもなく可愛い。

 

「おかゆが何と言おうと、あたしはおかゆを肯定する。おかゆに嘘はつけないから」

「――――」

「だからあたしはこれからも、おかゆの側でおかゆを守り続ける。今こうしているように」

「それじゃ……僕が変われない……」

「おかゆは変わったよ。海賊になった」

「違う……それはフブキちゃんが居たから――」

「能力を得て強くなった」

「僕の成長じゃない。貰い物の能力なんかで――」

「変わらなければいけないと自覚して、こうして悩んで、泣いて……」

「そんなの――! 当たり前じゃん! でないと僕は置いていかれる……」

 

 あくあが目元に涙を浮かべた。

 いや……ずっと溜まっていたんだ。おかゆが知らないだけで。

 

「みんなが成長する姿を見て、自分も!って思った。あたしだって、おかゆにこれを貰った日から、変わろう!って思った」

 

 右手をおかゆの頭から下ろして、嵌めた指輪を――宝石を見せる。

 薄暗い中で仄かに煌めくインペリアルトパーズに、見惚れた。

 

「でもあたしだって1日2日で変わったわけじゃない。月日をかけて、年月をかけて少しずつ変わったの――多分だけど」

 

 左手をすぅーっと動かして頭を撫でた。

 

「変化はすぐに訪れない。けれど確かに一歩ずつ一歩ずつ――どれだけスローペースだとしても、人は変わり続ける。だからおかゆは変わってるし、これからも変わって行ける」

「そんな……そんな事……。僕はずっと……」

「あたしに本心をぶつけてくれた事が証拠のひとつ。それでもまだ心許ないって言うなら――分けてあげる、あたしの勇気」

 

 

 ――――――‼︎

 

 

「――――ぁぅ、あ」

 

 おかゆの頰に温かく、柔らかい感触が伝わった。

 突然の事態に呆然とし数秒かけて正気に戻ると、涙で滲む視界の先に温かく微笑むあくあがいた。

 おかゆは左手で自身の頬に触れたが……涙でびちゃびちゃだった。

 その頰から顔全体に熱が伝わり、やがて全身が火照る。

 

「あたしはどんなおかゆも愛していくから、耐えられなくなったらいつでもあたしの所においで」

「――――ぅ、ぁ、ぇ」

「そして吐き出せたらまた頑張ろう。なりたい自分に向かってさ、少しずつ、少しずつ、変わっていこう――」

「――っぅ‼︎」

「大丈夫。焦らなくても『その日』はいつかきっと来るよ」

 

 きっと『フブキの目紛しい成長』を前にして気が逸ってしまったのだろう。

 ころねを救えなかった自分に落胆したのだろう。

 

 仲間に頼りすぎていた事を自覚して、他人に頼る事を禁じた。

 だから瞬く間に抱えきれなくなって、パンクした。

 

 そんなおかゆに、あくあは逸早く声をかけ、慰めてくれた。

 今後も頼れと言ってくれた。

 ――絶大な勇気を分けてくれた。

 

 

 おかゆはあくあに包まれて泣いていた。

 涙が枯れ、声が枯れ、何も出なくなるまで。

 

 

 全てを吐き出して、身軽になったおかゆは心を一新し――確かな決意を手に入れる事に成功した。

 それと同時に、おかゆの心にはある小さな感情が芽生えたのだった。

 

 

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