ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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10話 変態とか言う

 

 キャンディータウン近海。

 漂うブロックに2人ほど乗っている。

 進む先は、キャンディータウン。

 

「キャンディータウンに何があんの?」

「なんでも、一風変わった海賊が来てるらしいよ」

「海賊ぅ?」

「心当たりない?」

「……あのチンケな二人組のこと?」

 

 星街すいせいにも、AZKiにも新しい記憶。

 サクラカゼにてみこを捕らえ損ねたのは、その二人組がいたから。

 

「能力者だから捕まえに行くっての?」

「それはもう少し様子見てからにするけどね」

「じゃあ何しにいくわけ」

 

 すいせいの言葉に少しだけ紛れる怒気。

 AZKiは苦笑してすいせいの額に指を当てる。

 

「あそこには1人、洗脳状態の人がいる」

 

 その一言にすいせいは嫌悪感を見せた。

 AZKiの苦笑は深くなって苦笑ではなくなる。

 

「まさかとは思うけど、万が一の為の偵察」

「……1人でやれよ」

「すいちゃんがいた方が移動が楽だから」

「あっそ」

 

 取り繕うことすらしない。

 2人の関係は良好ではないようだ。

 

「ほらほら、見えて来たよ」

 

 キャンディータウンが小さく肉眼で見え始める。

 あと10分から15分で到着するだろう。

 その頃、果たして島内は、どのように渦巻いているだろうか。

 

 

 

          *****

 

 

 

 城の裏門から2人がこっそりと出て行った。

 真っ直ぐと海岸へと向かってゆく。

 その光景を密かに観察していたラプラスは、隠れる場の少ないその道に小さな体を隠して尾行した。

 

「ルーナさん……」

 

 フブキに従うように背後につくルーナ。

 そこから距離を置いて追尾するラプラス。

 海岸に、何の用だろう?

 船は見えないため、トンズラしたりはしない。

 

「……トワさん達に伝えに戻ろうかな」

 

 微かな逡巡が脳内で反響するが、見張りの重大さを再認識する事で止まる。

 しかし、ラプラス1人で打破できる相手にない事は自覚している。

 連絡手段もないので、打つ手がない。

 いざとなれば捨て身で……。

 

「何を待ってるのら?」

「知らない!」

 

 フブキは少し叫んだ。

 無意識下で強制的にこの場へ連れられたのだろう。

 ルーナは警戒心を高めた。

 まだ海岸には何もないが、わざわざ呼び寄せるなら、ここが合流地点の可能性が高い。

 ルーナは基本フブキに従う事にしているが、国を離れる訳にはいかない。

 このまま違法出国するならば、抵抗も視野に入れる。

 

「こら! フブちゃん!」

 

 ラプラスの背後から物凄い勢いで坂を下る者が現れた。

 羽織った服と帽子を靡かせ、胸を揺らして、呼吸荒く2人に駆け寄る。

 そう、宝鐘マリン。

 

「な、なんで……!」

「よくこんな早く気づいたのらね」

「すこだワの絆です!」

 

「なんだよそれ……」

 

 フブキとルーナに胸を張るマリン。

 影からこっそりラプラスが突っ込んでも、誰1人気付かない。

 

「1人?」

「絆の勘で来たので、誰にも伝えてません!」

 

「それ威張るなよ……」

 

 ラプラスの密かなツッコミは誰も拾えない。

 

「でも、それなら吾輩が」

 

 マリンの登場により、見張りと足止めの両方を担う必要がなくなる。

 その枷が外れたラプラスは、迷わず浜を後にする。

 他の全メンバーを呼んで、たった1人を包囲してしまおう。

 

 マリンが潜んでいたラプラスを認識していたのかは釈然としないが好都合。

 

「さあフブちゃん、観念しなさい! 悪役なんて似合ってないでしょ!」

「似合うって何ですか! 私の何を知ってると言うんですか!」

「ルーナたんも! もう大丈夫ですから、赤ちゃんに戻りなさい!」

「……???」

 

 大層な悪役、ご立派なお姫様。

 どちらも役に嵌りきってない。

 フブキもルーナも疑問符しか浮かばない。

 マリンの正体どころか、外形すらまともに掴めていない今、何を言われても響かない。

 寧ろ、圧倒的なこの不信感に疑心を抱くだけ。

 

「訳わかんない事言って……目的は知りませんけど、タイマンで今の白上に勝てると思ってんの?」

「スバル先輩から聞きました。弱点が分かる能力ですね」

 

 マリンは自身の最大の弱点を理解していない。

 拳交える戦いは不得意だが、他にも弱点は沢山ある。

 だから、何だとは言えないが。

 

「残念だけど、今の白上はその上の段階にいる」

「え、そうなの?」

「そう、今の白上は、相手の好嫌い、弱点など、サーチした物や事をその場に引き起こせる」

「……ポルカのやつはそういう」

 

 突如の大雨に見舞われたという証言。

 それは、ポルカの低気圧によるダウンをサーチしたフブキによる現出。

 城襲撃からこの日までの短期間で能力を成長させている。

 

「お前の弱点を、見せろ――サーチスコープ」

 

 両手で枠を作り、枠からマリンをロックオン。

 弱点を探る。

 マリンに、最も有効な手段が、フブキの目を通して脳内に映る。

 

「…………っ!」

 

 次の瞬間、場が凍りつく。

 言葉通りの意味でなく、比喩的な意味で。

 マリンは、あらゆる危険に備え、身構えるのだが、何も起きない。

 ルーナも如何なる現象に見舞われる覚悟ができていた。

 しかし、待てども静寂を波音が裂くだけ。

 

 フブキが擬似スコープを固定して震える。

 心なしか、紅潮しているような……。

 

「このっ――ヘンタイッ‼︎」

「え! 急にどしたん⁉︎」

「……否定はしないのらね」

 

 やっと腕を下ろしたと思えば唐突な罵倒。

 マリンは自覚アリのため、本当に突然事実を述べられただけ。

 呆れてルーナも嘆息していた。

 

「で、船長の弱点、何が見えたんですか?」

「うるさいうるさい!」

「…………」

 

 何だこの反応。

 マリンへの有効手段、一体何が見えたのか。

 ルーナも怪訝そうに眉を寄せる。

 顔が更に赤らんで、フブキはその顔を手で覆い隠す。

 

 考えてみれば、有効な手段が使えない場合、フブキは無能力者と同等の存在へと成り下がる。

 唯一の力が無効化され、テンパるのも無理ないが、あまりにも大袈裟。

 感情が何かに揺さぶられているようで……。

 

「まさか……」

 

 ルーナは、一歩引いてマリンを見た。

 異なる淡い色彩の瞳で、マリンをじっと見つめた。

 

「な、なんか急に全身が……変?」

 

 不気味なパワーがマリンの体内を駆け巡り、身体をすり抜けてオーラのように周囲に漂う。

 そのオーラは、マリン含め誰にも見えないが、常に醸し出している。

 

「ちょっとルーナ姫! もしかして――!」

「ほらフブちゃん、観念しなさい!」

「っ――!」

 

 マリンが一歩砂に強く踏み込むと、フブキが顔面を真っ赤にして後退する。

 マリンから激しく距離を取る。

 

「ちょっ……凹む」

「ヘンタイは無傷だったのに」

 

 ルーナのため息は吐くたびに強くなる。

 だが、呆れつつも、マリンに何か期待を寄せている。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「――?」

 

 フブキが少し離れて荒く呼吸していた。

 胸を押さえて、脈を弱めようとしていた。

 頭を叩いて煩悩を振り払おうとしていた。

 

「フブちゃん……? 大丈夫?」

「っ……はぁ、はぁ、はぁ……マリンちゃん……」

「――‼︎」

 

 名乗っていない名を、ちゃん付けで呼ばれた。

 今までのように。

 

「フブちゃ――ぇ?」

「マリンちゃん……」

 

 記憶の復活を期待したマリンが叫びかけて止まる。

 フブキが予想もできない奇行に出た。

 

「ななななななななな!」

「はぁはぁはぁはぁ」

 

 乱れる呼吸と回らない呂律。

 フブキは自身の服のボタンを外して、そう、脱いだ。

 

「落ち着けマリン! 了解! 落ち着けフブちゃん! 冷静になって!」

「ふふ……」

 

 数歩、マリンへと近付く。

 普段は感じられない色気のある微笑を浮かべて、今度はスカートに手をかける。

 するするする、と瞬く間にスカートが地に落ち、素晴らしきパンツがマリンの瞳に焼き付けられる。

 

「ダメダメダメダメダメダメ!」

「ふぅ……はぁ……」

 

 今度はシャツに手をかけた。

 数歩、マリンへと近付く。

 

「ダメだフブちゃん! それ以上は、フブちゃんじゃなくなっちゃう!」

「えへへ」

 

 火照った頬と、誘惑に落ちたようなドロッとした瞳。

 シャツが肌を離れ、砂の上へと舞い落ちた。

 フブキの着衣物は、残す所、ブラジャーとパンツのみ。

 

「もうダメ、ホンッとにダメ! これ以上はR-18になっちゃうから! 全年齢向けじゃなくなっちゃうから!」

「マリンたーん、ちゅーき」

「ノォぉーーーーー‼︎」

 

 マリンを見つめて愛を囁いき、小さな口先を相手の口元へと寄せる。

 似つかわしくないフブキの発情した様が、マリンの眼前にある。

 マリンの脳は弾けた。

 

 見てはいけない。

 ブラやパンツを外した彼女の姿を。

 決して、決して! 見てはいけない!

 

 と言い聞かせ、顔を覆う両手は目元だけ塞いでいない。

 寧ろ、脱ぐ瞬間とキスを待ち侘びている。

 

「はっ…………? あれ?」

「あれ?」

「……ビックリしたのら」

 

 フブキの目が明るさを取り戻した。

 いつもの元気溌剌とした瞳。

 今の記憶が無いと言わんばかりに周囲を見回す。

 ルーナとマリンの存在を確認して。

 更に疑問符を浮かべる。

 

「戻っ……た?」

「私……今まで何を……」

 

 フブキはまるで記憶なしと、土地も見知らぬと不安げに眉を寄せて、困惑していた。

 だが、その困惑は次の瞬間、全く別の感情で塗り替えられる。

 

「ってか、さむッ…………」

 

 直接肌へ伝わる冷たい海風に身体を抱けば、肌の感触。

 おかしい。

 あるはずの布生地がない。

 無くてはならない着衣物が不足しまくっている。

 

「いやァァァァァァァ‼︎‼︎」

 

 絶叫はマリンとルーナの耳を引き裂いて、島に響いた。

 

 

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