ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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112話 白銀ノエル

 

「――と言う事なんだけど、どう?」

 

 王室へ連れ込まれたねねとフレアは、王座の前に立つかなたからとある説明と提案を受けていた。

 それを聞き終え、2人はほぼ初対面ながら顔を見合わせて首を傾げた。

 

「……ねねが、騎士団に入るの?」

「そう」

「なんであたしが……?」

「何となく。適正を直感しただけ」

 

 かなたは笑いながら話を進める。

 

「ノエルちゃんと……アイツが居なくなって席がふたつ開いちゃったからさ」

「――どっちか団長になるの?」

「いやいや、団長は……順当に行けば、わためかあやめちゃんだね」

 

 扉前で仁王立ちする勇ましい姿のあやめに目を向けると、静かに首を振っていた……左右に。

 

「2人とも、入ってみない?」

「「――」」

 

 ねねもフレアも答えに悩んでいた。

 今直ぐに入団できなくは無いが……。

 

 2人みたいな奴らが、かなたの推薦だけで入っていいのだろうか?

 

 その時、こんこんこん、と突如扉がノックされた。

 

「――? どうぞ」

 

 礼儀正しい所作に困惑しつつ、かなたは入室を許可した。

 あやめが半身下がって扉との接触を避ける。

 開く扉から入室してきたのは――

 

「お邪魔するよ〜……ありゃ、取り込み中やった?」

「……」

 

 ノエルだ。

 朗らかな声色でかなたに尋ねるが、何故かかなたは寂しそうな儚い笑いを浮かべた。

 

「んーん、大丈夫。どうかした?」

「うん、これを提出しに」

 

 あやめの傍を通り、ねねとフレアも追い越して、かなたの仕事用デスクに一つの書類を差し出した。

 

「本当に、辞めちゃうんだ?」

 

 今し方話していた所だが、かなたはノエルにそう聞き返した。

 ノエルを困らせる様に声を調節したが、決意は硬い様で「うん」と頷かれ、かなたはノエルを引き留めることを諦める。

 

「今でも、かなたんが誘ってくれた時の事は覚えちょる。お陰で今日まで本当に楽しくて――文句ひとつない日々だった」

「なら、ここに居てくれればいいのに」

 

 ノエルのお世辞じみた言葉を前に、かなたは引き留めたい欲が復活した。

 

「んーん……やっと、見つけたんよ、やりたい事」

「やれやれ……何年もかけて見つけたやりたい事が、海賊って……どんな神経よ全く」

「あー、それ、差別と偏見」

「そんな侮辱的な意味じゃないって」

 

 かなたを発言をノエルは茶化す。

 

 今時海賊なんて滅多に見ないし、聞かない。

 かなたが耳にした事のある海賊と言えば、ゼロ海賊団と宝鐘海賊団だけ。

 如何なる目的で海へ漕ぎ出したのだろうか。

 

「わざわざ海賊じゃなくても、まつりちゃんの船とか、ぺこらちゃんの組織とかもあるのにって話」

「それは縁があったから、かな。それにかなたんも感じちょるんでしょ? トワちゃんの変化」

「……うん」

 

 今のトワはもう、かなたの知るトワではなかった。

 その原因がどこにあるのか、何がトワに変化を齎したのか、洗脳解除直後でもよく分かる。

 

「あの船なら――マリンの船に乗ったら、きっと世界が変わる」

「そうかもね」

 

 

 ノエルの眼差しに微笑み返しながら、少し昔のことを思い出していた。

 昔と言っても6年ほど前。

 

 

 

 その日も至って普通の平和な日。

 

 港に数隻の船が来航し、様々な積荷を下ろしたり、乗せたりと忙しい昼下がり。ある船に警備員として乗っていたノエルを見つけたのだ。

 大した積荷も無ければ、大層な人物が乗船している訳でもない、ただの船。

 警備服を暑そうに着用しながら、退屈そうに荷物の往来を眺め、時折注意を促したりしていた。

 

 まるで人生に退屈しているその姿を前にして、思わずかなたは足を向けた。

 

『あー、ダメですよ、無関係の人が立ち入ったら』

 

 かなたを国の王とも知らず、最低限の表情を保ちながら進路を塞いだ。

 

『警備員でもしてるの?』

『……そうですよ。どうかしました?』

『何処の国?』

『アルマ、ですけど』

 

 機械の国アルマ。

 機械事業が群を抜いて発展している国だ。

 

『そっか。ねえ、ウチこない?』

『えっ……勧誘? やめてくださいよそう言うの』

『ウチの騎士団なら、もう少し楽しいと思うから』

『…………』

『退屈してるんじゃないの? 今の暮らし』

 

 ノエルは驚いて目を見開いていた。

 きっとノエルが分かり易いのではない、かなたの眼が鋭すぎるのだ。

 

『したい事とか、ない?』

『……初対面の人には言わんよ、そんな事』

 

 この時既に、ノエルはかなたの人望に惹かれていた。

 だが、初対面で包み隠さず、とは行かない。

 ノエルはそっぽ向いて仕事をしているふりをした。

 

『はいこれ』

『……』

『僕の名刺みたいな物。僕は基本あのお城に居るから、気が向いたら来て』

『……』

『邪魔してごめんね、じゃあ』

 

 ぱたぱたと小さく手を振って立ち去る。

 その背を黙って見送っていたが、ノエルは不意に口を開いた。

 

『なんで、ノエちゃんなんかを誘うの? 長所なんて、見えてないのに』

『キミが変化を望んでいたから。そんな人を見ると、声を掛けたくなるんだ。笑いたいのに笑えないなんて、勿体無い。僕は生まれ持ったこの権力で、そんな人達を笑顔にしたい』

 

 僅かに距離があったが、かなたは面と向かって答えを出した。

 自らの意思を誇る様に胸を張り、最後に笑う。

 

『じゃあね』

 

 と、再び手を振って別れた。

 

 ノエルがかなた城まで足を運んだのは、その1ヶ月後。

 その日から騎士団の一員として活躍を始め、やがて団長まで上り詰めた。

 

 

 

 閉じていた目を開き、かなたはノエルを見つめ直した。

 

「受理するよ。今日まで、ありがとう」

「んーん、こっちこそ」

 

 こうしてノエル脱退の手続きは滞りなく終了する。

 

「ほら、こんな感じで……いつでも……」

「「「――――????」」」

 

 ねねとフレアに視線を移し、何かを途中まで言いかけたが、かなたは口を噤んだ。

 息を飲むと喉がなる。

 

「うん、ねえ……入らない? 2人とも」

 

 強引に言葉を繋いだ。

 

「――ねね入る」

 

 間髪入れずに答えた。

 かなたが嬉しそうに笑う。

 

「ねねが入ってあげる!」

「――――」

 

 かなたは瞳孔を広げた。

 ねねのこの態度の変化……。

 かなたの想像以上に、ねねは天才なのかもしれない。

 

「まあ、あたしも……入ってもいいかも」

 

 フレアも流れに乗せられて賛同してしまう。

 かなたの笑みが戻る。

 

「……ありがとう」

「――かなたん?」

 

 かなたの反応に違和感を覚え始めたあやめが、一歩前へ進み出た。

 

「ねえ! ねね団長やるよ!」

「あっはは、それは無理!」

「ええ‼︎」

 

 ねねの冗談……?に阻まれて、あやめの憂慮は流される。

 そのまま話は進んでゆく。

 

「じゃあ後で仕事を回すから別の部屋で待ってて。あやめちゃんと『団長』も、ありがとう」

「――」

 

 フレアとノエルが言葉に甘え真っ先に退室。

 あやめはかなたの様子を伺いながら渋々部屋を後にする。

 そしてねねとかなたが部屋に残る。

 

「ねねね、辞めないよ! 絶対!」

「――」

 

 ねねは息巻いて豪語するが、気が早すぎる。

 できない約束はするべきでは無い。

 

「ありがとう。ほら、行って。僕は別のやる事があるから」

「うん」

 

 追い出す様にねねを退室させた。

 その後、かなたは放送でルーナを王室まで呼んだのであった……。

 

 

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