「――と言う事なんだけど、どう?」
王室へ連れ込まれたねねとフレアは、王座の前に立つかなたからとある説明と提案を受けていた。
それを聞き終え、2人はほぼ初対面ながら顔を見合わせて首を傾げた。
「……ねねが、騎士団に入るの?」
「そう」
「なんであたしが……?」
「何となく。適正を直感しただけ」
かなたは笑いながら話を進める。
「ノエルちゃんと……アイツが居なくなって席がふたつ開いちゃったからさ」
「――どっちか団長になるの?」
「いやいや、団長は……順当に行けば、わためかあやめちゃんだね」
扉前で仁王立ちする勇ましい姿のあやめに目を向けると、静かに首を振っていた……左右に。
「2人とも、入ってみない?」
「「――」」
ねねもフレアも答えに悩んでいた。
今直ぐに入団できなくは無いが……。
2人みたいな奴らが、かなたの推薦だけで入っていいのだろうか?
その時、こんこんこん、と突如扉がノックされた。
「――? どうぞ」
礼儀正しい所作に困惑しつつ、かなたは入室を許可した。
あやめが半身下がって扉との接触を避ける。
開く扉から入室してきたのは――
「お邪魔するよ〜……ありゃ、取り込み中やった?」
「……」
ノエルだ。
朗らかな声色でかなたに尋ねるが、何故かかなたは寂しそうな儚い笑いを浮かべた。
「んーん、大丈夫。どうかした?」
「うん、これを提出しに」
あやめの傍を通り、ねねとフレアも追い越して、かなたの仕事用デスクに一つの書類を差し出した。
「本当に、辞めちゃうんだ?」
今し方話していた所だが、かなたはノエルにそう聞き返した。
ノエルを困らせる様に声を調節したが、決意は硬い様で「うん」と頷かれ、かなたはノエルを引き留めることを諦める。
「今でも、かなたんが誘ってくれた時の事は覚えちょる。お陰で今日まで本当に楽しくて――文句ひとつない日々だった」
「なら、ここに居てくれればいいのに」
ノエルのお世辞じみた言葉を前に、かなたは引き留めたい欲が復活した。
「んーん……やっと、見つけたんよ、やりたい事」
「やれやれ……何年もかけて見つけたやりたい事が、海賊って……どんな神経よ全く」
「あー、それ、差別と偏見」
「そんな侮辱的な意味じゃないって」
かなたを発言をノエルは茶化す。
今時海賊なんて滅多に見ないし、聞かない。
かなたが耳にした事のある海賊と言えば、ゼロ海賊団と宝鐘海賊団だけ。
如何なる目的で海へ漕ぎ出したのだろうか。
「わざわざ海賊じゃなくても、まつりちゃんの船とか、ぺこらちゃんの組織とかもあるのにって話」
「それは縁があったから、かな。それにかなたんも感じちょるんでしょ? トワちゃんの変化」
「……うん」
今のトワはもう、かなたの知るトワではなかった。
その原因がどこにあるのか、何がトワに変化を齎したのか、洗脳解除直後でもよく分かる。
「あの船なら――マリンの船に乗ったら、きっと世界が変わる」
「そうかもね」
ノエルの眼差しに微笑み返しながら、少し昔のことを思い出していた。
昔と言っても6年ほど前。
その日も至って普通の平和な日。
港に数隻の船が来航し、様々な積荷を下ろしたり、乗せたりと忙しい昼下がり。ある船に警備員として乗っていたノエルを見つけたのだ。
大した積荷も無ければ、大層な人物が乗船している訳でもない、ただの船。
警備服を暑そうに着用しながら、退屈そうに荷物の往来を眺め、時折注意を促したりしていた。
まるで人生に退屈しているその姿を前にして、思わずかなたは足を向けた。
『あー、ダメですよ、無関係の人が立ち入ったら』
かなたを国の王とも知らず、最低限の表情を保ちながら進路を塞いだ。
『警備員でもしてるの?』
『……そうですよ。どうかしました?』
『何処の国?』
『アルマ、ですけど』
機械の国アルマ。
機械事業が群を抜いて発展している国だ。
『そっか。ねえ、ウチこない?』
『えっ……勧誘? やめてくださいよそう言うの』
『ウチの騎士団なら、もう少し楽しいと思うから』
『…………』
『退屈してるんじゃないの? 今の暮らし』
ノエルは驚いて目を見開いていた。
きっとノエルが分かり易いのではない、かなたの眼が鋭すぎるのだ。
『したい事とか、ない?』
『……初対面の人には言わんよ、そんな事』
この時既に、ノエルはかなたの人望に惹かれていた。
だが、初対面で包み隠さず、とは行かない。
ノエルはそっぽ向いて仕事をしているふりをした。
『はいこれ』
『……』
『僕の名刺みたいな物。僕は基本あのお城に居るから、気が向いたら来て』
『……』
『邪魔してごめんね、じゃあ』
ぱたぱたと小さく手を振って立ち去る。
その背を黙って見送っていたが、ノエルは不意に口を開いた。
『なんで、ノエちゃんなんかを誘うの? 長所なんて、見えてないのに』
『キミが変化を望んでいたから。そんな人を見ると、声を掛けたくなるんだ。笑いたいのに笑えないなんて、勿体無い。僕は生まれ持ったこの権力で、そんな人達を笑顔にしたい』
僅かに距離があったが、かなたは面と向かって答えを出した。
自らの意思を誇る様に胸を張り、最後に笑う。
『じゃあね』
と、再び手を振って別れた。
ノエルがかなた城まで足を運んだのは、その1ヶ月後。
その日から騎士団の一員として活躍を始め、やがて団長まで上り詰めた。
閉じていた目を開き、かなたはノエルを見つめ直した。
「受理するよ。今日まで、ありがとう」
「んーん、こっちこそ」
こうしてノエル脱退の手続きは滞りなく終了する。
「ほら、こんな感じで……いつでも……」
「「「――――????」」」
ねねとフレアに視線を移し、何かを途中まで言いかけたが、かなたは口を噤んだ。
息を飲むと喉がなる。
「うん、ねえ……入らない? 2人とも」
強引に言葉を繋いだ。
「――ねね入る」
間髪入れずに答えた。
かなたが嬉しそうに笑う。
「ねねが入ってあげる!」
「――――」
かなたは瞳孔を広げた。
ねねのこの態度の変化……。
かなたの想像以上に、ねねは天才なのかもしれない。
「まあ、あたしも……入ってもいいかも」
フレアも流れに乗せられて賛同してしまう。
かなたの笑みが戻る。
「……ありがとう」
「――かなたん?」
かなたの反応に違和感を覚え始めたあやめが、一歩前へ進み出た。
「ねえ! ねね団長やるよ!」
「あっはは、それは無理!」
「ええ‼︎」
ねねの冗談……?に阻まれて、あやめの憂慮は流される。
そのまま話は進んでゆく。
「じゃあ後で仕事を回すから別の部屋で待ってて。あやめちゃんと『団長』も、ありがとう」
「――」
フレアとノエルが言葉に甘え真っ先に退室。
あやめはかなたの様子を伺いながら渋々部屋を後にする。
そしてねねとかなたが部屋に残る。
「ねねね、辞めないよ! 絶対!」
「――」
ねねは息巻いて豪語するが、気が早すぎる。
できない約束はするべきでは無い。
「ありがとう。ほら、行って。僕は別のやる事があるから」
「うん」
追い出す様にねねを退室させた。
その後、かなたは放送でルーナを王室まで呼んだのであった……。