「なに、また急に放送なんかで呼び出して」
「何だと思う?」
「んなたんが聞いてるのらけど?」
「当ててみてよ」
かなたの呼び出しを喰らって王室に出向いたルーナ。
入室早々に要件を聞くがかなたがゲームと称して用を当てろと言い出した。
膨れてみるがかなたはその姿勢を崩さない。
普段ならルーナの真横まで歩み寄ってくるものなのだが、何故か妙な距離を感じる。
表情に変化は見受けられないが、声を繰り返し聞いていれば何となく違和感を覚え始める。
そう思い込めば先入観が邪魔をして、もうかなたのメンタルが崩れているとしか見れなくなった。
「降参」
「もっと考えてよ」
「メンヘラみて〜な事言ってんじゃね〜よ」
下手に触れて刺してしまう事を恐れたが、かなたが鬱陶しくルーナに絡む。
軽くため息を吐いて揶揄うと小さく口を開いた。
「メンタル来てるのは分かったけど、理由までは分かんね〜のら」
「流石じゃん」
「――何? 何があったのら?」
気を紛らそうとしているのか、中々切り出す素振りを見せないのでルーナは再度率直に尋ねる。
がしかしそれでも、かなたは後めたそうに微笑を浮かべて時間を稼ぐ。
焦ったくなるが、ルーナはテキトーに髪を梳いて誤魔化した。
「――……」
何かを自分の中で飲み込むまでかなたは眉や口、喉を震わせていた。
全て飲み干したのか、やがてニコッと笑ってルーナに歩み寄り、重たい口を開けた。
「いや〜ごめんね、わための事――」
「……」
その一言にルーナは眉をピクリと動かした。
「……わための話はいい」
「…………」
ルーナはわためが団長を抜けたあの日から、ずっとわためを許していない。
本人に言う機会が無かったから、ではなく、ルーナがずっと怒っているから、だ。
無理だ。
戯けてゆるりと謝って終わる予定だった。
でも無理だ。
ルーナのこの態度を見ていると、自分の行為が卑怯な物だと自覚させられる。
「ごめん……ごめん…………!」
「――ああ? なんで急に……泣くんだよぉ」
かなたが堰き止めていた涙をうるうると滲ませて、やがて溢し始める。
ぽたぽたと垂れていた涙は瞬く間に滝のように流れた。
洗脳解放直後で、かなたも整理がついていないのだ。
なのに王座につく者だからと気を張って、周囲の者たちの事ばかり考えて、抱えてしまった。
加えて今し方口にした、数年前のわための件。
ずっとルーナに罪悪感を抱いていた。
「ホントにごめんね……泣きたぐ、無いんだけど……!」
「はあ?」
仲良しとは言え他国の王座につく者同士。
出会う機会は少なく、ルーナはかなたの涙を見た事がない。
こんな時、どう言葉をかければ良いのか、パッと浮かばなかった。
「雑に、わための事謝って、終わろうと、思ってたんだけど――」
「――――」
「ずるいよねそんなの――ごめん」
「わための話はいいって」
「違うのルーナ。お願い、僕の事は嫌いになってもいいから、わための事は嫌いにならないであげて」
涙を抑えながら、かなたは懇願した。
言っている意味がいまひとつ理解できず、ルーナは一層困惑する。
「わための移籍、あれ、唆したの僕なの」
「んなぁ?」
何を言い出すかと思えば、そんな事。
益々混乱した。
「んな事は1年以上前に気付いたのらよ」
「ぇ…………」
「何をそんな思い詰めてんのら? 落ち着いて、話くらい……ん〜、多分聞くから」
最後を曖昧にしたのは恐らく、たった今わために関する話を遮ってしまったからだろう。
かなたは想像以上のルーナの鋭さに驚愕し、涙が止まった。
ルーナに諭されると同時に、目頭に溜まった涙が溢れ、視界が晴れる。
赤くなった目を擦って更に赤くした。
「洗脳とかの調査をするから、側に信頼できる人を置きたかったんでしょ」
「うん……」
ルーナは当時のかなたの思惑を完璧に言い当てた。
無論、わために別方面での成長の可能性を感じた事や、仕事のこなし方が向いていないと思ったことも事実だが。
ルーナはそっとかなたの頭を撫でた。
「そんな事んなたんは分かってるのらよ」
「……」
「何で急に、こんな事になっちまったのら……? 仕事疲れ? 洗脳疲れ?」
ルーナは真っ先に原因究明から入る。
洗脳疲れ、などと言った聞き馴染みのない単語まで飛び出した。
「ノエルちゃんが、騎士団を辞めて……ラミィは裏切ってたし、わためは記憶を取られちゃうし……」
「――――」
「こんなに、悲しいんだね――人がいなくなるのって」
分かっていたはずなのに、仲間が離れて行く姿を目にすると、耐えられない。
「はぁ……やっと分かった?」
「うん」
世界の為だと銘打って、かなたはルーナからわためを奪った。
仕方が無いで片付けられない。
「でもねあまねちゃ、んなたんが――んなたんがわために怒ってるのは、別の事なのらよ」
「……そう、なの?」
「そうなのら」
わための名前が上がる度に、ルーナの目付きは悪くなる。
かなたは涙を完全に拭って、視線を返した。
「それが何か、聞いてもいい?」
「……」
珍しく黙秘した。
ルーナもかなたも、国の頂点に立つには若過ぎる。
苦労も絶えない。
「僕がこんな事言うの、変だけど。わための事助けてさ、ちゃんと話し合ってほしい」
「――」
「ずっとルーナの事、気にしてるみたいだったし」
「――しらね」
情に訴えると、ルーナはツンとしてそっぽを向いた。
かなたが寂しそうに眉を寄せると、ルーナは困った様に視線を向ける。
「……っても、どの道助ける事にはなるから、その時次第なのらね」
あくまでわための在り方次第だと明言した。
それでもかなたは安堵して胸を撫で下ろす。
「でもねあまねちゃ、これだけは知っといてほしいのらけど」
「――うん。なに?」
「ルーナはあまねちゃが思ってる様な人格じゃねぇ」
「……どう、かな。案外その通りかもしれないよ」
「――――それだと困るのらよ」
剣幕な表情で向き合った。
「ルーナにだって、隠したい事くらいあるのらから」
それがバレてしまっては堪らない。
「……んな事より、あまねちゃ。ねねちゃんを騎士団に入れようとしてたよなぁ」
「へ……? ああ………ふふふ、なに? 嫉妬〜?」
「べっつに〜」
心機一転、話題も変わり、空気もガラッと変わる。
かなたが揶揄うとルーナはまた小さく膨れてそっぽ向いた。
「ねねちゃんの人生だから文句言わないけど。泣かせたら怒るのらよ」
「ルーナこそ。みんなを助けてこれなかったら、怒るからね」
そうして話は決着した。
数秒沈黙が訪れ、何故か気まずくなったのでルーナが退室するそぶりを見せた。
かなたは頷き間近の入り口まで送る。
そして――
「ごめんね、本当に。それと、ありがとう」
「――戻って来たら、話聞けよ」
「――」
ルーナはかなたの部屋を後にした。