ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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113話 かなたより

 

「なに、また急に放送なんかで呼び出して」

「何だと思う?」

「んなたんが聞いてるのらけど?」

「当ててみてよ」

 

 かなたの呼び出しを喰らって王室に出向いたルーナ。

 入室早々に要件を聞くがかなたがゲームと称して用を当てろと言い出した。

 膨れてみるがかなたはその姿勢を崩さない。

 

 普段ならルーナの真横まで歩み寄ってくるものなのだが、何故か妙な距離を感じる。

 表情に変化は見受けられないが、声を繰り返し聞いていれば何となく違和感を覚え始める。

 そう思い込めば先入観が邪魔をして、もうかなたのメンタルが崩れているとしか見れなくなった。

 

「降参」

「もっと考えてよ」

「メンヘラみて〜な事言ってんじゃね〜よ」

 

 下手に触れて刺してしまう事を恐れたが、かなたが鬱陶しくルーナに絡む。

 軽くため息を吐いて揶揄うと小さく口を開いた。

 

「メンタル来てるのは分かったけど、理由までは分かんね〜のら」

「流石じゃん」

「――何? 何があったのら?」

 

 気を紛らそうとしているのか、中々切り出す素振りを見せないのでルーナは再度率直に尋ねる。

 がしかしそれでも、かなたは後めたそうに微笑を浮かべて時間を稼ぐ。

 焦ったくなるが、ルーナはテキトーに髪を梳いて誤魔化した。

 

「――……」

 

 何かを自分の中で飲み込むまでかなたは眉や口、喉を震わせていた。

 全て飲み干したのか、やがてニコッと笑ってルーナに歩み寄り、重たい口を開けた。

 

「いや〜ごめんね、わための事――」

「……」

 

 その一言にルーナは眉をピクリと動かした。

 

「……わための話はいい」

「…………」

 

 ルーナはわためが団長を抜けたあの日から、ずっとわためを許していない。

 本人に言う機会が無かったから、ではなく、ルーナがずっと怒っているから、だ。

 

 無理だ。

 戯けてゆるりと謝って終わる予定だった。

 でも無理だ。

 ルーナのこの態度を見ていると、自分の行為が卑怯な物だと自覚させられる。

 

「ごめん……ごめん…………!」

「――ああ? なんで急に……泣くんだよぉ」

 

 かなたが堰き止めていた涙をうるうると滲ませて、やがて溢し始める。

 ぽたぽたと垂れていた涙は瞬く間に滝のように流れた。

 洗脳解放直後で、かなたも整理がついていないのだ。

 なのに王座につく者だからと気を張って、周囲の者たちの事ばかり考えて、抱えてしまった。

 

 加えて今し方口にした、数年前のわための件。

 ずっとルーナに罪悪感を抱いていた。

 

「ホントにごめんね……泣きたぐ、無いんだけど……!」

「はあ?」

 

 仲良しとは言え他国の王座につく者同士。

 出会う機会は少なく、ルーナはかなたの涙を見た事がない。

 こんな時、どう言葉をかければ良いのか、パッと浮かばなかった。

 

「雑に、わための事謝って、終わろうと、思ってたんだけど――」

「――――」

「ずるいよねそんなの――ごめん」

「わための話はいいって」

「違うのルーナ。お願い、僕の事は嫌いになってもいいから、わための事は嫌いにならないであげて」

 

 涙を抑えながら、かなたは懇願した。

 言っている意味がいまひとつ理解できず、ルーナは一層困惑する。

 

「わための移籍、あれ、唆したの僕なの」

「んなぁ?」

 

 何を言い出すかと思えば、そんな事。

 益々混乱した。

 

「んな事は1年以上前に気付いたのらよ」

「ぇ…………」

「何をそんな思い詰めてんのら? 落ち着いて、話くらい……ん〜、多分聞くから」

 

 最後を曖昧にしたのは恐らく、たった今わために関する話を遮ってしまったからだろう。

 かなたは想像以上のルーナの鋭さに驚愕し、涙が止まった。

 ルーナに諭されると同時に、目頭に溜まった涙が溢れ、視界が晴れる。

 赤くなった目を擦って更に赤くした。

 

「洗脳とかの調査をするから、側に信頼できる人を置きたかったんでしょ」

「うん……」

 

 ルーナは当時のかなたの思惑を完璧に言い当てた。

 無論、わために別方面での成長の可能性を感じた事や、仕事のこなし方が向いていないと思ったことも事実だが。

 

 

 ルーナはそっとかなたの頭を撫でた。

 

 

「そんな事んなたんは分かってるのらよ」

「……」

「何で急に、こんな事になっちまったのら……? 仕事疲れ? 洗脳疲れ?」

 

 ルーナは真っ先に原因究明から入る。

 洗脳疲れ、などと言った聞き馴染みのない単語まで飛び出した。

 

「ノエルちゃんが、騎士団を辞めて……ラミィは裏切ってたし、わためは記憶を取られちゃうし……」

「――――」

「こんなに、悲しいんだね――人がいなくなるのって」

 

 分かっていたはずなのに、仲間が離れて行く姿を目にすると、耐えられない。

 

「はぁ……やっと分かった?」

「うん」

 

 世界の為だと銘打って、かなたはルーナからわためを奪った。

 仕方が無いで片付けられない。

 

「でもねあまねちゃ、んなたんが――んなたんがわために怒ってるのは、別の事なのらよ」

「……そう、なの?」

「そうなのら」

 

 わための名前が上がる度に、ルーナの目付きは悪くなる。

 かなたは涙を完全に拭って、視線を返した。

 

「それが何か、聞いてもいい?」

「……」

 

 珍しく黙秘した。

 ルーナもかなたも、国の頂点に立つには若過ぎる。

 苦労も絶えない。

 

「僕がこんな事言うの、変だけど。わための事助けてさ、ちゃんと話し合ってほしい」

「――」

「ずっとルーナの事、気にしてるみたいだったし」

「――しらね」

 

 情に訴えると、ルーナはツンとしてそっぽを向いた。

 かなたが寂しそうに眉を寄せると、ルーナは困った様に視線を向ける。

 

「……っても、どの道助ける事にはなるから、その時次第なのらね」

 

 あくまでわための在り方次第だと明言した。

 それでもかなたは安堵して胸を撫で下ろす。

 

「でもねあまねちゃ、これだけは知っといてほしいのらけど」

「――うん。なに?」

「ルーナはあまねちゃが思ってる様な人格じゃねぇ」

「……どう、かな。案外その通りかもしれないよ」

「――――それだと困るのらよ」

 

 剣幕な表情で向き合った。

 

「ルーナにだって、隠したい事くらいあるのらから」

 

 それがバレてしまっては堪らない。

 

「……んな事より、あまねちゃ。ねねちゃんを騎士団に入れようとしてたよなぁ」

「へ……? ああ………ふふふ、なに? 嫉妬〜?」

「べっつに〜」

 

 心機一転、話題も変わり、空気もガラッと変わる。

 かなたが揶揄うとルーナはまた小さく膨れてそっぽ向いた。

 

「ねねちゃんの人生だから文句言わないけど。泣かせたら怒るのらよ」

「ルーナこそ。みんなを助けてこれなかったら、怒るからね」

 

 そうして話は決着した。

 

 数秒沈黙が訪れ、何故か気まずくなったのでルーナが退室するそぶりを見せた。

 かなたは頷き間近の入り口まで送る。

 そして――

 

「ごめんね、本当に。それと、ありがとう」

「――戻って来たら、話聞けよ」

「――」

 

 ルーナはかなたの部屋を後にした。

 

 

 

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