記憶奪還作戦に参加するメンバーが決定して、もう2日が経つ。
だが、やはり幾ら調べても、ルイ達の足取りは掴めず、一同は出航できずにいた。
スタートから難航し、天運に任せての出航の可能性も浮上し始める。
「はぁ……」
アクアマリン号の手入れの為、港へと赴いていたマリンは雑な掃除と点検を終えて、大層なため息を吐いた。
港では朝から船の往来が絶えない。
「マリーン、部屋の準備終わった〜!」
「ありがとー!」
一時的に船員が増える為、各部屋の掃除などを任せていたポルカから終了の知らせ。
とは言っても、一味も増えて客室として機能する空き部屋が1つしかないので、一部は相室となる。
部屋割りは話し合いの結果次の様になった。
マリン部屋――マリン。
ポルカ部屋――ポルカ、ぼたん。
トワ部屋――トワ。
フブキ部屋――シオン。
おかゆ部屋――おかゆ、ミオ。
あくあ部屋――ラミィ。
みこ部屋――ルーナ、ちょこ。
ノエル部屋――ノエル。
空き部屋――いろは。
大方はマリンの勝手な采配となっている。
当初はラミィをノエルと相室にしようかと考えたが、想像以上に2人の仲が悪いので止めた。
元シエロソニード騎士団メンバーは、総じてラミィを嫌っているらしい。
裏切りが原因なので、自業自得としか言えないのだが、とても可哀想。
港を眺めるマリンの隣にポルカが並んだ。
「どうするよ。このままじゃ無限に船出せねぇけど」
「そうなんだよなぁ……ポルカ、何とかしてよ」
「そこは船長なんだからマリンがなんとかしろよ」
「船長をサポートするのが副船長の役目でしょ」
無茶苦茶理論で押し付け合う2人。
だが語気は弱く、相当参ってるようだ。
特にマリンは抱える物が多く、今尚のしかかる重圧は大きい。
「まあ、我々が焦っても仕方ないんで――この件は調査班に任せましょうよ」
「――そうですね」
かなた城を遠目に見つめ、2人は一度重荷を振り払う。
「――ん、マリン。あれトワ様じゃね」
「どこ――?」
「あれ、走ってくるの」
「ホントだ」
昼前の賑わう街を、人混みを掻き分けて港へ向かってくる者がいる。
目を凝らしてみれば、確かにトワだ。
ヤケに焦っている様に思えるが。
「どしたんだろ」
「またみこちが『マリンたんと一緒がいーいー』、とかごねてんじゃね?」
「似せる気ないでしょそれ」
「あんな声出せんて」
雰囲気だけの物真似に物申すとポルカからそんな反論が。
みこの声質は確かに誰にも真似できない愛らしさだ。
そうこうする間にトワが船まで到達。
大きく手を振って声を張り上げる。
「マリーン‼︎ ポルカー‼︎」
「はーい、なんかあったー⁉︎」
「分かったぞ‼︎」
「「――⁉︎」」
「分かったんだ‼︎ 居場所が‼︎」
マリンとポルカは弾かれた様に船を降り、トワの下へ飛んで行く。
「マジ⁉︎」
「マジ‼︎ 兎に角一緒に城へ来て!」
「あい!」「おう」
*****
トワの案内の元、かなた城の会議室に赴けば、各組織の長に加えてみこ、すいせいが同席していた。
そこへ、マリン、トワ、ポルカも入室。
「ルイの居場所が分かったって、本当?」
開口一番、マリンは真っ先に確認を取った。
間近の空席に座るよりも先に。
「トワ〜?」
「急いでたんだから仕方ないだろっ!」
「ん? どゆこと?」
「……違うみたいっすね」
かなたの揶揄う視線にトワが激しく反論する。
その様子を見て理解できないマリンと、理解したポルカ。
「とりま座りな、マリリン」
「隣失礼」
ぺこらに指摘されたのでぺこらの真横に座ったが、嫌な顔ひとつせず流されたので逆に悲しかった。
ポルカとトワも席に着くと、みこが誰よりも早く口を開いた。
「居場所が分かったのは、鷹嶺ルイじゃなくて、はあとちゃんだよ」
「はあちゃまの?」
「うん」
席を近付けて身を寄せるすいせいを引き離しながら、みこは主にマリンに伝達する。
それを耳にしたマリンは納得仕掛けたが、ふと思った。違いは何かと。
2人は行動を共にしている筈で、どちらかの居場所が割れればどちらの居場所も分かる。
「順序立てて説明するから、まずは聴いてね」
「はい!」
内心を見透かした様にAZKiが説明に入る。
誰よりも適任なのでマリンは口にチャックして聞きに徹した。
「はあとちゃんの『ナウナウの実』の力で、みこちゃんに位置情報が送られて来たの」
「ほうほう……ほうほう」
はあとの能力を思い出す事に数秒費やした。
以前のみこの説明では、自身と一度記憶した者の「今」を知る事ができ、それを他人に伝える事も可能、との事だった――はず!
「そこはみんなも知ってる場所――記憶の跡地」
「「「――――」」」
マリンがまつりと出会った場所であり、みこと再開した場所でもある。
「で、みこちゃんに送られて来た様子からするに、はあとちゃん1人しかいない」
「うん!」
随分と自信満々に頷くが、罠である事を考慮しているのだろうか。
AZKiが一息吐いたので、話の区切りと見てマリンは早速チャックを開く。
「はあちゃまはあの2人と仲間じゃないの?」
「少なくとも私が昔対峙した時は、はあとちゃんはいなかったから、仲間でない可能性はある」
「でも当然、罠である可能性も?」
「ある」
これに関しては、恐らく考えても答えは出ない。
実際に会って確かめる他にないだろう。
「居場所が分かったから、一応どうするか聞きたいんだけど――」
「行きますよ」
「――いい?」
「んな」
マリンの即答の後、AZKiはルーナに視線を移す。
同様に首肯が返され、最後に待機メンバーも一瞥。
首を横に振る者はいない。
「いつ出発する?」
「……明日の朝、で、間に合う?」
「んなたんは行けるのらよ」
「いろはちゃんは問題ないよ」
「ラミィちゃんも行けるぺこ」
「ししろんも、もう元気だから」
異論は無く、この流れで明日朝の出航が決まる。
「では直ちに全員に報告しましょう」
「そうだね。準備に人手が必要だったら、僕たちも手伝うよ」
「ありがとう」
「それじゃあ一旦解散」
一同は早速、明日の出航準備に取り掛かった。
*****
そして翌日、マリン号前に集う者たち。
「待っててねフブキ。きっと記憶を取り戻して来るから」
「うん……ありがとう」
フブキの頭に優しく手を乗せて微笑むミオ。
たった数日だが、寝食を共にした事で微かに心を開いてくれた。
それでもフブキの笑みがぎこちないのは、最早どうする事もできない。
フブキの隣に立つあくあの前に、おかゆが進み出る。
「きっと強くなって、みんなを連れて帰って来るから――それでも、好きでいてね」
「うん、いってらっしゃい」
あくあはおかゆの頰にそっと口付けをした。
恥じらいを見せず、2人は見つめ合い……。
おかゆとミオは乗船した。
船には既に、ポルカ、トワ、ぼたん、シオン、ラミィが乗っている。
「わための事、任せたよ」
「んなたんはしゅばとラプちゃんを助けに行くのら」
「……うん、それでいい」
「姫、行きましょう」
「ん」
ルーナとちょこも船へ。
「ノエルちゃん」
「――」
「楽しい航海をね」
「ありがとうね」
ノエルとかなたも挨拶を交わす。
「…………」
「あずきち」
いろはが言葉を詰まらせるAZKiの肩に手を乗せた。
AZKiはずっと、言いたい事と言わなければならない事を、言えずにいる。
「大丈夫。全部、取り返して来る」
「……」
毅然としたいろはの佇まいに、AZKiは頷くしかできない。
事態を悪化させて、結局いろはに丸投げする羽目になって……面目が立たない。
「みこちさん、すいちゃんの事、頼みます」
「任せてー!」
「んにゃ! お前が言うな!」
いろはの呼び掛けにすいせいが機嫌良く返事する。
迫るすいせいの口を必死に遠ざけながら、みこが怒った。
いろはも地を後にする。
「ぺこらもまつりも、そっちのことは任せた」
「マリンも気を付けてね」
「うん。では」
船長であるマリンも漸く船へ向かう。
その背へみこが駆け寄る。すいせいを振り払って。
「マリンたん」
「どしたん、みこち」
「はあとちゃん、悪い子じゃないから……」
不安げに視線を彷徨わせて、マリンに告げる。
マリンは登りかけた階段を降りてみこの頭にぽんと手を乗せた。
「大丈夫、分かってる。連れて帰って来るから、待ってて」
「うん……」
終始みこの顔は浮かない。
「帰ったらさ、色々話しよう。色々」
「いろいろ?」
「うん。まだ一度も、答えた事がなかったから」
「――」
「じゃあすいちゃん。みこちの事、頼みますよ」
「任せて‼︎」
みこをすいせいに預け、アクアマリン号へと乗船した。
甲板から港に立つ皆の顔が一望できる。
「じゃあ行きましょうか」
「あいよ!」
ノエルが舵を握った。
「再び、サイトオブメモリアへ向けて、出航!」
「「ヨーソロー‼︎」」
アクアマリン号はシエロソニードを発ち、記憶の跡地への進路を取った。