ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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115話 3つの飴

 

 シエロソニード出航から30分ほど経ち、島が見えなくなった頃、ルーナが話があると全員を招集した。

 食卓に一同が会するが、席が足りず窮屈だった。

 

「それでルーナたん、話って?」

「これの事なのら」

 

 そう言ってルーナが卓上中央に置いたのは、梱包された3つの飴だった。

 それが何であるのか、見た瞬間に気付いたのは、マリン、ぼたん、ちょこの3人だけだった。

 

「これは?」

「才能キャンディーって言って、んなたんが能力を込めて作った飴なのら。食べるとその人の才能を最大限に開花させる事が出来る」

「これが、以前マリンちゃんが食べてた……」

「何分?」

「各5分」

 

 つまりルーナは、これを誰が持つか、と言いたいのだ。

 ルーナの能力を知る者や、シエロソニードでマリンの能力を食らった者は概ね理解できていたが、いろは、シオン、ミオだけは全く追い付けていない。

 

「簡単に言うと、この飴を食べれば5分間能力値が最大になる。能力者は恐らく覚醒まで到達するね」

「ほへぇ〜」

 

 マリンが2人に簡潔に説明する横でトワとポルカが視線を合わせた。

 さっとポルカが一つを手に取る。

 

 右手に飴を握り、左手も一度握って――開くと、飴が複製された。

 躊躇なく複製飴を口に放り込む。

 

 カリッと容易く砕ける。

 ガリガリ……と噛み砕いて飲み込み……。

 

「ダメだな。ただの飴になる」

「そうか」

 

 ガッカリした様子もなく、飴を中央に戻してキッチンに向かった。

 軽く水分補給して戻って来る。

 

「もう作らんの?」

「何が起こるか分かんない船上では控えたいのら」

「まあ、1時間で1分だしね」

 

 作れない事は無いが、ルーナは消極的だ。

 この3つの才能キャンディーを如何に巧く活用するか。

 

「誰が持っとく?」

「まあ一つはマリンじゃね?」

「え、船長? 勿体無くない?」

「また自己評価下げて――」

「いやいや違くって! 覚醒してない人が持つべきなんじゃ無いの?」

 

 マリンの自己評価に呆れる一味だったが、意外にも正論が飛び出して確かにと納得しかけてしまう。

 そこへルーナが補足説明した。

 

「それもありだけど、経験したマリンさんなら分かるのらよね? もし未覚醒の人が強制的に覚醒させられれば、その後暫く動けなくなる可能性もある」

「……そっか」

 

 ルーナからの助言。それにはマリンも身に覚えがあった。

 初覚醒は能力入手から僅か10日程で強制的に起こした。それはたった1分にも満たない時間だったが、マリンの身体に負荷をかけ、鼻血を流す結果となった。

 次なる覚醒は能力獲得から約1ヶ月後。

 シエロソニードで10分間の強制覚醒。

 使用後は1時間以上身動きが取れなかった。

 

 本来は引き出せない力を強引に引き出せば、相応の負荷が身体にかかる。

 

「でもさ、覚醒してる人に持たせても意味なくない?」

「はぁ……鷹嶺ルイは記憶を奪う事ができるのらよ。それによってんなたんが敵に回ったら? んなたんは寧ろ、その時の為に作ったのら」

「おー……流石姫様、頭いいね」

「マリンさんの頭が悪いだけなのら」

 

 ストレートに刺されたが、自覚有りのためダメージはない。

 ルーナの一蹴で場が静まる。

 

「それを踏まえて、誰に持たせる?」

 

 皆が一同を見回した。

 

「……じゃあ参考程度に、能力が覚醒してる人はどの程度います?」

 

 マリンの疑問にポツリと手が上がる。

 まずはマリンが自ら上げ、その後に続くは……

 

 ポルカ、いろは。

 

「3人か……」

 

 マリンの知る範疇に収まっていた。

 

 余談だが、マリンの把握している能力の覚醒者は、マリン、ポルカ、フブキ、すいせい、あやめ。

 推測の範囲で、いろはであった。

 

「マリンってさ、能力得て1ヶ月くらいだよな?」

「へ? そうですが?」

「なんで覚醒できるん?」

「なんでと言われても……」

 

 トワがふと疑問を口にするが、そんな事マリンにも分からない。

 ルーナだけはある程度の推測を立てているようだが、真実は誰にも分からない。

 

 因みにそのルーナの推測とは、ルーナの能力が関係している。

 ルーナの能力で2度も強制的な覚醒を起こしたマリンは、能力獲得1ヶ月にしてその感覚を無意識に掴んだのだ。

 まだ燃費は悪いが、自力で起こせる域には達している。

 

 マリンはタジタジしながらポルカに助けを求める視線を送った。

 残念ながらポルカは能力の覚醒までに4年ほどかかっているので、気持ちを理解してあげられない。

 

「なんかこのままじゃ一向に決まりそうにねェから、あたしから1人推薦してもい?」

 

 一向に選出されず、話が纏まらないと感じたポルカが小さく挙手して話を割った。

 皆の視線が集まる。

 

「誰?」

「ししろ」

「――!」

「異議は?」

「「なし‼︎」」

 

 圧倒的賛成多数により1人が確定する。

 ぼたんはルーナの顔色を伺いながら、遠慮がちに首を横に振っていた。

 

「あの、あたし……」

「一つはぼたんちゃんに任せるのらよ」

「……」

「ぼたん様……?」

 

 ルーナが飴を一つ手に取り、差し出すがぼたんは直ぐには受け取らない。

 目を閉じて、何度も深呼吸を繰り返し……。

 

「はい――承りました」

 

 決意と共に飴を受け取った。

 人目もあるので跪きはしないが、中々に深く腰を折っていた。

 

「あとふたつ」

 

 再びテーブル中央が焦点となる。

 その時漸く、誰もが勘付いた。

 この中に自ら名乗りを上げる者はいない。そんな集団だ。

 ならばここは、推薦の早い者勝ち。

 才能キャンディーの押し付け合いである。

 

「……おかゆさ、どう?」

「ぇ!」

 

 トワが不意におかゆに視線と問いを投げ掛けた。

 高く間抜けな声が鳴る。

 

「ロギアって元々強ぇワケだし、覚醒したらもはや敵なしなんじゃね?」

「えっ、でも5分後に動けなくなって、能力すら発動しなくなったら寧ろマイナスじゃん」

「んー……一理ある」

 

 おかゆでは無くぼたんが反論した。

 だがそのマイナスは、飴を使用する事で必ず起き得る可能性。ロギアだから、と言う点は考慮すべきでは無い。

 

 ここはおかゆ本人の意思を問うべきだと、皆視線を向けた。

 

「ぅ。ぼ……ぼく、は……」

 

 言葉に詰まる――いや、葛藤しているように見える。

 相反する2つの想いが脳内で衝突している。

 何度も唾と空気を飲み込んでいた。

 

「……要らない」

 

 10秒以上かけて答えを出した。

 だけど何かを必死に我慢しているようだ。

 

「おかゆ? どうしたの?」

「僕は要らないからっ」

「要らないってもなぁ……推薦してんだけど……」

「まあまあ、おかにゃんが断るのなら、無しにしましょうよ」

「……おかにゃん?」

「いい名前でしょ」

 

 奇妙な態度を貫くおかゆに様々な憶測混じりの言葉が向けられる中、マリンがそれらを咎める様に口にした。

 中央の飴を一つ手に取りながら、聞き慣れない呼び名でおかゆを呼ぶ。

 どうしてもおかゆと呼べない為、このニックネームで呼んでいくことにした。

 トワやおかゆといった一味たちが呼称について触れる一方で、その他のメンバーはマリンの持つ飴に注目する。

 

「マリンさんが持つんっすか?」

「いやいや、そんな勇気は無いですよ」

「……誰を推薦すんのー?」

 

 マリンはニコッと笑って――いろはの前へ。

 

「いろは、持っといて」

「風真?」

「なんで?」

「いいから、持っててって」

「んー……まあ、了解でござる」

 

 真意を明かさずに最強格いろはへと飴を押し付けた。

 

「マリンってそう言うの何気に好きよね」

「――⁉︎ なんの事⁉︎」

「誰も知らない主人公の奥の手、みたいなヤツ」

「だ、だって! カッコいいじゃんか‼︎」

 

 トワに図星を突かれてぎくりと肩を跳ねさせる。

 勝手に人の頭の中を見て……。

 

「はぁ、トワ様が丸くなったせいで覗き魔へと……」

「覗き魔言うなや!」

「やーい、覗き魔ー! 変態悪魔ー!」

「はぁ、マリンが丸くなったせいでウザさが100倍だ」

 

 先日のマリンの件を経た結果、距離は縮まり絡み方も変化したようだ。

 飴を持たされ戸惑ういろはや、その真意を知りたがる者たちを他所に2人は言い合い、やがて沈静化する。

 

「んで? ラス1は?」

「アンタ、持ってみる?」

「……? え、ラミィ⁉︎」

 

 ぼたんがラミィを候補として挙げてみる。

 嫌われている自覚があり、徹底して陰に潜んでいたが、ぼたんに名指しされて注目が集まると大きく首を横に振った。

 

「いいよラミィは!」

「「――――」」

 

 ちらちらとトワとノエルの顔色を伺う。

 やはり目付きは悪い。

 

「そうか、強いと思ったんだが」

 

 ぼたんの太鼓判付きだが、ルーナの眼から見れば圧倒的にぼたんが強い。

 しかし、ぼたんの思考は大方読めた。

 

 この段階でマリンの身内が推薦されず、ぼたん以外にルーナの身内も推薦されず。

 となれば、ラミィを筆頭とする真価を知らないメンバーに託してみたい。

 

「ミオちゃんとシオンちゃん、どっちか持つ?」

「――!」「……」

 

 ミオとシオンは互いに面識がないながらも顔を見合わせる。

 

「うーん……どっちも強いしなぁ」

 

 ミオもシオンも能力は相当強力な部類である。

 強いて難点を挙げるなら、ミオは豊富な銃撃技があると言えど、結局は銃火器の範疇に収まってしまう事。

 シオンは技のレパートリーが山程あるが、本人の身体能力が平均より低めな事。

 

「ならミオさんが持つといいのでは?」

 

 いろはがミオが所持する事を推す。

 

「なんでうち?」

「皆さんの能力とできる事はある程度聞きましたけど、ミオさんは圧倒的攻撃型の能力じゃないですか。シオンさんはいざって時サポートに回ったり、治療したりと動き回る機会が多そうですから」

「ほうほう――天才」

 

 いろはの推薦理由を聞くや否や、マリンは飴を握ってミオの前へ。

 ミオは狼狽えている。

 

「はい。ミオ先輩、お願いします」

「うぅ……おかゆぅ……」

「そ、そんな顔で見ないでよ……」

 

 ミオの感情がおかゆに伝染した。

 3つの飴のうち1つを預かる責任が大き過ぎるらしい。

 

「ウチウチの実は確かに、小細工し辛い代わりに攻撃性能が高い。覚醒して殲滅しちゃう事も不可能じゃないかも」

「でも、うちなんかでいいのかな……」

「優劣とか強弱で決まってるわけじゃねぇからな。あんま気負うな」

「そうですよ。利を活かす手段として、ミオ先輩に持っててほしいんです」

 

 言葉巧みにミオへと押し付ける一味。

 無論全て本音だが。

 

「ミオちゃん」

「――ん?」

「大丈夫だよ。使用後の反動があれば、僕がカバーするから」

「ホントかなぁ……」

「本当だって!」

 

 おかゆを揶揄いつつ精神を落ち着かせた。

 ミオの苦笑におかゆも釣られる。

 

「……シオンちゃんは、いいの?」

「シオンは万能だからそんなの要らないもんね」

 

 不貞腐れるでも照れるでも、遠慮するでもなく本心でそう答えた。

 かなりの自信が垣間見える。

 

 マリンはふと、このメンバーの強さの序列が気になった。

 マリン的に1番下がマリンで確定なのだが、その他はどうだろう。

 関係ないので話題には出さないが。

 

「分かったよ。じゃあ、うちが持っておくね」

「任せましたよ」

 

 最後の飴がミオの手に渡った。

 これにて才能キャンディー所持に関する会議は打ち切りとなる。

 

「じゃ、話は以上なのらよ」

「じゃあ解散で――」

「あータンマ!」

「「――?」」

 

 解散の空気が流れラミィが真っ先に退室しようと扉に手を掛けたので、マリンが慌てて引き止める。

 ラミィは心底嫌そうな顔をした。

 

「いろは、この際だから聞かせてほしんだけど」

「――――」

 

 AZKiやすいせいの居る手前、シエロソニードでは控えていたが、いろはになら聞くことができる。

 マリンは意を決して切り出した。

 この一言で皆が全てを察した。

 

「ゼロ海賊団の始まり、そして――秘密結社XXXとの衝突について」

「――――」

 

 いろはは大きく一呼吸入れて、携えた刀を鞘ごと外し椅子に立てかけた。

 

「長いですよ」

「ええ、結構」

「では、聞きたい人だけ、残ってください」

 

 ラミィがそっと取っ手から手を離した。

 皆の注目がいろはの組んだ手に向く。

 

「始まりは7年半前の、風真とそらちゃんの出逢いからでした」

 

 風真いろはの口より、ゼロ海賊団創設秘話が語られる――。

 

 

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