ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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117話 機械の国『アルマ』

 

 いろはとそらが知り合って半年……。

 

 毎日こっそり出会っては他愛もない話をしたり、夜中に人目のつかない場所へ行ったりした。

 だがそれでも半年もすれば飽きてくるもの。

 

 だからある日唐突にそらが切り出した。

 

「いろはちゃん。私、外の世界が見てみたい」

「――――」

 

 いつに無く真剣な眼差しでいろはへと告げた。

 その目を見れば、そらの思いは受け取れる。

 数度瞬きする。

 

 正直驚きだ。

 実の所いろはも以前より海に興味があったからだ。

 海を旅する者――取り分け、海賊に。

 

 ただ、生まれつきの迷子気質もあって、到底1人で海には出られないので、諦めていたが……。

 2人なら――といろはの小さな好奇心に火がついた。

 

 しかし――‼︎

 いろははまだ知らないが、そらもいろはに並ぶ相当な方向音痴なのである。

 

「じゃあ、まずは船を探さないとだね!」

「――え、いいの?」

「いいよ! 風真も海に出てみたかったから!」

「――ありがとう」

 

 早々に海への進出が決まったが、方向音痴の他にも問題は複数ある。

 

「そらちゃんって船動かせたりするでござるか?」

「んーん。舵は取れないし、航海術もないし、ポルターガイストも船サイズだと動かせないよ」

「そっかぁ。なら仲間も探さないと……」

 

 いろはは顎に手を当てて唸った。

 この島で仲間を探してもいいが……そらの幽霊騒動の件もある為、可能なら他国の人間がいい。

 だがその為には国を出なければならない。

 

「――よし! 名案を思いついたでござる‼︎」

「名案?」

「名案でござるよー!」

 

 いろはは「にっしっし」と笑った。

 そらは首を傾げるが、嬉しそうないろはを見てなんと無く笑う。

 

「風真のプランはねぇ、『――――――』」

「おーー!」

「ね、名案でしょ?」

「うん、凄くいい!」

「じゃあ、準備に取り掛かろう!」

「ん! じゃあまた、港でね」

 

 

 

        *****

 

 

 

 後日、おもちゃの国の港にて――

 

 停泊していた船が出航する時。

 船内にアナウンスが流れる。

 

『アルマ直行便、間も無く出航いたします。出航の際は波の状況により、船内激しく揺れる可能性がありますので、十分にお気をつけください』

 

「いーいそらちゃん。船内で能力は使ったらだめだからね」

「うん。気をつける!」

 

 港と船を繋ぐ橋が上がり船のエンジンが掛かると、甲板付近にいた2人の身体に振動が伝わる。

 人生初の船出。

 期待に胸が膨らむ。

 そんな2人を乗せて、機械の国『アルマ』へと向かう船が今、おもちゃの国を発つ。

 

 ――――――。

 

 波に揺られ、船酔いに耐えつつ、海を渡る事数日――船は機械の国『アルマ』へと辿り着いた。

 

 

 

「ほぁあああああ‼︎」

「はわぁあああああ‼︎」

 

 下船し、港に立った時――2人の前には常識を超えた世界が広がっていた。

 2人の感嘆の叫びを超える騒音が鳴り響いている。

 

 自動で放り出され選別される荷物たち。

 様々な所で噴き出る蒸気。

 ゴミを吸いまわる小型の無機物。

 遥か遠くに聳え立つ、巨大な時計塔。

 その周囲で回る特大歯車。

 弾ける電気と弾ける火花。

 

 何もかもが真新しく、目移りが止まらない。

 

「見て! あれ! 私の能力みたい!」

「ほんとだぁ! なんか浮いてる!」

 

 ポルターガイストとして恐れられた光景が、さも当然のように一般社会に溶け込んでいる。

 

「ねえあの船! 変な形してる!」

「何あれ! 乗ってみたい!」

 

 おもちゃの国を往来していた船とはまるで外観が異なる、より重厚そうな船。その周囲にも、まるでスケールが違う巨大な客船があったりと、国の大きさに比例してあらゆる規模がデカい。

 

「あの人、モノと喋ってるよ!」

「何してるんだろう!」

 

 ゴーぉぉぉん……ゴーぉぉぉん……ゴーぉぉぉん……と、突如国に鳴り響く特大の鐘の音。

 国の中央、時計塔からだ。

 この距離でも見える針を見れば、長針と短針がぴったり真上を向いていた。

 

「ねぇねぇ! あのお店変わったもの売ってるよ!」

「はっ! 武器鍛冶屋――‼︎」

 

 そらといろはは港から街へと繰り出し、たった数歩で各々の興味を示す店へと意識が逸れる。

 互いの言葉を聞き流して、別々の店へ。

 

 あっという間に――

 

「いろはちゃーん?」  「そらちゃーん?」

「どこ〜〜?」  「どこ〜〜?」

 

 迷子が2人。

 

 待ち合わせ場所も、これから向かう場所も決まっておらず、早速難航。

 島の広さもおもちゃの国の数倍だ。

 

 やはり港へ戻るのが手っ取り早いだろう。

 そう行き着いたそらは来た道を戻る。

 

「大丈夫……来た道を戻るだけ……」

 

 船を降りて数百メートル。

 迷いようが無い。

 だと言うのに、不安しかない。

 

「ねえキミ」

「――へ、はい! 何ですか!」

 

 そらの背後から1人の少女が歩み寄ってきた。

 

「さっきの侍の子と逸れたんじゃない?」

「え――」

「あの子なら、あっちの方だよ」

 

 不意に声をかけて来たかと思えば、いろはの居場所を教えてくれた。

 

「おいで、案内してあげる」

(…………)

 

 不審者に分類されかねない行為だが、相手の性別や外観年齢等が同じである事を考えれば……信じていい、のか?

 

(もし悪い人だったら脅かして逃げちゃえばいっか)

 

 そらは能力故の慢心でにっこり笑った。

 

「本当! ありがとう!」

 

 そして少女の後に続いて道を渡って武器鍛冶屋の前を通過、更に港の方へ戻りとある細道へ入れば――

 

「いろはちゃん!」

「ああ! そらちゃん!」

 

 本当にいた。

 逸れて数分程度で助かったと2人は安堵して手を繋ぎ、跳ね回った。

 良かった〜、と。

 

 いろはは遅れてそらと行動を共にしていた少女に視線を向けた。

 視線の意図を察したそらが先に口を開く。

 

「この人が案内してくれたの〜」

「そうでござるか! ありがとうございます!」

「ううん、気にしないで」

 

 ぺこりと大きくお辞儀するいろは。

 そらも合わせて腰を折ると、少女はあははと笑い飛ばす。

 

「ねえキミ」

「――なぁに?」

「お礼に、って言うと恩着せがましいけど、ちょっと両手、出してもらってもいい?」

「両手? はい、どうぞ!」

「風真も! どうぞ!」

 

 親切な少女の細やかな頼み事。

 2人で両手を突き出した。

 

 少女は真っ先にそらの両手に自身の両手を重ね合わせた。

 恋人のように手を絡め……目を閉じ……仄かな笑みを浮かべて手を離す。

 一応いろはのでも握る。

 そらの半分にも満たない時間で手離した。

 

「ありがとう」

「「……??」」

 

 2人は顔を見合わせた。

 一体何がしたかったのか。

 

「じゃあ、観光楽しんでね」

「「ありがとうございます!」」

 

 今一度お辞儀をして少女と別れる。

 

「こらっ!」

「「ッ⁉︎」」

「ぅっ……しまった……」

 

 と思いきや、もう1人の女性が現れ、少女を叱責する。

 声に驚き、いろはとそらはビクッと肩を跳ねさせて顔を上げた。

 見知らぬ女性が腰に手を当て、プンスカと怒っていた。

 

「また言いように恩着せて! 何盗ったの!」

「な、何も盗ってないよ〜」

 

 ひゅ〜と口笛を吹いて誤魔化しながら、路地を抜けようとするが、女性が道を阻む。

 盗った、という表現を耳にし慌てて2人は所持品を確認するが、盗まれて困るものは――いや、それどころか何も盗まれていなかった。

 しかし少女の態度は明らかに怪しく、図星を突かれたそれだった。

 

「2人は能力者?」

「へ……?」

 

 女性が少女から視線をずらして2人に優しい視線を送る。

 その一瞬の隙に少女が逃げ出した。

 

「メインウェポン」

 

 咄嗟に女性が技を放つ。

 口から数本のネジが飛び出して少女に命中。

 両腕にネジがヒットし、勢いのまま腕が壁に衝突――そして固定された。

 

「あずちゃ〜ん。盗ったもの出して。じゃなきゃ……」

「ひぃっ、か、返す返す! 返すから!」

「……どっちの子」

「侍さんじゃない方……」

 

 女性の脅迫に怯えて白状する。

 その脅迫――手の動きからして、くすぐり攻撃だった。

 

「きみ、なんて能力?」

「え……」

 

 能力の片鱗なんて一度も見せなかったが、やはりバレていた。

 そらはいろはと顔を合わせ、首肯が帰ってくるのを待った。

 

「……ホラホラの実」

「そっか。あずちゃんと両手を合わせて」

「……?」

「あの、何が起きてるんでござる?」

「この子はAZKiって言って、アズアズの実の能力者なの。効果は他人から能力などを奪える」

「――――え、もしかして私、能力盗られてたの⁉︎」

「そう言う事〜」

 

 世界には色んな能力があるんだと思った。

 それこそ、今女性が口から吐いたネジも、AZKiがそのネジで拘束されている状況も、能力によるものだろう。

 

「ちなみにボクはロボ子。ネジネジの実を食べた接合人間」

 

 軽く名乗ってそらに能力奪還を催促する。

 ところが――

 

「え〜、いいよ。その能力あげる〜」

「「「――⁉︎⁉︎⁉︎」」」

 

 サラッと言ってのけた。

 AZKi本人も含め、皆驚愕に目玉が飛びでる。

 

「ホントに⁉︎」

「うん!」

 

 AZKiが聞き返すも答えは変わらず。

 ロボ子が慌てて補足した。

 

「能力を奪うって言っても、カナヅチは無くならないし、別の能力が食べれる様になるわけでもないんだよ⁉︎」

「いいよ」

「ほらロボち、この子もこう言ってるんだから」

「ダメに決まってるでしょ! 本人がいいとか、そう言う話じゃないの」

 

 ロボ子が拘束を解かないのでAZKiは口先を曲げた。

 

「そらちゃん。風真は……好きだよ。そらちゃんの能力」

「…………」

 

 すると一変、そらはAZKiに歩み寄って両手を合わせた。

 能力がAZKiからそらへ戻ってゆく。

 

「あ〜……」

「あ〜、じゃないよ。これで何回目?」

「な、何回目かな〜……」

「逃げるなぁ」

 

 ロボ子がネジを抜いて拘束を解くと、AZKiは苦笑いを浮かべてすぅ〜っと傍を抜けようとする。

 腕を掴まれあっさり再拘束。

 

「ごめんね〜2人とも〜」

「いえいえ……迷子を助けてくれたので、寧ろありがとうございます」

「2人は観光客?」

「はい、おも――――しろい所とか知りませんか?」

「――? 面白い所かぁ……うん、ならボクたちが国を案内してあげるよ」

「えぇ……AZKiはもう一度港の偵察に……」

「ついておいで」

「あぁぁ〜〜〜〜」

 

 連行されるAZKiの後に続き、2人はよく分からないままアルマの観光を楽しんだ。

 

 

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