いろはとそらが知り合って半年……。
毎日こっそり出会っては他愛もない話をしたり、夜中に人目のつかない場所へ行ったりした。
だがそれでも半年もすれば飽きてくるもの。
だからある日唐突にそらが切り出した。
「いろはちゃん。私、外の世界が見てみたい」
「――――」
いつに無く真剣な眼差しでいろはへと告げた。
その目を見れば、そらの思いは受け取れる。
数度瞬きする。
正直驚きだ。
実の所いろはも以前より海に興味があったからだ。
海を旅する者――取り分け、海賊に。
ただ、生まれつきの迷子気質もあって、到底1人で海には出られないので、諦めていたが……。
2人なら――といろはの小さな好奇心に火がついた。
しかし――‼︎
いろははまだ知らないが、そらもいろはに並ぶ相当な方向音痴なのである。
「じゃあ、まずは船を探さないとだね!」
「――え、いいの?」
「いいよ! 風真も海に出てみたかったから!」
「――ありがとう」
早々に海への進出が決まったが、方向音痴の他にも問題は複数ある。
「そらちゃんって船動かせたりするでござるか?」
「んーん。舵は取れないし、航海術もないし、ポルターガイストも船サイズだと動かせないよ」
「そっかぁ。なら仲間も探さないと……」
いろはは顎に手を当てて唸った。
この島で仲間を探してもいいが……そらの幽霊騒動の件もある為、可能なら他国の人間がいい。
だがその為には国を出なければならない。
「――よし! 名案を思いついたでござる‼︎」
「名案?」
「名案でござるよー!」
いろはは「にっしっし」と笑った。
そらは首を傾げるが、嬉しそうないろはを見てなんと無く笑う。
「風真のプランはねぇ、『――――――』」
「おーー!」
「ね、名案でしょ?」
「うん、凄くいい!」
「じゃあ、準備に取り掛かろう!」
「ん! じゃあまた、港でね」
*****
後日、おもちゃの国の港にて――
停泊していた船が出航する時。
船内にアナウンスが流れる。
『アルマ直行便、間も無く出航いたします。出航の際は波の状況により、船内激しく揺れる可能性がありますので、十分にお気をつけください』
「いーいそらちゃん。船内で能力は使ったらだめだからね」
「うん。気をつける!」
港と船を繋ぐ橋が上がり船のエンジンが掛かると、甲板付近にいた2人の身体に振動が伝わる。
人生初の船出。
期待に胸が膨らむ。
そんな2人を乗せて、機械の国『アルマ』へと向かう船が今、おもちゃの国を発つ。
――――――。
波に揺られ、船酔いに耐えつつ、海を渡る事数日――船は機械の国『アルマ』へと辿り着いた。
「ほぁあああああ‼︎」
「はわぁあああああ‼︎」
下船し、港に立った時――2人の前には常識を超えた世界が広がっていた。
2人の感嘆の叫びを超える騒音が鳴り響いている。
自動で放り出され選別される荷物たち。
様々な所で噴き出る蒸気。
ゴミを吸いまわる小型の無機物。
遥か遠くに聳え立つ、巨大な時計塔。
その周囲で回る特大歯車。
弾ける電気と弾ける火花。
何もかもが真新しく、目移りが止まらない。
「見て! あれ! 私の能力みたい!」
「ほんとだぁ! なんか浮いてる!」
ポルターガイストとして恐れられた光景が、さも当然のように一般社会に溶け込んでいる。
「ねえあの船! 変な形してる!」
「何あれ! 乗ってみたい!」
おもちゃの国を往来していた船とはまるで外観が異なる、より重厚そうな船。その周囲にも、まるでスケールが違う巨大な客船があったりと、国の大きさに比例してあらゆる規模がデカい。
「あの人、モノと喋ってるよ!」
「何してるんだろう!」
ゴーぉぉぉん……ゴーぉぉぉん……ゴーぉぉぉん……と、突如国に鳴り響く特大の鐘の音。
国の中央、時計塔からだ。
この距離でも見える針を見れば、長針と短針がぴったり真上を向いていた。
「ねぇねぇ! あのお店変わったもの売ってるよ!」
「はっ! 武器鍛冶屋――‼︎」
そらといろはは港から街へと繰り出し、たった数歩で各々の興味を示す店へと意識が逸れる。
互いの言葉を聞き流して、別々の店へ。
あっという間に――
「いろはちゃーん?」 「そらちゃーん?」
「どこ〜〜?」 「どこ〜〜?」
迷子が2人。
待ち合わせ場所も、これから向かう場所も決まっておらず、早速難航。
島の広さもおもちゃの国の数倍だ。
やはり港へ戻るのが手っ取り早いだろう。
そう行き着いたそらは来た道を戻る。
「大丈夫……来た道を戻るだけ……」
船を降りて数百メートル。
迷いようが無い。
だと言うのに、不安しかない。
「ねえキミ」
「――へ、はい! 何ですか!」
そらの背後から1人の少女が歩み寄ってきた。
「さっきの侍の子と逸れたんじゃない?」
「え――」
「あの子なら、あっちの方だよ」
不意に声をかけて来たかと思えば、いろはの居場所を教えてくれた。
「おいで、案内してあげる」
(…………)
不審者に分類されかねない行為だが、相手の性別や外観年齢等が同じである事を考えれば……信じていい、のか?
(もし悪い人だったら脅かして逃げちゃえばいっか)
そらは能力故の慢心でにっこり笑った。
「本当! ありがとう!」
そして少女の後に続いて道を渡って武器鍛冶屋の前を通過、更に港の方へ戻りとある細道へ入れば――
「いろはちゃん!」
「ああ! そらちゃん!」
本当にいた。
逸れて数分程度で助かったと2人は安堵して手を繋ぎ、跳ね回った。
良かった〜、と。
いろはは遅れてそらと行動を共にしていた少女に視線を向けた。
視線の意図を察したそらが先に口を開く。
「この人が案内してくれたの〜」
「そうでござるか! ありがとうございます!」
「ううん、気にしないで」
ぺこりと大きくお辞儀するいろは。
そらも合わせて腰を折ると、少女はあははと笑い飛ばす。
「ねえキミ」
「――なぁに?」
「お礼に、って言うと恩着せがましいけど、ちょっと両手、出してもらってもいい?」
「両手? はい、どうぞ!」
「風真も! どうぞ!」
親切な少女の細やかな頼み事。
2人で両手を突き出した。
少女は真っ先にそらの両手に自身の両手を重ね合わせた。
恋人のように手を絡め……目を閉じ……仄かな笑みを浮かべて手を離す。
一応いろはのでも握る。
そらの半分にも満たない時間で手離した。
「ありがとう」
「「……??」」
2人は顔を見合わせた。
一体何がしたかったのか。
「じゃあ、観光楽しんでね」
「「ありがとうございます!」」
今一度お辞儀をして少女と別れる。
「こらっ!」
「「ッ⁉︎」」
「ぅっ……しまった……」
と思いきや、もう1人の女性が現れ、少女を叱責する。
声に驚き、いろはとそらはビクッと肩を跳ねさせて顔を上げた。
見知らぬ女性が腰に手を当て、プンスカと怒っていた。
「また言いように恩着せて! 何盗ったの!」
「な、何も盗ってないよ〜」
ひゅ〜と口笛を吹いて誤魔化しながら、路地を抜けようとするが、女性が道を阻む。
盗った、という表現を耳にし慌てて2人は所持品を確認するが、盗まれて困るものは――いや、それどころか何も盗まれていなかった。
しかし少女の態度は明らかに怪しく、図星を突かれたそれだった。
「2人は能力者?」
「へ……?」
女性が少女から視線をずらして2人に優しい視線を送る。
その一瞬の隙に少女が逃げ出した。
「メインウェポン」
咄嗟に女性が技を放つ。
口から数本のネジが飛び出して少女に命中。
両腕にネジがヒットし、勢いのまま腕が壁に衝突――そして固定された。
「あずちゃ〜ん。盗ったもの出して。じゃなきゃ……」
「ひぃっ、か、返す返す! 返すから!」
「……どっちの子」
「侍さんじゃない方……」
女性の脅迫に怯えて白状する。
その脅迫――手の動きからして、くすぐり攻撃だった。
「きみ、なんて能力?」
「え……」
能力の片鱗なんて一度も見せなかったが、やはりバレていた。
そらはいろはと顔を合わせ、首肯が帰ってくるのを待った。
「……ホラホラの実」
「そっか。あずちゃんと両手を合わせて」
「……?」
「あの、何が起きてるんでござる?」
「この子はAZKiって言って、アズアズの実の能力者なの。効果は他人から能力などを奪える」
「――――え、もしかして私、能力盗られてたの⁉︎」
「そう言う事〜」
世界には色んな能力があるんだと思った。
それこそ、今女性が口から吐いたネジも、AZKiがそのネジで拘束されている状況も、能力によるものだろう。
「ちなみにボクはロボ子。ネジネジの実を食べた接合人間」
軽く名乗ってそらに能力奪還を催促する。
ところが――
「え〜、いいよ。その能力あげる〜」
「「「――⁉︎⁉︎⁉︎」」」
サラッと言ってのけた。
AZKi本人も含め、皆驚愕に目玉が飛びでる。
「ホントに⁉︎」
「うん!」
AZKiが聞き返すも答えは変わらず。
ロボ子が慌てて補足した。
「能力を奪うって言っても、カナヅチは無くならないし、別の能力が食べれる様になるわけでもないんだよ⁉︎」
「いいよ」
「ほらロボち、この子もこう言ってるんだから」
「ダメに決まってるでしょ! 本人がいいとか、そう言う話じゃないの」
ロボ子が拘束を解かないのでAZKiは口先を曲げた。
「そらちゃん。風真は……好きだよ。そらちゃんの能力」
「…………」
すると一変、そらはAZKiに歩み寄って両手を合わせた。
能力がAZKiからそらへ戻ってゆく。
「あ〜……」
「あ〜、じゃないよ。これで何回目?」
「な、何回目かな〜……」
「逃げるなぁ」
ロボ子がネジを抜いて拘束を解くと、AZKiは苦笑いを浮かべてすぅ〜っと傍を抜けようとする。
腕を掴まれあっさり再拘束。
「ごめんね〜2人とも〜」
「いえいえ……迷子を助けてくれたので、寧ろありがとうございます」
「2人は観光客?」
「はい、おも――――しろい所とか知りませんか?」
「――? 面白い所かぁ……うん、ならボクたちが国を案内してあげるよ」
「えぇ……AZKiはもう一度港の偵察に……」
「ついておいで」
「あぁぁ〜〜〜〜」
連行されるAZKiの後に続き、2人はよく分からないままアルマの観光を楽しんだ。