ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

119 / 144
118話 ゼロ海賊団

 

 アルマの観光を終え、ロボ子が取り仕切る会社の客室で4人は寛ぐ。

 

「ロボちゃんって一体何者⁉︎」

「ロボちがこの国で1番偉いんだよ」

「え⁉︎ 王様⁉︎」

「違うよぉ……あずちゃんの言う偉いってのは、天才、高性能って意味!」

「ええ……自分で言う?」

 

 この国の様々な開発と発展に携わったロボ子は、国内でその名を知らぬものはいない程の知名度。

 鼻高々に自負する事も頷ける。

 いろはとそらは自画自賛に面食らったが、観光後という事もあり納得が早かった。

 

「それで。2人は船が欲しいって言ってたけど……航海でもするの?」

「はい。2人で海に出ようかなぁって」

 

 観光中の雑談に上がった話題を掘り返して、ロボ子は2人の真意を問う。

 

「世界を冒険したいんです」

「――――」

 

 2人の想いは同じ。

 自分の知らない世界をその目で見たい、それだけだ。

 

「そっか。それならいいよ、売ってあげる」

「「――!」」

 

 ロボ子の快い返答に2人は手を合わせて舞い上がる。

 

「けど、お金あるの?」

「「――おかね?」」

 

 しかし、喜びも束の間、ロボ子の一言で現実に突き戻された。

 

「小型ボートなんかじゃ冒険なんて出れないでしょ。世界を旅するなら相応の船がいるし、買うにはそれなりのお金がかかるよ」

「う……無償で何とか……」

「船の建造費知ってる?」

「はい……ごめんなさい、嘘です」

 

 ロボ子がいくら天才で、金持ちだとしても、自分が乗るわけでも無いのに船一つを無償で提供はできない。

 情に訴えても効きはしない。

 いろはとそらは身を縮めた。

 

「ボクは大抵ここにいるから、数日考えてまた来なよ。頑張れば半額くらいまでなら値下げできるから」

「はい、ちょっと考えます」

 

 そらといろはは2人の前で密談を始める。

 

「今いくら持ってる?」

「数万円くらい。いろはちゃんは?」

「同じくらい」

 

 その額で足りるはずもない。

 ロボ子が半額まで割引した、安めの船を買うとしても……数百万はする。

 

「泣き落とし、通用するかな?」

「いや、ここはあの人の悪行を利用して――」

 

 話の方向が次第に悪徳業者の様になっていく。

 

「……聴こえてるんだけど」

「「――」」

「明日以降でもちゃんと対応してあげるから、今日は宿とって、しっかり考えてくるといいよ」

「はい……」

 

 2人は肩を落として席を立つ。

 休憩室の扉を開けてぺこりとお辞儀した。

 

「今日はありがとうございました」

「ありがとうございます」

 

 ロボ子に見送られて、2人は休憩室を後にしたのであった。

 

 ――――。

 

「ロボち」

「――?」

 

 2人の退室直後、AZKiが真剣な語調で切り出す。

 

「私も海に出たい」

「…………」

 

 唐突な願望。

 過去に一度もそんな事、聞いた事がない。

 ロボ子はジョークを疑ったが、AZKiの瞳は本気だ。

 

「急に2人に感化されたの?」

「――ロボち、私の能力ってどう思う?」

「アズアズ? んー……どうと言われてもね。ボクとしては不便な能力だと思うけど」

「私もそう思う」

「――――?」

 

 ロボ子は休憩室に配備されたコーヒーメーカーでコーヒーを入れる。

 AZKiの分も用意して、2人は上げた腰をもう一度下ろした。

 

「私はもっと強くてかっこいい能力が欲しかった」

「へぇ」

「3年ほど前、私は能力を見つけて、期待を膨らませて食べた。でも結果は、こんな弱っちぃし、カッコ悪い能力」

 

 AZKiはコーヒーに手をつけず、身の上話を一方的に語る。

 ロボ子はコーヒーを飲みながら一応聞きに徹する。

 

「私は他の人の能力が羨ましい。私の能力はダメで、他人の能力はスゴイ。自分の能力が嫌いな人なんて、私くらいだと思ってた」

「うん」

「でも――いるんだね、世界には。私と同じ様な人が。そらちゃんみたいな子が」

「――世界は広いからね」

 

 AZKiの目付きが変化した。

 新たな世界を望む、好奇心に輝く目へと。

 

「もっと色んな人と能力を知りたい。あわよくば、色んな能力を保管したい! そして私だけの、能力図鑑を作りたいんだ!」

「図鑑?」

 

 AZKiの語る一風変わった夢に、ロボ子は感嘆した。

 それと同時に一つの単語に疑問が浮かぶ。

 

「そう。能力を私の中に保存するの」

「――? でも、一度に3人までからしか力は借りられないんでしょ?」

「そうだよ。だけど……あ、これ他の人には内緒ね。見てて」

 

 AZKiは立ち上がって鼻高々に右手を壁へと翳した。

 ロボ子が半身乗り出して観察する。

 

「バンク解放。メインウェポン」

 

 手先から飛び出す数多のネジ。

 ダダダダッ、と五月雨の様にネジが突き刺さる。

 

「――記録できるの⁉︎」

「実はそうなんだぁ。正しくはバンクに貯蓄してるんだけどね」

「貯蓄?」

「うん。ロボちから能力を預かった後、例えば1時間その能力をバンクに隠しておくの。その間ロボちは勿論、私もその能力は使えない。その代わり能力をロボちに返却した後も、1時間だけなら同じ能力が使える」

「バンク、ね……」

 

 興味深い性能だ。

 ロボ子はコーヒーカップを置いて顎に手を当てた。

 ロボ子にも夢や目標はある。

 世界には人智を超えた謎がある。その最たる例が能力。その謎を解明する事だ。

 

 能力を研究すれば、その能力を人工的に再現できる可能性もあるし、能力の果実誕生の謎や、製造法も解明できるかもしれない。

 だがその為にはデータが必要だ。

 たった十数人の能力ではなく、数十、数百にも及ぶ膨大なデータが。

 

 AZKiの力を使えば、1箇所に大量の能力を集約させて上手く研究できるかもしれない。

 それは――――実に興味深い。

 ロボ子の好奇心を唆る話だ。

 

「……で、態々ボクに聞かせるって事は――?」

「船ちょうだい」

「はぁ」

 

 清々しいお強請りに眩暈がした。

 額を押さえて首を振る。

 

 ロボ子はコーヒーを飲み干してAZKiに向き直る。

 

「分かった。調査って事で繰り出そう」

「やった!」

「当然ボクも行くし、会社からも数人連れて行く事になるけど、いいね」

「それは全然! じゃあ私、あの子達誘ってくるね」

「――――」

 

 AZKiは大慌てでいろはとそらの後を追った。

 が、残念ながらその日の内に2人を見つける事は出来なかった。

 

 

 ――――

 ――――

 ――――

 

 

 そして翌日――。

 

 ロボ子が社長を務める会社に、いろはとそらは再び赴いた。

 想定より1時間遅刻して。

 

「やっと着いた〜」

「この国、迷路みたいで困るでござるよ」

 

 はははと笑い飛ばしながら社内へ入り、受付でロボ子とAZKiを呼び出すが、どうやらAZKiは社員ではないようで、今は不在らしい。

 

 前日と同じ休憩室へ通され待つ事5分、ロボ子が入室してくる。

 

「はろーぼー」

「「――――??」」

「あずちゃんはさっき呼び出したから、間も無く来るよ」

 

 謎挨拶はスルー。

 ロボ子も気に留めず2人の対面に座ると、早速答えを伺う。

 

「まずは、2人の決定を聞こうか」

 

 気を引き締めてロボ子は商談に臨む。

 

「はい。やっぱりお金無いので、別の所で探すか、自分たちで作ります!」

「――ん? え?」

「――どうかしたの?」

「いや……随分潔いね」

「うん、だってお金無いし!」

「いいの? 割引交渉とかも」

「船ともなるとね。9割引で漸く買えるかどうかだし」

 

 想定外の呆気ない商談不成立。いや、ある意味成立か。

 いろはとそらは先の見えない展開にも胸を躍らせて、明るく未来を見ていた。

 

 これ以上の要望は無く、2人が席を立ったのでロボ子は慌てた。

 

「ああ! ちょっと待って! 実はあずちゃんから、相談があるみたいだから」

「相談、でござるか?」

「うん。来るまでまってて」 

 

 その発言のわずか5秒後――ガチャっと扉が開きAZKiも入室してきた。

 

「お待たせっ! もう話した?」

「まだ」

「そっか!」

 

 息切れするAZKiが勢いよくロボ子の隣に着席し、前のめりに口を開いた。

 キラキラと全身に汗が輝く。

 

「私たちこれから航海に出ようと思うんだけど!一緒に来ない⁉︎」

「「えっ⁉︎」」

「私とロボちと、あと社員数人と、あなた達2人!」

「「…………」」

 

 いろはとそらはまじまじと顔を見合わせる。

 昨日までとは一変したAZKiの奇妙なノリに、話を掴み損ねた様に。

 

「それなら船もあるし、仲間も多いし――どう?」

「……」

 

 いろははそらの目に問いかけた。

 首は振らないが瞳が答えをくれる。

 いろははAZKiに向き直る。

 

「誘いは嬉しいでござる。でもそれは、お断りさせてもらいます」

「…………」

「え……なんで⁉︎ お互いwin-winってヤツだよ? デメリットなんてないんだよ? お金も取らないし、悪い様にはしないから」

「あずちゃん。落ち着いて、理由があるんだよ、きっと」

「――――」

「だってそもそも、国を出て船を探してるくらいだよ?」

 

 2人が食い付くと思っていた分、何倍もの肩透かしを食らった気分でAZKiが騒ぎ立てる。それを横から静すロボ子。

 一度浮いた腰を落ち着かせ、ロボ子はそらと目を合わせた。

 

「……」

「……」

 

 視線で訴える。

 但し、高圧的にでは無く、諭す様に。

 

「……私たち実は、おもちゃの国出身で」

「「おもちゃの国?」」

「別名は――GA」

「――?」「――!」

 

 ロボ子とAZKiの反応は対照的だった。

 交易の関係で様々な国や都市の噂を耳にするロボ子は、GAの噂も知っている。

 そんな国が存在するとだけ。

 

「ホラホラの実、って言ってたよね。じゃあ、幽霊伝説の正体って――」

「私です」

「なになに⁉︎ 何の話⁉︎」

 

 置いてけぼりのAZKiは一心不乱に体を回して会話を手繰ろうとする。

 

「あずちゃん、諦めよう。あずちゃんみたいにコンプレックスがあるんだよ、この子にも」

「――それは知ってる! いや、知ってるからこそ」

「ボクたちは関係なく海に出られる。問題ないでしょ」

「「――――」」

 

 そらといろはの目を一瞥した。

 ロボ子の目も見た。

 強く奥歯を噛み締める。

 

「――なら、私はロボちとじゃなく、この2人と海に出る! 2人の航海に、旅路についていく‼︎」

「ちょっと、そんな勝手に……」

「問題ないでしょ。ロボちはそもそも、海に出たいわけじゃないんだし」

 

 ロボ子の本心も知らずAZKiは言葉を返した。

 AZKiの表情を真似てロボ子も歯軋りした。

 2人で勝手に話が進むが、当事者のいろはとそらへの説明はないのだろうか?

 

 きょとんと2人の口論を眺めていると、AZKiがいろはの隣まで回り込んで2人の手を取った。

 

「お願い! 私も連れて行って!」

「いや、あのぉ……」

「よく分からないけど、能力の事は誰にも言わないし、出身の話もしないから! 2人の邪魔はしないから!」

「「――――」」

 

 また顔を見合わせて困惑する。

 AZKiは何か決め手となる言葉はないか探した。その時パッと思いついた昨日の出来事。

 

「2人は土地勘とかないでしょ?」

「「うっ」」

「私なら土地勘あるし、地図も読めるし、航海士にだってなれる‼︎ 2人の望む場所に、私が連れて行くから‼︎」

「「…………」」

 

 沈黙の中息を呑む音がふたつ。

 

「どんな航海になるか、分かんないでござるよ?」

「いいよ!」

「怖い人に襲われるかもよ?」

「それでもいいよ!」

「すごーい能力者に殺されかけるかも」

「むしろそれがいいよ‼︎」

 

 脅したのに、AZKiの目は輝きを増すばかり。

 純粋なその瞳に負けて、2人は苦笑気味に頷くと――

 

「分かった」

「なら、一緒に行こ」

「――‼︎ やった! ありがとう‼︎」

 

 ロボ子の瞠目には誰1人気付かず、AZKiの同行に室内は騒がしくなる。

 AZKiがいろはの隣に座ってニコニコでロボ子と対面する。

 

「そういう事だからロボち、航海に出る話は無しになった!」

「いやいや、何勝手に――」

「昨日の今日だし、まだ誰にも話してないんでしょ? 問題ないじゃん!」

「うっ……ぐぬぬ……」

 

 一矢報いられた気分で不愉快だった。

 それと同時に湧き上がる、新たな感情。

 

 ロボ子は――海に出たかったのか?

 ただ、能力を研究したかっただけ?

 それとも……新しい人生に身を投じる3人が、輝かしく見えた、とか。

 

 このまま身を引けば、今までと同じ開発と研究の日々。

 国に閉じこもって、下らないけど役に立つ発明品を生み出す人生。

 

 でも食い下がっても…………。

 

「はぁ……」

 

 大きなため息をひとつ。

 それをロボ子の諦念と見てAZKiは満面の笑みを浮かべた。

 

「船がなきゃこの島すら出れないクセに」

「「「うっ」」」

「そもそも船の操縦だってできないクセに」

「「「うぐぐっ」」」

「能力の事隠したいなら、これ以上他人に話す気はないんでしょ。全く――。それじゃあ一生海に出られないじゃん」

「「「――――」」」

 

 満更でも無さそうにロボ子は微笑んだ。

 

「ボクも着いていく。船はボクが用意するし、操舵手も船大工もボクが務める。文句は無いね」

「いいの――?」

「いいの!」

「「「やったぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」」」

 

 大歓声が休憩室の壁を突き抜けて響き渡る。

 いろはとそらからすれば、棚ぼた展開。

 実に幸運なスタートだ。

 

「3人とも、直ぐにでも出たいんでしょ」

「「うん!」」「はい!」

「準備するよ。手伝って」

「「「りょーかーい!」」」

 

 4人は早速出航の準備に取り掛かる。

 その日1日を船の整備、移動、そして荷造りに費やした。

 

 ――――――――

 ――――――――

 ――――――――

 

 だが次の日には出航準備が完全に整い、いよいよ旗揚げの時。

 いろはとそらが1日と言う期限の中、必死に捻り出した簡易的なビジュアル。

 AZKiとロボ子には初披露だ。

 

「え⁉︎ 何これ‼︎」

「これでいいの?」

「「うん」」

「いやダメでしょ‼︎ これじゃまるで――海賊じゃん‼︎」

 

 黒ベースの長方形の布に、白い髑髏マーク。

 髑髏の背後には同じ白色で大きくNと記されている。

 

「海賊だよ? あれ、言ってなかったっけ」

「なっ――――‼︎‼︎」

「あっははは、海賊かぁ〜、楽しそう」

 

 AZKiは肝っ玉も座っていて、非常にノリノリ。

 ロボ子はやはり選択を間違えたと後悔の念を募らせる。

 しかし、ここまで来て後戻りはしない。

 

「海賊団の名前と、旗の意味は?」

 

 AZKiが興味津々でNのマークを指差した。

 

「私たちの新しい人生の始まり。ゼロから作る私たちの人生の始まり。その意味を込めて――ゼロ海賊団‼︎」

「旗のNはローマ数字のゼロを意味する!」

「――ゼロ、海賊団――!」

 

 旗を船に乗せて、ロープで柱の天辺まで引き上げる。

 そして大々的に旗を掲げると強い潮風でばたばたと髑髏が旗めく。

 

 たった4人の海賊団。

 簡易的な浸水式も旗揚げ式も終わって、ロボ子が操舵席につく。

 そらが甲板の中央に立って飲み物を掲げた。

 

「それじゃあ、ゼロ海賊団――出航〜!」

「「ヨーソロー‼︎‼︎」」

 

 船にエンジンがかかり、港から離れ、波に乗って大海原へ漕ぎ出してゆく。

 揺れる甲板の上でカツンと木製のジョッキをぶつけ合い、乾杯した。

 

 機械の国アルマを出て、遂にゼロ海賊団の長い長い航海が始まった。

 

 

 

         *****

 

 

 

「あー……つまんねぇなぁ……」

 

 ――――。

 

「なんか起きねぇかなぁ……面白い事……」

 

 ――――。

 

「つぅか、つまんねぇなぁ――この国は」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。