アルマの観光を終え、ロボ子が取り仕切る会社の客室で4人は寛ぐ。
「ロボちゃんって一体何者⁉︎」
「ロボちがこの国で1番偉いんだよ」
「え⁉︎ 王様⁉︎」
「違うよぉ……あずちゃんの言う偉いってのは、天才、高性能って意味!」
「ええ……自分で言う?」
この国の様々な開発と発展に携わったロボ子は、国内でその名を知らぬものはいない程の知名度。
鼻高々に自負する事も頷ける。
いろはとそらは自画自賛に面食らったが、観光後という事もあり納得が早かった。
「それで。2人は船が欲しいって言ってたけど……航海でもするの?」
「はい。2人で海に出ようかなぁって」
観光中の雑談に上がった話題を掘り返して、ロボ子は2人の真意を問う。
「世界を冒険したいんです」
「――――」
2人の想いは同じ。
自分の知らない世界をその目で見たい、それだけだ。
「そっか。それならいいよ、売ってあげる」
「「――!」」
ロボ子の快い返答に2人は手を合わせて舞い上がる。
「けど、お金あるの?」
「「――おかね?」」
しかし、喜びも束の間、ロボ子の一言で現実に突き戻された。
「小型ボートなんかじゃ冒険なんて出れないでしょ。世界を旅するなら相応の船がいるし、買うにはそれなりのお金がかかるよ」
「う……無償で何とか……」
「船の建造費知ってる?」
「はい……ごめんなさい、嘘です」
ロボ子がいくら天才で、金持ちだとしても、自分が乗るわけでも無いのに船一つを無償で提供はできない。
情に訴えても効きはしない。
いろはとそらは身を縮めた。
「ボクは大抵ここにいるから、数日考えてまた来なよ。頑張れば半額くらいまでなら値下げできるから」
「はい、ちょっと考えます」
そらといろはは2人の前で密談を始める。
「今いくら持ってる?」
「数万円くらい。いろはちゃんは?」
「同じくらい」
その額で足りるはずもない。
ロボ子が半額まで割引した、安めの船を買うとしても……数百万はする。
「泣き落とし、通用するかな?」
「いや、ここはあの人の悪行を利用して――」
話の方向が次第に悪徳業者の様になっていく。
「……聴こえてるんだけど」
「「――」」
「明日以降でもちゃんと対応してあげるから、今日は宿とって、しっかり考えてくるといいよ」
「はい……」
2人は肩を落として席を立つ。
休憩室の扉を開けてぺこりとお辞儀した。
「今日はありがとうございました」
「ありがとうございます」
ロボ子に見送られて、2人は休憩室を後にしたのであった。
――――。
「ロボち」
「――?」
2人の退室直後、AZKiが真剣な語調で切り出す。
「私も海に出たい」
「…………」
唐突な願望。
過去に一度もそんな事、聞いた事がない。
ロボ子はジョークを疑ったが、AZKiの瞳は本気だ。
「急に2人に感化されたの?」
「――ロボち、私の能力ってどう思う?」
「アズアズ? んー……どうと言われてもね。ボクとしては不便な能力だと思うけど」
「私もそう思う」
「――――?」
ロボ子は休憩室に配備されたコーヒーメーカーでコーヒーを入れる。
AZKiの分も用意して、2人は上げた腰をもう一度下ろした。
「私はもっと強くてかっこいい能力が欲しかった」
「へぇ」
「3年ほど前、私は能力を見つけて、期待を膨らませて食べた。でも結果は、こんな弱っちぃし、カッコ悪い能力」
AZKiはコーヒーに手をつけず、身の上話を一方的に語る。
ロボ子はコーヒーを飲みながら一応聞きに徹する。
「私は他の人の能力が羨ましい。私の能力はダメで、他人の能力はスゴイ。自分の能力が嫌いな人なんて、私くらいだと思ってた」
「うん」
「でも――いるんだね、世界には。私と同じ様な人が。そらちゃんみたいな子が」
「――世界は広いからね」
AZKiの目付きが変化した。
新たな世界を望む、好奇心に輝く目へと。
「もっと色んな人と能力を知りたい。あわよくば、色んな能力を保管したい! そして私だけの、能力図鑑を作りたいんだ!」
「図鑑?」
AZKiの語る一風変わった夢に、ロボ子は感嘆した。
それと同時に一つの単語に疑問が浮かぶ。
「そう。能力を私の中に保存するの」
「――? でも、一度に3人までからしか力は借りられないんでしょ?」
「そうだよ。だけど……あ、これ他の人には内緒ね。見てて」
AZKiは立ち上がって鼻高々に右手を壁へと翳した。
ロボ子が半身乗り出して観察する。
「バンク解放。メインウェポン」
手先から飛び出す数多のネジ。
ダダダダッ、と五月雨の様にネジが突き刺さる。
「――記録できるの⁉︎」
「実はそうなんだぁ。正しくはバンクに貯蓄してるんだけどね」
「貯蓄?」
「うん。ロボちから能力を預かった後、例えば1時間その能力をバンクに隠しておくの。その間ロボちは勿論、私もその能力は使えない。その代わり能力をロボちに返却した後も、1時間だけなら同じ能力が使える」
「バンク、ね……」
興味深い性能だ。
ロボ子はコーヒーカップを置いて顎に手を当てた。
ロボ子にも夢や目標はある。
世界には人智を超えた謎がある。その最たる例が能力。その謎を解明する事だ。
能力を研究すれば、その能力を人工的に再現できる可能性もあるし、能力の果実誕生の謎や、製造法も解明できるかもしれない。
だがその為にはデータが必要だ。
たった十数人の能力ではなく、数十、数百にも及ぶ膨大なデータが。
AZKiの力を使えば、1箇所に大量の能力を集約させて上手く研究できるかもしれない。
それは――――実に興味深い。
ロボ子の好奇心を唆る話だ。
「……で、態々ボクに聞かせるって事は――?」
「船ちょうだい」
「はぁ」
清々しいお強請りに眩暈がした。
額を押さえて首を振る。
ロボ子はコーヒーを飲み干してAZKiに向き直る。
「分かった。調査って事で繰り出そう」
「やった!」
「当然ボクも行くし、会社からも数人連れて行く事になるけど、いいね」
「それは全然! じゃあ私、あの子達誘ってくるね」
「――――」
AZKiは大慌てでいろはとそらの後を追った。
が、残念ながらその日の内に2人を見つける事は出来なかった。
――――
――――
――――
そして翌日――。
ロボ子が社長を務める会社に、いろはとそらは再び赴いた。
想定より1時間遅刻して。
「やっと着いた〜」
「この国、迷路みたいで困るでござるよ」
はははと笑い飛ばしながら社内へ入り、受付でロボ子とAZKiを呼び出すが、どうやらAZKiは社員ではないようで、今は不在らしい。
前日と同じ休憩室へ通され待つ事5分、ロボ子が入室してくる。
「はろーぼー」
「「――――??」」
「あずちゃんはさっき呼び出したから、間も無く来るよ」
謎挨拶はスルー。
ロボ子も気に留めず2人の対面に座ると、早速答えを伺う。
「まずは、2人の決定を聞こうか」
気を引き締めてロボ子は商談に臨む。
「はい。やっぱりお金無いので、別の所で探すか、自分たちで作ります!」
「――ん? え?」
「――どうかしたの?」
「いや……随分潔いね」
「うん、だってお金無いし!」
「いいの? 割引交渉とかも」
「船ともなるとね。9割引で漸く買えるかどうかだし」
想定外の呆気ない商談不成立。いや、ある意味成立か。
いろはとそらは先の見えない展開にも胸を躍らせて、明るく未来を見ていた。
これ以上の要望は無く、2人が席を立ったのでロボ子は慌てた。
「ああ! ちょっと待って! 実はあずちゃんから、相談があるみたいだから」
「相談、でござるか?」
「うん。来るまでまってて」
その発言のわずか5秒後――ガチャっと扉が開きAZKiも入室してきた。
「お待たせっ! もう話した?」
「まだ」
「そっか!」
息切れするAZKiが勢いよくロボ子の隣に着席し、前のめりに口を開いた。
キラキラと全身に汗が輝く。
「私たちこれから航海に出ようと思うんだけど!一緒に来ない⁉︎」
「「えっ⁉︎」」
「私とロボちと、あと社員数人と、あなた達2人!」
「「…………」」
いろはとそらはまじまじと顔を見合わせる。
昨日までとは一変したAZKiの奇妙なノリに、話を掴み損ねた様に。
「それなら船もあるし、仲間も多いし――どう?」
「……」
いろははそらの目に問いかけた。
首は振らないが瞳が答えをくれる。
いろははAZKiに向き直る。
「誘いは嬉しいでござる。でもそれは、お断りさせてもらいます」
「…………」
「え……なんで⁉︎ お互いwin-winってヤツだよ? デメリットなんてないんだよ? お金も取らないし、悪い様にはしないから」
「あずちゃん。落ち着いて、理由があるんだよ、きっと」
「――――」
「だってそもそも、国を出て船を探してるくらいだよ?」
2人が食い付くと思っていた分、何倍もの肩透かしを食らった気分でAZKiが騒ぎ立てる。それを横から静すロボ子。
一度浮いた腰を落ち着かせ、ロボ子はそらと目を合わせた。
「……」
「……」
視線で訴える。
但し、高圧的にでは無く、諭す様に。
「……私たち実は、おもちゃの国出身で」
「「おもちゃの国?」」
「別名は――GA」
「――?」「――!」
ロボ子とAZKiの反応は対照的だった。
交易の関係で様々な国や都市の噂を耳にするロボ子は、GAの噂も知っている。
そんな国が存在するとだけ。
「ホラホラの実、って言ってたよね。じゃあ、幽霊伝説の正体って――」
「私です」
「なになに⁉︎ 何の話⁉︎」
置いてけぼりのAZKiは一心不乱に体を回して会話を手繰ろうとする。
「あずちゃん、諦めよう。あずちゃんみたいにコンプレックスがあるんだよ、この子にも」
「――それは知ってる! いや、知ってるからこそ」
「ボクたちは関係なく海に出られる。問題ないでしょ」
「「――――」」
そらといろはの目を一瞥した。
ロボ子の目も見た。
強く奥歯を噛み締める。
「――なら、私はロボちとじゃなく、この2人と海に出る! 2人の航海に、旅路についていく‼︎」
「ちょっと、そんな勝手に……」
「問題ないでしょ。ロボちはそもそも、海に出たいわけじゃないんだし」
ロボ子の本心も知らずAZKiは言葉を返した。
AZKiの表情を真似てロボ子も歯軋りした。
2人で勝手に話が進むが、当事者のいろはとそらへの説明はないのだろうか?
きょとんと2人の口論を眺めていると、AZKiがいろはの隣まで回り込んで2人の手を取った。
「お願い! 私も連れて行って!」
「いや、あのぉ……」
「よく分からないけど、能力の事は誰にも言わないし、出身の話もしないから! 2人の邪魔はしないから!」
「「――――」」
また顔を見合わせて困惑する。
AZKiは何か決め手となる言葉はないか探した。その時パッと思いついた昨日の出来事。
「2人は土地勘とかないでしょ?」
「「うっ」」
「私なら土地勘あるし、地図も読めるし、航海士にだってなれる‼︎ 2人の望む場所に、私が連れて行くから‼︎」
「「…………」」
沈黙の中息を呑む音がふたつ。
「どんな航海になるか、分かんないでござるよ?」
「いいよ!」
「怖い人に襲われるかもよ?」
「それでもいいよ!」
「すごーい能力者に殺されかけるかも」
「むしろそれがいいよ‼︎」
脅したのに、AZKiの目は輝きを増すばかり。
純粋なその瞳に負けて、2人は苦笑気味に頷くと――
「分かった」
「なら、一緒に行こ」
「――‼︎ やった! ありがとう‼︎」
ロボ子の瞠目には誰1人気付かず、AZKiの同行に室内は騒がしくなる。
AZKiがいろはの隣に座ってニコニコでロボ子と対面する。
「そういう事だからロボち、航海に出る話は無しになった!」
「いやいや、何勝手に――」
「昨日の今日だし、まだ誰にも話してないんでしょ? 問題ないじゃん!」
「うっ……ぐぬぬ……」
一矢報いられた気分で不愉快だった。
それと同時に湧き上がる、新たな感情。
ロボ子は――海に出たかったのか?
ただ、能力を研究したかっただけ?
それとも……新しい人生に身を投じる3人が、輝かしく見えた、とか。
このまま身を引けば、今までと同じ開発と研究の日々。
国に閉じこもって、下らないけど役に立つ発明品を生み出す人生。
でも食い下がっても…………。
「はぁ……」
大きなため息をひとつ。
それをロボ子の諦念と見てAZKiは満面の笑みを浮かべた。
「船がなきゃこの島すら出れないクセに」
「「「うっ」」」
「そもそも船の操縦だってできないクセに」
「「「うぐぐっ」」」
「能力の事隠したいなら、これ以上他人に話す気はないんでしょ。全く――。それじゃあ一生海に出られないじゃん」
「「「――――」」」
満更でも無さそうにロボ子は微笑んだ。
「ボクも着いていく。船はボクが用意するし、操舵手も船大工もボクが務める。文句は無いね」
「いいの――?」
「いいの!」
「「「やったぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」」」
大歓声が休憩室の壁を突き抜けて響き渡る。
いろはとそらからすれば、棚ぼた展開。
実に幸運なスタートだ。
「3人とも、直ぐにでも出たいんでしょ」
「「うん!」」「はい!」
「準備するよ。手伝って」
「「「りょーかーい!」」」
4人は早速出航の準備に取り掛かる。
その日1日を船の整備、移動、そして荷造りに費やした。
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だが次の日には出航準備が完全に整い、いよいよ旗揚げの時。
いろはとそらが1日と言う期限の中、必死に捻り出した簡易的なビジュアル。
AZKiとロボ子には初披露だ。
「え⁉︎ 何これ‼︎」
「これでいいの?」
「「うん」」
「いやダメでしょ‼︎ これじゃまるで――海賊じゃん‼︎」
黒ベースの長方形の布に、白い髑髏マーク。
髑髏の背後には同じ白色で大きくNと記されている。
「海賊だよ? あれ、言ってなかったっけ」
「なっ――――‼︎‼︎」
「あっははは、海賊かぁ〜、楽しそう」
AZKiは肝っ玉も座っていて、非常にノリノリ。
ロボ子はやはり選択を間違えたと後悔の念を募らせる。
しかし、ここまで来て後戻りはしない。
「海賊団の名前と、旗の意味は?」
AZKiが興味津々でNのマークを指差した。
「私たちの新しい人生の始まり。ゼロから作る私たちの人生の始まり。その意味を込めて――ゼロ海賊団‼︎」
「旗のNはローマ数字のゼロを意味する!」
「――ゼロ、海賊団――!」
旗を船に乗せて、ロープで柱の天辺まで引き上げる。
そして大々的に旗を掲げると強い潮風でばたばたと髑髏が旗めく。
たった4人の海賊団。
簡易的な浸水式も旗揚げ式も終わって、ロボ子が操舵席につく。
そらが甲板の中央に立って飲み物を掲げた。
「それじゃあ、ゼロ海賊団――出航〜!」
「「ヨーソロー‼︎‼︎」」
船にエンジンがかかり、港から離れ、波に乗って大海原へ漕ぎ出してゆく。
揺れる甲板の上でカツンと木製のジョッキをぶつけ合い、乾杯した。
機械の国アルマを出て、遂にゼロ海賊団の長い長い航海が始まった。
*****
「あー……つまんねぇなぁ……」
――――。
「なんか起きねぇかなぁ……面白い事……」
――――。
「つぅか、つまんねぇなぁ――この国は」