城側の砂浜にて。
マリン、ルーナ、フブキに加え、ポルカ、トワ、ちょこ、スバル、ラプラスが合流し、重要な関係者が集った。
ラプラスが皆を集めた時には、既に決着しており、フブキが只管に泣きじゃくっていた。
事の成り行きはマリンから大まかに解説されたが、フブキの名誉の為、脱衣事件は秘密とされた。
だからこそ、何故フブキが泣くのか分からず、刺々しい態度を貫くものがいる。
「おいお前! 何泣いてんだよ、シオンたちはどこへやった!」
「ちょっとラプラスさん、今は……」
「何だよ、コイツが2人を連れ去った張本人だぞ! 居場所吐かせてやる」
「うぐっ……ぅぅ……」
鼻水と涙を垂らして縮こまるフブキに詰め寄り、シオンとねねの居場所をと迫る。
マリンが宥めても、聞く耳を持たない。
フブキも泣き止まず、収拾がつかない。
珍しくラプラスが他人を見下ろす光景。
「船長、泣いてる理由くらい教えてくれても……」
「……フッ、それは漢の友情に賭けてできないな」
「はぁ……」
女だろ、とか、まだ友情なんてないだろ、なんて突っ込む気力はない。
マリンの決めポーズも冗談と同じように流される。
「そんな事はいいんだよ!」
ラプラスが腕を大きく振り払って叫び散らす。
怒りの中に焦燥感を混じらせて剣幕な顔を作る。
「2人が今、どうなってるか……分かんないんだよ!」
「そうだとしても、フブちゃんの状況を考えると、今は――」
「落ち着けって、ラプラスも船長も、張り合う時じゃないだろ」
トワが2人に割って入り、喧嘩を仲裁する。
喧嘩なんて大層な物ではないか……。
「姫、ここは一旦……」
「――そうなのらね」
スバルがルーナに耳打ちする。
「ちょっと、話し合いを試みるのら。フブキちゃんと落ち着いて話してみるから、悪いのらけど、ここで待っててほしいのら」
「ルーナ姫……」
「……」
メソメソとしつつ、次第に声を抑え始めたフブキを連れて、ルーナが喧嘩の輪に入る。
ラプラスからルーナへの信頼は不思議と厚い。
トワもこの国への信頼度は大きいだろう。
「分かりました」
不満げに口を曲げる者もいるが、最終的にそう落ち着いた。
ルーナは部下2人とフブキを連れて一度城へと帰っていった。
砂浜で波音がざわめく。
「…………」
「あいつ、泣いて誤魔化しやがって……!」
「だーかーらー、フブちゃんは多分記憶が無いの! あんまり悪く言わないでください!」
「うるせぇ!」
「ラプラス、一旦冷静になれ。船長も、いちいち拾わなくてもいいだろ」
トワがうまく仲裁するが、2人とも平静心を保てない。
色々と、心に残るものがあるのだろう。
「2人のことは後回しかよ」
「誰もそんな事言ってないだろ、一つ一つ事を運んで、確実に詰めてかねぇと、下手したら大惨事になる」
「……おかしいと、思ったんだよ」
「あ……?」
「あの日トワさん、タイミングよく出て来て、吾輩が船追うの止めたのは、追われたらまずいからだったんだろ!」
「おい何でそうなんだよ!」
「お前たちも、急に助けるとか都合良すぎると思ったんだ!」
冷静さを欠いたラプラスから飛び出る暴論には、根拠がないが、確実に否定して沈める証拠もない。
だが、本当に冷静に考えれば……いや、一般的な思考を持てれば、それは極小すぎる可能性だと判断できる。
まるで解決したように空気が弛緩する中、ラプラスだけは未だに目的を果たせていない。
それが、彼女の全てを鈍らせ、疑心暗鬼を生んでいる。
だが、ここでトワがこれ以上反論しようとも、余計に刺激するだけ。
皆、気を伺うように黙り込んで、粛然とする。
「ポルカもずっと黙ってないで……」
気まずくなり、背後で会話に不参加だったポルカを呼ぶが、ジッと水平線の彼方を見つめている。
装飾されたような瞳は、ジッと海の先を見つめ、決して視線が揺らぐことはない。
ポルカの目が海からの反射を更に反射していた。
「ポルカ?」
「……なんか来る」
「え?」
全員が一瞬正気に戻る。
ポルカの視線を辿り、海上の点を探した。
確かに、何かが飛んで来る。
目を凝らしても見えないが、凝視を続ければその正体は見えてくる。
眩しい海面の数メートル上空、一つのブロックが真っ直ぐこの島へ飛来してくるのだ。
しかも、上には2人の女性が。
「船長!」
「ヤバい、んでしょうね」
仲間だと信じたい。
だが、ポルカの警鐘は間違いなく的確。
他人事のような言い回しは、マリンのジレンマそのものだ。
「何だありゃあ」
「敵と認識していい、気をつけて」
目を凝らし奇妙な襲来を訝しむトワ。
バツの悪い表情を浮かべて、マリンは答えた。
ラプラスを背後に三人が砂浜で待機する。
やがて、三人の目前までブロックは届いた。
誰も近づけない、海の上から、2人が見下ろしてくる。
1人は微笑み、1人は拗ねたように視線を逸らして。
「やっほー、久しぶり」
ブロックから、AZKiが笑顔でマリンに手を振った。
隣で待機しているすいせいは、愛想があまりよくない。
「できれば、もっと友好的に会いたかったですよ」
「えー、結構友好的だと思うけどなぁ〜、私的に」
「みこちには、何もしてないですか?」
「ん? あー、あの巫女さんね、気になるけど、今はいいかな」
「そうですか」
何もしていない、とは答えない。
しかし、何故またこんな場所へ。
まさか、追ってきたのか?
「知らない顔が2人もいるけど、仲間?」
「さあ、どうでしょう」
「ふーん……ま、いっか」
AZKiの笑みは崩れない。
すいせいも相変わらず不貞腐れたような顔。
マリン陣営は、みな緊張した面持ち。
「船長さん。マリンちゃん、だっけ? いい能力持ってるらしいね」
「……⁉︎」
マリンが、いい能力?
船を生み出したり、自由に航海するだけの能力が?
驚愕したのはポルカやトワも同じ。
「うちに来ない?」
「ふんっ……」
AZKiからの勧誘。
プイッとそっぽ向いたのは、すいせいだった。
作らない可愛さが垣間見えるが、敵だ。
「素敵な誘いですけど断りますね」
「残念」
………………。
「すいちゃん」
「……はいはい」
すいせいの始動に合わせて4人の頭上から巨大ブロックが落下してくる。
喰らえば圧死。
回避は不可欠。
「あっぶねえ!」
なので全員回避。
だが、ポルカもマリンも反撃の技がない。
「はい!」
せめて、とマリンは巨大船を海上に現出し、2人の乗るブロックを遠ざける。
だが、すいせいがその船に触れると、船がバラバラと音を立てて崩壊した。
すいせいの表情はいつでもつまらなそうで、不満そうだ。
「嘘だろ!」
「テトリスが能力じゃないんか!」
明らかにブロックと乖離した能力。
船の残骸はしばらく海を漂っていたが、マリンが消滅させる。
「こっちおーいで」
「うわっ!」
AZKiの指先から放たれた青白い炎が複数漂い、4人を囲い込む。
昼間でも見える人魂のような炎。
淡くゆらめきながらも、決して風に負けることのない炎。
「ふぅ……寒っ!」
炎に囲まれた4人を襲うのは、熱気でなく冷気。
奇妙な寒気が背筋を這う。
体験したことはないが、まるで側に幽霊の気配を感じるようだ。
口から漏れる吐息が白い。
「ブロックボックス」
「しまった」
「視界も閉まった!」
「冗談言ってる場合じゃねえ!」
「ちょい、足踏むな!」
「いやーん、誰ですか船長の胸触ったのぉ」
「うっわ最悪だ、触っちまったかも!」
「んだとゴラァ!」
すいせいのブロックで囲まれ、4人は暗闇に包まれた。
4人わちゃわちゃと緊張感の無い芸を披露している。
披露する相手もいないというのに。
「すいちゃん、そのまま運べる?」
「地面が動かないから無理」
「じゃあ……よっしょっ、と……これで動かせる?」
箱の外での会話が小さく聞こえる。
AZKiが砂浜に降りて、ブロックと地面に何かをした。
その後……ふっと、浮遊感に襲われる。
砂とブロックのボックスに囲まれたまま、4人は空中へ飛び出た。
「ヤバくない⁉︎」
「ヤバい……」
「まずいぞ」
「ヤバいですね……トワ様の胸の中」
「お前かぁ!」
「いだっ」
急に浮遊感に襲われ体勢を崩したため、マリンはトワに倒れかかった。
その際グッと服を掴むと、トワが優しく支えてくれた。
だが、マリンと知るなり張っ倒す。
パァーンと頭部への平手打ち。
頭が少し悪くなったかもしれない。
「ラプラスかと思ったわ」
「ぇ……」
「はいそこ、トキメかない」
「ちょっと船長、邪魔……」
「船長が邪魔⁉︎」
「暴れんな」
「イテッ……トワ様、今のポルカ……」
「あ、わりぃ」
ガヤガヤとボックス内で騒ぎ続ける。
下手に暴れ回るので、箱が揺れ動きすいせいも操作に手間取っていた。
この馬鹿騒ぎは敵味方共に想定外の抵抗となり、それが功を奏す。
「何やってんだお前ら!」
スバルの声。
話し合いを終えた面々が戻って来て、すぐさま異変に気付く。
「すいちゃん、早く帰るよ」
「わかっ――」
すいせいの操作する全てのブロックが消滅した。
あっという間にすいせいは海へ。
マリンたちを囲むブロックも消えて、4人も海へ。
能力者であるマリン、ポルカ、すいせいは溺れるが、ラプラスとトワは泳げる。
マリンとポルカは2人に助けられた。
しかし、すいせいは抜け出せない。
「お前も堕ちろよ」
「――へえ」
「っ!」
ルーナがAZKiを睨む。
鋭い眼光に怯みもせず、くすっと笑うと、AZKiはすいせいの元まで空中を漂って近寄る。
よく見れば、服も髪も一切靡かない。
潮風を受けていない。
「ほら」
すいせいの体が前触れなく海上へ浮き上がる。
「お前……本体じゃねぇのか」
「実体を捕らえないと効かないんだね、覚えとくよ」
AZKiはすいせいを連れて水平線の彼方へ進み始めた。
「待ちなさい!」
「このっ!」
スバルが丸めた網をちょこが硬質化して投函し、捕縛を試みたが、AZKiをすり抜けてしまう。
「透過された……!」
「クソッ、ちょこ先!」
「ええ」
2人は追う姿勢を見せるが……。
「追わなくていいのら」
「……はい」
潔く諦めた。
王の命令に忠実だ。
こう見ると、姫の威厳とは恐ろしい。
「でも、何だったんだ、アイツら……」
「多分、洗脳能力の関係者なのら」
逃げゆく2人の背中をルーナはジッと見つめた。