ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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11話 強い奴ら

 

 城側の砂浜にて。

 

 マリン、ルーナ、フブキに加え、ポルカ、トワ、ちょこ、スバル、ラプラスが合流し、重要な関係者が集った。

 ラプラスが皆を集めた時には、既に決着しており、フブキが只管に泣きじゃくっていた。

 事の成り行きはマリンから大まかに解説されたが、フブキの名誉の為、脱衣事件は秘密とされた。

 だからこそ、何故フブキが泣くのか分からず、刺々しい態度を貫くものがいる。

 

「おいお前! 何泣いてんだよ、シオンたちはどこへやった!」

「ちょっとラプラスさん、今は……」

「何だよ、コイツが2人を連れ去った張本人だぞ! 居場所吐かせてやる」

「うぐっ……ぅぅ……」

 

 鼻水と涙を垂らして縮こまるフブキに詰め寄り、シオンとねねの居場所をと迫る。

 マリンが宥めても、聞く耳を持たない。

 フブキも泣き止まず、収拾がつかない。

 珍しくラプラスが他人を見下ろす光景。

 

「船長、泣いてる理由くらい教えてくれても……」

「……フッ、それは漢の友情に賭けてできないな」

「はぁ……」

 

 女だろ、とか、まだ友情なんてないだろ、なんて突っ込む気力はない。

 マリンの決めポーズも冗談と同じように流される。

 

「そんな事はいいんだよ!」

 

 ラプラスが腕を大きく振り払って叫び散らす。

 怒りの中に焦燥感を混じらせて剣幕な顔を作る。

 

「2人が今、どうなってるか……分かんないんだよ!」

「そうだとしても、フブちゃんの状況を考えると、今は――」

「落ち着けって、ラプラスも船長も、張り合う時じゃないだろ」

 

 トワが2人に割って入り、喧嘩を仲裁する。

 喧嘩なんて大層な物ではないか……。

 

「姫、ここは一旦……」

「――そうなのらね」

 

 スバルがルーナに耳打ちする。

 

「ちょっと、話し合いを試みるのら。フブキちゃんと落ち着いて話してみるから、悪いのらけど、ここで待っててほしいのら」

「ルーナ姫……」

「……」

 

 メソメソとしつつ、次第に声を抑え始めたフブキを連れて、ルーナが喧嘩の輪に入る。

 ラプラスからルーナへの信頼は不思議と厚い。

 トワもこの国への信頼度は大きいだろう。

 

「分かりました」

 

 不満げに口を曲げる者もいるが、最終的にそう落ち着いた。

 ルーナは部下2人とフブキを連れて一度城へと帰っていった。

 

 砂浜で波音がざわめく。

 

「…………」

「あいつ、泣いて誤魔化しやがって……!」

「だーかーらー、フブちゃんは多分記憶が無いの! あんまり悪く言わないでください!」

「うるせぇ!」

「ラプラス、一旦冷静になれ。船長も、いちいち拾わなくてもいいだろ」

 

 トワがうまく仲裁するが、2人とも平静心を保てない。

 色々と、心に残るものがあるのだろう。

 

「2人のことは後回しかよ」

「誰もそんな事言ってないだろ、一つ一つ事を運んで、確実に詰めてかねぇと、下手したら大惨事になる」

「……おかしいと、思ったんだよ」

「あ……?」

「あの日トワさん、タイミングよく出て来て、吾輩が船追うの止めたのは、追われたらまずいからだったんだろ!」

「おい何でそうなんだよ!」

「お前たちも、急に助けるとか都合良すぎると思ったんだ!」

 

 冷静さを欠いたラプラスから飛び出る暴論には、根拠がないが、確実に否定して沈める証拠もない。

 だが、本当に冷静に考えれば……いや、一般的な思考を持てれば、それは極小すぎる可能性だと判断できる。

 まるで解決したように空気が弛緩する中、ラプラスだけは未だに目的を果たせていない。

 それが、彼女の全てを鈍らせ、疑心暗鬼を生んでいる。

 

 だが、ここでトワがこれ以上反論しようとも、余計に刺激するだけ。

 皆、気を伺うように黙り込んで、粛然とする。

 

「ポルカもずっと黙ってないで……」

 

 気まずくなり、背後で会話に不参加だったポルカを呼ぶが、ジッと水平線の彼方を見つめている。

 装飾されたような瞳は、ジッと海の先を見つめ、決して視線が揺らぐことはない。

 ポルカの目が海からの反射を更に反射していた。

 

「ポルカ?」

「……なんか来る」

「え?」

 

 全員が一瞬正気に戻る。

 ポルカの視線を辿り、海上の点を探した。

 確かに、何かが飛んで来る。

 目を凝らしても見えないが、凝視を続ければその正体は見えてくる。

 

 眩しい海面の数メートル上空、一つのブロックが真っ直ぐこの島へ飛来してくるのだ。

 しかも、上には2人の女性が。

 

「船長!」

「ヤバい、んでしょうね」

 

 仲間だと信じたい。

 だが、ポルカの警鐘は間違いなく的確。

 他人事のような言い回しは、マリンのジレンマそのものだ。

 

「何だありゃあ」

「敵と認識していい、気をつけて」

 

 目を凝らし奇妙な襲来を訝しむトワ。

 バツの悪い表情を浮かべて、マリンは答えた。

 

 ラプラスを背後に三人が砂浜で待機する。

 

 やがて、三人の目前までブロックは届いた。

 誰も近づけない、海の上から、2人が見下ろしてくる。

 1人は微笑み、1人は拗ねたように視線を逸らして。

 

「やっほー、久しぶり」

 

 ブロックから、AZKiが笑顔でマリンに手を振った。

 隣で待機しているすいせいは、愛想があまりよくない。

 

「できれば、もっと友好的に会いたかったですよ」

「えー、結構友好的だと思うけどなぁ〜、私的に」

「みこちには、何もしてないですか?」

「ん? あー、あの巫女さんね、気になるけど、今はいいかな」

「そうですか」

 

 何もしていない、とは答えない。

 しかし、何故またこんな場所へ。

 まさか、追ってきたのか?

 

「知らない顔が2人もいるけど、仲間?」

「さあ、どうでしょう」

「ふーん……ま、いっか」

 

 AZKiの笑みは崩れない。

 すいせいも相変わらず不貞腐れたような顔。

 マリン陣営は、みな緊張した面持ち。

 

「船長さん。マリンちゃん、だっけ? いい能力持ってるらしいね」

「……⁉︎」

 

 マリンが、いい能力?

 船を生み出したり、自由に航海するだけの能力が?

 驚愕したのはポルカやトワも同じ。

 

「うちに来ない?」

「ふんっ……」

 

 AZKiからの勧誘。

 プイッとそっぽ向いたのは、すいせいだった。

 作らない可愛さが垣間見えるが、敵だ。

 

「素敵な誘いですけど断りますね」

「残念」

 

 ………………。

 

「すいちゃん」

「……はいはい」

 

 すいせいの始動に合わせて4人の頭上から巨大ブロックが落下してくる。

 喰らえば圧死。

 回避は不可欠。

 

「あっぶねえ!」

 

 なので全員回避。

 だが、ポルカもマリンも反撃の技がない。

 

「はい!」

 

 せめて、とマリンは巨大船を海上に現出し、2人の乗るブロックを遠ざける。

 だが、すいせいがその船に触れると、船がバラバラと音を立てて崩壊した。

 すいせいの表情はいつでもつまらなそうで、不満そうだ。

 

「嘘だろ!」

「テトリスが能力じゃないんか!」

 

 明らかにブロックと乖離した能力。

 船の残骸はしばらく海を漂っていたが、マリンが消滅させる。

 

「こっちおーいで」

「うわっ!」

 

 AZKiの指先から放たれた青白い炎が複数漂い、4人を囲い込む。

 昼間でも見える人魂のような炎。

 淡くゆらめきながらも、決して風に負けることのない炎。

 

「ふぅ……寒っ!」

 

 炎に囲まれた4人を襲うのは、熱気でなく冷気。

 奇妙な寒気が背筋を這う。

 体験したことはないが、まるで側に幽霊の気配を感じるようだ。

 口から漏れる吐息が白い。

 

「ブロックボックス」

 

「しまった」

「視界も閉まった!」

「冗談言ってる場合じゃねえ!」

「ちょい、足踏むな!」

「いやーん、誰ですか船長の胸触ったのぉ」

「うっわ最悪だ、触っちまったかも!」

「んだとゴラァ!」

 

 すいせいのブロックで囲まれ、4人は暗闇に包まれた。

 4人わちゃわちゃと緊張感の無い芸を披露している。

 披露する相手もいないというのに。

 

「すいちゃん、そのまま運べる?」

「地面が動かないから無理」

「じゃあ……よっしょっ、と……これで動かせる?」

 

 箱の外での会話が小さく聞こえる。

 AZKiが砂浜に降りて、ブロックと地面に何かをした。

 その後……ふっと、浮遊感に襲われる。

 砂とブロックのボックスに囲まれたまま、4人は空中へ飛び出た。

 

「ヤバくない⁉︎」

「ヤバい……」

「まずいぞ」

「ヤバいですね……トワ様の胸の中」

「お前かぁ!」

「いだっ」

 

 急に浮遊感に襲われ体勢を崩したため、マリンはトワに倒れかかった。

 その際グッと服を掴むと、トワが優しく支えてくれた。

 だが、マリンと知るなり張っ倒す。

 パァーンと頭部への平手打ち。

 頭が少し悪くなったかもしれない。

 

「ラプラスかと思ったわ」

「ぇ……」

「はいそこ、トキメかない」

「ちょっと船長、邪魔……」

「船長が邪魔⁉︎」

「暴れんな」

「イテッ……トワ様、今のポルカ……」

「あ、わりぃ」

 

 ガヤガヤとボックス内で騒ぎ続ける。

 下手に暴れ回るので、箱が揺れ動きすいせいも操作に手間取っていた。

 この馬鹿騒ぎは敵味方共に想定外の抵抗となり、それが功を奏す。

 

「何やってんだお前ら!」

 

 スバルの声。

 話し合いを終えた面々が戻って来て、すぐさま異変に気付く。

 

「すいちゃん、早く帰るよ」

「わかっ――」

 

 すいせいの操作する全てのブロックが消滅した。

 あっという間にすいせいは海へ。

 マリンたちを囲むブロックも消えて、4人も海へ。

 

 能力者であるマリン、ポルカ、すいせいは溺れるが、ラプラスとトワは泳げる。

 マリンとポルカは2人に助けられた。

 しかし、すいせいは抜け出せない。

 

「お前も堕ちろよ」

「――へえ」

「っ!」

 

 ルーナがAZKiを睨む。

 鋭い眼光に怯みもせず、くすっと笑うと、AZKiはすいせいの元まで空中を漂って近寄る。

 よく見れば、服も髪も一切靡かない。

 潮風を受けていない。

 

「ほら」

 

 すいせいの体が前触れなく海上へ浮き上がる。

 

「お前……本体じゃねぇのか」

「実体を捕らえないと効かないんだね、覚えとくよ」

 

 AZKiはすいせいを連れて水平線の彼方へ進み始めた。

 

「待ちなさい!」

「このっ!」

 

 スバルが丸めた網をちょこが硬質化して投函し、捕縛を試みたが、AZKiをすり抜けてしまう。

 

「透過された……!」

「クソッ、ちょこ先!」

「ええ」

 

 2人は追う姿勢を見せるが……。

 

「追わなくていいのら」

「……はい」

 

 潔く諦めた。

 王の命令に忠実だ。

 こう見ると、姫の威厳とは恐ろしい。

 

「でも、何だったんだ、アイツら……」

「多分、洗脳能力の関係者なのら」

 

 逃げゆく2人の背中をルーナはジッと見つめた。

 

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