ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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120話 フルメンバー

 

 すいせいの案内でアルメンドラの中にある小さな鍛冶屋を訪れた一行。

 値段や質を吟味した結果、いろはは刀を新調する事を決意。

 店側に希望の刀身や質を伝え、溶けた刀も見せると、5分とかけずに新たな刀を作ってくれた。

 

 いろはの刀は鍛冶屋によって文字通り生まれ変わったのだ。

 

 おかげで材料費が掛からず、普通に刀を買う値段の10分の1ほどの金額で刀を入手できた。

 鍛冶屋に大感謝だ。

 

 そして一行は鍛冶屋を後にし、約束通りすいせいに能力を返却する運びとなる。

 

「あずちゃん、約束だからね」

「もぅ〜……分かったよ」

 

 口先を曲げて不服そうにすいせいの両手を握った。

 顔を合わせるとお互いムッと睨み合っていた。

 

「はい、これで丸く収まりましたとさ」

 

 そらが両手を合わせて微笑むと、AZKiはすいせいから距離を置いた。

 バルディッシュを分解して、再構築。

 確かに能力はすいせいへと戻っていた。

 

「……」

「じゃあね。もう悪い事しちゃダメだからね」

「……」

 

 どっちが悪か分からなくなる構図。

 手を振って離れて行くそらといろはを見つめ、すいせいは鍛冶屋の前に佇む。

 AZKiとロボ子はとっくに視線を外していた。

 

「……待てよ」

「「――?」」

 

 すいせいの張りのある声にそらといろはは足を止めた。

 だがAZKiとロボ子は止まらない。

 

「ほっときなよ」

 

 無視を決め込む2人だが、そらといろははきちんと耳を傾けた。

 

「お前。マジで強いの?」

「……風真?」

「強いよ」「強い!」

「あずちゃん……」

 

 無視を決め込んでいたAZKiまでも息巻いて答えた。

 仲間からの絶対的信頼。それでいて本人は無自覚……と言うか、自己肯定感が低い。

 

 これぞ本物の強者感。

 それでいて無能力者。

 

「だったらあたしと決闘してよ」

「……? あの〜……なんでぇ〜?」

「あたしが負けたら、仲間に入れて」

「ぇ――?」

「え、仲間に⁉︎」「――‼︎ 絶対ダメ‼︎」

 

 今度こそいろはは万全の状態。

 そのいろはとの決闘を申込むすいせいの連なる要求に、三者三様の反応を見せた。

 いろはは拍子抜けする声を上げ、そらは手を合わせて喜び、AZKiは断固反対を唱える。

 ロボ子は傍観だ。

 

「あたしより強い無能力者なんていねぇと思ってる。だからお前があたしに勝てるって事は、あたしは世界を知らないって事。もしそんな面白れぇ世界があんのなら――あたしも海に出たい」

「いいじゃん‼︎」

「いやいやいや! そんなの勝手に海に出れば良いじゃん‼︎」

「は? 無茶言うなよ。あたし航海術ねぇし、操舵も船の整備もできねぇんだぞ」

「我儘‼︎」

「あずちゃんが言うかなぁ……」

 

 決闘を申し込まれたいろははそっちのけで、謎の掛け合いと口論が勃発する。

 大まかに見ると、そらは賛成派、AZKiは反対派、ロボ子は中立。

 船長は一応そらなので決定権はそらにあるが――決闘の受理の決定権は申し込まれたいろはにある。

 

 新品の刀――チャキ丸の柄を優しく撫でた。

 

「あたしは戦力になる。悪い話じゃねぇだろ」

「私に負けたくせに」

「――」

 

 AZKiとすいせいの対立を見ると、仲間入りには不安しか感じない。

 

「決闘以前に……そもそもどうして風真たちに攻撃してきたんでござる?」

 

 一度は水に流そうとした話を掘り返して、いろはは話題を逸らす作戦に出た。

 

「……つまんねぇし、退屈なんだよ。この国は」

 

 口先を曲げて不満そうに呟いた。

 その一瞬の哀愁漂う表情が、嘗てのそらと重なった。

 

「ねえいろはちゃん。折角なんだからこの子も連れて行こうよ!」

「えぇー‼︎」

 

 いろはではなくAZKiが叫んだ。

 とことん嫌っていて逆に面白い。

 いろはの悪戯心がすいせいを仲間に入れろと囁く。

 

「……勝つ前提なのは腹立つな」

「まあ、そらちゃんが仲間にしたいって言うなら、仲間にしても……」

「――??? おい待て。決闘で勝ったらって言ってんだろ」

 

 最早決闘の事など忘れて、すいせいを仲間にするかの議論と変化していた。

 訂正させるが聞いちゃいない。

 

「すいせいさん。仲間になります?」

「人の話聞けよ‼︎」

「へ、何?」

「だーかーらーっ‼︎ あたしと!お前が!決闘して!お前が勝ったらだ!って言ってんの‼︎」

「そ、そんな怒らなくても」

「怒るわ普通‼︎」

 

 ぐいっと胸ぐらを掴んで額をぶつける。

 怒りの中に微かな笑みが混じっていた。

 

「私たちと海に出たいんでしょ? 決闘なんていらないと思うけど」

「弱い奴らと海に出たって退屈だろ。その指標にこいつと戦うんだって!」

 

 そらが問い返すといろはが強く首肯した。

 

「だから私に負けたじゃん。船内最弱の私はあなたより強い、つまりあなたが最弱決定。ほら証明完了、Q.E.D」

「お前が最弱の証明がなされてねぇぞ。はい破綻、論破」

「私はみんなに負けた。はいはい論破」

「うわ〜、守護られるお姫様気取りかよ、いってぇ〜」

「ぷっ、話題のすり替え! 最弱認めてる」

「あっそう!だったらもっぺんやるか⁉︎」

「望む所‼︎」

「こらこらこら! それこそ意味ないでしょうに」

 

 傍観していたロボ子が仲裁に入り、AZKiの服を引っ張る。

 強引に距離を取らせて宥める。

 

「ね? 面白そう」

「うん。それは風真も同意」

「これ以上ボクの負担増やさないで‼︎」

 

 いろはが賛成派へ、ロボ子が反対派へと立ち、賛否は見事に両論。

 しかし、海賊団の創設者2名が圧倒的な権力なので、反対派が劣勢にある。

 

「すいせいさん。仲間になります?」

「だっかっらッッ‼︎‼︎」

「決闘なんていらないと思いますよ。既に楽しそうなので」

「やめろ!」「やめて!」

「ほら、仲良いじゃん」

「「だから――!」」

 

 ――!

 

「真似すんな!」「真似しないで!」

 

 ――。

 

「「ああー‼︎ もう‼︎」」

「「あっははは‼︎」」

 

 言葉の被る2人のやり取りで腹を抱えて笑うそらといろは。

 ロボ子はAZKiを懸命に押さえながら嘆息していた。

 

「ッ――‼︎」

 

 揶揄えば揶揄うほど、すいせいとAZKiの気が合うほど、すいせいはそれを認めたくないので、決闘に負けると言う口実を欲する。

 

「なんでそんなに決闘拒むんだよ! 海賊だろ! どうせ日常茶飯事だろ!」

「無闇に人を傷つけても、良い事ないじゃないですか」

「っ…………」

 

 忽然と消え去るいろはとそらの愉悦。

 すいせいはたじろいだ。

 

「ひとつ言っとくけどうちの船、訳もなく他人を傷つける行為は基本的に禁止だからね」

「――――」

「自分や仲間がピンチの場合、他人から仕掛けられた場合以外は攻撃禁止。物を盗むのも悪人から、もしくは既に所有権が失われたと思われるものに限る」

「――ホントに海賊か?」

「呑めないならうちには入れないからね」

 

 自ら縛りを加してまで海賊旗を掲げる一団。

 こんな奴ら、この先一生出会えないだろう。

 一層興味が湧いた。

 やっぱり乗りたい――この船に。

 

「いや、それでいい。おもろそう」

「じゃあ仲間になる?」

「――なる」

「やったー!」

「イェーイ!」

「……?……?……? ってオイ‼︎ はぐらかすな!」

 

 流されるままに答えると、いろはとそらが仲良くハイタッチを決めた。

 その光景を眼前に見てポカンと口を開ける。そして――決闘の事を思い出し叫び散らした。

 

「もう。そっちこそ何で決闘に拘るの」

「いや、だって――! 最弱みたいじゃんか――!」

「――。おやおや〜? 私に負けたの悔しいんだ〜?」

 

 すいせいが口を割るとニマニマとAZKiが口元を手で隠して嘲笑を浴びせた。

 すいせいの歯軋りがよく聞こえる。

 

「それなら平気。あずきちはドーピングみたいなのしてたから」

「――? ドーピング?」「そらちゃん――!」

 

 口を滑らせた……訳ではなく、そらは惜しみ無く暴露する。

 AZKiが口を塞ぎに掛かるがまたロボ子に押さえ込まれた。

 

「あずきちはアズアズの実の能力者。すいちゃんの能力を盗った様に、私の能力を貸してたの――ほら」

 

 簡潔な説明と浮遊での実演。

 すいせいの飲み込みは素早い。

 

「ほっほぅ? そんな借り物の力で勝って、嬉しかったんだぁ〜?」

 

 武器を得て優位に立つや否や煽る。

 当然AZKiは憤慨する。

 

 最高のコンビの誕生にそらといろははご満悦だ。

 ロボ子だけは、やっぱり参っていたが。

 

「言っとくけど! うちに入ったらアナタは私の下っ端だからね!」

「立ち位置なんかどうでもいいし。下剋上するから」

「――これでも私、副船長なんだよ!」

「「……そうなの?」」

 

 いろはとロボ子が息を合わせて首を傾げる。

 一味内ですら真偽不明では、到底副船長とは言えないだろう。

 

「あずきち副船長なの?」

「そらちゃん⁉︎ そらちゃんがいいよって言ったんじゃん⁉︎」

「あれ……? そうだっけ……? ならいいよ」

 

 副船長がこうもテキトーに決まる船が、果たして体裁を保てるか……。

 なんて現実を真摯に受け止めるのはロボ子だけ。

 いろはも容認しているし、すいせいは反抗的なだけで役職設定など眼中にない。

 楽しければそれで良い。

 

「これからもっと賑やかになるね〜」

「そうでござるなぁ〜」

「喧しいの間違いでしょ」

 

 呑気に弛緩した微笑を向け合うそらといろはに、ロボ子は本心を愚痴った。

 もうAZKiとすいせいの張り合いを止める事も煩わしい。

 2人に好き勝手させながら船へと戻る――――その帰路で、

 

 

「……あれ手配書?」

「わぁお、本物初めて見たかもー」

「嘘でしょ? アルマでは国内犯罪も多かったんだよ⁉︎」

「GAは大きい国じゃなかったしね」

 

 WANTEDと書かれた手配書が5枚。

 国際指名手配中らしい。

 

「これ捕まえたらさ、大金持ちだよ!」

「でも風真たち海賊だし……首差し出したら一緒に捕まるんじゃない?」

 

 懸賞金の合計額に目を輝かせるそら。

 高い順に5000万、4560万、4500万、1400万、1230万となっていた。

 全員捕えれば1億6690万。

 きっと一生遊んで暮らせる。

 

「私たちみたいな海賊かな……?」

「『冒険家』……って書いてあるよ」

「冒険家? 何したんだろうね」

「とんでもないもの盗んだんじゃない?」

「人殺したとか」

「冒険家が?」

 

 止まらない3人の考察。

 遠くでは未だにAZKiとすいせいの合戦が続いている。

 熾烈を極める争いは次第に住人へと影響を及ぼし始めた。

 

「まずそう……早く戻ろう」

「そうでござるな」

 

 ロボ子がAZKiを、いろはがすいせいを引っ張って船まで戻った。

 

 

 そして――新たに星街すいせいを乗せて船はアルメンドラを出航する。

 

 

「――新たな仲間に、かんぱーい!」

「かんぱーい!」

「はぁ……おお〜……」

 

「よ、ろ、し、く、すいちゃん」

「ああ、よろしく、あずきち」

 

 軽い宴の中でもバチバチに火花を散らす新入りと自称副船長。

 アルメンドラが水平線の底に沈んでゆく。

 

「そらちゃん。本当にあずちゃんを副船長にするの?」

「うん。私はそれで良いと思うよ。あずきち、頭良いし」

「そう言う問題……? ボクはいろはちゃんの方が向いてると思うけど」

「風真は向いてないでござるよ」

 

 2人の喧嘩を見物しながら、役職について話し合う。

 そらが船長、いろはが料理人、ロボ子が操舵手兼船大工、AZKiが航海士。これは確定。

 そしてそらの独断と偏見により、AZKiが副船長を兼任となる。

 

「……すいちゃんは、戦闘員だね」

「――妥当と言うか何と言うか。戦闘狂だし」

「でも、ちゃんと見張ってないと一般人に被害出るんじゃない?」

「どうかなぁ……そんな悪い子じゃないと思うけどな」

 

 初対面の様子からロボ子が注意を促すが、そらは根拠無く杞憂と断定し聞く耳を持たない。

 いろはまでそらに賛同するものなので、ロボ子は諦めて1人で管理する事を決意した。

 文句を垂れても結局面倒を見るのだが……ロボ子が内心満更でもないことを、そらは見透かしていた。

 

「あまり気負わなくてもいいんじゃない? もし大問題を起こしたなら、海に捨てれば良いし」

「それだとそらちゃんが罪を犯してるけどね」

 

 冗談に的確な論理で返す。

 船長のそらの意向にロボ子は背く気はないので、最早論争も不要だが。

 

 きっとアルマ最大の会社を取り締まっていたが故に染み付いた癖なのだろう。

 

「……」

 

 そう考えてみれば、確かにロボ子は気に病み過ぎている。

 ロボ子だって研究・開発に明け暮れていた時は労基なんて守っていなかったし、発明品一つ一つの特許取得指示も無視していたし、挙げ句の果てには納期を数ヶ月過ぎる始末。

 

(まああれは……依頼側の問題でもあるけど)

 

 ロボ子はもう少し肩の力と気を抜いて良いのかもしれない。

 折角自由な大海原に漕ぎ出したのだから。

 

「…………」

 

 ロボ子は口論を繰り広げる2人の下へ。

 

「あずちゃん」

「――ん。どうしたのロボち」

「ボクの能力、暫く持っとく?」

「――⁉︎ いいの⁉︎」

「いいよ」

「やったぁ!……でも、何で急に?」

「んー。何となく、その方が楽しそうだったから」

 

 不可解なやり取りにすいせいが喧嘩を中断してそらの下へ。

 

「ねえそらちゃん。あの人の能力ってヤバい?」

「ヤバくはないけど、面白いよ」

「……いろは、あの人ってどんな能力?」

「ネジネジの実の接合人間。ネジ飛ばしたり、物を固定したり、腕が電気ドライバーになったりする」

「――? よくわかんねぇや」

 

 AZKiに譲渡されればきっと能力を行使して命令してくる、と予測して調査に来た様だが、口頭での説明ではその脅威は伝わらなかった。

 ロボ子は戦闘が苦手な為、実の所前線で戦う事は少ない。

 それ故に仲間たちもロボ子の能力の本領を知らない。

 

 ロボ子には劣るが、AZKiの発想力は相当に優れている。

 きっとすいせいやそら、いろはにも想像が付かない発想で能力を駆使して暴れるだろう。

 

「そう言えばすいちゃんは何て能力なの?」

「あたし? あたしはパズパズの実のパズル人間。自身と物質のパズル化、ブロックの現出ができる」

「パズル……」

 

 名前からは強さを実感できないが、浮遊ブロックに乗ったり、自身を分解したりとすいせいの使い方は上手い方だった。

 

「私はホラホラの実。ホラー現象を起こせるよ」

「げっ……ホラー……?」

「うん。幽体離脱に〜、浮遊に〜、人魂に〜、ドッペルゲンガーに〜、金縛りに〜、冷気に〜……」

 

 珍しく楽しげに能力を明かすそらだが、対するすいせいの顔色はみるみる悪くなっていく。

 

「すいちゃん、おばけ、こわい」

「えぇー⁉︎ あんなに強いのに⁉︎」

 

 物理で強くてもお化けには無力。

 だからすいせいは超常現象的なホラーが大の苦手である。

 逆に人怖の類は余裕。

 

 すいせいはカタコトで声を高め答えた。

 

「分かるよすいちゃん。風真もお化け怖い」

 

 すいせいはこの時、漸くAZKiに負けた事を素直に受け入れた。

 相手がホラー能力を使ってたいたら、怖くて勝てなくても仕方がない、と。

 ただのこじつけだが。

 

「でもそらちゃんは優しくて面白いから、心配しなくて良いでござるよ」

「――まあ、それは感じてる」

「えへへ」

 

 いろはとすいせいの嘘偽りのない褒め言葉にそらは頰を蕩けさせた。

 

「楽しい航海、期待してっから」

「――うん」

 

 

 ゼロ海賊団は次の島へと進路を取って――まだまだ進む。

 

 

 

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