ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

123 / 144
122話 ゼロの始まり

 

 アルメンドラに到着したゼロ海賊団は、そこから南西へ船を進め鬱蒼と木々が生い茂る無人島に辿り着いた。

 

「ここ。名もなき無人島」

 

 浅瀬に船をつけ、皆で地に足を下ろす。

 見渡す限り草木で満ちており、正しく無人島と言うべき島。

 

「ここなら確かに人目につかないかもね」

「でもこんな島を拠点にするの……?」

「確かに……どうせなら小屋でもいいから地上で寝泊まりできる場所は欲しいかも」

 

 周囲を見回して拠点を設置出来そうな場所を探すが、海岸は推奨できない。

 何本かの木を切って土地を開きつつ、その資材で建設するのが妥当。

 誰もがそう思い至り、視線がある1人に集まる。

 

「いろは、木切って」

「分かった」

 

 ロボ子は声を大にしていろはに指示を飛ばす。

 

「丘の天辺までの木を切って、大体横幅50〜100メートルはほしい」

「おっけい」

 

 いろはは刀を抜いた。

 2週間ほど前に得たばかりの新鮮な能力を刀に込めて、素早く抜刀。

 

 風が斬撃となってザザザザザっ、と木を10本ほど纏めて切り倒した。

 どどどどっ、と地鳴りと共に轟音が響く。

 

 それを繰り返して丘の天辺まで進んでゆく。

 

「そらちゃんとすいちゃんは、倒れた丸太を全部浜に運んで」

「はーい」

「だる〜……」

「あずちゃんはここでボクと木材加工」

「分かった」

 

 文句を垂れながらもすいせいはしっかり働く。

 いろはの切り倒した木を、そらがポルターガイストで、すいせいがパズル化して運び、運ばれた原材をロボ子とAZKiで加工する。

 

 能力の噛み合いもあるが、完璧すぎる役割分担だ。

 

 それを1時間ほど続けると遂に騒音が止む。

 

「ロボ子さーん! 切ったでござる〜‼︎」

 

 切り株と倒木だらけの丘をひょいひょいと身軽に駆け降りてくるいろは。

 

「流石、早いね」

「とーぜん!」

「それじゃあそこの丸太を全部半分に切ってもらっていい?」

「お安いご用!」

 

 まだ加工していない原木を全て真っ二つにした。

 所要時間僅か5分。

 

「次は?」

「んー……切り株が邪魔だから全部抜いてきて欲しいけど……できる?」

「それはちょっと時間かかるかも」

「ならあずちゃんもそっちに移って。こっちはボクがやるから」

「はーい」

 

 臨機応変に指示を変更して的確な配置につける。

 現在、AZKiはいろはとロボ子の能力のストックが長期分あるので、2人と似た作業が可能である。

 

 いろはとAZKiが舗装作業に移り、そらとすいせいは資材運びを続けた。

 

 

 

 そんなこんな――夜になる頃には、木造建築の一軒家が出来上がっていた。

 内部はがらがらで家具も水道、電気などの設備も無い、形だけの家。

 

 その日の作業はそこまで。

 そして翌日には其々の家を建てて、いろはの強い要望から畑も作る。

 

 たった2日にして無人島に生活基盤を作り上げたのだった。

 

 

 完成した5つの家のうちの一つ、いろはの家(仮)に5人で集まる。

 

「……何でこうなった」

「何が?」

「いや……あたしらいつから大工になったんだよって」

「あっはは……」

「拠点無いと困るからって話したでしょ。記憶力無いな〜」

「5つも家いらんだろ、絶対」

「プライベート空間は欲しいかなって。これでも妥協した設計なんだよ?」

「一種の職業病か」

 

 建築仕事を終えて文句を言っても後の祭りだ。

 すいせいは散々愚痴を溢しながらも家の出来栄えには満足しているらしい。

 

 当初ロボ子が書いた雑な設計図はあまりに酷く、到底1日2日で完成する見通しなどなかった。

 その設計図から重要な部分だけ抜粋して、削りに削った結果、今回の建築に落ち着いた。

 

 まだ電気の通っていない家なので、灯りはそらの人魂を代用している。

 

「で、明日からはまた航海すんだろ?」

「そうだね。これから定期的にここに戻って体勢や予定を整えて、また航海する感じになるかな」

「次の航海で家具とか揃えたいね」

「なんか趣旨変わってるし」

「まあ楽しければいいじゃん」

「確かに確かに」

 

 海賊とはかけ離れた会話だ。

 そらといろはの懸賞金額の合計が1億越えだなんて、対面しただけでは気付けないだろう。

 

 そらといろはは自由な人生を、すいせいは退屈の無い暮らしを、AZKiとロボ子は能力の研究を目的として海に出た。

 ならば、下手に海賊らしさに拘る必要などない。

 寧ろ海賊らしくない海賊、の方が何倍も面白い。

 

「じゃあ、明日の朝出航だね」

「うん」

 

 

 こうして仮拠点の設置が完了し、再び海へ出たのであった。

 

 

 

         *****

 

 

 

 それから3年半――。

 

 ゼロ海賊団は航海の後拠点へ帰還、整備、調整、再出航を繰り返していた。

 海賊人生がすっかり板についたが、そらといろはの懸賞金が上がる事はなく、他3人が手配されることもなかった。

 

 「ゼロの島」と名付けた拠点に戻った一同はいろはの家でカレーを食べながら次の計画について話し合っていた。

 

「行ってない島ってやっぱりまだまだあるよね?」

「3年で全島踏破は無理だよ」

「次はどこに行こうか?」

 

 3年と言う長い時間があれば、それなりの数の島に上陸できる。

 無人島で宝探ししたり、景観の良い国で観光したり、情報を集めたりとやる事は尽きない。

 

「あ、そうだ。明日風真アルメンドラに行きたいんでござるよ」

「刀見てもらうって言ってたね」

「そう。打ち直してもらうの!」

「それならボクも資材と情報の調達に行きたいから、明日は2人でアルメンドラに行こっか」

 

 近海に資材調達に適した島があって本当に最高の土地だ。

 2人の話が進み、いろはがそらに視線を向けた。

 

「そらちゃんも行く?」

「んーん。私はいろはちゃんの代わりに畑見とくよ」

「ほんと? ありがとう」

 

 島の開拓も日を増すごとに進み、畑も広大になった。

 いろは1人では手に負えない程。

 

「2人は?」

「そらちゃんが残るなら残る。流石に1人置き去りはアレだし」

「すいちゃんとそらちゃん2人ってのも心配だね。仕方ないからAZKiも残ってあげるよ」

「なぁんか恩着せがましいな」

 

 などと言って2人はそらと居残りを決める。

 なんやかんや仲が良くて微笑ましい限りだ。

 

「喧嘩しないでよ?」

 

 ロボ子の無駄な気苦労と忠告には返事がなかった。

 最早それが日常で寧日などない。

 2人は喧嘩してこそである。

 

 ロボ子といろはが船に乗り、アルメンドラへと船を出した。

 

 

 

 その数時間後――一隻の船が着港した。

 

 AZKiと畑仕事をしていたそらが気が付いて声を上げる。

 

「ねえあずきち。知らない船が来たよ」

「え? わ、ホントだ……なんだろ」

 

 万が一の事を考え、AZKiは急いですいせいを家から引っ張り出す。

 片手にぬいぐるみを持って、すいせいが出てきた。

 

「なんだよもう……あ? ただの船じゃん」

「そうだけど一応。そらちゃんといろはちゃんの事もあるし」

 

 着港した船の帆には何のマークも付いておらず、大した組織ではなさそうだ。

 だが懸賞金狙いの輩だった時、そらの身が危険なので念には念を入れておく。

 

 AZKiは加えてそらに幽体離脱させ、肉体を家のタンスにしまった。

 

 その準備の間に2人の女性が船から浜におり、AZKi達を見つけて丘を登って来る。

 

「すみません! この島の人ですか?」

「そうだけど何か」

 

 本を持った女性が3人を見回しながら尋ねる。

 すいせいはぶっきらぼうに答えた。

 

「船の整備の為に浜を借りたいんですけど、いいですか?」

「勝手にすればいいじゃん」

「もぅすいちゃん、失礼だよ」

 

 意図的に愛想悪くしているとそらが嗜めながら2人の間に割って入る。

 本を持った女性と向き合ってそらは笑いかけた。

 

「気にせず使っていいですよ。あ、お野菜とかいりませんか? いっぱいありますよ〜」

「……? あなた、何処かで会いました? 顔に見覚えが……」

「……手配書の人じゃない? なんちゃら海賊団の」

「「――」」

 

 背後の少女の発言で本を持った女性がポンと手を叩く。

 AZKiとすいせいが構えた。

 慌てて女性はかぶりを振った。

 

「あーいやいや! 私たちお金とか全く興味ないので‼︎ そこの所は気にしないでください‼︎ほんっとに‼︎」

「……そうか」

 

 すいせいが構えを解いてぬいぐるみを大事そうに抱え直す。

 そらは変わらず笑顔だが……AZKiは違った。

 この会話の中で怪しさの気配なんて無いはずなのに……この2人の態度がやけに鼻につく。

 

 何か……嘘臭い。

 

「私はときのそら。手配書の通り、海賊の船長やってるよ!」

「海賊。今時変わってますね」

「2人は旅の人? 探検家とか?」

「私たちですか?」

 

 そらの友好的な接し方に女性も砕けた笑いを見せ、本を開く。

 そらの問いへの解を示すようにページを見せた。

 

「私たちは――『秘密結社』」

「――⁉︎⁉︎⁉︎??????」

「「――⁉︎」」

 

 そらの頭から溢れ出す文字が白紙の本に吸収されて行く。

 AZKiとすいせいの動きは素早かった。

 2人でそらの身体をすり抜けて仕掛ける。

 AZKiは惜しげなくバンクを開放して斬撃の風を、すいせいは腕を外して投げ飛ばす。

 

 女性を押し除けて少女が割り込んだ。

 斬撃を双剣を振るって打ち消し、すいせいの飛来する拳は空気の壁で防いだ。

 

 幽体のそらが地に倒れる。

 

「そらちゃん!」

「――なんだテメェら‼︎ 何しやがった‼︎」

 

 触れられないそらに駆け寄り、背後に庇うAZKi。

 すいせいは斧を構えて2人を睨みつける。

 ぬいぐるみが畑に転がっていた。

 

「……、……、……」

 

 女性は2人の視線や言葉を無視して白紙だった本に目を通す。

 速読も速読。1ページに5秒もかけず文字の羅列を追い、必要な情報を抜粋する。

 

「AZKi、アズアズの実。星街すいせい、パズパズの実」

「「――⁉︎」」

「……‼︎ 見つけた。撤収するよ」

「ん」

 

 名前と能力を言い当てられて2人が動揺する間にページを捲り、とある記述(記憶)を発見。

 女性が僅かばかり口角をあげて撤収の号令を掛けた。

 阿吽の呼吸で撤退する。

 

「待てコラァ‼︎ いっ――⁉︎」

 

 すいせいが怒号を放って駆け出すと、壁に衝突した。

 

「チッ、邪魔‼︎」

 

 不可視の空気壁をパズル化して崩し道を開く。

 AZKiとすいせいが血走る瞳で追跡した。

 

 すいせいがブロックに乗り、AZKiは浮遊で移動速度を上げた。

 

 背後から押し寄せる気魄を感知した少女――クロヱが、本を持った女性――ルイを視線を送る。

 

「先に船出して。あれ止める」

「任せたよ」

 

 クロヱが立ち止まって方向転換した。

 双剣を逆手で握る。

 

「邪魔だ! どけェ‼︎」

「メインウェポン」

 

 AZKiが口からネジを吹く。

 クロヱの足にネジが刺さるが直接的なダメージはない。

 しかし、足と地面が接合されて動けなくなった。

 

「――」

「アルデバランッ‼︎」

 

 巨大なブロックがクロヱの全身に正面衝突。

 接合された地面が足にくっついたままクロヱの全身が吹き飛んだ。

 傾斜は緩いがここは坂。ごろごろごろごろとクロヱの身体は転がり落ちて30メートルは滑った。

 

 クロヱの全身に泥と草が付着する。

 

 クロヱの上空を通過して船まで一直線に進む2人。

 仰向けで鼻血を逆流させながら空中を駆ける2人を眺めた。

 

「……ばっくん」

 

 突如、大地が隆起した。

 前兆なく地面が突出し、大地が巨大な牙を剥いて、ブロックごとすいせいを喰らう。

 

「ィッッ゛――‼︎」

 

 巨大なサメに喰われた様な激痛が走り、今にも腹から食いちぎられそうだ。

 緊急で腹部をパズル化し自ら切断。大地に一度下半身をくれてやる。

 

「トラバサミ」

 

 すいせいの上半身が空中で足場を失い転落しかけたが、新たにブロックを現出して衝撃を弱める。

 

「すいちゃん!」

「平気だよ‼︎ さっさと追えや‼︎」

 

 動揺でAZKiの動きが1秒停止。

 すいせいが怒鳴ると置き去りにしてルイを追った。

 

「下半身返しやがれヘンタイマスク‼︎ 下半身だけ丸呑みとか特殊性癖出してくんじゃねぇよ‼︎」

「…………」

 

 隆起した大地がぐらぐらと揺らぎながら元の形へと戻って行く。

 そして最後に、ぽんっ、と大きな口からすいせいの下半身を吐き出した。

 大量の泥と微かな血でぐちょぐちょだ。

 だが洗う暇など無い。すいせいは気色悪い感触を我慢して身体を再形成し、クロヱとの戦闘に意識を注ぐ。

 

 クロヱも漸く身体を回して立ち上がった。

 

「テメェら、誰に喧嘩売ったか分かってんだろうなァ⁉︎」

「…………」

 

 斧を振り回してすいせいが斬りかかる。

 ぶんっ、と振るった斧が地面に突き刺さった。

 

「――⁉︎」

 

 跳躍で真上に跳ねて回避されたらしい。

 だが、一向にクロヱが落ちて来ない。

 

「――⁉︎」

 

 頭上を謎の影が通過して、すいせいは咄嗟に空を見上げた。

 

「なっ――‼︎」

 

 クロヱが空中を猛ダッシュしてAZKiの後を追っている。

 ブロックに跨ってすいせいも追跡するがほぼ同速で追いつけない。

 

「あずきち‼︎」

 

 冷静に警告の声を上げて危険を知らせると、AZKiが振り向きクロヱの猛追に気付く。

 AZKiは両腕を構えた。

 

「ジャキンジャキン‼︎」

 

 バンクからいろはの能力を開放し斬撃を放つ。

 

「カットラス」

 

 クロヱは両手にカトラスを形成して斬撃を切り裂き、掻き消し、尚猛追。

 急激に距離を詰めつつ両手で空気に干渉。

 バチっ……バチっ……と静電気が発生し、やがて大きな紫電が生まれる。

 

 ビリビリビリビリっ……。

 

 カトラスを腰の鞘に仕舞って両手をカラに。そしてパチンと両手を叩き合わせ、銃を構えるポーズを取った。

 

 何をしたのかは想像が付かないが、何が起きるのかの想像は付いた。

 紫電が弾ける――。

 

「あずきち! 避けろぉ‼︎」

「プラズマ・トライデント」

「――‼︎」

 

 ピュッ――と黄と紫の閃光がAZKiを貫通して海の彼方まで突き抜けた。

 

 AZKiから湯気が立ち上り――地に落ちた。

 

「ぁ…………」

「…………」

 

 転落するAZKiを眺める事しか出来ず、すいせいは己に絶望した。

 怒りも湧いた。

 

 その感情を全てクロヱに――憎悪としてぶつける。

 

「ぶっ殺してやるァ‼︎」

 

 クロヱの背中へ斧を腕ごと投函する。

 ごごご、と大地が盛り上がって妨害してきた。

 ザグッ、と大地の壁に斧が刺さる。

 

「――ッッ‼︎ 邪魔ァァァッ‼︎」

 

 感情の沸騰。

 暴走するエネルギー。

 すいせいの全神経が弾ける感覚。

 

 すいせいが大地に着地。

 左手を地に当てた。

 何故か出来る気がした。

 

「アトリア‼︎」

 

 大地が崩壊――否、立体的なパズルへと変化して、分離する。

 環境に能力の効果が付与された。

 これは――超人系の覚醒。

 

 邪魔物だった大地の壁すらも分解して、大地のピースたちがこぞってクロヱに押し寄せる。

 豪快な能力操作にクロヱは一瞬臆したが、直ぐに冷静さを取り戻す。

 

 大地のピースがクロヱを取り巻く。

 クロヱの立つ足場までもが地面と分離して、クロヱの身体は衛星軌道上に放り込まれた。

 

「――!――!――!」

 

 ピースで形成された球の内部でクロヱが暴れ回る。

 ピンボールの様に全身を弾かれて。

 

 10秒以上球の中に閉じ込め、全身を粉砕した後――球中から天へ放り出す。

 不思議と宙を舞うクロヱの身体には血が少ないが、身体の一部は変形しており、確実にダメージは入っていた。

 

「カウス・アウストラリス」

 

 斧を握り締め右腕を全力で発射。

 すいせいの一撃が急接近する。

 

「――」

 

 クロヱの胴体――左の腰から右肩にかけてザックリと切り裂いた。

 中空で血飛沫が上がり、真っ赤な噴水となる。

 

 どっ、と地面に打ち付けられた。

 本来、衝撃で身体が跳ねるはずだが……奇妙な動きをしていた。

 まるで「スライム」が落ちた様な……。

 

「い……痛、い……」

 

 ぐちゃぐちゃ、と人間とは思えない音がクロエから響きだす。

 

「――は……?」

 

 軟体っぽい全身が人の性質を取り戻して……立ち上がり……腹の傷が消え……破れた服が再生し……付着した血も消え……。

 

「っ! チートが‼︎ アークトゥルス‼︎」

 

 驚異的な再生能力を危険視して、すいせいは素早く両腕を構えた。

 細かく分離した指先が弾丸となってクロヱを襲う。

 が――クロヱの目前にヒビを生んで停止。

 不可視の壁がそこにあった。

 

「きっ‼︎」

 

 クロヱの再生が目を見張るほど速い。

 下手に時間を使っていられないと判断し、すいせいは再度大地に手のひらを翳す。

 地面をパズル化して今し方クロヱを苦しめた技を放つ。

 

「アトリア」

 

 クロヱの足元も浮上し、再三彼女をパズルが覆う。

 

「アストラボム」

 

 衛星軌道の隙間から眩い閃光が弾けて溢れて――爆発する。

 

 ボンッ。

 

「ぁ……は、ぁ……⁉︎」

 

 砕けた大地のピースがパラパラと舞い散り、土埃の中でクロヱが次なる一撃を構えていた。

 

 薄暗い土煙の中で、バチバチと電気が迸る。

 

 電撃、爆発、空中歩行、障壁、大地の変形、半軟体化、傷や服の再生……。

 逆に――何が出来ないのだろう。

 

 すいせいの眼前に目を焼く光が――

 

「プラズマ・トライデント」

 

 プラズマがすいせいの身体を貫通。

 駆け巡る電気に全身の機能が麻痺し、意識が途絶した。

 

「…………」

 

 クロヱは片手で腹を抱え、もう片方の手で口元を覆う。

 

「うっぶ……げっほ……」

 

 だばだばと吐血した。

 口内で鉄の臭みが暴れている。

 内臓全てが悲鳴をあげている。

 

「やっば……」

 

 自分の体の構造なんて弄る物じゃない。

 

「…………」

 

 クロヱは呼吸を整え、出航した自身の船に乗り込み、ルイと共にこの地を去ったのである。

 

 

 

         *****

 

 

 

 買い出しと家事や訪問から帰還したいろはとロボ子は、島の惨状に言葉を失った。

 

「すいちゃん! あずちゃん!」

「そらちゃん‼︎」

 

 ぼろぼろの土地と畑付近に転がるAZKi、すいせい、そら。

 全員目立った外傷は無いが、意識も無い。

 しかも、極めて奇妙な事が――

 

「――⁉︎ そらちゃん、幽体だ」

「え⁉︎ 幽体で気絶⁉︎」

 

 慌てて家の中を探すとタンスの中に本体が押し込んである。

 いろはは直ぐに幽体のそらの下へ戻る。

 

 気絶したそらを見つめふ。

 ぱっと脳内に、音響の能力者が浮かんだ。

 奴が幽体のそらに唯一ダメージを与えた敵である。

 しかし――奴はいろは達との戦闘後に監獄送りになったと報じられており、脱獄のニュースは一切聞いていない。

 

「一体、誰がこんな……」

「……? そう言えば、妙じゃない?」

「へ?」

 

 悲惨な状態に動揺して整理が付いていなかったが、冷静になるとロボ子はふと疑問が浮かぶ。

 

「これをやった奴は何をしに来たの?」

「……! 確かに! 金目の物もないし、そらちゃんの首を狙った犯行でもない」

「ボクたちが標的って訳でもない」

 

 目的が土地荒らしなんて、そんなチンケな輩に3人は負けない。

 この状況、極めて不自然である。

 却って胸騒ぎが酷くなった。

 

「ぅ……んぅ……」

「――! そらちゃん‼︎」

 

 か細い呻き声に過敏に反応するいろは。

 肩を掴むとすり抜けた。

 はやる気持ちを抑制してそらの覚醒を待つ。

 

 ロボ子も一時的に2人の側を離れた。

 

「……ぅ?」

「そらちゃん! 大丈夫⁉︎」

「んぅ…………」

「そらちゃん⁉︎」

「いろは。一旦冷静に」

 

 ぽやぽやする瞳を猫の様に擦るそら。

 呑気な態度にいろはが声を張り上げて急かすが、ロボ子はいろはの肩を掴んで勢いを弱める。

 

「そらちゃん大丈夫?」

「ぅ……え……?」

「……? そらちゃん?」

「そら……? そら…………」

 

 空を見上げた。

 赤らみ始めている。

 もう夕刻の様だ。

 

「え……そら、ちゃん?」

 

 脳に酸素が足りなくなって、急激な耳鳴りに襲われる。

 そらといろはの目が合った。

 そらは直ぐに後方を確認し、向き直る。

 

 そして恐怖心を煽る様に首を傾げた。

 

「そら……っ、て……私のこと?」

「「――――ッァ⁉︎」」

 

 ときのそらは、記憶を喪失したのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。