2人の強襲を退いた一同。
海に落ちた4人はびしょびしょだ。
「だ、だずがっだ……」
「ほんと……死ぬかと思った」
能力者2名はトワとラプラスに救助してもらった。
マリンは実質初めての入水。
元々まともに泳げなかったが、体が海水に拒絶反応を起こして、全く力が入らなかった。
打ち上げられたように砂浜に横たわる2名様。
ラプラスはその小さな体でマリンを引いて、大変だったようだ。
「ルーナたん……何したの……」
マリンはふらっと立ち上がる。
立ちくらみが起きて、視界ぐわんと揺らいだ。
ルーナが反撃した時は暗幕がかかっていたため、起きた事態が把握できていない。
どのように2人を退いたのか、それを知りたい。
「ルーナは『ヒメヒメの実』の能力者」
「「――‼︎」」
「ヒメヒメ……?」
「人間の秘められた才能を強制的に開花させたり、逆に閉塞させたりできる。ルーナは『ヒメヒメの実』を食べた、才能人間」
「ちょっとルーナ姫、軍事情報……」
ひた隠してきた能力情報の開示。
相手はまだ名も売れない、ただの賊。
スバルとちょこは、ルーナの暴露を止めるような仕草を見せていた。
「しゅば、せんせー、この人は……マリン船長さんは、希望になる」
「希望?」
「……まって、フブキさん、だっけ? もしかして――」
「洗脳状態が解除されてるのら」
トワはルーナの言葉から、一つの見解を得た。
それは、マリンの力で、洗脳を破壊する可能性。
再度の検証に赴くことは難しいが、展開を考慮すれば、最も合点がいく。
事実であれば、洗脳の能力者を討伐する希少な存在となり得る。
ルーナの解説に合わせて、フブキが数歩前へ進み出た。
マリンを前に、顔を赤らめて恥ずかしがりながらも、声を発する。
「あの……ごめんなさい、話は聞いたんですけど、何にも覚えてなくて……」
小さくぺこりと頭を下げる。
しおらしい態度でもじもじとしている。
何だか、雰囲気が幼い。
普段の頼り甲斐のある姿はどこへやら……。
「でも、ご迷惑、おかけしたって、聞いて……その、えっと、ありがとうございます。助けてもらった、そうで」
羞恥心が感情を掻き回して、言葉をうまく吐き出せていない。
語順が少し崩れているが、気持ちだけはしっかりと伝わった。
「いえ、船長は特に何かしたつもりは……」
「そう、半分はマリンさんの力だけど、もう半分はルーナの力なのら」
「才能がどうって言う?」
マリンとルーナ、2人がいてこその奇跡だった。
そう語るが、マリンに最も実感がない。
なんせ、何かをした記憶がない。
あの場で噂に聞く例の力が出たのなら別だが、生憎この世にそんな力はない。
「能力の最高形態、『覚醒』の強制的な発動」
「は?」
「『覚醒』も能力を持つものの才能の一つ。強制的に引き出せば、当然反動はあるけど」
「いや待って、ぶっ壊れてない?」
「何が?」
「いやだから、ルーナたんの能力」
今までに見た能力は多くないが、この世界では最強格。
「能力者にしか使えないなら、そうでもなくない? 非能力者には無力だし」
「いや、才能を操るから、非能力者にも効く」
「そうなのらね……ラプラスちゃん、ジャンプして」
「……? こう?」
全力でジャンプした。
最高地点に達した時の、足の高さは、曲げてはいるが、みんなの腰あたり。
これが、普段の力。
「じゃあ、もう一回。でも、着地に気をつけて」
「……? こぅ――!」
ラプラスが突然目の前から消えた。
2秒後、ラプラスが降ってきた。
「うあっと……」
着地で少し不安定になるが、なんとか体勢を維持した。
足から全身への振動が普段に比べて激しいが、壊れるほどではない。
「今飛んだの⁉︎ 高すぎじゃない⁉︎」
「これも、才能を伸ばした結果」
「身体能力のだな」
直立からの垂直飛びであの高さ。
これなら確かに強い。
「因みに今ので最大解放。でも、頑張ればもっと高くなるし、強くなる」
「……? 才能なんでしょ? 才能は開花しても、芽生えないでしょ」
「そうなのら。でもそれとこれは少し違う」
ルーナが一歩出て、解説を始めた。
「いーい? 実力は、才能×努力で算出される。つまり、ポテンシャルが高くても、努力を怠れば、最大限まで才能を開花させても、大した実力にはならないのら」
マリンとラプラスは首を捻っていた。
他のメンバーも難色を示す。
「逆もまた然り。才能が乏しければ、努力も中々実らない」
説明は理解できないが、直感でラプラスは、ねねとシオンを浮かべた。
「『天才とは1%のひらめきと99%の努力である』。つまり、1%を確実に引き起こしても、99%がなければ才覚は発揮できない」
才能、努力、実力。
この三つの関係についてを説き、ルーナは自身の能力の使い方を示す。
才能も努力も欠けてはならない。
才能のある人間は、その才能にかまけて努力を怠るものも多い。
才能の乏しい者ほど、努力しやすいが、元の才能が足りないのなら、実力は大きくならない。
ルーナの能力に適合する存在とはつまり、飛び抜けた才能を持つ努力家である。
「この情報開示、お前ら意味わかってるよな?」
「へ? 意味?」
「信頼されてるって言いたいんですよ、船長が」
軍事情報は機密でなければならない。
にも関わらず、軍どころか国民ですらないマリンとその他に聴かせる意図。
信頼と同時に願望もある。
「あ、そうそう、そうなのらね。ルーナの話はいいのら、それよりもさっき決めてきた話」
ルーナは我に帰り、能力解説を切った。
そして、ラプラスとフブキの肩に手をポンと置いた。
「この2人はこれから、ルーナの部下として騎士団に入れるのら」
「え――!」
「……」
ラプラスとフブキは対照的な反応を見せた。
事前に耳にしていたか否かだろう。
「ま、いんじゃない」
「え、吾輩も⁉︎」
「バッジ、渡したのらよ」
「え、でもアレは――」
「まさか、遊び半分と思ってたのら?」
「――!」
子どもとの戯れだと、ジョークだと、思っていた。
だが、今のルーナの目は本気で語っている。
何を持って……ラプラスを選出したのか。
半年も前から、決まっていた事になる。
「ラプラスさんには、結構前から目をつけていたのよ」
「今さっきの能力の事、聞いたろ? 元から才能の塊で、努力を惜しまない存在が、姫の側近に相応しいんだ」
「そ、側近って……」
「しゅばも先生も、優秀なのらけど、この国の中で唯一、それを凌駕した天才的な才能を持った人間がいたのら」
衝撃的な告白を受け、誰もが言葉を失う。
才能が2人を上回ることは、スバルとちょこ本人も知らなかったようだ。
だが、しばし絶句した後ちょこは、ある瞬間を思い出した。
「そう言えばあの日、ラプラスさんの速度に追いつけなかった……」
騎士団の教官を務めるちょこは当然、身体能力は高い。
能力との兼ね合いもあり、パワーや速度など身体面を鍛えてきた。
ガチガチの実で硬質化した体は、拳の撃ち合いが主流になる事を考慮して。
だが、それを超えた速力でラプラスは走った。
窮地の仲間を救うために発揮した所謂「火事場の馬鹿力」。
才能を解放した瞬間だ。
磨きをかければ、その実力はさらに上積みされていく。
「どうする?」
「因みに確認しますけど、フブキさんは了承したって事で良い?」
「……はい」
フブキとの交渉の結果。
利点は恐らく、フブキの護衛が可能である事、近場に置く事で同行を監視できる事。
「わ、吾輩は……」
軍への加入は流石に、と後退りした。
見兼ねたルーナは、一度にひっと笑う。
「断っても責めないのら。でも、ルーナたちはこれから洗脳能力者の討伐に本格的に動こうと思うのら」
「……え? いやいや、船長はまだ何も――!」
最後マリンを見た。
その熱烈な視線に身を縮め、大きく腕を振った。
否定的な態度を取るマリンは無視してラプラスに向き直る。
この短時間で、マリンはどうせ協力してくれると見抜かれたようだ。
「国民のことは考えて動くけど、ラプラスちゃんを贔屓して内情を話したりはしないし、出会う機会も無くなると思う」
「――――」
「ラプラスちゃんを誘ったのは、実力半分。もう半分は、未だに行方知れずの親友がいて、悔しがってると思ったから」
ルーナの本心。
ラプラスの今まで舐めた苦渋もあって、十分に響いたはずだ。
何もできずに屈辱を味わってきた。
それを、ここで最後にすると決断ができるか。
これは、そんな問いだ。
臆病な心に勝ち、覚悟を決める時。
「悔しがって、それで終わっちゃ意味がねぇ」
「当たり前の事だけど」
「お友達助けたいなら、入って後悔しないと思うのら」
国の最高権力3名からの勧誘。
これほどに光栄な事はない。
「……ラプラスさんが頑張るってなら、船長も少しは協力しますから」
「はぁ……また勝手に」
「ま、トワの問題とも関係あるし、どの道避けては通れんけどね」
ポルカの巻き込まれ体質とマリンの自由気儘な進行経路。
トワは仲裁になるか。
「分かった、それなら……へっきしゅっ!」
「わあお」
「……はは、風呂入った方が良さそうだな」
「締まりませんね〜」
一同は城内へと戻り、身なりを整えて作戦会議を始めた。
*****
「ルーナたちは育成とか諸々あって、人集めはできない」
「それを、船長にやれって事ですね?」
「お願いしたいのら」
「仲間ももう少し欲しかったんで、ついでって事で」
城の大浴場を出て会議室。
まだ少し、髪が湿っているが、会議進行。
そして役割分担は早々に確定。
国を直ぐに飛び出せないルーナたちに仲間集めは不適だろう。
「でも、行動はいつ起こすつもりなんすか?」
「その諸々込みで……1ヶ月後」
「1ヶ月⁉︎」
「地図」
「――?」
長方形の紙を手渡される。
円柱型に丸められたその紙を開くと、見たことがない地形が描かれていた。
「キャンディータウンはここ。で、敵の本拠地はここ」
指差しされるが、地図の見方自体が分からない。
縮尺などの表記もなく、地図がそもそも分かり辛い。
ポルカやトワも、傍から覗き込んできた。
「1ヶ月後にここ、ハングリー島の西の海岸に集合」
「ハングリー? でもそこ、本拠地なんでしょ?」
「それは行けば分かる」
「うーん……いや、まあ、いいけどさ」
ルーナが信じろというなら信じるが、マリンは自分が戦力になる自覚がない。
寧ろ足手纏いになる自信がある。
「ここからハングリー島まで、まっすぐ進めば1週間で着くけど、さっきも言った通りルーナ達は色々ある。だからその間、マリンさんには島を転々として同士を募ってほしいのら」
「分かりました」
「船長、他の船員の意見は聞かないんですかね?」
「え、もしかして反対派?」
「いや、仲間のこと気にしてんのかなって、疑問が生まれただけ」
船長と姫。
互いの決定権を持つ者同士が淡々と段取りを決めてゆく。
周囲の意見は反映される様子もなく、ただ2人の話し合い。
しかし、姫の部下は当然姫の指示に従う。
マリンは何となく、2人は拒否しない気がした。
不満を感じていれば、一部の反対意見は採用する。
「2人のことは気にしてます。安心してください」
「……トワ様、これ安心できると思う?」
「正直無理」
「あれ、本気で言ったのにな……おかしい」
安心はできない。
信頼はある。
恥ずかしいから口にしないが。
「じゃあ、決まりでいいのらね?」
「あ、はい、船長は――」
「待って」
話がついたので解散しようとしたが、ポルカが待ったをかけた。
急に場の空気が重くなる。
ポルカの一言に注目が集まる。
「武器が欲しい」
「……え、船に武器ないん?」
「ないですよ」
「えぇー……」
トワの落胆の声が鈍く室内で反響する。
だがその通り。
今回で身に染みたはずだ。
マリンもポルカも、武器なしで戦える能力ではない。
ポルカは小細工を得意とする能力で、マリンは小細工すらまともにできない能力。
武術に特化しているわけでもない2人は、この先妙な敵に喧嘩を売るなら、それなりの覚悟と同時に戦闘手段が必要となる。
能力の工夫、そしていざという時の護身用の戦闘術。
「船長武器なんて使えませんよ」
「あたしは欲しいの。能力的にできれば剣」
「トワも武器はいるんだけども、それより先に……」
「そうなのらね、じゃあ武器庫に行くのら」
今度は一同、城の武器保管庫へと足を運んだ。
会議室?を退室する際、マリンはフブキに声をかけられた。
「あの……少し、いいですか?」
フブキの恥じらう控えめな視線が、マリンの欲情を擽る。
「……?」
姿を眩ますように、マリンはそっと会議室の扉を閉めた。