ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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12話 才能

 

 2人の強襲を退いた一同。

 海に落ちた4人はびしょびしょだ。

 

「だ、だずがっだ……」

「ほんと……死ぬかと思った」

 

 能力者2名はトワとラプラスに救助してもらった。

 マリンは実質初めての入水。

 元々まともに泳げなかったが、体が海水に拒絶反応を起こして、全く力が入らなかった。

 

 打ち上げられたように砂浜に横たわる2名様。

 ラプラスはその小さな体でマリンを引いて、大変だったようだ。

 

「ルーナたん……何したの……」

 

 マリンはふらっと立ち上がる。

 立ちくらみが起きて、視界ぐわんと揺らいだ。

 

 ルーナが反撃した時は暗幕がかかっていたため、起きた事態が把握できていない。

 どのように2人を退いたのか、それを知りたい。

 

「ルーナは『ヒメヒメの実』の能力者」

「「――‼︎」」

「ヒメヒメ……?」

「人間の秘められた才能を強制的に開花させたり、逆に閉塞させたりできる。ルーナは『ヒメヒメの実』を食べた、才能人間」

「ちょっとルーナ姫、軍事情報……」

 

 ひた隠してきた能力情報の開示。

 相手はまだ名も売れない、ただの賊。

 スバルとちょこは、ルーナの暴露を止めるような仕草を見せていた。

 

「しゅば、せんせー、この人は……マリン船長さんは、希望になる」

「希望?」

「……まって、フブキさん、だっけ? もしかして――」

「洗脳状態が解除されてるのら」

 

 トワはルーナの言葉から、一つの見解を得た。

 それは、マリンの力で、洗脳を破壊する可能性。

 再度の検証に赴くことは難しいが、展開を考慮すれば、最も合点がいく。

 事実であれば、洗脳の能力者を討伐する希少な存在となり得る。

 

 ルーナの解説に合わせて、フブキが数歩前へ進み出た。

 マリンを前に、顔を赤らめて恥ずかしがりながらも、声を発する。

 

「あの……ごめんなさい、話は聞いたんですけど、何にも覚えてなくて……」

 

 小さくぺこりと頭を下げる。

 しおらしい態度でもじもじとしている。

 何だか、雰囲気が幼い。

 普段の頼り甲斐のある姿はどこへやら……。

 

「でも、ご迷惑、おかけしたって、聞いて……その、えっと、ありがとうございます。助けてもらった、そうで」

 

 羞恥心が感情を掻き回して、言葉をうまく吐き出せていない。

 語順が少し崩れているが、気持ちだけはしっかりと伝わった。

 

「いえ、船長は特に何かしたつもりは……」

「そう、半分はマリンさんの力だけど、もう半分はルーナの力なのら」

「才能がどうって言う?」

 

 マリンとルーナ、2人がいてこその奇跡だった。

 そう語るが、マリンに最も実感がない。

 なんせ、何かをした記憶がない。

 あの場で噂に聞く例の力が出たのなら別だが、生憎この世にそんな力はない。

 

「能力の最高形態、『覚醒』の強制的な発動」

「は?」

「『覚醒』も能力を持つものの才能の一つ。強制的に引き出せば、当然反動はあるけど」

「いや待って、ぶっ壊れてない?」

「何が?」

「いやだから、ルーナたんの能力」

 

 今までに見た能力は多くないが、この世界では最強格。

 

「能力者にしか使えないなら、そうでもなくない? 非能力者には無力だし」

「いや、才能を操るから、非能力者にも効く」

「そうなのらね……ラプラスちゃん、ジャンプして」

「……? こう?」

 

 全力でジャンプした。

 最高地点に達した時の、足の高さは、曲げてはいるが、みんなの腰あたり。

 これが、普段の力。

 

「じゃあ、もう一回。でも、着地に気をつけて」

「……? こぅ――!」

 

 ラプラスが突然目の前から消えた。

 2秒後、ラプラスが降ってきた。

 

「うあっと……」

 

 着地で少し不安定になるが、なんとか体勢を維持した。

 足から全身への振動が普段に比べて激しいが、壊れるほどではない。

 

「今飛んだの⁉︎ 高すぎじゃない⁉︎」

「これも、才能を伸ばした結果」

「身体能力のだな」

 

 直立からの垂直飛びであの高さ。

 これなら確かに強い。

 

「因みに今ので最大解放。でも、頑張ればもっと高くなるし、強くなる」

「……? 才能なんでしょ? 才能は開花しても、芽生えないでしょ」

「そうなのら。でもそれとこれは少し違う」

 

 ルーナが一歩出て、解説を始めた。

 

「いーい? 実力は、才能×努力で算出される。つまり、ポテンシャルが高くても、努力を怠れば、最大限まで才能を開花させても、大した実力にはならないのら」

 

 マリンとラプラスは首を捻っていた。

 他のメンバーも難色を示す。

 

「逆もまた然り。才能が乏しければ、努力も中々実らない」

 

 説明は理解できないが、直感でラプラスは、ねねとシオンを浮かべた。

 

「『天才とは1%のひらめきと99%の努力である』。つまり、1%を確実に引き起こしても、99%がなければ才覚は発揮できない」

 

 才能、努力、実力。

 この三つの関係についてを説き、ルーナは自身の能力の使い方を示す。

 才能も努力も欠けてはならない。

 才能のある人間は、その才能にかまけて努力を怠るものも多い。

 才能の乏しい者ほど、努力しやすいが、元の才能が足りないのなら、実力は大きくならない。

 

 ルーナの能力に適合する存在とはつまり、飛び抜けた才能を持つ努力家である。

 

「この情報開示、お前ら意味わかってるよな?」

「へ? 意味?」

「信頼されてるって言いたいんですよ、船長が」

 

 軍事情報は機密でなければならない。

 にも関わらず、軍どころか国民ですらないマリンとその他に聴かせる意図。

 信頼と同時に願望もある。

 

「あ、そうそう、そうなのらね。ルーナの話はいいのら、それよりもさっき決めてきた話」

 

 ルーナは我に帰り、能力解説を切った。

 そして、ラプラスとフブキの肩に手をポンと置いた。

 

「この2人はこれから、ルーナの部下として騎士団に入れるのら」

「え――!」

「……」

 

 ラプラスとフブキは対照的な反応を見せた。

 事前に耳にしていたか否かだろう。

 

「ま、いんじゃない」

「え、吾輩も⁉︎」

「バッジ、渡したのらよ」

「え、でもアレは――」

「まさか、遊び半分と思ってたのら?」

「――!」

 

 子どもとの戯れだと、ジョークだと、思っていた。

 だが、今のルーナの目は本気で語っている。

 何を持って……ラプラスを選出したのか。

 半年も前から、決まっていた事になる。

 

「ラプラスさんには、結構前から目をつけていたのよ」

「今さっきの能力の事、聞いたろ? 元から才能の塊で、努力を惜しまない存在が、姫の側近に相応しいんだ」

「そ、側近って……」

「しゅばも先生も、優秀なのらけど、この国の中で唯一、それを凌駕した天才的な才能を持った人間がいたのら」

 

 衝撃的な告白を受け、誰もが言葉を失う。

 才能が2人を上回ることは、スバルとちょこ本人も知らなかったようだ。

 だが、しばし絶句した後ちょこは、ある瞬間を思い出した。

 

「そう言えばあの日、ラプラスさんの速度に追いつけなかった……」

 

 騎士団の教官を務めるちょこは当然、身体能力は高い。

 能力との兼ね合いもあり、パワーや速度など身体面を鍛えてきた。

 ガチガチの実で硬質化した体は、拳の撃ち合いが主流になる事を考慮して。

 だが、それを超えた速力でラプラスは走った。

 窮地の仲間を救うために発揮した所謂「火事場の馬鹿力」。

 才能を解放した瞬間だ。

 磨きをかければ、その実力はさらに上積みされていく。

 

「どうする?」

「因みに確認しますけど、フブキさんは了承したって事で良い?」

「……はい」

 

 フブキとの交渉の結果。

 利点は恐らく、フブキの護衛が可能である事、近場に置く事で同行を監視できる事。

 

「わ、吾輩は……」

 

 軍への加入は流石に、と後退りした。

 見兼ねたルーナは、一度にひっと笑う。

 

「断っても責めないのら。でも、ルーナたちはこれから洗脳能力者の討伐に本格的に動こうと思うのら」

「……え? いやいや、船長はまだ何も――!」

 

 最後マリンを見た。

 その熱烈な視線に身を縮め、大きく腕を振った。

 否定的な態度を取るマリンは無視してラプラスに向き直る。

 この短時間で、マリンはどうせ協力してくれると見抜かれたようだ。

 

「国民のことは考えて動くけど、ラプラスちゃんを贔屓して内情を話したりはしないし、出会う機会も無くなると思う」

「――――」

「ラプラスちゃんを誘ったのは、実力半分。もう半分は、未だに行方知れずの親友がいて、悔しがってると思ったから」

 

 ルーナの本心。

 ラプラスの今まで舐めた苦渋もあって、十分に響いたはずだ。

 何もできずに屈辱を味わってきた。

 それを、ここで最後にすると決断ができるか。

 これは、そんな問いだ。

 臆病な心に勝ち、覚悟を決める時。

 

「悔しがって、それで終わっちゃ意味がねぇ」

「当たり前の事だけど」

「お友達助けたいなら、入って後悔しないと思うのら」

 

 国の最高権力3名からの勧誘。

 これほどに光栄な事はない。

 

「……ラプラスさんが頑張るってなら、船長も少しは協力しますから」

「はぁ……また勝手に」

「ま、トワの問題とも関係あるし、どの道避けては通れんけどね」

 

 ポルカの巻き込まれ体質とマリンの自由気儘な進行経路。

 トワは仲裁になるか。

 

「分かった、それなら……へっきしゅっ!」

「わあお」

「……はは、風呂入った方が良さそうだな」

「締まりませんね〜」

 

 一同は城内へと戻り、身なりを整えて作戦会議を始めた。

 

 

 

          *****

 

 

 

「ルーナたちは育成とか諸々あって、人集めはできない」

「それを、船長にやれって事ですね?」

「お願いしたいのら」

「仲間ももう少し欲しかったんで、ついでって事で」

 

 城の大浴場を出て会議室。

 まだ少し、髪が湿っているが、会議進行。

 そして役割分担は早々に確定。

 国を直ぐに飛び出せないルーナたちに仲間集めは不適だろう。

 

「でも、行動はいつ起こすつもりなんすか?」

「その諸々込みで……1ヶ月後」

「1ヶ月⁉︎」

「地図」

「――?」

 

 長方形の紙を手渡される。

 円柱型に丸められたその紙を開くと、見たことがない地形が描かれていた。

 

「キャンディータウンはここ。で、敵の本拠地はここ」

 

 指差しされるが、地図の見方自体が分からない。

 縮尺などの表記もなく、地図がそもそも分かり辛い。

 ポルカやトワも、傍から覗き込んできた。

 

「1ヶ月後にここ、ハングリー島の西の海岸に集合」

「ハングリー? でもそこ、本拠地なんでしょ?」

「それは行けば分かる」

「うーん……いや、まあ、いいけどさ」

 

 ルーナが信じろというなら信じるが、マリンは自分が戦力になる自覚がない。

 寧ろ足手纏いになる自信がある。

 

「ここからハングリー島まで、まっすぐ進めば1週間で着くけど、さっきも言った通りルーナ達は色々ある。だからその間、マリンさんには島を転々として同士を募ってほしいのら」

「分かりました」

「船長、他の船員の意見は聞かないんですかね?」

「え、もしかして反対派?」

「いや、仲間のこと気にしてんのかなって、疑問が生まれただけ」

 

 船長と姫。

 互いの決定権を持つ者同士が淡々と段取りを決めてゆく。

 周囲の意見は反映される様子もなく、ただ2人の話し合い。

 しかし、姫の部下は当然姫の指示に従う。

 マリンは何となく、2人は拒否しない気がした。

 不満を感じていれば、一部の反対意見は採用する。

 

「2人のことは気にしてます。安心してください」

「……トワ様、これ安心できると思う?」

「正直無理」

「あれ、本気で言ったのにな……おかしい」

 

 安心はできない。

 信頼はある。

 恥ずかしいから口にしないが。

 

「じゃあ、決まりでいいのらね?」

「あ、はい、船長は――」

「待って」

 

 話がついたので解散しようとしたが、ポルカが待ったをかけた。

 急に場の空気が重くなる。

 ポルカの一言に注目が集まる。

 

「武器が欲しい」

「……え、船に武器ないん?」

「ないですよ」

「えぇー……」

 

 トワの落胆の声が鈍く室内で反響する。

 

 だがその通り。

 今回で身に染みたはずだ。

 マリンもポルカも、武器なしで戦える能力ではない。

 ポルカは小細工を得意とする能力で、マリンは小細工すらまともにできない能力。

 武術に特化しているわけでもない2人は、この先妙な敵に喧嘩を売るなら、それなりの覚悟と同時に戦闘手段が必要となる。

 能力の工夫、そしていざという時の護身用の戦闘術。

 

「船長武器なんて使えませんよ」

「あたしは欲しいの。能力的にできれば剣」

「トワも武器はいるんだけども、それより先に……」

「そうなのらね、じゃあ武器庫に行くのら」

 

 今度は一同、城の武器保管庫へと足を運んだ。

 会議室?を退室する際、マリンはフブキに声をかけられた。

 

「あの……少し、いいですか?」

 

 フブキの恥じらう控えめな視線が、マリンの欲情を擽る。

 

「……?」

 

 姿を眩ますように、マリンはそっと会議室の扉を閉めた。

 

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