ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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129話 More crossing stories +

 

 記しの島が甲板からも目視できる距離にまで迫っていた。

 

 甲板に全ての顔が揃っている。

 その輪の中央にポルカが立っていた。

 

「――ってのがポルカの考えた作戦」

 

 其々が作戦を持ち寄って話し合い、最終的にポルカが全てをひっくるめて再立案した。

 1人では思い付かない案や、敵の行動パターン、こちら側の弱点などを考慮することが出来て上手く回った。

 完成したそれは正しく秘策だ。

 

「眼に見えた穴は無さそうなのらね」

「あとはこちらが測りきれない事態に、土壇場でどう対応できるかが鍵だ」

「下手打ったらひっくり返って大ピンチだからな」

 

 ルーナ、トワ、ぼたんが各々の感想などを呟く。

 マリンは自身の責任重大な役回りに今から緊張して震えていた。

 

「はぁどうしよ……失敗して船長の記憶取られたら……ぺこらとまつり助けに来てくれるかな……。いや、来てくれるよな……いや、来なかったら恨む」

「失敗する前提かよ……締まらねぇし、カッコつけて出航した船長の見せる面じゃねぇぞ」

「そりゃぁあーたねぇ! 自分に役割が無いからそんな事言えるんですよ!」

「闘うっていう重要な役割があるわ!」

 

 ガクガクとネガティブ発言を重ねるマリンにトワが突っ込むと何故か反抗されたので、反抗を返す。

 マリンはふと周囲の顔色を窺ったが、緊張しているのはマリンとおかゆだけだった。

 俯いて拳を握り寒気を堪えるおかゆに親近感が湧いた。

 

「……トワ様。言ったこと、頼むよ」

「分かってる。伝達済みだ」

 

 そんなおかゆを一瞥してマリンは最終確認を取る。

 トワも凛として答えた。

 マリンは満足したのかラミィの隣に並んで小突いた。

 

「半分はお前にかかってるからな、ラミィ」

「わ、分かってるから……プレッシャーかけないで」

 

 ラミィも何やら冷静さに欠けている……と思ったが、トワとノエルの視線を気にしているだけだった。

 その姿がコミュ障を発揮するあくあと重なって妙な母性が湧く……。

 

「そんなにビビるくらいなら裏切らなきゃよかったのに」

「ひ、人にはどうしてもやらなきゃいけない時があるの!」

「じゃあ今回もその必要な時だから、お前、ヘマすんなよ〜」

「分かってるってば! もうあっち行って!」

 

 ニヤニヤと揶揄うマリンを追いやり、深呼吸して精神を統一した。

 

 マリンはもう一度全員の顔色を伺い、1人首肯した。

 

「では――行きましょうか」

「「おう」」「っす」「「うん」」「んな」「ええ」「「はい」」「――」

 

 マリンが号令をかけ記しの島を睨んだ。

 ポルカが両頬を叩いて気合を入れた。

 トワが右足の爪先をこんこんと床に当てて感触を確かめた。

 ミオがおかゆの手を握り微笑んだ。その顔を見上げておかゆは力強く手を握り返した。

 ノエルがメイスを一回転させた。

 いろはが刀身を確認した。

 ルーナが目を閉じ深呼吸した。

 ぼたんが梱包された飴をポケットの中で握り締めた。

 ちょこがガチンッと硬質化した拳を打ち鳴らした。

 シオンが大きく伸びをした。

 ラミィが二本の剣を浮かせて回転させた。

 

 そしてはあとが無言でその光景を見つめていた。

 

 

 アクアマリン号――記しの島へ到着。

 

 

         *****

 

 

 

 アクアマリン号が記しの島の砂浜に停泊した。

 

「どうもお待ちしてましたよ。マリン先輩」

 

 未来を予見した様に素早い包囲。

 船を半円型に囲われた。

 船の正面にルイとクロヱが並んで立っており、ルイの手には一冊の本が。

 

 一味が戦闘体勢に入ると――

 

「下手な真似はやめてくださいよ。でないとこの本、焼いちゃいますよ」

「「…………」」

 

 ルイは掴んだ本を見せびらかした。

 真横でクロヱが炎を生成して脅迫の真実味が増す。

 

「念のため聞くけどルイ。その本は……」

「勿論、フブキさんの記憶です」

 

 おかゆとミオが苦い顔をした。

 

「わためさん」

「はい」

 

 完全に動きを封じられた一味陣。

 甲板にわためが瞬間移動し、次々に縄で縛って行く。

 

 ルーナがわためを睨んでもお構いなしに縛る。

 ぼたんが睨んでも意に介さない。

 おかゆだけは縛れないのでわための能力で生み出した網で捕縛。

 こうしてはあと以外の自由が奪われた。

 

「ありがと。じゃあはあとちゃん、マリンさんを連れてきて」

「――――」

 

 はあとがコクコクと二度頷いて、拘束されたマリンと共に下船する。

 

「おいルイ。マリン『先輩』だろ? 油断してタメ聞いてんじゃねぇよ」

「……」

「やるなら徹底しろよ、クセェ演技。とっくにバレてるから今更だけども」

 

 マリンの鋭い眼光をルイがまじまじと見つめ返す。

 隣でクロヱがルイの横顔を一瞥した。

 

 ルイは返答せず本を片手にマリンへと歩み寄る。

 ざく、ざく、ざく……と砂を踏む音が迫る。

 

 甲板からルーナがルイを睨むが――

 

「能力も禁止ですよ。感知したら燃やします」

 

 ルーナにも本を見せつけて警告する。

 はあとが半身引いてマリンをルイに差し出した。

 

 間近での対面。

 マリンはルイの顔を睨み上げた。

 

「燃やすとか言って。本当に燃やしたら人質が無くなるけど?」

「なら能力を発動してみて下さいよ。本当に燃やしてあげますから」

 

 全く動じない。

 ブラフか?

 

 まあいい。

 どの道今しかない。

 

「じゃあ――燃やしてみろ」

「――⁉︎」

「出航〜‼︎」

 

 マリンは惜しみなく能力を解放した。

 全身から溢れ出る色気。

 発情を誘うピンク色のオーラ。

 

 不純な気配にルイが呼吸器を押さえて後退する。

 はあとも同様にマリンから距離を置く。

 

 煽ったとは言えまさか本当に能力を発動するとは……!

 

「っ! そんなに燃やしたいならお望み通り!」

 

 皆拘束されている。

 例え縄が解けたとしても、マリン以外がそれを阻止する事など出来るはずがない。

 

 マリンの能力発動を合図に甲板でも動きがあった。

 

裂傷波(パールス)!」

星の光線銃(アストロ・レーザーガン)!」

 

 シオンが能力で縄を千切り、ミオが能力で縄を焼く。

 ミオがわためをレーザーで攻撃して船上から撤退させ、シオンが裂傷波で全員の縄を解く。

 

 皆一斉に船を飛び降りて砂浜に着地。

 だがその時にはもう――クロヱの放った炎がフブキの記憶の書を――

 

 ぱしっ――

 

「は?……はぁ⁉︎」

 

 ルイの真横にいたはあとが突如、ルイを裏切って本を奪取。

 間一髪本の焼失を回避し、はあとは本をマリンにパス。

 シオンに縄を解いてもらったマリンがしっかりとキャッチ!

 そのままルイへと突進して浜に押し倒した。

 

「ルイ姉‼︎」

 

 クロヱが攻撃に踏み出すといろはが立ちはだかる。

 記憶をとられた被害者達も一斉に一味に襲いかかるが、各個メンバーに任せる。

 ルイがマリンの顔に白紙の本を向けたが記憶が奪えない。

 

「――クッソ!」

 

 遠方から血眼になってルーナがルイを睨んでいる。

 

「ラミィ! ラジコン切って!」

「あい!」

 

 マリンの指示でラミィは操作していたはあととの通信を切断。

 はあとを解放した。

 

「はあちゃま! ルーナたん! 運ぶよ!」

「ふな‼︎」「――ん」

「ぇあっ⁉︎ どこ触って――‼︎」

「うおー! ルイの尻堪能〜‼︎」

 

 マリン、ルーナ、はあとでルイを担いでマリン号へ逃げる。

 パワー並以下のルイが暴れても3人がかりでは押さえられない。

 とは言えはあとは手を添えている程度。

 だがそもそもルーナのせいでルイは力が入らない。

 

 マリンからルイへの些細なセクハラにクロヱが静かに怒りを見せた。

 が、いろはが邪魔。

 わためを船に送り込みたい所だが、ルーナがいる手前単身特攻は危険。

 

「クロヱ! 私は気にしなくていい! そっちは任せた‼︎」

「――ん‼︎」

 

 ルイは抵抗を止めて潔く船内に連行される。

 そして4人を乗せた船は浜辺を離れ、ぐるりと島の外周を回り始めた。

 

 マリンとルーナと言う兵器をふんだんに使った、鷹嶺ルイ完全包囲網。

 

 配下を残して船は島の反対側へと回っていった。

 

 

 

         *****

 

 

 

 船内のキッチンにルイを連行し、とあるひと席に座らせるとルーナとマリンはその対面に座した。

 はあとはどちらにも属さないと言わんばかりに椅子を食卓から離して鎮座していた。

 

「まさかラミィさんの能力ではあとちゃんを駒にしてくるとは――詰めが甘かった」

 

 アウェイなシチュエーションで作戦が失敗したとは思えない程の開き直りっぷり。

 ルイは丁寧に座り直してマリンと視線を絡めた。

 

「それで……マリン先輩は私にどうして欲しいんですか?」

「全員の記憶を元に戻せ」

「無理、と言ったら?」

「泣いて懇願する」

「…………?」

「だから、泣いて、土下座して、駄々捏ね散らかす」

「…………」

 

 強者感溢れるオーラはどこへやら、マリンが子供の様な事を口にするのでルイも面食らって素の困り顔。

 ルーナに視線を向けるとやれやれとため息をついていた。

 どうやらマリンの発言に嘘偽りは無いらしい。

 これ以上は完全無策。

 

「……ま、まあ、マリン先輩が立場と状況を分かってるならいいです」

「そりゃあね。記憶の操作権をお前が持ってる以上、お前をどうこうしようと記憶は戻せない。だから結局はお前を説得するしかない」

「――ってんなたん達に言われて気付いたのらよね」

「余計なこと言わないの!」

 

 ドヤ顔で自分達の現状を述べるマリンへ横槍が刺される。

 妙なコントを前にルイが呆気に取られる。

 

「……」

「……はぁ〜」

 

 ルイの牙城を崩す事は困難と判断し、マリンは脱力してだらっと食卓に体を倒した。

 敵前とは思えないだらし無さにルイはまたまた驚愕。

 

「分かった分かった、じゃあ沙花叉人質にして脅迫するから」

「――」

 

 ルイの眉がピクリと跳ねた。

 

「そしたら向こうの決着まで暇だし、ちょっと世間話付き合って」

「……クロヱが負けるとでも?」

「――逆に勝てると?」

 

 初めてルイが怒りを垣間見せた。

 マリンは煽る様に言葉を返す。

 

 しばし静寂が続いた。

 

 ――――。

 

「お互いに自信があるみたいなのらね」

「――なんで他人事なのルーナたん」

「ならこうしねぇ? 島での戦いを終えて先に大将がここに来た方の勝ち。負けた方が勝った方の指示に従う」

「――いいですよ」「えぇ……」

「おい」

 

 両者自信満々だった為ルーナが提案してみたが、マリンが渋る。

 自信は見せかけかとルーナは突っ込んだ。

 

「てか大将ってなんよ大将って。ヒエヒエとかピカピカとかマグマグとか出てくんの?」

「――? ルイさんはクロヱさんの腕に自信がある見たいだし、真のお仲間はその1人。だからクロヱさんが負けたらこっちの勝ち」

「じゃあ船長たちの方は?」

「それはマリンさんが決めて。誰でもいいのらよ」

「1人か……」

 

 ルイがそこそこ乗り気だったので結局マリンも便乗して大将候補を上げた。

 選択肢は4つ。

 まず一味からマリン的に信頼の厚いポルカとトワ。

 そしてルーナ、マリン、ポルカからの順当な評価により、ぼたん。

 最後にマリンの知る最強、いろは。

 

「おかゆ先輩の件があるからポルカとトワは無理か……」

 

 一味にはおかゆのサポートをしろと指示してある為、この戦いでは身を犠牲にする可能性が高い。

 選択肢は2つに絞られた。

 

 戦闘力の突出したいろはを起用するか、バランスの取れたぼたんを起用するか。

 

「いろははなぁ〜……強いけど抜けてるし無茶しそうなんだよなぁ」

 

 マリンの中でぼたんが候補として固まった。

 ルーナの横顔を見つめて――

 

「決まっ――」

 

 思い止まる。

 そう言えばぼたんは未覚醒にも関わらず飴を所持していた。

 使用後の反動も考慮すると少々危うい。

 

「……マリンさん?」

「あーはい! 決まった決まった! いろは! いろはにする!」

「じゃあ、いろはさんかクロヱさん。先に来た方の勝ちって事なのらね」

「いいですよ」「はい」

 

 戦闘に携わらない者が蚊帳の外で勝負を始めた。

 当然戦う当人たちにこの情報は共有されない。

 

 後はただ、4人でゆらりゆらりと遊覧船を楽しんで待機するのみ。

 そうとなれば途端に暇だ。

 

「ルイ。どうせお前も暇だろ、さっき言いかけたけど雑談付き合ってよ」

「……いいですよ」

 

 マリンがやった!と無邪気に喜んで見せた。

 ルイは調子を狂わされてばかりだ。

 張り詰めた空気が弛緩し、ルイの肩が軽くなる。

 

「じゃあ早速聞きたいんだけど!」

「え、ええ……」

 

 腑抜けた相槌を打ったルイへ顔を向け、キリッと表情を変える。

 一瞬で空気が凍った。

 

 ――――。

 

 

「誰から盗った」

 

 

 ルーナが訝しげに相貌を揺らがせる。

 はあとが傍観者を気取る。

 

「……何をですか?」

「だからクセェって。私を誰だと思ってんの。世界随一のホロメン理解者だぞ」

「……はぁ」

 

 脅迫的に言葉を強めると、ルイは早々に諦念のため息をつく。

 これ以上の演技も無駄と悟った様だ。

 

「一体、どうして分かったんですか?」

「何を差し置いてもまずはそのヘタクソな演技。お前は船長にしか先輩をつけようとしないし、時折メッキが剥がれてるし、演技慣れもしてない。お前絶対配信者向いてねぇから」

「ん、ふふっ……」

 

 ルイが苦笑した。

 

「それで大方確信した。もう一つ理由を挙げるなら、お前は幾ら記憶がなくても見知った先輩にこんな事出来ない、だな」

「なるほど。あなたの周りにホロメンが集まるワケですね」

 

 ルイはもう一度苦笑してテーブルに両肘を立てた。

 

「それで誰なんだよ」

 

 マリンの詰問にルイが他2名を一瞥。

 

「いいんですか。約2名、部外者がいますけど」

「はあちゃまは気付いてるし、ルーナたんは言いふらしたりしませんから」

 

 皆がルイの言葉に傾聴するが、特にルーナは齧り付く様に耳を澄ませていた。

 

 

「……確かにマリンさんの言う通り。私はマリンさんや、ぺこらさんや、まつりさんとは違う」

「「――――」」「――?」

「4年半ほど前、とある島で私とクロヱは1人の少女と出会いました」

 

 その一言がマリンの推理と唯一ずれていた点だった。

 

(沙花叉じゃないのか……)

 

 表情を変えず、マリンはじっとルイの顔を見つめた。

 

「ヤケに私たちに馴々しく、知り合いの様に接してくる少女を不審に思い、私は少女から記憶を抜き取りました」

「――――」

「それが異世界のホロライブプロダクションの記憶」

「――誰なんだよ。その人は」

 

 マリンはもう一度尋ね、固唾を飲み見守る。

 

「私が記憶を奪った少女の名は――」

 

 

 

「ラプラス・ダークネス」

 

 

 

 

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