ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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130話 ビッグウェーブ

 

 キンッ、と甲高い金切音。

 

 いろはの斬撃を斧で真っ向から受け止めた。

 キリキリと金属の擦れる音が耳障りだ。

 

「そらちゃんの記憶は返してもらう!」

 

 腕の力は緩めず、右足を振り上げた。

 ビュンと突風が発生して風の斬撃となり、至近距離でクロヱを襲う。

 

 斧を融解して刀を地に落とし、クロヱは空中へ逃げた。

 空気を瞬間的に固形化させて足場にする。

 身軽に空中を跳躍するクロヱへと刀を振い斬撃を飛ばすが、軽々と回避。

 

「リトライ」

 

 溶けた斧がにゅるにゅると蠢いて宙に浮き上がり、クロヱの手元で再形成。

 クロヱは島の裏側へ向かうアクアマリン号を一瞥した。

 

(……いや、ルイ姉が大丈夫って言った! 沙花叉はこっち!)

 

 戦場を鳥瞰して戦況を分析。

 策を講じる。

 

「逃すかぁー‼︎」

「っそ――⁉︎」

 

 いろはが空中で跳躍を重ねてクロヱへ肉薄。

 記録に無い能力使い。

 クロヱは斧を強く握る。

 

 カンッ、と中空で火花を散らした。

 いろはも何故か空中に足場を形成できており、完全にクロヱの優位が帳消しにされた。

 

「どう――なってんの!」

 

 刀を弾いて後退。

 砂浜上空で2人が睨み合う。

 

(やっぱりサムライの相手は体力の無駄遣い)

 

 クロヱはくるりと跳躍しながら一回転し、右足で不可視の物体をいろはに蹴り飛ばした。

 風の流れの変動で攻撃を察知し、いろはは固形化された空気の球を切断。

 その隙にクロヱは砂地へ降りた。

 いろはも後を追う。

 

「ラプラス交代!」

「――あー? しゃーねーなー」

 

 シオンと交戦していたラプラスの隣へ着地すると、いろはを任せてシオンと対面する。

 空を蹴って飛んでくるいろはをラプラスが睨んだ。

 

「オラッ! ぶっ飛べ‼︎」

 

 ガンッと力強く砂を踏むと大地が畝って隆起する。

 突出した大地がいろはに衝突――する前に切断。

 

「っく――!」

 

 

 

「お前、そこどけよ。今ラプラスとケリつけようとしてたんだから」

「ラプラスはサムライ特攻だから他に回したく無いんだよね〜」

 

 シオンとクロヱが牽制する。

 

「カットラス」

 

 クロヱは斧を2本の刃物――カットラスへと変形させた。

 シオンが裂傷波を構えた。

 

「おっと! そうはいかねぇぞ!」

「っ――」

 

 クロヱの両腕と胴体に麺を巻いて拘束。

 ぼたんがクロヱを半遠隔で押さえ込む。

 

「やっちまえ!」

「パール――」

 

 パァン――。

 

「ぃっ――⁉︎」

 

 1発の銃声と共にシオンの肩から血飛沫が上がる。

 

「くっ――そ……」

 

 銃弾は貫通して砂浜に転がった。

 シオンは肩を掴んで傷を癒すが、わための銃口は尚もシオンを狙っている。

 

「――⁉︎」

 

 ピュンッ――と一筋の光。

 わためは残像を置いて瞬間移動した。

 

「シオン、大丈夫?」

「うん、ありがと」

 

 ミオがわためを追い払って跪くシオンに駆け寄る――と同時に、

 

「んっ――ん! んーーーっ‼︎」

「――⁉︎」

 

 ぼたんがこよりに押さえられ、クロヱの束縛が解けた。

 こよりがぼたんの呼吸器をマヨネーズで覆って窒息させる。

 踠き暴れるが全身をマヨネーズ化して全て受け流される。

 気管にマヨネーズが詰まって吐き気を催してきた……。

 

 シオンがこよりを標的に無形の弓を引く。

 

「リーラ――」

「プラズマ――」

 

 同時にクロヱがプラズマを起こす。

 相打ちでも割に合わない。

 

「――アぅわっ⁉︎」

「――トライデント」

 

 ミオがシオンの攻撃を遮って身を引かせた。

 クロヱの放つプラズマの矢が空気を貫いて海上で霧散。

 

「ししろ! こっち!」

「――んっ!」

 

 ポルカが全ての人間から適度に距離をとってぼたんを呼ぶ。

 右腕に力を入れてぼたんに見せつけると意図を察してポルカの腕に麺を巻きつけた。

 その腕をポルカが引き、ぼたんは麺を収縮させてこよりのマヨネーズから脱却。

 マヨネーズ塗れのぼたんをキャッチ――できずに2人で絡まって転倒。

 そのチャンスを逃さないわため。

 瞬間移動した先からぼたんの背中に発砲。

 更にころねもポルカの脈を掴みに急接近した。

 

「「それ、ダメ‼︎」」

 

 わための銃口の先に、地面から飛び出すおかゆ。

 ころねの眼前にメイスを振り下ろして撃退するノエル。

 

 パァン、と銃声が響く。

 

「っ…………」

 

 反射的に瞼を閉じたが、おかゆの腹に命中した弾丸がドロドロになって体内から溢れ出てきた。

 

 

 

 こよりがノエルの足元目掛けてマヨネーズを広げた。

 

「オッらァ‼︎」

「――⁉︎」

 

 ぐぢょっ、とこよりの顔面がマヨネーズとなって砂浜に飛散。

 頭蓋を砕く勢いの蹴りを放ったトワの足にもマヨネーズが付着するが、それらは全てこよりの身体へと還って、頭を形成した。

 

 

 

 クロヱのプラズマを回避した物の、体勢を崩したミオとシオン。

 その背後へ鋭い八重歯を忍ばせたメルが――

 

「メル様‼︎」

 

 ちょこが全身を固めて割り込んだ。

 しかしメルはその硬度を物ともせずちょこの右腕に噛み付いた。

 

「ッ――⁉︎」

 

 いとも容易く歯を通されちょこは絶句した。

 ちゅー、ちゅー、と血を吸って離れない。

 

「歯を食いしばりなさい!」

 

 メルの身体ごと腕を振り下ろして、背中から地面に打ち付けた。

 ピシッと音を立ててメルの歯が砕け、吸血が止まる。

 メルが後方へ跳躍してにっと笑うと瞬く間に歯が再生した。

 

 右腕の感触を確かめてちょこが拳を構え直した――その横顔へ――

 

「ポンプショットフィスト」

 

 鉄の装甲を纏ったロボ子の右腕がエンジンを噴射して飛来する。

 ロケットパンチに鉄の拳をぶつけて威力相殺。

 その背後を取ったメルの牙が――

 

「硬いものが食べたいなら、これでも食べてな!」

 

 ガジッ……とメルの口に一本の剣が痞える。

 ぎりぎり……パキンっと刃を噛み砕く。

 

「――うっそ⁉︎ ほんとに食べんの⁉︎」

 

 砕けた剣がラミィの支配下から外れた。

 ちょこがロボ子の拳を弾き返すと、潔くロボ子の手に帰り再接合した。

 

「鉱物が好物……何つって――!」

「「「…………」」」

 

 

 

 狙撃妨害を繰り返すおかゆが鬱陶しくなり、わためが特製の網で捕縛を試みるが易々とは捕まらない。

 それを見兼ねて横槍を入れるのは――

 

「エアボール」

 

 大空スバルだ。

 おかゆを空気の球で覆って動きを完全に封じる。

 わためが刹那の内にテレポートし、狙撃対象を探す。

 

「――! 借りるぞスバル!」

 

 自力で空気の層を破れないおかゆ。

 ポルカが破壊を目論んでぼたんから離れたが、同時にぼたんもある奇策を浮かべた。

 目に見えない空気の層を麺で掴んで、中のおかゆごと球体を振り回す。

 

「おらおらおらおらおらおらおらァーッ‼︎」

「バッカお前!」

 

 敵味方関係無い無差別攻撃で戦場は更に大混乱。

 大玉には砂やマヨネーズや土砂、泥など様々な異物が付着していく。

 内側のおかゆの酔いが限界を越えそうだが、目を瞑って完全に泥となることで耐えていた。

 

 ゴンっ、ばん、どん、べちゃ、キンッ、とぼたんの無差別攻撃は大勢に被害をもたらした。

 やがて息切れしたぼたんが大玉を下ろして息つく。

 

「はぁはぁ、どうだ――」

「「…………」」

 

 巻き起こった砂塵が晴れ、視界に映る光景にぼたんは目を剥く。

 

「うおおお! 大丈夫かお前らぁ‼︎」

「ふざけんなよおい! 味方攻撃してんじゃねぇ!」

 

 ノエル、ころね、スバル、トワ、ミオ、シオン、メルが倒れていた。

 ポルカの強烈なツッコミにぼたんははははと笑って返す。

 

「わりぃわりぃ。でもほら、敵も減ったし」

「味方の方が減っとるわ!」

「大丈夫だ! カタキは討つ!」

「「「カタキはお前じゃ‼︎」」」

 

 全員起きた。

 ダメージは大きく無かったようだ。

 被害者の会から総ツッコミを受けて満足そうに笑う。

 

「ほら、みんな生きてんじゃん」

「何笑ってんねん‼︎」

 

 パキッ――。

 おかゆを幽閉していた球をちょこが拳で破壊して解放。

 

「……あれ、アイツがいねぇ‼︎」

「あいつ?」

「――⁉︎」

 

 ふと我に帰ったトワが砂浜にいたクロヱの消滅に気付く。

 上空を見上げたり森側を見渡したりと警戒するが何処にも見当たらない。

 

「まさか逃げた――⁉︎」

「船の後を追ったんじゃ――!」

「まずいな……」

「ちゃんと見張ってろよ誰か」

「「「「お前のせいだよ‼︎‼︎」」」」

 

 

 ざざぁー……。

 

 

「「――?」」

 

 

 ざざざぁー……。

 

 

 波の音に異変を感じた。

 敵味方問わず、全員が仲良く海岸線を見つめる。

 

「お、おい……まさか……」

「あれ、こっちに来る……?」

 

 高波が真っ直ぐに砂浜へと押し寄せていた。

 その高波の上に立つ1人の女性。

 遠目にも分かる――クロヱだ。

 

 

 

「あーの麺たいこ! 絶対許さん!」

 

 後頭部にできたたん瘤を押さえて高波を操るクロヱ。

 そう……ぼたんの無差別攻撃で海上に吹き飛ばされていたのだ。

 怒り心頭で高波を砂浜にお見舞いする。

 

 

 

「にげろォ‼︎ 津波が来るぞーーー‼︎」

「トーラービッグウェーブ‼︎」

 

 

 

 大半がクロヱの起こした大津波に飲み込まれたのだった。

 

 

 

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