ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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131話 ドロドロの実の弱点

 

 砂浜で交戦していた者たちは大半がクロヱの大波に飲まれ、森の至る所へ押し流されていった。

 皆が疎に流される中、とある窪地にだけ複数人が纏まって漂着していた。

 

「ぉっ、ぶ……ぶっふ……げっほ……ぅあー……くっそ、お前ら生きてるか……?」

 

 脱力感から解放されたポルカはぬかるんだ窪地内で手をつき、膝を立てて周囲の者に声をかける。

 手首まで泥濘に浸かる。

 ぱっと目前におかゆが見えた。

 

「生きちょる、よ」

「どわぼ……」

「な、何とか……」

 

 這いつくばっていた全員が立ち上がる。

 服は水を吸って重たいし、全身びしょ濡れなので気持ち悪い感触が拭えない。

 

「うぇ……」

「ぶぇっ、ぷぇ!」

 

 ポルカの声に仲間ではない者も反応を示した。

 ポルカ、トワ、おかゆ、ノエルに加え同じく窪地に流されたのはアキロゼところね。

 そして窪んだ土地の上空に1人の女性が颯爽と現れる。

 

「お、やっぱり溜まってるじゃん」

「ッチ。人をゴミみたいに言いやがって」

 

 一同を睥睨しながら窪地に舞い降りるクロヱ。

 津波でここまで流される事は予測していたらしい。

 斧を片手に掴んで白い歯を見せる。

 トワの悪態も完全に無視。

 

「クロヱーーー‼︎」

「クロヱちゃん……げっほ、げっほ……私達のことも考えてよ」

「ちゃんと生きてんじゃん? これでも考えてんだから」

 

 窪地で疎に佇む。

 牽制する様に視線を彷徨わせて……。

 

 クロヱが何度か頷いた。

 

「まずはロギアから」

 

 クロヱの一言におかゆが身構えた。

 瞬間――パッとアキロゼが消え、おかゆの眼前へ移動していた。

 ガードの間も無く拳はおかゆの顔面を撃ち抜く。

 

 べちゃっ――とおかゆの頭が吹き飛んで泥濘と混濁する。

 1秒後、ぐちょぐちょと音を立てて頭が首元から再生した。

 

「おかゆを殴れるかよ!」

 

 トワが勇猛果敢にクロヱに襲い掛かる。

 エンジンを吹かせて全身の熱量を上げ、身体能力を上昇。

 アクセルベタ踏みで右足を振るう。

 

「ルシフェルワンショット‼︎」

 

 電気と火花を散らす一撃がクロヱに直撃――せず、目前の空気壁と衝突。

 

「無駄だ‼︎」

 

 だが蹴りの勢いは止まらず空気壁に亀裂が入る。

 そして――パキンと壁を破壊して今度こそ直撃――かと思えば空中へ逃げられる。

 

「ッチ」

「トワ様!」

「ぉらっ――‼︎」

「ん!」

 

 攻撃直後のバランスが崩れた一瞬を狙うころねの鉄拳。

 ノエルがメイスを盾にし受け止めた。

 

「降りてこいよ臆病者!」

「――っ⁉︎」

 

 ポルカがルーナを複製してクロヱの才能を閉塞させた。

 急激に脱力感に襲われクロヱの足元が気体の空気に戻る。

 クロヱは体勢悪く着地したが負傷は無かった。

 

「ナイスポルカ‼︎」

 

 トワが再三足を構えた。

 エンジンを吹かせて右足で回転蹴り。

 

「ルシフェルワンショット‼︎」

「ッ――ぎ――‼︎」

 

 クロヱの脇腹を穿つ勢いでつま先を突っ込む。

 バキッと骨を割って全身を窪地の壁へと吹き飛ばすことに成功。

 べちゃっとクロヱが泥濘に伏した。

 

「100Nパンチ」

「――⁉︎」

 

 複製ルーナが突如弾き飛ばされクロヱ同様に壁に激突。ぐったりと動かなくなった。

 ルーナの居た場所にはアキロゼが移動している。

 

「ダメージレースならキミたちに勝算はないよ」

「――っ⁉︎」

 

 アキロゼの声がポルカの耳横に迫っていた。

 気づいた時にはもう遅く、右腕が眼前にあり回避も防御も出来ない。

 

「ロZ(ゼット)ラリアット」

「っぶぇ――」

 

 バゴン、と首元に腕を突っ込まれ、勢いよく地面へ突き倒される。

 あまりの勢いに意識だけが体の転倒についていけず、世界がスローで反転していった。

 

 遅延して背中と首元から全身に響く衝撃で意識が飛びかけた。

 息が詰まって喉奥から微量の泡が溢れる。

 微かに震える大地……。震度2相当の揺れだ。

 

「ポルカ――!」

 

 身を案じて叫ぶトワ。

 アキロゼが素早く振り向き微笑を浮かべた。

 来る――!

 

「――っ。またか」

 

 再度ルーナを複製して今度はアキロゼの才能を押さえ込み、危機を回避。

 

「ばっくばっく、ばくーーーーーん‼︎」

 

 隆起した地面にルーナの複製体が喰われた。

 腹部を噛みつかれ吐血。

 

「くっ……そ!」

 

 複製1人では2人を押さえきれない。

 片方を足止めしても、片方が自由に動いて捕まえきれない。

 ルーナの束縛から解放されたアキロゼがトワを捕捉。

 拳を握って――

 

「ねんどろいど!」

 

 地面から湧き出る幾多もの泥人形。

 ゾンビの様に泥濘から生え出してアキロゼに纏わりつく。

 アキロゼの全身に泥がこびりつく。

 

「んもぅ! 鬱陶しい‼︎」

「ノードロック」

 

 反射しきれない物量で囲い爆散。

 泥で全身を固めるが……。

 

「だから……効かないって‼︎」

 

 パワーで固まった泥を吹き飛ばす。

 周囲に泥が飛散した。

 

「…………」

 

 苦い顔をしたおかゆの目が覚悟の火に揺れる。

 アキロゼが拳を握った。

 狙いはやはりトワ。

 クロヱが斧を溶かして液体化しトワの両足を枷で繋ぐ。

 

「ストラップ」

「ん⁉︎ クッソ!」

 

 ノエルはころねの相手に手一杯。

 ポルカも復帰こそしたが動きが鈍い。

 

「僕に攻撃通せないからって――日和ってんだ」

「――――」

 

 アキロゼの動きが止まった。

 

「こんな僕ですらアキちゃんに立ち向かうけど……アキちゃんは敵わない相手とは戦わないんだね」

「――――」

「ちょっとアキちゃん‼︎ 安い挑発でしょ!」

 

 クロヱが懸命に引き留めるがアキロゼはもう、おかゆと向き合っていた。

 ノエルがニッと笑い、トワとポルカはアイコンタクトで以心伝心。

 マッチング成立だ。

 

 ころねの猛攻をあしらいながらノエルはここぞとばかりにもう一声。

 

「そう言えばっ――! っと……言っとったよね。強い人と戦いたいって」

 

 洗脳討伐作戦の際、ノエルだけが本人から直接聞いた事実。

 ポルカとトワもピンチながら便乗した。

 

「へぇ〜……その癖して、勝てねぇ相手には挑まねぇのか……?」

「自分が最強だと自惚れたいだけかよ……えェ⁉︎」

「…………」

 

 アキロゼのプライドに火をつけた。

 油マシマシでの着火だ。この火はもう、勝敗が決まるまで収まらない。

 

「泣いて謝っても許さないからね」

「――――もう――ばか」

 

 クロヱは嘆息した。

 もう後には引けない。

 アキロゼが負けるとは思えないが、一騎打ちで勝てるとも思えない。

 何せおかゆに攻撃が通らないから。

 

 だからクロヱがポルカとトワを相手取り、環境的サポートを行いながら戦う。

 

「フィールドトランス」

 

 周囲の空気中から水分が蒸発し始め瞬く間に土地は乾燥してゆく。

 足元の泥濘も水が履けて動き易い大地へと変貌。

 肌がカサカサになって水を浴びたくなる。

 

「なんだ……? 乾燥させて……」

 

 クロヱの行動の意図が読めず混乱する。

 だが野放しは危険だ。

 ポルカはめげずに再びルーナを複製してクロヱの能力を抑え――

 

「100Nパンチ」

「――⁉︎」

 

 おかゆと対面していたアキロゼがルーナの複製を感知した途端に殴り飛ばす。

 おかゆの相手はするがルーナの複製だけは許さない、と目と拳で告げ、おかゆに向き直った。

 

 複製の繰り返しは体力の消耗に直結する。

 これ以上下手には使えない……せめて何かチャンスを見つけてから……!

 

 おかゆがアキロゼを、ノエルがころねを、ポルカとトワでクロヱを。

 これなら勝ち目はある。

 

「フレイム・トライデント」

「「――⁉︎」」

 

 クロヱがエアで弓を引いた。

 無形の弓に三又の炎の矢が装填されポルカを標的として捕捉。

 メラメラと乾燥を助長させる。

 

 ぼぅっ。

 

 乾いた空気を裂いて炎の矢が一直線に飛来する。

 

「っば!」

 

 間一髪、身を翻して直撃は避けたものの服を矢が掠めた。

 結果、ポルカの服はみるみる炎上を始める。

 

「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃっちゃっ! あちぃ! あちぃー‼︎ 焼け死ぬぅー‼︎」

 

 ごろんと乾いた地を転げ回って全身に燃え広がる前に消火。

 ポルカの腹が剥き出しになった。

 

「ふぅ、ふぅ……消火完了」

 

 クロヱが今度は両手銃の形で合わせ指先から電気を生成。

 バチバチと乾燥した空気を電撃が伝う。

 

「プラズマ・トライデント」

 

 一撃ダウンの最恐技に鳥肌が立つ。

 避けきれない――。

 

 真っ白の閃光がポルカを貫く――

 

「っび――!――!」

「っ、トワ様!」

「へい……き、だ、よ‼︎」

 

 クロヱは狙いを外さない。

 だが電撃のトライデントは軌道を逸れトワの左脚に吸収される。

 帯電したトワの足に電気は引きつけられたのだ。

 だがその威力は完全にトワのキャパを超えており、多少の痺れを与えた。

 しかし――痙攣はほんの数秒。

 キャパオーバーとは言え耐性はある。身体が電圧に慣れると足に高威力の電気を帯びたままクロヱに渾身の蹴りをお見舞いする。

 

充電満タン電撃(フルフルエレキ)シュート」

 

 予備動作が長すぎた為、その一撃は隆起した地の壁に容易く阻まれ、電気は地面に逃げて行く。

 

「ッチ!」

(どうやって枷を……)

 

 トワの足を睨む。

 くっ付けて嵌めていた8の字型の鉄の枷が正方形になっていた。

 ノエルの能力で変形させて接触部分を縮小し、力技で分断した――と言ったところか。

 

 ノエルを一瞥すると、ころねとの攻防に勤しんでいる。

 そしてアキロゼは――

 

 

「ガードを勧めるよ」

 

 腕に渾身の力を込めておかゆへと歩み寄る。

 回避は無意味。おかゆは当然迎撃する。

 口を窄めて息を吸った。

 

「マシンガンしんどろ〜む!」

 

 泥の弾丸を放つ。

 大半が空中で破裂するが数発は命中。

 しかし所詮は泥の塊。威力は低い。

 

「知らないよ」

 

 泥を浴びて正面から向かい来るアキロゼ。

 拳を構えて力強く踏み込んだ。

 

「500Nパンチ!」

 

 更なるパワーを付加したパンチがおかゆの腹を穿――

 

「ッ゛ッ゛ゔ――⁉︎」

 

 拳はおかゆの鳩尾を的確に捉えた。

 全身が流動化せずアキロゼの一撃を諸に喰らってしまう。

 腹に残る風圧を受けながら後方へ吹き飛び、バシンと土壁に激突――がらがらと壁が崩れて土に埋もれた。

 

「あーあ。だから言ったのに」

 

 アキロゼが退屈そうに吐き捨てた。

 

「おかゆ‼︎」「「おかゆん⁉︎」」

 

 誰1人として予想だにしない光景。

 戦いの手が止まってしまう。

 

弾丸衝突(ブレッツェル)

「ぐっ――!」

 

 ころねの捻れた拳がノエルの甲冑を砕いた。

 後方へ全身を滑走させて勢いを逃しつつ距離を取る。

 砕かれた部位に手を当てるとぼろぼろと破片が地に溢れた。

 

「大丈夫かノエル!」

「ん、平気」

「おい! お前おかゆに何した!」

 

 トワがアキロゼの背に怒鳴りつける。

 崩落した土に埋もれたおかゆが復帰してこない。

 気絶……したのか。

 

 冷や汗が頬を伝う……。

 

「見たでしょ。殴っただけ」

「おかゆはロギアだぞ! 殴れるはずが――」

「っはは――本当に知らないんだ〜、味方の弱点」

「あ――⁉︎」

 

 クロヱが八重歯をちらつかせて盛大に嘲笑する。

 

「ルイ姉が言ってた。スナスナの実はロギアだけど水をかけられることで固まって流動性を失う」

「あ……? なんだよ、スナスナの実って……」

「さあね。あるんじゃないの、どっかに」

 

 ポルカ達は名も知らない能力。

 それも当然。異世界のとある漫画に登場する能力なのだから。

 

「スナが水で固まるのなら、ドロはその逆。乾燥によって固まり、流動性を失う。そして記憶を見れば見立て通り」

「――ぎっ――」

 

 彼女達はルイの予測とフブキの記憶から弱点を得ていた。

 ポルカとトワが歯軋りする。

 

「つまり。ドロドロの実の弱点は乾燥。この乾燥したフィールドの意味はこれで分かったでしょ?」

「ああ……よく分かったよ。お前が邪魔だってことがな」

「ノエル! まだ行けるよな⁉︎」

「ん!」

 

 ポルカとトワが肩を並べクロヱと対峙する。

 背中越しにノエルを鼓舞し、ころねは預けた。

 

「おかゆ‼︎ へばってんじゃねぇぞッ‼︎」

 

 更に姿も見えないおかゆを激励する。

 1撃K.O.かにも思えたが、おかゆはまだ戦える。

 

 がらがら……。

 

「ぶはっ――‼︎ はぁ……はぁ……はぁ……ゔ、ん……‼︎」

「へぇ……」

 

 土埃を巻き上げて土の山からおかゆが顔を出した。

 口元に唾液が付着して、その上から砂がへばり付いている。

 アキロゼが不敵に微笑む。

 

「トワ様!」

「ああポルカ」

 

「「ポルカ[トワ]たちは、こいつを引き剥がすぞ‼︎」」

 

 

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