ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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132話 マルチバトル

 

「うぶっ……きもぢ悪い……」

 

 高波に飲まれてジェットコースターの気分を味わったミオ。

 自分も周囲もびしょ濡れで所々の木々には海洋のゴミが引っかかっていた。

 

「ったく、仲間の事も考えろよ……」

「――!」

 

 ミオは吐き気に襲われ口元を手で覆う。

 だが聞き覚えの無い声に肩を跳ねさせて飛び上がる。

 吐き気は瞬く間に消滅した。

 

「マジ危ねぇとこだったわ……ん?」

 

 ミオの視線の先で独り言を呟き体に付着した汚れを払う者――それは大空スバルだった。

 視界に映り込む不純物にスバルも気が付いて目付きを鋭くした。

 しかし……ミオもスバルもお互いの顔と名前が一致しない。

 記憶の有無に関わらずこの2人は一度もまともに顔を突き合わせたことがないのだ。

 

 両者その容姿を凝視して敵を分析する。

 ミオは全身が濡れて髪も服も下着までもが水を吸っているが、スバルは多少の汚れが付着しているだけで水を浴びた形跡がない。

 

「記憶に無い顔だな」

「そう、だね……」

 

 ミオはもう一度周囲を見渡す。

 今現在この場にはスバルとミオの2人だけ。

 

「……よしっ」

「やる気か?」

 

 ミオは拳を握って流派も何も無い武術っぽい構え見せた。

 スバルは懐に手を入れ右手におもちゃの銃を握る。そして左手はズボンのポケットへ突っ込みBB弾の様な玉を掴む。

 

 先の乱戦でもお互いはその力を目にしていない。

 スバルもミオも一通りの名前と能力は覚えた為、一手目で能力は破れるだろう。

 

 ミオは、スバルは、思考する――。

 最善の初動を。

 

 ミオは瞳に光を集めた。

 微々たる眼光の変化は誰にも気付けない。

 スバルはミオのモーションを待った。

 

星の光線銃(アストロ・レーザーガン)

「――‼︎」

 

 目にも止まらぬ光線。

 反射しても避け切る事はできず、スバルの左肩に命中した。

 瞳サイズの光線は急所でも無い限り大きなダメージは見込めない。

 

 スバルは駆け出した。

 木々で適度に身を隠しながらミオの視線上に立たない様ポジショニングする。

 

(レーザー……ウチウチの実だな)

(外しちゃったよぉ……どうしよう……!)

 

 奇襲で討ち損じミオは早速動揺する。

 ひとまず石を幾つか握りポケットに仕舞うがスバルは物陰に隠れている。

 スバルが仕掛けて来る前に追撃したい。

 ミオはきょろきょろと大きめな岩を探す。

 注意散漫な様子をスバルは逆に警戒した。

 

 銃撃能力を相手にスバルの能力でどう戦うか……。

 軽く思案し策を練る。

 

「…………」

 

 おもちゃの銃にBB弾の様な球を6発分詰めた。

 目には目を歯には歯を。

 マルマルの実は比較的扱い難い能力だが、スバルはこの能力を一度もハズレだと思った事はない。

 能力も鍛錬次第で如何様にだって化けていく。

 

 木の影から顔を出してミオの様子を伺うと、大きな岩を頑張って持ち上げていた。

 

「おッ……も……」

(なんだ……?)

 

 危険な香りがする。

 まさかとは思うがあの岩を……?

 

「――‼︎」

 

 スバルは身の危険を感じ無防備なミオの背中へ襲い掛かる。

 

「キャノンボール」

 

 銃を懐に納め、掌サイズの空気の球を何発も投函。

 

「うっ!」

 

 背中、腰、脹脛と命中し体勢が崩れれば、岩を持ち上げ続けることなど不可能。

 岩を落としてミオは前方に倒れる。

 

「いだっ――‼︎」

 

 額が岩にぶつかった。

 

 スバルの攻撃は止まない。

 額を押さえて身を屈め、ミオは岩の背後に隠れるが……

 

「おらおらおらおらおらっ! それでも銃の能力者かぁ⁉︎」

 

 何度も何度も空気の球を岩にぶつけ、徐々に岩を砕いていく。

 次第に岩の亀裂が広まり……粉砕!

 まだまだ猛攻は止まない。

 

岩石銃(ペトロガン)

 

 全身が無防備になり、ミオはヤケクソ気味に石を乱射。

 空気弾と正面衝突し石と空気が弾ける。

 僅かな土煙が舞う。

 

「スケートサークル」

 

 スバルは両足の裏に触れて靴の一部をタイヤ型に変化させローラースケートへと変化させた。

 水平移動の質が上がりミオは益々狙いが定まらない。

 

乱球(ランボール)技仁(ギーニ)‼︎」

 

 ミオの周囲を自在に滑りまわり空気球を連射する。

 無色透明な攻撃は見えず、スバルの動きも次第に追えなくなり雑にガードするしか出来なくなった。

 身を屈めてひたすら頭を守ったが、それ以外の剥き出しの部位にダメージが蓄積。

 腕や脚の露出した肌が真っ赤に染まる。

 部外者が見れば虐待にも見える一方的な攻撃。

 

「うっ、ぐっ、うっ、うっ――」

 

 これ以上無抵抗ではいられない。

 何もしなければどの道体が壊れてしまう。なら――何か行動を起こすべきだ。

 

「うっ、ぐッ――爆破銃(ニトロガン)‼︎」

 

 軽い爆発を近辺に起こして煙を巻き起こし目眩し。

 微力の爆発にスバルは面食らって攻撃の手が一瞬止まった。

 だが次の瞬間には追撃を開始。

 ミオは攻撃が止んだ一瞬の隙に物陰へと身を隠す。

 

「マルチピストル」

 

 ピュン、と1発ミオの隠れる木へ向かっておもちゃの銃を発砲。

 当たればちょっと痛い程度の球が発射され、木に衝突する寸前――それは爆弾へと姿を変えた。

 

 ドォォォォっ……と中威力の爆発。

 

「うわぁっ――⁉︎」

 

 突如巻き起こる爆風に木の背後でミオは身を縮こまらせる。

 木の両横から爆煙が流れていく――

 

「マルチピストル!」

「――⁉︎」

 

 その爆煙に紛れてスバルが至近距離でおもちゃ銃を発砲。

 発射された球が今度は手裏剣へと形を戻してミオの右腕に突き刺さった。

 

「イ゛ッ――‼︎‼︎」

 

 じんと激痛が走った。

 奥歯を噛み締めて反対側の爆煙の奥へ身を転がしスバルから距離を置く。

 

「エアボール」

 

 ふっと筒状に丸めた手を通して息を吹き出すと、忽ちミオは空気の球体に囚われた。

 ごちんと先と同じ場所を空気壁にぶつけた。

 すると空気の球体はミオを閉じ込めたまま勢いに乗って転がる。

 

「うわぁぁぁあああああ――‼︎」

 

 ミオの世界がぐるぐると周り視界が揺れる。

 全身が空気の壁に打ち付けられ、空気の球も周囲の木々にぶつかり、やがて球が割れるとミオの回転も止まった。

 

 目が回って地面に転がったまま動けない。

 胃と口元を押さえた。

 

「うっぶ…………吐く…………」

 

 流石に荒れすぎて酔ったらしい。

 蹲り、這いつくばるミオの背後にスバルが襲いかかる。

 丸い空気のフィルターで覆った拳を振いミオに一撃を――

 

「ッ――! お゛、お゛ェッ――」

「うわッきったねぇぇッ‼︎」

 

 咄嗟に振り向いて目前のスバルに驚いたその衝撃が決め手となり、ミオは嘔吐した。

 危うく他人の吐瀉物を浴びそうになり、スバルは緊急回避。

 なんとかゲロの雨を避けたが、攻撃は不発に終わる。

 

「危ねぇなぁ! 人にゲロ向けんな!」

「ご、ごぇんなさい……」

(くそ、殴り損ねた……まあいいや。もっかい連打で――)

「うぶっ……ま、待っで、まだ――出る――」

「お、おう……」

「おェッ…………うぅ……」

 

 再度嘔吐。

 べちゃっと地面に吐き出した。

 スバルはミオの指示通り動きを止めて嘔吐を待つ。

 

「う、うぅ……ありがとぅ…………っぷ。もう、だいじょぶ……」

「そうか、じゃあ――――ってふざけんな‼︎ 誰が待つかい‼︎」

「ぇ、待ってから言う……?」

「もう待たねぇからな‼︎」

 

 スバルが一歩踏み込み、ミオが手を銃型にして構える。

 

「――ん……」

「……ん?」

 

 スバルの動きがまた止まる。

 何かを待っている様子ではない。

 その視線はミオの更に向こう側の草木の奥へと向いている。

 

 がさがさ……ぱきっ、と何者かの気配。

 

 ミオは振り返った。

 

「お、いたいた〜、誰も居なくて困ってたの」

「ちょこさん!」

 

 2人の戦場に顔を出したのは癒月ちょこ。

 軽く手を振って駆け寄って来る。

 ミオの隣に並んでスバルを一瞥した。目が合うとスバルが目を細めた。

 

「今この人とやり合ってたんだけど、ちょっと押され気味で……」

「そうなの? じゃあ2対1で行こうか」

「うん、助かるよ」

 

 ミオとちょこが肩を並べてスバルと対峙する。

 ミオが手で銃を作った。

 ちょこはきらりと八重歯を煌めかせる…………?

 

 がぶっ――

 

「ッ゛――‼︎⁉︎⁉︎」

 

 突如、ミオの右肩に食らいつく。

 獣の様に頑丈な顎。

 傷口は歯で塞がっているにも関わらず肩から血が抜けてゆく。

 ミオは理解が追いつかず気が動転していた。

 ちょこの頭を掴んで無理矢理引き剥がそうとするがびくともしない。

 ちゅーちゅーと徐々に血が抜かれて行く。

 

「うっ、ぐっ……なんっ……!」

 

 焦って判断が鈍っていたが漸く目に光を溜めてレーザーを発射。

 ちょこは牙を抜いてミオから距離を取り回避。スバルの隣に並び立って口元の血を服で拭った。

 

 ミオは肩を握り込んで止血。

 幸いにも歯の通し方が上手く出血は少ない。

 痛みに身を縮こまらせちょこを睨み上げる。

 

「ぼたんちゃんの言ってた……変身……」

「なぁ〜んだ〜、やっぱりバレてるんだぁ〜」

 

 ミオの核心を突いた一言でちょこは易々と真の姿を表した。

 そう、それはちょこではなく――メル。

 容姿が霞がかったと思えばその姿はみるみるメルへと変化して行く。

 ズボン以外は完全に再現されていた。

 

「ぐっ……!」

 

 ミオは歯をぎりぎりと軋ませる。

 顎が力むと連動して肩も痛む。

 

(ズボンの違いに気付くべきだった……!)

「でももう虫の息だね」

「小細工も不要だな」

 

 窮地。

 ミオに取って不条理な2対1が成立。

 スバル1人に苦戦していたのに、2人纏めて相手なんて出来ない。負傷だってしている。

 

(早いけど、負けたら元も子もない――! 使うしか……ない!)

 

 ミオは肩を押さえながらもう一方の手をポケットに突っ込む。

 さりげない動作にスバルが目を光らせた。

 おもちゃの銃を強く握り早撃ち準備――。

 

 ミオのポケットから手が抜かれた。何かをしっかりと握り締めているが、明らかに銃の構えではない。

 スバルは素早く照準を合わせて球を発射。

 球は空中で手裏剣へと姿を戻してミオの右手を切り裂いた。

 

「ぐぁっ――‼︎」

 

 ダメージを受け反射的に手中の物を溢してしまう。

 地面へと転がったのは桃色の紙で梱包された1つの飴玉。

 

「才能キャンディーだ! 拾えよっさん‼︎」

「うん!」

 

 スバルの声に呼応するメル。

 動き出しが早い――!

 ミオは痛覚に苦しめられ動きが鈍っている。特に腕は素早く動かせない。

 

(敵に取られるのだけはマズイ――‼︎)

 

 ミオは咄嗟の判断で右足を前に突き出した。

 飴を勢いよく踏み抜き――

 

「エアボール」

 

 ゴン――と空気壁を踏みつけた。

 体勢が崩れ空気球の中で足を滑らせる。

 上手く受け身も取れないが、そんな事より視線は飴玉に釘付けだ。

 

(――⁉︎ ヤバい‼︎‼︎)

 

 メルの手が飴を掴もうとしたその時――!

 

「よっさん!」

「――⁉︎」

 

 ビュン――とメルの目前を一本の剣が通過した。

 危うく手を貫かれる一撃。メルの髪が僅かに切れて中を舞う。

 剣が飛んできた方角に目を向けると更にもう一本、今度は足を狙って飛んできていた。ひょいと後方への軽い跳躍で回避。

 その隙に颯爽と現れた女性がミオの落とした飴を回収し、操作する剣を空気球に突き刺してミオを解放。

 

「大丈夫?……には見えないわ」

 

 他問自答と言う自己解決。

 ミオの負傷と敵の負傷の差は火を見るより明らか。

 偶然の邂逅だがミオに取っては唯一の幸運だ。

 

「ありがと、ラミィ」

「偶然通りかかっただけ。でも無事でよかった」

「無事じゃぁ……ないけどね」

「……ほら、一旦これはキープして」

 

 回収した飴をミオにパスする。

 ミオは首肯して懐に仕舞い直した。

 

「まだ動ける?」

「うん」

「じゃあ戦力に数えるからね」

「うん!」

 

 ラミィがミオに手を貸す。

 一瞬蹌踉めいたが肩を並べて敵と見合った。

 その時ふと、ミオの頭の中で先刻の光景が蘇る……。

 

「……」

「……? どしたー?」

(ラミィって……こんなまともだったっけ……?)

 

 失礼なミオの内心などラミィは知る由もない。

 不可解なミオの様子にラミィも合わせて眉を寄せる。

 

「……ホンモノかどうか1発殴って確かめてい?」

「殴らんでもホンモノだわ‼︎ つーか殴る意味ないわ‼︎」

 

 声の張りが凄い。

 ツッコミの勢いがいい。

 

「あれ見える⁉︎ あれ! ししろんの言ってたメルちゃん‼︎ 本人あそこにおるんよ⁉︎」

「いや……他人まで変身させるかも知れないし……」

「ししろん言ってたよね⁉︎ 能力はコピー出来ないって! 今ずっと能力使ってますケド⁉︎ 剣浮いてますケド⁉︎」

(ホンモノだぁ……)

 

 ラミィの提示した証拠では無く、ツッコミのキレや声量、勢いと言うミオ独自のエビデンスによる証明。

 ミオは漸く安心して息を吐いた。

 

「じゃあラミィ、頑張ろう!」

「いや……今の件挟んだ上で⁉︎ 共闘しづら‼︎」

 

 などと文句を垂れつつラミィも再び身構えた。

 

 2人のつまらない漫才を傾聴しつつ、スバルとメルも2対2の構図で腹を括る。

 スバルがメルの眼前に左腕を差し出した。

 メルがそっと口付けをする様に歯を通すとスバルの眉がぴくりと跳ねる。

 ちゅー、ちゅー……とメルは味方の血を吸い出した。

 

「あの剣を操ってるのは雪花ラミィ、レバレバの実のスイッチ人間。触られたら眠らされて終わりだと思っとけよ」

「ちゅー……あはっへふ、ちゅー……ほへはおっひほ、ちゅー……おはひはほ、ちゅー……」

 

 スバルの忠告に吸血しながら答えるが、内容はスバルにも聞き取れなかった。

 

「バレてんね、こっちの事は向こう以上に」

「みたいだね」

「もう準備はいい?」

「オッケー」

 

「血は十分か?」

「うん――じゃ早速」

 

 メルがスバルの腕から牙を抜くと今度はズボンを軽く噛む。

 そして直ぐに姿勢を正し、次の瞬間には全身が霞がかる。

 メルの姿を霧が多いその霧が晴れた時、そこには衣服まで完全に一致したスバルがもう1人佇んでいた。

 スバルがスバルにおもちゃの銃を手渡し、どちらも全く同じ装備。

 まるで見分けが付かない。

 

「あの銃……ちょこさんの言ってたおもちゃ?」

「そうみたい。手裏剣とか爆弾とか飛んで来るから気をつけて」

「もう完全にミオさんの上位互換じゃんか……」

「うっ…………しゅん……」

 

 無意識のディスにミオが萎れた。

 ミオの射撃精度はレーザー以外全て低い。対してスバルは鍛えているだけあって命中率も高い。

 その上ミオと同じ様に手元にあれば何でも丸めて発砲して来る。

 

 凹んだミオをラミィが2度見した。

 

「あぁーごめんごめん! 嘘! 嘘だから!」

「はぁ……所詮うちは十石一鳥程度の数射ちゃ当たる戦法しか出来ないゴミエイムです。すみません」

「めんどくさっ! うわめんっどくさっ! あんたもしかしてニセモン⁉︎ 1発殴って確かめてい⁉︎」

「ニセモノだったらここまでやられてないよぉ!」

 

 2人の茶番の時間を使ってメルとスバルは準備が完了する。

 しかも、ミオとラミィが茶番の最中に目を離したので、どちらがどちらか完全に区別がつかない。

 

「茶番は済んだか?」

「え、なに⁉︎ わざわざ待ってくれてんの⁉︎ もしかしてあんたもニセモン⁉︎ 1発殴って確かめていい⁉︎」

「誰が殴らすか‼︎ 普通にホンモノだわ‼︎」

「…………」

 

 …………。

 

「だって。あっちがスバルさんね」

「分かった」

「やっちまった――‼︎」

「ばかぁー‼︎」

 

 茶番は終わらぬまま戦いへと突入して行く――。

 

「でもどの道また見失うだろ‼︎ 行くぞよっさん!」

「おーけーすっさん!」

 

「行くよミオさん!」

「うん、ラミィ‼︎」

 

 ミオ&ラミィvsメル&スバル、森の一角にて戦闘開始――。

 

 

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