ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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134話 大地鳴動

 

「トーラービッグウェーブ!」

 

 クロヱが大波を引き連れて押し寄せてくる。

 誰しもが能力者。波には飲まれたくない。

 

 鍛錬を積んだジャキジャキの実の能力で無形物さえも切断してしまういろはだが、あの大波は切断した所で勢いを殺しきれない。

 対処法は幾つかあるが何れにせよ全員を庇う余裕はない。

 

「――――」

 

 いろはは砂地を蹴り跳躍。更に立て続けに空中で跳躍を重ね高く跳ね上がった。

 森の木々よりも高く、波に乗るクロヱよりも更に高く。

 前方には一面の海、後方には一面の森と言う絶景を拝める高所から波に飲まれる者たちを俯瞰し刀を構えた。

 

「風真を相手に余りに無防備――疾風刃雷‼︎」

 

 狂気的に笑うサーファークロヱへ――一閃を放斬。

 横一文字に空を切り裂く斬撃をクロヱは高く跳躍して回避。

 特大の風の斬撃が水を切り裂きながら海の底へ沈んでゆく。

 

 クロヱの着水前に追撃を構えるいろはの背後へ忍び寄る影。

 空気の乱れの感知が遅れ振り向いた時、忍び寄る魔の手――ラプラスの岩肌のような拳が脇腹へと直撃した。

 

「ッ……く!」

「そいじゃ、ラプラスよろしく〜」

「あいあい」

 

 クロヱが波に乗って森の奥へと侵入していく。

 浜は完全に水で埋もれて能力者が地に足をつけられる状況ではない。

 現に砂浜には人の姿が見えない。

 

「っ、やばっ――」

 

 ラプラスの拳を喰らったいろはは水面と鋭角に波へと落とされる。

 体勢が悪く足場を形成する事さえままならない。

 

(くそっ……飲まれ――)

 

 パシッ!

 

(――⁉︎)

 

 腹に細身の何かが巻き付いて失速――ブランコのように下に凸の放物線を描いて波の中へ落下――しない。

 

「いろは!」

 

 腹に巻き付いた糸――ではなく麺は1本の木へ向かって収縮する。

 麺を木に巻きつけて高所へ逃げたぼたんもまた大波を回避していたようだ。

 

「――っ、ありがとうございます」

 

 適度に勢いをつけて麺を解くといろはは身軽に回転して太い木の枝に着地する。

 

 いろはの軌道を視線で追っていたラプラスが2人を睨む。

 波の中に埋もれる大地を隆起させて足場を作り真っ直ぐと駆けてきた。

 

「今のあいつは誰が相手しても時間を食わされる。あんたは白黒仮面を追え、あいつはあたしが何とかしてみっから」

「――はい。ありがとうございます」

 

 いろはは眼中からラプラスを切り捨ててぼたんに背を向け、枝をしならせて木から木へと飛び移る。

 ぼたんは短く麺を垂らして迎撃態勢でラプラスを引き付ける。

 ラプラスの足場が次第に高くなりぼたんとラプラスの目線が合った時――

 

 パァン!

 

「ッ!」

「――⁉︎」

 

 1発の銃声が耳を劈く。

 

(くっ……そぉ……!)

 

 ぼたんが腰を抱えて木の枝から転落した。

 落下中に振り返ったその先に、煙を噴き出す銃口とそれを構えたわため。

 

 いろはは銃声を耳にし反射的にブレーキをかけた。

 刀を振るって引き抜き1本の木の枝の上で振り返る。

 

「ぼたんさん!」

 

 既にぼたんは引き始めた波へ着水しようとしていた。

 しかし――今回も見事に麺を枝へと巻きつけて入水を防ぐ。

 3回ほど、びよんびよんびよん、と跳ねて空中にぶらんとだらしなくぶら下がった。

 

「へぃ゛……きだ!」

 

 プライドなのかクロヱ退治を優先したいのかは定かでないが、背後に迫るラプラスの姿がいろはには見えている。

 間違いなく平気な状況ではなかった。

 それにわためも――

 

 しゅっ!

 

 視線の先にいたわためが姿を消した時、いろはの身体は反射的に動いていた。

 

「――風華刹月‼︎」

 

 パ!キッ!

 

「――⁉︎」

 

 いろはの斬撃よりもわための銃撃が一拍ほど速かった。

 だがいろはの背後へ移動して放ったその1発の弾丸は、不思議な事に不可視の壁に弾かれる。

 面食らうも反応速度は凄まじく、一縷の隙もなく瞬間移動で回避。

 いろはの斬撃が木々の頭を吹き飛ばし強風を巻き起こす。

 背後に回ったわためが再び銃口を向けていたが、その時点で既にいろはは力強く踏み込んでおり枝を大きく歪ませていた。

 

 パァン!

 

 と響く3度目の銃声。

 ガサッと震える一枝。

 銃弾は空を貫き遠方の幹を穿つ。

 

「――‼︎」

「風雹被害‼︎」

 

 体躯を回転させて天空から斬撃の雨霰を振り撒く。

 自然災害に匹敵する攻撃がぼたんを避けて砂浜近辺の木々を薙ぎ倒すが、わためは瞬間移動で掠りもせず、ラプラスは負傷箇所が立ち所に再生する。

 

「う、ぐ、お……」

 

 斬撃の嵐の中麺を巻き取って宙を漂う身体を木の上に戻したぼたんは、傷口に麺を巻いて簡素な止血処理をした。

 

 斬撃を振り撒いて適度に威嚇したいろはは身体の回転を止めてぼたんの真横にそっと着地する。

 反動で枝がみしっと軋んだ。

 周囲の虚空を素早く切断して完全に納刀すると、警戒心を解いてぼたんに手を添える。

 

「大丈夫ですか」

「悪りぃな……でも動けはする」

「よかったです」

 

 パァ――キッ!

 

「――⁉︎」

 

 わための銃弾がいろはの背後で何かに弾かれた。

 ラプラスが隆起させた大地を持ち上げて2人の乗る木の枝を根本から破壊する。

 

「まずい――」

「安心してください。隔絶したので今は安全です」

「あ?」

 

 木の枝がみしみしがさがさと音を立てて落下する。但し、2人の乗っている部分を残して。

 

「どう……なってんだ」

「「…………」」

 

 不自然に宙に浮く木の枝をラプラスとわためが挟んで監視している。

 ぼたんも今一度枝に触れてみたが普通の木の枝だ。

 ふと思えば環境音がやけに小さく聞こえる。

 

「空間を切断しました。今は空間の壁に守られているんです」

「……? 分からんが、分かった」

 

 いろはが背後の空間の壁をノックして簡潔に話すと、ぼたんも安全を認識したのか姿勢を緩めた。

 態勢を整えてラプラスを見下ろす。

 いつの間にか波は完全に引いており、水を含んだ荒れた砂地が剥き出しになっていた。

 

「皆さんお強いようなのであのマスクマンは一旦預けましょう」

「ああ……とすると……2対2はきついな」

 

 わためとラプラスを抱えてクロヱの下へは行けないし、2人が結託して行かせてくれない。

 よって2人の討伐が先決になるのだが、わためとラプラスが同じ戦場にいる事が何より厄介。

 

「……独りで戦えますか?」

「そうだな……不可能じゃねぇ」

 

 怪我を憂う問いにぼたんは苦い顔で答えつつ、ポケットからアメを取り出す。

 5分間才能を極限まで引き上げるルーナ特製の才能キャンディー。

 初手から切り札とは情け無い話だが……。

 

「風真のもいります?」

「いや2つは流石にまずい」

 

 いろはの進言を軽く断って背後のわためと向き合う。

 

「勝機を見出すならあたしはわための方だ」

「では風真はロギアの子で」

「わためがそっち行ったらすまん」

「その時は仕方ないです」

 

 チャキ丸の柄を撫でてラプラスを凝視する。

 2人の体勢から抗戦を予期したのかわためとラプラスも身構えた。

 

「開きますよ」

「ああ――」

 

 いろはの合図とともにカリッとアメを奥歯で噛み砕く。

 ぼたんの全身に力が漲る――!

 

「ご武運を」

「ああ、祈っててくれ!」

 

 一時的に隔絶していた空間を解放した。

 足場になっていた木の枝の自由落下が開戦の合図。

 ぼたんといろはが対面する相手に挑む。

 

 地面と鋭角にラプラスへ突っ込むいろは。

 放物線を描いてターザンの様にわためへ突撃するぼたん。

 2人の特攻を前にわためとラプラスも動きを見せる。

 銃を構えるわため。

 大地を揺らすラプラス。

 

 肉薄が早い。

 衝突寸前――!

 

「――」「おらぁっ!」

 

 わためはいろはの背後へ回り、ラプラスの攻撃はぼたんを襲う。

 思惑を外して戦場を掻き乱す見事な連携。

 

 パァン!

 

「くっ――!」

 

 いろはの肩を弾丸が貫いた。

 

 ドゴっ、と隆起した大地が木を粉砕するがぼたんは上手く回避したようだ。

 

切開棺(きりひらかん)!」

 

 着地したぼたんが大地に着手すると接触した部分が麺へと変化し、波紋を広げる様に麺が地を侵食してゆく。

 瞬く間にラプラスやわため、いろはの足元まで能力が及び、麺が1つの棺を生成した。

 麺の棺桶がわためだけを捕え麺地の上に直立する。

 

鉄麺鈿(アイアンメンデン)

 

 麺の棺桶を麺で掴み巨大な半円を描いて180度回転。

 重力に乗せて力強く地面に叩きつけた。

 

「――」

 

 瞬間移動出来ないわための様子にラプラスは静かに目を細める。

 

(神速抜刀――)

 

 ――――

 

「疾風切り」

「――?」

 

 いろはの声が通過してラプラスは身体を捻った。

 

「――んぁ?」

 

 上半身だけが捻れる違和感に腹部を見下ろすと、切断された腹から上だけが意思に従って振り向いていた。

 ずるっ、と上半身が麺地の上に落下して土砂になる。

 

 崩れた土砂が下半身の上に寄せ集まって人体を再形成して行く。

 わためが麺の棺桶に幽閉されラプラスが再生に時間を要している隙に、いろはは森の奥へと駈け、ぼたんから距離を取りつつクロヱを追う――ふりをする。

 

 ラプラスは再生が終わると背を向けるいろはを睨み、ぼたんと棺をそれぞれ一瞥。

 

 びっ――と麺の棺に亀裂が入った。

 わためが再び自由になればぼたんを2人で押さえられる。

 しかしラプラスはいろはを相手するようクロヱに指示されている。

 臨機応変に動くなら――ぼたんを制圧した後にいろはを追うべきだ。

 

「――」

 

 ラプラスはいろはを見逃してぼたんに狙いを定めた。

 

「風華刹月‼︎」

 

 ビュンっ、と逃げたいろはからわためを封印した棺へと斬撃が飛ばされたので、ラプラスが反射的に防衛に回る。

 麺地の底から飛び出す大地に斬撃が衝突し砂塵が舞う。

 

 びっ――と麺の棺の亀裂が広がり、中からわためが転がり出てきた。

 しかし視界は砂塵塗れ。

 

「メェクネット」

 

 特殊な網を現出して舞い上がる砂を掻き集めて吹き飛ばし視界を晴らす。

 そして――

 パァン、と1発の銃声。

 

「っ…………」

 

 銃弾が貫いたのはわための右足だった。

 痛覚と驚愕で思考が鈍る。

 ふとぼたんを見やるとその両手にはわための銃が握られており、懐に仕舞っていた予備の銃3丁も全て麺でスられていた。

 麺で掴んでいた3丁を全て懐に仕舞い、手にした銃で再びわためを狙う。

 

 かちゃっ――

 

「――‼︎」

 

 パァン!

 

 続く銃撃はわための残像とラプラスの腹部を通過して彼方へ消える。

 瞬間移動で回避しつつぼたんの背後に回ったわためは素早くぼたんの背に掴み掛かった。

 

「その銃わための‼︎ かーえーしーて!」

「誰がっ! ってか――わためぇ、そんなんだったか――⁉︎」

 

 銃を巡る醜い取っ組み合いが始まる。

 

(……これはわためさんが勝つ……となれば――)

 

 ラプラスがいろはを凝視した。

 いろはは視線の意図を瞬時に察知し、ぼたんとわためからさらに距離を置くべく森の奥へ駆け込む。

 

「きっひひ……!」

 

 ラプラスが不敵な高笑いを上げていろはを追いかけた。

 ぼたんとわためへの戦いに介入する余地は無いとの判断が下された。

 となればラプラスは、いろはを相手に本領を発揮してくる。

 

「刮目せよ! 吾輩の能力‼︎」

 

 ごごごごご……と地鳴りが発生。

 いろはは脇目も降らず森の奥地へと突き進む。

 

「ぶっ飛べ‼︎」

「――‼︎⁉︎」

 

 ラプラスの豪快な踏み込みで地面が陥没し、その深さ分だけいろはの足場が突出、いろはが高く打ち上がって木の枝に激突――せずに切断して難を逃れる。

 勢いを殺さず天に昇り、木の高さを維持しつつさらに奥地へ。

 

(足が……! 今の段階でこれ以上負傷できない――!)

「逃げるな‼︎ 吾輩が恐ろしいなら吾輩の前に跪け‼︎」

 

 足を庇う仕草を見せない様いろはは木々や空を足場に森へと潜る。

 ラプラスも高らかに叫びいろはを追って森の奥へと侵入。

 空を逃げるいろはを大地を操って足止めするなどし、ラプラスはいろはから決して目を離さない。

 

 災害が広がり、被害の規模が拡大してゆく――。

 

 これより記しの島を襲う大災害によって、この地の乱戦は一層混乱を極めていくのである……。

 

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