ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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135話 二者麺談

 

 ドォォォン!

 ガン! ゴゴゴッ‼︎

 ザザァー。

 

「かーえーしーてー‼︎」

「だから返さねぇっての‼︎ このっ‼︎」

 

 ドォン! グラグラグラ……。

 ザザァー。

 

 波打ち際の砂浜で取っ組み合うぼたんとわため。

 間近で囁く漣の音と遠方で暴れ回る乱闘の音をBGMにして戦いは続く。

 

 才能キャンディーでパワー全開のぼたんだが体勢が悪くわためを押し返せない。

 

絡四肢(からじし)!」

 

 地面から伸びた麺がぼたんに跨るわための四肢を拘束。序でにもうひと束伸ばして首を締め付けた。

 

「か……ァ……ッ……‼︎」

 

 わためを相手に妥協はしない。

 無防備なわための腹へ間近で銃口を突きつければ、間髪容れず――

 

 パァンッ!と発砲。

 

 四肢を拘束したところで当たる筈もなく瞬間移動で拘束から逃れぼたんからも距離を取る。

 四肢と首を縛っていた縄が空気を締め潰し地中へ帰った。

 ぼたんは素早く復帰して振り返る。

 

「…………」

「…………」

 

 一定の距離を置いたままわためは不動でぼたんの様子を伺っていた。

 

(飴使って逃げられたんじゃ意味がねぇ)

 

 逃げる姿勢は見せないが万一に備えてぼたんはわための逃げ道を塞ぐ。

 

「逆さ麺鉢」

「――ん? おぉーーー」

 

 地中から大量の麺が伸びてぼたんとわためを隔離する大きなドームが形成された。

 硬度のある麺で構成されており簡単には破壊できないが、その質から微量の光は貫通する極めて実用的な性能。

 ドームの完成を見届けてわためは拍手と共に歓声を送る。

 瞬間移動の範囲を狭められても動じないあたり、やはり逃げる気は毛頭無いらしい。

 

「余裕そうだな」

「え〜、凄くピンチで焦ってるよ」

「謙遜も度が過ぎると煽りだな」

 

 ぼたんの能力は便利で実用的。

 だが戦闘に於いて見れば攻撃力が乏しく決定打に欠ける。

 相手がわためともなれば殊更に。

 

(5分で片付けねぇと……)

 

 ぼたんは両手から麺を垂らして身構えた。

 わためとの手合いは反応してから行動しても遅い。

 常に数手先を予測して戦わなければならない。

 

「ダメェジ抽出」

「あ?」

 

 わためが右足の傷に掌を合わせて呟いた。

 ぽんっ、と傷が抽出されて地面に落下し――だんっ、と銃に打たれた様な穴が地面に移植された。

 足の銃撃痕は綺麗さっぱり消えている。

 

「おいおい…………それは聞いてねぇぞ」

 

 ラミィやノエルからも聞かされていない能力に唖然とする。

 ただでさえ攻撃が当たらないというのに……傷まで治されては到底5分で仕留めきれない。

 

(つまり……一撃で意識を刈り取ればいいんだな?)

 

 どんな手段でもいい。

 一撃で気絶させるか怪我の残らない方法で戦闘不能にする。

 

 ぼたんは瞬きひとつせずわための一挙手一投足に注目しながら、脳内で策を講じる。

 

 ひゅん――とわためが消えた!

 反射的に振り返ると背後からわためが迫っている。

 

「っ‼︎」

 

 数メートルあった距離を瞬間移動で詰められて面食らう。

 咄嗟に背後に飛び退くも――

 

「がっ――」

 

 目前にいたわためは姿を消し、それと同時に背中に衝撃が走る。

 傷口が広がり腹に巻いた麺の赤い面積が広がる。

 軽く浮いた全身が前の減りに地面に転倒――する前にわためが眼前に移動して追撃――

 

「っぐ――‼︎」

 

 顔面を容赦無く蹴り飛ばされて唇が切れ、更に鼻血を噴き出す。

 浮いた身体が更に数センチ持ち上がり今度は地に背を向けて倒れ込む。

 

 再びわためが瞬間移動して背中を力強く蹴り上げた。

 

「がぁっ――! っ、ぷ――」

 

 傷口が更に広がり、口から血の混じった唾液を溢す。

 

 3発受けて漸く思考が追いつく連撃。

 受けた攻撃のことは一旦忘れ直ちに猛攻を切り抜ける策の思案を開始。

 思案の間で更に3発、腹部、後頭部、腹部と喰らってダメージは蓄積された。

 だが思考は纏まり遅れ気味に打開策実行へと移る。

 

 ぼたんはドームの壁から自身へと麺を伸ばして体を巻き取り、強引にわための間合いから脱却。

 しかしわためもおいそれと逃しはしない。

 ぼたんの軌道に先回りして更なる追撃を放つ。

 

「――!」

 

 ぼたんの足とわための拳が激突。

 脱却しながら身を回転させたぼたんの脚力が、わための腕力を上回りわためを拳ごと弾くことに成功した。

 

 わためが麺のドーム壁に衝突し、遅れてぼたんが同位置に激突。

 

「お゛ぇっ!」

「――‼︎ ラッキー‼︎」

 

 偶然にもわためを壁と自身で挟み込んだぼたんは血の付いた八重歯を光らせ、わためを麺でぐるぐる巻きにする。

 

「ミイラになれ‼︎」

 

 真っ先に視界を閉ざして瞬間移動を防ぎ全身を麺で括った。

 

「んー! んー! ん〜〜〜‼︎」

「へ! これで瞬間移動もできねぇだろ!」

 

 雁字搦めにしたわためが喉を鳴らすが意味のある声を発することは出来ない。

 全身を麺に包まれもはや動くことなど出来ない。

 ぼたんはわためを地面に置いてその上に片足乗せた。

 

「例えあたしが力尽きても、この麺は消えねぇぞ」

 

 わためを完封した。

 そう思ったのも束の間――

 

「うぉっ……」

 

 わために乗せていた足がすとんと地についた。

 包んだわためが突然姿を消したように……。

 焦燥感で冷や汗を流し固唾を飲んで振り返ると、わためが平然とした立ち振る舞いでぼたんを見つめていた。

 

「……移動先のイメージが出来ねぇとテレポートは出来ねぇって聞いたが?」

「うん。そうだよ」

「……どうやら話が違う様に見えるんだが」

「違わないよ」

 

 わための視界は完全に覆っており落ち度はなかった。

 

「前に浜から屋上へ飛んだの、もう忘れちゃった?」

「……」

「フィールド暗記さえ出来れば視認する必要はないんだよ」

「暗記だと?」

 

 ぼたんは周囲を見渡した。

 当然、麺のドームに隔離されている。

 

「今じゃもうあの屋上の景色は思い出せないけど、このフィールド内程度なら短時間暗記できるよ。丁度運良く、ぼたんちゃんがドームって言う寸法計算に最適な施設を用意してくれたからね」

「……空回った、つーわけか」

「う〜ん……一長一短ってところじゃないかな」

 

 わためもこの島へ来て僅か数日。

 島の全域を記憶しているはずもない。

 特に木々で囲まれたり、目印も何もない砂浜となるとフィールド暗記など到底不可能。だからこそ、このドームはドーム外にわためを逃さない砦となっている。

 それがドームを生成した利点。

 逆に欠点は、今し方わためが口にしたフィールド暗記。

 ドームが存在する事により目測で距離感や位置関係を区別できる様になり、ドーム内であれば視覚を奪われても自在に瞬間移動できてしまう。

 正しく一長一短である。

 

「でも……そうか……」

 

 わための今の発言から、ぼたんもその性質を理解し始めた。

 ぼたんは素早く思考を切り替える。

 

 わためはドーム外に出る気が無いのではなく、出られないのだと予測が付けばそれで十分。

 

「ならこんな趣向はどうだ――?」

 

 ぼたんは腰を落として蹲踞の姿勢を取り、右手を砂地に着けた。

 

麺棒疾風(メンバーシップ)

 

 砂地から、ドームの天井と壁から縦横無尽に麺が駆け巡り容積いっぱいになる程広がってゆく。

 

「こうなりゃぁ……瞬間移動もできねぇだろ」

 

 人の立つ隙間なく麺で満たした。

 大した重さはなく暖簾の様に潜ることはできるが、物質のある場所に瞬間移動はできない。

 

「もしかして、やばいかな……」

 

 切羽詰まった、と言った雰囲気はないがわためがそう溢す。

 実際問題、麺が邪魔で瞬間移動は不可能。

 加えて――

 

絡四肢(からじし)

 

 地中から生えた麺がわための四肢と首を拘束。

 首に巻かれた麺が徐々に締まって行く。

 

「ァ……がっ……ぁ…………」

 

 才能キャンディー効果切れまで残り1分。

 1分あれば気絶まで運べる。

 

 わための首を絞め続け、拘束も解かない。

 気道を確保しようと天を仰ぎ、両腕を動かして束縛から逃れようとするが麺はびくともしない。

 喉から空気が通らず、頭に血が回らなくなる。

 

「っァ…………! か…………」

 

 わための気絶を祈りながらぼたんは麺を繊細に操り、待機する。

 

「…………」

 

 わための手が痙攣を始めた。

 やがて瞼も閉じる。

 

「…………」

 

 かくん、とわための首の力が抜け頭が垂れた。

 

「…………」

 

 目視して数秒待機し、ぼたんはわための拘束を解いた。

 支えを無くしたわための体がぱたんと砂地に倒れる。

 

「間に合ったか……」

 

 ドームを構成していた麺とドーム内を満たしていた麺が全て地中に潜っていき砂へと姿を変えた。

 そこで丁度時間切れ――。

 

「くっ…………結構、重いな……」

 

 ざっ、と砂地に膝を突いて心臓を押さえ込むと激しい鼓動が聞こえる。

 想像以上に体力を取られたが、まだ動くことは出来る。

 心身が覚醒に追いつきつつある証拠だ。

 

 タイマンを張れる体力は無いが、サポート程度は熟せるはずだ。

 

 ざく、ざく、ざく…………

 

「ぁ……?」

 

 砂を踏む足音が迫りぼたんは呆けた声と共に顔を上げた。

 眼前でぼたんを見下ろす瞳。

 それは……わためだ。

 

「――!」

「ほっ!」

 

 反射的に懐の拳銃を取り出すも動きは見透かされており、踵で軽く弾かれ銃が砂浜に転がる。

 

「なんで……」

「わため、首絞められても苦しくないから」

 

 ぼたんの問いに首をとんとんと指で示して笑う。

 首が閉まって血管や気道が塞がれても、わためは能力で酸素や血液を抽出して通すができてしまう。

 わためは溺れない限り窒息しない。

 

「く、そ……演技、かよ……」

 

 心臓に手を当てたままぼたんはこっそりと懐に麺を伸ばす。

 息を荒げ、何とか呂律を回して意識を逸らしつつ時間を稼ぐ。

 もう戦闘する余裕は無い。

 

「そう。じゃあぼたんちゃん、銃は返してもらうよ」

 

 わためが手を伸ばした――

 パァン‼︎

 

「くっ――‼︎」

 

 わためは消え、弾丸は彼方へ。

 直後、ぼたんを背後から襲う衝撃。

 

「うぐっ――!」

 

 だっ、ずざー。

 

 前方に滑って砂を舐めた。

 不味い。

 ざく、ざく、ざく……かちゃ。

 

 パァン――。

 

「――ッ……!……!…………」

 

 背中から弾丸を浴び、ぼたんの意識は瞬く間に途絶した。

 

「いぇい」

 

 わためは1人でピースしてぼたんの服を弄り、盗られた銃を全て回収する。

 

「わための〜勝ぁ〜ちぃ〜」

 

 2丁の銃を懐に仕舞い、2丁の銃を手に持つと愉快にくるくると回しながら、次なる獲物を探して森の奥へと消えていった……。

 

 

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