ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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136話 最終局面へ

 

 ドォォォン!

 ガン! ゴゴゴッ‼︎

 

 ガンッ、ガンッ!

 ゴゴゴゴゴゴ…………!

 

「オラァ‼︎ ッラァ‼︎ 待てゴラァッ‼︎」

 

 木々を薙ぎ倒し、大地を揺るがせ、ラプラス・ダークネスは森を逃げ回るいろはを追走する。

 いろはも定期的に後方へ迎撃しながら森中を駆け回り、ひたすら逃げながらクロヱの影を探す。

 

 2人が通過した土地は凄まじい荒れ具合だった。

 

(くっ……こっちはしつこいし、アイツは見つからない!)

 

 一度着地するとその瞬間を狙って足元が隆起した。

 地面に突き飛ばされる前に斬撃で足場を粉砕し直ぐ様木々を伝って高所へ逃げる。

 

(わためさんが来ないのはありがたいけど……コレどうにかしなきゃ、アイツと戦う前に体力が枯れる――!)

 

 ラプラスもいろはもお互いにお互いを仕留め切れない問題を抱えている。

 

 いろはは定期的に高所から島を見渡すが、いろはとラプラスの争いを除けば目に見える戦いは砂浜のぼたんのみ。

 それもぼたんが見える訳ではなく、麺ドームが目視できるだけ。

 

 いろははラプラスの攻撃をいなしながら森を駆け――

 

 べちゃべちゃべちゃ――

 

「――⁉︎ 何これ――」

 

 再度地に降りて数歩足を回転させると、泥や水とは異なる液状の何かを踏み散らした。

 ちらと視線を落とすとマヨネーズが周辺に飛散していた。

 遅れてやってくる異臭が鼻腔を突く。

 

 明らかに天然物ではない。

 

 いろはは加速した。

 マヨネーズで一度足を滑らせたが体勢を大きく崩す事はなかった。

 

「逃げんなぁああああああ‼︎」

 

 ラプラスとの距離がまた詰まってきた。

 

「――っ。ジャキンジャキン!」

 

 高めに跳躍し身を回しながら抜刀――素早く2振り。

 斬撃を放ってラプラスの右脚と左腕を切断してバランスを崩し転倒させて数秒時間を稼ぐが素早く復帰される。

 

 いろはは着地しながら進行方向に向き直り突き進む――

 

 

 ガンッッ‼︎‼︎

 

 

 正面より響く鋼鉄の衝突する甲高い音。

 戦場が近い!

 

「ぅっ……くっ!」

「そのネジ、返しなさい‼︎」

 

 木々の合間を縫って辿り着いた戦地で、ロボ子とちょこが文字通り鋼鉄の拳を交差させ熾烈な戦いを繰り広げていた。

 拳と拳の摩擦で火花が散っている。

 

「ちょこさん‼︎」

「――⁉︎ いろは様⁉︎」

「――! ポンプショットフィスト!」

「ぁぶ――!」

 

 意識の逸れたちょこへ至近距離から放たれるロケットパンチ。

 間一髪仰け反ったちょこの頰を掠って木の幹を砕き、ロボ子の腕に戻ってゆく。

 

 グラグラグラ……と大きな地響きが接近しロボ子とちょこが揺らめく。

 

「うわっ――あっひゃひゃひゃひゃ! やっばー! またマヨネーズ塗れー! キモすぎ〜!――んっぷ――――――!」

「――! シオン‼︎」

 

 地鳴りで平衡感覚を失ったシオンが転倒し、全身マヨネーズ塗れになって笑い転げる。

 隙だらけのシオンの口と鼻をこよりがマヨネーズで塞いで窒息させる。

 

「――! シオンさんも」

 

 ちょことシオン、ロボ子とこよりの小競り合いの最中にいろはは乱入してしまったらしい。

 しかも――ラプラスと言う自然災害を引き連れて。

 

「待てや゛ァァ‼︎」

「「「「――――⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」」」」

 

 土砂の波に乗って木々を押し倒し登場する人型自然災害。

 土砂が、木々が、岩が小区画に流れ込み戦場が乱れた。

 マヨネーズが吹き飛び、鋼鉄たちも流されて、いろはだけはこれまでの容量でいなしつつ更に奥地へと足を進める。

 

「ちょっ――! ラプちゃん!」

「ラプ様――っ」

 

 土砂に巻き込まれこよりはシオンの拘束を解いてしまう。

 ちょこは土砂に流されて行き、ロボ子もまた大地の隆起に撥ねられ別方向へと吹き飛んでゆく。

 その際――

 

「しまっ! ネジが――‼︎」

 

 ずっと握っていたシオンの頭のネジを手中から溢してしまった。

 ネジは瞬く間に土石流の中に埋もれたが、ひとりでにある一方向へ飛翔して――

 

 パチンッ。

 

「ッ‼︎」

 

 シオンの顳顬から脳内に収まった。

 

「…………⁉︎ ラプラス――‼︎」

 

 外れたネジが戻った事でシオンの意識も正常に戻る。

 しかしその身は土砂に流されていた。

 視界の隅で土砂に乗って遠ざかるラプラスの背を見つけ、シオンは必死に流れに抗う。

 

「っぷ――くっ――!」

 

 抵抗を続けていると土砂の流れが弱まりやがて流れが収まった。

 シオンは素早く立ち上がって移動する災害の中心地を追い掛け――

 

「Xeウェーブ!」

「わぶっ――!」

 

 マヨネーズに足を取られ転倒し再度マヨネーズ塗れ。

 

「チッ‼︎ お前――マッジでしつこい‼︎」

「こよの相手は相当難儀してるみたいだんねぇ」

 

 同じ場所にいたのだから同じ方面へ流されて当然だ。

 シオンは露骨に嫌悪感を見せて怒る。

 それをこよりはニマニマと嘲笑。

 

「こんないいカモ、逃すわけがないよんねぇ?」

「――チッ」

 

 こよりの執着心にはうんざりだ。

 いい加減、ラプラスをぶっ飛ばしに行きたい。

 

「こよを倒せなきゃ、ラプちゃんなんて到底倒せないんじゃないのぉ〜?」

「……マヨネーズみたいに粘着質なヤツ」

「ま、マヨネーズですからね〜」

「お前の下品芸にはもう飽きたし、いい加減くたばれ!」

 

 怒りに任せて裂傷派を放つが流動化で回避。

 半ロギア性能が本当に厄介だ。

 シオンは強く歯軋りした。

 

「もう飽きちゃったの、マヨネーズぱーちー。じゃあ、そろそろマヨネーズ晩餐にする〜?」

「あんた、晩餐もマヨネーズ尽くしでいいの?」

「勿論大歓迎」

「ならそうしよう――‼︎」

 

 4人の小競り合いは幕を閉じ、新たなる対面が各地で発生してゆく――。

 

 

 

         *****

 

 

 

 ロボ子、ちょこ、シオン、こよりの戦場を荒らしたいろはとラプラスは更に森を駆け巡り被害を拡大して行く。

 

(折角シオンさんが居たのに――預け損ねた!)

 

 ラプラス打倒を豪語していたシオンにラプラスを任せたかったが、勢いのまま飛び出して結局事態は変わらなかった。

 ラプラスを引き連れたままクロヱとは戦えない。

 今一度あの戦地に戻りたいが、もう引き返す事は叶わない。

 

「――⁉︎」

 

 ピュンッ――と一筋の光が不意に視界の端をすり抜ける。

 

(レーザー⁉︎)

 

 記憶にも新しい光線。

 近辺でミオが戦っている。

 

「――ぇっ⁉︎」

 

 キンッ――!

 

 レーザーから数拍遅れて手裏剣がひとつ横回転で飛んできて面食らうが、流石の反射速度で抜刀し負傷を防ぐ。

 手裏剣にも見覚えはある。

 つまりこの先で戦っているのは、ミオとスバル――

 

「ぃよっ――」

「うぇ⁉︎」

「――え⁉︎ ちょまっ‼︎」

 

 突如いろはの目前にラミィが飛び出してきた。

 勢い余って2人は接触して絡まりながら派手に転倒する。

 

「――! 隙あり!」

 

 唐突な乱入者に驚愕しつつも好機を見逃さず飛び込んでくるスバル――のツラをしたメル。

 牙を光らせ拳も握って瞬く間に2人に肉薄――

 

「オッラァアアア‼︎」

「――ん⁉︎」

 

 メルと同時に隙をついた一撃を放つラプラス。

 メルはぎょっと目玉を飛び出させる。

 

「吹っ飛べ‼︎ 風真いろはァァ‼︎」

「くっ――‼︎」

「え⁉︎ 何⁉︎」

 

 どう足掻いても完全には凌ぎきれないと判断したいろはは、真っ先にラミィを持ち上げて成る可く遠くへ投げ飛ばした。

 

「ちょぉーーーーー――‼︎」

 

 彼方へと飛んでいくラミィの絶叫が土石流の轟音で掻き消され――いろははメルと共に土砂に呑み込まれた。

 

「どっラァ‼︎」

「ふぐっ――‼︎――――!」

 

 更に大地が鋭利に隆起して土石流の中からいろはを天に打ち上げる。

 土と血を撒き散らしてくるくると空に舞い上がり、とある一点からは落下を始めた。

 

「ハッハッハー! 見たかァァ‼︎」

 

 ラプラスが高らかに笑いいろはの落下予想点に足を運んで追撃の大地を構えた。

 いろはも刀に手を掛け――

 

「――⁉︎ チャキ丸⁉︎」

 

 手は何も掴めない。

 腰に携えていた刀が鞘ごと消滅していた。

 

 素早く意識を切り替えて悪条件でも手刀を構える。

 突出させた大地に立ち徐々に高度を上げ襲い来るラプラス。

 

 ピュンッ――

 

「――ッち!」

 

 レーザーがラプラスの左足を半分抉った。

 バランスを崩し、ラプラスが高所から転落して行く。

 落下しながら足を再生し視界にレーザーを放った犯人を捉えた。

 

「あの野郎――」

 

 ミオとラプラスの視線が交差する。

 

「タアアアッ‼︎」

「ッ――ぎっ‼︎」

 

 ラプラスへ意識を割けば当然スバルはフリー。

 防御もろくに間に合わずストレートに打撃を喰らった。

 空気の層を纏った拳で鳩尾を抉られ地面に這いつくばるミオ。

 

「余所見とは悠長だな‼︎」

「くっ……‼︎」

 

 スバルがトドメの一撃を振りかぶった――!

 

「スバルさん‼︎」

「――⁉︎ ぶぇ――⁉︎」

 

 ザンッ、とスバルの残像を切断する空気の斬撃。

 ラプラスの警鐘に天を仰げばいろはの斬撃が迫っていたのだ。

 

 ドシャッ――とラプラスが地面に転落し一度全身が崩壊するが、次の瞬間には傷一つなく復元される。

 

「――は! 刀!」

 

 ミオも嘔吐感から解放されて蹌踉めきつつも立ち上がった。

 その時偶然にも土砂に埋もれたいろはの刀を発見する。

 一目散に回収へと駆け出すが、スバルが見逃しはしない。

 

「スケートサークル」

 

 靴をローラースケートに変形させてミオを追走。

 更にラプラスが大地を畝らせ刀をミオから遠ざけつつミオに肉薄する。

 

「一刃の風‼︎」

 

 着地が間に合わず再度空中からミオを援護するいろは。

 右脚を力一杯振るって横一文字の斬撃を地面と鋭角に飛ばした。

 

「ッと――!」

「あ?――」

 

 ラプラスは腹からスパッと真っ二つになるがスバルはスケートの勢いに乗って上手く跳躍し斬撃を飛び越えた。

 

「させるかッ!」

「あうっ――」

 

 タイムラグなくスバルがミオに飛び掛かり空気の層を纏った拳で、再び殴り飛ばす。

 今度は後頭部に直撃。

 ミオは前方にすっ転んで泥まみれになる。

 

 たっ――と漸くいろはが軽やかに着地。

 

 かちゃ――。

 

「いろはさん!」

 

 何とかチャキ丸を掴むとミオは自らを犠牲にしてでもその刀をいろはへ渡そうとする。

 掴んだ刀を即座に投げ――

 

「エアボール」

 

 カッ――

 

「ゔ――」

 

 振りかぶった刀が不可視の壁に閊えた反動が右腕に伝播し、びりっと痺れた感覚が広がる。

 ミオは空気球に包囲された。

 

 着地したいろはがすかさずミオへと駆け出すが……

 

「どらぁ‼︎」

「っ――」

 

 大地に阻まれる。

 いろはは一度刀を諦め、木々の間を縫って再び移動を始める。

 当然ラプラスは追ってくる。

 

 やや大きく迂回してラプラスを引き付けつつ、ミオと再接触を図る腹積り。

 

 ミオはレーザーで空気の層に穴を開け、そこを集中的に殴って壁を破壊し脱出。

 刀を抱えていろはの背を追う。

 更にその背をスバルが追う。

 

「追わせねぇよ‼︎」

 

 ローラースケートで速度を上げてみるみる距離は縮まり――

 

「伏せて‼︎」

「――ひぃっ⁉︎」

「なっ――」

 

 叫び声と共に2人の進行方向から飛来する横一文字の斬撃。

 いろはの警告と視覚からの反射でミオは間一髪しゃがんで回避。

 スバルもスライディングを決め、斬撃の被害は髪だけに留まる。

 

 しかし――

 

「ぃ――」

「あわぁっ⁉︎」

「うおっ――――」

 

 屈んだミオのお尻に勢い余ったスバルのスライディングが炸裂。

 スバルの腹には納刀された刀が減り込み、鳩尾を抉られる。

 

 絡み合って泥汚れを被るスバルとミオ。

 そこへ迂回したいろはが合流。

 

「失礼します」

「わっ!」

「――! 待て‼︎」

 

 ミオを掻っ攫って90度方向転換、見飽きた森の景色を眺めつつ疾風の如く駆け抜ける。

 脇に抱えられたミオは進行方向と真逆の方角を向いていた。

 顔を上げると追走してくる2人の姿が目視できる。

 木々を薙ぎ倒して土砂の上をサーファーの如く滑走するスバルとラプラスが。

 

 いろはは目先にやや開けた区画を発見した。

 最短距離でその小区画へ。

 

「いろはさん、これ!」

「ありがとうございます」

 

 ミオが背中からいろはに刀を差し出すが体勢が悪いので礼は言いつつ受け取りは一旦拒否。

 一先ず開けた場所に出たい。

 小区画まであと数歩の所――

 

「――‼︎ いろはさん‼︎」

 

 刀を大切に握り締めて背後に向き直ると土石流がミオの眼前まで迫っていた。

 

「おわっ――!」

「ひゃぁああああ‼︎」

 

 土石流に突き飛ばされるもいろはの思惑通り開けた小区画に不格好ながら突入成功。

 その区画は何やら大きな窪地となっており、中には複数の占有者が――

 

「「ぃっ‼︎⁉︎」」

「うげっ――」

「――、――‼︎」

 

 ポルカ、トワが真っ先に目に留まり、次いでクロヱと視線が交差した。

 

「沙花叉クロヱェェ‼︎‼︎」

 

 ミオを抱え、落下しながら体勢を整え真正面からクロヱに突撃する。

 いろはの怒号にクロヱが冷や汗を流した。

 

「――っぶ‼︎」

 

 猪突猛進ないろはの頬を撃ち抜く破壊的な一撃。

 アキロゼが咄嗟の判断でいろはを吹き飛ばす。

 

 いろはの手中からミオが溢れ落ち、大量の土砂と共に窪地に降り注ぐ。

 ミオは何とか着地に成功し、周囲のメンバーは降り注ぐ土砂を両腕で凌いでいた。

 いろはは木の幹に激突、アキロゼは華麗に宙を舞い、スバル、ラプラスと同時に窪地に着地。

 

「ミオさん!」

 

 ポルカが警戒を怠らずにミオへ駆け寄る。

 

「ラプラス、あれは引き続きよろしく。みんな! 場所変えるよ!」

 

 クロヱの無駄の無い号令と敵の迅速な行動。

 敵全員が窪地を抜け出し、ラプラスはいろはへ、その他は別方面へと逃げ出した。

 

「ミオさん動けるか⁉︎」

「うんだいじょぅ――」

 

 肩に添えられたポルカの手をそっと下ろさせて戦況を概観――そして絶句した。

 おかゆが窪地の壁に寄り掛かって倒れていたから。

 ぎっと拳と刀を握り、奥歯を噛み締めた。

 

 

「ほぉー⁉︎ 逃げるんじゃね⁉︎ やっぱノエちゃんにパワーじゃ勝てれんってわけね⁉︎」

「ん――‼︎⁉︎」

 

 戦場を立ち去る敵4人――そのうちの1人の背中にノエルは挑発をかけて揺さぶる。

 

「バカころね! 一々乗るんじゃねぇ‼︎」

 

 先刻まで打撃の応酬を繰り広げていた相手、戌神ころね。

 ノエルの挑発に耳を揺らして過敏に振り返る。

 

「それもそうか! 能力無しじゃ碌なパワーもないけんねぇ⁉︎」

「――――!――――!」

「おい! ころね‼︎」

「その子はいい! ほっといて!」

 

 スバルが必死に押さえるがクロヱは見切りをつけて置き去りにする。

 窪地の上から窪地内のノエルを睥睨するころね。

 ノエルも不敵な笑みを浮かべて鋭い眼光を返す。

 

 ノエルとおかゆを窪地に残してポルカ、トワ、ミオもその地を這い上がった。

 

「待てぇてめぇらぁ‼︎」

 

 ミオが指先をクロヱとアキロゼの逃げる背中に向けて絶叫した。

 おかゆの凄惨な姿に怒り心頭な様子。

 

「待てミオさん‼︎」

 

 だがポルカはミオの手に自身の手を被せ、攻撃をさせない。

 

「ッ――なんで⁉︎」

 

 アキロゼには銃が効かない――なんて簡単な理屈じゃない。

 きっとこの理屈はミオには分からないだろう。

 分からなくていい。

 でもこれだけは譲れない。譲らない。

 

 これが最後のチャンスだから、そうさせろとおかゆ以外の一味全員がマリンから受けた指示だ。

 どちらかが屈さない限り――その戦いに付け入るなと。

 彼女の獲物を奪うなと。

 

 

 ――大地が唸る。

 

 

「アイツはまだ――」

 

 

 アキロゼの足元から一つの拳が飛び出して――反射の間に合わない間合いからアッパーを撃ち込んだ。

 

 

「――うちの見習いの仕事だ‼︎」

 

 

 血まみれのおかゆの拳がアキロゼの顎に炸裂。

 あのアキロゼを後方に転倒させその前に立ちはだかる。

 

「――」

「そいつは任せた」

「頼むぞおかゆん」

「――」

 

 ポルカとトワが2人の傍を素通りしアキロゼをおかゆに一任した。

 

 瞠目したミオと輝きの潰えないおかゆの瞳が一瞬だけ交わる。

 

「…………よし‼︎」

 

 ミオは刀を再三強く握りいろはの方へ。

 先程まで木に凭れていたいろはは気が付けば姿を消していた。

 

「――待゛ァァでェェェェェッ‼︎」

 

 背後のラプラスなど毛ほども気に留めず斜め方向一直線にクロヱに突撃して行く。

 ミオも慌ててその背を追うが中々距離が詰まらない。

 その上ラプラスの妨害が定期的に入って一向に刀を手放せないでいた。

 

 

 一方、クロヱとスバルの背後を追走するポルカとトワ。

 

『地響きからするにラプラスがずっといろはの後を追ってんだ!』

『ぽいな。あれ剥がさねぇといつまでも好転しなさそうだ』

 

 トワのテレパシーで戦況を分析し策を練る2人。

 

『一旦ここ預けていいか⁉︎ シオンなら何とかできるはずだ』

『長くは保たんからなるはやで頼む』

『了解』

 

 トワはずざーっとブレーキをかけて踵を返して行く。

 スバルが訝しげに眉を寄せクロヱに伝達したが敵の動きは変化しない。

 

 ルーナを複製しても木々が邪魔で簡単に視界から外れられる為、この場では実用的でない。

 かと言って現状維持でも意味が無い。

 ポルカは軌道を変更しいろはとの接触を試みる。

 

 未来演算でラプラスの猛攻を掻い潜りいろはと並走する。

 

「いろはさん! まだ飴持ってるか⁉︎」

「――! あります!」

「じゃあくれ!」

「はい!」

「サンキュー!」

 

 ポルカはいろはから才能キャンディーを預かった。

 丁度その時――

 

 ひゅ〜〜〜ぱん!

 

 とクロヱが天に一発の花火を打ち上げた。

 何かしらの合図が上がった!

 

 ポルカはとある奇策実行の為ブレーキをかけて押し寄せるラプラスと向かい合う。

 

「早速――」

 

 パァン! キッ!

 

「――銃声⁉︎」

 

 突然の銃声に動きを止めて振り返るといろはの前にわためが立ちはだかっていた。

 

「花火はそう言う――っどあっ‼︎」

 

 土石流を転がって回避。

 いろはとポルカはラプラスとわために挟まれる。

 

「チッ! 仕方ねぇ‼︎」

 

 ポルカはいろはとわための間に割って入り、これみよがしに飴玉を見せびらかしつつ背後のいろはに告げる。

 

「こいつはあたしがやる!」

「はい!」

 

 いろははわためを迂回し、ラプラスを引き連れてクロヱを追って行く。

 

「はぁ、はぁ――ちょっと……待ってぇ……‼︎」

 

 いろはの再出撃から数秒遅れてミオが到着。

 未だにチャキ丸を抱えている。

 

「離れてろミオさん!」

「でもこれ――‼︎」

「なら早く追って!」

「そんなぁ〜――! 待ってよぉ‼︎」

 

 過呼吸気味だがミオは震える足に鞭打ってまた走る。

 

 

 

 そして――猛進を続けたいろはの手刀が遂にクロヱに届く。

 

「返せェ‼︎」

「きっ!」

 

 カキン‼︎

 

 クロヱのカットラスといろはの手刀が交差して火花を散らす。

 

「エアボール」

 

 クロヱがいろはの攻撃を弾いた一瞬の隙にスバルが能力で格納。

 そこへラプラスも到着して大地にいろはを襲わせた。

 いろはは空気の層を破って一度空中へ逃げる。

 

「風車‼︎」

 

 十字にクロスさせた腕を回して高所から斬撃を発射。

 十字の斬撃が風車の様に回転して木々を切り裂き大地を螺旋状に抉った。

 

「いろはさん‼︎」

 

 そこへ満を持して刀が到着……しない。

 ミオを視界に捉えたスバルが滑走して全力で妨害してくる。

 

「させねぇ‼︎」

「わっ! おっ! やっ!」

 

 スバルの猛攻に回避一辺倒となり次第に距離が広がる。

 いろはも接触を図るがクロヱとラプラスの2人を相手に刀無しとなり苦戦を強いられていた。

 

「うっ、わっ――やめてよぉ!」

 

 体力切れでスバルの攻撃が掠り始めた。

 

(どうにか刀を届けなきゃ――!)

 

 姿は見えているのに手が、刀が届かず焦ったい!

 ミオは焦燥感を露わにして歯軋りする。

 

(――‼︎ そうだ‼︎ そうじゃん!)

 

 その閃きは唐突に脳内を走った。

 

 ミオは敢えてスバルから距離を置き「間」を作る。

 次に納刀状態の刀を両手に乗せて銃の様に構えた。

 

「――‼︎」

 

 ミオの発想をスバルも思い至るが次なる動作は刹那の内に――

 

運搬銃(メトロガン)‼︎」

 

 チャキ丸を銃撃の容量で発射。

 目にも止まらぬ速さでいろはへと飛来する。

 

「いろはさーん‼︎」

「――‼︎」

 

 ミオの叫びが響き渡る。

 

「トラバサミ‼︎」

「潰れろぉ‼︎」

 

 足元からクロヱの強襲が、頭上からラプラスの猛追が迫る。

 

 

 ズゴゴゴッ‼︎ バグン‼︎

 

 

「「――――」」

「――」「――」

 

 ………………。

 

「色は匂えど散りぬるを――」

 

 ビシャアアアア…………べちゃべちゃ……。

 

「神速抜刀――」

「ッ――‼︎⁉︎」

 

 ――――

 

「ふっぐ――――‼︎」

「――疾風斬り‼︎」

 

 だっ…………。

 ぴちゃ…………ぴちゃ……。

 

 斬撃を受けたクロヱの脇腹から鮮血が滴る。

 クロヱが不敵な黒い笑みを浮かべ、いろはを睨み付けた。

 

 

「今度こそ――記憶は返してもらう‼︎」

 

 

 チャキ丸を盛大に振るって刀が啜った血を払い落とす。

 

 

 記憶奪還戦は最終局面へと突入した――。

 

 

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