ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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138話 希望の花を咲かせて

 

 あの時からずっと心残りがある。

 

 本当に些細なすれ違いだったが、その出来事が喉奥を抜けても尚身体の内側から胸中を焦がし続けている。

 

 顔を突き合わせても上手く言葉を交わせないまま何年が経っただろう。

 

 きっとこよりは、ラミィの事を嫌っている。

 ずっと避けられている気がするから。

 ぺこらちゃんのお陰で首の皮一枚繋がった関係は、今にも千切れそうだ。

 

 あの時、ラミィはただ――ただ、こよりに笑って欲しかった。

 大切な人に笑って欲しかった。ただそれだけなんだよ……。

 

 

 

         *****

 

 

 

「あったたた……くっそぉラプラスめ〜、見境無しに暴れ回ってぇ……」

 

 ラプラスの土石流に弾かれたロボ子は森の中で独りになっていた。

 土砂に溺れたり大地に弾かれたりと味方の攻撃に被弾したが、能力で全身に接合した鉄の装甲でダメージはほぼゼロに抑えている。

 その為、ロボ子の負った怪我といえばそれ以前にちょこと殴り合って出来た片腕の痣のみだ。

 

 直立後、荒波に揉まれた事による僅かな酔いと数秒だけ格闘し、平衡感覚を取り戻す。

 

「……まだ騒いでるし」

 

 遥か遠方から鳴り響く地響き。

 その彼方を目を細めて睨む。

 

「とは言っても、ラプラスのとこに行く意味はないかな」

 

 状況整理に独り言を呟き、周囲を見渡すと数本の木がへし折れていた。

 顎に手を当てこの先の行動について一考する。

 

「さて……どうするか――」

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ‼︎」

 

 凄まじい絶叫が突如として飛来して来る。

 不審げに周囲を見回し――

 

「――? なニ゛ッ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 ガン〜〜…………とロボ子の背に何かが直撃した。

 どしゃっ‼︎

 

「あだっ‼︎」

 

 ロボ子の背中に直撃したのはラミィのお尻。

 芸術的なまでにロボ子を地面に押し潰した。

 

「っつ〜〜〜〜……」

 

 ラミィは直撃したお尻ではなく衝撃の響いた腰を摩り口から空気を漏らす。

 巻き上がった土埃が早々に晴れて行く。

 

「助けてくれるのはいいけど、やり方ってもんがあるでしょうにぃ」

 

 投げ飛ばしたいろはに陰口を溢しながら頭を振って周囲を見回した。

 

「ふぅ……でも生きてて良かったわ〜。よっこいしょ」

「ちょ――ぅぶ‼︎」

 

 背中から立ち退かないラミィに猛講義を入れようとめり込んだ顔を上げると同時にラミィが手を付いて立ち上がった。

 ロボ子の頭はラミィに押さえつけられて無慈悲にも再び地中へ捩じ込まれる。

 背中の上でラミィが直立する。

 真下を見下ろしてロボ子の存在を確認すると今度は屈み込んで腹部右上付近に手を伸ばした。

 

「――!」

 

 ラミィにだけ目視できる人体のスイッチが金属の装甲に埋もれており触れられない。

 意図した設計ではないだろうが、計算外の不運。

 

 装甲を無理矢理剥がそうと指を掛けるが剥がせない。

 仕方ないのでスイッチを切って眠らせる事は諦め、代わりにロボ子の頭にラジコンアンテナを装着した。

 

「はいおしまい」

 

 ナチュラルに、呆気なく、ロボ子と言う兵隊を獲得するラミィ。

 一連の流れに一種の狂気を感じる。

 

(ラジコン化……身体が動かせない……)

 

 指一本さえピクリとも動かせず、頭で考えることしか出来ない。

 自我を残しつつ全身の操作権を奪う力。

 

「どうしょっかな〜」

 

 ロボ子と言う増兵を引き連れて何処へ行くべきかラミィは悩んだ。

 この状況ならロボ子を使ってメルと同様の策が打てる。

 奇襲でロボ子の鉄拳を確実に一発撃ち込めるのは十分デカい。

 

 パカっ――

 

「ちょっとー、ぼくは自立型なんですけどー!」

「――――」

 

 口を開けないはずのロボ子がラミィの意思とは無関係に喋り出すので、ラミィは表情には出さずも驚愕して振り返る。

 するとロボ子の額から上がパックリと外れており、自身の頭を両手で掴んでいる、と言う若干ホラーな光景があった。

 ロボ子は自身の頭に拳骨を落としてラジコンアンテナを粉砕すると、外した頭を再接合する。

 

 この場に異世界の記憶を持つ者がいれば、きっと我先にとメロンパンを重ねてツッコむだろう。

 しかし2人にその知識は無い。

 

「マジで?」

 

 ラミィの想像だにしない突破方で能力が破られた。

 

 ラジコン化されて全身の制御は効かずとも、能力は自分の意思でも扱える。

 頭を外す事でアンテナと身体を一時的に切り離し操作の主導権を再獲得、アンテナを破壊すると言うロボ子ならではの手法だ。

 突破された事のない力の突破と、スイッチオフが出来ないと言う過去に類を見ない強敵を前にラミィは唖然として遂にそれを表に出す。

 

「それと! 人の事踏みつけたんだから謝ってよ!」

「いや敵に謝らんよ普通。それにラミィは悪くない!」

 

 味方だったら多少の謝罪はしたが、敵なのでそれも不要。

 それに事の原因は暴れたラプラスと投げたいろはにある。だからラミィは無罪だ。

 

(マズいなぁ……真っ向勝負は厳しい……)

 

 腰元の2本の剣に触れてそれらを宙に浮かせた。

 ラミィは常時3本の剣を携えており、1本は予備としている。

 しかし砂浜での交戦でメルに1本を砕かれ、現在残る剣は2本。

 

 表向き交戦の姿勢を見せるが、内心はどうにか場を離れてロボ子を別の誰かに任せたいと思っている。

 だがいずれにせよ、普段通りの飄々とした戦闘術ではいなせない。

 

連翹(レンギョウ)

 

 自身の戦闘スイッチを入れて身も心も加熱させる。

 全身に熱と血とパワーが巡り、肌が赤々と火照り出した。

 身体能力のギアが上がり脳の回転スピードも上昇する。

 

 ラミィは姿勢を低くしてぎっと拳を握る。

 真っ赤な手の甲に青筋の血管が浮き出た。

 激しい鼓動の高鳴りを感じる。

 

「ふゅぅ……」

 

 大きく息を吐いて高熱を逃すと湯気が立ち昇った。

 

 ヒュッ――と前の減りに突撃。

 颯爽と駆け抜けると、熱の籠った布団から抜け出た様な涼しさが身を纏う。

 過去に実践で活用した事のない技だが、疾走感は胸が空くほどの快感だ。

 

 いつもの2倍――いや3倍は視界が広い。

 瞬く間にロボ子へと肉薄し――

 

花菱走(ハナビシソウ)

 

 反応したロボ子が対応し切れぬ間にラミィは至近距離へ。

 ふわっと花の様な身軽さで跳躍してロボ子を飛び越えながら片手に顔面を掴む。

 

「んが」

 

 ガンッ。

 

 勢いとパワーで強引にロボ子を頭から後方へ引き倒した。

 

 他の部位と比較しても明らかに装甲の薄い部分。

 そこから地面に直撃したのだから軽度の脳震盪は期待できる。

 だがラミィは自身の能力を過信せずロボ子から逃げ出した。

 

 この力は長期戦に向かないからだ。

 ラミィではロボ子を相手にしても決定打がない。

 時には逃げも重要な一手となる。

 

 ラミィはギアを上げたままロボ子から距離を置き、背を向けて、木々の合間を縫って場を離れた。

 

 がしっ、とラミィの右足首を何かが掴む。

 

「んっ⁉︎」

 

 立ち止まりながら目線を落とすとロボ子の右手が彼女の腕から乖離してラミィの足を握り締めていた。

 目視し即決。

 ラミィは右足を大きく回し上げてロボ子の右手を付近の木に撃ちつける。

 

「いっ……」

 

 がしかし、腕の装甲は他の部位よりも分厚く、寧ろラミィの足への反動の方がダメージとして残る。

 じんと右足から伝う衝撃に顔を顰め、痛みに若干の怒りを覚えながらも冷静に足を下ろした。

 

「ぅぉぉぉおおおおーーー――200ポンドロケット‼︎」

「あぶっ――‼︎」

 

 腕と右手を接合の引力で引き寄せてロボ子が真っ直ぐラミィに飛来する。

 鋼鉄と人体の重量に加速度を上乗せした一撃だ。

 ギアの上がったラミィの反射神経なら回避も余裕――但し、軌道修正をされない場合。

 

「やばッ――」

 

 腕がラミィの足に張り付いている以上、この攻撃からは逃れられない。

 鋼鉄の装甲で木々をへし折りながら飛来し、回避も無視してホーミングした末に――

 

「がっ――ふ――‼︎」

 

 ラミィの肋骨を砕く頭突きが炸裂。

 ピキッ、と肋が軋む音を残してラミィの体は空を切り、1本の木に直撃した。

 弾みで口から血と唾液が飛び散り、きーんと耳鳴りが響く。

 

「サブウェポン」

 

 ラミィを吹き飛ばすと右手を腕に再接合し、今度は左腕をドライバーへと変化させ照準を合わせる。

 

「突きとスッポン‼︎」

 

 左腕に回転をかけドライバーを勢いよく射出。

 先端の尖ったドライバーがぐるぐると回転しながらラミィの腹部へ突き刺さる。

 

「うっ……ぐっ……‼︎」

 

 ドライバーがラミィの腹へぐさりと突き刺さり、刺突後も数秒ぐりぐりと内部を軽く抉られる。

 ラミィはもっと吐血した。

 

 じゅぐっ……すぽっ……とドライバーが抜かれると傷口からドロっとした血液がじわじわと溢れ出てくる。

 ラミィは更に吐血を重ねた。

 

 衝撃による吐血と腹部損傷による出血。

 これ以上血液循環を早めると流血が増して危険だ。

 ラミィは全身のスイッチを切って平常状態に戻す。

 

「メインウェポン」

 

 ラミィが痛覚に抗いながら冷静に一つずつ事を運ぶ中でも、ロボ子は矢継ぎ早に攻撃を仕掛ける。

 血糊を被ったドライバーの左手を腕に帰還させて元に戻すと、口からぷぷぷぷぷと大量のネジを発射。ラミィの四肢を背後の木と接合して身動きを封じる。

 

 今度は装甲を纏う右手拳を構えてターゲット捕捉。

 狙いはラミィの美貌。

 

「ポンプショットフィスト!」

 

 先刻同様に右手拳を射出。

 拘束されたラミィが躱せる道理などない。

 

「ガッ――――は……」

 

 頭と四肢を懸命に振るもターゲットから逃れられず、ロボ子の鋼鉄の拳を諸に顔面に喰らった。

 1本の前歯を欠損。鼻が骨折し鼻血が噴出。衝撃で再び脳震盪を味わい、反射で両目から涙が滲む。

 背後の木がみしっと撓って揺さぶられ接続された枝から数枚の枯葉が舞い落ちた。

 

 拳がラミィの顔面から剥がれるとやや仰け反っていた頭ががくんと地を見下ろし、頰や額を伝った血が鼻先と顎から地面に滴り小さな血溜まりを形成する。

 朦朧として歪む意識の中、ラミィはその血溜まりをぼんやりと見つめていた。

 

「…………はぁ………………はぁ………………」

 

 意識の定着に長い時間を要し、ラミィはのっそりと顔を上げた。

 頭が重たい。

 ぽわぽわと揺らぐ視界の先でロボ子がこちらに再び照準を合わせている。

 視線がぶれて詳細な照準先は分からない。

 

「ポンプショットフィスト!」

 

 技名を叫んでロボ子が再三腕を射出。

 

「っぐ!――はな゛っ、ぐる゛ま゛――」

 

 腕の軌道上に操った2本の回転する剣を割り込ませ、ロボ子の鋼鉄の拳とぶつけた。半分ほど開いた鋏を回転させている様な状態だ。

 激しい金切音をあげて火花を散らし、ロボ子の鉄拳の威力を相殺。

 腕の勢いが消えて地に落下すると、2本の剣は回転速度を上げてロボ子へ直進する。

 

空刺(ガランサス)

「サブウェポン!」

 

 迫り来る2本の剣に2本のドライバーで応戦。

 回転で威力を増した刺突をドライバーでガードするも、流石にパワー不足。

 火花を散らしていたドライバーがきんっ、と弾かれてロボ子の胸部に剣が突き刺さる――直前。

 

「クランポン!」

 

 カッ、と右足を振り上げてもう一段階威力を落とす。

 右足の底に無数のネジを生やして剣に対抗していた。

 ドライバーの抵抗で微かに威力を落とし、最後に足で大きく軌道を逸らすとロボ子は軽く跳躍し、剣の勢いを使って2本の剣を地面に蹴り落とした。

 そのまま剣をトゲだらけの靴で踏みつけて粉砕する。

 

「っ…………げっほ、けっほ……ぅっぶ」

 

 剣が砕かれラミィは全ての武器を紛失。

 更に四肢が拘束されて身動き不能。

 想像を絶する敗北の呆気なさに絶句し、肺を詰まらせ、咳き込み、吐血した。

 

 ロボ子がかちゃかちゃと腕を再接合し、照準を合わせる光景を黙って奥歯を噛み締めながら見ることしか出来ない。

 

「ポンプショットフィスト!」

 

 容赦情けもなく無慈悲に放たれたロボ子の腕が一直線にラミィに飛来する。

 砕けた2本の剣の柄だけを操作して拳にぶつけたが容易く弾かれておしまいだった。

 

「くっ――」

 

 敗北が目前に迫り、血が滲むほど唇を噛んだ。

 スローモーションで迫る拳の軌道を事細かに目に焼き付け――

 

「っがぁっ――――‼︎‼︎」

 

 腹部の傷口を抉る様に拳が鳩尾を抉った。

 重なるダメージに脳内が明滅し意識が霧散してゆく……。

 

「ぁ、ぅが…………」

 

 かくんと頭を垂れラミィは途絶した。

 四肢を接合されて身動きを封じれた状態での途絶。そして凄惨な様相。

 まるで拷問を受けた様に。

 

「意識は無い……ね」

 

 ロボ子はラミィの気絶を念入りに確認して四肢の接合を外す。

 意識の無いラミィはネジが抜けると共に受け身なくバタンと地面に倒れた。

 びちゃっ、と音が鳴り倒れたラミィの腹下から血溜まりが広がってゆく。

 

「でもまさか相性が良かったとは……」

 

 ラジコン化無効とスイッチの操作不能。

 ラミィの脅威的な能力を完全に無力化していた事が勝利の理由だ。

 ロボ子自身実際に対戦して初めて分かった事実。

 

 左手に塗りたくられたラミィの血を許容範囲までハンカチで拭いながら次なる敵を探して歩き出した。

 

 

 ――――――

 

 

 何故こんな時に、こんな夢を見るのだろう?

 

 ……夢?

 ……いや、これは記憶だ。

 ……でもやっぱり……どうして今?

 

 

 

「確かにラミィちゃんは合理的な手段で物事を詰めていく事に関して誰よりも抜きん出てると思う」

 

 あやめが真剣な表情でラミィと対話している。

 当時のラミィは暗躍する裏切り者であった為に、然程周囲の人の話を間に受けることはなかった。

 だがあやめの言葉やその他戦闘術に関する助言などは、今後の参考にと幾つか心に留めていた。

 これもそのうちのひとつ……。

 

「でもその大半は机上の空論でしかないんだよ」

「どういう意味?」

「一定の理論を持つ事で自信を付けることはできるけど、実際に戦ってみると理論なんて役に立たない事の方が多い」

 

「かなたんが居ない今、この先ラミィちゃんには1人で何かをこなしてもらう事も増えると思う。でもそうなった時その極端に理論的な在り方は間違いなく足枷になる」

「そんな事言われてもね〜……」

 

 あやめの発言は的を射過ぎており反応に困惑した。

 現実問題この先、ラミィは騎士団を裏切って1人で仕事を熟す時が必ず訪れる。

 優秀なあやめにこんな助言をされては、突っぱねる事も流す事もできない。

 

「だから余から些細な助言」

「おっ、それは期待できる」

 

 はぐらかす様にあやめにプレッシャーをかける。

 

「感情、想い。これらの持ち方は凄く大事」

「……はぁ……んっと?」

 

 上手く言葉の意図を咀嚼できずラミィは首を傾げて口をぽかんと開けた。

 

「理論的に絶対に敵わない相手でも立ち向かわなきゃ行けない時は来る。時には理論を捨てて感情や想いのままに動いてみるといいよ」

「想いのままに、って……」

「余は正直、騎士団の事よりも強くある事が信念だから――絶対に負けたくない。これを心に宿して戦ってる」

「あなた騎士団ですよね?」

「ラミィちゃんは――人を助けたいって言ってたね」

「…………うん」

 

 半分でっちあげた話を覚えていた事に驚愕して反応が数拍遅れる。

 

「ならその想いを強く持って立ち上がれば、きっと理論じゃ生み出せない結果を残す事ができるよ」

「……なるほど」

「うん――――じゃあ稽古に戻ろっか」

「そうだね」

 

 

 

 想いを強く持って立ち上がれば、きっと理論じゃ生み出せない結果を残す事ができる。

 

 

 

 想い……?

 ラミィの想いって、何だろう。

 

 ラミィはどうしてここにいるのだろう。

 ……ぺこらちゃんに手を貸してあげてと頼まれたからだ。

 

 …………。

 

 本当にそうなのだろうか。

 ぺこらちゃんに指示を受けなければ、ラミィは同行しなかったのだろうか。

 

 …………。

 

 いや、きっと来ていた。

 

 …………。

 

 「あの時」ラミィは――こよりに笑ってほしかった。

 喜んでほしかった。褒めてほしかった。何でもいいから優しくて温かい言葉が欲しかった。

 

 ――――。

 

 もし――もしもラミィがこよりを助けたと知ったら、ぺこらちゃんは驚いてくれるだろうか。

 

 もし――もしも!

 こよりを助けたのがラミィだったとして、それをこよりが知ったら――今度こそこよりは、笑って喜んでくれるだろうか。

 

 昔のように何気ない平和な毎日を、こよりと共に過ごせるだろうか。

 

 その夢が叶うのなら――ラミィは――――――‼︎

 

 

 

 ――――――

 

 

 

「――――――」

 

 ぴちゃ、ぴちゃ…………。

 

「正気?」

 

 ロボ子は歩み出した足を止めて背後に立つ影に重く語りかけた。

 

「その身体でスイッチ入れて強引に暴れたりしたら――キミ死ぬよ」

「…………」

 

 意識があるのかさえ定かではない佇まい。

 青ざめかけていた顔がスイッチが入った事で強引に赤く染められ、腹の傷口からも再出血している。

 武器の剣も一つ残らず砕かれており、対抗手段だってないはず。

 無理をするには余りにも勝算が無さすぎる。

 

「……まあいいや。キミがそうしたいなら」

 

 ロボ子は胴体もラミィに向け直した。

 左手をドライバーに変形させ、右手は力強く拳を握る。

 

「ポンプショットフィスト!」

 

 バンッと飛び出す右手。

 ラミィは身を屈めて前の減りに駆け出した。

 一歩踏み込む度に眩暈で倒れそうだ……。

 

 ロボ子の腕を身軽に回避してロボ子の背後に回る。

 

「っ、ぶっぐっ……!」

 

 出血、吐血。加えて嘔吐感。

 全て振り切って背後から足を回し装甲の無い関節部分――膝裏を蹴り込んだ。

 

「うっあ――⁉︎」

 

 がくんと膝が曲がり鉄を上乗せした体重を支えきれなくなり、ロボ子は腰を抜かしその場に仰向けですっ転ぶ。

 ラミィは力強く踏み込んで跳躍し鮮血を撒き散らしながらロボ子の顔面に全力で拳を落下させた。

 

「スノードロップ‼︎」

「ゃば!」

 

 ズガンッ。

 と拳は狙いを外し地面に埋没する。

 

「がっは! かっほ――‼︎」

 

 拳で開けた穴に大量に吐血した。

 腹の傷口からもだばだばと流血している。

 

「ぅ……ぅぁ……?…………あ!」

 

 痛みに呻吟する最中、右足首を何かに掴まれそちらへ視線を流せばロボ子の右手が捕まっていた。

 

「200ポンドロケット‼︎」

「ッガ――‼︎‼︎⁉︎⁉︎」

 

 判断して避けようと思考が切り替わる時には既に、ロボ子の頭がラミィの脇腹に直撃していた。

 防御態勢も無く激突されラミィの脇腹が砕け、全身が遠方まで吹き飛んだ。

 

 ばさっ。

 

 ――――――――。

 

 ラミィの全身を柔らかい人肌が包み込んだ。

 人肌の温もりを感じる。

 

「頑張ったわね」

「ぁぅ………………」

 

 ぼやけた視界をゆっ……くりと回して見上げると凛々しい美貌が映った。

 

「あなたみたいな人、私は大好きよ」

「ぁぁ…………」

 

「キミはお呼びじゃ無いんだけど」

 

 戦場への乱入者にロボ子が明らかな危機感を見せる。

 

(……そう……上手くは、行かないよね)

 

 ラミィは乱入者の登場に安堵したのか彼女に全てを委ねて意識を手放した。

 

 

 

 乱入者は気絶したラミィを慎重に安全そうな木陰へ寝かせた。

 髪を撫で、頬を撫で、傷口に布を被せて呼吸のし易い体勢を取らせると立ち上がってロボ子と対峙する。

 

「さて……と」

「…………」

 

 ポキポキと骨を鳴らして準備運動を済ませる乱入者の様子を凝視して、ロボ子は不服そうに顔を顰めた。

 

「今度は逃さないわよ」

「別にぼくは逃げたわけじゃないんだけど」

「あら、それはごめんなさいね。でもちょこから逃げるのは正しい判断だと思うわよ」

「あー、ぼくにそう言う挑発は意味ないよ。戦闘の勝ち負け云々には興味ないからさ」

 

 ロボ子は全身の装甲の接合を再確認し、両手でしっかりと拳を握る。

 乱入者――ちょこも全身を鉄以上の硬度に硬めて拳を作った。

 

 両者、見合い、構える。

 

鉄穿(てつうがち)‼︎」

「ツイン、ポンプショットフィスト‼︎」

 

 ガッシャン‼︎‼︎と激しくぶつかり合い火花を散らし――鋼の身体をぶつけ合うコウドな闘いが幕を開けた。

 

 

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