「なに? トイレですか? すみませんけど船長ここの人じゃないんで――」
「違います!」
少し照れくさそうに、もじもじとするフブキを見て勝手にトイレを連想したマリン。
しかし、少し強めに否定されて少し怯む。
2人会議室に残り、他は全員武器庫へ行った。
当然、2人とも城内マップを知らないので、後は追えない。
「その……私、ここに入るって話になってるんですけど、実は……」
「いや?」
「まあ……いやと言うか……」
「…………何も言いませんから、全部話していいですよ」
マリンは扉を一瞥し、近寄ると鍵をかける。
目と耳を気にして、最後尾のマリンに声をかけたのだろうから、最大限の配慮をしよう。
一々口出しをすると話しづらいだろう。
聞きに徹して、最後に疑問をまとめる。
それがいい。
相手がフブキだからと、いつもの調子にならないかだけは、少し気掛かり。
「えっと、私本当にこの1年ほどの間の記憶がないんです」
ルーナにも聞いている。
ホロメンは勝手に信じているので、嘘だとは微塵も思っていない。
マリンは躊躇なく首肯する。
「記憶の最後は、女性に声を掛けられたことだけで、1年も前なので、その声すら覚えてなくて」
「ほうほう……」
「さっきの地図見て分かったんですけど、故郷が近くにあるんです」
「ああ……なるほど」
「よく会ってた親友と1年以上会ってないと、流石に心配かけるし、私としても凄く心配なんです」
その心配は的を射ている。
1年間の自身の動向が不明で、故郷に行ったのかも不明。
普段から会っていた友人が突然消息を経てば誰だって心配する。
それが一年。
「探しています」の張り紙が一度国中に貼られ、既に撤去されてそうな程。
「だから、一度故郷へ帰りたいんです」
そろそろ読めた。
なぜマリンを引き留めたのか。
「お願いします、故郷まででいいので私を船に乗せてください!」
「うーん……」
大歓迎、と行きたい所だが、なんせ事態の規模がマリン個人で決定できる範疇を超えている。
ルーナに同意を得てからが妥当であり、その上で他の船員の判断も参考とする。
そして漸く船に乗せられる。
「そこはルーナたんの意見も聞かないとですけど……船長の船でいいんですか? 自分で言うのもなんですけど、悲惨ですよ」
「雑用でもなんでもいいです。頼りにはなりませんけど、少しは役に立つよう頑張ります」
「ちょっとフブちゃん……そんな言い方やめてよ」
頭を下げて、低姿勢で己を過小評価していくフブキに少し罪悪感が湧く。
記憶こそないけれど、先輩でいい仲間だ。
こんな関係性、過去に無いし、あってはならない。
「私の申し出じゃあ、聞いてくれそうになくて……」
「それは一理以上あるけども……」
マリンも一緒に頭を下げてくれないかという頼み。
「お願いします」
「……分かりました。頼んでみます」
「――!」
「ルーナたんがダメって言ったら、諦めてくださいよ」
「はい!」
承諾の言葉一つで、顔を上げ、ぱぁっと明るくなった。
その笑顔が普段見るものの数倍は可愛くて、ときめいた。
「あ、その代わり一つ」
「――?」
マリンは指を一つ立てて条件を出す。
大したことではないが、少し興味がある事が……。
「覚えてないかもしれないですけど、フブちゃんね、さっき船長の弱点を覗いてたんだワ」
「スコープですか?」
「そう。なんの因果か、そこからフブちゃんが服脱いじゃったんだけど……」
「っ――‼︎」
「あーごめんごめん。えー……ただ、ですね……スコープで見た船長への有効手段って、何だったんかなーって」
フブキが脱衣に至った経緯。
それを辿れば、原因はサーチスコープにあると見た。
自分の弱点を抑える意味も含めて、知っておきたい情報。
「だ、大丈夫かな……」
「脱ぎそうになったら止めるんで……多分」
「――⁉︎ 今多分って言いました⁉︎」
「いやいや、気のせい」
止めなかった前例があるので信憑性は低い。
しかも、止めなかった理由は、フブキの自らの脱衣に好奇心が湧き立ち、純粋に興奮したからである。
非常に最低である。
「……見ますよ?」
「見てくれるんですか? じゃあ、お願いします!」
マリンはビシッと背筋を立てた。
フブキにもマリンにも、奇妙な緊張感が出て、気持ちの悪い汗が滲む。
「サーチスコープ」
親指と人差し指で組まれたフレームからマリンを覗く。
瞳を介して、脳に直接伝達される情報。
見える有効手段は……。
「………………」
「フブちゃん?」
「ひぇっ! いや、えっと、はい!」
カァーっと顔一面赤く染まる。
もろに表に出る羞恥心。
浜辺でも、フブキには変態と罵られた。
やはり、アウトな内容なのか?
18禁がかかるのか?
「見えました?」
「はぃ…………」
「何が見えました?」
「ぇ…………ぁ」
「なんて?」
「ぜ……ぁ」
「もうちょい!」
「ぜ……全裸です!」
最後、声を張り上げた。
意外と大した事がない。
しかし全裸とは、どう言う意味だ?
マリンの全裸が見えたのか?
「服を脱いで、擦り寄っちゃえば……って」
「ぶふっ……しまっ、鼻血が……」
ダダダダ、とフブキが距離を取る。
「待って、なんで距離取るの……」
「身の危険を感じました」
「大丈夫だって! それに、見えたのがそれだけなら、フブちゃんが勝手に服脱いだことになるよ⁉︎」
「それは……記憶が無いので知りません!」
「そんな事言って〜、本当はあんな事こんな事したかったんじゃ無いの〜」
「やめて下さい!」
「痛い! うおっ、出血が! 出血多量で死んじゃうよ⁉︎」
フブキからの拒絶反応にマリンは表情を失う。
鼻血が垂れて、それを必死に手で押さえる。
こんな関係で同席して大丈夫だろうか。
「ですけど……確かに、それは大弱点ですね〜」
マリンは可愛い女に詰め寄られると退けない自信がある。
極々僅かだけ、萎える相手もいるが、基本的にはOK。
「その情報、マジで危険なので他言禁止」
「言いませんよ、こんな事……私が変態みたいじゃないですか」
見た事を後悔するように額に手を当てた。
でも、考えてみてくれ。
突然女が裸になって近寄ってきたら?
それが超絶美人だったら?
男はイチコロ当然として、弱い女もそこで落ちる。
「んじゃ、船長たちも武器庫へ行きましょうかね」
「何か、いるんですか?」
「あれ、ルーナたんに話つけるんでしょ?」
「え、もういきなり⁉︎」
「逆にいつ言うの。船長達はすぐに発つんですから」
マリンは付近にいる衛兵に武器庫を案内してもらった。
マリンとフブキより先に到着した面々。
「船長はどしたん?」
「さっきの部屋に残ってた。フブキさんと一緒に」
「何やってんだアイツら」
待たずして武器庫へ来たが、少々気になる。
だが、武器庫内を見回して、その気は失せた。
「ここにある物は貰っていいのら」
「え、どれでもいいんすか?」
「ひとり1、2個までなら」
ポルカとトワは「うひゃー」と声を上げながら物色を始めた。
一周目を通しただけでも、種類豊富な武器の数々が目に映った。
全てを見る時間はないだろう。
殆どが近接武器で、遠距離武器は弓や投げナイフのみ。
ポルカは剣や刀の収納庫へ、トワは短刀や投げナイフの収納庫へ近寄った。
「すげえいっぱいあるけど、良し悪しがわかんねえ」
「古すぎて使えなそうのもあんなぁ……」
ガシャガシャと剣を鳴らすポルカと、錆びた短刀を指でなぞるトワ。
それぞれに合う武器が欲しいが、質の良さは一切わからない。
そんな目は、ポルカは持ち合わせていない。
「刀ならトワも分かるんやけどな」
「そうなの?」
「……トワの国の軍に、刀に詳しいのがおるんよ」
「へぇ〜」
「ってか、トワさん軍人なら剣でも良し悪し分かるんじゃねぇの?」
「……あんま良くないってのは分かる。良いのは選べん」
交友関係があり、刀知識はあるようだが。
そんなトワの知識の偏りに、スバルは冷静なツッコミを入れた。
このままでは埒が明かないので、ちょことスバルがそれぞれの要望に合わせた武器を探した。
ポルカは何でもない剣を一つ。
トワは素早く振れる小刀と、投げナイフを一つずつ貰った。
「船長、武器いると思う?」
「さあ。必要だとは思うけど、どれも船長は使えなさそう」
船長のフォローの為の存在とも言える。
マリンの武器も2人が選ばなければ、また妙なものを抜粋しそうだ。
「船長の方はルーナが確認しておくのらよ」
ルーナがやまぬ危惧に神経を尖らせる2人を宥めた。
姫様の一声で冷静になる2人。
そのまま2人はルーナに連れられて、「例の物」を受け取りに行った。
しばらくして、マリンとフブキが武器庫へ到着。
まずはマリンとフブキの武器について。
約束通りマリンは貰うものとして、フブキも今後どう進むにしろある程度の実力が必要となる。
「フブちゃんどんな武器にすんの?」
「船長は何にしたの?」
「船長は銃が欲しいんですけど……」
「私も銃系かなって」
と、2人とも銃を志望のようだ。
マリンは純粋にピストルが似合うと思っているから。
フブキは近づかれると剣や打撃の腕で対処できない為、銃で遠距離から仕留めたい。
だが、武器庫内を見回しても、銃らしき武器は一つもない。
「悪いな、銃はねぇんだ」
「ぽいですけど……なんで?」
「仕入れが大変だし、あんま必要ねえから」
「ちょこがいればスナイパー相手には強気に出れるし、この国自体そんな広くないから、取り締まりも簡単なのよ」
国内で銃が出回らなければ、特に金をかけて仕入れずとも体裁を保てる。
現に、銃を拒む事で、銃に関する事件は1件たりとも起きたことはない。
「だから銃は諦めてくれ」
「一つだけあるのらよ」
「え⁉︎」
衛兵の2人が驚愕した。
他はラッキー程度に思ったが、衝撃だったようだ。
「姫、そんなの初耳……」
「2人が所属するより前に出てった人が使ってたのがあるのらよ」
「そんな人がいたのね……というか、置いてったの?」
「帰ってこなくなったのら。
と言って、これまた倉庫の奥の方から引き摺り出してくる。
それは、マリンやフブキが求めたピストルのような小型の銃ではなく、超大型のライフル。
「14.5×114mm弾薬を使用する対戦車ライフル。スコープは20倍」
折り畳まれた二脚を立て、使用時のフォームに変形させる。
スコープも装着して、多くない弾薬も手のひらに乗せて見せた。
「2000m圏内なら厚くない壁越しの敵や、小型戦車を負傷させるくらいの威力があるけど、放射時の反動もそこそこあるから、腹這いで伏射する型なのら」
少し埃を被っているが、本物の対戦車ライフルを前に皆唖然とする。
それをルーナが持ち出し、使い方を享受するのだから尚更。
「こんなの使えませんが⁉︎」
使用難易度高すぎ問題。
ピストルすらリアル射撃性能の高くないマリンには難易度が高い。
対戦車ライフルなど使えるか。
「……じゃあ、えっと、私貰います」
「「「マジで⁉︎」」」
ルーナを除く全てのものが目を剥いた。
フブキの射撃性能は確かに未知。
だが、正直上手く扱えるとは思えない代物だ。
「弾は残してった10発だけ。いざって時に使うのらよ」
弾丸も銃も仕入れない以上、残りの弾でやりくりするしかない。
貧乏生活のように。
だが、フブキがこの武器に見出した利点は少し異なる。
他の誰も想像しない使い道がある。
「じゃ、じゃあ船長はこの剣でも貰っときますね」
マリンは何となく居心地悪くなり、静かに剣を一本貰った。
それを鞘に納めて、腰に携えると案外重くて驚いた。
「あ、そうそう、ルーナたん」
「ん?」
「フブちゃん、船長の船に乗せてってもいいですか?」
「ダメなのら」
「え……即答。それまた、どうしてです?」
多少の悩む仕草は見せると思ったが、まさかの即答。
マリンの提案に怯みすらしない辺り、2人が居ない時点で察していた可能性がある。推察力や洞察力がやはり高い。
「洗脳の能力者はフブキさんをまだ狙ってる可能性がある。だからルーナといてくれた方が、洗脳の能力者が現れた時に楽なのら」
「でも……」
「それに、故郷の心配は分かるのらけど、船長たちの船に乗ることに利益はあまりないのらよ」
ルーナは一度フブキの故郷のことも聞いているようで、全てを見透かして断ってくる。
態々能力の不安定なマリンたちの船に乗るより、確実に相手を抑えられるこの国にいた方が安全だ。
「だから悪いけど……それは諦めて欲しいのら」
「……」
「船長、いいよ、ありがとう」
フブキは悲しさよりも残念さに力を込めて瞳を揺らがせていた。
最後は少し場の空気が重くなったが、こうして一連の事件は終了した。
そして一晩城で過ごし、翌朝……。
城の裏手の砂浜に移した船にマリンたちは集まった。
全員で調達した武器と食糧を運び、国を後にする。
誰1人、見送りには来ない。
「じゃあ、出航〜」
マリンの掛け声に合わせて船が進行を始める。
ジュースをコップに入れて4人で乾杯した。
「次の目的地は、イリス島ディアスケーダシティ!」
「「「おおー!」」」
ぐぐっとジュースを喉に通す。
そして、ぷはーっと一息つくと。
「……で?」
「なんで――」
「「コイツがおるんじゃー!」」
トワとポルカのツッコミが潮風に攫われた。
「え、えへへ……よろしく」
3人目の仲間、白上フブキ加入。
皆様どうも、作者でございます。
これにてキャンディータウン編もおしまい。
そしてフブちゃんの加入。
そう言えば前回ルーナたんの能力公開してましたね。
ルーナたんは存在する能力なら、アメアメかペロペロでしょうね。
いやー、これで仲間3人目となる訳ですが……そろそろ気付きました?
……では、また次回。