ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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13話 交渉

 

「なに? トイレですか? すみませんけど船長ここの人じゃないんで――」

「違います!」

 

 少し照れくさそうに、もじもじとするフブキを見て勝手にトイレを連想したマリン。

 しかし、少し強めに否定されて少し怯む。

 2人会議室に残り、他は全員武器庫へ行った。

 当然、2人とも城内マップを知らないので、後は追えない。

 

「その……私、ここに入るって話になってるんですけど、実は……」

「いや?」

「まあ……いやと言うか……」

「…………何も言いませんから、全部話していいですよ」

 

 マリンは扉を一瞥し、近寄ると鍵をかける。

 目と耳を気にして、最後尾のマリンに声をかけたのだろうから、最大限の配慮をしよう。

 一々口出しをすると話しづらいだろう。

 聞きに徹して、最後に疑問をまとめる。

 それがいい。

 

 相手がフブキだからと、いつもの調子にならないかだけは、少し気掛かり。

 

「えっと、私本当にこの1年ほどの間の記憶がないんです」

 

 ルーナにも聞いている。

 ホロメンは勝手に信じているので、嘘だとは微塵も思っていない。

 マリンは躊躇なく首肯する。

 

「記憶の最後は、女性に声を掛けられたことだけで、1年も前なので、その声すら覚えてなくて」

「ほうほう……」

「さっきの地図見て分かったんですけど、故郷が近くにあるんです」

「ああ……なるほど」

「よく会ってた親友と1年以上会ってないと、流石に心配かけるし、私としても凄く心配なんです」

 

 その心配は的を射ている。

 1年間の自身の動向が不明で、故郷に行ったのかも不明。

 普段から会っていた友人が突然消息を経てば誰だって心配する。

 それが一年。

 「探しています」の張り紙が一度国中に貼られ、既に撤去されてそうな程。

 

「だから、一度故郷へ帰りたいんです」

 

 そろそろ読めた。

 なぜマリンを引き留めたのか。

 

「お願いします、故郷まででいいので私を船に乗せてください!」

「うーん……」

 

 大歓迎、と行きたい所だが、なんせ事態の規模がマリン個人で決定できる範疇を超えている。

 ルーナに同意を得てからが妥当であり、その上で他の船員の判断も参考とする。

 そして漸く船に乗せられる。

 

「そこはルーナたんの意見も聞かないとですけど……船長の船でいいんですか? 自分で言うのもなんですけど、悲惨ですよ」

「雑用でもなんでもいいです。頼りにはなりませんけど、少しは役に立つよう頑張ります」

「ちょっとフブちゃん……そんな言い方やめてよ」

 

 頭を下げて、低姿勢で己を過小評価していくフブキに少し罪悪感が湧く。

 記憶こそないけれど、先輩でいい仲間だ。

 こんな関係性、過去に無いし、あってはならない。

 

「私の申し出じゃあ、聞いてくれそうになくて……」

「それは一理以上あるけども……」

 

 マリンも一緒に頭を下げてくれないかという頼み。

 

「お願いします」

「……分かりました。頼んでみます」

「――!」

「ルーナたんがダメって言ったら、諦めてくださいよ」

「はい!」

 

 承諾の言葉一つで、顔を上げ、ぱぁっと明るくなった。

 その笑顔が普段見るものの数倍は可愛くて、ときめいた。

 

「あ、その代わり一つ」

「――?」

 

 マリンは指を一つ立てて条件を出す。

 大したことではないが、少し興味がある事が……。

 

「覚えてないかもしれないですけど、フブちゃんね、さっき船長の弱点を覗いてたんだワ」

「スコープですか?」

「そう。なんの因果か、そこからフブちゃんが服脱いじゃったんだけど……」

「っ――‼︎」

「あーごめんごめん。えー……ただ、ですね……スコープで見た船長への有効手段って、何だったんかなーって」

 

 フブキが脱衣に至った経緯。

 それを辿れば、原因はサーチスコープにあると見た。

 自分の弱点を抑える意味も含めて、知っておきたい情報。

 

「だ、大丈夫かな……」

「脱ぎそうになったら止めるんで……多分」

「――⁉︎ 今多分って言いました⁉︎」

「いやいや、気のせい」

 

 止めなかった前例があるので信憑性は低い。

 しかも、止めなかった理由は、フブキの自らの脱衣に好奇心が湧き立ち、純粋に興奮したからである。

 非常に最低である。

 

「……見ますよ?」

「見てくれるんですか? じゃあ、お願いします!」

 

 マリンはビシッと背筋を立てた。

 フブキにもマリンにも、奇妙な緊張感が出て、気持ちの悪い汗が滲む。

 

「サーチスコープ」

 

 親指と人差し指で組まれたフレームからマリンを覗く。

 瞳を介して、脳に直接伝達される情報。

 見える有効手段は……。

 

「………………」

「フブちゃん?」

「ひぇっ! いや、えっと、はい!」

 

 カァーっと顔一面赤く染まる。

 もろに表に出る羞恥心。

 浜辺でも、フブキには変態と罵られた。

 やはり、アウトな内容なのか?

 18禁がかかるのか?

 

「見えました?」

「はぃ…………」

「何が見えました?」

「ぇ…………ぁ」

「なんて?」

「ぜ……ぁ」

「もうちょい!」

「ぜ……全裸です!」

 

 最後、声を張り上げた。

 意外と大した事がない。

 しかし全裸とは、どう言う意味だ?

 マリンの全裸が見えたのか?

 

「服を脱いで、擦り寄っちゃえば……って」

「ぶふっ……しまっ、鼻血が……」

 

 ダダダダ、とフブキが距離を取る。

 

「待って、なんで距離取るの……」

「身の危険を感じました」

「大丈夫だって! それに、見えたのがそれだけなら、フブちゃんが勝手に服脱いだことになるよ⁉︎」

「それは……記憶が無いので知りません!」

「そんな事言って〜、本当はあんな事こんな事したかったんじゃ無いの〜」

「やめて下さい!」

「痛い! うおっ、出血が! 出血多量で死んじゃうよ⁉︎」

 

 フブキからの拒絶反応にマリンは表情を失う。

 鼻血が垂れて、それを必死に手で押さえる。

 こんな関係で同席して大丈夫だろうか。

 

「ですけど……確かに、それは大弱点ですね〜」

 

 マリンは可愛い女に詰め寄られると退けない自信がある。

 極々僅かだけ、萎える相手もいるが、基本的にはOK。

 

「その情報、マジで危険なので他言禁止」

「言いませんよ、こんな事……私が変態みたいじゃないですか」

 

 見た事を後悔するように額に手を当てた。

 でも、考えてみてくれ。

 突然女が裸になって近寄ってきたら?

 それが超絶美人だったら?

 男はイチコロ当然として、弱い女もそこで落ちる。

 

「んじゃ、船長たちも武器庫へ行きましょうかね」

「何か、いるんですか?」

「あれ、ルーナたんに話つけるんでしょ?」

「え、もういきなり⁉︎」

「逆にいつ言うの。船長達はすぐに発つんですから」

 

 マリンは付近にいる衛兵に武器庫を案内してもらった。

 

 

 

 マリンとフブキより先に到着した面々。

 

「船長はどしたん?」

「さっきの部屋に残ってた。フブキさんと一緒に」

「何やってんだアイツら」

 

 待たずして武器庫へ来たが、少々気になる。

 だが、武器庫内を見回して、その気は失せた。

 

「ここにある物は貰っていいのら」

「え、どれでもいいんすか?」

「ひとり1、2個までなら」

 

 ポルカとトワは「うひゃー」と声を上げながら物色を始めた。

 一周目を通しただけでも、種類豊富な武器の数々が目に映った。

 全てを見る時間はないだろう。

 殆どが近接武器で、遠距離武器は弓や投げナイフのみ。

 

 ポルカは剣や刀の収納庫へ、トワは短刀や投げナイフの収納庫へ近寄った。

 

「すげえいっぱいあるけど、良し悪しがわかんねえ」

「古すぎて使えなそうのもあんなぁ……」

 

 ガシャガシャと剣を鳴らすポルカと、錆びた短刀を指でなぞるトワ。

 それぞれに合う武器が欲しいが、質の良さは一切わからない。

 そんな目は、ポルカは持ち合わせていない。

 

「刀ならトワも分かるんやけどな」

「そうなの?」

「……トワの国の軍に、刀に詳しいのがおるんよ」

「へぇ〜」

「ってか、トワさん軍人なら剣でも良し悪し分かるんじゃねぇの?」

「……あんま良くないってのは分かる。良いのは選べん」

 

 交友関係があり、刀知識はあるようだが。

 そんなトワの知識の偏りに、スバルは冷静なツッコミを入れた。

 このままでは埒が明かないので、ちょことスバルがそれぞれの要望に合わせた武器を探した。

 ポルカは何でもない剣を一つ。

 トワは素早く振れる小刀と、投げナイフを一つずつ貰った。

 

「船長、武器いると思う?」

「さあ。必要だとは思うけど、どれも船長は使えなさそう」

 

 船長のフォローの為の存在とも言える。

 マリンの武器も2人が選ばなければ、また妙なものを抜粋しそうだ。

 

「船長の方はルーナが確認しておくのらよ」

 

 ルーナがやまぬ危惧に神経を尖らせる2人を宥めた。

 姫様の一声で冷静になる2人。

 そのまま2人はルーナに連れられて、「例の物」を受け取りに行った。

 

 

 

 しばらくして、マリンとフブキが武器庫へ到着。

 まずはマリンとフブキの武器について。

 約束通りマリンは貰うものとして、フブキも今後どう進むにしろある程度の実力が必要となる。

 

「フブちゃんどんな武器にすんの?」

「船長は何にしたの?」

「船長は銃が欲しいんですけど……」

「私も銃系かなって」

 

 と、2人とも銃を志望のようだ。

 マリンは純粋にピストルが似合うと思っているから。

 フブキは近づかれると剣や打撃の腕で対処できない為、銃で遠距離から仕留めたい。

 だが、武器庫内を見回しても、銃らしき武器は一つもない。

 

「悪いな、銃はねぇんだ」

「ぽいですけど……なんで?」

「仕入れが大変だし、あんま必要ねえから」

「ちょこがいればスナイパー相手には強気に出れるし、この国自体そんな広くないから、取り締まりも簡単なのよ」

 

 国内で銃が出回らなければ、特に金をかけて仕入れずとも体裁を保てる。

 現に、銃を拒む事で、銃に関する事件は1件たりとも起きたことはない。

 

「だから銃は諦めてくれ」

「一つだけあるのらよ」

「え⁉︎」

 

 衛兵の2人が驚愕した。

 他はラッキー程度に思ったが、衝撃だったようだ。

 

「姫、そんなの初耳……」

「2人が所属するより前に出てった人が使ってたのがあるのらよ」

「そんな人がいたのね……というか、置いてったの?」

「帰ってこなくなったのら。()んではないと思うけど、もう戻ってこないと思うし、いいのらよ」

 

 と言って、これまた倉庫の奥の方から引き摺り出してくる。

 それは、マリンやフブキが求めたピストルのような小型の銃ではなく、超大型のライフル。

 

「14.5×114mm弾薬を使用する対戦車ライフル。スコープは20倍」

 

 折り畳まれた二脚を立て、使用時のフォームに変形させる。

 スコープも装着して、多くない弾薬も手のひらに乗せて見せた。

 

「2000m圏内なら厚くない壁越しの敵や、小型戦車を負傷させるくらいの威力があるけど、放射時の反動もそこそこあるから、腹這いで伏射する型なのら」

 

 少し埃を被っているが、本物の対戦車ライフルを前に皆唖然とする。

 それをルーナが持ち出し、使い方を享受するのだから尚更。

 

「こんなの使えませんが⁉︎」

 

 使用難易度高すぎ問題。

 ピストルすらリアル射撃性能の高くないマリンには難易度が高い。

 対戦車ライフルなど使えるか。

 

「……じゃあ、えっと、私貰います」

「「「マジで⁉︎」」」

 

 ルーナを除く全てのものが目を剥いた。

 フブキの射撃性能は確かに未知。

 だが、正直上手く扱えるとは思えない代物だ。

 

「弾は残してった10発だけ。いざって時に使うのらよ」

 

 弾丸も銃も仕入れない以上、残りの弾でやりくりするしかない。

 貧乏生活のように。

 だが、フブキがこの武器に見出した利点は少し異なる。

 他の誰も想像しない使い道がある。

 

「じゃ、じゃあ船長はこの剣でも貰っときますね」

 

 マリンは何となく居心地悪くなり、静かに剣を一本貰った。

 それを鞘に納めて、腰に携えると案外重くて驚いた。

 

「あ、そうそう、ルーナたん」

「ん?」

「フブちゃん、船長の船に乗せてってもいいですか?」

「ダメなのら」

「え……即答。それまた、どうしてです?」

 

 多少の悩む仕草は見せると思ったが、まさかの即答。

 マリンの提案に怯みすらしない辺り、2人が居ない時点で察していた可能性がある。推察力や洞察力がやはり高い。

 

「洗脳の能力者はフブキさんをまだ狙ってる可能性がある。だからルーナといてくれた方が、洗脳の能力者が現れた時に楽なのら」

「でも……」

「それに、故郷の心配は分かるのらけど、船長たちの船に乗ることに利益はあまりないのらよ」

 

 ルーナは一度フブキの故郷のことも聞いているようで、全てを見透かして断ってくる。

 態々能力の不安定なマリンたちの船に乗るより、確実に相手を抑えられるこの国にいた方が安全だ。

 

「だから悪いけど……それは諦めて欲しいのら」

「……」

「船長、いいよ、ありがとう」

 

 フブキは悲しさよりも残念さに力を込めて瞳を揺らがせていた。

 最後は少し場の空気が重くなったが、こうして一連の事件は終了した。

 

 

 

 そして一晩城で過ごし、翌朝……。

 城の裏手の砂浜に移した船にマリンたちは集まった。

 全員で調達した武器と食糧を運び、国を後にする。

 誰1人、見送りには来ない。

 

「じゃあ、出航〜」

 

 マリンの掛け声に合わせて船が進行を始める。

 ジュースをコップに入れて4人で乾杯した。

 

「次の目的地は、イリス島ディアスケーダシティ!」

「「「おおー!」」」

 

 ぐぐっとジュースを喉に通す。

 そして、ぷはーっと一息つくと。

 

「……で?」

「なんで――」

「「コイツがおるんじゃー!」」

 

 トワとポルカのツッコミが潮風に攫われた。

 

「え、えへへ……よろしく」

 

 3人目の仲間、白上フブキ加入。

 





 皆様どうも、作者でございます。
 これにてキャンディータウン編もおしまい。
 そしてフブちゃんの加入。

 そう言えば前回ルーナたんの能力公開してましたね。
 ルーナたんは存在する能力なら、アメアメかペロペロでしょうね。

 いやー、これで仲間3人目となる訳ですが……そろそろ気付きました?

 ……では、また次回。
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