ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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139話 硬さを以てして

 

 一帯に鳴り響く鋼鉄の音。

 それは交わる2人の拳から生じている。

 

 カンッ――!

 

「っ〜〜〜‼︎」

 

 ロボ子はちょこの拳を両掌で真正面から受け止める。

 しかしちょこの拳は鉄をも超える硬度。

 一撃の重さが尋常ではない。

 全身の鉄の装甲に振動が走る。

 やがて振動は耳鳴りに変わる。

 

「――⁉︎」

「ッ――サブウェポン!」

 

 ちょこの突き出したままの無防備な腕を片手で掴んで引き寄せ、もう一方の腕はドライバーに変形させる。ドライバーを勢いよく回転させてちょこの硬度の突破を企てた。

 

「ふんッ!」

 

 カッ――。

 

 腹部に命中する寸前で膝蹴りに阻まれ不発に終わる。

 加えてちょこは曲げた膝を自身に引き寄せてガチガチに固めた靴の裏をロボ子の腹に向けた。

 予備動作に反応するもロボ子の対処は間に合わない。

 

本気(ガチ)キック」

「ゔっぐ――!」

 

 鉄の装甲を粉砕してちょこの足が鳩尾を抉る。

 ロボ子の身体がくの字に曲がって、吹き飛ぶ――事をちょこが許さない。

 掴まれていた腕でロボ子を掴み返し、後方へ飛ぶ事を未然に防ぐ。

 そして立て続けに左拳を鳩尾に捩じ込む。

 

「ぅ゛ッ――!」

「ん⁉︎」

 

 その拳の勢いでロボ子の身体は吹っ飛んだ。

 腕はまだちょこが掴んでいる。

 腕を切り離して連撃から逃れたようだ。

 

「トカゲみたいな事するのね」

 

 ロボ子の腕をぷらぷらと振りながら呟く。

 ロボ子は力強く踏ん張って鳩尾に手を添えた。

 パラパラと砕けた鉄が崩れ落ち肌着が剥き出しなる。

 

 顔を上げてちょこが見せびらかす自身の腕を睨んだ。

 

「メインウェポン!」

 

 大きく息を吸い口から大量のネジを吐く。

 ちょこの背後は空気であり、この状態で何かと接合することは出来ないし、普通のネジ程度では当然傷一つつかない。

 それでもちょこは防衛本能で両腕を使い顔を覆う。

 ちょこの視界が閉ざされるその一瞬――!

 

「200ポンドロケット‼︎」

「んッ――‼︎」

 

 ロボ子が猛スピードで飛来してくる。が、まだ甘い。

 予想内の動きならば対処は可能。

 左拳を握り迫るロボ子に向けて――放つ――

 

鉄穿(てつうがち)!」

 

 鋼鉄をも粉砕するちょこの拳がロボ子と衝突――しない。

 

「な――⁉︎」

 

 ちょこの動きを目視で確認して腕との接合を土壇場でキャンセル。

 浮いていた身体を地に落としてちょこの拳をスレスレで回避すると、右腕をドライバーに変形して高速回転させながら至近距離で射出――!

 

「突きとスッポン」

「ン゛ッ――ぐッ‼︎」

 

 腹にドライバーが先端を突き立てて回転する。

 

 どんな能力にも穴はある。

 いくら鉄でも穴は空く。

 思考を凝らせば、手法を変えれば、攻撃は通る。

 

 ドリルとなったドライバーならば、ちょこの鉄をも超える硬度さえ凌駕し貫ける。

 

「ッ――ゥ――く――!」

 

 腹筋に力と能力を込めてドライバーの侵入に抗う。

 一瞬でも気を逸らせば容易く貫かれそうだが、意識を割かなければ身体を動かせない。

 

 キリキリと金切り音を立てて火花を散らし高熱を帯び始めた。

 腹にも熱が伝導する。

 

「ッーーーー‼︎‼︎」

 

 捕まえていたロボ子の左腕がちょこの手中から逃げ出して再接合された。

 そして至近距離からもう一度、

 

「ポンプショットフィスト‼︎」

 

 今度は鉄拳を放つ。

 

 ちょこの能力はあらゆる物質を硬質化できる。

 しかし前述通り穴がある。

 ロボ子の装甲が関節部分を覆えない様に、ちょこにも硬質化できない――否、正確には無意識的に硬質化の対象から外している場所がある。

 その最たる部位が目と口。

 

「んぐっ‼︎⁉︎」

 

 目や口の動きからそれを紐解いたロボ子は、顔面を狙い多大な一撃を与えることに成功した。

 顔面に衝撃を浴びれば必然的に全身の力みが緩む。

 そうすれば連鎖的に腹を削っていたドライバーが突き刺さる。

 

「ゥッ――グッ――‼︎‼︎」

 

 ドライバーの根元までグッサリと差し込まれその後もドライバーは回転し内部を軽く抉る。

 顔面への衝撃。直後の腹部を貫き全身に迸る激痛。

 捲し立てる不慣れな苦痛にちょこは強く奥歯を噛み締めた。

 

 すぽっ、と腹のドライバーが抜けてぷしゃっ、と鮮血が噴き出る。

 血に塗れたドライバーはその姿を手に戻しながらロボ子の右腕に再接合。左手も同時に帰還した。

 

「――ぐ……」

 

 傷口を抱えてちょこは背中を丸める。

 

「ツイン・ポンプショットフィスト」

 

 ロボ子は息つく暇を与えず矢継ぎ早に攻め立てる。

 またしても両腕を切り離してロケットパンチを放つと、ちょこの右肩と左の太腿を掌底撃ち。

 硬質化で守られダメージは無し。

 だが腕の勢いは止まず、ちょこを後方へ押し込んで行く。

 

「ぐっ、うぅーーーー!」

 

 数メートル滑走しながら抵抗し、ロボ子の両手を捕まえた。

 

「200ポンドロケット‼︎」

「ッ――ッふ――⁉︎」

 

 飛んできたロボ子の胴体が腹部に激突し傷口に響いた。

 喉奥にじわっと血液の味が広がる……。

 

 ガンっ、と衝撃に押し込まれちょこは1本の木に背を打ち付けられた。

 痛みの余韻に衝撃が重なり、苦痛と痙攣が広がる。

 

「メインウェポン」

 

 ぷぷぷぷぷっ、と大量のネジが吐き出され、ちょこの四肢を背後の木と接合して身動きを封じた。

 

「ぐぅー! くっ! んーッ‼︎」

 

 右手、左手、右足、左足。全てが木にぺたりと張り付いている。

 バタバタと暴れようとしたが頭と胴しか動かなかった。

 

「ふんっ‼︎」

「ゔぇっ‼︎‼︎」

 

 ロボ子が急所となった腹の傷口を渾身の力で殴り込むと、ちょこは唾液と共に微量の血を吐いた。

 ロボ子の顔にそれが付着する。

 

「柔らかくなってるね。能力の限界……? いや、目と口のルールに鑑みればそもそも傷口は硬めれないと見るべきか……」

 

 ガンっ。

 

「ゔぅッッ‼︎」

 

 抜け出さないとマズい!

 何か策を講じろ‼︎

 いやそんな暇はない‼︎

 

 ガンっ。

 

「ッグ‼︎」

 

 サンドバックの様にテンポよく拳をぶつけて来る。

 これ以上は本当に意識が保たない。

 

 また来る――次の衝撃が――!

 

 ミシ……ミシミシ……

 

「がぁああああああああ‼︎」

「――⁉︎」

 

 カンッとちょこの右腕が木の幹を引き千切って拘束を逃れ、ロボ子の拳を払い落とした。

 ぶらんぶらんと揺れる右手の甲には、木の幹が接合されたままだ。

 普通なら腕が破れる強引な脱出。ちょこの硬質化あってこその荒技だ。

 

 ロボ子が両腕を構え、至近距離でロケットパンチを放つ。

 狙いは顔と腹。

 

「フン゛ッ‼︎」

 

 腹への攻撃は右手で迎え撃ち、顔面への攻撃は額で対抗する。

 疲労による硬度の低下に加え体勢の悪さから来る威力不足。

 腹への攻撃は上手く逸れて傷口ではなく脇腹へ命中したが、額では硬度負けして微量の流血を許してしまった。

 

 鼻先や頬に生暖かい液体が伝う。

 

 痛みや出血、衝撃の震盪で意識が揺らぐ上に思考を纏めている時間が無い。

 

「ぐぁああああああ‼︎」

 

 バキッと左脚の拘束も破った。

 力んだ為か腹から一定量の鮮血が纏めて噴出した。

 

 ガンッ!

 

「ぶっ――ぅぐッ――⁉︎⁉︎」

 

 両腕が装填される前にロボ子の強襲を受けた。

 ちょこの意識が一瞬夢の彼方に飛ぶ。

 

「ぐっ、ゲッホ……」

 

 瞼裏に飛んだ目玉が朦朧とする意識の中でロボ子の足を捉えた。

 腹に突き刺さる様にロボ子の足が鳩尾に減り込んでいる。

 

 誰だって足蹴にする事くらい訳はない。

 

 足を使って装填の余白時間を補い、間髪容れず再びロケットパンチを撃つ。

 

「……っ――?」

 

 拘束からの脱却に躍起になり身を捩ったちょこは右手に何かを掴んでいることに気付いた。

 ちょっとだけ先端が尖った木の枝だ。

 

 いつの間に掴んだのだろう?

 

 でも――ラッキーは逃せない!

 

「――ふっ‼︎」

 

 呻吟を堪えて枝を硬め、先端を装甲の剥がれた腹部目掛けて突き付けた。

 

「あぶっ――!」

 

 が――間一髪で回避されてしまう。

 

「くっ――‼︎」

 

 空振りに歯軋りした時、枝がするりとちょこの手中から抜け出した。

 ただ手から落とした……なんてドジな話ではない。

 

「ぇ――」

「――え⁉︎」

 

 硬質化を借りたまま先端を向け一直線に――!

 ズッ――。

 

「が……ぅ……」

 

 ロボ子の腹に突き刺さる一本の枝。

 

「うっ――ぐぅーーーっ‼︎」

 

 呻きながら全身に鞭打って枝を引き抜いた。

 先端が血塗れた状態で枝が地面に転がる。

 ロボ子は苦痛の中でも理性的に――真っ先に枝の先端を踏み折ってから膝をついた。

 

「はぁっ……はぁっ……ぅ、っが……」

 

 傷口を抱えて片膝で上半身を支えつつ、視界にちょこを捕らえるが、意識は完全に別人に向いていた。

 

(なんで……あれで、まだ意識があるの……!)

 

 ピキッ――パキッ――ミシッ――。

 

「あぁー、やっと抜けれた」

「――はぁっ、はぁっ……っ……」

 

 ちょこが肩や首を回しながら数度地面を踏んだ。

 背後の木の幹は4ヶ所が禿げており、その禿げた部分の幹はちょこの手の甲と足首に接合されている。

 

「ほんと。ラミィ様、様々ね」

「っ……んっ……ぐ」

 

 強がっているがちょこの足は微かに震えおり、瞼も時折ぴくぴくと痙攣している。

 両者、ここが正念場。

 ロボ子も奮起して膝に拳を打ち付け、背を伸ばした。

 

 

『ちゃんと隣に居ろ――。』

(――ええ。勿論‼︎)

 

 

 幻想の中でちょこは肩を並べた。

 隣にあの人を感じる。

 あの人の勇気を感じる。

 

 

 拳に硬度を集中させた。

 

本気(ガチ)ラッシュ‼︎」

 

 拳を構えて突撃‼︎

 2つの拳で最後の攻防に身を投じる。

 

「アサルトウェポン‼︎」

 

 ロボ子も拳で迎え撃つ。

 連射式の銃の様な殴打で分離・接合を交えつつ応戦。

 

 硬度な拳の応酬合戦。

 激しい鋼鉄の衝突音。

 掠れた拳が火花を起こす。

 足元に疎に飛散する血が混じり合う。

 

 ピシッ――ピシッ――ピシッ、ピシッ――!

 

「っああああああ‼︎」

「うぉあああああ!」

 

 ピシッ――ピキッ――ピキッピキッ――!

 パキンッ。

 

「――ッ⁉︎」

 

 ロボ子の鋼鉄グローブが砕け、血溜まりに眩く破片が舞い散り、一部の破片は頬にかすり傷をつける。

 

 グギッ――。「がぁあああっ‼︎」

 

 装甲が割れたままちょこの拳に激突し、右腕の骨が鈍い音を響かせた。

 ちょこのラッシュが全身に襲い掛かる。

 

「らぁぁああああああああああああああああああああ‼︎」

 

 鉄の装甲の亀裂が広がる。大量の破片が舞う。光沢が減り布面積が増える。

 ちょこの拳に柔らかい感触が何度も触れた。

 

「――‼︎」

 

 渾身の踏み込みで息のかかる距離まで迫り、振りかぶった拳を鳩尾に抉り込む‼︎

 

鉄穿(てつうがち)‼︎」

「んッぶ――ぐ――――‼︎」

 

 ロボ子の身体がふわりと浮き上がり――、…………どっ、と天を仰いで倒れた。

 

「ゔっ…………ごっ、ぶ……」

 

 喉奥まで押し寄せた嘔吐物を嚥下し、ロボ子は木々の隙間にぼんやりと見える青い空を仰ぐ。

 

 

 勝負の決着でちょこも一気に脱力してがくっとその場に尻餅をついた。

 

「ゔっ…………鉄でも゛、砕いちゃゔ……なんて……」

 

 折れていない左手を腹の傷口に乗せてロボ子がポツリと呟いた。

 

「……ちょこを相手にするなら……ダイヤモンドでも纏わなきゃダメよ――と、言いたいところだけれど……」

 

 腹に空いた穴を片手で覆ってため息を吐く。

 呼吸に連動して腹部に刺激が走った。

 

「ちょこもまだまだね」

「へ、へ……勝った、くせにさ……」

「…………」

「っ――、…………」

 

 ロボ子の全身から力が抜けると同時に、ちょこの四肢に張り付いていた鬱陶しい木の幹の破片がカラカラと地に落ちた。

 

「ん゛っ……ぅ……」

 

 ちょこは腹を抱えて立ち上がり仰向けに倒れたロボ子に歩み寄る。

 ビリッ、とボロボロの服の一部を破ってロボ子の傷口を布で優しく覆い、その上に彼女の左手を乗せ直した。

 

 次に周囲を見回してラミィの姿を探す。

 

「――」

 

 寝かせた位置から動いてはいない様だ。

 血を垂らしながら小走りに駆け寄った。

 

「助かったわ。本当にありがとうね」

 

 頬に手を添え、面と向かって告げたが意識はない様子。

 傷こそ深いが肌に温もりは残っている。

 ちょこはボロボロの服を脱いでラミィの腹に巻きつけた。

 戦闘後とは言え流石に少し肌寒い。

 

「よしっ」

 

 腰にグッと力を入れて立ち上がり、ちょこは耳を澄ませた。

 地鳴りやその他環境に紛れる戦場の音に聞き耳を立てるが……。

 

「……」

 

 微妙に大地が揺れていることしか分からない。

 万全のちょこでさえラプラスの相手は務まらない為、ラプラスの戦場に無闇に立ち入る事はしない。

 別の誰か――あわよくばスバルを探したいところだ。

 

「っ…………」

 

 一歩踏み出して、停止。

 傷口を押さえて呼吸と脈の荒さを再確認した。

 

「……大丈夫。まだ行けるわ」

 

 瞳を閉じて自らに強く言い聞かせる事で過剰な自制心を抑圧する。

 そして仲間の救出を望む自身に発破をかけて、再度心に幾つかの言葉を灯した。

 

「――よし」

 

 ちょこの次なる一歩は力強かった。

 

 土をしっかりと踏み締めて、不規則な足跡を残しながら更なる救出戦へと突き進んでいった。

 

 





 皆様、お久しぶりです。作者でございます。
 予告無しでの1ヶ月以上の休載、大変失礼いたしました。
 最近の執筆に納得がいっておらず、2作品の調整や気分転換にpixivの方の別作を進めたりなどしておりました。
 ですが無事?この通り復活しましたので、これからまた今まで通り進めていきます。
 今年中には完結させたいなと思っておりますので、残り約半年お付き合いいただければ幸いです。

 もう一方の作品も同時進行にはなりますが、どちらの執筆も手を抜くつもりなど毛頭ありませんのでご安心ください。
 もし手を抜いてるなと思われた場合、それはただ作者の描き方が下手なだけですのでどうかご理解の程よろしくお願いします。


 評価や感想もありがとうございます。
 思った事や疑問など気軽に感想を伝えていただければ、作品の質向上に繋がる……と思います。

 少々長くなりましたが、これからもよろしくお願いします。

 次回もお楽しみに!
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