ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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140話 狩人

 

 マヨネーズの大雨で白く汚れた一帯。

 その中心地でマヨネーズに塗れて戦うシオンがいた。

 

「くっそ……」

 

 こよりは攻撃時の一瞬しか姿を見せず、それ以外の間はどこかへと姿を眩ます。

 しかし機を見て逃げ出しても足をマヨネーズに取られて妨害されてしまう。

 シオンの攻撃もこよりの攻撃も両者に致命傷を与えるに至らず、戦況は停滞したまま時間だけが過ぎていた。

 

 遠方で聞こえていた災害による騒音も遂に聞こえなくなっている。

 さっさと片付けてラプラスの相手に回りたいと言うのに。

 

大災害波(カラミティパールス)

 

 大地を能力で粉砕して土地を割ると、もう一度退散を試みた。

 しかし――

 

「っ――⁉︎」

 

 マヨネーズに足を取られて転倒してしまう。

 結局これの繰り返しだ。

 

「発想力はあるみたいだけど、戦闘能力に関して言えば中の下ってところだね」

「っ――ぐぅっ!」

「まっ――まだまだお子ちゃま、ってこーと!」

 

 態々煽る為に姿を現し、溺れるシオンを嘲る瞳で見下す。

 

 全身にマヨネーズが纏わり付いて視界も呼吸器も覆われる。

 鼻腔にも口腔にもマヨネーズ臭が充満して吐き気に見舞われる。

 

 踠いても踠いても、マヨネーズを払うことはかなわない。

 

「――ッッ‼︎」

「おっ――と」

 

 シオンが両腕を構える姿を目視したこよりは流動化ではなく右手へと飛び退いて回避した。

 マヨネーズに風穴を開けてこよりの残像を突き抜け、その奥の木に不思議な紋様が刻まれる。

 

「徐々に体力を奪う刻印だね?」

「――‼︎‼︎」

 

 マヨネーズの波の中でシオンは表情を変えた。

 こよりに対しては初見となる技――()の刻印を外してしまえば、これ以上打開の余地はない。

 弓矢を引ける状況ではないし、どちらにせよ知られた技を簡単に当てられる相手ではない。

 

 喉奥に――鼻奥に――マヨネーズが詰まって呻き声すら溢せない。

 苦痛に涙が溢れて……それすらもマヨネーズに呑まれた。

 意識が――明滅し……遠退く…………。

 

 ――――

 

「――ん゛っ‼︎⁉︎」

 

 だっ、ずざー……。

 

「誰⁉︎」

 

 突如現れた足に弾かれ、こよりは受け身を取りながら勢いの方向に滑走すると臨戦態勢を取りつつ敵の姿を捉えた。

 

「シオンちゃん。大丈夫か?」

 

 こよりの敵意を完璧にスルーして、現れた救世主はマヨネーズに溺れるシオンへ手を貸した。

 

「っげほッ――ぶっ! ぶぇっ! ッ――‼︎ ゲッホ‼︎ ェッほ‼︎」

 

 大量に吐血……ではなく吐マヨネーズして、新鮮な空気を吸った。

 まだまだマヨネーズの臭いが残っていた。

 

「あんたは……常闇トワ。ビビビビの実の能力者だね?」

「ああそうだ。どうやらデータは揃ってるらしいな」

 

 不意打ちに面食らったこよりだが、相手がトワだと知るなり態度を大きくして余裕を垣間見せる。

 

 こよりが油断している隙にトワはシオンへテレパシーを送った。

 

『今いろはがラプラスの妨害を受けてて参ってる。助けてやってくれ』

「ぇ……なに……?」

 

 初めて体験するテレパシーにシオンは困惑し、動揺を見せた。

 当然テレパシーを行った事実はこよりにも看破される。

 

『こいつはトワが相手するから、シオンちゃんはとにかくラプラスを頼む』

 

 トワは今一度両者の目的を明確化した。

 シオンは相変わらずテレパシーに困惑していたが、会話の内容は飲み込めたようでトワを見上げて頷いてくれる。

 

「救世主気取りで選手交代? 悪いけど2人とも逃さないよ」

「それはこっちのセリフだ。テメェはゼッテェ逃さねェ」

「何言ってんの? 今のは偶々こよが気付けなかっただけで、あんたの攻撃なんか――」

「マリンに技を伝授してもらってから――オマエの相手はトワしかいねェと思ってたとこなんだ」

 

 こよりもトワもお互い自信満々に対峙して不敵な笑みを浮かべている。

 シオンは一歩引いた位置で様子を伺い、隙を見て逃げようとしていた。

 

「こよの本気だって知らないくせにさ。何をするのか知らないけど、あんたの能力じゃこよには勝てないよ」

「ああ言ってろ。そうやって笑ってられんのも、今のうちだ」

 

 トワが悪魔のような微笑を浮かべて片足を軽く上げた。

 攻撃の態勢に入ったと早合点して、こよりは一応回避や流動化の準備をしつつトワの出方を伺う。

 

「……?」

 

 トワが突然、その場で回転を始めた。

 こよりもシオンも呆然とトワの一芸を眺める。

 モーターのエンジンを入れて更に回転を加速。

 

 回る回る。

 くるくる回る。

 回転は止まらない。

 

 いつまでも他のアクションを起こさないトワに痺れを切らし、こよりは鼻を鳴らしてマヨネーズを分泌した。

 

「何がしたいのか知らないけど、遊んでる暇はないから」

 

 マヨネーズを大放出しようとしたその時、ぴたりとトワの回転が止まった。

 

「――――」

「――ん……?」

 

 奇怪な光にこよりは目を見張る。

 

「悪魔の脚――悪魔風脚(ディアブルジャンブ)

「な――⁉︎」

「高熱を帯びた脚は攻撃の速度で更に――!」

「ぃっ――火っ――‼︎」

 

 真っ赤な光を纏った右脚が一度の瞬きの内に鳩尾へ飛――

 

「あ゛ッ――ッ゛ッ゛ッ゛――――‼︎‼︎‼︎」

 

 腹部から突き抜ける衝撃と熱。内臓が、人体が破壊される感覚。

 呻吟の勢いが強く、声になり損ねた掠れた吐息だけが溢れる。

 

「その破壊力は “ 悪魔 ” の如し」

 

 宙に浮いたこよりの全身が軌道上に煙を残しながら真っ直ぐと、吹き飛んでいく。

 一本の大木に直撃して漸く勢いは収まったが、衝撃でその大木はミシミシと音を立ててへし折れた。

 

 ドォォ…………ん……。

 

 と倒木し土煙が立ち込める。

 トワの一撃に開いた口が塞がらなかったシオンは、土煙を吸い込んで咳き込んでいた。

 その反動で我に帰ると、今が好機と見てシオンはラプラスの消えた方角へ駆けて行った。

 

 

 ………………。

 

 

「ア゛ッ、アァ――‼︎」

 

 

 土煙の中で呻き声が響く。

 

「アッ――アゥっ、ぐぁああッ‼︎ あああッ――‼︎」

 

 無様な姿こそ見えないが相当な深傷のようだ。

 その音だけでジタバタとのたうちまわる滑稽な有様が容易に想像できる。

 

(あづい‼︎‼︎ 内部まで焼ける――‼︎ 流動化が効かないッ――‼︎‼︎)

 

 こよりの復帰を待たずして土煙が晴れて行く。

 

 タッタッタッタッ!

 

「はッ‼︎」

「っぅ――!」

 

 視界が完全に晴れる前にトワは追撃を仕掛けた。

 テレパシーで的確にこよりを捕捉。

 燃える悪魔の右脚で飛び蹴りを放ったが、こよりは脚の光に反応して反射的に飛び退き回避に成功する。

 後ろ髪を炎が掠めたが引火には至らなかった。

 

「ハァっ、ハァっ、ハァっ……っぐ……!」

「効いてるようだなぁ⁉︎ さっきまでの余裕はどうした⁉︎」

 

 猛撃がこよりを襲う!

 土煙は晴れて視界は良好だが、回避を重ねる度に攻撃の掠る面積が増えて行く。

 遂には回避不能と判断せざるを得なくなり、両手でトワの蹴りを受け止める選択を迫られた。

 

「だら゛ァ‼︎」

「ッぎィ――――‼︎‼︎」

 

 ジュゥ……と皮膚が焼ける音がした。

 

「ん゛ぅっ‼︎」

 

 威力を押さえきれず後方へ弾かれ数メートルを滑走。

 火傷と衝撃の2段式のダメージに両腕が悲鳴を上げて痙攣している。

 

「アァ――がっ――手がッ……!」

「――はッ‼︎」

「――‼︎ ぷェッ‼︎」

「――んがっ⁉︎」

 

 更なる追撃にと正面から距離を詰めるトワ。

 直線的な動きを前にこよりは咄嗟に口からマヨネーズを吹き出した。

 勢いを殺しきれずダマになったマヨネーズを顔面に浴びたトワは、視界が真っ白に染まり一時行動不能に陥る。

 

 トワはその場で頭を振るってマヨネーズを払い、こよりは一目散にトワから距離を置く。

 

「チッ……クッソ……汚ねぇなぁ」

 

 顔面に纏わり付くマヨネーズを振り払い、尚も付着している僅かな残りは素手で拭って払い落とした。

 マヨネーズが顔面に付くだけでも汚いが、それが口から吐かれたとなれば卒倒ものだ。

 

「相当嫌いみたいだなぁ? この脚が!」

 

 数十メートルも開いた間隔を前にトワが不敵な笑みでこよりを煽った。

 するとこよりは意外にも目に見えて熱り立ち激しく地団駄を踏む。

 

「ふん! ちょっと攻撃が当たったくらいで調子に乗るんじゃないよ‼︎」

「ふっ。まあそうカリカリすんなよ――『ちょっと』攻撃が当たったくらいでさ」

「――ッッ‼︎‼︎」

 

 腹と腕の火傷に合わせるように顔を真っ赤にして憤慨する。

 

「もう許さない‼︎ マヨネーズ漬にしてやる‼︎」

「あ?」

 

 こよりは負傷した両腕を勢いよく地面に付けて憤慨に顔を歪める。

 不審な動きにトワも眉を寄せた。

 

「今宵! マヨネーズ晩・餐・会‼︎」

「ん⁉︎ まさか――‼︎」

 

 大地が脈打ちトワの足元がぐわんぐわんと揺らぎ始める。

 こよりの両手が触れた位置からじわじわと大地に波が立ち、どろどろと白い物質へと変化してゆく……。

 

白海湖洋(はっかいこよう)

「覚醒を――‼︎」

 

 地面が瞬く間に真っ白い海へと変貌を遂げ、それはトワの足元までも侵食していた。

 まるで底なし沼のように地に根を張っていた木々が、マヨネーズの底へと沈んでゆく。

 トワの左足もズブズブとマヨネーズに埋まりゆくが、体重を右足にかける事で体勢を維持し、右脚の熱を左脚にも移した。

 全身が高熱で真っ赤に染まる。

 

「はっ。確かにスゲェ規模だが、弱点は変化しねぇぞ‼︎」

 

 マヨネーズの泉すらもトワの足は一時的に流動化を無視する。

 トワは何不自由なくマヨネーズの上を駆け抜ける事ができる。

 

「レラジェシュート‼︎」

 

 前方向に大きく跳躍し、こよりに渾身の飛び蹴りを放った。

 初撃の回避は見越して次の行動までをセオリーとしている。

 距離が詰まり、対空中にトワの脳内にこよりの思考が飛び込んできた。

 それをベースに次なる行動を――

 

「すぅ〜〜、っ――!」「は⁉︎」

 

 肺に空気を溜め、こよりはチャポン、とマヨネーズの中に潜り込んだ。

 予測通り虚空を蹴り抜いたトワだったが、次なる行動へと漕ぎ出せない上にこよりとのテレパスも途切れてしまう。

 マヨネーズの上に着地し素早く周囲を見渡すが、こよりの姿はなく、マヨネーズの波紋から位置を割り出すこともできない。

 

 マヨネーズに潜る、なんて戦い方を誰が想像できようか。

 

(いや……でも! あれで相当深傷なはずだ)

 

 腹部への一撃は多大なダメージとなって今もその火傷が身を焦がしているに違いない。

 息継ぎの問題もある。マヨネーズプールに長いはできまい。

 

「ぶぁっ――」

「――! レラジェシュー――」

「ぷっ!」

「ぐわっ」

 

 こよりの息継ぎの瞬間、トワは再び飛び出した。

 しかし見兼ねていたこよりは口からマヨネーズの球を吹き出して攻撃。間一髪回避したトワの僅か後方で小規模の爆発が発生。

 

「ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっ」

 

 マヨネーズ爆弾を息継ぎの暇さえなく連射。

 トワは回避に専念しつつこよりの周りを回って徐々に距離を詰めた。

 やがてこよりの顔の回転が追いつかなくなり、攻撃が止んだ一瞬を狙い1発蹴り込む!

 

「はぷっ――」

 

 また白海に潜って回避。

 顎を狙った蹴り上げは空を梳いて微弱な熱風を起こした。

 

「クッソが‼︎ これじゃいたちごっこだ‼︎」

 

 このまま持久戦に持ち込まれれば、先にガス欠を起こすのは間違いなくトワ。

 心拍も上がりっぱなしで時期に限界が訪れる。

 あと1発だけでも真面に打ち込むことができれば落とせる自信がある。

 しかしこよりが地上に顔を出さない限り不可能だ。

 

「ぷぁ」

 

 再度こよりが顔を出すが、今度ばかりはトワも突っ込まない。

 が、それさえも予測されており、次なるこよりの攻撃が地鳴りとともに押し寄せる。

 

「タイダルXeウェーブ‼︎」

「――‼︎」

 

 大木を巻き込み、轟音を立てながらマヨネーズの大津波が迫り来る。

 

 トワはエンジンで身体能力を更に高めて跳躍。津波に一瞬着地しもう一度跳躍。

 バランスを崩さないように跳躍を重ねて津波を飛び越える。

 

「ぷっ!」

「どわっ」

 

 だが易々と回避を許してくれる敵ではない。

 跳躍の際に生まれる対空の隙をついて、こよりは爆弾マヨネーズを発射。

 1発は奇跡的に回避。いや――こよりが外しただけかもしれない。

 

「ぷっ!」

「ん゛っ――!」

 

 ボンっと2発目が腹に直撃、爆発。

 服がほんのり焼けて腹に小さな傷が付いた。

 更にバランスを崩して津波上で転倒。みるみる波に揉まれ周囲の大木と共にマヨネーズに埋もれる。

 

 視界が真っ白だ。

 慌てて目を閉じ、口と鼻を手で押さえるが微量のマヨネーズの侵入を許してしまった。

 

(やばい……! このままじゃ……死ぬ……!)

 

 航海の末マヨネーズで窒息死なんて笑えない。

 

「ぶがっ!…………」

 

 不意に背中に円柱状の何かがぶつかった。

 衝撃に堪え兼ね、喉奥の空気とマヨネーズを入れ替えてしまう。

 マヨネーズが鼻と喉へ一気に流れ込み苦しさが格段に上がった。

 

 時間が経過するほど思考力も徐々に低下する。

 だがどう打破すれば……

 

(――! そうだ! 水っぽいし――どうせ通るだろ――⁉︎)

 

 咄嗟に思いついた手段を素早く実行に移す。

 両脚の熱を逃して全身のモーターを回した。

 

(フルフルDevilバースト‼︎)

「ッ――‼︎」

 

 白濁液の中でバチバチと音が響き、マヨネーズよりも白く眩い閃光が瞬間的に液中を駆け巡った。

 

「ッ――⁉︎」

 

 マヨネーズプール全域に迸る電撃は潜っていたこよりにも命中。

 全身の一時的な感電で能力の制御が停滞。マヨネーズの波は不規則に荒れ狂いへし折った木々やこよりとトワの身を地上に投げ捨てて地面に溶け込むように履けていった。

 

「ゔえっほっ! オォ゛ぉぇっ……」

 

 地上に投げ出されたトワは必死に嘔吐いて鼻や口に詰まったマヨネーズを懸命に排出する。

 目からつーっと微量の涙が溢れ、顔に付着したマヨネーズと混ざり合った。

 

「がぁああああもう‼︎ マジでキショいねんお前の能力は‼︎‼︎――っ、うぇっ、ゲホッ‼︎ ぶぇっ‼︎」

 

 マヨネーズ塗れの身体を起こして立ち上がりがなり声を上げる。すると喉の奥に残っていたマヨネーズが逆流してきた。唾のようにマヨネーズを吐き捨てる。

 

 こよりも全身の麻痺から解放され、震える手足に鞭打って立ち上がった。

 

「でも――マヨネーズが電気を通す事は分かった。今度こそ本当に逃げ場はねえぞ」

「……ちっ」

 

 トワは再度素早く回転し脚に高熱を纏う。

 舌打ちと共に憎たらしげな顔付きでこよりはトワの燃える脚を睨んだ。

 

「はっ!」

 

 先制はトワ。

 敢えて直線的な動きでこよりの対処を誘うが、当然のように看破されている。

 

「白海湖洋・間欠泉」

 

 地に片膝を立て右手を大地に付けた。

 再び大地がマヨネーズと化してどろどろと波打つ。

 トワの足元までは及ばない程度に効果を付与し――2人の間を割る場所やその他数カ所からマヨネーズの間欠泉を噴出。

 周囲の木々を天辺から濡らす間欠泉の激しい飛沫でトワの視界からこよりの姿が消える。

 簡単に間欠泉を迂回しこよりを再び視界に入れようとしたが、そこにこよりの姿はもう無い。

 

 足を止め、こよりを探すトワの背後で、ざばっとマヨネーズ飛沫が上がる。

 音に反応し飛び退きながら振り向くと、眼前にこよりの拳が迫っていた。

 

「――ハァっ‼︎」

 

 鼻っぱしらをへし折る一撃――になるはずだった。

 

「うぇ――⁉︎」

 

 拳がトワの顔面をすり抜け、こよりは前の減りに転びかける。

 拳が空を切った瞬間の理解不能の直後、こよりはカラクリに辿り着き焦燥感に駆られた。

 

「ほら、よっ」

「わっ――ぶわっ――ひぃやぁああああああああああああ‼︎」

 

 バランスの崩れた身体を足蹴にされ、こよりは自身で生み出した間欠泉に突っ込み空高く吹き飛ばされる。

 こよりの絶叫が高く、遠く離れていく。

 

 くるくると回りながら周囲の木々より高く身を投げられ、その高度にこよりは目を回す。

 目を回しながらも、地上に立つ2人のトワの姿を目視した。

 

「ホログラムぅ……」

 

 一度視界が青空に覆われ、再び地上を見た時にはトワの姿は一つしかなかった。

 不敵な笑みを――悪魔のような笑みを浮かべ、真っ赤な右脚を構えて、身動きの取れないこよりの落下を今か今かと待ち構えている。

 

「空中にいちゃぁ避けようがねぇなぁ?」

 

 マヨネーズを被った木々を通過し、マヨネーズの大地が間近へと迫る。

 

「ぷっぷっぷっぷっぷっ――」

 

 落下地点に佇むトワへマヨネーズ爆弾を連射して抵抗。

 容易く回避される。対空中では捕捉能力も激減。

 視界が白く染まり始めた。

 

 マヨネーズを噴射しても制御ができず却って危険だ。

 

「こんっの‼︎」

 

 ヤケクソになって両手からマヨネーズをぶちまけた。

 広範囲にマヨネーズが降り注ぐがダメージはない。

 

「クッソ! 汚ねェッてんだよ‼︎ 観念しやがれマヨラァー‼︎」

 

 頭にマヨネーズを被されトワが沸騰した。

 ダメージの無い目眩し程度の攻撃は全て受け止め右脚を大きく振り翳す。

 

悪魔風脚(ディアブルジャンブ)

 

 真白の世界で真っ赤な光が弧を描く。

 

 こよりの畏怖に歪んだ表情に照明が当てられた。

 視界が灼熱に覆われる。

 

「おねが……やめ゛――」

「バルバトスショット‼︎」

 

 震える懇願などに聞く耳を持たない。

 

 顔面に直撃した灼熱がこよりの頬の雫を蒸発させる。

 衝撃と熱で瞬く間に意識が遠のく。

 

 マヨネーズを撒き散らし、風を薙いでこよりの身体が地面とほぼ平行に吹っ飛んだ。

 通過する木々の枝をへし折り、大木の幹に直撃する事で勢いが収まった。

 

 ばさっ……、と幹を滑り落ちてこよりはぐったりと地に伏し、動かなくなった。

 頬と腹と両腕に大きな火傷痕を残し、口からは煙を吐いて気絶している。

 

 

 掲げた右脚で地に下ろし全身の高熱を吐き出したトワは、ザクザクと土を踏んでこよりの気絶を再確認した。

 

「マリン曰く、『神は食物を作り、悪魔が調味料を作る』そうだ」

 

 トワにはさっぱり理解できない口上句の一部分。

 

「はなからお前に、勝ち目は無かったな」

 

 背を向けたトワは、目元のマヨネーズを親指で拭い、仕事を終えたハンターの様な顔付きでその場を去っていった。

 

 

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