ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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144話 身を投じ、天球を砕く

 

運搬銃(メトロガン)

 

 能力でチャキ丸を射出し叫ぶ。

 

「いろはさーん‼︎」

 

 十数メートル先で大地が隆起し、土砂が降り注ぐ。

 渦中にいたいろはは刀を掴み土砂を吹き飛ばした。

 

 それを見届けた直後、ミオの後頭部に衝撃が走る。

 

「ッ‼︎」

 

 ぐわんと視界が大きくブレ、キーンと耳鳴りが響く。

 意識が昏倒し、次の瞬間にはミオは地面に倒れていた。

 

「ったく。面倒な真似しやがって」

 

 ミオを殴ったのはスバル。

 右手の空気装甲を解いて意識朦朧としたミオを見下す。

 

 遠目にクロヱたちの様子を一瞥すると、僅かにダメージを負っていたが特段加勢が必要な状況ではなかった。

 スバルはしゃがみ込んでミオのポケットに手を伸ばす。

 

「ニ……トロ、ガ……‼︎」

「――‼︎」

 

 スバルの足元に伸びていたミオの右手。その手中でパチパチと火花が弾けスバルは思わず飛び退いた。

 同時、小規模の爆発が発生。

 数秒の時間を稼ぎミオは意識と思考を整える。

 

「チッ」

 

 ミオと距離が開くなりスバルはおもちゃの銃に弾を装填。

 立ち上がろうとするミオを狙う。

 

「マルチピストル」

 

 射出した弾は着弾寸前で小さな爆弾に形を戻す。

 まだ揺らぐ意識の中、ミオは足を滑らせながら飛び退いた。

 小規模の爆発が弱い熱風を起こし土煙を立てる。

 

「あゔ――ぶはっ」

 

 爆風で更に態勢を崩して顔面が土に埋まる。

 反射的に頭を上げて大慌てで息を吸う。微量の泥も一緒に吸ってしまい、ぺっぺっと吐き出す。

 無防備なミオの背後に影が忍び寄る。

 

「うわっ!」

 

 空気の層を纏ったスバルの拳がミオの頭上を通過。

 間一髪の回避。だが素早い追撃は対処しきれなかった。

 

「がっ‼︎」

 

 咄嗟に飛び出すも背中に強烈な打撃が撃ち込まれる。

 骨は折れてない。

 ギリ動ける。

 

 ミオは一方的な攻撃になる事を危惧して続く追い撃ちを正面から受ける覚悟で振り返った。

 

「――⁉︎」

 

 ミオの半回転と同時にスバルも同方向へ回り込んで、再度難なくミオの背後へ回る。

 

「はっ‼︎」

「んっぐ‼︎」

 

 先と全く同じ位置を蹴り抜かれてミオは再度地に伏し土に顔を埋める。

 

 基礎思考力に大差はない。

 だが慣れないダメージの連続でミオの思考は鈍り続ける。

 スバルが冷静に攻撃を仕掛けるに連れ、ミオは冷静さを欠いていく。

 

 ミオの能力は面と向かって対峙している状態を前提としたものだ。

 その構図が出来るまでは基本、素の力で覆すしかない。

 しかしミオに肉弾戦の素質など皆無。

 結局、鈍り続ける思考を目一杯巡らせる事でしか打開できない。

 

 ――否。

 

 可能性だけならば、ひとつだけある。

 脳に再び浮かぶ最後の手段。

 このままではどの道敗北する。

 ならばせめて、一矢報いて終わらなければフブキに顔向けできない。

 おかゆに顔向けできない。

 

 ミオは素早くポケットから飴を取り出した。

 可愛らしいピンクのビニールで梱包された飴玉。

 スバルは飴を一目見た途端勢いよく肉薄し殴り飛ばした。

 

「あぐっ――!」

 

 しかし、ミオが飴を口に運ぶ方が僅かに早い。

 ビニールごと飴を口に放り込み、口の中で梱包を外して飴を噛み砕く。

 

「――チッ」

「うっ」

 

 飴を食われた瞬間、スバルは思考を切り替えて俯せのミオの背に跨り、両手を両足で押さえつけ拘束する。

 

(超人系の覚醒は周囲へ効果を付与する、だったな)

 

 能力の三種の覚醒をザッと復習いミオの能力の覚醒を予測する。

 

(大方『周囲から銃が生えてくる』とかだろう)

 

 攻撃時には少なからずモーションが見られるはず。

 両手は拘束したし、瞳からのレーザーも動作で予測して回避できる。

 スバルは右拳に空気の層を纏わせて振り被った。

 

 背に跨るスバルの動作から攻撃を察知したミオはぎゅっと口を結んで全身を力ませる。

 

災禍の爆撃弾(カタストロ・ブラスター)‼︎)

「っ⁉︎」

 

 突如突き上げられるミオの胴体。跨っていたスバルも体勢を崩しながら上空へと放り出された。

 急な浮遊感でスバルの上下はくるりとひっくり返った。

 

(地面から発砲……にしては飛び方がおかしい……)

 

 地面とスバルに挟まれていたミオはひと足先に着地。直様身を起こして視線の先にスバルを捉えた。

 瞳が太陽光を吸収して眩く煌めく。

 

(アレが来る――‼︎)

 

 スバルの視界が白く染まる。

 

星の光線銃(アストロ・レーザーガン)‼︎」

泡沫(うたかた)輪舞曲(ロンド)

 

 一直線に突き抜けるミオの光線銃。

 上空のスバルは命中必至、のはずだった。

 なんと能力で空気を球体化しそれを足場に空を渡り始めるのだ。

 一瞬で破裂する泡沫の空気玉を飛び移り、徐々に高度を落としていく。

 ミオは何故かその間、手を出さずスバルの動向を見守っていた。

 

 環境の僅かな変化に目を光らせながら、スバルはそっと着地――

 

(――っ! そう言う――‼︎)

 

 した瞬間、ミオの覚醒の真相に至り危機感を露わにする。が僅かばかり遅かった。

 

災禍の爆撃弾(カタストロ・ブラスター)‼︎」

 

 着地したスバルの足元から謎の反発が起こり、再び空へと吹き飛ばされる。

 

(元よりコイツ自身が銃そのもの。つまり覚醒状態じゃ環境全てが銃そのもの‼︎)

 

 ミオの能力は銃を生み出すことではない。

 既存の物質を弾とし、己を銃とする能力。

 覚醒に至れば、環境全てが銃となり、それに接触する全てが弾丸となる。

 

(私は今、文字通り、常に全方位から銃口を突き付けられている状態)

 

 宙を舞うスバル。

 その動きを一瞬一秒、丁寧に追跡しながら光を吸収する。

 

(10分くらいか? 兎に角時間を稼ぐ!)

「アストロ――」

 

 ミオの両目が発光を始めた刹那、スバルは動きを一変させて回避した、つもりだった。

 

閃光銃(ストロボガン)‼︎」

「ッ‼︎」

 

 発されたのはレーザーではなく目を焼く閃光。

 目眩しだ。

 目を痛め反射的に両腕で視界を覆う。

 一時的に視覚を失い、スバルはひとつの球の上に留まる。

 ミオは再び瞳に光を集約させ今度こそ、

 

星の光線銃(アストロ・レーザーガン)‼︎」

 

 殺さず動きを極限まで鈍らせる為に、レーザーが撃ち抜いたのは第二の心臓。そう、脹脛。

 右脹脛に瞳サイズの焼き穴が出来るが出血は起きない。

 しかしスバルは視覚を奪われたままバランスを崩して球から滑り落ちる。

 

「ぐっ‼︎」

 

 高度こそ無かったがアンバランスでの着地で右足を更に痛める。その衝撃で焼き塞がっていた脹脛の風穴から出血した。

 好機。

 ミオは両手から波動を放ちそうな構えで手中にエネルギーを溜める。

 ばちばちばちばち……と空気中の電気がミオの手中に集まり、強い放電現象が起こり始めた。

 

電撃銃(エレクトロガン)‼︎」

「エアボール」

 

 その音から技を判定したスバルは自身を空気玉で囲う。

 電撃はランダムに発散され、その一部がスバルを囲う空気層の形をなぞって霧散した。

 

「――‼︎ 岩石乱銃(ペトロマシンガン)‼︎」

 

 四方八方の地面から数多の石が弾丸となりスバルを強襲する。

 スバルはさっとうつ伏せになりおもちゃのピストルを構えた。

 石の弾丸は空気の層を容易く貫いたが、身を屈めたスバルの頭上を通過していく。

 しかし、次の瞬間からはスバルの真下から銃撃が始まった。

 

「ッッッ‼︎」

 

 至近距離から胴体への集中砲火。

 だが弾は一発もスバルを貫かない。

 ほんの少し肉を抉ったりしてダメージを蓄積するだけ。

 

「舐めプかよ……‼︎」

 

 苦悶に顔を歪めるも、同じ体勢で腹に弾丸を受けつつスバルは攻撃に転じる。

 おもちゃのピストルを発砲。

 一発の球は瞬く間に小さな爆弾へと姿を戻し、ミオの間近で爆発する。

 

 ミオの視界が爆煙に塗れた隙にスバルは身を起こして駆け出した。

 

「スケートサークル」

 

 靴をスケート靴にして痛んだ足への負荷を減らしつつ機動力を底上げ。

 

乱球(ランボール)技仁(ギーニ)

「うっ、っ、ぐっ‼︎」

 

 爆煙目掛けて空気の球を乱射。

 空気球投函の風圧で爆煙が流れる。

 

災禍の爆撃弾(カタストロ・ブラスター)‼︎」

「チッ‼︎」

 

 地に足をつけたスバルを再三天へと打ち上げる。

 この技は実質回避不能。宙に舞ってからの対処が常套。

 しかし右足の負傷で先刻通りの動きは望めない。

 レーザーは威力が低く脳にでも撃たれない限り問題はない。電撃はエアボールで容易に防げる。

 現状スバルが危険視すべきは爆破と閃光、そして岩石銃。

 

噴水銃(ストローガン)

「水⁉︎」

 

 地面から間欠泉の様に水が噴き出し、水飛沫が視界を覆う。

 

「――‼︎ エアボール!」

 

 スバルの脳裏を過ぎる危険信号。

 水には電気。

 電撃銃を警戒して空気の層で身を守った。

 

力学狙撃銃(エントロピースナイプ)‼︎」

「――⁉︎ がっ、ァ‼︎」

 

 水飛沫を突き抜けて一直線にミオが飛来する。

 空気の層を破りミオの足が勢い良くスバルの鳩尾に激突。

 2人の高度が周囲の木々を超えた。

 

「ッ‼︎ エアボール!」

「――⁉︎」

 

 明滅する意識。それでも残った意識にしがみついてスバルは上空で大きな空気の層を形成し固定した。

 2人は空気層の中に縺れながら倒れる。

 

「ッラァ‼︎」

「ゔっ」

 

 立ち上がるや否や、スバルがミオの土手っ腹に拳をぶち込む。

 ミオが蹌踉ける。

 

「どラァ‼︎」

「ん゛ッ」

 

 脇腹に何の捻りもない蹴り込み。

 ミオが転倒する。

 

「まだまだァ‼︎」

 

 上空のファイトリングでスバルが暴れる。

 

 ミオの手元には石がない。

 鳩尾が殴られる。

 レーザーと閃光を撃つには多少の溜め時間が要る。

 脇腹を蹴り砕かれる。

 爆発を起こすにも同様の溜めが要る。

 顔面がどろどろにされる。

 地面に触れなければ地面から弾を発射できない。

 上空の一点が赤く染まっていく。

 

 一方的な連打。

 もう、打開策を練る余裕は無い。

 だが肉弾戦は射撃以上に苦手だ。

 

「ぶっ――ふ‼︎」

「い゛ッ――‼︎」

 

 打撃の雨の中、ミオはスバルの負傷した右の脹脛に爪先をぶつけた。

 目頭に涙を浮かべてスバルが歯を食いしばる。

 ぷしっ、と傷口から血が噴き出た。

 

 拳の雨の中に生まれた空白。

 ぺちゃっ、と足元の血をミオは力強く踏んだ。

 

「ふッ」

 

 スバルは両腕でミオの攻撃を防ぎ、直様反撃へと転じる。

 ミオの顔面に拳が迫る。

 しゃがんで回避。

 しかし追撃に左足で顔面を蹴り上げられた。

 陽光と血と汗が目に染みる。

 

 体感、疾うに5分は過ぎている。

 正確な時間が計れずいつ能力・肉体の限界が来るか分からない。

 今この瞬間に途切れても不思議はない。

 

「だらァ‼︎」

「お゛ッ――カ、ハッ」

 

 回転のかかった蹴りがミオの腹に炸裂。

 全身がふっと浮き上がり空気の壁に激突。全身に付着した血や汗が衝撃で飛散する。

 

 激しい耳鳴り。

 吐き気を催す蜃気楼。

 

 血を踏む音が耳鳴りの奥から聞こえる。

 蜃気楼の奥から迫る人影がある。

 

「ぎぃっ‼︎」

 

 奥歯を噛み締めて深淵に呑まれる意識を呼び起こした。

 真っ赤に染まった顔面。赤く血走った眼。嚙み鳴らす八重歯。荒々しい吐息。

 スバルを突き刺す眼光は獲物を狩る猛獣の如く。

 

 眼前に拳が迫る。

 ミオは背後の空気壁に凭れたまま動かない。

 

噴水銃(ストローガン)‼︎」

(ッ‼︎⁉︎)

 

 骨の髄まで響く咆哮に呼応して空気の層に付着した数多の血液が噴出。

 スバルの視界が真っ赤に染まり刹那動きが止まる。

 

 たたんっ、と跳ねてミオは背後の壁に両足をかけた。

 

 

力学狙撃銃(エントロピースナイプ)ッ‼︎‼︎」

「ァッ――」

 

 

 空気の壁から射出されたミオの脳天がスバルの腹へ撃ち込まれた。

 呼吸が詰まりうめき声が掠れる。

 衝突後も勢いは止まず、スバルの体は軽々と持ち上がり空気の壁に激突。

 

「ァ、ガッ――」

 

 二度目の衝撃。

 ミオの頭と空気の壁に腹部を圧迫される。

 

 パリンッ、と脆く砕ける音。

 直後から全身を襲う浮遊感。

 ミオとスバルは重なり合ったまま自由落下を始めた。

 自力で均衡を保つ事など出来ず真っ逆様に頭から地面へと突っ込んでいく。

 

 重力で落下速度を増しながら2人は地面へと向かい、やがて――

 

 べちゃっ。べちゃっ。

 

 と泥沼の中に嵌った。

 数秒後、2人の周囲に微量の血の雨が降り注ぎ、更にその数秒後、泥沼が地に溶ける様に消滅した。

 

 結果。その地には意識を失くしたスバルとミオ、そして僅かな血の彩りだけが残されていた。

 

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