「ちょこさんアレ!」
「――スバル‼︎」
「ミオちゃんもいる」
上空に固定された天球とその中で対峙する2人を遠目に見つけたおかゆとちょこ。
細かい攻防の様子は見えないが、やがて天球が砕けてミオとスバルが真っ逆様に落下する。
「ちょこさっ!」
おかゆが言い切るよりも早くちょこは駆け出した。
2人の落下地点までは届かなかったが、距離を詰めた所でおかゆが泥のクッションを敷いて2人の衝撃を最大限に和らげる。
「スバル」
「ミオちゃん……」
泥が蒸発し血の雨が降り注ぐ。
ちょこが気絶したスバルの頬に手を添える。
おかゆはちょこの背中の上で痛めるほど首を回してミオを見つめた。
「「っ」」
不意に大地が震撼。
そう遠くない場所に小規模の爆発らしきものも観測できた。
木々が倒れたり、電撃が走ったりもしている。
「行くわよ」
「うん」
ちょことおかゆは災害の渦中へと飛び込んでいく。
*****
「今度こそ――記憶は返してもらう‼︎」
チャキ丸を振るうと刀身に付着したクロヱの血が地面に飛散する。
クロヱは脇腹の傷に右手を当て、流れている血を固めて止血。
更に手に付着した血を針のように固めていろはに投函した。
「――」
シャッ、と刀を振るい対応。
刀が血の針を弾く寸前、クロヱがにっと笑う。
瞬間、固まった血は忽ち液状に形態を戻していろはの顔目掛けて飛散した。
「……ちぇっ」
しかし、血は全て空間の壁に付着していた。
「プラズマ――」
パチン、と両手を合わせるクロヱ。
直後に襲いくるは電撃――ではなく足元の大地。
「ぶっ飛べ‼︎」
大地がいろはを天へ突き飛ばす。
「――トライデント」
打ち上がったいろはを狙い撃つ電撃。
「風華刹月」
電撃の射出と寸分違わぬ間隔で放つ斬撃。
電撃と斬撃が中空で衝突して再び小さな嵐が一帯を荒らす。
「んっ」
砂塵に目を細めるクロヱへいろはは空中を駆け接近。
凄まじい足の回転速度。
「トライデント」
「ん゛‼︎」
片手に掴んだ2本のカットラスがぐにゃりと変形し細長い三又の槍と成る。
伸長した武器が真っ直ぐいろはの腹を串刺す、前に刀を振るって槍を受け止めた。
「ッ‼︎」
いろはの作った足場を利用し背後に迫るラプラス。
「おぁ」
能力の解除で足場が消失。
いろはは浮遊間に身を任せ、クロヱの槍を頭上に通し後方に受け流す。そして再度空間を小さく切って新たに足場を形成、攻めに転じる。
槍にかかっていた負荷が忽然と消え、クロヱは前のめりによろけた。
一方ラプラスはべちゃっと地面に落下して土砂となる。が瞬く間に再生。空を駆けるいろはの背を再度捕捉する。
「ふっ!」
ジャキンジャキン、と素手で斬撃を二投。
クロヱは崩れたバランスに身を任せるように脱力し前方へ転がり回避。伸ばした槍を手元に戻しながら力強く地を踏み、
「トランポリン」
跳躍、に合わせて大地が隆起。
周囲の木々を軽々追い越してクロヱが天に立つ。
いろはの意識が頭上のクロヱに引っ張られると、ラプラスがここぞとばかりに地中へ溶け身を隠す。
「アストラボム」
いろはを睥睨しながらクロヱは自身の周囲をバチバチと弾けさせ、爆発のエネルギーを貯め、投下。
爆発が流星のように降り注ぐ。
「風月斬り」
螺旋状の斬撃が龍のように天へと昇り、幾つかの爆発を蹴散らして空中で爆ぜた。
「ッ」
ゴゴゴッ、と大地が揺れる。
「どっらぁ‼︎」
突き上げる大地。
いろはの足場に隆起した大地が激突し、傍から大量の土砂が飛沫となって噴き上がる。
更にその飛沫の中から伸びた拳がいろはの腹を殴る。
「っ――
その腕に片手の爪を全て突き立てて引っ掻くと、小さな斬撃が腕を回りながら切り裂いて行き、土砂へと変える。
再度空間を断絶して時間を稼ぐと、いろはは空を見上げた。
天空で、クロヱは島全土を見渡している。
「ん?」
体感100メートル先。
クロヱは空中に立つ影をふたつ発見。
助力にと一歩踏み出した、
「一閃‼︎」
「ッ‼︎」
いろはがこれまでにない規模で空間を断絶。
続けて両腕を構えて斬撃を放つ。
「風前の灯」
射出された2つの斬撃は重なり、摩擦で赤く光る。
「はっ‼︎」
クロヱも手に持つ槍を刀へと変形させて斬撃を迎え撃つ。
飛ぶ斬撃を刀で斬り伏せると余った熱風だけが、刹那クロヱの全身を襲った。
身構えていても反射は起きる。
思わず顔を顰め、目を細めた。そして再び目を見開けば螺旋状の斬撃が強襲。
咄嗟に刀を振り直して相殺を試みるが勢いを殺しきれず、軌道の逸れた斬撃に肩を裂かれる。
「ぢっ!」
微量の血が降り散る。その真下で。
「あ……‼︎」
いろはの燃える斬撃を目にし、ラプラスが何かを閃いた。否、ぐちゃぐちゃに混濁した記憶の何かとリンクした。
クロヱを追撃するいろは。ラプラスはその隙に微かな溜めを行う。
いろはが更なる追撃を狙う傍から、ラプラスが悪魔のような笑みを浮かべた。
「大噴火‼︎」
天に翳したラプラスの両手が大爆発を起こし大量の噴石・火山灰が天へと舞い上がる。
「なッ⁉︎」
「ばっか‼︎」
クロヱの高度までは届かない程度の噴火だが、そこから広がる火の手は広範囲に及ぶ。
限界高度に達した噴石が破裂して周囲の至る所へ降り注ぎ森を燃やしていく。
「流星火山‼︎」
「んっ、くっ!」
降り注ぐ噴石を捌きながら、瞬く間に広がる火の手から逃げるいろは。
クロヱは戦況を一瞥すると好機と見て空を走り場を退散する。
「ん゛、待てッ‼︎――っ!」
追いかけようとするも火の手と噴石、そしてラプラスに行手を阻まれる。
「お前本っ当にしつこい‼︎」
「悔しかったら切って見ろ」
けらけらと冷笑を浴びせるラプラスに、刀を掴む力が強まる。
「おっら‼︎」
ラプラスが大地を踏み抜いた。
大地がぐらっと揺れた。
いくつもの岩石が地中から突き上がる。
いろはは跳躍で回避。
滞空中のいろはに片腕を向けるラプラス。
悪ガキじみた様相に良く似合う微笑。
次の瞬間、手の先から石が飛び出しいろは目掛けて飛来した。
刀を強く握り、刀身を煌めかせた刹那、いろはの目前に飛び込む影、
「――‼︎」
「っ‼︎」
キンッ、と岩石が金属にぶつかったかの様な音が響く。
「ヘドロウェーブ!」
割り込んだ人影が大量の泥を放出してラプラスの侵攻を僅かに食い止める。
「ちょこさん、と、おかゆさん?」
2人の間に割って入ったのはその2人。
「ラプちゃんはちょこたちが押さえるから、黒ずくめをお願い」
「――ありがとうございます!」
「あまり保たないから、早めにケリ付けてね」
「はい」
力強くも覇気の弱い2人の瞳。
いろは以上に体力の残量が少ない。
ちょこに背負われている様子からも、おかゆは既に肉体の限界へと達していると見える。
足止めも長くは続かない。
いろははきりりとした目で小さく首肯し炎の外側へと退散したクロヱの下へ駆け出した。
「おいコラ!」
大地を踏み込んで地面の隆起を連鎖させるラプラス。
その動き出しを目視し、おかゆは右足を泥へと変化させて接地する。そこから大地へと干渉した。
「泥沼どーろ」
ゴッ!とラプラスの攻撃がおかゆの泥沼で詰まって地鳴りが止む。
ラプラスの動きが僅かに止まったその内に、いろははみるみる場を離れ、ちょこはラプラスの視線を遮る様に割り込んだ。
「――! 大噴火‼︎」
「ドローイング・ばっくドロウ‼︎」
ラプラスの噴火攻撃をおかゆの泥攻撃が喰らう。しかし物量差でおかゆの防壁を突破する噴石が現れる。
ちょこの眼前に迫る一つの噴石。
咄嗟に硬質化した腕で振り払った。
「ッつ」
腕が微かに焼けるも大事には至らない。
ほんの一瞬なら痛み覚悟で触れる事がわかった。
「チッ」
習得したばかりの大技を防がれてラプラスは機嫌を損ねた様子で舌打ちした。
しかし、次の瞬間には大きく地面を踏み抜いて再度攻めへと転じる。
「
「――!」
ラプラスの地団駄を震央として小規模の地震が発生。
ちょこは震える視界を大きく回して周囲の地面からの攻撃を警戒する。
おかゆも刹那後に反撃・防御出来るようにと能力を構えている。
だが――
「ぇッ――⁉︎」
浮遊感。
縦方向に回る視界。
2人の足場が突如陥没して大穴が生まれていた。
深さこそ十メートルを優に超えているが、落下ダメージもその後の復帰も2人にとっては脅威にならない。
「
「水っ⁉︎」
陥没した大地の数箇所から湧き出る水が徐々に大穴を満たしてゆく。
ラプラスは高みから2人の転落を見物している。突き出した右手の親指を下へ向け、嘲笑を浮かべながら。
「ん゛……はッ‼︎」
「ぅあ――ちょこさっ――」
ちょこは土壇場でおぶっていたおかゆを掴み、体躯を回して淵まで投げ返した後真っ逆さまに陥没した地の底へと落下した。
鉱物が落ちたような鈍く響く音と共に高い水飛沫が上がる。更に、足場を失った木々が炎を纏ったまま傾斜を下り、次々と水底へ突っ込んで行く。
入水と共にジュゥ……と空気を揺るがし煙を上げる。
それらの光景を目の当たりにしながらおかゆは宙を飛び、やがて傾斜のない大地にべちゃっと着地した。
「ちょこさん!」
落下の衝撃で飛散した自身の身体を再形成しもう一度叫ぶも返事はない。
おかゆは這いずって傾斜の淵まで迫り、中を覗き込みながら能力を発動させる。が……
「ぅあ!」
ラプラスが手を下すまでもなく脆くなった地面が崩れて、おかゆはみるみる傾斜を滑り落ちていく。
周囲を泥濘に変えて身体を引っ掛けようと能力を行使するが、身体が動かず上手く身体を固定できない。
びちゃびちゃと泥を撒き散らしながら傾斜を転がり――
べちゃっ、と崩れ落ちた大木の幹に引っかかった。
「ゔ……ちょご、ざ……」
眼前で揺れる水は泥で濁り切って何も見えない。
湧き水の放出は止まらず水嵩はまだまだ増していく。
「ぉぶ……っ……」
やがて水位はおかゆの頭を覆い隠すまでに達した。
もがく事さえままならず、木の上で、水の中で息を詰まらせる。
その光景を見届けて、2人の復帰が困難となった事を確認するとラプラスはハッと鼻を鳴らし、再びクロヱの助太刀に動き出した。
――。
「
「――‼︎」
謎の一声と共に突如大地に亀裂が走る。
亀裂は陥没した大地に溜まった水の逃げ道となり、大きな水溜りからどんどん水が抜けていく。
噴出していた湧き水の水路も破壊されたようで、瞬く間に水位は減少。穴の底にちょことおかゆの姿が現れた。
「ゔっ――! げっほ! かぁッ――」
「ゔぇっほ! うっ、んっ! ゴッホッ、ゴホッ!」
涙ながらに咳き込む2人には見向きもせず、大穴の淵で向かい合う別の2人。
「やっと追いついた」
「次から次へとめんどくせえな」
対岸に現れた少女、紫咲シオン。
ラプラスは頭を掻きながらぼそっと悪態をついた。
「――。ラプラス、お前!」
「あん?」
肩で息をしていたシオンは、一旦深呼吸を挟むと声を張って指を突き付ける。
「どんな手使ったか知らないけど! 洗脳下のシオンに勝って調子乗ってんじゃねぇぞ‼︎」
「……は。マヨネーズ相手に手も足も出せなかった奴がよく言うわ」
「んなもん知らんし! 例え他の誰かに負けようと、お前にだけは絶対に負けないんだよ、シオンは!」
「は、ガキかよ」
「ガキだろうが、私ら3人はずっと」
「誰だよ3人目」
記憶にないシオンの発言と無茶苦茶な理論にラプラスは肩を竦め嘆息する。
「姫に恩返しするって言いながら何やってんだよ」
「知らんな」
「騎士団に入って姫と国を守るとか言ってただろうが」
「記憶にないな」
「シオンとねねちにそれを押し付けてきたのはお前だろうが」
「さっぱりだな」
記憶の押し付けに辟易し、ラプラスは攻撃を構えた。
「あっそ。じゃあお前、最後に言っとく」
「――」
ラプラスは構を解いて耳を傾けた。
穴の底でちょこもまた静かに成り行きを見張っていた。
「洗脳から助けてもらった礼とそん時の敗北の礼はここで返す。だから貸し借りはそれでチャラ。いいね」
「ああ――」
ふっ、と苦笑を溢しラプラスが短く答える。
「――大反対だ!」
ラプラスが両手から噴石を放った。
赤く光る岩石が穴を飛び越えてシオンへ襲い掛かる。
「ふんッ‼︎」
シオンが虚空を殴る。
ピシッ、と空に亀裂が走り降り注ぐ噴石が次々と破裂した。
「いい加減決着つけんぞ‼︎ ラプラス‼︎‼︎」
「超えられない存在ってのを幼稚な心に刻んでやるよ‼︎」
因縁の二人、最後の決闘。
いざ、雌雄を決す。