ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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イリス島(DC)編
14話 前門に


 

 マリンたちの出航をこっそり目撃していたラプラスは急いでルーナの自室へ駆け込む。

 

「ルーナさん!」

「ん? ラプちゃん、どうしたのら?」

 

 本来、王族の自室への入室は許可を得る必要がある。

 だが、ラプラスは何故かルーナに特別な許可を得ている。

 

「フブキさんが! フブキさんがマリンさんの船に乗ってます!」

「あー、いいのらよ」

「でも昨日はダメって言ってたじゃないですか!」

「だから、それはもういいのら」

「なんでですかー!」

「あの後、船長から直談判されて、結局一緒に行かせることになったのらよ」

 

 少し不満げに口元を曲げるラプラスに苦笑する。

 

「ほら、ラプちゃんも今日から仕事があるのらよ」

「むむむ……ふん!」

 

 ラプラスは膨れてそっぽを向く。

 ルーナはふふっと親のような眼差しで頬を緩める。

 

「ねえラプちゃん」

「……?」

 

 ずっと書類を弄っていたルーナが、席を立つ。

 少し真剣になる表情に、ラプラスも釣られる。

 

「しゅばとせんせーが小屋から回収したものがあるのらけど」

「……! それなんですけど、吾輩、小屋見ても何とられたのか……」

「あの小屋は、元々ルーナたち王族の小屋なのらよ」

「――⁉︎」

「それで、ラプちゃんに、渡したいものがあるのらけど……どう?」

「……」

 

 ラプラスはそっと頷いた。

 そして、2人は王室を後にした。

 

 

 

          *****

 

 

 

「で? 説明してもらえますか?」

「説明もクソもないんですよ。本当に話し合った結果なんですって」

「本当かぁ?」

「わ、私は話し合いに参加してないのでっ!」

 

 詳しくを語らないマリンに眉を顰めるトワとポルカ。

 トワが視線をフブキに逸らすが、なんせマリンとルーナが勝手に話をつけたので、交渉の結果しか知らない。

 

「…………まあ、船長の奇行は今に始まったことじゃないし」

「そこまで言う⁉︎」

「言う」

「…………」

 

 疾うに水平線の彼方へと消えたキャンディータウンをチラッと見て気を紛らす。

 穏やかな波、気候。

 暑くない太陽光。

 絶好の航海日和、と思われる。

 

「はぁ、じゃあいいよもう」

 

 トワも遂に諦めた。

 そして宝物室からあるものを持ってくる。

 フブキは独特な船内の雰囲気に苦笑いを浮かべていた。

 

「これ、分かるでしょ?」

 

 トワが持ち出した箱を躊躇なく開ける。

 そこには謎の形の黒々とした禍々しい果物がある。

 

「これは……能力の……」

「そう、これが昨日貰ったやつ」

「食べないんですか?」

 

 能力が手に入る代物。

 そこら辺を探しても到底見つからないレアアイテムだ。

 確かに海に嫌われる難点はあるが、当たりであれば人生が楽になる力が手に入る。

 そもそも食べる目的で譲り受けたというのに、何を迷っているのか。

 トワは難しい顔で唸り続ける。

 

「食っていいんかな……」

「そのためのもんって言ってたじゃん」

「いや……そうなんだけどさ……」

「何が気に入らないんです?」

「内容を知らんと、外れた時が怖い」

「船長タイプかみこちタイプかってね」

「みこちって誰や」

 

 比較対照としてマリンとみこを挙げたが、トワとフブキはみこを知らない。

 他に分かりやすく挙げるなら、ルーナだろうか?

 感覚的にパッと強そう、で言えばすいせいかちょこ辺り。

 純粋な強さでなくとも、ポルカのような小細工を得意とする能力も十分強力な武器になる。

 マリンのような能力は非常にハズレに近いが、フブキの能力はギリギリ活用ができる。

 しかしフブキのような能力はいざと言う時、自衛ができなければならない。

 それこそ、話題に上がる洗脳能力も恐らくはそうだ。

 

「でもま、無くさないんなら今すぐ食べなくてもいいんじゃない?」

「私も、慎重になるべきだと思いますよ」

「船長的には今食べてハズレであって欲しいですね」

「最悪な船長やな」

「ほんそれ」

 

 トワは蔑むような眼でマリンを見た。

 突き刺さる眼光が逆に気持ちいいまである。

 ドM的な快感を覚え嬉々としているマリンを見て更に目付きが鋭くなる。

 

「ところで……」

「ところてん?」

「言ってないです」

「うんうん、ところで、何?」

「はぁ……とってもとってもヘンテコな船長さんはなんて能力なんですか?」

「ん、船長? 船長はフネフネの実、この船も能力で創造した船なので自由航海が可能ですよ」

 

 酒に酔っているようなウザ絡み。

 マリンはニコニコと笑みを絶やさずフブキを見つめる。

 フブキもトワやポルカ同様に乗る船間違えたか?といった瞳でマリンから少し目を逸らす。

 

「前から気になってたんだけどさ、自由航海ってどういう事?」

「船を操れるって事ですか?」

「それもある、けど、肝心なのは水上じゃなくても航海できるって点」

「へえ、そんな事が」

「船長が作った船限定ですけどね」

 

 まるで遊泳自由のような能力。

 海でも使用できる利点はあるが、大きくスペースを必要とする難点もある。

 

「また一つ新たな知識を得ましたね」

「しょぼい知識やな」

「トワ様、自分でよく言ってるでしょ? 言葉は刄って」

「言った覚えないが?」

「言ってるでしょ!」

 

 事実だが幻想を押し付けるマリン。

 配信業をしていないトワがそんなセリフを残すはずがない。

 

「はいトワ様復唱、『言葉は刄』」

「……」

 

 言葉は刄らしい。

 覚えておく。

 

「あ、ごめん、ちょっと連絡が来たから話してくる」

 

 ポルカが常備している無線を取りだして自室に篭った。

 旧友からの連絡だろう。

 定期的に連絡を取っていると言っていたが、実際に確認するのは初めてだ。

 

「連絡って?」

 

 ポルカの姿が消えて、フブキが首を傾げた。

 

「古くからの親友と定期的にああやって通信機で話してるらしいですよ」

「通信機? なんか凄そうですね」

「通信機ならトワんとこにもあったなぁ……貴重っちゃ貴重だったけど」

「はわぁ〜、やっぱり世界って凄いんですね!」

 

 トワからの意外な発言と、フブキの輝いた目。

 フブキが想像以上に好奇心旺盛そうだと、初めて思った。

 

「因みにフブちゃん、これからイリス島までどのくらいかかります?」

「うーん……この速度なら多分、1日くらいじゃないですか?」

「1日か……」

「どうした?」

「んや、イリス島までが一日なら、地図的にハングリー島まで、んなたんの言った通り1週間ほどで着くなって」

「あーね、確かに縮尺的にそんなもんかもね」

 

 地図を広げ、キャンディータウンからイリス島までの距離を指で測り、それをハングリー島までの距離に当て嵌めていく。

 距離としては6日ほどで着くが、不眠不休、常時最大船速の場合で計算しているため実際はさらに時間を要する。

 

 

 そして、1日が経過した――。

 

 

「アレじゃない?」

「おおー」

 

 見張り台からポルカが声を掛ける。

 遠方に視線を凝らすと、うっすらと島が見えた。

 イリス島だ。

 街の名前はディアスケーダシティ。

 非常に暗記の難しい名前だが、一体どんな意味だろう?

 

「どこに止めるんですか?」

「うーん……フブちゃん、どこに止めたらいい?」

「普通に止めていいですよ」

「海賊なのに?」

「今どき海賊なんて流行ってないし、誰も気にせんって」

「えぇ……」

 

 大航海時代とかではないの?

 言われてみれば、他の海賊を誰1人見た事がない。

 出会う敵たちさえ、海賊ではない何か。

 

「…………」

「フブちゃん?」

「……やっぱり海賊は時代遅れですかね」

 

 海賊旗を見上げると、弱い風でも強くヒラヒラと旗めいていた。

 

「ほら、よくわからん感傷に浸ってないで、船つける準備して」

「トワ様冷たくなーい?」

「ええやろ別に、イチイチ深く掘る話でもないし」

「そうですよ、このご時世海賊は流行らないって話。それで終わり」

「いや……会話的にはそうでしたけども」

 

 その顔を見て、マリンは疑問を抱いたのだ。

 勿論、文面だけで見たとしても、フブキの表情は見えず、ただ海賊が今の時代に多くないと話している、それだけ。

 メールなどでのすれ違い同様、言葉にして、顔を見て、初めてその心が伝わり始める。

 

「フブちゃんが言うならいいでしょ、船長?」

「……はいはい、分かりましたよぅ」

 

 マリンのスタンスを理解し始めたポルカはそう釘を刺して完結させる。

 フブキもニコニコとしている。

 何か思いはありそうだが、今の環境に不満はなさそうだ。

 

「んじゃ、船つけますよ」

 

 イリス島、到着。

 そして、上陸。

 正面切って停泊したが、何一つ文句を言われることもなく。

 

「で、どこいくん?」

「フブちゃん、案内できます?」

「うん、覚えてるよ、ちゃんと。こっちこっち」

 

 フブキを先頭に、ディアスケーダシティを観光がてら散策。

 目的地はフブキの親友の家。

 マリンは勝手ながら、その相手を2択に絞っている。

 2択とは、2人の意味ではなく、2パターンの意味で。

 

「なんか……ゲームセンター多くない?」

「うん、ゲームで発展していった国だから」

「はい、もう確定だワ」

「え、何が?」

「いや、なんでも……」

 

 街に入るまでは見えなかったが、近くで見るとギラギラと輝く電光掲示板などが眩しい街並みだ。

 ゲームセンターやパチンコ、スロット店、カジノなど、賭場からコインゲームまで多種多様、老若男女が楽しめる幅広いゲームの数々。

 フブキとゲーム、そして親友。

 これらのキーワードから導き出される答えは――!

 

「――――⁉︎」

 

 ふと、マリンの鼻を擽る匂いがした。

 すれ違い様に鼻腔に香りが掠ったような、奇妙な感覚。

 確かにどこかで嗅いだ匂い。

 

「……? 船長?」

「……今の匂い」

「匂い?」

 

 マリンだけが感じた違和感……いや、既視感か。

 

「化粧とか香水とかじゃないの?」

「それに近いんだけども……違くて」

「――?」

「なんかこう……我が母性に働きかけてくるような……」

「どんな匂いだ、気持ち悪りぃな」

「そもそも船長が母性って」

「いやいや、これでも船長、不憫な人とか好きで、そういう人を養いたい……というと違うけど、そんな感じの癖あるんですよ!」

「いや知らんが」

 

 どうでもいい性癖暴露に呆れ顔の仲間達。

 ポルカ辺りは慣れてきたのか、切り替えが極めて早い。

 

「そもそも、知り合いがいたら見て気づくんじゃないの?」

「それはそう!」

「はぁ……もう行きますよ」

「あぁん、フブちゃん冷たぁーい」

「鬱陶しいですぅ」

 

 先を急ぐフブキにベタっとくっついたマリン。

 煩わしそうに顔を歪めて、引き剥がされた。

 割とあり。

 

 そんなこんな、徒歩15分ほど。

 一軒家前に到着した。

 マリンが真っ先に確認したのは……標札。

 

「大神……」

「そう、大神ミオ。みおーんは1番の親友」

「1番って事は、もう2人くらいいたりする?」

「……! すごい、丁度親友って呼べるのはあと2人だよ」

「妙に勘とか鋭いよな、船長って」

「……」

 

 トワとフブキは偶然の産物だと、奇跡に感嘆するが事情を知るポルカは少し顔を険しくした。

 

「でも、いるのかなぁ……」

 

 フブキは恐る恐るインターホンを押す。

 

 ピンポーン――ピンポーン――。

 

 と、1プッシュで2コール。

 住宅街なため、街道ほどの喧騒はなく、時折聞こえる話し声を背景にフブキの親友の登場を待つ。

 

 突然、ガチャっと扉が開く。

 

「……フブキ⁉︎」

 

 扉を支えるのは、疑いの余地なく大神ミオ。

 突然のフブキの訪問に、衝撃を受けているようだ。

 驚愕に目を見開いて、じっとフブキを見つめている。

 

「えへへ、久しぶり……来ちゃった」

 

 





 次なる舞台はイリス島ディアスケーダシティ。
 娯楽の国です。

 少しややこしいですが、結構力作なんですよ、この編。
 まあそもそも、この小説自体、私の中ではかなり力作なんです。
 ストーリーに限ってですが。

 基本的にどの編も長くはないので、もう少々お付き合いください。
 それではまた。
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