ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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18話 牢屋前の交戦

 

 解放された戦士、獅白ぼたん。

 

「ここに来て急にコイツらに襲われてさ」

「え、そうなん?」

「マジマジ。そんで、銃っぽい能力者にやられて捕まってたんだよ」

「銃っぽい?」

「もう1人のやつ」

 

 もう1人?

 この2人ともう1人、の意味なら、ミオだろうか。

 銃っぽい能力か……。

 

「しっかし……どうやって牢屋から出たん?」

「あ? あんたじゃねぇの?」

「いや、そんな暇無かったし……ってか、鍵は全部持ってたのに」

 

 つまり、今ポルカが手に持つ鍵は全てハズレの鍵。

 

「まあいいや、助けたからさ、代わりにちょっと手伝って欲しいんだけど」

「ん? でも、あんたじゃないんでしょ?」

「ここにいる時点で貢献してるはずだから」

「ふーん……ま、いいよ、コイツらに反抗する方が気分いいし」

 

 優しさではなく、復讐的な感情で動く。

 そんな会話中、ころねが復活し、乱入してきたおかゆと肩を並べ、臨戦態勢をとる。

 

「何すりゃいいの?」

「アタシは仲間を助けたい。だから、仲間を探す時間を作ってくれ」

「足止めね。頑張るけど、銃の奴が来たら全員はキツいかも」

「頼むわ」

 

 ポルカは更に奥へ進み、マリンの元へ近づく。

 幾度か通路を曲がったり、扉を出たり。

 思った以上に時間がかかる。

 想像しているような簡単な作りでないため、間近にいても牢屋に着かない。

 

 あまり激しく殴り合う音は聞こえないが、ぼたんの様子はどうだろうか?

 相当強いらしいが……。

 

 

 

 他人の心配もそこそこに走り続け、やがてマリンたちの牢屋を発見する。

 

「いた、船長!」

「ポルカ!」

 

 もはや隠密も意味を成さない。

 声をかけ、牢屋に近づく。

 視界が悪く見辛いが、マリンとトワは普段通り。

 複製体は死んだように動かない。

 そして何より、フブキの圧倒的な落胆具合。

 

「流石。船長が見込んだだけはある!」

「一度もそんな素振り見たことないけど……ちょっと待っててください、鍵が多くて」

 

 ガチャガチャと鍵を漁り、片っ端から試していく。

 何度も鍵穴に差し込み、無理矢理回そうとするができない。

 数回試したあたりで……

 

「ポルカ!」

 

 暗闇と死角に潜み、上手く接近してきたのはころね。

 ぼたんの足止めはここまでらしい。

 

「っぶね!」

 

 トワの警告のお陰で一瞬早く察知し、掴みに迫る腕を払い退ける事に成功した。

 そして一度、牢と敵から距離を取る。

 

 その際、ジャラジャラと金属が掠り合い、地に落ちる音がした。

 

「船長! それで全部です、試してください」

 

 ポルカは牢屋内に鍵を譲渡し、セルフ脱獄を頼む。

 マリンよりも先にトワが鍵を拾う。

 そして、格子の隙間から手を伸ばし、順々に試していく。

 

「ころね先輩……」

「……!」

 

 マリンの呟きに、フブキは漸く顔を上げた。

 そして、目が慣れる数秒を要し、敵の正体を確認した。

 

「フブちゃん! コイツの弱点見れない⁉︎」

「…………ころね」

 

 目配せもなくポルカが叫ぶが、フブキは応えない。

 誰にも分からぬよう、眉を強く寄せ、瞳を潤ませる。

 

 応答無しで、ポルカはフブキの内心をある程度把握した。

 助力は諦める。

 

「ノルマはコイツか」

 

 非常に苦手な正面衝突。

 すっと抜刀し、鋭い剣先を見せつける。

 

「ポルカ」

「……」

 

 フブキのか細い願いをマリンが伝達する。

 なんてやり難い制約を付与してくれるんだ。

 マリンといい、フブキといい、毎度注文をつけてくるため、注意を散らしながら闘わされる。

 

 怪我させるな、なんて闘いにならない。

 そんなハンデを付加するなら、せめてフブキの力が借りたいが……いかんせん、彼女は今傷心している。

 ポルカは剣を鞘に納め、喧嘩でもしようかといった体勢を取った。

 

「ころねってったっけ?」

「……」

「悪いけど、さっきみたいにやられたりせんから」

 

 先程は腕を掴まれて、身体が真面に動かなくなった。

 トリガーは「触れる事」以上。

 なら、触れられなければいい。

 

 ポルカは構えを解かない。

 ジリジリと靴を擦らせるが絶対に自分からは仕掛けない。

 マリンたちが牢から出す時間を稼ぐことが大切。

 だから、下手に仕掛けて捕らえられてはならない。

 

「船長、こっち来て!」

「え、は、はい!」

 

 マリンを通路側へ呼び寄せる。

 

喰らい付く拳(ヴァイツェンブロート)

「――!」

「ギャァーー!」

 

 作戦通りに進めさせぬよう、ころねは檻に駆け寄るポルカを狙った。

 予測していたのか、ポルカは早めの回避で距離を置く。

 逆にマリンは、何も考えてなかったような仰天ぶり。

 

 ころねの右腕が、檻に打ち当たり、がっしり握っていた。

 ガキン、とマリンの目前で檻が歪む。

 バカにならない馬鹿力。

 

「え、何⁉︎ 囮⁉︎」

「いいからそこにいて!」

「はい!」

「ポルカが上司なんか?」

 

 鍵を弄りながら二人のやりとりに茶々を入れるトワ。

 既に半分以上の鍵は試験済みで、次々と地面に捨てられる。

 どうやら、本当に鍵の的中は期待できなさそうだ。

 

渾身の一撃(ハードロール)!」

 

 ころねの鉄拳が迫る。

 素早い。

 なんとか回避する。

 直後、鉄拳が強く地面に叩きつけられ、ひび割れる音が鳴る。

 ガードもなく受ければ、骨が粉砕しても不思議はない威力。

 

 更にポルカのステップを追いかけて、追撃が。

 今度の一撃は回避の間もない。

 致し方なく、ガードで威力を分散させる。

 

「い″っ……」

 

 全身に痺れるような衝撃が巡る。

 分散してもこの威力。

 主に両腕に迸る痛みに顔を顰めながら、勢いのまま後方へ滑る。

 コン、と牢屋の檻に背が接触した。

 

「はい、借りるよ船長!」

「はぇ――?」

 

 後ろ手に檻の隙間からマリンに触れると、マリンが突然脱力した。

 ガクッと地に膝をつき、ガシッと檻を掴んでもたれかかる。

 マリンの力が、吸われたよう。

 

白の弾丸(ホワイトブレッド)

「っ――ふん!」

 

 ころねの正拳突きを似た動作で迷わず打ち返した。

 お互いの拳が炸裂し合い、腕を通じて衝撃が駆ける。

 パワーのぶつかり合いが始まる。

 

「っつーー。っぱ全然足りねぇか」

 

 明らかにポルカへの反動の方が大きい。

 パワー不足は明白だ。

 もっところねに肉薄するには、更なるパワーを要する。

 

「増強した……?」

 

 拳の接触を通じて感じれぬほど、鈍くない。

 ポルカにもパワーアップする手段がある、ということ。

 

小粒の弾丸(コーンブレッド)

 

 ころねの連撃がポルカに迫る。

 小刻みに放たれる拳を上手く見極めて、受け流しと回避を分別する。

 そして細心の注意を払うべきは――

 

「っと!」

 

 打撃に紛れてポルカの腕を掴みにくる手。

 それだけは絶対に受け取れない。

 ポルカはその手だけ、足で捌く。

 右脚を振り上げて、ころねの左手を力強く弾いてみせた。

 

「他人の力を抑える能力の発動条件は、触れるだけじゃないでしょ」

「――」

「さっきから、拳がぶつかり合ってるもんね」

 

 先刻、マリンのように脱力したポルカは、思考した。

 自分の能力のように、触れるだけなら、あの時腕を掴まれたのは不自然だ。

 明らかに拘束目的ではなかった。

 なら、掴む事が発動への鍵だ。

 正確にはきっと、細かな理由があるはずだが、それは敵の動作をよく見て、瞬間で判断する。

 

 こいつ――戌神ころね、の能力は思い直せばムラばかりだ。

 暗闇で索敵したり、パワーが突然上がったり、人の力を弱めたり……。

 単語だけ聞けば明らかな強能力だが、分析していけば、それなりの弱点や難しい発動条件などが見えてくる。

 

 ころねが一度、ポルカから距離を取る。

 どうやら図星のようだ。

 

「すごいですよぉ……ぽるかぁ……」

 

 背後から萎れた賞賛が聞こえる。

 聞こえるのはそれだけ。

 

「トワ様も、ちっと借りるよ」

 

 鍵は全部ハズレだったようだし、もうトワから借りてもいいだろう。

 残念ながら、フブキは手の届かない位置で永遠に悄然としている。

 呼んでも真面な返事はないから、使えない。

 

「っ――! なに……?」

 

 トワの全身から力が抜ける。

 間違いなく、力を吸われた。

 誰に? ポルカしかいない。

 

「ただの加法と減法だけど、後でね」

 

 この脱力が、計算によるもの?

 確かに、カズカズとは数字に関係した不思議な力だ。

 もしかすると……カズカズの実って、結構滅茶苦茶な能力なのでは?

 

「げ、減俸……⁉︎」

「引き算……の方、でしょ……」

 

 何故減俸に反応するのか。

 社畜時代があるとはいえ、まさか減俸を食らったことはあるまい。

 働く者として、嫌な単語であることに違いはないが。

 

「っそでしょ……あんた、どんだけパワー高ぇの?」

「――?」

 

 ポルカ以外には言葉の真意が謎である。

 ころねの力が圧倒的なことは、火を見るより明らか。

 だがポルカは、まるでそれを、実数値として見ているように発言して……。

 

「――⁉︎」

 

 トワは、ポルカの見えている世界が、何となく理解できた気がする。

 だが、ポルカの言う通り、今は敷衍する時間もない。

 簡潔な解説すら、敵に情報を聞かせる自滅行為。

 

「でも、流石に誤差でしょ」

 

 両腕に力を込める。

 漲る力を感じる。

 だが、やはり初使用の反動も大きい。

 能力者として器は完成しているが、慣れない業は身体への負担となる。

 だから、早期決着を。

 

「ぉらよ!」

「はっ――!」

 

 両者の拳が交差し、火花を散らす。

 パワーこそ互角に近いが、やはり動きのキレの面で、ポルカが若干劣っている。

 ポルカの攻撃は届かないが、ころねの拳は稀にポルカのガードを撃ち抜く。

 

「ああ、クッソ!」

 

 運動能力の差が如実に出ている。

 もっと、筋力トレーニングが必要か。

 

 殴り合いの中で、掴みとパンチを見極める事に神経を使っている点でも、ポルカが僅かに不利だ。

 

渾身の一撃(ハードロール)

 

 このままでは一撃も入らない。

 なら、ここは敢えて一発貰う覚悟で撃つ。

 

「数珠つなぎ」

 

 今まで通り、パワーを繋ぐ。

 それを両腕に。

 ころねの拳を片腕で受けつつ、もう片方の腕で反撃に転じる。

 右腕からのダメージは絶大だが、その甲斐あって初めてポルカの打撃が命中した。

 

「ぅ……」

「ぎっ……」

 

 再び互いに距離を取る。

 もう、目が慣れすぎて、暗闇でも概形がしっかりと見える。

 ころねは腹を押さえ、ポルカは右腕を握る。

 

「どうですかぁ……ぽるかぁ……」

 

 ぐでっとしたマリンが手持ち無沙汰な様子で話しかけた。

 それでも船長か?

 せめてもう少し身を案じてもらいたい。

 

「ふぅーー……」

 

 ひと呼吸おく。

 

 いざ――

 

 ガン!

 

「「――⁉︎」」

 

 とある騒音で、場の空気と戦況が一変する。

 始めは逆光で人影もよく見えない。

 だが、扉が閉まり、乱入者が歩み寄ればその姿はしっかりと目に映る。

 

「この2人拘束したけど、どうする?」

 

 ぼたんが指から伸ばした紐状の何かでミオとおかゆを拘束し、ここまで連行してきた。

 その2人をころねに見せつけながら、ポルカに問う。

 

「…………」

「そうそう、あんたはそれでいい」

 

 ころねが黙り込み、目を伏せた。

 それを感じ取り、ぼたんは他2人同様に指先から紐状の何かを伸ばして、ころねをも拘束した。

 

「んで、どうすんの?」

 

 ポルカに歩み寄る。

 かなり身長差があるな。

 

「……」

 

 マリンもフブキもトワも、言いたいことだらけ。

 フブキは変わり果てた友達へ、マリンはこの世界線でも圧倒的強者のぼたんへ、トワはラプラスの証言と一致する2名へ。

 

「それが、やっぱ鍵がなくて開かないんだよ」

「――は?」

「は?」

 

 全ての鍵を試し、開錠できなかった。

 そう伝えのだが、ぼたんがバカにするような目と声で一言漏らした。

 思わず、ポルカも真似して返す。

 

「いや、は? だから、鍵が開かないから――」

「ははっ、何言ってんの? 開いてんじゃん」

 

 全思考が一時停止。

 処理し、牢屋の扉を見る。

 

「「…………」」

 

 分かりにくく、控えめに、鉄格子の整列を乱すように、ほんの僅かにだけ扉が開いている。

 

「「――は?」」

 

 初めて海賊団の息が揃った瞬間だった。

 

 

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