解放された戦士、獅白ぼたん。
「ここに来て急にコイツらに襲われてさ」
「え、そうなん?」
「マジマジ。そんで、銃っぽい能力者にやられて捕まってたんだよ」
「銃っぽい?」
「もう1人のやつ」
もう1人?
この2人ともう1人、の意味なら、ミオだろうか。
銃っぽい能力か……。
「しっかし……どうやって牢屋から出たん?」
「あ? あんたじゃねぇの?」
「いや、そんな暇無かったし……ってか、鍵は全部持ってたのに」
つまり、今ポルカが手に持つ鍵は全てハズレの鍵。
「まあいいや、助けたからさ、代わりにちょっと手伝って欲しいんだけど」
「ん? でも、あんたじゃないんでしょ?」
「ここにいる時点で貢献してるはずだから」
「ふーん……ま、いいよ、コイツらに反抗する方が気分いいし」
優しさではなく、復讐的な感情で動く。
そんな会話中、ころねが復活し、乱入してきたおかゆと肩を並べ、臨戦態勢をとる。
「何すりゃいいの?」
「アタシは仲間を助けたい。だから、仲間を探す時間を作ってくれ」
「足止めね。頑張るけど、銃の奴が来たら全員はキツいかも」
「頼むわ」
ポルカは更に奥へ進み、マリンの元へ近づく。
幾度か通路を曲がったり、扉を出たり。
思った以上に時間がかかる。
想像しているような簡単な作りでないため、間近にいても牢屋に着かない。
あまり激しく殴り合う音は聞こえないが、ぼたんの様子はどうだろうか?
相当強いらしいが……。
他人の心配もそこそこに走り続け、やがてマリンたちの牢屋を発見する。
「いた、船長!」
「ポルカ!」
もはや隠密も意味を成さない。
声をかけ、牢屋に近づく。
視界が悪く見辛いが、マリンとトワは普段通り。
複製体は死んだように動かない。
そして何より、フブキの圧倒的な落胆具合。
「流石。船長が見込んだだけはある!」
「一度もそんな素振り見たことないけど……ちょっと待っててください、鍵が多くて」
ガチャガチャと鍵を漁り、片っ端から試していく。
何度も鍵穴に差し込み、無理矢理回そうとするができない。
数回試したあたりで……
「ポルカ!」
暗闇と死角に潜み、上手く接近してきたのはころね。
ぼたんの足止めはここまでらしい。
「っぶね!」
トワの警告のお陰で一瞬早く察知し、掴みに迫る腕を払い退ける事に成功した。
そして一度、牢と敵から距離を取る。
その際、ジャラジャラと金属が掠り合い、地に落ちる音がした。
「船長! それで全部です、試してください」
ポルカは牢屋内に鍵を譲渡し、セルフ脱獄を頼む。
マリンよりも先にトワが鍵を拾う。
そして、格子の隙間から手を伸ばし、順々に試していく。
「ころね先輩……」
「……!」
マリンの呟きに、フブキは漸く顔を上げた。
そして、目が慣れる数秒を要し、敵の正体を確認した。
「フブちゃん! コイツの弱点見れない⁉︎」
「…………ころね」
目配せもなくポルカが叫ぶが、フブキは応えない。
誰にも分からぬよう、眉を強く寄せ、瞳を潤ませる。
応答無しで、ポルカはフブキの内心をある程度把握した。
助力は諦める。
「ノルマはコイツか」
非常に苦手な正面衝突。
すっと抜刀し、鋭い剣先を見せつける。
「ポルカ」
「……」
フブキのか細い願いをマリンが伝達する。
なんてやり難い制約を付与してくれるんだ。
マリンといい、フブキといい、毎度注文をつけてくるため、注意を散らしながら闘わされる。
怪我させるな、なんて闘いにならない。
そんなハンデを付加するなら、せめてフブキの力が借りたいが……いかんせん、彼女は今傷心している。
ポルカは剣を鞘に納め、喧嘩でもしようかといった体勢を取った。
「ころねってったっけ?」
「……」
「悪いけど、さっきみたいにやられたりせんから」
先程は腕を掴まれて、身体が真面に動かなくなった。
トリガーは「触れる事」以上。
なら、触れられなければいい。
ポルカは構えを解かない。
ジリジリと靴を擦らせるが絶対に自分からは仕掛けない。
マリンたちが牢から出す時間を稼ぐことが大切。
だから、下手に仕掛けて捕らえられてはならない。
「船長、こっち来て!」
「え、は、はい!」
マリンを通路側へ呼び寄せる。
「
「――!」
「ギャァーー!」
作戦通りに進めさせぬよう、ころねは檻に駆け寄るポルカを狙った。
予測していたのか、ポルカは早めの回避で距離を置く。
逆にマリンは、何も考えてなかったような仰天ぶり。
ころねの右腕が、檻に打ち当たり、がっしり握っていた。
ガキン、とマリンの目前で檻が歪む。
バカにならない馬鹿力。
「え、何⁉︎ 囮⁉︎」
「いいからそこにいて!」
「はい!」
「ポルカが上司なんか?」
鍵を弄りながら二人のやりとりに茶々を入れるトワ。
既に半分以上の鍵は試験済みで、次々と地面に捨てられる。
どうやら、本当に鍵の的中は期待できなさそうだ。
「
ころねの鉄拳が迫る。
素早い。
なんとか回避する。
直後、鉄拳が強く地面に叩きつけられ、ひび割れる音が鳴る。
ガードもなく受ければ、骨が粉砕しても不思議はない威力。
更にポルカのステップを追いかけて、追撃が。
今度の一撃は回避の間もない。
致し方なく、ガードで威力を分散させる。
「い″っ……」
全身に痺れるような衝撃が巡る。
分散してもこの威力。
主に両腕に迸る痛みに顔を顰めながら、勢いのまま後方へ滑る。
コン、と牢屋の檻に背が接触した。
「はい、借りるよ船長!」
「はぇ――?」
後ろ手に檻の隙間からマリンに触れると、マリンが突然脱力した。
ガクッと地に膝をつき、ガシッと檻を掴んでもたれかかる。
マリンの力が、吸われたよう。
「
「っ――ふん!」
ころねの正拳突きを似た動作で迷わず打ち返した。
お互いの拳が炸裂し合い、腕を通じて衝撃が駆ける。
パワーのぶつかり合いが始まる。
「っつーー。っぱ全然足りねぇか」
明らかにポルカへの反動の方が大きい。
パワー不足は明白だ。
もっところねに肉薄するには、更なるパワーを要する。
「増強した……?」
拳の接触を通じて感じれぬほど、鈍くない。
ポルカにもパワーアップする手段がある、ということ。
「
ころねの連撃がポルカに迫る。
小刻みに放たれる拳を上手く見極めて、受け流しと回避を分別する。
そして細心の注意を払うべきは――
「っと!」
打撃に紛れてポルカの腕を掴みにくる手。
それだけは絶対に受け取れない。
ポルカはその手だけ、足で捌く。
右脚を振り上げて、ころねの左手を力強く弾いてみせた。
「他人の力を抑える能力の発動条件は、触れるだけじゃないでしょ」
「――」
「さっきから、拳がぶつかり合ってるもんね」
先刻、マリンのように脱力したポルカは、思考した。
自分の能力のように、触れるだけなら、あの時腕を掴まれたのは不自然だ。
明らかに拘束目的ではなかった。
なら、掴む事が発動への鍵だ。
正確にはきっと、細かな理由があるはずだが、それは敵の動作をよく見て、瞬間で判断する。
こいつ――戌神ころね、の能力は思い直せばムラばかりだ。
暗闇で索敵したり、パワーが突然上がったり、人の力を弱めたり……。
単語だけ聞けば明らかな強能力だが、分析していけば、それなりの弱点や難しい発動条件などが見えてくる。
ころねが一度、ポルカから距離を取る。
どうやら図星のようだ。
「すごいですよぉ……ぽるかぁ……」
背後から萎れた賞賛が聞こえる。
聞こえるのはそれだけ。
「トワ様も、ちっと借りるよ」
鍵は全部ハズレだったようだし、もうトワから借りてもいいだろう。
残念ながら、フブキは手の届かない位置で永遠に悄然としている。
呼んでも真面な返事はないから、使えない。
「っ――! なに……?」
トワの全身から力が抜ける。
間違いなく、力を吸われた。
誰に? ポルカしかいない。
「ただの加法と減法だけど、後でね」
この脱力が、計算によるもの?
確かに、カズカズとは数字に関係した不思議な力だ。
もしかすると……カズカズの実って、結構滅茶苦茶な能力なのでは?
「げ、減俸……⁉︎」
「引き算……の方、でしょ……」
何故減俸に反応するのか。
社畜時代があるとはいえ、まさか減俸を食らったことはあるまい。
働く者として、嫌な単語であることに違いはないが。
「っそでしょ……あんた、どんだけパワー高ぇの?」
「――?」
ポルカ以外には言葉の真意が謎である。
ころねの力が圧倒的なことは、火を見るより明らか。
だがポルカは、まるでそれを、実数値として見ているように発言して……。
「――⁉︎」
トワは、ポルカの見えている世界が、何となく理解できた気がする。
だが、ポルカの言う通り、今は敷衍する時間もない。
簡潔な解説すら、敵に情報を聞かせる自滅行為。
「でも、流石に誤差でしょ」
両腕に力を込める。
漲る力を感じる。
だが、やはり初使用の反動も大きい。
能力者として器は完成しているが、慣れない業は身体への負担となる。
だから、早期決着を。
「ぉらよ!」
「はっ――!」
両者の拳が交差し、火花を散らす。
パワーこそ互角に近いが、やはり動きのキレの面で、ポルカが若干劣っている。
ポルカの攻撃は届かないが、ころねの拳は稀にポルカのガードを撃ち抜く。
「ああ、クッソ!」
運動能力の差が如実に出ている。
もっと、筋力トレーニングが必要か。
殴り合いの中で、掴みとパンチを見極める事に神経を使っている点でも、ポルカが僅かに不利だ。
「
このままでは一撃も入らない。
なら、ここは敢えて一発貰う覚悟で撃つ。
「数珠つなぎ」
今まで通り、パワーを繋ぐ。
それを両腕に。
ころねの拳を片腕で受けつつ、もう片方の腕で反撃に転じる。
右腕からのダメージは絶大だが、その甲斐あって初めてポルカの打撃が命中した。
「ぅ……」
「ぎっ……」
再び互いに距離を取る。
もう、目が慣れすぎて、暗闇でも概形がしっかりと見える。
ころねは腹を押さえ、ポルカは右腕を握る。
「どうですかぁ……ぽるかぁ……」
ぐでっとしたマリンが手持ち無沙汰な様子で話しかけた。
それでも船長か?
せめてもう少し身を案じてもらいたい。
「ふぅーー……」
ひと呼吸おく。
いざ――
ガン!
「「――⁉︎」」
とある騒音で、場の空気と戦況が一変する。
始めは逆光で人影もよく見えない。
だが、扉が閉まり、乱入者が歩み寄ればその姿はしっかりと目に映る。
「この2人拘束したけど、どうする?」
ぼたんが指から伸ばした紐状の何かでミオとおかゆを拘束し、ここまで連行してきた。
その2人をころねに見せつけながら、ポルカに問う。
「…………」
「そうそう、あんたはそれでいい」
ころねが黙り込み、目を伏せた。
それを感じ取り、ぼたんは他2人同様に指先から紐状の何かを伸ばして、ころねをも拘束した。
「んで、どうすんの?」
ポルカに歩み寄る。
かなり身長差があるな。
「……」
マリンもフブキもトワも、言いたいことだらけ。
フブキは変わり果てた友達へ、マリンはこの世界線でも圧倒的強者のぼたんへ、トワはラプラスの証言と一致する2名へ。
「それが、やっぱ鍵がなくて開かないんだよ」
「――は?」
「は?」
全ての鍵を試し、開錠できなかった。
そう伝えのだが、ぼたんがバカにするような目と声で一言漏らした。
思わず、ポルカも真似して返す。
「いや、は? だから、鍵が開かないから――」
「ははっ、何言ってんの? 開いてんじゃん」
全思考が一時停止。
処理し、牢屋の扉を見る。
「「…………」」
分かりにくく、控えめに、鉄格子の整列を乱すように、ほんの僅かにだけ扉が開いている。
「「――は?」」
初めて海賊団の息が揃った瞬間だった。