孤島を出て3日。
マリンがこの世界に来て6日。
多くは積んでいなかった食糧は、案外減ってない。
というか、量がほぼ減ってない。
一体全体、ポルカはどう料理しているのか。
いや、減らないならそれに越したことはない。
困ったのは水の方。
海水の浄化にかなり時間がかかり、常に水不足スレスレの航海を続けていた。
「ポルカー、島見えたよー」
キッチンから出て来たポルカに双眼鏡をパスして正面を指す。
ポルカは片手にザクロを持って双眼鏡を受け取る。
「あ、なんか作ってた?」
「んや、勝手に食おうとしてただけ」
キッチンを覗くと、他にも様々な果物や野菜があった。
「おー、普通の島だ。建物もある」
「出発の無人島よりはいい島ですね」
人の生命の息吹を感じる街並みが、遥か遠くにポツンと見える。
ようやくこの世界の住人との邂逅。
1人目は果たして誰か。
到達し、適当な沿岸に船をつけた。
「なんで人気の無い場所に停泊させたの?」
「え、ほら、一応海賊旗掲げてますし」
念には念を。
ホロメンやファンでなければ、海賊旗と断定できないだろうが、用心して損はない。
全エンジンを停止し、錨を下ろす。
そして梯子を下ろし、さっさと降りる。
「さて、新天地到達! 新大陸だ!」
「へいへい」
雰囲気づくりを忘れないマリンと、無視して先を行くポルカ。
潮風に髪を流されながら海沿いを歩き、町へ。
海沿いの軽く整備された道からの景色は中々のもの。
港街ではないが、海沿いに街が形成されている。
真反対は山で見えないが、恐らく発展しているのはこちらだけであろう。
「で、船長、この島では何をする予定で?」
街を片手で示して、マリンを見る。
目的は一応ホロメン探しだが、当然駆け出しの島では出会えまい。
「今は下積みの時期。役に立つ小道具とかの調達。あとは水ですね」
「そっかー」
先頭を行くポルカは海を眺めて歩速を変えず進む。
「あ、5円」
道端で、5円玉を拾った。
少し汚れた、極々普通の5円玉。
「ところで船長……」
「ぁ……ぁぁ……ぁぁぁ…………!」
「無さそっすね……因みにポルカも無一文、からの5円持ちです」
マリンはまたしても頭を抱えた。
躓く回数はこの先何万とあるだろう。
作戦を考える。
水は公共のどこかでパクる。
食糧は今の在庫を保つ。
小道具の調達は無しにして、そこらの木などを拾って小道具を自作する。
「……なんて野生的」
野生は公共の水に頼りません。
「おや? お二方、一体そちらに何用が?」
道でバッタリ、街の住人らしき男性に遭遇する。
人当たりの良さそうな顔で、二人の背後の道の先を一瞥した。
「ああ、私たち旅の者で、今しがたそこに船をつけたとこなんですよ」
「ほほう、旅の方とな? それはそれは、よくぞこの街へ」
ハハッと笑い、握手を求められた。
スキンシップが得意な人種だ。
マリンとポルカの比較的対応の得意な二人で良かったと、初めてマリンは苦笑した。
「えっと、ここって何て島なんですか?」
「ほほう、ご存知ないと! いやぁ、それなら是非是非案内させてくださいな」
マリンの問いかけに快い承諾どころか、案内役を買って出る親切さ。
第一街人が良識的な人間で安堵が現れる。
同時に、気張っていた心が緩み、空気が弛緩する。
「ここは春の島、サクラカゼ」
「……‼︎‼︎」
「一年の内の9ヶ月が春の、暖かな島ですぞ」
島の名が、マリンの耳を突き抜けた。
驚嘆が絶大すぎて、もはや無反応。
黙って話を一通り聞きながら街へ向かう。
「周期はとても不思議で、春春春夏、春春春秋、春春春冬の順」
珍妙な周期だ。
春から秋とは一体、どんな風の吹き方だろう。
「名物は、絶景の桜とたいやき、そして大神社ですな」
ポルカの物珍しさに輝く目と、マリンの驚愕に震える瞳のその大差。
ほぼ確定だ。
桜、神社、たいやき、サクラカゼ……。
「桜っても……山とか一面緑ですよ」
ポルカは街の背に聳える山の鮮やかな緑を見上げて指摘した。
「ええ、残念なことに、今は夏、観光としてはハズレのシーズンですなぁ」
「へぇ……でもそれはそれで涼しいかも」
夏と言われると、それもまた信じ難い快適さ。
この1日が特別、ではないだろう。
「そうですな、この島は風景の変化と天候で季節を定めてますから、気温は季節に左右されずほぼ一定なんですぞ」
春の国の貴重な夏は、ラッキーと言うべきかアンラッキーと言うべきか。
まあ、二人の目的は観光ではなく物資の調達。
季節なんていつでもいい。
「ですが、大神社を囲う桜並木は、どんな季節でも美しい花を咲かせる希少な桜……エリートチェリーが咲いておりますぞ。そちらはどうか是非、一眼見ていただきたいですな」
さらに核心へと近づく新単語。
「エリートチェリー?」
「名前ダッセェ……」
季節を無視して咲き続ける、猛々しい樹木なら、もっと凛々しい名前か、もしくは美しい桜に似合う、華々しい名を与えてほしい。
と、心中でなが〜く突っ込んだ。
「さて、ここが街ですぞ」
親切な男性の背後に付くこと10分。
潮風の吹き抜ける商店街の入り口に到着した。
「どうぞこの先は、お好みの商店を巡り、是非とも締めは、案内板に沿って大神社へ」
と、根絶丁寧に案内を済ませると、男性は静かに去って行った。
「優しい人だったね」
「そうだね〜」
未だに長時間の二人きりが馴染まないマリンとポルカ。
ポルカはまだ出会って数日の感覚だが、マリンはもう、長い付き合いだ。
意識に差が生じる。
「上部だけの可能性も十分だけども」
「そう? ポルカが疑心暗鬼なだけじゃない?」
「でっかい根拠じゃないけど、ここに来るまでに、他の人に合わなかった」
「それは……偶然ってことも」
商店街として、人口が少ないなりに賑わうこの場所だが、この入口を境に人通りがめっきりと減る。
それは恐らくこの先に何もないから。
実際、この沿岸通路は商店街ほど綺麗な舗装がなされていないし、建物も畑も漁場すらもなかった。
「あとは、あのおじさん、ポルカたちと反対方面から来たのに、ここに着いたら住宅街へと消えてった」
「……た、しかに……それは怪しいか」
二人を迎えに来たような、一連の綺麗すぎる流れ。
その違和感をポルカは説いた。
勿論、ただの散歩であった、なんて事もある。
けれど、全てを早とちりするくらいには、警戒して望むべきである。
なんせこの世界は、マリンの知る世界とは違うのだから……。
「なんてね、冗談」
「……」
ポルカは突然パッと明るくなる。
ふと、マリンの脳内に、ポルカの感情ジェットコースターが過ぎる。
「それよりも神社」
「え?」
「仲間?がいるって睨んでんっしょ?」
目利きがいい。
ホロメンを理解しているのは、マリンだけでない様子。
二人は変わらず徒歩で大神社へと赴く。
「あ、そう! これさ、何か知ってる?」
マリンは一つ、船より持参した小箱をポルカに見せた。
小さな宝箱。
ポルカと視線を合わせ、開いて、と催促した。
「……ああ、能力の」
周囲に気を配りつつ、観察している。
「何の実?」
「さぁ」
「不明の能力は怖いな……」
「ですよね」
赤と黒を基調とした不思議な果実。
魔界の力でも得られそうな見た目だが、ハズレだった時は泣ける。
「ポルカ……喰う?」
「んや、あたしは食べれん」
「……? 何で?」
「既に食べてっから」
「…………マジ⁉︎」
しれっと告白された。
マリンが食べた事を話した時、何も言わなかったのに。
「……持ち出したって事はさ、売るつもり?」
「ん? あ、はい。ものによっちゃ億超えるかな〜、って」
「当初から金ないの気付いてたんかい……」
ポルカは箱を閉じ、船長に投げ返した。
「将来の仲間のために残しといた方がいいんじゃね?」
「仲間に……食べさせるために?」
「そう」
思い悩む所は、様々あるが、ポルカの助言を今は了承しよう。
マリンの雑な判断で失敗はしたくない。
「……! ところでポルカ、どんな悪魔の実食べたん?」
「……ん? ポルカ? ポルカが食べたのはねえ、『カズカズの実』」
「カズカズ…………? カズー?」
「いや何でや、普通に考えて数字の数やろ」
ポルカ、カズ、と言われると、咄嗟にカズーの音が響いたのだ。
だって、ポルカだもん。
「結構便利な能力だよ」
「へえー、どんな風に?」
もう、目の前には神社とエリートチェリーの並木道がある。
「複製とか」
ポルカは片手の平に拾った5円玉を置き、マリンに見せる。
ギュッと一度握り、もう一度開くと、5円玉は二つに増えていた。
「うわ、チーター!」
「試しだって、そんな不正な金策はしねえから」
一つの5円玉を道端に投げ捨てると、落下直前で崩壊した。
「複製物は最大同時に10個まで。ただし、複製物の原型が大きく損なわれた場合は消滅せずに残り続ける。壊れたものは、その時点で複製物としてカウントしなくなる」
大体こんなもん、と締めくくる。
マリンの視点では、優秀すぎる能力。
なんせマリンの能力がハズレそのものだから。
「それよか神社入らね?」
「そうしましょうか」
ポルカは急に静かになると、鳥居を指していった。
鳥居を潜り、小さな橋を渡り、賽銭箱を前に佇む。
静寂の中で小鳥が囀る。
「みこちー! いるー!?」
遠慮なく、マリンは叫ぶ。
声が木々に吸われてゆく。
そして、パサッと、数羽の鳥が羽ばたいた。
咲き誇るエリートチェリーに見守られ、二人は時を流す。
「みこちー! いるー!? 話があるんだけど!」
もう一度、空へ叫び返答を待つ。
だが、やはり声は木々に吸われて行く。
「いなそうですね」
「まあ、神社に人は住んでないでしょ」
諦めの早いポルカは一歩神前へと進む。
じゃっ、じゃっ、じゃっ、じゃっ。
と、砂利を踏む音が耳を擦る。
「あんだぉめぇらは……うるせぇな」
まず初めに目に映るのは、愛くるしい容姿。
続いてその巫女服。
そして表情。
少しツンとした表情で目を細めている。
明らかに警戒されている。
歓迎はされてないが、マリンは喜びに舞い上がりそうだった。
「いましたね」
「みこち!」
早速あだ名呼び。
相手に記憶がなければ、距離をガン詰めする陽キャにしか見えない。
いや、名前を聞いてないため、ストーカーなどの不審者リストに名を連ねる結果となるやもしれない。
「だからうるさいにぇ……一応公共の場なんだけど」
マリンとポルカに特別な態度を取らない。
記憶はないと見ていい。
でも、早々に二人目のメンバーを見つけた。
幸先の良いスタートと言えよう。
「あー、ごめんなさい」
ポルカは迷わず腰を低くし、軽くだが謝罪を入れる。
が、マリンはみこをまじまじと見つめる。
「……何の用? 今大変な時だから、構ってる時間は多分ないにぇ」
ポルカは語尾を聞くたびに首を傾げる。
記憶にないため、にぇ、に違和感を覚えるのだろう。
「あっ、えっとですね……ん? 大変って、何かあっ……たんですか?」
タメと敬語に戸惑いつつも、敬語を使用してマリンは質問を返す。
「質問で返すんじゃにぇえよ」
「あ、はい、すみません」
ありきたりながらにも、的確な指摘に調子が狂う。
みこちって、こんな感じだっけ?
と、記憶との差異が際立ち始める。
「本物の巫女なの?」
「見ての通りだにぇ」
素っ気無い態度を続けるみこ。
マリンの知るみこは、こんな時ムッとして胸を張る。
エリート巫女だと虚勢を張る。
「そんなこと聞きに来たの?」
「あー、いや! 違くて……」
「じゃあ何? 煮えきらにぇ奴だなぁ」
「ぐっ! 何故か非常に刺さる」
普段と異なる語調が、マリンに強く突き刺さる。
互いの認識の差故だろう。
「……」
「はい、えっと、ここにみこちが居るかな……って、そう思って確認しに来ただけ」
「はあ? それだけ?」
「それだけ」
「……怪しい」
「そうなると思った……」
みこの結論に、マリンは涙目。
トホホと肩を落としていた。
からんからん。
パン、パン。
そんな2人をよそに、ポルカはテキトーな作法で賽銭していた。
お金は拾い物の5円。
罰当たりかもしれないが、持ち合わせが他になかった、許せ神。
「おお、お前! しけてっけど、いいやつ!」
目を煌めかせ、ポルカに擦り寄る。
金銭で釣れる、何とも薄情な巫女だった。
「賽銭に反応って……厳禁な巫女様だなぁ……賽銭だけに」
「だゃぁまれ! こちとら資金運用てぇへんなんだぞ!」
「ポルカ〜、抜け駆けずるいって。船長もみこち釣りたい」
「何言ってんの?」
「おめぇにはぜってぇ釣られにぇから」
「うっせぇ! 抱かせろ!」
「何言ってんの⁉︎」
「こ、こいつやべぇ……」
マリンの唐突な怒り?にみこは大きく引いた。
もはや会話が成立してない。
「よしポルカ、みこちを連れてくぞ」
「いや、流石に説明して了承の上で」
「ゆ、誘拐!」
余計にみこが距離を取る。
赤の他人がみれば、マリンは犯罪者にしか見えない。
……待てよ、海賊始めたから犯罪者か。
いや、まだ罪は犯してない、セーフだセーフ。
ポルカに宥められ、マリンはみこに事情を説明。
とは言え、ホロメンや転移のことは伏せる。
つまり、海賊として仲間を集めていると。
「やだ!」
強烈な即答を得た。
「な、何故だぁ!」
「こんな出逢いでOK貰えんでしょ普通」
至極当然である展開。
これに懲りたら、悔い改めるべきである。
「くそっ! かくなる上は、ポルカ! みこちを複製するんだ」
「それでいいのかよ」
全く懲りてない。
「まあ、8割くらいは純粋に嫌だにぇ」
「結構割合デカくない?」
「船長が悪い」
マリポルの茶番をみこはスルーして続ける。
なかなか肝が座っている。
「残りの2割はさっき言った通り大変な時だから」
どちらにせよ、という事らしい。
それならば仕方ないが、大変な事の詳細を知りたい。
「その大変な事ってさ、何なん?」
「会ったばっかの奴に言えないにぇ」
またしても丁寧な正論で返される。
やはり、性格も記憶にあるホロメンとは完全に乖離していると見るべきだ。
語尾や服装が一致するのは偶然。
この先もし、他のメンバーに会った時、面影すらない可能性も考慮しておくべきだ。
ぺこらの「ぺこ」がなかったり、ラミィが酒嫌いだったり、スバルとシナジーがあったり、そらが滅茶苦茶悪人だったり、ロボ子がとても高性能だったり、するかもしれない。
「諦めましょうよ、船長。みこちさんにも事情があるんですから」
「みこちさんじゃない、みこち」
「あー、そう、みこちみこち」
「勝手にあだ名付けて……」
ポルカはみこちと呼ぶ。
そう定着しているため、こちらでもそうさせたい。
「……仕方ない、今日の所は諦めよう」
「明日も来んの?」
「勿論!」
「来んな!」
微笑ましい団欒。
その最中だと言うのに……!
ズドーン。
空から大きな4つの立方体で形成されたブロックが降ってきた。
T型のブロック。
激しい地鳴りと砂埃を起こして。
「なに⁉︎」
「まずい……!」
展開の掴めない航海組。
一方みこは、予見していたかの口ぶり。
大変とはこの事か。
「こんな辺境地に、強い能力者……ほんとかなぁ〜」
上空から綺麗で聴き惚れる声がした。
マリンの耳を一瞬で貫く、その声。
ホロメンが集まる。
「来やがったにぇ……星街、すいせい!」
この世界に、ビジネスコンビの概念は無いそうだ。
皆様どうも、作者です。
0話だけだとと思い早々に1話も投稿しましたが、今後はペース緩めると思います。
今回でポルカの能力名が公開、そしてみこめっとの登場。
一体どんな能力を持っているのか……?
さあ、今回はポルカの能力が出たので、妄想対象はポルカ。
ポルカが原作の能力を得るなら、グルグルの実ですかね。
はい、ではまあ、また次回に。