ポルカの全力の攻防と、ぼたんの圧倒的な力によりミオ、おかゆ、ころねの捕縛に成功した。
不思議な奇跡に見舞われ、なんとか宝鐘海賊団も全員解放。
適当な場所から手錠と灯りを持ってくる。
3人の拘束を、ぼたんの能力から手錠へ。
そして明かりを灯し、この面子で情報を交換……しようとしたが……。
「ミオ……」
「……」
フブキが灯りに火照る頬に涙を流して、そっと歩み寄る。
ミオは果たして……洗脳なのか。
ころねは? おかゆは?
「……」
フブキの問いかけにも応答はない。
本人の意思か、それともはたらく強制力か。
「フブちゃんのことも踏まえると、まあ洗脳でしょうね……」
満場一致の考察をポルカが口にする。
ただ、ぼたんは首を傾げていた。
「ってかさ、あんた誰なん?」
「あたしは獅白ぼたん」
「捕まってたのを助けた」
「……犯罪者じゃないよね?」
「違うんじゃない?」
トワがようやくぼたんの存在に突っ込む。
「そういうあんたらも何なん?」
「ってかポルカ! さっき何したん?」
「あの……3人のことを……」
「それよりも鍵開けたの誰?」
予測された収拾不能の事態。
思い思いの疑問をそれぞれが並べ、誰がなんと言ってるのやら……。
普段なら輪に乗っかって混乱させてるタイプだが……マリンは船長。
コラボ配信で言うところの、企画者に当たる。
ここはビシッと船長らしく決めさせてもらおう。
「ハイ! みなさん落ち着いて!」
「「――?」」
「1人ずつ、1つずつ解決していきましょう」
皆が静まり、暗い牢からの隙間風が聞こえる。
ああ、素晴らしきかな、船長。
これが人を纏める時の「快感」なのか。
メチャクチャ気持ちいい!
「じゃあ、まずぼたんさんから」
と、敢えて身内を後回しにして、ぼたんから話を聞く。
船長の顔を立て、他の者はキチンと耳を傾けていた。
「じゃあまず、アンタらは何?」
「海賊です」
「…………」
マリンの即答で解答終了。
しばし沈黙する。
「……海賊? アンタらが?」
「……弱そうって思いました?」
「おん」
うーん、ストレート!
ぼたんのスパッと言い切る性格に寧ろ懐かしさを感じる。
しかし、それは事実。
否定材料などない。
マリンはうっすらと笑って流した。
「じゃあ、さっき話に出てた、洗脳って何?」
「流石、鋭いですね」
何気なく核心をつくのもまた、彼女らしい。
「人を操る能力者が今、密かに幅を利かせてるみたいで、うちのフブちゃんも被害者の1人だったんです」
「……へぇ」
「んで、まあ流れ的にこの3人もかなって」
「洗脳かぁ……」
「心当たりでも?」
「んや、心当たりはない。単なる心配事」
簡略化した説明だが、通じただろうか。
まあ、洗脳に気をつけろ、と言っても、顔が割れてない以上不可能だ。
存在だけ認識していれば、程度だ。
「おっけ、もういいわ」
「ほいほい、んじゃ次トワ様」
ぼたんが手を上げて、質問終了を合図したので、次はトワへとパス。
「トワはポルカの事。さっき何したのか、それといつからミオさんを疑って、どうこの場所を特定したのか」
この島での圧倒的MVPであるポルカ。
様々な観点で慧眼すぎる。
居場所の特定なども、優秀にこなしていた。
真似できるとは思えないが、ポルカがどんな意図を持って行動し、どんな技を使って策略を立てたのかを知りたい。
それに、仲間の能力を理解すれば、活用の幅も広がる。
「ミオさんを疑ってたのはここに来る前から」
「――⁉︎」
「みんなだって少しは考えたでしょ。事フブちゃんに関しては特に」
「…………」
マリンもフブキを見て僅かに意識していた。
フブキが洗脳にかかっていたのなら、その歯牙が親友に及んでいても不思議はないと。
それを口にせず、有り得ないと決めつけていたのは、罪悪感を覚えるから。
それを直感したからこそ、ポルカも確証を得るまで話す気になれなかった。
「だから細工した」
「細工?」
「ポルカの能力は複製に加えてまだ、幾つか使い方がある」
ほうほうと、フブキ以外が真剣に聞き入っている。
「内ひとつ、マーキング」
「マーキング?」
「なんか……エロい?」
「全くエロくない」
人差し指を立てた。
「一度触れた物、人にマークをつけることができる」
「それ、なんの役にたつの?」
「マークを付けた物の居場所は一定範囲内なら分かるし、マークしている間はそれに触れずとも複製ができる」
「GPSみたいな感じ?」
「じーぴーえすってなに?」
「え、えっと……発信機?」
「発信機……?」
「とにかく! 遠くなければ、場所がわかるってこと!」
似た性質を持つ物を挙げたが、この世界線にはまだ存在しないらしく、寧ろ混乱を呼ぶ。
最終的に、その文明の発展には深く触れず。
まあ、存在しない物なら深掘りする必要はないだろう。
「マーキングは1、2、3までの番号があるから、マークできるのは3つまで」
「同時に3つも⁉︎」
「1番は例の親友にマークつけっぱなしだから今は使えない。で、2番は船長につけてるから、基本的にフリーなのは3番だけ」
「え、船長監視されてんの?」
「そりゃあもう、船の頭失うわけにはいきませんからね。行動も読めませんし」
「えぇ……こわい」
今までマリンはポルカに動向を監視されていたと言う驚愕の事実。
これからは、その目を気にして夜も眠れない……と言うのは嘘で、怖いのは1つだけ。
「ただまあ、場所がわかるだけなんで、何してるかはさっぱりですよ」
「ふぅ……」
「そう、だから、昨晩部屋出て何してたのかは知りません」
「「ぅぇ……」」
「ポルカ、ダメでしょそんなこと言っちゃぁ」
「……」
何をしていたのだろう?
あまり、いい予感はしない……というか、間違いなく……。
「みんな、汚物を見る目はやめようね。傷付くから」
マリンの脳内は所詮ピンク色。
何を考え、何をしていたのか、知る必要はない。
「そんな話、今更でしょ。んで、さっきポルカが2人から借りた物だけど」
「ねえ、船長ってそんなにカースト低いの? 船長だよ、船長」
「船長うるさい」
「え、なに、これからこんな雑談ある度にこの扱いうけるの?」
キャンディータウンでも同様の件があった。
会話がシリアスになればなるほど、マリンの存在は弾かれやすいのかもしれない。
船長なのに、船長なのに!
「これが雑談? あんたの人生物騒っすね」
ぼたんが拾った。
ちょっと予想の斜め上だが嬉しい。
好き。
「ポルカは人のパワー数値を見て、それを借りることができる」
「ま、そんなとこやろうとは思ったけどさ……」
「ポルカのパワーは20」
「それ、高いの?」
「女性平均は20、男性平均は35」
ポルカのパワーは丁度平均。
「パワーってのは純粋な力の事だから、パワーが高い人が強いって訳じゃない」
「でもそれさ、使ったらトワたち動けんかったじゃん? なら、敵に使えば良くない?」
「自分よりパワーの高い人からは借りれないし、数値も見れない。パワーの大きい人に敵うわけないって事よ」
これはまた、何やら面倒な能力だ。
しかし、それはつまり、ポルカのパワーはマリンとトワより高い、と言うことになる。
ならば、2人は20より低い?
「船長のパワーは10で、トワ様は25」
「……?」
「船長からパワーを借りれば、ポルカのパワーは29でトワ様を上回る。つまり、あたしのパワーが変化すれば、見える者も借りれる者も増える」
「ポルカ、20+10は30ですよー」
ポルカの解説に対し、マリンが煽るように水を差した。
誰でもできる算数のミス。
煽り顔がやけにうざい。
「パワーが0になったら大変だから1だけ残したんだよ」
「へ、へぇ……」
「0になるとどうなんの?」
「さぁ、やった事ないけど、活動停止して死ぬんじゃない?」
「最強じゃん」
「いや、んな事せんから」
真偽は不明ながら、強力なことに違いはない能力。
パワー1の状態でも、気怠さが増して動く気になれなかった。
弱い兵士をかき集めれば、ポルカは化けると言うことだ。
「でもそれ、逆にころね先輩のパワー高すぎたって事?」
「そう、3人のパワーを合わせた数値は53。ころねさんはその上をいく」
「えっぐ……」
男性平均を余裕で上回る。
それが能力によってパワー強化されているとしても、十分に高い。
「でもその能力使い道少なそうじゃん」
「えそう? 船長はめっちゃ使いやすいと思ったけど」
ぼたんとマリンで評価が二分した。
「まあ、味方からパワー借りれるのは今回みたいな特殊な場合だけだし、そもそもあたしのパワーがそんな高くないから」
自身のパワーが高ければ、敵から直接奪ってダウンさせられるが、低ければそう上手くはいかない。
「……? そうですね」
「分かってないっしょ」
テキトーな相槌に嘆息する。
「で、で、ここのメンバーのパワーってどんなもんですか?」
マリンの興味はそこへと移る。
マリン自身のパワー不足は自覚ある為、あまり凹んでいない。
寧ろ、トワの25という数値に驚いた。
では、ミオとおかゆ、ぼたん、フブキはどうだろう。
「フブちゃんは15、ミオさんは20。ころねさん、おかゆさん、ぼたんさんは見えん」
「15……」
「微妙ですね」
「船長にだけは言われたくないです」
マリンに揶揄われ、フブキは朴を膨らませた。
少し、元気になってくれたかな?
「ぼたんさんところね先輩はまあ……って感じですけど、おかゆ先輩も高いんですね」
少し意外性がある。
ころねと比較されやすいからだろうか。
イメージ的におかゆは、平均のやや下あたり。
「まあ、パワー数値なんて気にせんくっていいっすよ。あんま使わないんで」
と、これだけ解説しておいてポルカは投げやりに締めた。
要するに、今の時間は無駄。
「そう? なら次行きましょうか。はいポルカ」
ポルカの解説が終わり、マリンはそのまま質問を促す。
「ん、じゃあ、鍵開けたの誰?」
「「…………」」
質問への返答はない。
マリンがぐるりと見回しても、横に首を振るだけ。
この中に、牢屋の鍵を開けた救世主はいない。
「妖精かなんかですかね」
「はあ?」
マリンの戯言をわざわざトワが拾う。
いつもの、根も葉もない言葉だと思った。
「いるみたいなんですよ、この国」
「……妖精が?」
「まあ、見えない『何か』が」
「――?」
不可視の存在は把握したものの、正体やその原因などは一切解明できておらず、マリンも詳らかにはできない。
この説に納得はできないが、他の推測もできず、この話題は途絶える。
そして残るは……。
「えっと……そろそろ、3人のこと……」
フブキが控えめに挙手した。
そう言えば、フブキは一応人見知りだが、こんなに消極的なタイプだったろうか?
「そうですね」
「船長なんとかしてよ」
「無茶振り!」
「……」
トワが雑に振るが、フブキは結構期待していた。
なんせフブキはマリンに救われたと思っている。
その真相は未だ闇の中だが、フブキは大いに期待を寄せている。
なぜなら他に縋る糸がないから。
カランカラン……。
え?
何の音――
「ぎっッ――‼︎」
「どわっ」
「――⁉︎」
何が起きた⁉︎
トワの足を押さえて屈み込んでいる。
ポルカが吹っ飛んで壁に激突する。
ぼたんが脱力して地に伏している。
「何! ど、どうなって――!」
「ぁ――!」
「のわっ!」「ふぇっ⁉︎」
フブキとマリンの脚に妙な感触の物が絡まり、2人を引いた。
受け身も取れず転倒する。
石材の床に衝突し、痛みが走る。
「っ⁉︎ ミオ、やめて!」
「あぶな……!」
「わっ!」
暗晦の中、朧げにミオの動きが見えた。
フブキを眼下に置き、右腕を銃のように構える姿を。
旧友に憐憫も容赦もない酷烈な瞳。
そこに、嘗ての友情や愛情は、ない。
口を開く暇があったなら、回避行動も起こせたはずだ。
だが、フブキは必死に言葉と瞳で訴えるだけ。
あのままではきっと、何かがフブキを撃ち抜いていた。
だから、ぼたんは絡めたままの脚を引いて、助けた。
序でにマリンも引き寄せる。
「あ、あたしを……担いで……」
「へ! な、なな、何で⁉︎」
「いい、から」
「分かりました!」
這い蹲るぼたんからの指示に周章するフブキに対し、マリンは嬉々としてぼたんの身体を担ごうと上半身(主に胸部)や下半身を触診のように触れる。
ぼたんは険しい表情を作りマリンを蔑視する。
彼女の邪推は間違いなく的中している。
「オッら!」
「どおおおおぅ!」
ころねの追撃に絶叫する。
ギリギリ誰にも命中はしない。
「ふざけてないで……早くしろ……‼︎」
「いや、重くて持てないんですって!」
「はあ……⁉︎ オマエ重いとか……ふざ、けんな……!」
「違う違う違う違う‼︎ そうじゃなくて船長の非力さガァァァッッ――‼︎」
マリンの場を弁えないセクハラに怒り心頭なぼたん。
口調や言葉遣いは怒っているが、なんせころねの能力で血が上手く巡らない。
強く叱れない。
そんな茶番に水を差すように、ミオの乱射がマリンを狙う。
何故、一発も当たらないのか不思議だ。
ビビりが洗練されて避けることに特化しすぎている。
なのでオマケに逃げ足も速い。もちろん、逃げ足に限ってではあるが。
「せ、船長!」
「逃げます!」
マリンが下半身、フブキが上半身を担いで地下牢を飛び出る。
あれ……よく見れば、ぼたんから紐状の何かが……。
マリンの背後から、紐状の何かに巻かれたトワ、ポルカ、そしておかゆが飛んでくる。
ぼたんの能力で無理矢理引いて来ているようだ。
トワは足の負傷で動けず、ポルカは衝撃で意識がない。
そして、これまた何故か、唯一錠の外れなかったおかゆ。
ぼたんは盾にするように最後尾におかゆを添える。
そう言えば、ミオは銃を使い、ころねは人を束縛したり増強したり索敵したりな能力だが……。
おかゆは、能力の片鱗すら見せていない。
まだ隠し球を蓄えている可能性がある。
「ええっと、どっち?」
逃げるフブマリ。
正面に岐路。
右が左かの2択。
「そこ左……!」
「は、はい!」
ぼたんの号令にフブキが背筋を伸ばして返事する。
その先に更に曲がり角。
「そこ右……!」
「はい」
「右」
「はい」
「左」
「はい」
「左」
「はい」
「ちょ、そこ下」
「え、下⁉︎」
「階段、あるでしょうが」
完璧な脳内マッピング。
特別な関係者でもない上でよくもまあ……。
連行される際に通ったルートを完コピしているのだろうが。
指示通りに進む。
マリンは後続なのでのらりくらりと追従するだけだが、フブキはぼたんに萎縮して、非常に一生懸命。
そんなこんなで、船内を疾走した果てに、一味は甲板へ飛び出た。
バンっ、と扉をぶち破るように開き、飛び出した先――
「わぁ……これは偶然……」
「は、何でアンタらいんの、マジで」
船上でバッタリ鉢合わせた。
そう、三度。
AZKi、星街すいせい、と。