船の甲板で、AZKiとすいせいと、三度目の邂逅を果たしてしまう。
満点の星空の下、互いに鋭い目付きで正視する。
甲板に照明はなく、相手の様子は少々見辛い。
「またアンタらか」
「それはこっちのセリフなんだけど。マジでサイアク」
売り言葉に買い言葉。
今回ばかりはお互い予期せぬ対面なだけに、溜まる不満は大きい。
その鬱憤を晴らそうと、すいせいは闘志を燃やす。
今動ける一味側の戦力はマリンとフブキのみ。
トワは脚をやられ動けず、ぼたんもころねの能力が継続してまともに動けない。ポルカに関しては意識を失っている。
「フブちゃん……弱点見れますか?」
マリンが勘付かれぬように耳打ちする。
弱点さえ突ければ、2人だけでも勝算はある。
「この暗さじゃ私たちがちゃんと捕らえられないんじゃない?」
「――!」
AZKiが答えた。
聞かれた?
そんな、声は大きくない。
微妙な仕草で耳打ちを察したにしても、内容までピンポイントに当てられるだろうか……。
確かに、恐らく相手はフブキの能力を知っている。
それにしてもだ。
「訳あって夜に強いんだ」
「強い? 寧ろパワーアップしてますよ、それ」
苦笑を漏らして、マリンは冷や汗を拭う。
涼夜の強い風に肌が撫でられると、スッと心地良い寒気が襲う。
フブキのスコープは対象を捉えることが条件。
闇夜の中に対象がいる時、存在を認識できても能力発動に漕ぎ着けない事が多い。
ならば、惜しいがここは逃げの一手を打つしかあるまい。
「おかゆ!」
ころねとミオも駆けつける。
いよいよ万事休す。
「すいちゃん、今は急ぐよ」
「……はいはい!」
甲板にブロックが出現する。
「ヤバいって!」
そのブロックは一味を船外に弾き飛ばすように真っ直ぐ飛んでくる。
「あの、まだおかゆが――」
「ん? あの子はいらない」
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ブロックが一味に直撃。
船外へと弾かれ、真っ逆さま。
砂とは言え地面に落ちれば痛いで済まない。
「船長ーーー!」
「待って、海はヤバーーい」
かと思ったら、下は海。
全く気付かなかった。
まさか船が既に出航していたなんて。
まだイリス島は近い。
だが、トワ以外が能力者では、まず助からない。
絶対、海には入水できない。
「船長ーーー!」
「クッソーー!」
あ、ぼたんの呪縛が解けた……。
「ドン!」
落下地点に小型ボートを生成する。
海に落ちると船も創造できない。
溺死より、骨折の方がマシだ。
「ナイス――だ!」
落下直前に、ぼたんが大量の紐?でボートを覆いクッションを作った。
上手くドーム型に形成し、圧力で沈む高さまで計算された見事な構造。
そのままドームの天辺へ直下し、勢いのまま沈む。
そして柔らかい何かを突き破り、木材でできたボートに落ちる。
硬い木材の感触。
どこも骨は折れていない。
どうやら、無事に脱出できたようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「死ぬかと思った……っ」
死との対面で呼吸困難へと陥る一同。
その中でもフブキは一段と気が動転している。
と言うか、慟哭している。
「そいえばっ……フブちゃんっ、はぁ、はぁ……ぅっ、恐怖症、でしたね」
着地も儘ならない高所からの落下は、恐怖症持ちには応えただろう。
マリンやトワ、ぼたんでさえもこの一瞬で汗だくだ。
「まさか、船長の能力が、こんな形で役立つ、とはね」
「いやマジで」
マリンの能力が一命を取り留める展開など、誰も予想しなかった。
それだけに船長への感謝や評価、信頼など様々なものが急上昇。
ゲイン効果の発動だ。
ぼたんからも「ナイス判断」と好評で、マリンの自己肯定感と承認欲求も満たされ、心もホカホカ、平和の到来。
よってマリンは喜悦の色全開である。
「と、ところで――! これは……なんですか?」
周囲からの賞賛に高揚する自分を抑え、マリンは紐?を手に取る。
ぼたんが能力で生み出していた物質。
紐のような形状で、触れると少し粉っぽくて、微妙に弾力がある。
この弾力で助かったのか……。
「能力者でしょ? なんて能力なん」
トワが服を破って応急措置しながら、聞いた。
途中、激痛に呻吟していたが、やがて静かになる。
「……笑うなよ?」
「へ、な、何で急に」
「笑うなよ?」
「笑えってことですか? そんなフリするなて珍しいですね」
「わ・ら・う・な・よ!」
「……はい」
圧に負けた。
「……メンメンの実」
「メンメン? つまり……ラーメン?」
「……名前的にハズレやな」
「――――」
「でも強いじゃないですか。当たりですよ」
「……なんか腹立つなぁ」
トワの口撃とマリンの激励に例え難い感情が湧く。
船が波に揺られた。
「はぁ……ふぅ……。流石に追えないので、一度島へ戻りますね」
砂浜へは1、2分で着く距離。
マリンがボートを動かして島へと近づける。
「…………」
紐なしバンジーの恐怖も引き、冷静になると訪れる多大な喪失感。
ラプラスも、こんな感情だったのか……。
皆押し黙り、俯き、静かに波の音に耳を傾けた。
「……フブキちゃん?」
「――⁉︎」
震える温かな声が静寂を割った。
フブキの体は敏感に跳ね、声のする方へ。
月明かりのみの海上では、表情もよく見えないが、確かにそこに昔馴染みの旧友がいる。
いつも背後で、ころねとくっついていたあの子――猫又おかゆ。
彼女が、フブキの名を呼んだ。
闇で瞳も見えない中、一同は吸い込まれるようにおかゆの瞳に釘付けになる。
「ほん……もの……?」
「うん……そうだよ、おかゆん――!」
この時、初めてフブキは、報われたと、そう実感できた。
親友の1人と、言葉が交わせたから。
2人の頬に、涙が伝った。
「――」
マリンは小さな船内を細目で見回し、静かに微笑んだ。
その夜、重さの定まらない足でマリン号へと帰り、一同は疲れを忘れた。
そして、翌朝――。
最も起床が早かったのはマリン。
水平線の上に、太陽が丸々出ていた。
朝日を浴び、潮風に髪と服を靡かせ、帽子をそっと片手で押さえ……。
「ふっ、カッコイイ……」
無意識にできていれば格好が付いたかもしれない。
口にした途端に安くなる。
他の皆はまだ、疲れも癒えてないだろう。
ポルカとぼたんは激闘を繰り広げた。
トワは人生で錚々負わない傷を負った。
そしてフブキは、精神的に最も参っている。
もう少し、寝ていても文句はない。
「はぁ……」
マリンの脳にフラッシュバックする光景があった。
目の前にブロックが迫り、どうしようもない。
その一瞬、微かに、だが確実に聞こえた。
AZKiの一言。
「『あの子はいらない』、か……」
その直前のミオの声も。
なら、いらない『あの子』が誰の事か……もう言うまでもなかろう。
「まさかとは思ったけど……おかゆ先輩……」
「マリンさん? 何ぶつぶつ言ってんの?」
「っと……ビビったぁ……ぼたんさんですか」
空いた個室から出てきたぼたんに少しばかり驚く。
ぼたんもおかゆも、今は船の空室を使わせている。
単に安寧の場を与えたかっただけだが、ぼたんは代わりにと負傷者の応急処置を行ってくれた。
マリンも目が覚めた時には、絆創膏や包帯など、医療が施されていた。
「遅くまで手当してくれたのに、早起きですね」
「ああ、まあ、慣れてるし」
「治療に? 朝に?」
「んー、どっちも」
両手をズボンのポケットに突っ込んで、マリンの真横まで歩み寄る。
そして両手を出し、淵に寄りかかる。
「1年前まで王家直属の騎士団の団長やってたからさ、あたし」
「……」
「……いや、なんか言えよ」
「あ、すみません。ええっと……」
言葉に詰まった。
癪に障る事だったらどうしよう、と。
「なに?」
「……その王様って、ルーナたん?」
「――知ってんだ」
「先々日まで、キャンディータウンにいたので」
フブキの貰った銃と、ルーナの証言。
ぼたんだろうと目星をつけつつも、ずっと黙っていた。
「いい人だよね、あの人」
「……」
ルーナの好感度は何故か非常に高い。
すばちょこ、kids、ぼたん。
そして当然マリン含めた一味。
「マリンさん、そう言うタイプなんだ」
「へ……?」
「気になっても詳しく聞けない。気分を害するかも、嫌われるかも、疑ってるみたいかも、だからあまり深くは聞かない」
「……はぁ、やっぱりぼたんさんですね」
目利きと頭の回転が良いのは相変わらず。
今日初めて、ぼたんは疑問符を浮かべた。
「あたし今冒険?してんの」
「冒険?」
「まあ、目的は知らんけど」
「……誰かの下についてるって事ですか?」
「そう。1年前にキャンディータウンに来たかと思えば、仲間が欲しいって言い出してさ」
そんなマリンみたいな奴が他にも?
しかも、冒険?
誰だ?
「それに付いてったんですか?」
「まあ時期も時期だったしね……騎士団とかは何年も続けるもんじゃないし」
意外だ。
不鮮明すぎる人の下に付くほど、目の前のぼたんは愚かではない。
乗船に至った、理由がもっと根底にあるはずだ。
「ルーナ姫も素敵な人だったよ。でもね、うちの船長はあたしの最も尊敬できる人なんだ」
ぼたんにここまで言わせる人望ある人。
ここで唐突にホロメン以外とは思えない。
だが……本当に誰だ?
「いいですね――」
「まあ、バカだけど」
「――へ、へぇ」
バカなのか。
謎は増えたが有意義な雑談だった。
ただ、派生していったせいで、繋がりが分かりづらい。
簡潔に言えば、ぼたんは団長だったため朝に強く、医療技術もそこそこあると言う事。
「ねえ、マリンさんこれから、どこ行くの?」
「まだ決まってないですね」
適当な島に付けて、適当に仲間を探す。
常備していた地図を開いた。
ルーナにもらったあの地図。
イリス島周辺にある島は……。
「この辺が進行方向で一番近いですから、この辺かなー、とは」
島名も記されない地図で、一つの島を指差す。
どんな場所か理解していない。
「そこ、『記憶の跡地』じゃない?」
「きおくの……あとち?」
「Site of memoriaの方が浸透してるかな」
「サイトオブ……え、なに?」
凄い場所……?
「廃研究所、みたいなとこ」
「人いませんかね……」
「少なくとも住んではないね」
廃研究所。
人材確保は望めないが、何か得られるのでは?
それに、最近は何かと厄介事が続いて心身ともに休める時間がなかった。
休憩所としては不適かもしれないが、敢えて無人島に寄るのもありだ。
「それでもちょっと、気になりますね」
「……?」
気になる要素は微塵もないはずだ。
ぼたんは何かをマリンに感じた。
それは、自分の船長と重なる僅かな何か。
「…………」
ぼたんは太陽を一瞥した。
「ぁ――」
「あの……」
後方から声がかかった。
控えめの少し低めの声。
「あ、おかゆ先輩。おはようございます」
「あ、はい……ん、先輩?」
「気にしないで、船長はよく変なこと言うから」
「…………」
マリンとフブキの発言、そしておかゆの困惑した表情。
既視感のある光景。
「昨日は色々ありましたけど、よく眠れましたか?」
「あー……うん、えっと、寝れた、かな」
頰を掻いて、ひょいと視線を逸らされる。
「実は、私とおかゆんでさっき話してたんですよ。この船の事とか……2人の事とか」
声のトーンを少しずつ下げていく。
同時に視線もマリンから徐々に床の方へ。
おかゆも同様に。
マリンとぼたんは一度顔を見合わせ、異なる表情で向き直した。
「えぇっと……それで、あの……」
「ほら――!」
指をちょんちょんと合わせて切り出しに戸惑うおかゆの背を、フブキがそっと押した。
胸部後ろから圧力がかかり、おかゆは前へ倒れかけるが、遅れて全身を引っ張り踏ん張った。
振り向いた目先で、フブキはニコッと笑った。
「あの……あの……!」
両手を握りしめ、マリンを直視する。
「僕も、ころさんとミオちゃんを助けたいん、です! だから……だから――! 僕も仲間に入れてください!」
深々と腰をおり、誠心誠意思いの丈をぶつける。
仲間を、親友を、大切な人を守るために、おかゆも仲間になりたいと。
ぽたぽたっと、床に雫が垂れた。
おかゆは泣いているのだろうか?
背後のフブキは、笑いながら目元を拭っていたが。
「――――」
大歓迎。
願ってもない申し出だ。
マリンの目標は、全てのホロメンと出会い、世界の謎を解く事。
できれば全員、そばにいて欲しい。
「バカじゃないの?」
「……ぇ」
「ぼ、ぼたんさん⁉︎」
「――⁉︎」
返答ではない辛辣な一言が空気を凍結させた。
予測もしない介入に、逡巡する一同。
だが、直様フブキが反撃する。
「ちょ、ちょっと! 急になに? あなたは関係ないでしょ!」
「関係ないよ。思ったこと言っただけ」
「はあ⁉︎」
ぼたんは淡々と述べて、冷めた視線をおかゆに突き刺すだけ。
対してフブキは涙も忘れて頭に血を上らせていた。
「友達を助けたい。仲間を大切にしてていいと思う」
「じゃあなんだっての!」
「でもそれ、身の丈に合ってないよ、全く」
「――‼︎」
「「「………………」」」
時が止まったような静寂。
憤慨していたフブキも反論できず、開いた口を震わせている。
「助けに行って、何ができんの? あたしさ、一応あんた含めて3人と手合わせしたけどさ、一番弱いの、アンタだったよ、ダントツで」
「そ、れは……」
おかゆはたじろいだ。
視線をぐるぐる彷徨わせ、ぼたんから逃げる。
「そんなこと今は――」
「どうでも良くないでしょ」
フブキの言葉に被せて、ぼたんは冷笑を浴びせた。
「敵の最後の言葉、聴いた?」
「は? し、知らないし!」
「『あの子はいらない』だってさ」
「やめて!」
止まない攻撃に激怒したのは、フブキの方。
おかゆは俯いて、顔も見せてくれない。
「向こうから洗脳を解いたんだよ? 分かんないの?」
「やめてよ!」
「弱いんだって、アンタ」
「――っ‼︎」
敵でも味方でも、差にならない。
敵と見做されず、仲間にもしてくれない。
それをハッキリとぼたんは口にした。
現実を叩きつけた。
激昂したフブキが数歩前に出ると、その腕をおかゆの右手が弱々しく掴む。
簡単に振り解けるその手に、フブキは押さえつけられ、立ち止まる。
獣以上の鋭さで、ぼたんを睨みつけるが、怯みさえしない。
「……」
「分かりやすく言おうか」
「もういいでしょ‼︎‼︎」
「ただの邪魔だよ」
「っーーーー‼︎」
「待てッ!」
ぼたんへ飛びかかったフブキを乱入してきたトワが抑え込む。
怒りのまま暴れ、ぼたんを殴ろうと、蹴ろうと、必死にもがくが床に押さえ込まれて、もう立てない。
トワの方が力が強い。
「お前はッ‼︎ 関係ないだろぅがァッ! 私の――‼︎ 私の邪魔ッ――。私の邪魔を、すんなよッ‼︎」
「やめろフブキ! これは感情論じゃねぇんだ」
倒れても尚、ぼたんに噛みつこうと発狂し、トワの声を弾く。
「おかゆ先輩、どこへ……」
マリンの問いに、フブキは電撃を受けたような速度で反射を起こす。
おかゆが背を向けて、とぼとぼと下船していた。
港に繋げられた通路を通り、街へと静かに。
「おかゆ――!」
フブキは飛び出した。
トワも同時に力を抜いた。
おかゆとフブキが船を出て、また静かな潮風が訪れる。
太陽の位置は、随分と高くなった。
「おかゆ先輩……」
「船長、これはぼたんさんが正しいよ」
「ポルカ……結局みんな聞いてたんですか」
扉を開いて、ポルカが登場し、全員出揃った。
トワも頷く。
ぼたんは機嫌悪く水平線を眺めていた。
「我々は強くない。だから守りたくても守れないことが多い」
現に、助けたい存在を今逃してしまった。
ぼたんがいなければ、みんな捕まっていた。
「人の命を易々と預かることはできない」
ポルカ、トワ、フブキ。
トントン拍子に加入した仲間たちだが、マリンはその命を預かっていることになる。
その責任は大きい。
だが、そんな事はずっと理解しているつもりだ。
問題はマリンではなく、おかゆ、そしてフブキにある。
ポルカとトワにはあって、おかゆとフブキにはないもの。
「おかゆさんとフブキさんは、あたしらが弱いことを知らない。寧ろ強いと思ってる」
「成果だけ見れば、フブちゃんもおかゆ先輩も、救ってますからね……」
だから危険なのだ。
守って貰えると、そう信じて乗船した2人がこの先で強大な悪と対峙した時。
その時、2人は戦えない。
それではダメなんだ。
「仲間となら助けに行く、1人なら行かない。そんな在り方の人間は、この先へ連れていけない」
他力本願は身を滅ぼす。
例え1人だとしても、仲間を助けるために海へ出る。
それこそが必要な覚悟だ。
「だからもし、フブキさんとおかゆさんが話し合って、全てを理解した上で、この場に覚悟を持ってきたのなら、その時は、歓迎してあげましょう?」
日が高くなったため、港も次第に賑わってきた。
いつしか船の出入りも始まり、静寂などは一切訪れない。
フブキとおかゆは、どこまで行っただろうか。
戻ってくるだろうか。
「……そうですね」
どうも皆様、作者です。
おかゆん加入、と見せかけて……。
ししろんの能力も判明、命名に少々困りましたがメンメンの実の麺人間です。
ええ、ええ、分かります、ダサいですね。
存在する能力ならブキブキとかマトマトがガッツリ似合うんですけど。
みおしゃが撃つ系統の能力を持っているので、もう一つの案であるジュウジュウの実はボツになりました。
羊肉ジュージューの意味でも使えますが、それはニエニエに寄ってしまうので。
おっと、長くなりました。
それではまた次回。