23話 船上の平和1
イリス島が肉眼で見えなくなり、いよいよ次なる島へ。
数多くのホロメンを救うべく、洗脳の能力者へ更に一歩近づこうという時。
なのだが……
「…………」
空気が重い。
基本的にどんな組み合わせでもある程度会話は弾むし、冗談も飛び交うのだが、一つのペアだけはどうしても馬が合わない。
それが、ぼたんとフブキ。
「――」
ぼたんは自ら更に蚊帳の外へ。
唯一一味ではない存在として、もしフブキかぼたんが邪魔者なら自分が除け者になるように徹している。
見事に空気を読んでいる。
空いていた客室へ入り、パタンと戸を閉めた。
「ふんっ!」
フブキが鼻を鳴らす。
反発する理由は恐らく、おかゆの件だ。
おかゆへの率直且つ客観的で必然性の高い発言。
親友としてフブキは許せないのかもしれない。
「空気悪いなぁ……」
「まったく」
「あはは……」
極力2人きりにならぬ様、皆心掛けているが、稀にすれ違う時でさえ、フブキは強く威嚇する。
「フブちゃん、反りが合わないにしても、助けてもらった恩人ですよ」
「……ん」
その一言で渋りながらも敵意を抑える。
フブキは常に威嚇をし、ぼたんは常に冷静に刺激しないよう無視する。
対応については、ぼたんが大人でフブキは子ども。
正しいのはぼたんだ。
「よしよし」
「……」
おかゆに頭を撫でられている。
不貞るフブキを慰めるおかゆ。
新しいてぇてぇだ。
「ほんでさ、進行経路は決まったん?」
「はい決まってます。ココです」
ルーナから貰った地図を開き、次なる目的地をマークする。
「なんて島?」
「ぼたんさん曰く、『記憶の跡地』だそうです」
「なんかヤバそうな名前……」
「カッコよく言うとsite of memoria……だそうです」
「へいへい」
「へい、こんかなた〜」
「……今なんて?」
「いえなんでも」
誰も拾えないジョークを挟むと、トワが怪訝そうな顔をしたのですぐに話題を修正する。
「えー、っとですね、はい、ここは一応無人島らしいです」
「――」
「無人島か……」
「情報取得は望めんかな」
ホロメン奪還への糸口は何も掴めないだろう。
人脈を辿っても中々敵の素性が探れない。
無人島は以ての外。
「そこで何をするんですか?」
「まあ、リフレッシュじゃない?」
「――ま、たまにはね」
「……うん」
フブキ以外は異論なし。
フブキはミオところねを数時間前に失った手前、賛同が難しい。
「根詰めすぎると、いざって時に本領発揮できないよ」
「ありがと……」
おかゆが背中にポンと手を乗せた。
そして優しく摩り、微笑む。
「あ、そいえば……」
「――?」
ポルカがハッと声を上げ、マリンに歩み寄る。
肩に右手を乗せた。
「え、何? え、何?」
「動揺しすぎ……」
「ミオさんに3番マークつけっぱだからさ。常に1枠フリーにしときたいんだよ」
「……あ、能力か」
「そそ」
人に触れてマーキングする効果。
タッチする事でマークを付与または解除する。
ミオのマークを解除し忘れたので、マリンのマークを消して2番をフリーにしておく。
「え、じゃあミオの場所わかるんじゃ――」
「範囲外だから無理だね」
「――そっか」
敵船出航から既に12時間は経過している。
マーキングが反応するのは精々半径4、5キロ程度。
島の上では広く感じる距離だが、海の上では誤差に等しい僅かな距離。
「ねえちょっと」
「うわっ、ビックリした」
客室のある方の扉からぼたんが出てきた。
会話への乱入に少し悪びれつつ一つの銃を手に歩み寄る。
ぼたんの登場に再度不機嫌になるフブキをおかゆが宥めていたが、ぼたんの持つ銃を見て様子が変わる。
「ちょっと、それ私の!」
「は? なんで? これあたしのなんだけど」
「――! ああそれ、ルーナたんから譲ってもらったんですよ」
「そう、ならいいや」
「――⁉︎」
フブキの反抗には一歩も引かないが、ルーナの名前を出せば一瞬で身を引いた。
なんだこれ。
なんだ、この、ルーナの圧倒的人望。
「ルーナ姫の関係者?」
「以前団長やってたそうですよ」
「すげぇ……」
肩書きが勝手に株を上げていく。
この先事あるごとに、併せてルーナの株も上昇するのだろう。
「と言うか、勝手に船の中探らないでよ」
「船長が自由にしていいって言ったのに?」
「それは――」
そしてまた衝突が起こる。
「はいストップ。フブちゃん、イチイチ噛みつかない」
「だって……」
「みんなまだ疲れてるんですよ。部屋に戻って、休みましょう」
「…………」
次の島までまだまだある。
この調子が続けば、内部抗争が直に始まる。
それは誰も望まないし、得をしない。
一度距離を置いて、冷静になるべきだ。
珍しくマリンが仲裁し、各々が個室へと消えてゆく。
そしてマリンも自室に――帰ったりせず、ぼたん(客用)の部屋へ。
「みんなを返しておいてマリンさんはカウンセリングですか?」
「そうですよ、これでも船長なんで」
ノック無しで入室した途端、魂胆は見抜かれる。
胸を張って返すが、ぼたんは相変わらず無愛想な態度。
「普通あたしは最後でしょ。仲間じゃないんだし」
「仲間じゃないから、一番疎外感を感じると思ったんです」
「単に気になる順でしょ」
「それは7割。3割は本当に心配してるんです」
「結局建前じゃん……まあいいけど」
備え付けのベッドに腰を下ろしてぼたんは気怠そうにした。
何となく隣に座り難い空気が漂うが、船長が立っているのも不自然。
硬い動きで側へより、隣へ腰を下ろした。
このペアは、妙に恥ずかしい。
「で、聴きたいことは、あの子の事?」
「ええ、まあ……」
マリンのセリフが次々と奪われていく。
真実や本心を隠蔽できないって、怖い。
「別に、何となく嫌いなだけ」
「え……それだけ? そんな事?」
ルックスが良いフブキを何となく嫌うって、どう言う事?
「何となくってのは、理由がないってんじゃなくて、なんかこう……肌で感じる人間性が生理的に受け付けないって感じ」
「肌で感じる……人間性?」
直感や本能か。
ぼたんの苦手な何かを、フブキがオーラとして放っているのか。
「あの2人の接し方が、凄く鼻につく」
「フブちゃんとおかゆ先輩?」
「そう、あの2人」
マリンには全く理解の及ばない感情だった。
常人には感知できない気配や雰囲気、空気に反応できる敏感なセンサーがあるのだろう。
騎士団長を務めるに相応しいスキルだが、却って人間関係に溝を作る原因ともなっている。
「マリンさんとか、うちの船長は、そう言った裏表を感じないから、一緒にいると居心地が良い」
「え……きゅん!」
「…………」
「…………」
ぼたんの告白とマリンのトキメキ。
その後、静寂が発生。
やめて、恥ずか死する。
何か言って。
「あ、りがとう、ございます……」
お礼言っちゃった。
待って、本当にぼたんの事好きかも。
「で、では船長はカウンセリングがあるので、これで!」
だから余計にマリンは紅潮した。
暑い。
めっちゃ暑い。
「……本当に、発情するって冗談言えないくらい暑い」
壁にもたれ掛かり、呼吸を整える。
深呼吸して、冷静に、体温を下げる。
「大丈夫、マリンはちょろい子、大丈夫、よし」
ちょろいから、今の告白でときめいただけ。
どうせ他の人に口説かれても落ちる。
そう、だから、ぼたんだけ好きになったわけじゃない。
マリンはホロメンみんな大好き。
そう、ホロメン大好き、はい平和。
よし、OK。
マリンはそのまま早足でポルカの部屋へ。
ノックも作法も無く、無造作に扉を開けて入室。
「うわっ、何急に!」
驚くポルカを他所にベッドにダイブ。
「何してんですかもう……」
ポルカの匂いがする。
「今全員のカウンセリングちゅ〜でーす……」
「ここは休憩所か」
「このメンツで一番落ち着くと言うか、気楽なのポルカを相手にしてる時なんだってぇ〜」
「そうですか、と」
開いていたノートを閉じ、椅子の向きを180度回転させた。
ベッドにうつ伏せになるマリン。
息できるのか?
「それで、あたしはカウンセリングすれば良いの? されれば良いの?」
「どっちも〜」
頭だけポルカを向いてマリンはだらしなく答えた。
ポルカの奥の机、の上の閉じられたノート。
角度的に表紙も見えない。
「何書いてたんですかぁ?」
「日記みたいなもん」
「日記? 航海日記?」
「見る?」
「見る〜」
甘えるような声と仕草で腕を伸ばすと、ポルカは優しくノートを手渡してくれた。
最新ページを開くと、4月13日と記されている。
猫又おかゆが一味に加入、能力無し、DC出身。
獅白ぼたんが一時的に同行、メンメンの実の能力者。
フブキとぼたんが衝突。
ぼたんはフブキが嫌い?
フブキはぼたんが嫌い。
意外とぼたんはおかゆに優しい?
ぼたんはCT出身?
と、事実に加えてポルカの主観的な考察などもメモされている。
最初のページへ戻り、日付を見る。
4月3日、記しの島でマリン船長(以後船長とす)と出会う。
島を出る手段がないため勝手に上船した。
船長は異世界人で私の事を知っている。フネフネの実の能力者。
本当か?
嘘と仮定して接する事とする。
4月6日、サクラカゼ上陸。
妙な男性に遭遇、街に案内してもらう。
神社でさくらみこ(以後みこち)と遭遇。
船長は知っているが、相手は面識無し。信憑性が増す。
勧誘するが失敗。
星街すいせいが襲撃。
みこちにニエニエの実をあげた。
AZKiの乱入で片付く。
粉の能力?
4月9日。
能力の実を預かる。みこちと仲間になる約束をする。
大変な事とは。能力の実を預けるほど信頼したと言う割に、「大変な事」を教えてくれない。本当に信頼されてる?
嘘の可能性あり。若しくは出汁に使われているかも。
今後再開した際、要注意。
「…………」
すごい。
何と言うか……すごい。
ただ、以前からの認識通り、疑心をかけている物が多い。
何に対しても疑いから入る捻くれた性格が、この日記からも分かる。
「どうして日記を?」
「起きた事を記すため」
「いや……まいっか」
記してどうするかを聞きたかったが……。
「いやー、やっぱポルカといると安心しますね」
「そりゃどうも」
「でも最近、船長の扱い悪いんじゃないの? トワ様と結託してさー」
「そっちの方が船長喜ぶじゃん」
「適度に褒められ、適度に貶されるのがいいんです」
面倒な注文がつけられる。
褒めるは無限にしてくれて構わない。
だが貶すは適度にエサを与えながらでなくては。
でないと嫌われてると思って病んでいく。
「じゃあトワ様に言っときます」
「言わなくてもいいけど」
「じゃあ黙っときます」
「言ってもいいんですよ?」
「はいはい、めんどくさ可愛いから次行ってください」
先ほどの教訓を活かし、面倒臭いという罵倒に可愛いという褒めを足して相殺させる。
これで満足かと言いたげな目でポルカはマリンを出口に追いやる。
「なんか違うけど、ポルカだしいっか」
マリンも流れのまま部屋を後にした。
こちらの世界のポルカはヘラったりしないのか?
低気圧に弱い事は聞いたが、それ以外はまるでマリンの知るポルカと異なる。
それは勿論、どのメンバーにも言える事だが。
まあ、いいか。
ここは異世界。
不思議だらけは当然。
この船だって不思議で存在しているのだから。
解けない不思議は追求しない。
追求すべきは、解ける不可思議。
「さて、次はフブちゃんとこ行こっと」
もう少しだけ遊覧海賊船。