ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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25話 探検

 

 1日半の航海を終え、宝鐘海賊団+αは次なる島、記憶の跡地に辿り着いた。

 

 波音だけが響く砂浜に船を着け、下船する。

 

「名前のボリュームすごい割に、何も無い島だな」

「まあ……無人島だし」

 

 浜の先に広がるのは森で、人の生活の影は微塵も無い。

 砂をサクサクと踏んで森に近寄るフブキ。

 

「おっ、と……」

 

 そんな彼女の傍を通り、一本の紐――ではなく麺が足元の何かを拾い上げた。

 麺はシュルシュルとぼたんの下へ。

 

「聞いた通り、一応廃研究所があるみたいだから、気をつけた方がいいよ」

 

 麺が掬い上げたのは割れた試験管。

 付着した液体はおそらく海水だが、危険な物質も含めて投棄されているかもしれない。

 よくよく見れば、到底潮で漂着するとは思えない部品たちもちらほら。

 研究所の面影すらない砂浜にも散乱するゴミ。

 廃研究所が近づけば、より危険な物質、部品、機械などが山程転がっているに違いない。

 

「ふん! 分かってます!」

 

 ぼたんの忠告に、ぷいっとそっぽ向く。

 マリンやトワはやれやれと肩を竦め、おかゆは苦笑いを浮かべていた。

 拗ねるフブキは可愛いが、あまり空気は悪くしないでいただきたい。

 いや、もはや恒例と化して、逆に和むまであるか。

 

「んで、これからどうすんの?」

「船長はここにいようと思います」

「なして」

「いや〜、最近疲労がねぇ〜」

 

 腰をトントンと叩き、年配者をアピール。

 まだ若いだろ。

 

「自称17歳のくせに……」

「まあ、そう言うわけなんで、皆さんは迷子にならない程度でご自由にしてきてくださいな」

 

 マリンはハシゴで船に戻り、自室へと篭った。

 

「――ねえおかゆん! 探検しよ!」

「……⁉︎ あ、相変わらずだね」

 

 フブキの衝動的な好奇心におかゆはたじろぐ。

 だが、懐かしいこの感傷に今は何となく浸りたい。

 

「いいよ」

「やった、じゃあ行こ」

「あ、3人は来ない?」

 

 先行するフブキを必死に引き留めながら、尋ねる。

 ぼたんは手を上げて明後日の方を向いた。パスのようだ。

 

「ポルカもここに残る。船長だけは残しとけんし、普通にゆっくりしたい」

「ごめん、トワもパス。ちょっと試したい事とかあるから」

「そうですか……うん、じゃあ行ってきます」

「レッツゴー!」

「気をつけてよ」

 

 礼儀よく場を後にするおかゆを置いて、フブキは揚々と森林へ。

 保護者のようにおかゆはその後に続いて消えていった。

 

 その2人を見送り、トワとポルカは顔を合わせた。

 ただ1人ぼたんは我関せずの態度で浜を歩き、遠ざかり始める。

 

「どこ行くん?」

「偵察」

 

 トワの問いにも同様の態度で返し、やがて森の陰に隠れて見えなくなる。

 ここは島。

 当然円形で、浜は僅かにだが湾曲している。

 

「なんの偵察?」

「ここは無人島だけど、あたしらみたいな人は居るかもってことじゃない?」

「あー……おるんか、そんな奴」

「居るでしょ。ポルカと船長も無人島で出会った訳だし」

「そうなん?」

「そうだよ」

 

 思い返せば、この海賊団の結成秘話は2人以外知らない。

 どれほどショーもない始まりをしたのかなんて。

 こんな説明だときっと、マリンが1人で海賊をやっていた時代があったと勘違いするだろう。

 始まりはその無人島出航でマリンとポルカの2人。

 でもまあ、話す意味ないし。

 聞かれたらでいい。

 

「ほいじゃ、ポルカは船に戻るわ」

「ああ、うん、トワは……多分その辺にいるから」

「りょーかい」

 

 こうして自由行動が始まった。

 

 

          *****

 

 

 自由行動の中でも最も自由な2人、フブキとおかゆ視点。

 未開の地をサクサクと進むフブキ。

 昔と相違ない勇ましい背中におかゆは少しだけ嬉しくなった。

 嬉しくなると、この小さな探検にも不思議と心が躍る。

 

「ねえフブキちゃん」

「んー?」

「ちょっと相談なんだけどさ」

「相談?」

 

 おかゆの自然な切り出しに、フブキは立ち止まり、振り返った。

 キョトンとしておかゆを見つめる。

 

「あ、歩きながらでいいよ」

「分かった」

 

 前進を促しておかゆは続ける。

 

「もし、能力が手に入るなら、僕は、あの果実、食べたほうがいいと思う?」

「え? 能力って、皆みたいな?」

「うん、船長が悪魔の実?を余分に持ってて、それを食べてもいいって言われたんだ」

「へ、へぇ……」

 

 活力が低下したようにトーンを下げるフブキ。

 おかゆは変化に気付かないのか、無頓着。

 

「どうかな、食べた方がみんなの為になるかな?」

 

 フブキの背中に聞いてみる。

 質問の後から、歩幅が小さくなり、やがてフブキは立ち止まる。

 おかゆも歩速を合わせていた。

 

「うーん……」

 

 首を傾げ、小さく唸り、悩む素振りを見せる。

 

「悩む?」

「うん……そうだね」

「……どうして?」

 

 詰問するような気分でおかゆは問い直す。

 フブキは戸惑うように眉を寄せる。

 そんな表情をおかゆに見せぬよう、取り繕う為に数秒――そして振り向く。

 

「えっとね、食べた方がいい理由は、純粋に強くなって戦力になるし、物によっては私生活でも便利だからだね」

 

 まずは能力取得による恩恵の共通認識の確認。

 おかゆもうんうんと頷く。

 問題は次。

 起こり得る不利益について。

 

「それで……食べない方がいい理由は、今いる船、かな」

「船? 一味のことだよね?」

「うん」

 

 森で木々に囲まれ光の薄い中、2人は顔を合わせて会話する。

 フブキは身振り手振りを加えて、少し過剰に見せている。

 

「能力者比率が高いから、いざって時に困ると思うの」

「あー……海に落ちた時?」

「そうそう、能力者は泳げないから……おかゆんって泳げる?」

「25メートルをクロールで、とかは無理だけど、溺れたりはしないかなぁ。犬掻きみたいな感じでゆっくり進む事はできるよ」

 

 じゃあどうにか1人くらい助けられるね、とフブキは笑う。

 フブキの知る限り、今、宝鐘海賊団に能力者は3人、非能力者は2人。

 序でにぼたんがいるので能力者はプラス1。

 

「トワ様も実は能力どうしようかなって、迷ってる状態なんだよね」

「へえ、そうなんだ」

「うん、だからもしトワ様が得たとなると、トワ様も海に入れなくなる」

「だから、僕1人でも入水できる人が欲しい……か」

「まあ、そうなるかな」

 

 半々と言う癖して、やけに否定意見の根拠を強く述べる。

 鈍感なのか、おかゆはいつもの調子で会話を終える。

 

「そっかぁ……」

「だからまあ、食べるなって訳じゃなくて、もう少し様子見てからでもいいんじゃないかなって、私は思うよ」

「……うん! じゃあ、いろいろ様子見てから決めるね」

「うん」

 

「「…………」」

 

 しばし顔を見合わせた。

 フブキはそのおかゆの様子に違和感を覚えると同時に、心苦しさを感じていた。

 

「さ、探検続けよ?」

「あ、うん、そうだね」

 

 おかゆに催促され我に帰る。

 互いに笑い、また同様に進行した。

 

「フブキちゃん」

「ん?」

「ミオちゃんところさん、絶対に助けようね」

「うん!」

 

 探検は続く。

 

 ――――――。

 

 そして――

 

「ねえおかゆん」

「ん?」

「あれ何かな」

「んん?」

 

 先導者のフブキが正面に何かを発見。

 少し横にずれて死角から外れると、おかゆにも見えた。

 小さな建築物がある。

 森の中にポツンとあるが、稼働しているとは思えないほど物静かで寂れている。

 しかも、周囲の植物や土に若干侵食されている。

 相当古い建造物だ。

 

「なんだろうね……」

「行ってみよ」

「う、うん」

 

 好奇心の赴くまま、フブキは緑に呑まれた白い建造物へ駆け寄る。

 恐る恐るおかゆも後を追う。

 カサカサと草木を掻き分けて、土を払って、建物を調べるが、これと言った情報は手に入らない。

 

「何もないね」

 

 おかゆは少しホッとして胸を撫で下ろす。

 

「ねえ、あっちにもあるよ」

「えぇ⁉︎」

 

 追い討ちに素っ頓狂な声が出た。

 フブキが怖いもの知らずなだけで、おかゆは決して弱虫ではない。

 むしろ無人島の不気味な建造物と聞けば、恐怖心を煽られるのが普通。

 

「フブキちゃーん、待ってよぉ……」

 

 小走りに興味の向く方へ駆けるフブキの後を、震えながら追従する。

 悪と対峙する心構えはあるが、幽霊と対峙する覚悟はない。

 出会ったら気絶する。

 

「こっちは比較的新しいね」

 

 すぐに辿り着いたもう一つの建物。

 同じく白の塗装がされている。

 外見は同様にボロボロだが、蔦が絡まるほど自然に侵されていない。

 コンコンと外壁を叩いてみると、ポロッと欠け落ちた。

 

 しかも、ここの建物は入り口がある。

 

「入ってみる?」

「――――」

 

 無言で必死に首を横に振った。

 それはもう全力で、涙目で。

 

 カツカツカツカツ――。

 

「ねえ……」

「聞こえない! 何も聞こえない!」

「聞こえてるじゃん」

「――――」

 

 返答と現実逃避の速さが尋常でない。

 先よりも高速で首を振る。

 涙も遂に溢れてきた。

 

「……っ。何かな」

 

 フブキは固唾を飲んで、暗闇の通路に目を凝らす。

 その背後にしがみついて、恐々と震えながらおかゆは泣いている。

 森の音など掻き消えて、ただ靴音だけが響き渡る。

 一歩一歩近づき、音も姿も、より鮮明に。

 やがて現れるのは女のお化け――なんかではなく。

 

「んっ、まぶしっ……」

 

 白衣に身を包んだ少女。

 眩い日差しに目を細め、目元を手で覆う。

 数秒で目を慣らすと、2人の存在に気が付いた。

 驚いたように目を見開いて、2人を見つめる。

 

「あれ、なんでおかゆちゃんとフブキちゃんがいるの?」

「へ?」

「ふぇ……」

 

 唖然として口を開けるフブキと、恐怖のあまり空いた口が塞がらないおかゆ。

 2人の余所余所しい……依然に初対面のような反応に相手の少女も眉を顰める。

 

「こよは呼んでないけど……うーん、勝手に呼んだのかなぁ……」

 

 と独り言を呟く。

 呼ぶ、って何?

 

「あ、あの!」

「ん、何?」

 

 フブキは勇気を出して声を発した。

 平然と相槌を打たれる。

 

「どなた……ですか?」

「ええ? こよはこよだけど……?」

「こよ、さん?」

「こよりだよ! 博衣こより!」

「こよりさん、か」

 

 接し方、名前の呼び方、2人を見る時の目。

 全てから読み取れる。

 この人は、2人を知っている。

 そして、その記憶が2人にはない。

 つまり、2人とこよりは――洗脳中に出会っている。

 

「あ、もしかして2人とも……」

「はい――!」

 

 同様の違和感を感知したか。

 バレるとマズい可能性が高い。

 おかゆはもう、声を出せない域まで来ている。

 

「洗脳解けてる?」

 

 図星の質問。

 マズい、何と答える、何と答える。

 否定しないと、誤魔化さないと、なんて、何て言えばいい……。

 

「せ、せんのう……な、なんの、ことですかぁ〜?」

 

 ぎこちない微笑みで雑な嘘。

 こんな演技では誤魔化せない……!

 

「なぁんだ、切れてないならいいや」

「え――!」

 

 誤魔化せた。

 案外……おバカ?

 で、でも難を逃れたならいい。

 それではここは一時退散という事で……。

 

「じゃあ2人ともついてきて」

「え、や――でも私たち……」

「来て」

「「はいぃぃ……」」

 

 フブキとおかゆは、望まぬ敵に動きを拘束されてしまった。

 

 

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