こよりに連行されたおかゆとフブキ。
島内を歩き回り、幾つもある廃研究所の内の一箇所に案内された。
どうやら、そこを拠点としているらしい。
「ふぅー」
こよりは拠点の適当な所に座り込んで息をつく。
そして、どこかから取ってきたコップに入った液体?を飲み干す。
「あ、飲む?」
「え、えーっと……それは……?」
「マヨネーズ」
「……遠慮しておきます」
「そう? 美味しいけどな、こよのマヨネーズ」
お手製かい。
どちらにせよ、マヨラーではないので飲まない。
マヨネーズを飲み干したこよりは、立ち上がり、大きく伸びをした。
「ふぃーー……」
フブキとおかゆは無言を貫き、ただ一心に、「どっか行け、どっか行け」と解放されることを願っていた。
「さて……と」
「――!」
こよりの挙動一つに怯えるおかゆ。
その反応にフブキも驚く。
「ええーとねぇ、2人にも手伝ってもらいたいんだけどさー」
「あ、はい、何でしょう!」
唐突の切り出しにフブキは大袈裟な動きで立ち上がり、こよりの側に寄る。
畏まった態度にこよりは少し首を傾げた。
が、フブキが従順なので、疑いはかからない。
「この人、探して欲しいんだよ」
「あー……この人は?」
こよりが手渡した写真は、誰かが盗撮したようなアングル。
その一枚の写真の中に、見覚えのない少女が写っている。
場所の特定まではできない。
「名前は『赤井はあと』って言うらしんだけどねぇ」
「赤井はあとさん……」
「どうやらこの島にいるらしいから」
「どこで得た情報なんでしょうか?」
「それはこよも知らねぇ」
出典不明の情報から、こよりはここまで来たのか。
そもそも、探す理由は?
「で、でも、なんでこの人を探してるんでしょうか?」
「んー、なんかAZKiちゃんがその子を欲しがってるんだよねぇ」
「「っ――‼︎」」
AZKiと言う名前に、様子が変化する。
洗脳を知り、AZKiを知る存在……。
この「博衣こより」という人間は――何か鍵を握っているに違いない。
とっちめて、持ってる情報全部吐かせてやろうか。
「……フブキちゃん?」
「へ、は、はい⁉︎」
こよりの呼び掛けに過敏に肩を跳ねさせた。
余所余所しい態度や時折見せる怨恨に満ちた瞳。
こよりは視線を鋭くした。
「――2人とも」
ヤバイ、今度こそバレたか……。
ゴクリ、と息を呑む。
冷や汗が背筋を伝い、無理矢理作った微笑みが引き攣る。
「手伝ってくれる?」
ほっ……。
「はい!」
「よかったぁ、人手不足だから助かるよー」
「え、ええ、そりゃあ勿論、手助けは仲間として当然ですから!」
フブキはテキトーに相槌を打って話を合わせる。
そしてこよりを持ち上げるように展開して最後に――
「それでは私たちはこの人を探してきます」
と、退散目的で任務に飛び出そうとする。
おかゆの手を握って。
「うん、お願いね」
許可が出た。
よし。
フブキは前のめりに鬱蒼と生い茂る森へ。
おかゆも付いてきている。
「――戻ろう、みんなの所へ」
「で、でもぉ〜……道わかんないよ」
「何となくは……覚えてると思う!」
「お、置いていかないでね!」
「うん。とにかくせめて、浜に出ないと」
浜まで出れば太陽もよく見えてそこから方角を割り出せる。
2人は一心不乱に森を進む。
直感だけを頼りに走り続けると、渚の音が微かに聞こえ始める。
あと少しだ、と言うところで――
「あ」
「うわ!」
「ぎゃぁああ!」
バッタリ、1人の少女と鉢合わせた。
一味でも、ぼたんでも、こよりでもなく――2人の知らない少女。
何となく幼さを感じる。
フブキの仰天とおかゆの絶叫。
それに対して少女は、口を小さく開けるだけ。
数秒互いにフリーズしたが、少女がにこやかにフブキの手を掴む。
「フブキ! おかゆん! こんなところで何してんの!」
馴れ馴れしい態度。
その陽気な表情で察した。
そして悟った。
「ぁ、あはは……」
(ヤバイ、終わった)
(記憶に無いのに、自分を知っている存在、ってことは……)
フブキもおかゆも同じ思考回路で同じ結論へ辿り着く。
洗脳関係者だろう。
ぎこちない笑みを何とか作るフブキだが、後ろのおかゆは「あわわわわ」と慌てふためいている。
演技力がほぼ皆無。
「はあー、でも2人に会えてよかった! ね、ちょっと歩こ」
少女は2人の様子をまるで無視して話を進める。
ヘッタクソなスキップで近寄り、フランクに2人の背中に軽く触れ、歩行を促した。
「は……はぃ」
内心絶望したが、警戒されないよう、合わせる。
「あ、どこか向かってた?」
「い、いえー、そんな事はないですよー」
若干の棒読みは緊張ゆえ。
勘の鋭い人間なら、既にバレている。
「そんな畏まらないでよ。あ、そっか、名前言ってないしね。まつりはねぇ、夏色まつりって言うんだー。まつりちゃんって呼んでね」
「はぁ……まつり、ちゃん」
「初々しいね、なんか懐かしいよ」
「な、懐かしい……?」
「ううん、何でもない、気にせんとって」
ニコニコ、ヘラヘラとした態度で緊張感を解いてゆく。
言葉の節々から、やはり記憶に無い関係性を感じる。
だが、こよりとの会話で感じたそれとは異なる感覚。
まさか、こよりとまつりは無関係?
「それで、2人はこんなとこで何してたの?」
「えぇーっと……人探しを……」
万が一に備え、こよりと同じ任務をこなしている最中という設定でいく。
探し人の名前は焦燥でもう飛んだが、写真がある。
下手くそな笑いを浮かべながらフブキは答えた。
おかゆも全力で首を振り、必死に肯定。
「へぇ、2人も?」
「え……」
「実はまつりも人探してるんだよね」
目的の一致。
かと思った。
フブキは急いで盗撮写真?を取り出してまつりに見せる。
「私たちはこの人を探してます」
「――! はあちゃまじゃん!」
「は、はあちゃま?」
「ああごめん、赤井はあとちゃん、だよね」
パッと妙なあだ名を口にされ、戸惑うがすぐに本名を答えた。
赤井はあと。
そう言えばそんな名前だった気がする。
「知り合いなんですか?」
「うんと……まあ、ちょっとね」
濁された。
あだ名を通す仲なのに、わざわざ返答を誤魔化すような関係。
不思議だ。
「それより、はあちゃまがこの島にいるの?」
「あ、いや、それは……分かんないですけど、そう聞いたので」
「そっかぁ……でもいるなら会いたいな」
まつりの目が細まる。
なんか……悪い人じゃない気が……。
「あ、それで、まつりさんは……」
「ダメだよ、ま・つ・り・ちゃ・ん!って呼ぶの!」
「ま、まつりちゃん……」
「そう」
初対面ながら異様なまでの呼称への拘り。
マリンに似ている。
「まつりちゃん……は、誰を探してるんですか?」
「ん、まつりはねぇ〜……」
その問いに答えようとした。
だが、正面の存在に意識が削がれた。
正面に、またしても廃研究所の残骸が散見される小さなスペースが。
そしてそこには1人の少女が腕組みをして立っている。
しかも、ギロリと怖くない眼光をギラつかせて3人を凝視していた。
踏み込みたくない空間。
だが、目が合った上に、無人島と呼ばれた島での遭遇。無視するわけにはいかない。
まつりを先頭にそっと小さな空間へ足を踏み入れた。
「おいおめぇら……何の用だよ」
「みこち……」
鋭い眼光と人を拒む佇まい。
まつりはボソリと呟くが、先のようにフランクに駆け寄ったりはしない。
廃研究所の残骸の入り口前で佇むのはさくらみこ。
ぼたんとの接触後、ここまで来たのだ。
「ね、ねぇフブキちゃん……無人島じゃないのぉ……?」
必死に涙を堪えるような瞳でフブキに訴える。
まだ泣くほどではないが、その嘆きは痛いほどわかる。
たとえ無人島に10人ほどいたとしても、狭くない島だ。普通に歩いて遭遇する確率は極めて低い。
その極めて低い確率を連続で引き当てるおかゆとフブキの運が究極なのだ。
起こる邂逅も本来、浜でのぼたんとみこの接触程度が妥当。
島の密林内や、数多に存在する小区画での出会いなど四捨五入で切り捨てられるような確率だ。
「へぇー……」
みこの疑問に反応する前に、背後から声がした。
まだ人が集まるのか。
どうなっているんだ、この遭遇率は。
この必要ない運命は。
「尻尾掴んでやろうと泳がせたら……いいものが当たったみたい」
「……こより」
またしてもまつりが呟く。
何?
まつりは何で全員知ってるの?
と言うか、この相関図、ヤバくない?
この島全部で……幾つの勢力が集ってるんだ?
フブキとおかゆを含む一味、みこ、まつり、こより。
この盤面でのセリフから、この4勢力に分別される事が予想できる。
「こ、こよりさん……」
「いいよもうその演技。洗脳解けてるのバレバレだから」
「っ……!」
フブキとおかゆをエサに、親玉を釣ろうとしていたのか……。
なら、まさかずっと尾行を……。
船まで戻っていたら、どうなっていたか。
「それに、君はこの前の子だ」
「やっぱり悪役やってんだね、こより」
まつりとこよりが因縁の関係を見せつける。
「オメェらの事情はどうでもいいにぇ。ここから離れろ」
みこが威圧するが、声質や滑舌でどうしても愛らしさが残る。
フブキとおかゆは真っ先に逃げたい。
みこの指示に素直従おうよ、ね? ね?
「その様子だと、やっぱり匿ってるんじゃねぇの?」
「このままオメェらに居座られたら困るからにぇ。みこが迎えに来たんだ」
「じゃ、やっぱり居るんだ」
「オメェらじゃ一生見つけらんにぇよ」
みことこよりがバチバチに火花を散らして煽り合う。
その間に挟まれる3名。
3人の敵は誰なのか。
まずはその分析から。
「ちょ、ちょっとストップ!」
「「あ?」」
まつりが無謀にも仲裁に入った。
2人の熱視線の中央に立って、両手を広げる。
やめて、そんな声出さないで。泣いちゃう。
「一旦落ち着こう、ね? まずは話し合いから――」
「うっせぇよ、何処の馬の骨ともしらにぇヤツが」
「うぐっ――」
「あなたがこよりに命令しないで。黙っててちっちゃいの」
「ぐはぁっ!」
言葉の刃に傷つくまつり。
既に致命傷。
ダウンが早すぎる。
メンタルがクソ雑魚だった。
ガクッと膝と手をついた。
うぅ……と似非涙をこぼしながら、泣いたフリをする。
何の意味もない。
「大丈夫。まつりちゃんなら大丈夫……、そう大丈夫、がんばれまつり、行けるぞまつり、ファイトだまつり……」
ボソボソと狂気的に呟き、自身を鼓舞していた。
何だか変わっている。
この人はきっとあれだ、変人だ。
「うおおおお!」
「「…………」」
まつりの自己完結する演技?に敵2人とフブキ、おかゆは共通して引いていた。
元気に両手をあげて立ち上がる。
こよりとみこは、攻撃でも来るのかと肩を跳ねさせて構えたが何も起こらない。
本当に何なんだこの人は?
「喧嘩禁止! 仲良くして!」
「友達でもにぇのに――」
「鬱陶しいなぁ……」
2人は嘆息した。
ヤバくない、この空気……。
「とりま邪魔!」
「同意、にぇ!」
「わぁぁぁ!」
みことこよりが同時砲撃。
白い流動体と僅かな炎がまつりを挟み込むが、意外な瞬発力で回避する。
結果、それぞれの技が衝突し、相殺し合うように軽く爆発した。
「やべやべぇ!」
「とりあえず離れよっ!」
「うんうんうんうんうん!」
まつりが爆風に乗ってフブキのそばへ。
そのフブキからの一言におかゆが全力肯定。
まつりも賛成して、地面に手をつき立ち上がる。
悪いがここは逃げの一手。
「逃げるんだよォォォ」
まつりが意味不明なギャグをかましながら最後尾で駆け出す。
ほんとに何だこの人!
「待ちなさい!」
こよりが声を張り上げた。
悪いが待たない。
待ったら大惨事、即死刑。
逃げるが勝ちってやつだ。
「「「うわぶっ!」」」
3人同時に足を滑らせ転倒。
声までシンクロ。
「な、何⁉︎」
足が何かに絡め取られた。
突然ぬるっとした液状の物質が足に纏わりつき、縺れてしまった。
いや、転倒後には顔や手、腹など地面に接触した部分全てがその物質に染まる。
地面に大量の液体?が流れていた。
しかも、絶妙な匂いを放っている。
「うぎゃぁぁぁぁぁ! 白濁液!」
「ええぇ! い、いやダァ‼︎」
「は、白濁液……? 何コレ……うっ、これ……」
まつりの下品に聞こえる絶叫におかゆが涙を流していた。
おかゆが滅茶苦茶乙女チックで萌える。
フブキは発言の真意を読み取れず、匂いから物質の正体を判別する。
それはまつりの言うような下品な物ではない。
「下品な言い方しないでよねぇ! ちゃんと美味しいんだから!」
この液体は――マヨネーズ。
辺り一面、マヨネーズの海。
マヨネーズ臭が自然の空気を消失させていく。
「こよは、マヨマヨの実のマヨネーズ人間だよ」
ぼたんの麺よりもありえない能力が、あり得ないほど強力。
これは――ガチでまずいです。
「誰1人、逃がさないぞっ」
こよりがキラッ、とウインクした。
可愛いけど、色々可愛くない。
「隙だらけだぞ」
3人の拘束に能力と意識を使うこよりに、強風が押し寄せる。
風は空を切り、草を切り、かまいたちとなる。
ズドッーン…………。
巨大ブロックの飛来。
それは、彼女の登場を彷彿とさせる。
不可能を可能とする力が能力。
それでも、これは――
「どうなってんだよぉ……」
「うぅぅぅ…………」
フブキもおかゆも混乱マックスで、カオスについていけなくなった。
そう、この少女の登場の不自然さも、もうどうでもいい。
「またおめぇかよ……星街すいせい」
サクラカゼからの連続出演。
サクラカゼ、キャンディータウン、イリス島、そしてサイトオブメモリア。
4連続を記録して、星街すいせいが現れるのであった。