一味を除けば唯一の全章登場。
それは星街すいせい。
だが、フブキとおかゆの記憶内では大して面識がない。
キャンディータウンで一味と小競り合いを起こしていた事だけは、認識しているが、その他の情報はほぼない。
「またおめぇか、星街すいせい!」
「……? また?」
再会のみこめっと。
敵意剥き出しでの再会に、みこは威嚇を返した。
だが、すいせいは首を傾げる。
「すいちゃんその子何とかしてよ」
「は? 何でお前に指示されんにゃいけないわけ?」
「もうー、こういう時まで噛み付いてー」
「ウッザ」
共闘を始める前に口喧嘩が始まった。
こよりは毅然として振る舞うが、すいせいは全方面に敵意を見せる。
フブキとおかゆは知らないが、AZKiともあまり、仲は良さそうでなかった。
「いっつも頭の命令ばっか受けてぺこぺこしてる奴が。変態上司から貰った指示を偉っそうにあたしに出してんじゃねえよ」
「はあ? なに、やんの? こよりだってアンタらの事なんかどうっっっでもいいっつーのに、媚びて来るから協定組んでやってんだけど」
「どうせそれも、誰かさんにそうしろって言われたからだろ」
「はっ、天辺無くした残党風情が」
他の誰よりもお互いへ闘志を燃やし、怒りを蓄積させる。
みこも、まつりも、フブキも、おかゆも、呆然と喧嘩の行く末を眺めている。
「な、仲間じゃ、ない、のかな……?」
「「誰が‼︎」」
「ひぃぃ……」
安易な発言で怒りの的となったおかゆ。
鋭利な視線から逃げるようにフブキの後ろへ。
「ってか、コイツとコイツ、誰? アタシ知んないんだけど」
怒りを撒き散らすように「みこ」と「まつり」を指した。
「こよも詳しくは知らないけど多分こっちのは護衛」
同様にみこを指して答えるが、少し口元を曲げている。
まつりに関しては触れない。
「無能無添加マヨラー」
「無能じゃねぇんですけど!」
「無添加なんだ……」
「高いよねー、無添加品」
口喧嘩の外でフブキとまつりがハハハと小さく笑う。
おかゆは怯え、みこは遂に――
「良い加減だゃまれよオメェら」
「……?」
「は?」
痺れを切らして喧嘩に割って入った。
すいせい以外はきちんと黙った。
「喧嘩なら他所でやれ」
「……」
「アンタが護衛役? 強いんだろうなぁ?」
「記憶にも残らにぇか」
会話が噛み合っていない。
そもそも「すいせい」が「みこ」の事を完全に憶えていない。
短い時間とは言え闘った相手だ。
みこはしっかり憶えている。
「……じゃ、あっちは任せて、こっちは3vs1でいく?」
そして「こより」が「すいせい」と背を合わせ、フブキ、おかゆ、まつりの3人と向かい合う。
狂気的な笑みに、皆口角を震わせる。
まつりがツンツンと肘でフブキを小突いた。
「ねぇ、2人は強い?」
「え……」
「戦える感じ?」
「いや……」
「弱いです!」
フブキは視線を泳がせ言い淀むが、おかゆがキッパリと答えた。
2人とも弱いですと。
まつりはその答えに、ニッコリと笑って――
「まつりも」
と返した。
「「「…………」」」
木々がざわめく。
「逃げろぉ〜!」
まつりの号令と共に3人は再び駆け出した。
森の中へ逃げ込もうと。
だが……
「あぁもう、逃げないでって」
マヨネーズが脚の自由を奪う。
脚が絡まり転倒、全身マヨネーズ塗れ再放送。
「ギャァァァ、白濁液!」
「その言い方やめろ!」
「こよりのエッチ、頭ピンク、ピンクずのー!」
妙な暴言で対抗するが無意味。
気色悪い感触に溺れるだけだ。
「フブキちゃん……」
「うん、見たんだけど、どうしようもなくて……」
「見た……?」
おかゆとフブキのやり取りに耳を傾けていたまつりは聞き返す。
叫んでいた癖に、地面と接触していないマヨネーズ(白濁液)を舐めていた。
これが無添加こよりマヨネーズの味。
「私、相手の弱点が見えるの」
「凄い! 有能! 天才! それで、何が見えた!」
「い、いや〜……ぇへへ……」
まつりの大絶賛にとろけるフブキ。
おかゆが強く揺さぶって我に帰ると一度咳払いする。
「コホン。まずマヨネーズの人は、50度以上の熱、若しくはマイナス5度以下の気温に弱い」
「どっちも僕たちがキツイ!」
「うん、どうやらそれでマヨネーズが分解できるみたい」
「あっちは?」
「あの人なんて、弱点が出ないの」
「ええ⁉︎」
こよりの弱点は実現不可能だが納得できる。
しかし、弱点無し、なんて人間存在するのか?
フブキも過去に類を見ない事例で困惑している。
「弱点無しとか、強すぎだろ」
「弱点が見えないって事は、弱点が無いのか、もしくは――」
「……本体じゃない」
原理的にはルーナと同じ。
人を見て弱点を除く時、それが別人なら当然内容は変わる。
同様に、それが生物でない場合は、弱点も何もない。
でも、有り得るのか。人としか見えないあの存在が、無生物だなんて。
「あのすいちゃんはね、確かに偽物だよ」
「――!」
肯定し難い見解を、こよりが肯定する。
これで確信に変わる。
「じゃあ、あの時来たのとは別人か」
こよりの暴露を盗み聞いたみこも一つの確証を得た。
今ここにいるすいせいと、以前サクラカゼに来たすいせいは別。
だから記憶が食い違っているのだ。
「ブロックの能力をどう応用してんだよ」
「あたしの能力関係ないし」
「――⁉︎ じゃあ誰の……」
「んなの言わねえに、決まってんだろ!」
すいせいの周囲に小型のブロックが出現し、みこへ飛来する。
それをみこは全て回避。
ただ回避しただけなら、物凄い運動能力だと、感動して終わり。
驚くべきは、回避方法。
それは脅威の身体能力の賜物ではなく、能力の恩恵と思われる。
「飛んでる⁉︎」
木々の背丈程まで浮いて自在に中を動き回る。
それにより、行動範囲は広がり、回避能力は上昇している。
「みこちすごい! ドラえもんよりは浮いてる」
まつりの比較対象がおかしい。
そいつは3ミリ、みこは数メートル高くまで浮遊している。
誰1人まつりの言葉に反応を示さず、ただ行く末を見守っていた。
「ブロックが飛ぶ? 偽物の構築? マヨネーズを操る? だっせぇんだよ、おめぇらの能力は全部」
宙でみこは手を合わせる。
すると、みこを中心に竜巻のような風が発生する。
「チッ」
大きな舌打ち。
暴風で木々が倒れそうな程振られ、マヨネーズなんて吹き飛んでゆく。
すいせいのブロックですら、前に進めない。
「みこは――神様だぞ」
台風の目となっていたみこ。
そこから、集められた風が刄の如く放出される。
風の刀で木々を引き裂き、地面に穴をあけ、そして敵を切り刻む。
敵とは、すいせいとこより。
乱れ打ちのように見えて、的確に的を狙っていた。
斬撃の嵐で土埃と木の葉、マヨネーズが舞い、視界が曇る。
その視界が晴れた時――誰もが驚愕した。
「あんたが神なら、あたしは幽霊」
「もう〜……やめてよねぇ」
刃風に当てられて、こよりとすいせいは無傷。
みこの技も本人の発言通り神のような力だった。
そんな神業を、2人は凌いだ。
戦いの次元が――今までと比べ物にならない。
能力の有無で一喜一憂していたフブキとおかゆには、到底理解の及ばない高次元の世界。
これが、2人の漕ぎ出した海。
これが、この先2人が相手にしていくレベル。
「ぁぁ…………」
おかゆの震えは増していき、歯がカタカタとなり始める。
フブキは絶大な力を前に、脱力して、動けない。
「…………みこち?」
そして戦場に、最後の1人が現れる。
「――!」
ボロボロの研究所から、1人の少女が登場。
その人は、フブキが手にする写真と同一人物。
そう、赤井はあと、本人だ。
「……やっぱいるじゃん」
こよりがジッとはあとを見つめる。
外見は普通の少女。
AZKiに依頼されたものの、捕える理由は一切聞いていない。
だが恐らく能力者。
まずは分析から――。
「なんで出てくるの! 隠れてなきゃ」
みこが少し控えめに怒った。
敵を前に身を晒す事への怒りと、友人の行動を強制する事への逡巡。
なんともホロメンらしい……。
そんなみこの心配も他所に、はあとは敵にばかり視線を送っていた。
いや、敵だと括りが大きい――もっと正確には、すいせいだ。
「なんで……すいちゃんがいるの?」
「え?」
悲愴感に表情を曇らせて、静かに問う。
なんで、とは?
はあとを捕まえに来たからでは?
「はあとちゃん!」
みこの語気が強まった。
怒っている。
「だって、すいちゃん……ここにいない……」
「――⁉︎」
はあとの発言に絶句する間も無く、すいせいが消滅した。
「…………は?」
上から下まで意味不明で詰まっている。
はあとの言葉の真意は?
すいせいは何故消えた?
はあとがこのタイミングで出てきた理由は?
みことはあとは、何をしている?
「はぁ……同時観測はチートだよまったく……」
こよりが呆れたように肩を竦めた。
「どういう事……?」
「……ま、いっか」
まつりの疑問に暫し迷いつつも、嘆息すると簡潔に説明してくれた。
「あれはすいちゃんの偽物。偽物が存在する条件として、本物と偽物が誰かに同時に観測されない事、って言うのがあるの」
「…………???」
「例えばこの場に、こよの偽物を作っても、君たちやこよ自身が、2人のこよりを観測した途端に、偽物は消滅する。簡単に言えば、同じ場所に2人は存在できない」
「じゃあ……なんで今……」
この場に他の本物は居ないはず。
だが、偽物は消えた。
つまり、同時観測された。
「それははあとちゃんが、ここの偽物と、どっかの本物を同時に観測したからじゃない?」
「どうやって――」
「こよに聞かないで本人に聞いたら? こよは一旦帰る」
「おい、逃げんのか腰抜け」
「だって、火使うでしょ? 本気出すのめんどくさいもん」
みこの挑発にも、目前の利にも乗らず、こよりは一度退散を決め込む。
タイマンなら可能性もあったが、部外者が多過ぎる。
不利な戦場に長居は禁物。
だが、負けるからとは言わない。
それが意地なのか、本心なのかは定かではない。
「逃すと思ってんのか」
「深追いはしない方がいいよ。あ、これ、助言ね」
背を向けたこよりを追う姿勢を見せたが、こよりの助言とはあとの視線で踏み止まった。
「あ、そうだ」
こよりがふと振り返り、丸めた紙を地面に転がした。
その紙は、力無くフブキの方へ転がる。
「1週間くらい、そこにいるから」
「…………」
「お友達を返して欲しいなら、いつでも来なよ」
と、一言残して去っていった。
「…………」
「えーっと……」
「で、なんだおめぇらは」
森閑とした空気に耐えかねたまつりが、頰を掻き、苦笑いを浮かべて声を発した。
それに合わせるようにして、みこが鋭い眼光を向けた。
「私たちは……まあ、敵じゃないです」
「……なら早くこの島から出な」
フブキの返答に一定の信憑性を感じたのか、少しだけ優しさを見せる。
こよりは帰ると言っていたが、島内の拠点に帰る、の意味の可能性もある。
つまり、再激突は起こり兼ねないと言う事。
先ほどの様子から、3人が弱いことは明白となったのだから。
「あれ、でもフブキ、はあちゃま探してるんじゃなかったっけ?」
「――ぅ、そ、それは……」
「――」
隣からまつりに刺された。
無意識にフブキを追い詰める彼女は、不思議そうに首を傾げた。
たじろぐフブキをみこがジロッと凝視している。
「いや! 違うんです! さっきの人に話を合わせる嘘で――!」
取り繕うように齷齪とした挙動で答える。
益々怪しいが、事実である。
「あ、これ! さっきの人に貰ったんですけど、使わないんであげます!」
フブキははあとの写真を取り出してみこへ手渡す。
普通なら、はあと本人に手渡すだろう。
「……」
「ちょっと!」
みこがマジマジと写真を見つめていたので、はあとが奪い上げた。
早急にくしゃくしゃに丸めて、ポケットにしまう。
「……それどこ。ここでも、ウチでもないよね?」
「え……どこかな、分かんない。背景が少ないし……」
「うそ! どこに行ってたの!」
「…………」
痴話喧嘩?が始まった。
「なになに? 浮気現場の写真だった?」
「部外者は黙ってて!」
まつりが興味津々で2人に寄るが、軽くみこにつっぱねられた。
しゅんとしてフブキの下へ戻る。
本当に何なのこの人。
だが、フブキもおかゆも写真は見たが、何処だか判別のつかない写真だった。
よく知らない島だと分かったもんだ。
「はあとちゃん! みこに何隠してるの!」
ぐっと詰め寄り、問い質す。
はあとは視線を泳がせたり、時々みこを伺ったりと感情が覚束ない。
やがて観念したように脱力してため息をついた――のかと思った。
「……私がどこで何してようと、勝手でしょ」
「んにゃ――!」
「みこちも、ずっと私に構ってないで、自分のやりたいこと探しなよ」
観念したのではなく、反撃の手段を思いついたようだ。
現にみこは、反論できず、ぐぬぬと歯軋りしている。
「私にも、やる事があるの」
「…………」
「だから、みこちもやりたい事、探しなって」
「…………」
そっぽを向いた。
そして、数歩距離を取る。
「はあとちゃん……危ない事に、手は出してないよにぇ?」
先までの怒りが鳴りを顰め、憂慮が全面に現れ始めた。
杞憂であって欲しいと願いながら、みこははあとの肩に触れる。
「うん……」
「本当に……?」
「……うん」
まだ、仲良しになりきれていないような雰囲気。
フブキとおかゆの関係よりも、さらに少し距離があるような感じ。
「来てくれてありがとね……」
「どこか、行くの?」
「うん……会う約束、してるから」
「…………気をつけてにぇ」
「…………」
はあとも、どこかへ去って行った。