ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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29話 浜へ戻る

 

 こよりとはあとが場を離れ、小さな空間に残ったのは、まつり、みこ、フブキ、おかゆ。

 少し気まずい空気が流れる。

 その静寂を、まつりが破ることによって、話は弾む。

 

「はあちゃま、行かせちゃってよかったの?」

「……ん、まあ、人の行動を縛る権利が、みこにはないから」

「で、でも……さっきの人に見つかったら……」

「それは心配いらないから大丈夫だよ」

 

 といいつつ、みこの視線ははあとの消えて行った森の先へ釘付けだ。

 先刻までの勇ましさはまるで鳴りを顰めている。

 

「……それより、おめぇ何なんだよ、はあちゃまって」

「ん? あ、ああ、ごめんごめん、えーっと……まあ、あんまり気にせんといて」

「はぁ……?」

「なんか……船長みたい」

 

 どこかで見たようなやり取りに、フブキは苦笑した。

 おかゆも既視感を覚えて同様にクスッと笑う。

 でも、おかゆはまだフブキの影に隠れている。

 

「船長?」

「あ、はい、私たちの船の船長です」

「…………」

 

 まつりの過敏な反応に、フブキは淡々と答えた。

 その後みことまつりは黙り込んだ。

 顎に手を当てて、何かを考えて……

 

「ねえ、今どこにいる? 案内して」

「みこも」

「え……っと……」

 

 唐突な申し出に面食らって、おかゆに確認した。

 だが、おかゆも絶賛困惑中。

 ここまで来て、2人が敵とは思わないが……素直に案内していいのか、甚だ疑問だ。

 ……いや、でも、後付けられたらどうせ逃げれないし、と口実付きでフブキは首を縦に振る。

 

「帰り道はあまり自信ないから、時間かかるかもだけど」

「全然気にしないって、話しながら行こっ」

 

 と、まつりはノリノリでフブキに密着する。

 その2人を先頭にして、おかゆ、みこと続いて歩き始めた。

 

「ねえねえ、フブキは人の弱点が見えるって言ってたけど、何て能力なの?」

「え、あ、はい……えっと、スコスコの実です」

「ほほう、すこんな能力ってわけだね」

「すこん? えっとまあ、好き嫌いって意味、ですけど……」

 

 距離の詰めかたがある意味恐ろしい。

 勢いに呑まれ、フブキは情報を簡単に開示してしまう。

 

「いいねいいね、いい能力だねぇ」

「……へへ」

 

 まつりの陽気な賞賛に頬を赤らめて鼻を擦る。

 ちょろいし、分かりやすい。

 フブキを背後から見守るおかゆも、微かに微笑んだ。

 

 しかし、更にその後ろのみこからの視線に怯えて、おかゆの笑みは一瞬で消失した。

 チラッと振り返ると目が合う。

 

「――!」

 

 目にも止まらぬ速さで向き直る。

 全く怖くない瞳に、こうも怯えるか。

 

「ねえ! みこちは何て能力なの?」

「……」

 

 先頭からまつりが気さくに質問した。

 初対面であの渾名を呼ばれ、奇妙な感情が湧き上がる。

 しばし沈黙したが、まつりはずっと返答を待つ。

 その辛抱に負け、みこは軽くため息を吐くと――

 

「みこはニエニエの実だにぇ」

「おおー、『にぇにぇにぇーー』って事かぁ!」

「バカにしてんのか」

「してないって! 寧ろ褒めてる!」

 

 どう考えても、褒めてはない。

 まつりに悪気もない。

 

「ニエニエって……煮えるって意味?」

「んーん、ニエは生け贄のニエ」

「え! こわっ」

 

 みこからの告白に驚愕する3名。

 しかし、名前と能力の効果がイマイチ繋がらない。

 

「でも、なんかあんまし関係ない事してなかった?」

「そんな事ないよ」

「そうなの?」

「話してもいいけど、長いよ?」

「どーせ道のりも長いしいいよ」

 

 確認をとり、承諾されたのでみこは咳払いして喉を整える。

 

「生け贄とは、神を恐れた人々がその怒りを鎮めるために捧げる生きた贄のこと」

 

「昔から人々がそうやって恐れた神ってのは、神様なんてのじゃ無くて、もっと分かりやすい自然災害」

 

「台風、落雷、火山の噴火に隕石の衝突。自然の未知なる脅威を神として恐れ、それを鎮めるために生贄を捧げる」

 

「みこの能力は、人や物など特定の「何か」を一時的に定め贄とする。そして贄を前にした時、みこはそれを捧げられた神となる」

 

「神となる、それ即ち、自然を操るって事だにぇ」

 

 と、一通りの説明を終える。

 そのみこの表情は満足げだ。

 

「凄く難しいこと言ってる」

「うーん……?」

 

 まつりもフブキも首を傾げて難色を示していた。

 あまりピンと来ていない。

 

「ま、簡単に言えば、自然を操る能力だにぇ。火とか、風とか、雷とか」

「つっよ!」

「水は?」

「おめぇ鋭いにぇ。水だけは無理だ」

 

 目を剥くフブキとまつりに対し、おかゆは疑問を口にする。

 見事的を射た疑問にみこは感服したような顔で答えた。

 能力である以上、海水などは操れまい。

 そうなった時、水はどうなるのかが疑問となるのは当然だ。

 

「みんなすごい能力持ってるんだねぇ……」

 

 うひゃぁ……と空いた口が塞がらない。

 口を開けっぱなしにすると虫が入るので、無理やり塞いだ。

 

「おかゆんは能力あるの?」

「ぁ……」

 

 フブキが小さく音を漏らした。

 地雷を踏んでしまったような反応だが、果たして――

 

「んーん、僕は無能力」

「そっかぁ、おかゆんだったらそうだなぁ……モグモグとか? あ、でもあれはモグラだったか……」

「……?」

「いや、ここはぶっ飛んでエロエロとか……」

「おいコラ!」

 

 誰も理解できないネタを引いてきて、まつりは自己完結する。

 そして今度は、変な事を呟いてぐへへと笑う。

 フブキのチョップが炸裂。

 

「いてて……もう、バカになったらどうしてくれんのさ」

「もうバカなんじゃないんですか?」

「ピンポーン」

「正解かい」

 

 まつりの発言が一々意味不明で困る。

 行動も一々ウザみがある。

 

「そう言えば、まつりさん人探してるって言ってましたよね?」

「ん? まつり……?」

「ま、まつりちゃん……」

「よろし!」

 

 フブキの問いかけのどうでもいい部分に喰いついて訂正させると、うんうんと頷く。

 

「ま、言ってしまえばみんな探してるけど」

「みんな?」

「一番探してるのはししろんかな」

「――え、ししろん?」

 

 フブキとおかゆの歩みが止まる。

 

「いだっ……何だよ急に……」

 

 みこがおかゆにぶつかった。

 

「あれ、もしかして知ってる?」

 

 おバカなまつりでも、流石に察しがつく。

 

「本名は獅白ぼたん?」

「そうそう、めちゃくちゃカッコいくてカワイイホワイトライオン」

「可愛げないよ?」

「ええ、めっちゃ可愛いじゃん!」

 

 まつりとフブキの間に生じる大きな見解の相違。

 

「甘えてくるの可愛いし、時々見せる女の子らしい仕草もキュンとくるし、めっちゃ胸あるし、まつりより男前に見えて女の子なの最高じゃん」

「ごめん、ほとんど共感できない」

「何で何で? それ人生の半分損してるよ」

「してないよ」

「あーあ、今頃ししろん泣いてるよ?」

「あの人泣かないでしょ……」

「泣くよ!」

 

 まつりが滅茶苦茶にぼたんを推す。

 そこまで布教されても、フブキの中のぼたんの認識は変わらない。

 この対立はなんだろう。

 みこは呆れ、おかゆは苦笑。

 

「はあ……まあ、感性は人それぞれなんで、いいですけどね……」

「ししろんを可愛いと思わないのはヤバいよ」

「そう言うあなたは女の子全員に可愛いって言ってそう」

「よく分かったね」

「…………」

「可愛いよ、フブキ」

 

 図星を突かれるも動じず、求愛に似た何か奇妙な行動をする。

 フブキの目は死んでいた。

 緊張感のなさが、心地よい。

 こんな楽しい冒険が、ずっと続いてほしい。

 

「あ、勿論みこちもおかゆんも可愛いよ。大好き」

「そう? ありがとう」

「安い愛だにぇ。5円の賽銭の方がまだ価値がありそう」

「うぅ……優しいのはおかゆんだけだよー」

 

 対応の寒暖差で、まつりは泣きついた。

 おかゆにぎゅっとハグをする。

 初めてかも。

 いい匂い……。

 もにもに……。

 

「これがおかゆんの……」

「やめろ変質者!」

「おやおやぁ、嫉妬かなぁ?」

 

 どさくさに紛れて……ではなく、ガッツリと、それはもう堂々と、胸を揉む。

 清々しいほど潔く揉むまつりと、抵抗しないおかゆ。

 フブキが急いで引っ叩きに行くが避けられた。

 外した平手を握り、拳を作る。

 おかゆの後ろからニマニマとフブキの胸を見つめるまつり。

 

「この拳……顔面にぶち込みたい……!」

「あはははは」

 

 2人のやりとりに挟まれるおかゆは何故か愉快に笑った。

 

「嫉妬って、おめぇが一番貧乳じゃにぇか」

「――」

 

 みこの直球にまつりが固まった。

 機械のような動きをする頭が、みこに向く。怖い。

 

「このっ!」

「ひゃんっ!」

 

 爆速で駆けてきたまつりに胸を叩かれた。

 乙女チックな声が漏れる。

 おお、萌える萌える。

 

「赤ちゃんの癖に良い乳しやがってこのこのこのこの!」

「や、やめろ!」

 

 乳を殴る奇行に赤面して激昂するみこ。

 力強く肩を突っぱねた。

 その衝撃で冷静になったまつりは、冷たい視線でみこの胸を見る。

 みこは隠すように体を捻った。

 

「Cカップ以上は滅びてしまえ……」

「女性の半数が滅びるぞ」

「はあ……応援しても胸は大きくならないしなぁ……」

「いや、逆に応援しておっきくなるものって何?」

「その言い方……卑猥だね」

「どこが⁉︎」

 

 だめだ。

 この人と話していたら、永遠に卑猥な話題が展開される。

 本当に、まるでマリンを相手にしている気分だ。

 今から「これ」をマリンと対面させるわけだが……懸念しかない。

 

「下ネタしか話題の引き出しにぇのか……おめぇはよ」

「えぇー、だってまつりっぽいじゃん……」

「いや、知らないし」

「そんなに文句言うんなら話題ちょうだい」

「無茶振り……でもないか」

 

 うーん、と一同唸って話題提供を試みる。

 このまま下ネタを連発されては品がないので。

 

「そう言えば、まつりちゃんはどうしてこの島に来たの?」

「へ?」

「だってここ無人島だよ? 僕たちや巫女さんは兎も角、まつりちゃんはどうしてここに来たの?」

「確かに――」

 

 おかゆが首を傾げた。

 誰よりも早く、「まつりちゃん」と言う呼称に慣れている事には誰も触れない。

 それよりも質問内容に、みこが強く食い付いた。

 なんせ、はあとの守護者を自称しているので。

 

「ほへ? ここ無人島なの?」

「あー……ね」

 

 前情報ゼロで来たのか。

 

「ぼたんちゃん探してるって言ってたよね? 当て無しだったの?」

「――⁉︎」

「うん、あてなし果てなし笑い話ってね」

「――?????」

 

 フブキの小さな驚きには誰も気付かず、まつりの意味不明なネタにのみ、皆は気を惹かれていた。

 

「そう言えばフブキ」

「え、なに?」

「さっき貰ってた地図ってどんなの?」

「あ、うん、ちょっと待って!」

 

 雑にポケットにしまった地図を取り出すと、しわくちゃだった。

 

「……もう少し大切にしなよ」

「だって……」

 

 仕舞うところもないし、咄嗟にポケットに詰めたから……。

 破れないように広げて、地図を確認する。

 一つの島に丸がついている。

 

「アルメンドラ、だって」

 

 丸のついた島には、そんな名前も記されていた。

 声に出してみたが、一切記憶にない、全く聞き覚えのない名前だ。

 

「おかゆん知ってる?」

「んーん、イリス島の外に出たことないし……あまり興味も無かったから」

 

 まあ当然だ。

 おかゆは知らない。

 フブキも知らない。

 が、フブキは少し口角を上げた。

 

「まつりも知らないかな。というか、島名とか言われても全然」

 

 まつりも知らない。

 あと1人……

 

「……悪いけど、みこも知らにぇ」

 

 みこも知らない。

 

「全滅かー」

 

 誰も知らない。

 

「みんなに聞いたら、1人くらいは知ってるかなぁ」

「ししろんなら知ってるかも」

「じゃあ戻って聞こ?」

「え! いるの⁉︎」

「あれ、さっき……言ってないか」

 

 ぼたんの話題は可愛いか可愛くないか論争に逸れ、マリン号に乗船している事を話していなかった。

 ので、今伝えた。

 心底嬉しそうに笑うまつりだったが、すぐさま落ち込んだふりをする。

 

「まつりの船は不満だったのかな……ぐすんぐすん」

「…………」

「フブキー慰めてー」

「うぅー……鬱陶しいです……」

 

 テキトーに理由をつけてフブキに絡む。

 フブキへの愛情が尋常でない。

 早速漫才コンビとなった2人を見て、おかゆはまた微笑む。

 そして少しして、まつりに尋ねる。

 

「でもまつりちゃん、ぼたんちゃんとどう言う関係? みこちゃんや、さっきのこよりって人とか、はあとちゃんのことも知ってたよね?」

「ぇあー……ししろんは同じ船に乗ってるから、まあ仲間みたいなモン」

「へぇー……海賊、じゃ、ないよね?」

「最初は海賊もありかなーって思ったけど、それはまつりの職じゃないからね。変わりに冒険者って事になってる」

「――? よく分かんないけど、それって建前って事?」

「うん、まあ……半分建前みたいな感じかな」

「よく分かんにぇな……」

 

 あらゆる質問に対して、まつりは必死に言葉を探している。

 失言を避けたいと言うより、言うに言えない、といった雰囲気。

 隠さざるを得ない事情がある、と困惑する表情が語る。

 

「ごめんね、ちょっと言えないんだ。あ、でも悪い事とか、疚しい事とかは何もないから」

 

 少し笑顔が下手になっていた。

 普段が明るい人間は、心情が表に出やすい。

 なんせ、明るさが陰るのだから。

 

「んーん、そんな義理もないしね、いいよ」

「いや……うん……そうだね」

「――?」

 

 みな不思議そうに俯くまつりの背中を見つめていた。

 

 だが、正面から差し込む光と、波風の音に全ての考え事は吹き飛んだ。

 浜に出たようだ。

 しかも幸運なことに、視野の中にマリン号が映る。

 

 マリン号の甲板から、複数人の声もする。

 先頭をフブキに変え、砂を蹴ってマリン号へ。

 

「船長!」

 

 フブキの呼びかけで、一同が邂逅する。

 

「あ――」

「あ――」

 

 まつりとマリンは、誰よりも早く強く、視線が絡み合った。

 潮の音が、心地よい。

 

 マリンとまつりの視線が交錯して数秒――

 

「船長!」

「ぁ――ししろん、やっほー」

 

 ぼたんがまつりに軽く手を上げて合図した。

 まつりも手を振って返す。

 

 …………。

 

「え?」

「ん?」

「いや……え⁉︎」

 

 宝鐘の一味は近くの仲間と顔を見合わせた。

 何度も。

 そして、最後はまつりが焦点となり、

 

「「船長⁉︎⁉︎⁉︎」」

 

 と、絶叫が木霊した。

 

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