ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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30話 Crossing the Story

 

 マリン号滞在組、ぼたん、トワ、ポルカ、マリン。

 探検帰還組、フブキ、おかゆ、まつり、みこ。

 

 衝撃の事実に愕然としながらも、一同はマリン号の甲板に集合し、会合を始めた。

 

「ほ、ほんとに船長なんですか? まつりちゃんが!」

「そうだって言ってるじゃん」

「ほんとなんですか、ぼたんさん」

「ほんまほんま」

 

 やまない驚愕は動揺を呼ぶ。

 フブキの問いを肯定するも、まつりの一言では信用しきれないマリンが、ぼたんにも確認したが、事実で間違いないらしい。

 

 マリン視点からすれば、自分も船長の器ではないが、キャラ付けもあってしっくりくる。

 しかし……まつりが船長はその素質こそあれど、イマイチパッとしない。

 意外すぎる。

 しかも……ぼたんがめちゃくちゃ褒めてたし。

 

「それより、この人誰?」

「なんでみこち、船長にくっ付いてんの?」

「――?」

 

 疑問ばかり生まれるこの集会。

 特に論点に上がるのは、まつり側にも、マリン側にも属さない、みこ。

 

「本当に最初の頃、出会ったんだよ」

「へぇ……で、何でこんな?」

「何でって、好きなんじゃない?」

「ほう……ほう?」

「いいなぁー! ねぇみこち! まつりにも、ほらほら!」

 

 事情説明をする端で、まつりが嫉妬心を抱いていた。

 大きく腕を広げ、ウェルカムアピール。

 マリンはまつりを見てあはは、と苦笑いするが……。

 

「マリンたん会いたかったよぉー。もうマリンたんと会うために頑張ってたって言っても過言じゃないにぇ!」

 

 まつりは完全無視。

 みこの求愛が始まった。

 その光景に、呆れるものが殆ど。

 だが、まつりとマリンだけは、あまりいい顔をしていない。

 

「船長ばっかずるい!」

 

 まつりが巫女服の袖を引いて強引に剥がそうとするが、みこも必死に抵抗する。

 マリンの腕が痛い。

 でも、その痛みも、みこへの感情も全てを振り払う程の感情が、マリンの中から溢れて来る。

 潤む瞳。

 共に溢れそうな涙をグッと堪えて、左手で強く拳を握った。

 

「…………」

「船長? どうかした?」

 

 トワが怪訝そうに眉を寄せた。

 マリン好みの展開だと思えば、マリンは別の事で感傷に浸っている。

 

「……ごめ、みこち」

 

 そう言って、みこを腕から引き離す。

 俯き加減に顔を隠しながら。

 

「え……」

 

 少し残念そうにみこも俯くが、マリンには見えていない。

 頭の角度を下げたまま、その隣のまつりの腕を掴む。

 

「え、船長?」

 

 マリンの腕がピクッと反応した。

 

「ちょっと話進めといて――!」

「わわわ、どうしたの⁉︎」

「……りょーかい」

 

 マリンがまつりを個室へ連行して行った。

 整理できずに、ポルカだけが咄嗟に返答はしたが、2人のいない間、あまり会話は弾まなかった。

 

 

 

 そして、個室へ移動した2人はと言うと……。

 

「ちょっと、どしたの急に……まつりを襲おうっての……?」

 

 珍しく、本気で怯えていた。

 

「まつり」

「ん……なに?」

「分からん? 船長」

「いや、そうじゃ…………なくて……」

 

 疑問を理解していない、と勘違いしたまつりが訂正しかけて、言葉に詰まった。

 そのまま開いた口が塞がらず、唇が震える。

 瞳孔が開き、マリンの目がよく見えた。

 そう、マリンだ。

 今、まつりはマリンと話している。

 

「ぁ……ぁ、ぁ……」

 

 全てを理解した途端、まつりの目から堰を切ったように涙が溢れてきた。

 ダバダバと滝のように流れる。

 もう、言葉はいらない。

 嬉しさのあまり、まつりはマリンに飛びつき、泣きついていた。

 

「せんぢょぉぉぉ!」

「まつりぃ……」

 

 マリンも堪えていた涙が頬を伝う。

 まつりから貰い泣きしたように、マリンも――

 

「さびじがったよぉぉ……1年もっ、分かんない世界で、彷徨ってで……っ」

「…………へ」

 

 マリンの涙はぴたりと止んだ。

 

「ホロメンも゛っ、みんな……まつりのこと、しらないし……」

「…………」

 

 マリンの腹のあたりに頭を埋めて、子どものように泣きじゃくる。

 マリンも抱擁を返してはいるが、もう、目が乾いていた。

 でも、まつりにこの顔は、見せられない。

 感情も、見せられない。

 

「でも゛……せんちょぉ……」

 

 まつりが顔を上げた。

 涙と鼻水がマリンの服に付着して染みていた。

 まつりの可愛い顔も、涙と鼻水で……そこそこ崩れていた。

 マリンはと言うと、感情を堰き止めるために、母性を出して、まつりの頭を撫でた。

 普段は決して見せないような優しさを灯した瞳で。

 

「そうですよね……大変でしたよね」

「うん……船長は……?」

「船長は…………実は……」

「……?」

 

 言い淀む。

 顔を上げたまつりの涙目を黙視して……。

 

「実はまだ、こっちに来て2週間ほどなんですよ」

「そ、そうなの⁉︎」

「はい」

 

 マリンは少し乾いた笑いを見せた。

 

「でも良かった……仲間がいて……」

 

 まつりはほっとため息をついた。

 でも、まだその腕は震えていた。

 

 

 

 それから暫く冷静になる時間を要して、会話を再開する。

 

「船長はどれくらいのホロメンにあった?」

「船長は、ここにいるメンバーと、すいちゃん、AZKi先輩、んなたん、ちょこ先生、スバル先輩、ラプラスさん、ミオ先輩、ころね先輩」

「お、多いね……」

「まちゅりは?」

「まちゅりはね、こっち来たばっかん時に、キャンディータウンいったから、ルーナとししろん、スバルとちょこ先生に会ってる」

「そっか」

 

 逆にそこからホロメンに会っていないのは凄い。

 いや寧ろ、この短期間でこれだけのホロメンに出会ったマリンが凄いのか。

 

「うん、で、1、2週間ほど前にこよりに会って襲撃を受けたの」

「こより⁉︎」

「そう。そこでししろんとはぐれてここに来て、ここのみんなとすいちゃん、こより、それとはあちゃまに会った」

「ちょ、ちょっと待って!」

「ん?」

 

 まつりの衝撃発言に待ったをかけた。

 

「ここで3人と会ったの⁉︎」

「うん。こよりとすいちゃんは敵っぽかったけど、はあちゃまは、みこちの友達みたいだったよ」

「みこちの……?」

 

 それはみこの一言と繋がる。

 大変な時期とは、ここで何かをする事だ、きっと。

 いや、もう完了したのかもしれない。

 

 そしてすいせい。

 こっちは規格外すぎる。

 毎度毎度島に先回りされていて恐ろしい。

 

「あ、でもね、すいちゃんは偽物だったみたい」

「はい?」

「だから、偽物」

「えっと……なりすまし的な?」

「違う違う、複製みたいな」

「複製⁉︎」

 

 脳が混乱して情報をうまく処理できない。

 複製?

 複製って、ポルカの能力みたいな?

 

「でね、はあちゃまがよく分かんない事言ったら、消えちゃったんだよ」

「……⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 もう意味不明、大混乱。

 何か言ったら消えた?

 呪文?

 

 食い気味なまつりを抑えてマリンは良くない頭を使って思考する。

 ――いや、考えても分からない。

 フブキとおかゆに後で詳しく聞こう。

 

 折角なのだから、今は今しかできない会話をしよう。

 

「まつりはさ、1年前に来たって言うけど、こっちに来る前は何してたか覚えたる?」

 

 そう、ここでしかできない話、それは異世界の話。

 

「いや、当初は何となく覚えてたと思うんだけど、今はもうサッパリ」

「私もですよ。先週くらいには、もう忘れてました」

 

 ホロライブでの記憶は完璧に残っている。

 仲間の名前、活動内容、自分の仕事。

 でも、肝心な部分が思い出せない。

 何故ここへいるのか、何をしていてここに来たのか。

 

「でもま、記憶があって良かったよ」

「そうですね。まつりが私のこと船長って呼んだから、気付けたし」

 

 他のメンバーが結構自然体すぎて、呼称が同じだったら違和感を感じて無かっただろう。

 そもそも2人には、この世界に来たのは自分だけだと言う先入観があった。

 だからこそ、ここでの発見は非常に大きく有益である。

 

「そうだね。万が一って事もあるから、皆が変な目で見ても、まつりなりの呼び方を続けてたんだよね」

「船長もです。トワ様とか、みこちとか結構不審がられましたよ」

「船長だしね」

「それはまつりも同じ」

 

 茶化されるが、2人は同類。

 同じ穴の狢。

 

 まつりがえへへと笑った。

 

「ま、おかゆ先輩には先輩禁止を出されましたけどね」

「あー……仲間なんだっけ?」

「はい、一応部下だから呼び方変えてと」

「まあ分かる」

 

 お互いにふふっと笑った。

 すごく、和む。

 話せる人間がいるって、幸せだ。

 

「ところで、まつりも船長やってるっぽいじゃん? ぼたんさんをどう口説いたんですか?」

「お、知りたい?」

「ええ、それなりには」

 

 マリンは結構ぼたんが好きだ。

 勿論ホロメン全員好きだが。

 ぼたんの口説き方を是非とも伝授していただきたい。

 

「じゃあ教えてあげよう。まつりの冒険の序章を」

「そんな壮大なん?」

「そこそこあったよ、ストーリーが」

「えぇ……」

 

 どうやらこの話は、少しばかり長引くようだ……。

 マリンはまつりの口述にそっと耳を傾けた。

 

 

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