ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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31話 Another story

 

 マリンが記しの島へ出現した日からおよそ1年ほど前――

 とある無人島に、1人の少女は突如現れた。

 

 その少女は夏色まつり。

 異世界の無人島への転移を理解した彼女は、マリン同様生きる術を模索した。

 そして、その島で2日ほど過ごした頃、一隻の船が休息としてこの島に一時停泊した。

 その機を逃さず、まつりはその船に密航し、辿り着いた先がキャンディータウンだった。

 

 

 

「明るい色味……」

 

 人が持ち場を離れた隙に、チラッと遠目に島を見ると、パステルカラーの不思議な島が見えた。

 そしてすぐに隠れ直す。

 

 やがて、島に到着した。

 外でガタガタと音がする。

 

「荷物を運べ!」

 

 どうやら、今は荷下ろしの時間らしい。

 もう少しの辛抱だ。

 

「…………」

 

 数名が武装していたから怖くて密航を選んだが、挨拶して乗せて貰えば、こんな怖い思いしなかったのかもしれない。

 

「ぇ……」

 

 まつりの隠れている箱が動いた。

 誰かが、持ち上げ、荷台に乗せ、運んでいる。

 車輪の振動がお尻から全身に伝わる。

 心拍数が増す。怖い。

 

(あれ荷物だったのぉ〜⁉︎)

 

 箱に入っていたのは一つの果物。

 暗くてよく見えなかったが、箱と果実のサイズ差から荷物でないと判断してここに入ったのに。

 なんなら勝手に果実食べたし、超不味かったし。

 不味さに嘔吐いていたら、見つかりかけたし。

 

 だん、と箱が置かれた。

 運搬は終わったようだ。

 結構時間はかかったが、どこまで来たのだろう?

 

「荷物確認して仕分けしろ〜」

「「はい!」」

 

 1人の女性の号令に周囲の者が(こぞ)って返事した。

 統率の取れたチームのようだ。

 さて、どのタイミングで――

 

 パカっ………………

 

「ぁ…………」

「………………」

 

 蓋が開いて光が差し込む。

 そして、1人の兵士がまつりをまじまじと見つめていた。

 気まずい空気が流れる。

 

「団長! なんかいます!」

「ああ? なんかって何だよ」

「人です!」

「人?」

「女の子が入ってます!」

「はあ? 何だよ、女児誘拐事件か?」

 

 と、妙な会話をしつつ、団長さんが歩み寄ってくる音がする。

 まつりはもう泣いていた。

 そりゃあ誰だってそうなる。

 男でも泣きたくなる。

 

「ほら」

「あー?」

 

 騒つく外界。

 兵士に代わり団長さんが覗き込んできた。

 涙で赤らめた目で、まつりは団長を見上げた。

 特に情に訴えるといった意図はない。

 

「ホントに誘拐かよ……」

 

 呆れる団長。

 まつりはその顔を見て、声を聞いて、その人に飛びついた。

 

「ししろん!」

「はあ⁉︎」

 

 突然胸元に飛び込んで泣きつく少女、団長様は当惑する。

 周囲の衛兵の喧騒もより一層増す。

 

「団長、知り合いですか?」

「知らん! っつーか、離れろ!」

 

 まつりを無理やり引き剥がそうと躍起になるが、自身では届かない位置に腕を回していて、到底自力では動かせない。

 ……普通なら。

 

「いい加減にっ、しろ!」

 

 まつりの四肢が紐状の何かに絡まれ、逆に拘束され、そのまま地面に押さえつけられた。

 

「ひぇっ! な、何これ! な、何するのししろん!」

「うるせぇな! 何だよお前!」

「何って、まつりだよ⁉︎ どうしたのししろん! 忘れたの⁉︎」

 

 まつりの声は団長――獅白ぼたんの心には届かない。

 仲間と出会えた瞬間の安心感から、仲間が存在しないと思い知った絶望感への落下。

 どん底に落ちた気分で、嬉し涙はまた悲しみへ。

 

「だから知らねぇって!」

「そんな……なんで…………」

 

 涙が溢れる。

 怖い。

 涙が止まらない。

 怖い。

 

「団長、どうします?」

「…………」

 

 指示を仰ぐ兵士。

 ぼたんはまつりの腫れた目元を一瞥し、隠れていた箱を一瞥する。

 

「一旦投獄しとけ。片付いたらあたしが話す」

「了解しました」

 

 まつりは絶望を重ねるように、牢屋へと連行された。

 心が壊れたような感覚に陥り、まつりはもはやどうでもよくなっていた。

 まつりは腕を引かれながらも、抵抗せず黙って投獄された。

 

 

 暗い地下牢の一角に幽閉されたまつりは、蹲ってメソメソと泣き続けた。

 

 

 泣き続けて、小1時間ほど――。

 

 地下牢に何者かが入ってきた。

 足音は2つ。

 足音が近づくにつれ、会話も微かに届いてきた。

 

「姫がわざわざ来なくても……」

「治安維持を行う上で必要な事なのらよ」

「それはあたしがやるんで……」

「だーめ」

 

 寂寥感の中に響く声は、ほんの僅かだが、まつりを照らした。

 

 その2人はまつりのいる牢屋前まで足を運び、止めた。

 ほんのりと2人の顔を備え付けの明かりが照らす。

 

「――ルーナ!」

 

 がしゃん!と鉄格子を壊す勢いでがっつく。

 それに俊敏な反応を見せたぼたんが、ルーナを庇うように一歩前へ。

 強くまつりを睨んでいる。

 

 とても……怖い目をしている。

 

「ぼたんちゃん、落ち着くのら。人を見るのは得意なのらよね?」

「……ですけど」

 

 目の前に挙げられたぼたんの腕をそっと下ろさせ、前に出る。

 檻に顔を押し付けるようにルーナを見つめるまつり。

 ルーナも顔を寄せ、表情をよく目に焼き付ける。

 

「ぼたんちゃん、鍵開けて」

「それはできません」

「命令なのら」

「いや……でもそれは――」

「命令です、聞きなさい」

「――」

 

 少しずつ威圧感を強め、最終的にはぼたんが屈する。

 渋々と……本当に、表情から嫌そーーっに檻を開けてまつりを一時的に釈放する。

 

「妙な事はするなよ」

 

 まつりに忠告し、ルーナと檻を介さず対面させる。

 まつりは未だに目尻に涙を浮かべていた。

 

「ルーナの事、知ってるのら?」

「ぁ……うん、知ってるよ」

 

 目元に溜まっていた涙は、床に滴る。

 ゴシゴシと両目を拭って、見えないが目を赤らめて、まつりは前を向き直す。

 怖くて、泣いて、現実逃避していた。

 可能性を信じたくなくて、拒絶していた。

 が、もう、その線は濃厚だろう。

 

 

       「まつりは異世界へ来た」

 

 

 正確にはパラレルワールドだろうか。

 キャラクター性の極めて似通った顔見知りの存在が証拠。

 

 なら、その事実は、隠し通すべきだろう。

 厨二病と誤認されるだけなら構わない。

 そこから派生して、ぼたんのように顔見知りが敵に回る事を絶対に避けたい。

 

 寂しいのは苦手だが、適応はできる。

 この世界の顔見知りとの生活に、適応してみせる。

 

「なんで知ってるのら?」

「いや……その……」

 

 正体を隠すと決意する以前に、失言していた。

 その失言が早速決意を揺らがせる。

 

「姫……だし……」

 

 最初に聞いた「姫」という単語だけを頼りにし、まつりはそう答えた。

 姫なら知っていても不思議はない。

 

「あんまり大きな国じゃないのらけど……」

 

 有名な大国でもない一国の姫の名を、一般人が知っているだろうか。

 ルーナは不思議そうに首を傾げるが、ぼたんは胡乱な視線で睨んでくる。

 姫の背後から、その表情を姫様に見られぬように。

 口を挟みたいのだろう。

 ぼたんの事も「ししろん」と読んでいる手前、反証は難しい。

 だが、ぼたんは今、ルーナの全てを尊重し、静観するただの護衛。

 いや……実質ただの鍵管理人。

 

 名目上団長などと大層な肩書を持っているが、事件がなければただの姫側近の雑用係だ。

 ぼたんはそれが好きなのだが。

 

「ん、分かった。じゃあ、どうして積荷の中にいたのら?」

「それは……その……変なこと言うけど、気付いたら無人島にいて、島を出れなかったから、こっそり……」

 

 予想していた質問への対応は容易い。

 こんな時は打算的に答える必要はなく、ただ事実を述べればいい。

 信じるも信じないも、結局関係次第。

 このルーナの人間性で決まるのなら、隠すだけ不利だ。

 

「黙って乗ったのは?」

「武装してて……怖かったから」

「なるほど」

 

 ルーナは顎に手を当て、悩む仕草を見せる。

 ぼたんは眉を更に寄せて、「怖かったら黙って乗らねぇだろ」と言いたげにしていた。

 

「じゃあ、あと1つ聞くのらけど、箱に果物入ってたりしなかったのら?」

「あー、入ってたよ。邪魔だから食べちゃったけど、凄くまず……いや、おいしく……んー……変、いや、独特な味がした」

「不味かったのらね、気にしなくていいのらよ」

 

 当然だと苦笑された。

 無駄に言葉を選んでしまった。

 

「んー……」

 

 ルーナは再び顎に手を当て唸った。

 まつりの処分に関して思案している様子。

 

「姫、こいつを部下にするのは正直賛同し兼ねます」

「――?」

 

 まつりを指差して進言するぼたん。

 部下って?

 

「んー、でも、こんな事で死刑には出来ないし、かと言って折角の能力をむざむざ見過ごすわけには行かないのらよね……」

「……あのさ、その……能力って、何?」

 

 能力、が示す物は記憶の片隅に心当たりがある。

 まつりを拘束する際にぼたんが見せた人外の力だ。

 それがこの世界の常識なら、驚愕はする。

 しかし、まつりは異世界人でそんな力を持つはずもない……。

 

「知らねぇのか……お前?」

 

 ぼたんが初めて疑惑以外の視線を向けた。

 まつりの純粋な疑問を、そのまま本心だと捉えている証拠だ。

 

「――?」

「能力の果実。食べると人間離れした力が手に入る代わりに、海がカナヅチになる果物だ」

「ぇ……それ、って……悪魔の実?」

「悪魔?」

 

 ぼたんの簡略化された説示を受けて、まつりはあるアニメのそれとリンクさせた。

 だが、「悪魔の実」という単語には小首を傾げている。

 この世界では「悪魔の実」と言わないようだ。

 元いた世界の共通認識は、一切通用しないと思うべきだ。

 

「で、でも……まつりそんな物……」

 

 否定しかけて思いとどまる。

 もう一度フラッシュバックする隠れる瞬間の事。

 そこそこ大きな箱に入った一つの果実。

 他の場所は荷物が詰まっていたりと、何気に隠れられず、その箱が最適だと見た。

 果実も邪魔で、そこそこ空腹だったので丸齧りして……。

 

「あの不味さ……じゃぁ……」

「ひゃく黒ですよ、どうします?」

 

 ぼたんはまつりを敵視し続けている。

 何が気に食わないのだろう?

 まあ、何にせよ決定権を持つのはルーナ。

 横暴を許すなら、まつりの意思もぼたんの意思も関係なく鉄槌を下すことができる。

 

「物事は極力穏便に済ませるのらよ」

 

 ぼたんを抑止するように呟く。

 

「って訳だから、今日からぼたんちゃんにまつりちゃんを付けるのら」

「ちょぉっ――‼︎」

「へ……?」

 

 横暴って程でもないが、少し雑に処遇が決定した。

 まつりは言葉がピンと来ない。

 結局どうなるのか。

 

「多分行くとこないのらよね?」

「ま、まあ……」

 

 境遇を察して、ルーナはこんな提案をする。

 確定事項なので、提案とはとても言い難いが。

 

「ウチの騎士団に入って欲しいのら」

「ええ⁉︎」

「勿論初めは見習いとしてだし、暮らしについても保証するのらよ」

「そ、そんな事言われても――! 騎士団なんて……」

 

 そんな素質は一切ない。

 運動も苦手だし、力も無い。

 ダンススキルは高い方だが、騎士団では役に立たない。

 

「別に前線に駆り出すって訳じゃ無いのら」

「――というと?」

「ぼたんちゃんに軽く戦い方を習って、後方支援してもらうだけ」

「後方支援?」

 

 後方支援こそできる気がしない。

 狙撃とか、司令塔とか……まつり向きじゃない。

 

「まつりちゃんが食べたのは『チアチアの実』」

「ち、チアチア……? 応援の?」

「ん」

 

 何とも微妙そうと言うか……戦い向きでは無いし、重宝される能力とは思えない。

 2人が欲する理由は何だ?

 

「その能力で士気とアビリティが大幅アップするらしいんだよ」

「騎士団を強化したいって事?」

「まあそんなもんだ」

「ちょっと色々控えてるのら」

「ほへぇ〜」

 

 立派に姫様と団長をしているのだと思った。

 まつりをまつりちゃと読んだり、まつり先輩と呼んだりはせず、ただ性格をある程度そのままにして別世界に放ったような……。

 初めて出会ったホロメン、ルーナとぼたん。

 従順になる事が最も賢明だとは理解している。

 だが、この不思議な世界で一生を終える気は毛頭ない。

 そして、この世界の謎と他の仲間を見つけずに元の世界へ帰る事も。

 

「それでいい?」

 

 ルーナの最終確認。

 あのルーナからここまで圧を感じた事は過去一度もない。

 隣のぼたんも嫌そうながら、ルーナの提案を断ろうものなら、すぐに断罪してやる、的な目をしている。

 でも、断らないと。

 

「あの……ごめん。まつりが悪かったし、その上破格の条件で交渉してくれたのは有難いんだけど……」

「処す」

「…………」

 

 首を横に振るまつりを見て、ぼたんが手をパキパキと鳴らして脅迫した。

 脅して、訂正しろと言いたげに見下ろす。

 まつりは申し訳なさそうに、上目遣いでぼたんを見上げる。他意は無い。

 

「――ちっ」

 

 視線が合い、まつりの内心を悟ると舌打ちして目を逸らした。

 

「どうして断るのら?」

「えっとね、全然、本当に何も定ってないんだけど、人を探したくて」

「人探し?」

「そう。しかも、何人も」

「海に出るの?」

「そう……したい」

 

 実力が伴わないただの願望。

 身の丈に合わない目的。

 それは叶わない夢だ。

 

「そんな事ができる人間なら、アンタそもそもこんなとこに捕まっちゃねえだろ」

「うっ……図星……」

 

 ぼたんの正論にまつりは胸を押さえた。

 言葉が刺さったような仕草を見せるが、苦笑している。

 自覚はあるらしい。

 

「……ししろんとルーナ、一緒に行かない?」

「行くわけねえだろ」

「国を置いてはいけないのら」

「だよねー」

 

 前途多難。

 ここは一旦引いて、大人しく2人の下に付いたほうが賢明かもしれない。

 今は下積みの時期だろう。

 

「だから――」

「だから、もしルーナたち以外にも当たってみて、OK出す酔狂な人でもいれば連れてっていいのらよ」

「ちょっ……」

 

 ルーナの勝手な承諾にぼたんは右手を微かに上げ、すぐ下げた。

 勝手が効く権力者は怖い。

 有能で優秀な姫だが、時折わがままで自由気儘だ。

 

「ほんとに⁉︎」

「うん。恩を売るのら」

「じゃあ100倍にして返すね」

 

 ぼたんを置き去りにして話が進む。

 まつりは嬉々としてルーナの手を掴んだ。

 ぼたんの目が鋭い。

 

「仲間探しの間は城の一室を貸してあげる」

「やった!」

「…………」

「でも、船とか積荷は自分で何とかしてね」

「うぅ……当然かぁ……」

 

 ルーナの微笑に項垂れる。

 

「ん、でも! 仲間探し出来るのは大きいよ、ありがとルーナ!」

「んーん。あ、ルーナは無理だけど、頑張って口説き落とせるなら、ぼたんちゃんを連れてってもいいのらよ」

「ッ‼︎ 絶対行かねーから!」

 

 ルーナの冗談を間に受け、ぼたんは未だかつてないほど激昂していた。

 そのまままつりに怒鳴って荒々しく扉を開けて、そして閉めて退室していった。

 

「……」

 

 ルーナが誰にも読み取れない程微かに眉を顰めた。

 

「ししろん怒らせちゃったな……」

 

 まつりが肩を落としてしゅんとするが、ルーナはフォローしない。

 まつりは更に悲しくなった。

 

「今日は疲れてると思うから、仲間探しは明日からで、今日は部屋に案内するのら」

「……ぁ、うん……ありがと」

 

 まつりの波瀾万丈な異世界生活が始まった。

 





 登場キャラ、設定プロフィール1

 宝鐘マリン 
 所属と役職……宝鐘海賊団、船長
 能力……フネフネの実
 能力名の由来……海賊船
 出身……異世界
 好きな物……お宝、ホロメン
 嫌いな物……孤独、ブラック企業

 尾丸ポルカ 
 所属と役職……宝鐘海賊団、副船長
 能力……カズカズの実
 能力名の由来……カズー
 出身……機械の国アルマ
 好きな物……ぶどう、ざくろ
 嫌いな物……シイタケ、レタス
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