ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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32話 ぼたんの仕事

 

 まつりがキャンディータウンへ来て、一夜が明けた。

 牢屋を出た後は、豪華な客室へ通され、食事と風呂も用意してもらった。

 予期せぬ贅沢に潤い、ほんの少し寂寥感を忘れられた。

 

 眠るとき、どうしても考えてしまったが、安心して眠れるのが久々で案外すぐに眠りにつけた。

 

 翌朝起きたら、自分の家にいればいいのに……なんて考えたが、豪華な天井しか見えない。

 起床時から精神に負荷がかかる。

 

 弾力のあるどでかいベッドから体を下ろし、大きく伸びをした。

 

「…………」

 

 チラッと扉を見る。

 今日も食事は出してもらえるだろう。

 でも、いいのか、これで。

 ルーナの所にでも行こうか?

 でも、本物の姫様らしいから、忙しいかも。

 

 扉から窓へと視線を移し、歩み寄る。

 衛兵が数人、見回りや見張りをしていたが、誰も知らない、がたいのいい男性ばかり。

 こう見ると、ぼたんはその中で団長を務めているのだから、浮いている。

 

 コンコン、とノック音がした。

 

「あ、はい! どぞ!」

 

 返事すると、丁寧な音を立ててルーナが入ってきた。

 

「よく眠れたみたいなのらね」

「あ、うん、まあ……こんないいベッドは初めてだし」

 

 まつりはベッドに腰を下ろした。

 やはりよく沈む。

 

「ルーナは今日街に出るから、まつりちゃはぼたんちゃんに付いてくといいのらよ」

「え、でも、ししろん嫌そうだったし……」

「ま、それはそれ、これはこれ」

「どれはどれ?」

 

 ぼたんが何と言おうと、ルーナの指示は絶対という意味。

 この言い方だと、ルーナが強制力を働かせているように聞こえるが、問題はぼたん側にある。

 ぼたんは、何があってもルーナに逆らわない。

 それは上下関係を通り越した何か。

 

「10時に玄関で待機するように指示してるから」

「ん、分かった……」

 

 伝達だけして、退室していった。

 ガチャリと丁寧に扉が閉まる。

 

 ルーナは街へ、何しに行くのだろうか。

 そもそも、ぼたんに付き添って、何をすればいいのか。

 

「……」

 

 

 まつりは支度を済ませて食事を摂ると、時間より10分早く玄関に向かった。

 

 

 玄関口に着くと、既にぼたんは待機していた。

 

「やっほ、ししろん」

「……」

 

 ある程度近付いて声を掛けると、無言で視線を合わされる。

 サッと視線を外し、ポケットから手帳を取り出して開くと本日のスケジュールを確認する。

 

「あたしはいつも通りのスケジュールで動く。あたしについて来て勝手に仲間探ししな」

 

 無愛想な面でまつりを見直す。

 手帳をしまうと、早速歩き始めた。

 無言で歩き始めたので、少し出遅れたまつりは小走りに寄って距離を詰めると、歩幅を合わせた。

 ぼたんの方が一歩が大きく、合わせ辛い。

 

「ししろん、ありがと」

「……別に、姫に言われたからやってるだけだし」

 

 ツンデレじみたセリフだが、一切のデレを感じない。

 あまり会話が弾むことはなく、足早に地下へと辿り着いた。

 まず最初の仕事は騎士団の朝のトレーニング。

 一部を除いた衛兵が集合し、そこへぼたんが登場。

 

 教官のように前に立ち、号令をかけた。

 耳が裂けるような発声。

 まつりは少し離れた位置に座って見ていた。

 

 やはり、どこを見ても男ばかり。

 別に、男性が無理なわけではないが、もし冒険に出るなら、女性がいい。

 特にホロメン。

 このままぼたんの仕事に着いて回っても、その人材はまず見つからないだろう。

 今の所、まつりの仲間候補はぼたんとルーナの2人だけ。

 だが2人にその意思はなく、特にぼたんは難攻不落の巨城のようだ。

 

 ぼたんが指導したりする様を見ながら、一時間ほど過ごした。

 退屈すぎて、10曲くらい鼻歌を歌っていた。

 

 

 

 一時間ほど経つと、ぼたんがまつりの側に寄って来た。

 他の兵士はまだ訓練に励んでいる。

 

「次行くぞ」

「え、みんなまだやってるよ?」

「まだここにいたいのか?」

「いや、そうじゃなくて――」

「他の用があるからあたしはいっつもここで抜ける」

「そうなんだ……」

 

 ぼたんがサッと振り返って部屋を出たので、まつりもそれに続く。

 そのままぼたんは、すぐ側のシャワー室へ。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 女性用の部屋に入り、更にぼたんはシャワー室へ入る。

 服を全て脱ぎ捨てて、シャワーを浴びる。

 まつりは下心が表に出かけたが、相手は警戒心の強いぼたん。

 いつものぼたんなら、ワンチャンあったが、今は無理。

 シャワー音に耳を傾けて勝手な想像しながら待つこと5分――

 

「もういいの? 早いね」

 

 ぼたんは上下の下着を着てまつりの前に現れた

 

 全身を簡単に洗うと5分ほど。

 丁寧に洗う時間も、温まるためにシャワーを浴び続ける時間も無かった。

 

「次があるからな」

 

 乾ききっていない髪と、シャツからほんのり透けて見える肌がいい。

 

「見ても何もないぞ」

 

 まつりの視線にぼたんは乾いた返事をする。

 そんなはず無い。

 いい体型だ。

 

「兵士仲間に聞いてみたら?」

「は?」

「1人くらい好意を持ってる人いるでしょ」

 

 もっと自分のことを高く評価していい。

 男だらけの騎士団を束ねる女性団長。

 尊敬できる。

 

「いねえだろ」

「なんで? まつりは、かっこいいし可愛いと思うけど」

「そんな事ねぇって……」

「そうかなぁ……?」

「姫の贔屓で女性が団長やってたら、普通にムカつくだろ」

 

 まつりが加えて反論しかけたが、ぼたんが部屋を出て次の仕事場へ向かい始めたため、自然と話は切れた。

 

 次はどこへ行くのだろうかと、周囲を気にしつつ歩いていると、ぼたんは玄関口をでて、門を通り越し、街へと向かい始めた。

 

「今度はどこ行くの?」

「学校だ」

「学校?」

「行けばわかる」

 

 何するの?

 と顔で尋ねていたら、顔も見ずに答えた。

 

 それなら、とまつりも黙って従うことにした。

 そして、歩く事20分。

 ごく普通の学校に到着した。

 

 だが、向かうは本校舎ではなく体育館横にある道場。

 扉をガチャっと開けると――

 

 パァッン、と竹刀がぼたん目掛けて振るわれた。

 が、予見していたように回避し、犯人の背後に回り込むと、首根っこを掴んで押さえ込む。

 

「スバル⁉︎」

 

 誰よりも早く、まつりは声を荒げた。

 

「くっそ! またかよ!」

「だから言ったじゃない」

「ちょこ先‼︎」

 

 更にその奥に、もう1人の見知った顔が。

 道場にいるのはこの2人だけ。

 

「あら? 誰ですかその子」

「見学だ」

「へぇ〜」

 

 極めて簡単に説明されて終わる。

 すると、もう興味を無くしたのか、ちょこはスバルに声をかけた。

 

「不意打ちはもう無理だって」

「うるせぇ!」

 

 もう、と言うことは、この行為を何度も繰り返しているようだ。

 ぼたんの力で押さえ込まれ尚、じたばたともがく。

 

「毎度不意打ちされれば誰だって警戒する」

 

 やはり、多岐に渡り行っているようだ。

 

「初回も失敗したけどね」

 

 ちょこが水を差した。

 

「まだ抵抗するか?」

「ああ……今日は一味違うんだよ!」

 

 拘束されていない左腕から何かを投げた。

 小さな丸い何か。

 それはぼたんに近づくと普通サイズの竹刀に形を変えた。

 一瞬驚くが、対応は実に冷静で、数本麺を伸ばし、空中でキャッチした。

 

 一味違うスバルのやり方は、結局虚しく挫折する。

 

「せめて動けよ!」

「拘束とく利点がない」

 

 自由を与えて、わざわざ盤面を元に戻す必要などない。

 拘束したままで済むのなら、そのままでいい。

 

「けどまあ……分かったよ、このまま一騎打ちだな」

「ああ」

 

 鋭い眼光を向けるスバルを見下ろして確認を取る。

 異論はない。

 ちょことまつりに距離を取るようモーションで伝え、ある程度のスペースが出来上がると、ぼたんはスバルの上から飛び退いた。

 

 道場の中央にできた戦闘スペースに立ち、スバルを待つ。

 スバルも曲げられていた右腕の感触を確かめながら位置につく。

 

「竹刀はいいのか?」

「いらねぇし!」

 

 ぼたんに対して刺々しい態度を貫く。

 ぼたんは気にせず受け止めている。

 

「じゃ、よーい……はじめ!」

「ふぅっ!」

「っ――⁉︎」

 

 ちょこの合図で決闘開始。

 その開幕早々、スバルが丸を作った手を通して息を吹く。

 すると何かがぼたんの周りを囲った。

 何も見えないが、何かされた。

 ぼたんは警戒しつつ右腕から麺を伸ばした。

 柔らかい麺は何かに接触する。

 そのまま形に沿って伸ばし続けると、麺が一つの円を描く。

 

「っしゃぁ!」

「おおー」

 

 ガッツポーズを決めるスバルに、まつりは拍手を送る。

 あのぼたんの動きを止めた。

 理論はさっぱりだが。

 

「空気を丸めて固定したのか。また小細工に力を入れやがって……」

 

 壁自体に危険はないと判断し、素手でコンコンと空気の層を叩く。

 石より硬く、鉄より硬くない。

 そんな微妙な硬さ。

 でも、並の人間の腕力ではまず破れない。

 ぼたんにも破れない。

 これなら確かに、自力で脱出はできないわけだ。

 

「それで?」

「あ?」

 

 動きを制限される中でも、ぼたんは余裕の表情でスバルを見つめる。

 

「これで降参はしないぞ、あたしは」

「は、だったら降参するまで解かねぇ」

「……」

 

 スバルの宣言にぼたんはやれやれと肩を竦めた。

 ぼたんは相当余裕そうだが、まつりにはスバルが優位に見える。

 

「あたしは手を出せないけど、お前も手ぇ出せないだろ。能力切れるまでの耐久戦ってなら、実用的じゃない」

「なんだよ、負け惜しみか」

「じゃあ仮に、あたしが犯罪者だとしよう。拘束されました、はい、じゃあ降参します、って白旗上げたらどうする?」

「降参なら素直に言えよな」

 

 婉曲的な疑問にスバルはイラッとして煽り返した。

 言っても通じないと悟ると、ぼたんはため息をついて両手を上げた。

 

「降参」

 

 ぼたんは諦念したように宣言する。

 

「っし!」

 

 再度ガッツポーズを決めると、スバルは大層喜んで能力を解いた。

 その瞬間――

 

「はぁ⁉︎」

 

 スバルはぼたんに拘束された。

 

「卑怯だろうが!」

「言ったろ。考えが甘すぎるんだよ」

「決闘形式って言ったじゃんか!」

「実戦を想定した決闘形式だ。実際に入隊して、こんなやり方してたら、お前本当に死ぬぞ」

「っ……!」

 

 一気に形勢は逆転した。

 ぼたんのやり方が、決闘として卑怯に近いのは確かだ。

 しかし、ぼたんの言葉の重みは違う。

 現場に出て実体験した人間の言葉は、スバルに刺さるはずだ。

 

「くっそ! このっ!」

 

 片腕の自由も効かず、立ち上がることもできない。

 スバルに腕力はない。

 ここからの復帰はまず不可能だ。

 

 なんかよく分からないけど……

 

「スバルー、がんばれー」

 

 まつりはスバルを応援してみた。

 応援一つでどうにもならないとは分かっているが、あの必死さに心打たれて、何かしたくなった。

 

「ばかおまっ――」

「こっのっ――‼︎」

 

 応援に過剰反応したのはぼたん。

 水を差すなと言いたげな声と目をする。

 途端、スバルの抵抗力が格段に増していく。

 グググ、と片手を地面について、背中に跨るぼたんごと体を持ち上げる。

 突如異常なパワーを発揮してきた。

 流石のぼたんも面食らい、対処し切れず、一旦距離を取った。

 

「ちょっと待て、一旦ストップ!」

「問答無用」

 

 公平性を無くした決闘に待ったをかけるが、そんな制止も聞かずスバルは猪突猛進。

 普段ならパワー負けして返り討ちに合うのだが、まず素早さからして普段通りではない。

 速さと力が別格。

 生身の人間には、到底捌けない。

 

「チッ」

 

 まつりには自覚がない。

 まともに制御できていないため、解除を促しても効くかどうか。

 一度場を収めないことにはどうにもならない。

 

 俊敏すぎるスバルの動きに翻弄されつつも、回避だけに専念することで何とか攻撃は躱す。

 しかし、避ける一方で、反撃に転換できない。

 一度動きを止めなくては。

 

「網」

 

 周囲に麺を張り巡らせる。

 走り回るスバルは、一瞬で引っ掛かる。

 パワーの上昇したスバルでも、この麺は引き千切れない。

 

「ぐっ――」

 

 これで一旦落ち着く。

 

「ふぅ……」

 

 汗を拭う仕草をして、ぼたんはまつりにズカズカと歩み寄る。

 まつりは萎縮して後退り……。

 どんどん壁へ追いやられ。

 

「付き添うのはいいけど、勝手に介入されるのは困るんだけど」

「ご…………ごめん……」

 

 結構本気で怒っていて、冗談を言う隙も無い。

 本物のライオンを前にしたように、まつりは小さくなって謝った。

 

「能力は解いたか?」

「え……多分……」

 

 もう応援する気力も無い。

 無意識的にでも切れている。

 これで、不本意ながら能力の扱い方もなんと無く掴めた。

 代償はぼたんからの叱責。

 

「なんだよ……やっぱ入れる気ねぇじゃんか!」

 

 麺に絡まって、緊張感のない状態のスバルが叫ぶと、場の空気は重くなる。

 ぼたんは麺を全て縮めてスバルを解放した。

 ガクンと膝から床に落ち、スバルはそのままへたり込んでいる。

 

「スバル……ちょこたちは無理を言って条件をもらったのよ」

「お前とは違うんだよ……」

 

 まつりが初めて見学に来た道場が早速修羅場で困惑する。

 

「ちよこ程、筋良くねぇし……。スバルの素質じゃ、こんな条件達成できねえんだよ……」

「じゃあ辞めるか。あたしも暇じゃないし」

 

 スバルの悪態にぼたんは辛辣な提案をした。

 ちょこは答えない。

 スバルを見つめて黙り込んでいる。

 

「あぁ……そうする」

「――⁉︎」

「頼る相手間違えたよ」

 

 スバルは立ち上がり、退室していく。

 その背中をちょこは見つめた。

 

「姫に直談判するのはやめろよ」

 

 ぼたんは最後にそう忠告した。

 他には何も言わない。

 そして、残った3人。

 

「ちょこさんは、どうする?」

「ちょこは……」

「――?」

 

 首の角度を下げ、やや左下を見つめる。

 そこには何もない。

 

「ちょこは、続けます」

「そうか、なら――」

「あの……もしスバルが戻ってきたら、もう一度、稽古つけてくれますか?」

「……向こうが本気で頼むなら」

「――! じゃあ、スバル連れ戻してきます」

 

 ちょこは一度深くお辞儀をして、道場を飛び出して行った。

 

「あっ――」

 

 まつりは不意に駆け出した。

 ちょことスバルに聞きたい事がある。

 

「おい!」

「――!」

 

 ぼたんに止められた。

 

「あたしは仕事があるから、今日は帰ると伝えといてくれ」

「……ん!」

 

 まつりも勢いのまま飛び出して、2人を追いかけた。

 

 





 登場キャラプロフィール2

 「大空スバル」
 所属と役職……CT騎士団、団長
 能力……マルマルの実
 能力名の由来……あじまる
 出身……キャンディータウン(CT)
 好きな物……散歩、巡回警備、平和
 嫌いな物……ラーメン、うどんなどの麺類、殴り合い

 「癒月ちょこ」
 所属と役職……CT騎士団、教官
 能力……ガチガチの実
 能力名の由来……ガチィ?
 出身……CT
 好きな物……ラーメン、うどんなどの麺類、人に教える事
 嫌いな物……武器を使う事、諦めの早い人
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