ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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33話 自他を知る

 

 道場を飛び出し、学校を飛び出し、明るい道を駆け抜けて、辿り着いた先は無人の砂浜。

 街から外れた砂浜に人はおらず、ただ波が押し寄せる音と、歩いた時に砂がキュッとなる音が響く。

 

 砂浜に座り込むスバルに、ちょこがゆったりと歩み寄る。

 更に背後を追ってきたまつりは、その様子をしばし見守っていた。

 

「悪い、急に飛び出して」

 

 ちょこが横に並び、座り込むとスバルは律儀にも謝罪から入った。

 

「いいわよ別に。それより、本当にこのチャンス逃しちゃうの?」

「ちよこと違って、スバルは戦えないから……」

「惜しいとこまで行ったじゃない」

「分かってるくせにさ……」

 

 今のスバルがどんな手でぼたんに勝ったとしても、恐らくぼたんに認められることは無い。

 ちょこも同感だ。

 

「ごめんごめん」

「……いいけど」

 

 不貞腐れて、スバルは視線を逸らした。

 ちょこはふふっと微笑を浮かべている。

 2人の様子から、その関係性の良さが伺える。

 

「それより、ちよこはいいのかよ」

「そうねぇ……」

 

 良いとも悪いとも言わずに水平線を眺めた。

 

 2人はそのまま黙って時を過ごす。

 話の見えないまま経過する時間がもどかしい。

 まつりは森の影から一歩踏み出した、が、人影を見てすぐに隠れ直した。

 1人の女性が砂浜に踏み込んできたのだ。

 薄明るい桃色のドレスを着ていて、さらに誰もが惹かれる容姿とオーラ。

 この国で、その名も姿も、知らぬものなどいない。

 

「姫!」

「あらら……」

 

 肩で息するルーナ姫がキュッキュと砂を踏み鳴らして現れた。

 

「ぼたんちゃんに話を聞いて来たのら」

「……すみません」

 

 スバルとちょこは平然と言葉を受け入れてるが、まつりは度肝を抜かしていた。

 今、ぼたんから聞いて駆けつけたと言った。

 場所不明で街の中心からそこそこ距離もある。

 この速さでの到着は、まず不可能。

 

「やっぱルーナも……」

 

 能力者。

 なんて能力だろう?

 

「困ったもんなのらね」

「…………」

「まつりちゃんも出て来て」

「「「――⁉︎」」」

 

 森の方を向いて、ルーナが声を掛けた。

 見事にまつりのいる位置を当てている。

 

「……何で分かったの?」

「ぼたんちゃんに聞いたから」

「あ、そっか……」

「お前……」

 

 事前に知っていれば、到着時に周囲を確認しても不思議はない。

 スバルとちょこはまつりをよく知らない為、怪訝そうな顔をした。

 ……いや、不信感を抱いているのはスバルだけか。

 

 まつりは潔く3人のもとへ。

 

「ずっと気になってたんですけど、この人、誰なんですか?」

 

 スバルはあくまでもルーナに尋ねる。

 ちょこもルーナに視線を向けた。

 躊躇いなく話そうとしたルーナよりも早く、まつり自身で話す。

 

「まつりは色々冒険してるの」

 

 と、嘘の供述を。

 

「冒険?」

「そう」

 

 胡乱な瞳でガン飛ばすスバル。

 まつりは至って普通の笑みで一度首肯する。

 

「本当なのら」

 

 ルーナは同調して、まつりを援護した。

 アドリブ力も半端じゃない。

 ルーナの一言で鎮静化する2人の疑心。

 

「ねえ、2人はししろんと何してんの?」

 

 今度はまつりからの疑問。

 スバルはバツが悪そうに視線を外して流そうとする。

 

「2人は騎士団に入りたいんだって」

「…………」

「ふふっ……」

 

 ルーナが包み隠さず暴露するので、スバルは驚いた……が、口は挟まない。

 権力に屈する、と言うより、ルーナの選択に間違いが無いと信じて疑っていない様子だ。

 そんなスバルの些細な動きを見て、ちょこは微笑む。

 

「うん、それで……?」

「団長はぼたんちゃんだから、ぼたんちゃんが許可したらねって話になって――」

「それで、ぼたん様を一度でもノックアウトしたら認めるって」

 

 スバルの頭にポンと手を置き、ちょこがにこやかに割り込んできた。

 上機嫌なちょこの介入に、まつりは少し面食らう。

 

「それ……実現可能?」

「2人とぼたんちゃん次第ではね」

 

 複雑だ……。

 それはストレートに戦っては勝てないと断言しているもの。

 今日のように、スバルの勢いだけの姿勢ではどうにもならない。

 

「アイツが悪いんだよ」

「……?」

「スバルが弱いこと知ってるから、無理難題を押し付けてきてんだ」

「つまり、入れる気は無いんじゃないかって?」

「絶対ねぇよ」

 

 今日の一戦で痛感したのだろうか。

 スバルは口元を曲げて不貞腐れている。

 

「じゃあ、もう騎士団に入るの、諦める?」

「…………」

 

 ちょこの真剣な問いかけに、スバルは暫し沈黙した。

 道場では堂々と辞退を宣言していたが、今は返答に渋っている。

 

「……諦めねぇし」

「そうよねぇー! やっぱそうじゃないとね!」

 

 スバルが答えた途端、ちょこの剣幕な表情がガラッと変貌する。

 豹変速度が、まるで答えを予期していたよう。

 

「ちょこ先、嬉しそうだね」

「――?」

「ちょこセン?」

「ちょこせんべいかな?」

「あまり美味しくなさそうなのらね……」

 

 異文化交流は難しい。

 まつりの呼称を理解できる人が1人もいなかった。

 まあ確かに、現在のちょこは教師ではなく生徒側にいる。

 難色を示すのも無理はない。

 

「ちょこ先生の略だよ」

「――? なんで先生?」

「気にしないで」

「そう?」

 

 なら、とすぐに頭を切り替えた。

 

「少し脱線したけど、なんで嬉しそうなの?」

「えー、だって、スバルが諦めないって言うから」

 

 改めてまつりは尋ねた。

 ちょこは頬を緩めて答える。

 

「気になったから来てみたけど、問題なさそうなのらね」

 

 スバルの決断とちょこの表情から、今後2人が辞める可能性はほぼ無いと見込んだようだ。

 それはまつりも同感。

 

「まあ……大丈夫そうならよかったけど、ルーナはなんで2人に肩入れしてるの?」

「――?」

「だって、一応一般人でしょ、2人とも。なんで優遇してるのかなって」

「2人が入りたいって言うから、ね?」

「ああ、単に騎士団に入って姫の役に立ちたい、それだけだ」

「ちょこはオマケね」

 

 3人が同じ見解を立てているが、おかしい。

 入りたいって動機は何も不思議ではない。

 腑に落ちないのは、そんなありきたりな動機をもつ一般人をルーナが特別扱いしている所。

 きっと他にも、入団を所望する人間はいるはずだ。なのに何故……。

 

「んなたん、結構才能を見る目があるのらよ?」

「……???」

 

 何も知らないまつりは、言葉の真意を読み取れない。

 混乱しているまつりに笑いかけて、ルーナは歩き出した。

 

「じゃあ、んなたんはお仕事あるから」

 

 歩き出したルーナはもう振り返らない。

 そのまま、来た道ではなく、何も無いはずの森へ姿を消していった。

 

 ルーナが見えなくなり、声も届かないだろうといった所で、スバルが鋭い眼光をまつりに向けた。

 

「お前、姫に馴れ馴れしくしすぎ」

「え……」

「冒険者かなんか知らねぇけど、一国の姫だぞ」

「ご、ごめん……」

 

 嘘だろ……。

 スバル、そんなにご執心なのか……。

 すばるーなの思いの方向性が逆転している。

 フェスティバルーナもまつりからの一方通行。

 ちょこがその恋?の行く末を応援、傍観する位置である事は、同じだ。

 

「それより、まつり様はどうしてぼたん様と一緒にいたの?」

「ん? んーっとねぇ……」

 

 2人の微妙な亀裂を深めない為に、ちょこが間に割って入った。

 

「一緒に冒険する仲間を探してて」

「仲間?」

「そうなの。ソーナンス!」

「は?」

「ごめん」

 

 このギャグも拾われる事はない。

 

「でまあ、ししろんの仕事についてって、一緒に海に出られる仲間を探してる感じ」

「じゃあアイツ連れてけよ」

「ししろんの事?」

「そうだよ」

「スバル、それは言っちゃいけない事よ」

 

 直球な追放案を提示したスバルをちょこが嗜める。

 すると、またバツが悪そうに視線を逸らした。

 善悪の区別がつかない程愚かではないが、偶に、ついつい口を突いて出てしまうようだ。

 まるで水と油。

 スバルは過度に嫌っているが、ぼたんも接し方が正直下手だった。

 どっちもどっちと言った所か。これに関してはどちらが悪いと決められない。

 

「スバルはなんで騎士団に入りたいの?」

「いいだろなんだって」

「そりゃあいいけど……」

 

 断固拒否的な態度で返され、まつりも深くは追及しなかった。

 ちょこが入りたい理由は、オマケって言ってたから、スバルのハッピーセットみたいな感覚だろう。

 スバルがぼたんを嫌う理由も一応聞きたかったが、まあ何となくは察せる。

 でも、例えどれかを聞くにしても、スバルに聞いていては、好ましい解答をもらえそうにない。

 

「――帰る!」

「おじゃまたくし!」

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 やっぱり拾われない。

 寧ろ、冗談がスバルの逆鱗に触れる。

 

「まつり様も、もう少しタイミングを考えよう?」

「はい、ごめんなさいでした」

 

 ちょこの注意喚起にぺこりと頭を下げる。

 その隙にスバルはキュッキュッと力強く砂を踏み鳴らして街へ。

 ちょこも駆け足気味に追う。

 

「それじゃあね」

「うん、ありがとう」

 

 ちょこが手を振ったので、にっこり笑って振り返した。

 ちょこだけは、ちょこだ。

 まつりの知るちょこはもう少し変だった気もするが、ここに来て出会ったホロメンの中では、最も想像と近しい。と思った。

 

「…………」

 

 手を振って見送った後、まつりは一考する。

 だが、すぐに顔を上げると――

 

「戻ろ」

 

 と、呟いて、1人寂しく王城へ向かった。

 

 

 

          *****

 

 

 

 

 それから数日、まつりは同じような日々を繰り返した。

 ぼたんの動きに合わせて城を回り、学校に行き……と。

 

 そしてある日、一仕事終えたぼたんが、タオルで汗を拭きながら歩み寄って来た。

 特に何を話すでもなく、一度輪から離れて休憩する為だけに。

 

 ここ数日、まつりは人選に迷っていた。

 選択肢は一応4つ。

 ルーナ、ぼたん、ちょこ、スバルの誰か。

 でも、今のままでは決断できない。と言うのも、今の関係を壊してまでまつりの船に引き込むのは、申し訳ない。

 

 

 能力の使い方もある程度馴染んで、自分自身を応援して強化する事も可能だと分かった。

 1人で海に出る可能性が最も高いと考えている。

 だが、どうしても気になる事がある。

 これだけは、納得しないと出ていけない。

 

「ねえししろん」

「ん、何?」

 

 少しだけ打ち解けて、一つ一つの相槌などにも柔らかさが見え始めたぼたん。

 ぼたんは座り込んでいるため、まつりが見下ろす形を取る。

 汗がきらりと輝いた。

 

「ししろんはさ、なんで団長やってるの?」

「――なんでって、そりゃ任命されたから」

「ふーん……」

 

 納得できていないような相槌を打つと、ぼたんは不満気に口元を曲げた。

 

「でもさ、向いてなくない?」

「――――!」

 

 ぼたんの肩がピクッと跳ねた。

 汗が頬や腕などを伝って地に落ちた。

 

 婉曲的な表現は反感を買うと思い、まつりは直球で勝負に出た。

 

「強いし、頭もいいけど、見てた感じだと、教えるのとか、人に指示するの、あんま得意じゃないんじゃない?」

「…………」

 

 意外と効いている。

 ぼたんは黙り込んでしまった。

 

 実際のぼたんは、人に物を教えたり、司令塔になったりもできるタイプだ。

 勿論苦手なこともあるけど、かなりハイスペックな存在で、何とかしてくれると言われている。

 だが、こっちのぼたんは違う。

 他人との接し方、物事の考え方、自他への認識。

 これらが少しばかり下手だ。

 

 いつも仕事以外は1人行動だったり、姫を絶対的なものとしたり、スバルへの指導方針が極端だったり。

 

「なのに、何で団長やってるの?」

「……お前、意外と見る目あるのな」

 

 感心を通り越して呆れられた。

 まつりはじっと目を見つめた。

 

「姫はな、才能を見る事ができるんだ」

「……才能?」

 

 突如飛び出したワードに、まつりはきょとんとする。

 

「あたしやスバル、ちょこさんに目を掛けてるのは才能があるから、らしい」

「本人が言ってたの?」

「ああ」

 

 信憑性については限り無く本当に近い。

 

「でもたまに思う事があるんだ」

「……?」

「姫が見てる才能ってのは、偏りがあって、戦いの才能とかしか、見えてないんじゃないかって……」

 

 その考察は実に的を射ている。

 が、そう考えると言う事は――

 

「自覚あったんだね」

 

 まつりの指摘を、ぼたん自身も理解していたと言う事。

 だが、もし本当にルーナに才を見る力があったとするなら、確かに偏っている気はする。

 ぼたんが言うこと然り、目に掛けている人が全員ホロメンであること然り。

 

「あたしに何ができて、何ができないかなんて、そんな事は分かってる。でもね、才能を姫に買われて団長に任命されたあたしが、『指導も指揮もできません』なんて、言えるわけないだろ」

「……?」

「姫の期待を裏切るわけにはいかない」

 

 ぼたんも姫様にご執心のようで。

 ルーナの魅力はまつりも理解しているが、スバルとぼたんは特別に心酔している。

 

「そんなんで期待裏切るとか、ならないと思うけど」

「何の実績もない奴が突然飛び級で団長だ。姫が良くても、周りが許さない」

「まさか嫌われてると思ってるの?」

「いい思いはされてないな。スバルにも随分嫌われてるし」

 

 いつも1人なのは、自分の意志か。

 自ら距離を置いている。

 

「うーん……でも、ルーナだって団長はできないよ?」

「――」

「人には出来る事と出来ない事があるから」

「んな事は知ってるって……」

「不得意を克服するのはいい事だけど、苦しんでまでやる事?」

「別に苦しくはない」

「いや、ししろん辛そう。自覚してなくても、今の仕事内容と量は、相当なストレスになってる」

「何でお前がわかるんだよ」

「なんとなく」

 

 まつりはぼたんを見て来た。

 多少の違いはあれど、結局はぼたん。

 大変な時の表情は見れば分かる。

 今もぼたんは疲れているが、運動直後の疲労に紛れた仕事疲れ。

 

「お節介だけどさ、自分の事見つめ直したら……スバルの事とか、もう少し分かるんじゃない?」

「…………??」

「もっと人を頼った方がいいよ」

「……うるせぇよ、お節介」

 

 可愛らしい悪態に、まつりは苦笑した。

 

「今日はまつり、部屋にいるね」

「…………」

 

 まつりが手を振って場を離れる時も、ぼたんは俯いて必死に何かと葛藤していた。

 

 





 登場キャラプロフィール3

 獅白ぼたん
 所属と役職……まつり探検隊、副隊長
 能力……メンメンの実
 能力名の由来……麺屋ぼたん
 出身……キャンディータウン
 好きな物……1人の時間、人を守る事
 嫌いな物……過大評価、過小評価、群れる事

 夏色まつり
 所属と役職……まつり探検隊、隊長
 能力……チアチアの実
 能力名の由来……チアガール
 出身……異世界
 好きな物……ホロメン、人と話す事、ダンス、生物
 嫌いな物……静かにする事、柑橘類
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